プロデューサーや作曲家としても活躍する「SiZK」によるソロプロジェクト、★STAR GUiTAR。これまで発表してきた作品は常にダンスチャートの上位にランクインしてきたが、先日リリースされた新作『Wherever I am』は、「★STAR GUiTAR=エレクトロ」というかつてのイメージを完全に覆す、文字通りの意欲作だ。そして、この作品にゲストとして参加しているのが、fox capture planの岸本亮。彼は、H ZETT MやSchroeder-Headz、世武裕子といったピアニストを多数迎えて制作された前作『Schrödinger's Scale』にも参加していたが、今回バンドとして★STAR GUiTARとのコラボを果たしている。共に1983年生まれの両者は、ジャンルの枝分かれが始まった1990年代に青春期を過ごし、共通のルーツを持つことから意気投合。また、それぞれのやり方で時代との距離を測り、CDセールスやiTunesのチャートで好成績を残していることも共通点だ。“The Curtain Rises feat. fox capture plan”は、1990年代と今の空気が混ざり合った、まさにこの組み合わせならではの1曲である。それでは、★STAR GUiTARと岸本に、それぞれの「立つ場所」について語ってもらおう。
前回(岸本と)一緒にやったとき、圧倒的に刺激になったし、ものすごい影響を受けたし、「音楽ってこんなことできるんだ」っていうぐらいびっくりしたんです。(★STAR GUiTAR)
―新作『Wherever I am』はこれまでの★STAR GUiTARのイメージを覆すチャレンジ精神に溢れた1枚だと言っていいと思います。そもそも制作にあたってどんな構想があったのでしょうか?
★STAR GUiTAR(以下、★STAR):MELTENくん(岸本のあだ名。岸本の別バンド「JABERLOOP」として活動する際の名義)の存在が、こういうアルバムになったひとつの要因でもあるんです。前回一緒にやったとき、圧倒的に刺激になったし、ものすごい影響を受けたし、「音楽ってこんなことできるんだ」っていうぐらいびっくりしたんです。前作で8人のピアニストとコラボをして、自分の中で溜まったアイデアがあったので、前作にプラスアルファする形で、自分一人でアウトプットしてみるのもいいのかなって。
―前作の経験が非常に大きかったと。
★STAR:たとえば具体的に言うと、MELTENくんをはじめ、みなさんループ(同じリズムやリフを繰り返す)をしないんですよ。そこで音楽的なレッスンを受けたというか、今まで自分になかったものを目の前で見せてくれて、「自分でもやってみよう」と思ったんです。なので、今回は自分がこれまで作ってきた作品と比べると、かなり音楽性が変わったと思います。
―そんな中で今回2組のみフィーチャリングでアーティストが参加していて(もう1組はLASTorder)、岸本さんのみが前作に引き続いての参加なわけですが、なぜ岸本さんに声をかけたのでしょうか?
★STAR:単純に、MELTENくんのピアノが大好きっていうのが大前提で……。
岸本:(微笑みながら頷く)
★STAR:(笑)。あと今回フィーチャリングをするのであれば、前作からアップデートしたかった。なのでMELTENくんとやるにしても、やり方を変えたかったんですよね。それで、何回か話をしているうちに、「じゃあ、fox capture planでやらない?」って提案してくれて。バンド丸ごとをフィーチャリングするってすごい面白そうだと思ったんです。
―岸本さんのピアノが大好きだっていうのは、何がポイントなのでしょう?
