昨年12月にシングル『オオカミハート』でデビューを果たした男女ユニットORESAMAが1stアルバム『oresama』を発表する。今年1年はじっくり制作とライブに取り組みながら、小島英也はDAOKOや吉澤嘉代子への楽曲提供も手掛けるなど、作曲家としても着実に成長。そんな中で完成した、ファーストにして堂々のセルフタイトル作は、ファンクやディスコをベースとした小島のトラックに、キュートでポップなぽんの歌声が乗り、1980年代風のキービジュアルさながらにカラフルな世界を展開する、期待通りの仕上がりとなっている。
しかし、その一方では、やや内省的な歌詞や曲調も目を引き、これは同じ渋谷の2.5Dを活動の拠点とするDAOKOにも通じるもの。果たして、このせつなさはどこから生まれるものなのか? 渋谷女子の本音を、こっそり訊き出してみた。
今まで使ってなかった脳みその変な部分をたくさん使った1年でした。(小島)
―去年の12月に『オオカミハート』でデビューしてから約1年が経ちました。まずは2015年を振り返っていただけますか?
小島(Gt,Program,作曲):僕にとっては、音楽に対する考え方がガラッと変わった1年でした。人生でこんなに音楽と向き合ったことはなかったし、それが楽しくもしんどくもある1年を過ごしましたね。今まで使ってなかった脳みその変な部分をたくさん使ったというか。
―それってどんな部分ですか?
小島:第三者的な視点で見るということですね。「リスナーが自分の曲を聴いてどう思うか」というのは、メジャーデビューするまではほとんど考えてこなかったので、そこをより深く掘り下げるのに頭を使いました。作った曲を一歩引いたところから見てみて、「ここはもっとこうした方が伝わるかも」とか、推敲するような作業が増えましたね。
―DAOKOさんをはじめ、楽曲提供の機会も増えてきましたし、そこでも第三者的な視点って必要ですよね。
小島:そうですね。提供となると、相手のアーティスト性を大きく崩すことはしちゃいけないと思うので、そういう意味でもより人のことを考えて音楽を作る機会は増えました。
―ぽんちゃんにとってはどんな1年でしたか?
ぽん(Vo,作詞):試行錯誤の1年だったと思っていて、特にライブがそうでした。ダンサーをつけてみたり、衣装と髪型を変えたり、VJも最初は自分で映像を作ってたんですけど、他の人にお願いしたり、あとはサポートベースを入れたりとか、どうやったら一番いい形でORESAMAのライブが見せられるかをみんなで考えた1年でしたね。
―2人組だと自由度が高いから、何でもできちゃう分、逆に試行錯誤も多いでしょうね。具体的には、ライブに関してどんな意識の変化がありましたか?
ぽん:最初は歌うことでいっぱいいっぱいだったんですけど、今はお客さんの顔も見られるようになって、もっと楽しませたいというか、エンターテイメントとして見せたいという気持ちがすごく強くなりました。今年はいろんなライブを観に行ったんですけど、ONIGAWARAさんのライブがめっちゃ楽しかったんです。成人男性なのにアイドル的な扱いを受けていて、お客さんもペンライトとか振っていると、ホントに二人がアイドルに見えてくるっていう(笑)。
―あと、ぽんちゃんはTwitterにイラストを投稿したりもしてましたよね。美大出身だけに単純に上手だなって思う一方で、ORESAMAのポップな1980年代風のビジュアルとは違う、ちょっとダークなテイストだったのが印象的で。
ぽん:エドワード・ゴーリーの『うろんな客』(アメリカで1957年に刊行された大人向け絵本)を読んで、線画にハマったんですよ。エドワード・ゴーリーは残酷な絵本が多いんですけど、「かわいいけど怖い」みたいな世界観が昔から好きなんです。子供の頃はエリック・カールの『パパ、お月さまとって!』(1986年刊行)とか『はらぺこあおむし』(1969年刊行)も好きだったし、ああいうちょっとシュールな、かわいいだけじゃないのが基本的に好きなんですよね。
E-girlsの“Dance Dance Dance”が、今の日本におけるディスコやファンクの流れの頂点じゃないかと思ってるんです。(小島)
―前回取材をさせてもらったときに、「ポップであることを貫きつつも、トレンドにもちゃんと目配せをして、柔軟に取り入れたい」という話をしてくれたと思うんですね。実際、2015年のトレンドをどう見ていましたか?
小島:僕はもともとファンクとかディスコが好きなんですけど、今年E-girlsが出した“Dance Dance Dance”が、今の日本におけるあの流れの頂点なんじゃないかと思っています。そこを考慮すると、今の僕らのサウンドはまだ戦えるかなって思ったんですよね。『oresama』には1年前にレコーディングした古い曲もあるから、アレンジを変えたくてウズウズした部分もあったのですが、今はまだEDMもランクの高いところにいるし、4つ打ちもへたってはいないから、このままでも十分に戦えるなと。
―“Dance Dance Dance”に対して、どこがすごいと思ったんですか?
