CORNELIUS、坂本慎太郎と坂本真綾と組んだ「アニソン」を語る

いわゆる「アニソン」とは全然違うからね。でも、一応「僕なりのアニソン」ってイメージはある。

―テレビシリーズのオープニング“あなたを保つもの”と『新劇場版』の主題歌“まだうごく”は、主人公の草薙素子役の坂本真綾さんとのコラボレーションですね。

小山田：このプロジェクトが始まったときにはテレビ版の予定がまだなかったので、急遽テレビ版のオープニングを作ることになったんです。テレビ版はより多くの人が見るから、「コンパクトに凝縮された感じで、わかりやすいものがいい」というオーダーがあって。映画版のオープニングに新しくメロディーを乗せたり、構成を変えたり、展開を加えたりして、歌ものに作り直しました。

CORNELIUS

―なるほど、映画版のオープニングを再構築したものなんですね。

小山田：だいぶ変わってはいるんですけど、曲が持ってる雰囲気みたいなものは、映画版のオープニングが基になってます。

―真綾さんとはこれまで何か接点はあったんですか？

小山田：いや、全然なかったです。プロジェクトの一番初めに映画のオープニングを作ったんですけど、そのときに初めてお会いしました。名前は知ってましたけど、「歌が上手い」っていう話を聞いたことがあるとか、そんなぼんやりした感じ（笑）。

―今回のプロジェクトにはSalyuさんや青葉市子さんも参加されていたわけですが、真綾さんならではの声の魅力はどんなところに感じられましたか？

小山田：癖がなくて、プレーンで、でも微妙な表情のつけ方がよくて、すごく好きなタイプの声でした。女優さんっぽいというか。もちろん歌ってるのは真綾さんで、素子の声色で歌ってるわけではないんだけど、フラットに何にでも変わって行ける感じは受けましたね。

―単純に上手さもあるし、素材にもなるけど、記名性もちゃんとある？

小山田：上手いと言っても、歌い上げる感じじゃなくて、あんまり癖のない、「上手さを感じさせない上手さ」っていうのかな。結構難しい歌だったけど、歌入れはすっごく早かったです。

―曲自体も真綾さんの声質を生かすイメージがあったのでしょうか？

小山田：“あなたを保つもの”は歌が多層的に入り組んでいて、歌を聴かせるというよりも、ちょっと擬態っぽいというか、声の構成を聴かせるイメージ。“まだうごく”に関しては、もうちょっとしっかりした歌もので、声の質感とか表情がわかりやすい方がいいかなと思って作りました。

―テレビのアニソンは90秒の中に情報量を詰め込んで、いかに聴き手を掴むかが勝負だって言いますよね。

小山田：そうなんだ、あんまりそういうことは考えなかったかな。まあ、「テレビなんでちょっとわかりやすく」みたいなことは言われたけど、あれがわかりやすいのかどうか、自分でもよくわからない（笑）。いわゆる「アニソン」とは全然違うからね。でも、一応「僕なりのアニソン」ってイメージはあって。普段の僕の曲ってあんまり展開がないものが多いんだけど、アニソンとして作った曲は「Aメロ、Bメロ、サビ」みたいな展開がちゃんとあるからね。歌いやすいかどうかで言うと、かなり歌いにくいんだけど（笑）。

映画自体は悲しい話だけど、シリーズの最後だから、その中にちょっとだけ見えるかすかな希望が残ればいいなと思って作りました。

―salyu × salyu“じぶんがいない”（「border:1」エンディング）と、青葉市子さんとの“外は戦場だよ”（「border:2」エンディング）のときに続いて、坂本慎太郎さんが歌詞を担当されています。今回も言葉と音のはまりが絶妙で、さすがだなと。

小山田：ただ、今回3回目だったから、同じ世界観で3つ書くのは辛いって言ってました（笑）。大概びっくりするくらい早く歌詞が上がってくるんだけど、“あなたを保つもの”は、坂本くんにしては珍しく時間かかったみたい。でも、その後『新劇場版』の主題歌の分も書いてもらわないといけなくて、「また頼むの悪いな」って思ったんだけど、“まだうごく”はすごく早くできました（笑）。

