レミオロメンの活動休止から3年。藤巻亮太が初のミニアルバム『旅立ちの日』をリリースする。2012年2月のバンド活動休止後、すぐさまソロ活動を開始、2012年10月には1stソロアルバム『オオカミ青年』をリリースし、全国ツアーも行うなど、精力的な活動を繰り広げていた藤巻。しかしそれ以降、いくつかのライブイベントに出演する以外はほとんど表舞台に立つことなく、沈黙の時を過ごしていた。それから約2年。昨年12月、レコード会社を移籍するなど心機一転、シングル『ing』で再びソロ活動をスタートさせた彼が、満を持して送り出す6曲入りのミニアルバム。そこに至るまでの道のりには、果たして彼のどんな思いがあったのか。今だからこそ話せるレミオロメン休止の真相、最初のソロ活動、そして空白の2年間とは。
表題曲でもある“旅立ちの日”の中で、彼はこんなふうに歌っている。<しがみついていた 意地やプライド 手放したら 素直な気持ちで 歩きだすよ>。自らの内面を吐露する楽曲から、外に向かって伸びやかに響く楽曲を歌うに至るまで。その紆余曲折と変遷を、藤巻亮太に語ってもらった。
今この瞬間も、無限の選択肢の中の1個を選んで人は生きているけど、それがベストの道だと意識することがすごく大事。
―新作の話をする前に、遡って2012年、レミオロメンを休止させた経緯について、改めて聞かせてもらってもいいですか?
藤巻:レミオロメンを10年やってきた中で、レミオロメンの文脈とは違ったり、バンドで共有するにはあまりにもプライベートなことを歌として吐き出したいと思ってしまったんですよね。2010年に結成10周年のツアーを回ったんですけど、それが終わったあと、自分にとってリアリティーを持って歌えることが何かを考えたら、そこに触れないわけにはいかないと感じてしまって。ここでその自分の中に溜まったドロッとしたものに向き合っておかないと、これから先やっていけないと思ったんです。それでソロを始めました。
―ということは、活動休止は、藤巻さんの判断だったのですか?
藤巻:いや、僕だけの文脈で話すとそういうことなんですけど、他の二人にもやっぱりそういう意識があって。10周年のタイミングで、レミオロメンに向かって行く気持ちの他に、それぞれやってみたいことがあったんですよね。もちろん、それがレミオロメンと共存できれば良かったんですけど、そこはやっぱりエネルギーの持って行き方とか、人生に対する捉え方がそれぞれ違うわけで。レミオロメンに所属しながら何かをやりたいのか、それとも個人のことにどっぷり没入してやりたいのかっていう。
―10年で何かひと区切りついてしまったところがあったのでしょうか?
藤巻:20歳でレミオロメンを始めたから、ちょうどその頃に30歳になったんですけど、やっぱり20代っていうのは脇目も振らず駆け抜ける感じがあるじゃないですか。その良さはもちろんあるんだけど、一度ゆっくりと自分に向き合いたいと思うタイミングだったんですよね。最初はバンドをやりたいっていう気持ちだけで始めたのに、どこかで何か1個のルーティーンの中に自分たちが入ってしまっているんじゃないかってことも考えたりして。
―レミオロメンじゃなければ見られない景色もたくさん見たと思いますが、その代わりにやれなかったこともあったというか。
藤巻:まあ、わからないですけどね。そう、最近「方便」という言葉の意味が、ちょっと気になっていて。
―「方便」?
藤巻:もともとは、「真理に到達する道筋」という仏教用語らしいんですよ。つまり、無限の選択肢の中から、ひとつを選んでここにいるという。今この瞬間も、無限の選択肢の中の1個を選んで人は生きているけど、それがベストの道だと意識するのがすごく大事なことで。だって、過去は変えられないから。
―ということは、自分が選んだソロという道について、少し迷ったことがある?
