史上初「ハイレゾデビュー」を飾った丸本莉子の歌声が出来るまで

丸本莉子はこの6月にシングル『ココロ予報』でメジャーデビューを果たした広島出身のシンガーソングライターだ。一聴しただけで印象に残る、やや低めの美しい特徴的な声から紡ぎ出される、ポジティブなメッセージに溢れる歌は、人々の生活にそっと入り込み、いつのまにかさりげない存在感を主張するようなバイブレーションを放っている。3年間のインディーズでの活動を経て、地元・広島では既に幅広い年齢層の熱狂的なファンを獲得している。

『ココロ予報』は、24bit / 96kHzのハイレゾ音源で先行リリースされたことも話題になっている。つまり史上初のハイレゾ音源デビューを果たした新人というわけだ。彼女の澄んだ声と丁寧で奥行きのある録音は、確かにハイレゾで聴くに相応しい。率直な話しぶりの彼女は、その歌同様に、自然体の魅力に溢れていた。

小さい頃から声がちょっと変わっていて、お父さんに「カエルみたいだぞ」って言われてショックを受けました。

―音楽に興味を持ったきっかけは?

丸本:小さい頃から歌うのが大好きだったんです。いつもお風呂とかで大きな声で歌っていたんですけど、あまりにもずっと歌ってるものだから、「うるさい」ってお父さんに怒られたり(笑)。小さい頃から声がちょっと変わっていて、お父さんに「カエルみたいだぞ」って言われてショックを受けました。実際に録音した声を聴かされて、自分の声を初めて聴いたら確かに変な声で……だから、自分の声はすごくコンプレックスだったんですけど、歌うことが好きって気持ちの方が大きかったんです。

丸本莉子
丸本莉子

―その頃はどんな歌を歌ってたんですか?

丸本:お母さんが松田聖子さんとかレベッカが好きだったんで、それを真似して歌ってましたね。

―コンプレックスから抜け出して、自分に歌の才能があるんじゃないかって気づいたのは何かきっかけがあったのでしょうか?

丸本:えへへ(笑)。中2の時に音楽の選択授業でギターを始めたんです。弾けるようになって、教室に友達を呼んで歌っていたんですけど、人前で歌うのがすごく楽しくて。鬼束ちひろさんとか色々なアーティストの真似をしたら、「すごく上手だね」って言われるようになって、それからですかね。

―お風呂場で歌うことと、人前で披露することの楽しさは違いましたか。

丸本:そうですね。聴いてくれる人がいた方がさらに感情が入るし、楽しくなります。

―音楽以外に、何か関心のあることはなかったんですか?

丸本:運動が好きで、小学校からずっとバレーボールをやっていました。ただバレーボールはだんだん練習が苦になってきて。高校では結構強いバレー部に入っていて、お母さんにもすごく期待されてたし、「やらされてる感」が強かったんですよね。土日も毎日練習があって、だんだん苦痛になってきていたけど、ギターは練習はすごく楽しくて自分から進んで練習したいと思ったんです。なので自分のやりたいことはどっちだろうって考えた時に、やっぱり音楽を選びました。

―バレーではなく音楽をやっていきたいと打ち明けた時、ご両親の反応はいかがでした?

丸本:お母さんは小さい頃から私がバレーボールをやることを応援してくれていたので、すごくがっかりして。「やめると何もなくなるよ」ってすごく落ち込んでましたね。でも、音楽活動を始めたら、ライブにも来てくれるようになりました。ただ、お父さんは全然来てくれなかった。高校を卒業してラジオとかに出させてもらうようになったら、ひそかに聴いてくれてたみたいですけど……。

―お父さん、照れ臭かったんでしょうね。

丸本:そうだと思います(笑)。今はライブにもよく来てくれるようになりました。

卒業してすぐ上京したかったんですけど、親に反対されて、2年間は訪問介護の仕事をしながら音楽活動をしていたんです。

―高校を卒業されてから、上京されるまで少し時間が空いてますよね。

丸本:卒業してすぐ上京したかったんですけど、親に反対されて、2年間は訪問介護の仕事をしながら広島で音楽活動をしていたんです。その時は両立できてたので、「このままでいいかな」って思ってたんですね。「どうせ有名になんてなれるわけないし」って現実を見始めちゃって……でも周りの人たちに、このままでは中途半端で終わるから、本当に音楽が好きなら東京に行ってみれば、って背中を押されて上京を決意しました。

―介護の仕事は、どういうことをされてたんですか?

