高校の部室から生まれたロックバンドが、あれよあれよという間にメジャーレーベルと契約。そのくせ、シンデレラ感を見せずに自ら「超絶無名バンド」と名乗り、つかみどころをちっとも教えてくれないsympathy。高知県の高校を卒業し、全国各地バラバラに散らばった彼女たちは、LINEやSkypeを駆使して曲を編みながら、「既読スルー」でケンカしながら、大人が求めるものを冷静に観察しながら、そんなものじゃない音楽を作り上げてみせる。ミニアルバム『トランス状態』には、思春期の無自覚な情感が詰め込まれていると思いきや、どうやら、この「無自覚」はものすごく自覚的らしいと知らされる。若さが持つ瞬間のピュアさを目一杯発散する、とっても爽やかだが、どこか巧妙なバンドの登場だ。ギターボーカルの柴田ゆうに話を聞いた。
他のメンバーは色々な音楽を聴いていたから、知らないバンド名ばっかり言われてしまって。なんだっけ、ほら、あの横断歩道を渡る写真の……。
―こんな話から入るのもなんですが、今、大学で入れ歯の勉強をされているそうですね。
柴田:そうなんです。お母さんから「歯科技工士になりなよ」って薦められて。
―入れ歯の勉強って、何から始めるんですか?
柴田:材質であったり、骨格や筋肉、あとは使用する金属の相性を覚えたりしています。
―これから高齢化が進んでいきますから、入れ歯業界は音楽業界よりも安泰かもしれないと……。
柴田:いやいやそんな(笑)。
sympathy(左から:門舛ともか、柴田ゆう、田口かやな、今井なつき)
―他のメンバーは高知と京都にいて、柴田さんだけが東京に住んでいるために、お一人でいくつか取材を受けていらっしゃるようですが、同じ質問に答えなければいけないから大変ですね。
柴田:そうですね。思わず質問の途中で、次の質問を予測して先に答え始めてしまいます。一番訊かれるのはバンド名の由来とか……。
―では、バンド名の由来を訊かせてください。
柴田:はい(笑)。バンドを組んで間もない頃、バンド名のアイデアを誰も出さなかったので、英語の単語帳を開き、目についた単語をバンド名にしようとしたんです。そうしたら「sympathy」って言葉が目に入って、読みもかわいいし、綴りもいいから、これでいこうと。
―かなり投げやりですね。
柴田:単語帳を開いては「違うね」っていうのを何度か繰り返して、だんだん飽きてきていたので。バンド名が「同情」ってどうなんだろうと思ったんですが、調べてみたら「共鳴」という意味もあったし、「痛みを分かち合う」という意味もあると最近知って「ピッタリじゃん」って後付けで補強しています(笑)。
―高校の部活で結成されていますが、「軽音楽部」じゃなくて「フォークソング部」という名称だったそうですね。
柴田:はい。とにかく規模が大きくて、部員が100人くらいいたんですが、いざ入部すると、メンバー争奪戦になるんですね。バンドを組んでくれる人を早く決めなきゃって急いでいたときに、まずはベース(今井なつき)が見つかって。次にギター(田口かやな)とドラム(門舛ともか)のコンビを見つけて、私がかやなに「そっち二人? 私たちも二人だから一緒に組もうよ」って声をかけたんです。
―修学旅行で新幹線の席を決めるみたいですね(笑)。そのときに四人が共鳴するアーティストとして、どういう名前が挙がりましたか?
柴田:これが全くいなかったんですよ。というのも私があんまり音楽に詳しくなくて、兄が好きなPerfumeなどのテクノポップとかボカロを聴いていたくらいで。かやなとなつきは色々聴いていたから、知らないバンド名ばっかり言われてしまって。なんだっけ、ほら、あの横断歩道を渡る写真の……。
―まさか、ビートルズですか……。
柴田:そうです、ビートルズだ!(笑)
―すごい認知の仕方ですね(笑)。
柴田:それくらい「これがすごく好き」と一緒に盛り上がれるものがなかったんです。だから、みんなで曲をコピーしたくても選びようがなくて。今では相対性理論や東京事変など、共通して好きなバンドも増えましたが、結成当初はとにかく選ぶのに困っていましたね。
私たち、ドMなんですよ。追い込みたいから、あえてTwitterでエゴサーチしちゃうんです。で、傷ついて、落ち込んで、そこからの跳ね上がりを期待してます。
―sympathyの歌は、言葉の選び方、接続の仕方がとても独特ですよね。どういうプロセスで曲を作ってるんですか?
