THE BACK HORNというバンドは、これまで常に「生と死」を描き続けてきた。昨年12月に再現ライブが行われた3rdアルバム『イキルサイノウ』(2003年)にしろ、大きな話題を呼んだ映画『光の音色』にしろ、1年半ぶりのニューシングル『悪人 / その先へ』にしろ、その根本にある姿勢自体に変化はない。しかし、時代が進んでいく中で、その描き方は少しずつ変化をしている。
『イキルサイノウ』に“未来”という名曲が収められていたように、「生と死」を見つめるということは、「未来」へと思いを馳せることにもつながる。そこで今回はバンドのギタリストでありメインのソングライターである菅波栄純を迎え、「生と死、そして未来」について、その描き方の変遷をじっくりと語ってもらった。いやはや、やはりこの人は面白い。
自分としては「人間は矛盾してないと気持ち悪い」ぐらいに思ってる。
―今年の夏はスガシカオさんと菅波さんのコラボレーションが話題になりましたね。もともとどういった経緯で実現したものだったのでしょうか?
菅波:自分の事務所にいた人がスガさんのチームに入って、「スガさんのバンドのギタリストにいいんじゃないか?」って俺のことを紹介してくれたのが始まりです。とはいえやってる音楽も違うから、何もないだろうと思ってたら、「スタジオ入ってみようか」って言ってもらって。自分でも意外でしたけど、話してみると共感するところが結構あって、近からず遠からずだったのかなって気もして。
―どんなところで共感したんですか?
菅波:スガさんは歌詞を書くとき、曲の中の主人公になり切って、その世界に完全に入り込んで一気に書くそうなんです。俺はもう少し出たり入ったりを繰り返すタイプなんですけど、曲の世界に入り込んで狩りをしてくる感覚というのは俺も持ってて、そういう人とはあんまり会ったことなかったから、すごくシンパシーを感じたんです。
―確かにスガさんは入り込んで書く人だから、客観的に見ると話の辻褄があってなかったりしますよね。でも、「自分の歌詞はそういうもの」っていうスタンスで、それが魅力になっている。
菅波:そういう書き方だと、ちょっと複雑な感情が残るのがいいですよね。客観的に調整していけば、「これは悲しい曲」「これは怒ってる曲」みたいにひとつの感情に話を寄せていくことは簡単なんですけど、スガさんの歌詞はそうじゃない。1曲の中に、エロい気持ちと、めちゃくちゃピュアな気持ちがどっちもあったりする。自分としては「人間は矛盾してないと気持ち悪い」ぐらいに思ってるから、そうやって複雑な感情が残ってる歌詞の方が好きで、今回の“悪人”もそうなってると思うんです。
歌詞入り、音声なしの「サイレント映像」
―曲の頭と最後だと全然違う感情になってますね。
菅波:人間の感情は常に揺れてるはずだと思うんです。最初書き始めたときは、「自分はきっと悪人だ」っていう話の流れのまま完結する可能性もあったとは思うんですけど、やっぱりそれだとちょっと気持ち悪い。だから最初の方は観念的で、頭で考えてるんだけど、最終的には「あのとき『ごめんね』じゃなくて、『ありがとう』って言えばよかった」っていう後悔の念、つまり感情が出てくる。この着地点がすごく人間っぽいと思って、そこでやっとこの曲が完成したんです。
<幕があがる度 逃げ出したくなるんだ>っていうフレーズは俺の人間臭い部分なんですけど、未だにライブの前ってすごい緊張するんですよ。
―THE BACK HORNの楽曲にはこれまでずっと「生と死」がテーマとしてあったと思うんですね。今回のシングルにしても、言ってみれば“悪人”は「死」の曲で、“その先へ”は「生」の曲だと思うんです。
菅波:土台はやっぱりそこですね。あとは「人間臭さ」も重要で、生と死という根本となるテーマも、歌詞の中にちゃんと「人間臭さ」があることで、リアリティーが出てくる。そこまで行ったときに、自分の中で完成だと思えるんです。例えば“その先へ”はTHE BACK HORNの自伝的なところから始まっていて、リハスタの喫煙所で誰かの悪口を言ってるシーンっていうのはバンドマンあるあるなんですけど(笑)、でもこういう嫉妬と葛藤が渦巻くような空間って、きっと他の職種にもありますよね。
―そういう人間臭い箇所があることで、聴く人も自分ゴト化できる。
菅波:そうです。あと<幕があがる度 逃げ出したくなるんだ>っていうフレーズは俺の人間臭い部分なんですけど、未だにライブの前ってすごい緊張するんですよ。ステージ横にいて、マネージャーに「(入場用の)SEかけます」って言われる瞬間が緊張のピーク(笑)。
―意外です(笑)。
菅波:自分は曲を作ってステージに立つことしかやってこなかったから、もしそこで失敗してしまったら、自分の存在すら脅かされるんじゃないかと思っちゃって、未だにビビるんですよね。俺がステージに駈け出してくるのは、自分で勢いをつけてるんです。
昔は「世界が破滅に向かったとき、俺ならこうする」みたいな話で盛り上がったけど、今はあんまり盛り上がらない。だって、ホントに向かってるんだもんっていう。
―THE BACK HORNがずっと描いてきた「生と死」について、もう少し深く訊かせてください。昨年再現ライブをした3rdアルバム『イキルサイノウ』でも文字通り「生と死」を描いていたわけですが、あの作品を作ってから10年以上が経って、今は「生と死」の描き方が変わってきたようにも思うんです。ご自身ではその変化をどう感じていらっしゃいますか?