藤巻:……自分の中に衝動があるうちは良かったんですよ。衝動のままにソロを始めて、『オオカミ青年』というアルバムを作ってツアーをやって。ただ、そこでその衝動が成就してしまったんですよね。で、何が起こったかっていうと、ここから先に進むには、衝動だけじゃないものでクリエイトしなきゃいけないんだけど、そうするとソロとレミオロメンの境目が自分の中でなくなってしまう気がしたんです。その差を出そうとすればするほど、曲も作れなくなってしまって。
―ああ……。
藤巻:レミオロメンの10年プラス、ソロで駆け抜けて、疲れが出たじゃないですけど……自分の中のドロッとした部分を吐きだしたあと、1回空っぽになってしまったんです。その状態で、無理に何かを吐きだすことはできなくて。やっぱり、何もないところからは、何も生まれないんですよね。
本当にソロ活動を続けるのか、バンドをどうするのかを悩んでいる時期に、あちこちを旅して回ったことで、今の自分にできることと、自分ひとりではどうにもならないことがあるとわかった。
―2012年の10月に『オオカミ青年』を出して以降、2年以上CDリリースも止まっていましたよね。
藤巻:はい。すごく怖いことではあったけど、一度立ち止まろうと思ったんです。今はきっと歌うべきことがないってことなんだろうし、前に進んでいく覚悟を自分で決められない限りは、どこにも進めないと思って。
―その2年間は何をしていたのですか?
藤巻:あちこち旅をしていました。アルピニストの野口健さんが、ものすごくいろんな旅に誘ってくれて。その経験は大きかったですね。20代のときには考えられないような、ヒマラヤとかアフリカとかいろんなところに一緒に行きました。
―ヒマラヤにアフリカですか……ものすごく遠いところへ旅をされてたんですね。
藤巻:はい。ヒマラヤの山奥とかアフリカのサバンナの中とか、すごく遠い場所に行くと、物理的な距離と同じぐらい精神的な距離も離れられるんですよね。「自分は何をそんなに握りしめていたんだろう」「何にビビってたんだろう」「何にそんなしがみついていたんだろう」って気づかされました。
―それで本当に自分が進むべき道が見えた?
藤巻:2年間ずっと旅をしてたわけじゃないですけど、本当にソロ活動を続けるのか、バンドをどうするのかを悩んでいる時期に、そうやってあちこちを旅して回ったことで、今の自分にできることと、自分ひとりではどうにもならないことがあるとわかって。それで、「今の自分にできることをやっていこう」と思うようになっていったんです。そうなると、まず自分にできることは今の現状を受け入れることなんですよね。
―なるほど。
藤巻:自分にできることとなると、結局今も昔も変わらないんですけど、今自分が思っていること、感じてるものを音にしていく作業しかないんですよ。そうやって現状を受け入れていく中で、バンドと比べたり差別化をしなくてはという意識から、だんだん距離が取れるようになってきたというか。ソロはソロの歩幅で、しっかり歩いていくしかないんですよね。あと、これはメンバーの意見がそろわないと始まらないんだけど、少なくとも自分の意志としては、いつかちゃんとまたレミオロメンをやろうと決めたこともあって。
―ということは、その可能性が限りなくゼロに近いときもあった?
藤巻:どうでしょうね。やっぱりバンドって生き物ですから。みんなの思いがそろったときにこそ動くべきものだし、輝くものだと思っていて。だから、逆に言うと、決めただけで何も考えてないんですよ。
―どういうことでしょう?
藤巻:とりあえず、自分の中では定まったというか。いつかバンドをやろうと決めたら、今やるべきことはバンドと差をつけるとかじゃなくて、今思っていることを丸ごとソロに注ぎ込めばいいんだって。やっぱり、本当に大事なものって絶対に消えないんですよ。
―本当に大事なものとは?
藤巻:たとえば、自分が初めてギターを買ったときや初めて曲を作ったときの思い、そしてレミオロメンで10年やってきたこととか、そのすべてが今の自分の魂のふるさとであって、今の自分を作っているんですよね。だから、どこからどこまでが自分で、どこからどこまでが自分じゃないみたいなことではないし、途中で衝動に駆られたことも含めて自分なんだって思えるようになったというか。
―レミオロメンの自分もソロの自分も同じだと。
藤巻:そう。だから、ソロとバンドの線引きがあるわけじゃなくて、その本質でちゃんと音楽が鳴っているかどうか、生きた音楽を作っていくことができるのかが、今の自分にとっていちばん大事なことなんですよね。
自分の内側に向かうことも大事だけど、やっぱり音楽って、音で人と繋がっていく循環も大事なんですよね。
―そうやって2年ほど自分の心と向き合い続けた先でできあがったミニアルバム『旅立ちの日』について、具体的な方向性が見えたのはいつ頃のことだったのでしょう?