★STAR:ルーツがすごく似てるんだと思います。もともとfox capture planを好きで聴いていたんですけど、MASSIVE ATTACK(1991年デビュー、イギリス出身のユニット)の“Teardrop”をカバーしてたりするじゃないですか? 僕も“Teardrop”大好きなんで、「この人、僕と似てる気がする」と思ったんですよね。fox capture planはジャズロックなんだけど、自分が思うテクノ感とかループ感を持ちつつやってるので、相性もよさそうだなって。
これから先、1990年代の音楽がよりクラシック化していくんだろうなって思います。そうなるべきだと思うし。(岸本)
―お二人は時代との距離の取り方に似てる部分があるのかなって思うんですね。流行との距離をちゃんと測りつつ、その一歩先を提示する姿勢を持っているというか。fox capture planは先日1990年代ロックのカバーアルバム『COVERMIND』も出していますが、あれも今の1990年代リバイバル的な流れをいち早く提示した作品だったように思うんです。
★STAR:今回fox capture planとやった“The Curtain Rises”にしても、1990年代を意識しましたね。ピアノは思いっ切り1990年代っぽい感じなんだけど、リズムはフューチャーベースって呼ばれる新しい世代のクラブミュージックから引っ張ってきて、なおかつそれをバンドでやったらどうなるんだろうって。そうやって混ぜるのが面白いなっていつも思ってるんです。
岸本:デモを聴いたときに、まさに「こういうのやりたいけど、これはJABBERLOOPでもfox capture planでもできないかな」って思ってたような感じの曲だったので、やりたい音楽としてイメージしているものも近かったと思います。
★STAR:僕とMELTENくんは、アンテナの張り方が似てるのかもしれないですね。MELTENくんの話を聞いてていつも思うのが、自分のいる場所と関係ないところから刺激を受けてくるんですよ。「それを自分だったらどう変えるか」っていう考え方をしていて、そこは僕も似たようなところがあって。
岸本:fox capture planの他の二人も、新しいことをすぐに取り入れたいタイプの人たちだから、「こういうのいいよね」っていうと、すぐに乗っかってくるんです。
―『COVERMIND』自体、「今1990年代が来てる」と思ったからこそ、このタイミングでリリースをしたわけですよね?
岸本:そうですね。2000年代の曲のカバーだったら、「流行りの曲をやってるだけ」って見られ方をされるかもしれないですけど、若い世代の人は“Born Slippy”(UNDERWORLD)とか1990年代の曲を知らないかもしれない。でも、前知識がなくてもかっこいいと思って聴いてもらえるはずだし、リアルタイムで聴いてた人には、よりグッと来てもらえるかなって。
―1990年代の面白さって、どんな部分だと思いますか?
★STAR:高揚感があるんですよね。機材も発達の途中だったと思うんですけど、「この中でできる最高をやろう」ってスタンスが、結果的にものすごい自由を感じる。「不自由な中で最大限頑張った成果」みたいな、そういう熱が1990年代のものには詰まってるのかなって。
岸本:当時はいろんなジャンルができ始めて、枝分かれし始めた時期だけど、まだ『rockin’on』とかひとつの雑誌にいろんなジャンルのアーティストが載ってましたよね。UNDERWORLD、KORN、OASIS、BJORKとか、全然音楽性の違うアーティストなんだけど、ひとつの「洋楽」として括られて支持されてた時代だと思うんです。これから先、1990年代の音楽がよりクラシック化していくんだろうなって思います。そうなるべきだと思うし。
―“Born Slippy”なんてまさにクラシックになっていく曲だと思うし、言ってみれば、THE CHEMICAL BROTHERSの“STAR GUITAR”(★STAR GUiTARの名前の由来となっている曲)もそういう曲でしょうね。
★STAR:それだけはカバーしないで、俺のために取っておいてね(笑)。
(1990年代は)ジャンルがいっぱい出てきたという背景もあって、その中から面白いものを探し当てるのがすごく楽しかった。そういう意味では恵まれてたのかもしれないですね。(★STAR GUiTAR)
―★STAR GUiTARさんはSiZK名義でJ-POP系のアーティスト(西野カナ、BENNIE Kなど)のプロデュースや作曲を手掛けられていますが、そういうときは時代との距離を意識されますか?
★STAR:僕はどちらかというと主張の強い作家だと思うんですけど、そのときどきで自分が面白いと思うものを取捨選択して、それをどう噛み砕くかということを考えて作ってますね。
岸本:今回、彼からいろんなものを教えてもらったんです。フューチャーベースもそうだし、最近EDMのクリエイターが15年前ぐらいの2ステップ(1990年代後半にヨーロッパを中心に流行った、ハウスから派生したジャンル)っぽいのをやってることとか。
★STAR:僕の中では2ステップっていうとARTFUL DODGER(イギリス出身のユニット)で、その感じと今のハウスが混ざってる音が出てきていて、それが面白いんですよ。
―昔って、音楽のサイクルは20年周期って言われてたじゃないですか? でも、今って情報のスピードが速くなって、その周期が15年くらいになってる気がするんですよね。なので、まさに2000年前後の感じって今聴くとジャストだったりする。
岸本:うん、当時の音楽って今聴いてもかっこいいですよね。
★STAR:超かっこいい。あの当時が一番音楽を探してた時期でもあったんですよね。さっきMELTENくんが言ってたように、ジャンルがいっぱい出てきたという背景もあって、その中から面白いものを探し当てるのがすごく楽しかった。そういう意味では恵まれてたのかもしれないですね。
―今だとShazam(音楽認識アプリ)とか使えば当時よりも簡単に音楽を探せるわけですけど、でも便利だとかえってやらなかったりしますよね。
★STAR:そうなんですよね。あると逆にしなくなるというか、いつでもできると思うと、結局いつまで経ってもやらない。当時は「俺が見つけた感」みたいなのがよかったんでしょうね。
時代性を反映させることは常に考えてるんです。貪欲に新しい要素を取り入れても、自分たちのアイデンティティーは崩れないっていう自信があるから。(岸本)
―ダンスミュージックの流れということで言うと、前作は「EDMとピアノの融合」というのがひとつのテーマとしてあったかと思うのですが、今回は何か意識したポイントはありましたか?