菅波:そうですね……昔は盛り上がった話が、今話すと盛り上がらないことってあると思うんですね。例えば『風の谷のナウシカ』(漫画は1982年連載スタート)を宮崎駿さんが作ったのは、当時の世の中に対する警鐘で、「このまま行くと、こういう世界になっちゃうよ」っていうことを描いていた。でも、「今あの作品を作っても、きっと世の中には響かないだろう」って、ちょっと前にご本人が言ってたんです。今はもう警鐘を鳴らさなくても、誰もが何となくヤバさをわかってるからだって。
―『風の谷のナウシカ』の世界を覆っていた死の影が、今ではリアリティーを持ってきてしまったと。
菅波:だから、昔は「世界が破滅に向かったとき、俺ならこうする」みたいな話で盛り上がったけど、今はあんまり盛り上がらない。だって、ホントに向かってるんだもん。なので、直接的に生き死にをワードとして出すことがなくなったかもしれないです。その中間地点というか、大きいストーリーよりも、身近なことだけど深いと思える出来事に目が行くようになりましたね。
―“その先へ”の喫煙所の話なんかはまさにそういう出来事ですよね。身近なんだけど、掘り下げていけば人間の本質的な部分が見えてくるというか。
菅波:そうそう、物語の円の範囲は身近な方がグッと来るようになってますね。昔は壮大であればあるほど興奮して、宇宙のすべてを記録してると言われるアカシックレコードの話とかを夜通ししてたんですけど(笑)。
―前の取材のときはノストラダムスの大予言の話もしましたよね(笑)。
菅波:ひとつ自分の中で大きかった出来事が前にあって、仲のいいバンドと道端で酒を飲んでたときに、酔っぱらったサラリーマンのおっさんたちが通りかかって、売り言葉に買い言葉で喧嘩になっちゃったんですよ。でも、その後「飲み直しましょう」って話になって、一緒に飲んだんです。それで「お前らどんな曲作ってんの?」って言うから、「生と死をテーマにしてます」って言ったら、「そんな当たり前のテーマ歌ってどうすんだ?」って言われて、また喧嘩になって(笑)。
―(笑)。
菅波:でも、改めてそのおっさんたちの話を聞くと、仕事がめちゃめちゃ大変で、生と死を達観して考えてる暇もないって感じなんですよね。そのときのことは結構心に残ってて、生と死をテーマに作品を作りたいっていうのは変わらないけど、それを作品にするときの編集の仕方はいろいろあるなって思ったんです。そう思いながら作り続けて、編集する腕に関しては、当時より今の方が冴えてると思うんですけど。
―直接的な言葉を使わなくても、それを表現することが可能になったと。
菅波:そうですね。THE BACK HORNのカタログはもういっぱいあるから、作品によって生と死の濃度が違ったり、直接的な言い回しを使ってたり使ってなかったりして、自分にフィットする1枚っていうのが誰にでも必ずあるんじゃないかと思ってます。そうやってキャリアを重ねてきて、今回のシングルでまたひとつ、今自分たちが感じるリアルな生と死の話を書けた気がします。
むしろ若い人の方が先生ですよね。こんなおっさんみたいな話をすることになるとは思わなかったけど(笑)。
―『イキルサイノウ』には“未来”が収録されていて、<今歩き出す 鮮やかな未来>と歌われていました。「生と死」の描き方が変わってきたように、「未来」というワードの響き方も変わってきたように思うのですが、今「未来」を歌うとしたら、どんな内容になると思いますか?