藤巻:テーマに辿りつくまでがすごく大変だったんですよね。だから曲を作りながら、「あ、こういうことなのかな?」っていうことを理解していくような感じでした。歌詞を書きながら自分の中で整理していって、曲ができたときに、ようやく今自分が表現しようとしていることがわかってくるみたいな。
―全体としては、どんな感じのものになったと思いますか?
藤巻:僕のソロ活動は、そもそも自分の内側に向かう循環から始まったんですよね。聴いてくれるファンと一緒に共有したいという思いよりも、今これを出さないと自分がどうにかなっちゃうっていうようなところから始まった。でも、内向きの循環だけでやっていくと、どこかでファンを置いてきぼりにしちゃうところもあったというか。自分の内側に向かうことも大事だけど、やっぱり音楽って、音で人と繋がっていく循環も大事なんですよね。だから、今回は内側の循環もありながら、それが外側にどう伝わっていくのか、そのバランスを自分の中で取りながら作っていったような気がします。
―もっと外側の循環も大事だと感じたのは、何かきっかけがあったのでしょうか?
藤巻:最初にソロを始めたときは、リスナーを突き放すというか、自分が吐き出したいことを吐き出さなきゃ辿りつかない光があるような気がしていて、それを信じて進んで行ったんだけど、最初のアルバムを作ってツアーを終えたときに、「ああ、これは相当病んでるな」って気づいたんですよね。ただ、そこに目をつむってしまうと、アーティストとして自分の何かが損なわれちゃうような気がしていたから、もうそれを信じ切っていました。それがかっこいいと思っていたというか、その気持ち良さとカタルシスと意味もあった。それに内側の循環じゃないものは、レミオロメンでやるべきなんじゃないかと思うところもあったんですよね。
―ソロでやる際には、敢えて「禁じ手」にしていたところもあったと。
藤巻:そう。だから、それが旅の中で手放したことのひとつなんですよね。別にそれは、ソロだからとか、バンドだからってことではなくて、今そうやって外側に開いて行きたいと思うなら、それをやればいいって。
『ニコニコ超会議』は、ひとつの場所で、何もかも許容していて何でもありな状態なのに、ちゃんと日本独自のものになっている。
―本作には、ヴァンフォーレ甲府の応援歌として作られた“ゆらせ”という曲も入っていて。そうやって誰かのために曲を作ることができるようになったのも、ある意味開いてきている証拠なのかもしれませんね。
藤巻:そうかもしれないですね。だから今回の作品は、「これからは開いて行きます」という宣言みたいなミニアルバムになっていますよね。
―そう、外側に向かっていると言えば、4月に行われた『ニコニコ超会議』に出演して、“粉雪”を歌われていましたよね。
藤巻:はい。すごい面白かったです(笑)。あれはいいイベントでしたね。ひとつの場所で、何もかも許容していて何でもありな状態なのに、ちゃんと日本独自のものになっている。すごく学ぶことが多かったような気がします。
―具体的に学んだこととは?
藤巻:“粉雪”を歌ったら、もう大合唱になって……すごかったんですよね。自分がすごいという意味ではなくて、その場に宿ったパワーが、本当にすごかった。そこにいた人たちのパワーですよね。だからこそ、どんな形であれ歌い続けていくのは、すごく大事だと思いました。レミオロメンの曲がいちばん輝くのは、もちろん三人でやったときですけど、自分たちが作って来たものに対して線引きするようなことはしなくなってきましたね。
―ソロを始めたての頃だったら、多分出演しなかったんじゃないですか?