丸本:色々な経験をさせてもらいました。お年寄りだけじゃなくて障害者の方の支援とかもやっていて。楽しかったですね。

―歌うことって、言ってみれば「私を見て、私を聴いて」っていう自己主張の世界ですよね。でも介護ってまず相手がいて、相手の人に気持ち良く過ごしてもらう仕事。一見対極にあるように思えます。

丸本:そうですね。確かに最初はちょっと違和感もあって、「なんで私はこんなことやってるんだろう」って思うこともありました。でも、本当に感謝してくれる人もいて、やりがいがありましたね。それに、障害を持った子どもたちと遊んだりする支援もあるんですけど、そういう人たちに比べて私は五体満足で普通に生きてこられたということを考えるきっかけをもらったり。それに感謝しなきゃいけないし、もっと頑張らなきゃいけないなと思いましたね。“You”って曲があるんですけど、それは介護で働いている時に、あるおじいさんおばあさんを見ながら作ったんです。“心のカタチ”では、介護の仕事全体を通して思ったことを書いています。

丸本莉子

―アーティストには、ある種のコンプレックスや傷、疎外感や孤独、あるいは怒りや悲しみをバネに自分の表現を作り上げていく人もいますね。丸本さんはネガティブな感情から曲が生まれることはありますか?

丸本:とてもありますね。たとえば恋愛になると私はすごくマイナス思考になってしまうので、「なぜ私はこう言えなかったんだろう」とか「もうちょっと素直になれば良かった」とか、その場で言葉にできなかったことを歌にすることがよくあります。その一方で楽しい時や嬉しい時も曲はできるんですけどね。色々な感情を歌にしてます。

―ご自分で曲を作り始めたのはいつですか?

丸本:高校1年生の終わりなんですけど、私の声ってもともと低くて、カラオケで歌っててもなんかしっくりこなかったんです。自分に合うキーで、その時に自分が感じてることにぴったりくるような曲が、カラオケにはなかった。なのでそういう曲を自分で作りたいと思ったのがきっかけです。

―最初に書いた曲はどういう曲でした?

丸本:失恋の曲でした。“あなたの夢を見た日には…”っていう。ちょっと恥ずかしいんですけど……(笑)。

―失恋したんですか。

丸本:しましたねえ。初めて恋して失恋して。

丸本莉子

―ああ、それは曲を作るモチベーションとしては十分ですね(笑)。今でも歌ってるんですか?

丸本:CDにはなってないんですけど、ライブでたまに歌います。その時は、新しい失恋の相手を思って歌います(笑)。

―最新の体験に置き換えて歌うと(笑)。

丸本:はい。上書きされた失恋の歌になります(笑)。

(歌詞を書くために)自分のマイナスなところを書き出していったので、すごく落ち込みました。「自分はカス人間や!」とか思って。

―活動する場所ですが、今は昔ほど音楽産業もメディアも情報も東京に一極集中してるわけじゃないので、地方にいてもそれなりに活動できる土壌もあると思うんですよ。広島にとどまり、広島にこだわってやっていくことは考えませんでしたか?

丸本:ああ……私はそう思ってたんです。広島でやっていこうと。でも周りの人に……。

―説得された?

丸本:うーん、そうですね……でもその声がなかったら、上京を決意できずに広島で音楽をやっていたと思います。まったくアテもなく、東京に行くことを決めたので。

―東京に引っ張ってくれた人とかいなかったんですか?