菅波:難しいですね……「未来」とか「FUTURE」って、常に社会に出回ってるじゃないですか? インターネットとかスマートフォンのCMで「未来へ共に行こう」みたいに使われてて、広告の世界の人たちに言われちゃうと、こっちの立場ではちょっと使いづらくなっちゃうんですよね。「自由」ってワードもそのせめぎ合いがあって、今経済でも「新自由主義」とか言うから、そういうのと一緒にされちゃうと、薄っぺらい感じになっちゃう。
―確かに、広告とかキャッチフレーズっぽくなっちゃうかも。
菅波:あと今「みんなそんな未来に期待してるのかな?」っていうのもあって、「今を楽しめばいいじゃん」と思ってる人の方が多いんじゃないかなと思うんです。だからこそ、市場は「未来へ共に行こう」って言うわけですよね。そうなると、俺らのようなある種アウトサイダーな立場から何を言うかって、やっぱり身近な中に潜む生きてる実感とか、死の匂いかなって。
―菅波さん自身も未来に対する過度な期待は持っていない?
菅波:あ、でも僕は50年後くらいになれば面白そうだなって思ってるんです。今と世代が丸っきり変わることによって、きっと新しい感覚になってると思うから。テレビで若い役者さんの演技とかを見ると、上の年代の人とは絶対違う感覚で演技をしてるんだろうなって思うんです。それはバンドマンにしてもそうで、違う感覚で演奏する人が増えて、それが主流になれば、自分が想像するよりも面白い未来になってるんじゃないかって期待はしてます。
―50年後か……結構先ですね(笑)。
菅波:50年後って、俺85歳ですけど、でもまだ行けると思うんですよ。SFチックな話になりますけど、50年あれば医学も相当進歩するだろうから、体が病気にかかっても、俺の意識だけでも残せる時代になってるかもしれない。そういうのも想像はしますね(笑)。
―まあ、今から50年後なんて、ホントにどうなってるかわからないですよね。だからこそ、その「わからない」っていうのを楽しむことが重要なのかなって。
菅波:それがこれからの人生で最重要になってくる気がしますね。どうしても、理解できることって減っていくとは思うんですよ。そのときに「わからないから受け入れない」になっちゃうと、生きててつまらないと思うので、「わからないから面白い」っていうのはすごくいいですよね。俺は10代のミュージシャンから何か盗めないかっていつも思っていて、それは若い人がその時代を生きるための生存戦略を無意識にやってると思うからなんです。30代も半ばになると、過去の栄光を引きずりつつ、新しいものが理解できなくなって混乱してくるけど、若い人の態度を吸収すれば、自分が新しい時代を生きていく力になる。なので、むしろ若い人の方が先生ですよね。こんなおっさんみたいな話をすることになるとは思わなかったけど(笑)。
「感覚」を生け捕りにしたいんです。そうじゃないと、自分っていう作家はダメになるなって。
―菅波さんの未来に対する展望をもう少し聞いてみたくなったのですが。
菅波:あくまで感覚的な話ですけど、これまで以上にアート作品を若い人が面白がる時代が来ると思うんですよね。これは自分の考えですが、俺らの世代、特にバンドマンはアーティスト(表現者)なのか、アーチザン(職人)なのか、葛藤があった世代なのかなと思っていて。俺は美術館に行くのも好きなんですけど、現代アートってパッと見てもよくわからないものもあるじゃないですか? 太いパイプが1個置いてあって、「宇宙です」みたいな(笑)。
―極端に言うと、そうですね(笑)。
菅波:そういうのを、これからの人は俺らの世代より楽しめると思うんですよ。江戸時代の浮世絵って、当時の日本人はアートという認識がなかったけど、海外の人がそれに興奮したことで、「そうそう、浮世絵はアートなんです」って変化していった。つまり、日本人がアートを意識するようになったのって、海外に比べてすごく遅いんです。今はインターネットがあるから、いろんなものに触れることができて、日本人のアート感覚が急速に発達してると思う。若い人と話すと、視覚的な情報を得る力が高くなってると感じるんですよ。そういう流れで、日本発の若者によるアートムーブメントが来るんじゃないかって、結構期待してます。
―なるほどなあ。
菅波:そういう意味では、市場がけん引する「FUTURE」に引っ張られようが、引っ張られまいが、面白い「FUTURE」が待ってる気はします。自分たちが勝手に面白いものを作って遊んでるような未来というか。未来を建設的に積み上げていかなきゃいけない時代は終わって、同時多発的に面白いやつがポンポン現れて、みんなそれぞれ勝手にやってるんだけど、でもネットワークでつながってるみたいな、そういう未来が来るんじゃないかな。
―では、そういう未来の中で、THE BACK HORNとしてはどう活動していきますか?