藤巻:しなかったでしょうね(笑)。
旅は出会いが大事って言うけど、さよならのほうが大きいような気がするんです。いらないものがどんどん削ぎ落ちていった後、日常の中で何を大切にして、何が歌えるか。
―今回のミニアルバムは、ジャケットのアートワークをはじめ、藤巻さんが世界各地で撮ったいろんな写真が載っていて、本当にすごい場所を旅してきたんだなと思いつつも、そういう要素はサウンド面でも歌詞においても混ぜてこなかったですよね。
藤巻:まあ、そこは混ざらないですよね(笑)。遠くまで行って、遠い場所の曲を書くのではなく、そこから戻ってきたときに、より近くなっているものが大事なんですよね。旅は出会いが大事って言うけど、さよならのほうが大きいような気がするんです。新しいものとの出会いよりも、自分がしがみついているものとか、自分の中にある偏りみたいなものをパッと手放せることが、旅の良さだと思うんですよね。いらないものがどんどん削ぎ落ちていった後、日常の中で何を大切にして、何が歌えるか。
―なるほど。かなり遠くまで行きつつも、身軽になって再び日常に帰って来たと。
藤巻:うん。行きっぱなしだと、ただの失踪ですから(笑)。だから、植物とかと一緒で、たとえばヒマラヤがヒマラヤのまま果実になるわけじゃないですよね。
―と、言うと?
藤巻:ヒマラヤの成分を根っこから吸って、自分という幹があって、枝があって、その先に実がなる。果物になるときは、やっぱりヒマラヤの果実ではないんですよ。もしかしたら、その果実は今まで自分の枝にできていたものとはちょっとだけ違う味がするかもしれないけど、それは自分ではわからないですよね。こっちとしては、何か差をつけようとして作っているわけではなく、ただ素直に作っていきたいだけなので。
―とはいえ、いい感じの実がなりつつあるような気がしますよね。本作を出したあとは、ツアーですか?
藤巻:そうですね。この2年間は、アコースティックライブをやっていて、すごく「歌」に寄っていたんですけど、次はバンドサウンドの中でやってみることで、今までのソロともレミオロメンともまた違う響きを持つんじゃないかとは思っていて。バンドでやるステージって、実はすごく久しぶりなんですよね。ちゃんと開けてきている状態を観に来てもらいたいですね(笑)。
―時間はかかったけど、ようやく本当のソロが始まった感じですね。
藤巻:そうですね。やっぱり、自分の歩幅で歩くということに尽きると思います。今年は、ファンの人たちに「あ、帰って来たな」って思ってもらえるような活動をしていこうと思っています(笑)。
- リリース情報
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- 藤巻亮太
『旅立ちの日』初回限定盤(CD) -
2015年5月13日(水)発売
価格:2,600円(税込)
VIZL-8441. 旅立ちの日
2. ゆらせ
3. 春の嵐
4. 指先
5. born
6. 名もなき道
※藤巻亮太自身が撮り下ろした写真集付
- 藤巻亮太
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- 藤巻亮太
『旅立ちの日』通常盤(CD) -
2015年5月13日(水)発売
価格:2,200円(税込)
VICL-644441. 旅立ちの日
2. ゆらせ
3. 春の嵐
4. 指先
5. born
6. 名もなき道
- 藤巻亮太
- イベント情報
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- 『藤巻亮太 TOUR 2015「旅立ちの日」』
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2015年5月14日(木)
会場:愛知県 名古屋 ダイアモンドホール2015年5月15日(金)
会場:東京都 中野 サンプラザホール2015年5月28日(木)
会場:大阪府 なんばHatch
- プロフィール
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- 藤巻亮太 (ふじまき りょうた)
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2000年12月にレミオロメンを結成。2003年8月1st Single『電話』でメジャーデビュー。2005年リリースの8th Single『粉雪』は自己最高のヒットとなる。 2009年、彼らにとって大事な日でもある3月9日に初のBEST ALBUM『レミオベスト』をリリース。2012年2月、バンド活動休止を発表。大震災以降、音楽と向き合い、被災地の学校を中心にライブを行い歌い続けてきた楽曲でもある『光をあつめて』をソロデビューシングルとして2012年2月リリース。全国のフェス/イベントへ多数出演し、ソロ藤巻亮太の歌の世界観が凝縮された待望の1st Album『オオカミ青年』が10月17日にリリース。次作に向けて楽曲制作を続ける中、映画『太陽の坐る場所』矢崎監督からのオファーを受け、主題歌“アメンボ”を書き下ろす。2014年12月17日にはSPEEDSTAR RECORDS移籍第一弾シングル『ing』をリリース。2015年5月13日には、ミニアルバム『旅立ちの日』をリリース。
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