柴田:初めて作った曲が、『トランス状態』の6曲目に入ってる“あの娘のプラネタリウム”なんですけど、この曲は部室に1週間こもって、各自入れたい言葉を持ってきて、パズルのように組み合わせていきました。今はみんなバラバラに住んでいるので、主に私とギターのかやながメロディーやギターフレーズを作って動画を撮って、歌詞も断片的に考えて、その都度LINEで送ってます。
―動画を撮る?
柴田:そう。スマホでカメラを起動させて、それを膝に置いて、動画を撮るんです。それをLINEに貼り付けて、「いいね、じゃあ、ここのドラムはこうしてみよう」とか意見を出し合って、予定が合うときにSkypeで話し合って曲を作ります。
―とても現代的ですね。
柴田:それが当たり前すぎるんですけど、そう言われると、あらためて「私たち、めっちゃ現代っ子だな」って思いますね。
―歌詞を書く上で、影響を受けたアーティストはいますか?
柴田:相対性理論っぽいってよく言われますね。特に意識はしてないんですけど、とにかくハマったバンドなので、意識していなくとも言葉選びが近くなってくるのかなとは思っています。
―デビューするアーティストって、必ず「○○っぽい」と言われますね。
柴田:絶対言われるんですよ!(笑) 笑っちゃったのが、4バンドほど羅列して「足して5で割ったかのよう」と言われてしまいました。「私たち、薄っ!」って(笑)。「相対性理論っぽい」って言われても、相対性理論ほど完成度が高くないので申し訳ないってメンバーと話していますね。
―「○○っぽい」って、悪く言われることも多いですからね。
柴田:なつき以外は嫌がってますね。なつきは「まぁ、これが過程ってもんでしょう」と冷静。私たちのことがネットで書かれているのを見つけると、スクリーンショットを撮って、sympathyのLINEグループで「こういうこと言われちょった」って送るんですよ。そしたらなつきは「大丈夫!」って言ってくれて、元気になる。
―じゃあ、sympathyに対してネガティブなことを言うと、グループLINEで晒されるわけですね(笑)。
柴田:はい、私たち、逐一Twitterでエゴサーチしてるんで(笑)。「あっ、10秒前に1つ増えたぞ」みたいな。YouTubeの再生回数も、朝昼晩細かくチェックしてますからね。
―でも、エゴサーチって、いい結果を招くことないですよね。
柴田:私たち、ドMなんですよ。追い込みたいから、あえて見ちゃうんです。で、傷ついて、落ち込んで、そこからの跳ね上がりを期待してます。「よっしゃ、やってやるぞ」って思うときが一番気持ちいいんです。
―確かにドMですね。
柴田:でも、根には持ちます。そのアカウントはその後もチェックしたり(笑)。
女子高生は大人に押さえつけられている風に見せて、実は本人たちがそれを逆手にとって一番楽しんでいるはず。
―“女子高生やめたい”という曲もそうですし、その他の歌詞の中には<少女を脱ぎ捨てる>など、自分たちに与えられた「若さ」と向き合うことを意識されている印象を持ちました。
柴田:時間経過に対する怯えがあったのだと思います。大人になることへの怖さであり、自分たちの想いが過去になっていくことへの怖さだったり……『トランス状態』は、とにかく私たちの気持ちの揺れが集まったアルバムになりました。
―高校を卒業して、メンバーが離れ離れになるときに「あっ、自分たちはこの狭いフィールドから自由になるんだ」という解放感を覚えましたか? それとも、この大切なフィールドを守りたかったですか?
柴田:守りたかったですね。「女子高生ってだけで無敵」と思って、女子高生をやっていたので。女子高生という鎧を脱ぎ捨てる勇気がなかった。
―その自覚、かなり冷静ですね。最近の女子高生はみんなそういう自覚持ってるんですか?
柴田:そうですね。自覚してない子、いるのかな……?
―今、女子高生じゃなくなって、その女子高生の無敵性って一体何だったんだと思いますか?
