CDデビュー前からドラマの主題歌を担当し、YouTubeにアップされた洋楽のカバーが話題となるなど、大きな注目を浴びる女性シンガー・桐嶋ノドカが初のミニアルバム『round voice』を発表する。プロデューサーには小林武史、エンジニアには椎名林檎の作品などで知られる井上うにが迎えられ、エッジの効いたサウンドと共に、桐嶋の「生き様」が生々しく詰め込まれた作品となっている。そこで今回は、彼女が尊敬する先輩として名前を挙げる安藤裕子との対談を実施。音の渦と同化し、会場全体を歌で包み込むかのようなパフォーマンスに共通するものを感じさせるこの両者は、実は非常に対照的な表現者でもある。そんな二人が世代を超えて語り合う、時代と歌との関係性。何かが変わって行く予感を感じてほしい。
歌ってるときは、普段メラメラフツフツと腹の中にあるものが解放される瞬間であり、自分が一番「生きてる」って思える瞬間でもあるんです。(桐嶋)
―安藤さんが桐嶋さんのデビューにあてたコメントの「なんかルフィとか悟空とか、そんな印象がもともとあって、歌声にもそれを感じたから微笑んでしまったんだよ」という部分が印象的でした。
安藤:桐嶋さんは、悲しいことを歌声で吹き飛ばすタイプというか、声が出せると楽しくなって、歌が走って行くような感じがして。悟空とかって、死んでも元気じゃないですか?(笑) 殴られても痛みを感じないというか、もちろん痛いんですけど、ボコボコにされてもむくっと起き上がる感じがして、面白いなって(笑)。
桐嶋ノドカちゃん。
実は3度会っている。けど歌声を聴いたことはなかった。
今回作品を送ってきてくれて、なんか合点がいくような、自然と微笑んでしまうようなパワーを感じた。
なんかルフィとか悟空とか、そんな印象がもともとあって、歌声にもそれを感じたから微笑んでしまったんだよ。
純粋に透き通った心というか、歌いたくて仕方がない。
そんなパワー。ライブ行く約束してまだ行けてなかったね。
生でその何処までも飛んで行ってしまいそうなお歌を聴いてみたいな。
(桐嶋ノドカ・デビュースペシャルサイトより全文転載)
―実際、桐嶋さんは歌うことが自分のパワーになっている?
桐嶋:生活の一部っていう風には言えると思います。「食べる」「寝る」と同列で、ただその中でも歌ってるときが特別だなと思うのは、普段メラメラフツフツと腹の中にあるものが解放される瞬間であり、自分が一番「生きてる」って思える瞬間でもあるからなんです。だから、歌ってるときが「生きること」と向き合う瞬間になっていて、常に自分に勝負を仕掛けていくみたいなところは、悟空にも近いのかもしれない(笑)。
―じゃあ、ちょっと無茶振りだとは思うんですけど、安藤さんをアニメや漫画のキャラクターに例えることはできますか?
桐嶋:なんだろうな……ジブリの……わかった! 『ハウルの動く城』のソフィーですね。少女性と大人の女性っぽさが両立してるというか。歌詞もそうですし、歌ってる姿を見てもそう思うんですけど、人間として、女としての強さとか、生命力があるなって感じます。
安藤:私、自分では女性性がすごい薄いと思うんですよね。そういうものにずっと憧れて生きてきたような気がして。女性ならではの気持ちを歌の世界だと味わえるから、疑似体験として楽しんでいる感じ。
桐嶋:でも私もあんまり性別を意識したことがないというか、他人に対しても自分に対しても、あんまり性差を感じないタイプなんです。
―悟空やルフィってことで言うと、少年性もあるのかもしれないですね。
桐嶋:どうですかね……本能的というか、動物っぽいのかも(笑)。
安藤:(プロフィールを見ながら)誕生日、こどもの日なんだ! 似合うわ(笑)。
私、人から「こういう感じだよね」みたいに言われるのがすごく嫌で。自分って、そう簡単に測れないと思うんです。(安藤)
―桐嶋さんのアルバムの1曲目“風”は、デビューが決まってから書いたそうですね。
桐嶋:私、小林(武史)さんと出会ってからデビューするまで3年かかってるんですけど、純粋に自分が好きな歌を歌えなくなって、すごく迷っていた時期があるんです。そんなときにデビューが決まって、そこから脱出するために書いたんですけど、「やっと心の準備ができた」って思える曲になりました。
―迷いの原因は何だったのでしょう?