丸本:まったくいないです。ただその直前に広島ホームテレビの方から番組の主題歌を作ってみないかというお話をいただいて。そこで一緒に仕事させてもらった音楽プロデューサーさんに、今の事務所を紹介してもらいました。

―初めての主題歌は、スムーズに作れました?

丸本:作った曲を聴いてもらったら、「こんなんじゃダメだからこれから3日間で3曲作ってきて」って言われて。3日で3曲って、1日1曲ってことじゃないですか。私はそれまで1か月に1曲のペースだったんで、ほんとに苦しくて。それで作ったら「メロディーはOKだけど、歌詞がダメだ」と。「かっこつけてないでありのままの今の自分を書いてみなさい」って言われて、それでやっとOKをもらえたのがこの“ココロ予報”の歌詞なんです。

―なるほど。その音楽プロデューサーの人は、あなたのどこをかって東京の事務所を紹介したんだと思いますか?

丸本:声ですかね。あと、見た目は普通にどこにでもいそうな女の子だけど、そういう人がありのままの自分を歌うから共感してもらえるんだって。だからかっこつけちゃダメだって言ってもらいました。

―歌詞って、ちゃんと書こうと思うと、自分自身の内面と向き合わなきゃいけないじゃないですか。ありのままを歌うことは、しんどくなかったですか?

丸本:辛かったです。シンプルな歌詞に見えますけど、書き上げるまでの段階ではほんとにここにある以上に色々なことを書いていて。自分の今の生活とか、やろうと思っていたことが何もできていないとか……自分のマイナスなところを書き出していったので、すごく落ち込みました。「自分はカス人間や!」とか思って(笑)。歌詞を考えている間はすごく苦しかったけど、そうすることでありのままのかっこつけない自分を表現できたと思います。

今までは自分のために作って自分のために歌っていたけど、これからは聴く人のためにも歌っていきたい。

―自分の音楽で一番大事なことって何ですか? 一番聴く人に伝えたいこととは。

丸本:マイナスな気持ちを歌っていても、最終的にはプラスになっているような曲を今までも書いてきています。負けそうだけど私は頑張る、と。上から目線で「頑張れよ」っていうのではなくて、「頑張ろうよ」って寄り添っていけるような歌を作ることですかね。

―寄り添っていきたい、というのは、聴く人に共感してもらいたい気持ちが強いということですか。

丸本:そうですね。共感してもらえると嬉しいですね。歌にする題材は自分のことだけじゃなく、周りの人たちの生活や感情も歌にするんですが、それを他人事じゃなく聴く人にとっても共有できるような言葉で表現していきたいと思っています。

―なるほど。

丸本:“ココロ予報”は、メジャーデビューするにあたって、4年前に作った歌詞から少し変えているんですよ。もともとの歌詞には「東京」っていう具体的な地名も入ってたんですけど、メジャーデビューにあたって、より多くの人が自分に当てはめやすいように、限定される言葉は除こうと思いました。今までは自分のために作って自分のために歌っていたけど、これからは聴く人のためにも歌っていきたい。生活とか夢とかはそれぞれ違うけど、苦しみを乗り越えていく時の気持ちとかはみんな一緒だと思うので、そういうところに共感してもらえればと思っています。

丸本莉子

―メジャーに行って一番大きな変わり目はそこかもしれないですね。「東京」という具体的な地名がなくなって、より幅広い人たちに共感してもらえるような表現に変わった。

丸本:はい、そうですね。

―ただ、具体的であればあるほど表現としては強くなるということもあると思います。

丸本:そうですね! 私の中では、歌うたびにその時の情景や感情が流れるんです。なので歌っている時の気持ちは変わらない。でも、歌詞を変えることで、みんなが自分のことを思い浮かべながら聴いてもらえるなら、それがいいじゃないかと思いましたね。

―来月には、さっそく2ndシングル“やさしいうた”がリリースされますね。

丸本:これも1年前に作った曲なんですけど、もともとは家族のことを書いていたものを、メジャーで出させてもらうということで、「家族」から「大切な人」にテーマを広げて歌詞を書き直しました。