柴田:毎日駆け抜けていたから、あんなにキラキラしていたんでしょうね。授業、宿題、テスト、色々とやることがありましたし、その全てが愛おしかった。辛いことがあっても素敵だなって思えたんですよね。制服にしても、みんなと同じものを着させられていて嫌だなとは思っていたんですけど、ちょっと嬉しい部分もありました。
―大人たちも色々とやることがあるんですけど、どうしてキラキラしていないんでしょうかね。
柴田:制服ってやっぱり大事なのかなって思います。私も今、私服で登校することに萎えてますもん。みんな微妙に似た私服を着てるのも面白くないし、ゲッソリして見えますよね。
―でも、制服は若さの象徴として大人から押しつけられている恰好でもありますよね。
柴田:そうですね。でも、女子高生はそれを逆手にとってますよ。男子高生は何とも思ってないはずですが、女子高生は大人に押さえつけられている風に見せて、実は本人たちがそれを逆手にとって一番楽しんでいるはず。
―つまり“紅茶”の歌詞にある<あたしは少女を脱ぎ捨てる>は、文字通りの意味ではなく、女子高生である自分たちを「利用してやろう」みたいなことでもあった、と。
柴田:はい。どれだけの人が歌詞から本音と建前の関係を読み取ってくれるかなと思います。そのまま「脱ぎ捨てる」って思ってもらっても構わないんですが、いつか気付いてくれるのかな、ずっと気付かないままなのかなとか、そこを見るのもちょっと面白くて。
考えなくても理解できる率直な歌を必要としている人もいて、おそらくそっちで世の中は成り立っているけど、私たちは違う。
―高校時代の、その瞬間的なキラキラを吸収してきた四人が、高校を抜け出ることで変わったこと、失ったことはありますか。
柴田:怠惰が増えました。高校生のときに書いたようなキラキラした曲はなかなか書けなくなって、中途半端な気だるさが出てきてしまったんですよね。感情が爆発するわけでも、起爆剤を探すわけでもない。ダラダラ歩いているような雰囲気が出てきたかなと思います。
―高校生の頃って、イライラがシンプルですよね。でも大学時代って、どこに握り拳を向ければいいかわからなくなりませんか。
柴田:明確な対象がなくなった感覚はあります。高校生の頃は感情を爆発させるのが簡単だったのに、今は何に対して爆発していいかわからないというか、爆発する気力がないというか。見えない敵と戦う辛さを感じています。
―無敵な状態が終わってしまって、大人になっていく恐怖こそが、見えない敵である?
柴田:そうかもしれないですね。でもたぶん、これも徐々に慣れていき、音楽のかたちも変わっていくんだと思います。
―言葉の選び方も変わってくるでしょうね。
柴田:そうですね。元からストレートな言葉がすごく嫌だったんですよ。“さよなら王子様”は比較的ストレートな歌詞なんですが、それでも「好き」「悲しい」「泣きたい」とは書かずに、置かれている状況を浮かばせたかったんです。
―喜怒哀楽、そのどの感情も直接的に語ることを避けていますよね。
柴田:はい、全力で避けます。考えなくても理解できる率直な歌を必要としている人もいて、おそらくそっちで世の中は成り立っているけど、私たちは違う。まっすぐな言葉は、たまにしか使わないことで強く届けることができると思っています。「今まで好きなんて言わなかったくせに、今好きって言うんかい」みたいな使い方ができるんですよ。
―“泣いちゃった”の歌詞の最後の4行に惹きつけられました。<通勤電車 走る 走る 向こうに 観覧車 が 回る 回る あなたが 快速電車 走る 隙間 向こうに あの日が 回る 回る あなたが>。歌詞にリフレインを多用されますが、例えばここに「隙間」と入れて、言葉をずらすことで情景が立ち上がってきます。
柴田:頭のなかに景色が浮かんで、そこに言葉を当てはめていくことが多いです。この部分は、スローモーションでイメージが頭のなかで流れてたんですよね。電車が通り過ぎるとき、その向こうが一瞬見えるときがあるじゃないですか。あの隙間を入れたかったんです。
―浮かんでくる情景というのは、自分が見たものなのか、あるいは見たことのないけれどどこかにある光景なのか、どちらなのでしょう?
柴田:どこかで見たような、ないような、曖昧な光景ですね。映画のようなストーリーがあるわけではないので、ただの心境の表れかもしれない。
―言葉の中から異性が排除されている気がします。それは意識的なものですか?
柴田:全く意識してるつもりはないんですけどね。ただ、まず女の子に聴いてほしいという思いはあります。“女子高生やめたい”では、「午前0時」って言葉を使ってますけど、夜中の0時って男の子は絶対起きてないじゃないですか。深夜3時にこっちが募らせている想い、男の子にわかるのかなって(笑)。
―高校生の男の子って、そんなに寝るのが早いんですか?