桐嶋:「どの自分が一番自分らしい自分なんだろう?」っていうのを、3年間大きな振れ幅の中で曲を書きながら考えてきたんですね。そのときどきで「これが正解かも」って思うポイントがあって、いろんな気付きをしながら来たんですけど、いよいよデビューで「これは間違いなく私です」って曲を出さなきゃいけなくなったときに、ものすごく悩んで。
―デビュー曲はその人のイメージを決定付けることも多いですもんね。
安藤:私は、人から「安藤裕子ってこういう感じだよね」みたいに言われるのがすごく嫌で、デビューのときもシングルではなくてミニアルバムにして、あえてタイプがバラバラの曲を入れて出したんです。今もそういう習性はあって、アルバムを作るときは全方位に曲のタイプを分けた作り方をしてます。
―自分のことを、一言や二言で形容されたくないと。
安藤:自分って、そう簡単に測れないと思うんですよ。「こういう特徴がある」とかはあると思うんですけど、でも必ずいろんな顔を持ってるから、それを他人に「こういうタイプね」って烙印を押されるのは、「そこまでお前と近い覚えはない」みたいな気持ちになって(笑)。
桐嶋:私も、わかってほしいんだけど、簡単にはわかられたくないってすごく思います。なぜかと言うと、自分でもわかってないからなんですよね。いろんな側面が集まって私が私として存在してるわけで、その中からひとつを選んで「これが私です」とは言えないし、逆に、その人が見えてる部分だけで「これがあなたですね」って言われたくない。
私は、曲作りをしてるときがホント地獄で(笑)。ライブやレコーディングで歌うときはホント天国で、「このための地獄だったのか」って思ってます。(桐嶋)
―お二人の共通点として、ライブの感じに近いものがあると思うんです。生命力に溢れているというか、音と一体化していて、引き込まれるものがある。安藤さんはよく「同化」っていう言葉を使っていらっしゃるかと思うのですが。
安藤:私、普段は虚弱児なんですけど、ライブ中は基礎体力が上がるんですよね。普段だったら50mを小走りしたら喘息出るくらいの感じなのに、ライブだと2時間半動き続けても大丈夫なんです。それこそ元気玉みたいなものをお客さんからいただいているのもあるし、音の波に乗ってしまえば、ツルって早く時間が過ぎることもあって。会場にいい渦ができて、そこにひょいって乗れちゃえば、あとは体力なんていらないんですよね。そういう意味で「同化」って言葉を使ってます。その渦にみんなを巻き込むことも大事だし、自分が渦の目として波を起こさないといけないんだけど、自分もそこに乗らないといけない。
桐嶋:私も、まずはバンドの音に反応して歌って、それに対してお客さんが反応したら、またそれに私も反応するということの繰り返しで流れみたいなものができあがってくると思っています。それを作り出すべき立場だとは思うんですけど、その流れの中でしか出ない声もあるんですよね。
安藤:CDを聴いても、すごいライブ感のある声ですよね。
桐嶋:そこに関しては、エンジニアの井上うにさんに最初に訊かれたんです。「瞬間の自分を記録して生き様を残すレコーディングか、緻密に積み重ねて『作品』というものを作るのか、どっちにする?」って。私はずっと生き様を歌い続けてきたので、もちろん「生き様を残したいです」って言って、そこからはホントにその瞬間を残す、生きたレコーディングをしてますね。いつも2~3回歌って、歌録りは終わります。
安藤:私は逆で、レコーディングは作品作りとして捉えてて、声も「気持ちを込めることはいらない」くらいの感じなんですよね。そのくせすごい飽きやすいから何度も歌うのがホント苦痛で、歌録りは大嫌いなんです(笑)。
桐嶋:私は安藤さんと真逆で、曲作りをしてるときがホント地獄で(笑)。その分、ライブやレコーディングで歌うときはホント天国で、「このための地獄だったのか」って思うんですよね。
安藤:真逆だなあ。私、歌入れの前は、あまりにも嫌でいつも体調崩すもん。
桐嶋:私は曲作りをしているとすぐ頭が痛くなります。起きられないし、すぐ疲れるし、悲しくて、泣く……みたいな(笑)。でも、どう歌おうかって考えたり、声をどういう風に生かせるかを考えてメロディーを作ってるときは楽しいので、やっぱり私は作るよりも、歌う人なんだなって思いますね。
そんな大きいことは望まない。自分の大事に思う人が無事であればいいと思って生きてるし、自分が書く曲もそうなっているかな。(安藤)
―『round voice』の最後の曲である“世紀末のこども”には世代意識が表れていて、「夢を持つことに対する葛藤」が描かれていると思うのですが、この曲はどのように生まれたのでしょうか?