菅波:自分はそこに一緒に入って遊びたいですね。遊んでないとわからなくなる気はするんです。SNSでも何でも。
―菅波さん最近、Vineでめっちゃ遊んでますもんね(笑)。
菅波:そうそう、変に「遊んじゃいけない」みたいな世の中になっていくのは嫌なんですよ。「大人の遊び」ってジャンルもあって、葉巻とかゴルフをプレゼンテーションされますけど、それはそれで楽しめばいいと思うんです。ただ、自分が初めて曲を作ったときのような感覚、泥の中に飛び込んで、そこから掴んでいくような遊び方もしなくしちゃダメだなって。自分はそういう作曲家だと思うんです。ジャーナリストっていうほどメッセージを強く打ち出したいわけじゃないけど、中に入って行く人ではありたい。
―ドキュメントをするという感じでしょうか。
菅波:そう、「感覚」を生け捕りにしたいんです。そうじゃないと、自分っていう作家はダメになるなって。これまでの曲は全部その積み重ねで、良くも悪くも時代と寝てる……って言うほど売れてないけど(笑)。でも、その時代の空気をいっぱい吸って、「感覚」を捕まえて、吐き出してる曲たちだと思います。だから自分がなりたくないのは、打ち上げで誰にも絡まず端っこで飲んでる人なんですよ。そもそも打ち上げ自体あんまり行かないんですけど(笑)、打ち上げっていうのが世の中だとしたら、そこにちゃんと絡んでいきたいんですよね。
- リリース情報
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- THE BACK HORN
『悪人 / その先へ』初回限定盤(CD+DVD) -
2015年9月2日(水)発売
価格:2,160円(税込)
VIZL-858[CD]
1. 悪人
2. その先へ
3. 路地裏のメビウスリング
[DVD]
『「イキルサイノウ」完全再現ライブ from マニアックヘブンVol.8』
1. 惑星メランコリー
2. 光の結晶
3. 孤独な戦場
4. 幸福な亡骸
5. 花びら
6. プラトニックファズ
7. 生命線
8. 羽根~夜空を越えて~
9. 赤眼の路上
10. ジョーカー
11. 未来
- THE BACK HORN
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- THE BACK HORN
『悪人 / その先へ』通常盤(CD) -
2015年9月2日(水)発売
価格:1,296円(税込)
VICL-370901. 悪人
2. その先へ
3. 路地裏のメビウスリング
- THE BACK HORN
- イベント情報
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- 『「KYO-MEI対バンツアー」~命を叫ぶ夜~』
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2015年10月2日(金)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:宮城県 仙台 Rensa
出演:
THE BACK HORN
THE BAWDIES2015年10月4日(日)OPEN 17:30 / START 18:00
会場:北海道 札幌 PENNYLANE24
出演:
THE BACK HORN
アルカラ2015年10月10日(土)OPEN 17:00 / START 18:00
会場:広島県 広島CLUB QUATTRO
出演:
THE BACK HORN
キュウソネコカミ2015年10月11日(日)OPEN 17:00 / START 18:00
会場:福岡県 DRUM LOGOS
出演:
THE BACK HORN
ACIDMAN2015年10月23日(金)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:大阪府 なんばHatch
出演:
THE BACK HORN
MUCC2015年10月24日(土)OPEN 17:00 / START 18:00
会場:愛知県 名古屋 ダイアモンドホール
出演:
THE BACK HORN
UNISON SQUARE GARDEN2015年10月30日(金)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:東京都 お台場 Zepp Tokyo
出演:
THE BACK HORN
ストレイテナー料金:各公演 前売4,000円(ドリンク別)
- プロフィール
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- THE BACK HORN (ざ ばっく ほーん)
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山田将司(Vo)、菅波栄純(Gt)、岡峰光舟(Ba)、松田晋二(Dr)の4人より、1998年に結成。“KYO-MEI”という言葉をテーマに、聞く人の心をふるわせる音楽を届けていくというバンドの意思を掲げている。黒沢清監督映画『アカルイミライ』(2003年)をはじめ、紀里谷和明監督映画『CASSHERN』(2004年)、乙一原作『ZOO』(2005年)、アニメ『機動戦士ガンダム00』(2007年)、水島精二監督映画『機動戦士ガンダム00 -A wakening of the trailblazer-』(2010年)など、そのオリジナリティー溢れる楽曲の世界観から映像作品やクリエイターとのコラボレーションも多数。2014年、10枚目となるニューアルバム『暁のファンファーレ』をリリース。秋には、熊切和嘉監督とタッグを組み制作した映画『光の音色 –THE BACK HORN Film-』が全国ロードショーとなった。2015年9月2日(水)に通算23作目となる両A面シングル『悪人/その先へ』を発売、10月には8年振りとなる対バンツアー「KYO-MEI対バンツアー」~命を叫ぶ夜~ を7都市で開催する。
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