柴田:体育会系の部活に入ってる男の子って、物思いにふけることあるんですかね? 「わーい! マック!」みたいな感じ(笑)。以前、悩んでいる顔をした男の子に「何考えてるの?」って訊いたら、「どっちのお菓子を買おうか悩んでる」って言われたことがあるんですよ。女の子は、朝辛いのに、わざわざ夜中に起きて、切ない時間に泣いちゃう、みたいないじらしさがあるけど、男の子っていじらしくないですよね。
―男子の気持ちの欠片すら導入されないから、意識的に排しているのかと思ってました。
柴田:大学に入ってから余計に男の子たちに対して「夜9時に寝てるやろ」って思うことが増えました。「毎日同じ行動パターンやん、大丈夫? つまんなくない?」みたいな(笑)。まあ、見えてないだけだとは思うんですけどね。女の子目線のことしかわからないから、意識してなくても女の子に向けてるように聴こえるのかもしれないです。
(卒業後は)たぶん就職するんじゃないかな。学校でも叩き込まれますしね、「安定が一番だぞ、就職できるチャンスは1回しかないぞ!」って。
―“さよなら王子様”のPVでは、チェーンソーを回してますね。なぜまたチェーンソーを?
柴田:かやなが急に「チェーンソーを持ったらいいんじゃないか」って言い始めたんです。「人の醜いところを全部まとめてチェーンソーでぶった切ってやろう」なんて話をして。私たちのことを、か弱くて「できなーい」とか言う女だって思われてるかもしれないけど、本当はこんなに狂気があるんだよ、っていう意味合いですね。
―以前のPVでも目隠ししたり、今回のPVでも体を紐で縛ったり、身体的に女性らしくあることを嫌がっている感じを受けましたけれど。
柴田:拘束感というのは一生感じていくはずだから、そうやって紐で縛ったり、目隠しして見えなくしたりとかしちゃうんですかね。
―「ガールズバンド」って言われると、ムカつきますか?
柴田:嫌ですね。言葉がダサいですよね。女であることを売りにしたくないのに、「ガールズ」と取り上げられると複雑です。私たち、ガールズバンドじゃなくて、「超絶無名バンド」ですから(笑)。それは四人のなかで一致しています。私たち、感性がすごく似ているせいで、仲良しすぎるんです。些細なことで喧嘩しますけど。
―「なんで既読スルーするの!」とか?
柴田:そうなんですよ。既読スルーされたら、「見た?」って電話しちゃいますから。かやなとはしょっちゅう衝突するんです。最後には「私のこと好きなの?」とか言われて、「う、うん……」って。
―カップルですね(笑)。
柴田:そんな感じです、本当に。だからどうしても「四人対世界」みたいになってくるんですよね。世界を敵に回すわけじゃないですけど、辛いこととかも四人で共有しているし、この四人だけは結束してるなと思います。
―でも、高校を卒業して、四人がバラバラになることを受け入れた。その理由を、以前のインタビューで「夢だけじゃ食べていけないから大学に入る」と言ってましたね。その冷静さ、驚きました。
柴田:テレビでリストラのニュースなんかを見ていると、職に対する貪欲さが出てきてしまうというか……1回仕事を辞めたら再就職が難しいんだろうなって思っちゃうんです。学校でもそうやって叩き込まれますしね、「安定が一番だぞ、就職できるチャンスは1回しかないぞ!」って。
―来年の3月には短大を卒業されるんですよね?
柴田:そうですね。たぶん就職するんじゃないかな……。まずは両立から始めなきゃって。音楽1本を決意できる人はすごいなと思います。
―メジャーデビューのタイミングだと、例えば「目指すは武道館!」なんて初々しい宣言もできるわけですが(笑)、そういう目標はないですか。
柴田:全く出来ないですね。まだまだ初心者バンドですから、もっとライブ経験を積まないと。今は周りに助けられっぱなしなので。メンバーの一人でも武道館の「ぶ」って言い出したら殴ります(笑)。もっと堅実に、慌てずにライブを楽しめるようになるところからですね。
- リリース情報
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- sympathy
『トランス状態』(CD) -
2015年7月15日(水)発売
価格:1,944円(税込)
NCS-100971. 女子高生やめたい
2. さよなら王子様
3. 紅茶
4. 有楽町線
5. 泣いちゃった
6. あの娘のプラネタリウム
- sympathy
- イベント情報
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- 『トランス状態 ON THE STAGE ~フライデーナイトはどうなっちゃうのー?!~』
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2015年8月21日(金)OPEN 18:00 / START 18:30
会場:大阪府 心斎橋 BIG CAT
料金:無料
- プロフィール
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- sympathy (しんぱしー)
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女の子4人でできている高知県産、超絶無名バンドsympathy。高校の部活の小さな部室から生まれ、初ライブのコンテストでたまたま優勝、地元のライブハウスでライブをしながらオリジナル曲を作り始め、かくかくしかじかを経て1st Mini Album「カーテンコールの街」を発表。絶賛遠距離中にもかかわらず、いつの間にやらレーベル・事務所と契約…!私たち一体どうなっちゃうのー!?今後の活動に注目!よそ見しないでね。「sympathyは“揺れるロック”を推進します。」
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