桐嶋:私は1990年代生まれなので、まさに「世紀末のこども」なんですけど、「ゆとり世代」とか「さとり世代」って言われる世代でもあって、満たされているんだけど、どこかあきらめていて、自由に育ってきたんだけど、生まれたときから不景気で、地球温暖化の問題とかもあって、暗い方向に突き進んでる気がしているんですよね。希望も持てないけど、ホントの絶望を体感してるわけでもない、疑り深い世代だと思うんです。でも、私はそういう中でもちゃんと夢を見ていたいというか、心が大人になり過ぎて、すぐにあきらめたり、卑屈になったりする前に、ちゃんと純粋な気持ちで夢を信じたいし、世界は必ずよくなると信じたい。そういう気持ちを書いた曲です。
―安藤さんとは、昨年“世界をかえるつもりはない”についてインタビューさせていただいた際、やはり「時代が暗くなってきている」というお話になりました。
安藤:桐嶋さんが言ったことはすごくよくわかるし、みんなが感じてることかもしれないですよね。テレビとかを見てても、なんてことない情報が垂れ流しになってるけど、すぐそばにある暗いことは隠されていたりする。私たちがこどもの頃は、「将来の夢は?」「サッカー選手!」みたいに自分の夢を大きく口にするような感じだったけど、今の子は「公務員でお手当いただければ」みたいな人が多かったりしますもんね。
―そこを指して、「さとり世代」という言葉があるわけですよね。
安藤:その匂いを日本中が感じていて、「平穏無事だったらラッキー」ってみんなが思ってると思うんですよね。私もそんな大きいことは望まないし、変な話、自分の大事に思う人が無事であればいいと思って生きてるし、自分が書く曲もそうなっているかな。「明日は見えないけど、いい日だといいね」っていう。ただ、私も心が大人になれないまま生きてきましたけど、いい加減歳も取って、お母さんになってみて、今の私は周りにいただいた幸せの中で生きていることを感じていて、不幸な要素はゼロですね。でも、次の瞬間に何が起きるかはわからないので、無事が続けばいいなって。
私は音楽で世界を変えられると思っていたいんです。(桐嶋)
―安藤さんはこれまで頻繁に「癒し」という言葉で形容されてきたかと思うのですが……。
安藤:言われますね。癒してるつもりは全然ないんですけど(笑)。
―「癒し」が必要な時代っていうのも間違いなくあったと思うんですけど、今必要なのはもっと能動的な気持ちにさせてくれるような音楽で、それこそ風を起こして背中を押すような音楽だったり、もっと純粋に楽しめる音楽だったりすると思うんです。
桐嶋:私は音楽で世界を変えられると思っていたいんです。私もだんだん大人になってきて、個人の能力には限界がある、人間は無限じゃないっていうことが見えてきました。それでも、「音楽は世界を変えられる」「人の生き方を根本から変える力がある」という確信を、根拠はないけど、ずっと失くしたくないんですよね。自分の世代も気にくわなければ、自分以外の世代のことも気にくわないし(笑)、社会全体に対して何となく気持ちよくないとは思っていて、それをなんとか変えられないかって思いながら歌を書いています。
―これからの時代をどんな風に見ていますか?
桐嶋:ずっと停滞期だったと思うんですけど、そろそろまた変わってくるんじゃないかと思うんです。落ち着いた目でもう1回取り戻していくというか、そういう時代になるように音楽をやっていけたら、いい感じになるんじゃないかと。できるかわかんないけど……。
安藤:できるんじゃないかな。1曲で世界を変えるのは難しいかもしれないけど、音楽は人の精神状態を変えることならできると思うんですね。1人の人を変える動きが、2人、3人、100人、1万人、1億人! って広がっていったら、世界規模で何かを変えれるかもしれないし、そういう力は音楽にあると思います。私も今が時代の境目だと思いますね。ただ、どういう音楽が求められてるかに興味はなくて、私はわりと傍観者なんです。「こうしたい!」とか「歌が大好き!」とか、私はそういう「想い」がないタイプで、ただ眺めている。私の方がさとりっぽいでしょ?(笑)
桐嶋:そうなのかも(笑)。
安藤:でも、ただ眺めているからこそ、時代の変わり目は見えやすいと思うんですよね。煽動政治家っているでしょ? ああいう感じで、音楽にも煽動する人間が時代の境目に出てきて、「変えたるわ!」って叫んでたら、それはいい警鐘になるんじゃないかな。それこそルフィみたいな人がね(笑)。
今までは、強引に切り開いたり、「攻める」っていう力で進んできたと思うんですけど、その進み方だと行けない場所があることに気づいて困ってるのが現代だと思うんです。(桐嶋)
―『round voice』ってすごくいいタイトルで、つまりはこれまでの鋭角的な、刺々しい警鐘から、丸みを帯びた温かみのある警鐘へっていう、そういう時代の転換を指しているような感じがしたんですよね。
桐嶋:なるほど、繋がりましたね! 確かに、今までの時代は強引に切り開いたり、「攻める」っていう力で進んできたと思うんですけど、その進み方だと行けない場所があることに気づいて困ってるのが現代だと思うんです。そこからどう新たなパワーが生まれるかを考えたら、次に来るのは柔らかい力というか、今までが男性的だとしたら、次は女性的なパワーなんじゃないかなって。それは女性が活躍すればいいという話ではなくて、考え方として、そういうパワーの使い方が今後際立ってくるんじゃないかって、勝手に予想してるんです。
―途中で「あんまり性差がない」っていう話もありましたし、これからはそういうフラットな感覚が重要になってくるのかもしれないですね。実際に『round voice』っていうタイトルは今話していただいたような想いから付けられているんですか?