『攻殻機動隊 新劇場版』キービジュアル
©士郎正宗・Production I.G／講談社・「攻殻機動隊 新劇場版」製作委員会

『攻殻機動隊 新劇場版』ロゴ　©士郎正宗・Production I.G／講談社・「攻殻機動隊 新劇場版」製作委員会

―同じ世界観で作る大変さっていうのは、小山田さんにも同じことが言えたんじゃないですか？

小山田：音楽は言葉ほど具体的なものじゃないから、そこまで大変じゃなかったけど……でも映画の世界観がわりとダークで、感情の振れ幅もそんなにないから、それを何十曲も作ってると、だんだん気が滅入ってくることもあって（笑）。まあ、間には他の仕事もあったから、全然深刻ではなかったですけどね。

―真綾さんは坂本さんの詞に対して何かおっしゃっていましたか？

小山田：すごく気に入ってくれたみたい。“まだうごく”は、「35歳の自分にすごくフィットする」って言ってました（笑）。シングルにはもう1曲カップリングで“東京寒い”って曲が入ってるんだけど、最初その曲は真綾さんが詞を書くっていう話もあったのね。でも、真綾さんから「ぜひ坂本さんに書いてほしい」って話になって。

―“東京寒い”は、映画との関連は……？

小山田：全然関係ない。僕は、シングルとして収録するのは2曲でいいかなって思ってたんだけど、「もう1曲作ってくれ」ってスタッフに言われて（笑）。だから、今までは映画の世界観に合わせて作ってきたけど、もうちょっと軽い感じの曲を作ったら、坂本くんも全然違う感じの歌詞をつけてくれたんです。

―もちろん、歌詞も映画とは全然関係ないわけですよね？

小山田：うん。たぶんね……寒かったんですよ。ちょうど「嫌に寒いな」って日が続いてた頃だったんで（笑）。

―そのまんまだと（笑）。では、“まだうごく”に関しては、どんなイメージで作られたのでしょうか？

小山田：映画版なので、スケールが大きい感じというか、ゆったりした感じの曲がいいかなって。坂本くんが「ジュリー（沢田研二）が歌ってる“ヤマトより愛を込めて”（劇場用『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』エンディング）みたいのがいいね」って言ってて、結果的には全然違うんだけど（笑）、でもバラードっぽい感じにしてみました。

―そう言われると、＜はてしなく 青い空を＞＜どこまでも 高く＞とか、ちょっとそれっぽいですね（笑）。

小山田：そうそう（笑）。あとは、水木一郎さんが歌ってる“ルパン三世 愛のテーマ”（『ルパン三世』テレビ2ndシリーズのエンディング）。イメージとしてはああいう、ゆったりとしたバラードっぽい感じ。あとはやっぱりシリーズの最後だから、映画自体は悲しい話だけど、その中にちょっとだけ見えるかすかな希望が残ればいいなと思って、そういうのも意識して作りましたね。

またサントラをやってみたいなって思いました。コメディーとかやってみたいけどね。あとは……ホラー映画。

―大きなプロジェクトをやり終えて、改めて、サントラの制作というのは小山田さんにとってどんな意味のある仕事だったと言えますか？

小山田：CORNELIUSとしての活動は、自分がやりたいことをやって、それでアルバムができるけど、サントラは最初から世界観が決まっていて、「こういう音楽を作ってください」っていう依頼があって作るわけですよね。そうやって依頼されて音楽を作ることは、CMとか、映像とのコラボレーションとか、単発ではよくあるけど、これだけ大きなプロジェクトで、しかもそれがパッケージされて作品になることはあまりないので、すごくいい経験でした。

―中には難しい依頼もあったのではないですか？

小山田：そうですね……「これでいいのかな？」みたいなのはあったけど、実際僕が作った音楽がそのまま映画に当てはまっていないこともあるんだよね。自分は「このシーンに当ててほしい」と思って作っていても、音楽監督がそれを別のシーンに付け替えて、「なるほど」と思うこともあって。自分一人で考えるよりも、客観的にチョイスしてもらった方がはまることもあるので、僕はいくつかバリエーションを出して、あとはチョイスしてもらいました。

―サントラの仕事をやったことは、今後の小山田さんの活動に何かしら還元されていくと思われますか？

小山田：具体的に何を得たかって訊かれると難しいんだけど、新しい経験だったし、またサントラをやってみたいなって思いました。まあ、サントラって依頼されて作るものだから、僕が「やりたい」って言ってできるわけではないけどね（笑）。