★STAR:『Schrödinger's Scale』を作る前までは、「EDMの流れに対抗したい」みたいな気持ちがあったんですけど、今はほぼ関係ないっていうか、ざっくりした言い方をすると、「いい曲を作る」ってことだけにフォーカスしてます。そうじゃなかったら、“Be The Change You Wish”みたいな曲は作ってないと思うんですよ。今回ダンスミュージックの一番大きな定義であるループをほとんど使ってなくて、どんどん展開してみるっていうのがテーマだったんです。なので、EDMに対してどうこうとかは一切なく、「僕は僕なりの消化をした結果、ここにいます」っていう感じですね。
―なるほど。
★STAR:『Wherever I am』っていうタイトルは、ある意味自分に向けた言葉なんです。今回はこれまでの★STAR GUiTARとは全然違うから、今までのを聴いてくれてた人にはびっくりされると思うんですけど、自分が作ったものが自分の音楽であることは間違いないので、「どこにいても自分だよ」っていう。
―岸本さんもJABBERLOOPとfox capture planを並行させつつ、「どこにいても自分」っていう感覚があるのではないかと思うのですが。
岸本:時代性を反映させることは常に考えてるんですけど、なぜそう考えるかというと、もともと僕もバンドのメンバーも、作る曲にすごく人間性が出る人たちばっかりなんですよね。なので、貪欲に新しい要素を取り入れても、自分たちのアイデンティティーは崩れないっていう自信がある。あと、歌ものに対抗したいって気持ちはありますね。「ピアノでこういう曲調ができるんだ」ってリスナーの人に思わせられるのが、インストの強みかなって。
―岸本さんがfox capture planを始めたのも、当初はかなり大きな挑戦だったわけですよね。
岸本:いや、むしろ僕はそういうことをするのがワクワクして仕方ないんです。
★STAR:こういうところ、羨ましいなって思うんですよね(笑)。
岸本:方向転換をしたとしても、「これをやったらがっかりされるな」っていうことと、「これやったら逆にファンの人喜んでくれるだろう」っていうのがなんとなくわかるので、その上でいい意味で期待を裏切ることが好きなんですよね。
★STAR:僕はできる限り変わりたくないと思ってたんですよ。地味に地味に、少しずつ変わっていって、気がつけば結構変わってるっていうのが一番好き(笑)。だから、今回の変化は自分にとってかなりの冒険なんです。MELTENくん含めいろんな人に出会って、ビンタされて気づかされたというか、「こんな新しくて面白いことがあるんだぞ」っていうのを教えてもらえた。そういう出会いがなかったら、ここまで変わることはなかったと思いますね。
★STAR GUiTARって、正しい成長の仕方をしていたら、EDMをやるアーティストになっていたと思うんですよ。(★STAR GUiTAR)
―お二人ともいろんな音楽性にチャレンジしてきた中で、30歳を過ぎたぐらいになると、「自分のやりたいこととやるべきことが見えてきた」という言い方もできるのかなと思うのですが、いかがでしょうか?
岸本:僕は好きなことをやってるだけなので、すごく楽しいですよ。ただ、使命感みたいなものはあるかな。
―使命感、というと?