桐嶋:小林さんがずっと「ノドカの声は丸い声だ」って言ってたのを、そのまま英語にしたんですけど、「round」には「丸い」だけじゃなくて、「広がる」っていう意味もあるので、広がりのある丸という意味での「round」なんです。自分の考えにも合ってるので、すごく気に入ってます。
―では最後に、安藤さんから桐嶋さんにエールを送っていただいて、それに桐嶋さんが応える形で締めさせていただければと。
安藤:なんだろう……私人見知りでずっとミュージシャンの知り合いがいなかったんですけど、去年ぐらいに人と知り合いたい気持ちが急に湧いて、やっと交流を持つようになったんです。それでいろんなミュージシャンとお話ししてみると、やっぱり続けることが一番大変なんですよね。どこかで分岐点もあるし、迷いもあると思うけど、続けていると「自分ってこんなものか」っていうのもわかるし、でも「こんな可能性もあったんだ」ってことも出てくる。だから、続けることが一番大事なのかなって思います。
桐嶋:続けること……確かに、大事かもしれない。でも、ちゃんと歌が好きだったら、続けられると思うんだよなあ。
―うん、まだこれからデビューですしね。
安藤:そうだよ! まだそんなに心配するときじゃない。
桐嶋:そうですよね。これからも変わらず歌で人となりとか生き様を示せる人でありたいと思います。
- リリース情報
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- 桐嶋ノドカ
『round voice』(CD) -
2015年7月29日(水)発売
価格:1,728円(税込)
AZCS-10461. 風
2. キミのいない世界
3. ボーダーライン(album ver)
4. Wahの歌(album ver)
5. 世紀末のこども
- 桐嶋ノドカ
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- 安藤裕子
『360°(ぜんほうい)サラウンド』(CD) -
2015年7月29日(水)発売
価格:1,080円(税込)
CTCR-403701. 360°(ぜんほうい)サラウンド
2. うしろゆびさされ組
3. 360°(ぜんほうい)サラウンド Inst.
4. うしろゆびさされ組 Inst.
- 安藤裕子
- イベント情報
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- 桐嶋ノドカ
『タワーレコード インストアライブ』 -
2015年7月30日(木)START 20:00~
会場:大阪府 タワーレコード梅田NU茶屋町店2015年8月12日(水)START 19:30~
会場:神奈川県 タワーレコード横浜ビブレ店
- 桐嶋ノドカ
- プロフィール
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- 桐嶋ノドカ (きりしま のどか)
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1991年5月5日生まれ。横浜出身。2012年夏、デモ音源を音楽プロデューサー・小林武史へ送ったことがきっかけとなり、同氏のスタジオに通い始める。曲作りを続けながらライブハウスへ出演し始めると、音楽配信サイト「OTOTOY」が真っ先に彼女の才能に注目。2014年3月“ボーダーライン(DEMO ver.)”のフリーダウンロードをスタートしたところ、全く無名の新人にして約1か月で2,000DL を記録。2014年7月にテレビ東京ドラマ『ラスト・ドクター ~監察医アキタの検死報告~』の主題歌に急遽“Wahの歌”が起用され、初めての配信での楽曲リリースが決定。パワフルさと透明感を併せ持つ歌声は、人の心にダイレクトに訴えかける。2015年7月29日、デビューアルバム『round voice』をリリース。
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- 安藤裕子(あんどう ゆうこ)
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1977年生まれ。シンガーソングライター。2003年ミニアルバム『サリー』でデビュー。2005年、月桂冠のTVCMに“のうぜんかつら(リプライズ)”が起用され、大きな話題となる。CDジャケット、グッズのデザインや、メイク、スタイリングまでを全て自身でこなし、時にはミュージックビデオの監督まで手がける多彩さも注目を集める。2014年には、大泉洋主演映画『ぶどうのなみだ』でヒロイン役に抜擢された。2015年1月に8枚目のアルバム『あなたが寝てる間に』をリリース。7月29日には、スキマスイッチ書き下ろし楽曲を含む、11枚目のシングル『360°(ぜんほうい)サラウンド』を発売。
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