―いや、そうおっしゃっていればきっと依頼が来ると思います。ちなみに、どんな映画のサントラを作りたいですか？

小山田：うーん……コメディーとかやってみたいけどね。あとは……ホラー映画。本気で怖いゾンビものとかやってみたいなあ。

CDの商品紹介に、物撮りってあんまりないよね（笑）。

―今回はシングル、サントラ、さらにはクリップ集も出るわけですが、どれもパッケージが凝った仕様になってますよね。

小山田：クリップ集に関しては、スーパージュエルっていうちょっと高級感のあるケースを使ってるんだけど、デザインはNEW ORDERの“Blue Monday”（1983年リリース）の12インチをなんとなくイメージしてて。あのジャケットもカラーバーみたいになってるんだけど、その色がすごい独特で、実はこの紫色はそれに寄せてます（笑）。今回はクリップ集なので、統一したイメージみたいなのが特になかったから、カラーバーみたいなのがわかりやすいかなって。

『攻殻機動隊ARISE ALTERNATIVE ARCHITECTURE/新劇場版 Music Clips:music by Cornelius』

―シングルのジャケットはどんなイメージなんですか？

小山田：これは坂本くんが作ってくれました。前にsalyu × salyuのジャケット（シングル『話したいあなたと』）を描いてもらったことがあったから、今回もお願いしたんです。「何かヒントちょうだい」って坂本くんに言われたから、「＜うで＞とか＜あし＞とか歌ってるから、そういうので」って言って（笑）。前は鉛筆のイラストだったから今回も鉛筆でくるかと思いきや、こういうスプレーの感じできて、坂本くんの中でも新しいアプローチだと思うし、カラフルで気に入ってます。

坂本真綾　コーネリアス『あなたを保つもの / まだうごく』

―サントラも含めて、どれも所有欲を刺激されますね。

小山田：CDの商品紹介のために、物撮りってあんまりないよね（笑）。

出したいけど……できないと出せないんで（笑）。いつ完成するのかは……。

―大きなプロジェクトが終わったことで、「次はいよいよオリジナルアルバムか？」という声も高まるんじゃないかと思うのですが……。

小山田：うん、やります（笑）。

―昨年高橋幸宏さんと対談をしていただいた際は、「ちょいちょい作ってはいます」というお話だったと思うのですが、実際どれくらい進行しているのでしょうか？

小山田：今もちょいちょい作ってはいるんですけど、最近はこれ（サントラ）をやってたんで、またちょっと停滞してて。これからまたやろうかなって思っているところです。その前に、ここ数年でやったコラボものをまとめて出したいなと思ってるんですけど。

―「オリジナルアルバムを出したい」っていうモチベーションは、今どれくらいあるのでしょうか？

小山田：出したいは出したいですよ。出したいけど……できないと出せないんで（笑）。作って、ある程度溜まってきたら、ちょっと嫌になったりして、単純にまだ曲が揃ってない。いつ完成するのかは……。

―何かしら方向性は見えているのでしょうか？

小山田：うん、なんとなく……なんとなくです（笑）。曲は結構溜まってるんですけど、いろんなプロジェクトをやってると、オリジナルアルバムのためにと思って作っていた曲を結局別のところで使ったりして、アルバム用の曲は増えたり減ったりを繰り返してるんですよね。

―先日ジム・オルークがひさびさのアルバムを出したじゃないですか？　オリジナルアルバムとしては6年ぶり、歌ものとしては13年ぶりっていう。小山田さんとジムって同い年なんですよね？

小山田：そうだよね。1969年生まれ。

―ジムってすごく自分の中のハードルが高い人みたいで、だからこれだけ時間がかかったみたいなんですよね。もしかしたら、小山田さんとも通じるところがあるのかなって。

小山田：どうなんですかね？（笑）　一応自分の中に基準はあるけど……特別高いのかなあ？　ただ単純にまだ曲が揃ってないし、他に仕事を頼まれたりすると、そっちに時間を持って行かれる。

―じゃあ、最後にもう1問だけ。今CORNELIUSとしてのオリジナル曲を作るときのスタートは、曲のイメージからなのか、楽器などで実際に音を鳴らすことなのか、もしくは新しい機材を使うことなのか、どれが一番近いと言えますか？

小山田：うーん……やる日が決まってるときですかね（笑）。スケジュール的に、「この日はやろう」っていう。で、とっかかりとしては、そのときにやりたいことですよね。それはなんとなく自分の中に常にいくつかあって、そのときの「こういう感じをやりたいな」っていうのをスタジオで作業するんです。でも、そのやりたいことも、ときによって変わって行く（笑）。

―了解です。では、ゆっくり待つことにしようと思います（笑）。

小山田：うん。でもまあ、結構できてきてますよ。