ハイレゾだと、生々しいし、ずっと聴いていると他の音源に戻れなくなるぐらい音がいいんですよ。

―今回はハイレゾ音源でのデビューということでも話題になっていますね。

丸本:はい。私の声に特徴があるということで、ハイレゾでデビューさせてもらいました。ハイレゾだと音量が変わってないのに迫力が増すんですよ。生々しいし、ずっと聴いていると他のフォーマットの音源に戻れなくなるぐらい音がいいんです。

―言ってみればハイレゾって、レコーディングスタジオのプレイバックで聴いてる音と同じってことですよね。

丸本:そうですね。

―あの時自分が歌ったそのままがここで鳴っているという感じはあるわけですか?

丸本:そういう感じはしますね。声の息づかいとか歌い方の細かいニュアンスまでリアルに伝わる音源なんですよ。今後もハイレゾで出していくと思うので、そういう細かいニュアンスや息づかいなどは一層気を遣わなきゃいけないと思っています。

―今後の目標は?

丸本:高校生の頃からメジャーデビューしたいというのが目標だったんです。それが達成できたので、次は武道館でワンマンライブをやりたいですね。上京した時から部屋に「目指せ武道館!」って貼ってあるんですよ。あと、「私は死んでも歌は生き残っていく」というような歌を作りたい。名曲を残したいんです。

丸本莉子

―9月にはアルバムのリリースも決まってますが、そういう曲は書けてますか?

丸本:まだ書けてないですね。

―そのためには何が必要なんでしょう?

丸本:人生経験(笑)。

―どういう人生経験?

丸本:波瀾万丈はいやなんですけど(笑)、色々な経験や感情をもっと幅広く歌っていけるような歌手になりたい。やっぱり歳を重ねるごとに歌に厚みが出て、歌詞もちゃんと深みを増していくようにしたいですよね。そしてみんなからさらに共感を得られるような、そういう人生を歩んでいきたいです。

リリース情報
丸本莉子
『ココロ予報』

2015年7月8日(水)から配信リリース

丸本莉子
『ココロ予報』ハイレゾ音源

2015年6月10日(水)からVICTOR STUDIO HD-Music.、e-onkyo music、moraで配信リリース

丸本莉子
『やさしいうた』

2015年8月19日(水)から配信リリース

丸本莉子
『ココロ予報~雨のち晴れ~』(CD)

2015年9月16日(水)発売
価格:1,944円(税込)

番組情報
『丸本莉子 LIVE at Victor Studio「一本勝負!!」』

2015年7月16日(木)20:00からGYAO! MUSIC LIVEにて生配信

プロフィール
丸本莉子 (まるもと りこ)

広島県出身のシンガーソングライター。いつも見知っている景色を、親しみやすいメロディーと言い得て妙な歌詞に置き換え、一度耳にしただけで印象に残る個性的な声で歌う丸本莉子。その本物の歌は、本物の音質である史上初のハイレゾ配信デビューという形で、2015年夏、世に送り出されることになった。ハイレゾ先行配信を行ったメジャーデビューシングル『ココロ予報』は、「VICTOR STUDIO HD-Music.」「mora」「e-onkyo music」の初日デイリーチャートですべて第1位を獲得。新人としては異例の3冠を達成し、早くも注目を集める。



記事一覧をみる
フィードバック 0

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

  • HOME
  • Music
  • 史上初「ハイレゾデビュー」を飾った丸本莉子の歌声が出来るまで

Special Feature

Crossing??

CINRAメディア20周年を節目に考える、カルチャーシーンの「これまで」と「これから」。過去と未来の「交差点」、そしてカルチャーとソーシャルの「交差点」に立ち、これまでの20年を振り返りながら、未来をよりよくしていくために何ができるのか?

詳しくみる

JOB

これからの企業を彩る9つのバッヂ認証システム

グリーンカンパニー

グリーンカンパニーについて
グリーンカンパニーについて