岸本:自分はジャズやクラブジャズ出身なんですけど、周りにはもっと光が当たるべきミュージシャンがたくさんいると思っていて、自分が先頭に立つことで、もっと間口を広げていきたいと思ってるんです。自分で言うのもなんですけど、自分が作る曲にはそういう力があると思うので、それを武器にして、ロック、ジャズ、ダンスミュージックという縛りを突き抜けていくような活動をしていきたいですね。
★STAR:★STAR GUiTARって、正しい成長の仕方をしていたら、EDMをやるアーティストになっていたと思うんですよ。初期の音楽性から考えても、もっとトレンドとか流行りを上手く取り入れてたら、『ULTRA JAPAN』に出てたかもしれない(笑)。でも、今の自分は、クラブミュージックのシーンにもいるし、ジャズとかバンドのシーンに近いところにもいて、あんまりこういう人っていないと思うんですよね。自分から孤高になる必要はないけど、自分で築き上げてきた立ち位置だと思うので、それには誇りを持ってますね。この先も、単純に自分がかっこいいと思うものを貫いてやっていきたい。その芯はぶれないようにしたいですね。
岸本:そう、周りだけを見てると、「その中でどう見られたいか」を考えてしまうんですよ。メインストリームでどういうものが支持されてるか、作り手としてはちゃんと知る必要があると思う。でも、その上で逆を選ぶのも全然アリ。
―★STAR GUiTARにしろfox capture planにしろ、ちゃんとCDの売り上げで結果が出ているし、iTunesでも上位にいることが多い。それはやっぱりコアな音楽ファンだけじゃなくて、ライトリスナーも含めた幅広い層に届いているということで、つまりは取り入れるにしろ、取り入れないにしろ、ちゃんと時代を掴んでるってことだと思うんですよね。
岸本:1990年代が枝分かれを始めた時期だって話をしましたけど、これからもっと複雑化していくからこそ、いろんなジャンルを繋いでいく音楽を作らないと、若い世代には響かないんじゃないかなって思うんですよね。特に10代の大学生とかから支持されるようにならなきゃいけない。彼らの口コミ力はすごいですからね(笑)。
★STAR:できることなら、そういう層に所有欲を持たせたいです。「★STAR GUiTARのCDを持っている」ということがステータスになる、って思わせることができれば一番だと思うので。
岸本:憧れられる大人になりたいなあ。
★STAR:そうだね(笑)。
岸本:僕が20歳ぐらいの頃って、クラブジャズ系だとSOIL&"PIMP"SESSIONSとかJazztronikって雲の上の存在だったんですけど、そういう憧れの対象に自分もなれたらなって思いますね。若い子に目標とされる存在、「★STAR GUiTARさんとMELTENさん、やっぱ半端ねえ」みたいな(笑)。「あの曲を聴いて、僕らも曲作り始めたんですよ」とかね。
★STAR:自分がきっかけになって音楽を始めて、何年後かにその人がプロになってたりしたら、ホントに嬉しいですよね。僕まだお会いしたことないんですけど、いつか小室(哲哉)さんに言ってみたいです。「あなたのおかげで僕は音楽を始めて、今ここに立っています」って。
- リリース情報
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- ★STAR GUiTAR
『Wherever I am』(CD) -
2015年8月5日(水)発売
価格:2,160円(税込)
CSMC-0251. Everyday is a new day
2. Be The Change You Wish
3. The Curtain Rises feat. fox capture plan
4. Journey to Nothing
5. I Spell You
6. detour feat. LASTorder
7. One more thing
8. knowledge
9. Mind Float
10. before dark
11. inherit
- ★STAR GUiTAR
- プロフィール
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- ★STAR GUiTAR (すたー ぎたー)
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プロデューサー / アレンジャーのSiZKによるソロプロジェクト。2010年8月にリリースされた、デジタルデビューシングルでiTunesダンスチャート2位獲得して以降、リリースする作品はどれもiTunesチャート上位を独占。2014年リリースの『Schrodinger’s Scale』は、CD不況と言われる中、1万枚を超えるセールスを記録し、シーンにその存在感を知らしめた。そして2015年8月、★STAR GUiTARの新章の幕開けとなる、4thアルバム『Wherever I am』をリリース。
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- fox capture plan(ふぉっくす きゃぷちゃー ぷらん)
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「現代版ジャズロック」をコンセプトとした情熱的かつクールで新感覚なピアノトリオサウンドを目指し、JABBERLOOPの岸本亮(Pf)、Immigrant’s Bossa Bandのカワイヒデヒロ(Ba)、nhhmbaseの井上司(Dr)の三人が集まり2011年に結成。2013年5月にデビュー作『trinity』をリリース。同年12月には『BRIDGE』をリリースし、『第6回CDショップ大賞2014』ジャズ部門賞を受賞。翌14年には『WALL』をリリース、タワーレコードジャズ年間セールスチャートの2位に輝く。2015年に3枚のアルバムをリリースすることを宣言し、4月にはミニアルバム『UNDERGROUND』を発売、7月には洋楽カバーアルバム『COVERMIND』をリリース。
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