小島:あの曲はディスコなんですけど、EDM的なドラムの力強さが完全にマッチしてるんですよね。あれをDJじゃなくてアイドル要素を備えた方たちが歌ってるということに、日本の今のシーンが凝縮されている気がしましたね。
―確かに、J-POPのど真ん中の人があれをやってることの意味は大きいですよね。ぽんちゃんは今年の1曲を挙げるとすると何になりますか?
ぽん:やっぱりONIGAWARAさんの“エビバディOK?”ですね。<起きたくもないのに朝が来て>という歌詞を聴きながら、朝に化粧をするのが好きなんです(笑)。ONIGAWARAさんの歌って楽しいんですけど、最終的には「でも僕は君が好き」とか「君に好きって言いたい」とか歌っていて、そこを聴いてキュンとするんですよね。私もそういう歌詞が書けたらいいなって思います。
―『oresama』に入っている“Morning Call”は通じる部分ありますよね。<目覚ましのベルが鳴り響く部屋で><早く綺麗をつくらなくちゃ>って歌詞もあるし。
ぽん:ああ、そうかもしれないです! これはネガティブな部分が一切ない、「女の子頑張れ!」って奮い立たせる曲ですね。
―アルバムを聴いて、ぽんちゃんの歌詞は陰と陽がはっきりしてるなと思いました。
ぽん:明るい曲調だと恋愛ファンタジーとかになるんですけど、ローテンポの落ち着いた曲だと自分に密接な歌詞になることが多くて、確かに今回はその二面がはっきり出てると思います。
直接的に「私弱いんです」って言える女子はあんまりいないけど、ホントはみんな弱いんですよ。(ぽん)
―今日の最初に話してもらった今年1年の意識の変化が明確に反映されている曲を挙げるとすれば、どの曲になりますか?
小島:僕は“オオカミハート”ですね。アニメのエンディングだったので、映像を壊さないようにということも考えなきゃいけなかったし、アニソン好きの人にも伝わるメロディーや盛り上げ方にする必要があったので、これが一番難産でした。みんなの意見をたくさん聞きながら、徐々にブラッシュアップしていった感じです。例えば、イントロでギターを歪ませたソロがあるんですけど、もともとはギターを歪ませることがすごく嫌いだったんですよ。
―ディスコやファンクってなると、クリーントーンのカッティングですもんね。
小島:「なんで歪ませるの?」って側の人間でしたね(笑)。そこで殻を破れたというか、アニメの映像と何が合うかを考えたときに、歪ませたギターソロが浮かんで、「これはもうやっちゃうか」って。そこから柔軟にギターの音を作れるようになったので、そういう意味ではすごく助かりました。
―ぽんちゃんの意識の変化が表れているのは、どの曲になりますか?
ぽん:“迷子のババロア”ですね。これまでせつない歌詞ってあんまりなかったのですが、曲を聴いて、渋谷を歩いてるときの寂しさがワッと降りてきたんです。
―「渋谷を歩いてるときの寂しさ」というと?
ぽん:こんなに人がいるのに誰も私が見えてないような感じがするというか、私に興味を持ってる人がいないように感じて、すごく寂しくなるときがあるんです。そういう中を歩いていて、ちょっと肩がぶつかったりすると、その度に心がそがれていくというか、殺されるような気がして。そうやって心がそがれていくなら、このいっぱいの人の中で私だけを見つけて、殺してっていう曲なんです。その気持ちを初めて歌詞にできました。
―渋谷独特の空虚さってありますよね。ハロウィンであれだけ人が集まって騒いでいたのに、翌日にはごみだけが残って、また心の距離は離れていくというか。
ぽん:最近はその距離感が心地よく感じるときもあるんですけどね。人と人との距離がちゃんととれているところは、「渋谷が好きだけど嫌い」と思う部分ですね。
―渋谷に対するアンビバレンツな感情という意味では、小島くんが作曲・アレンジしたDAOKOさんの“shibuyaK”にも通じるところがありますよね。小島くんから見て、ぽんちゃんとDAOKOさんって似てますか?
小島:違うとは思いますが……でも、この2曲は確かに似てる部分がありますね。今の渋谷女子はこういうことを思ってるのですかね? 「私を見てよ」というか、みんなそういうことを思いながらあのスクランブル交差点を渡ってるのか……どうなんですかね?
ぽん:今って、明るい曲調だけど、寂しさがちらっと見える曲が多いと思うんです。「朝まで踊ろう」と歌っていても、「どうして朝まで踊りたいのか?」がちらっと見えるような、そういう曲が多い気がします。
―『シブカル祭。』(毎年渋谷で開催されている、女子クリエイターが参加するイベント)とか一見華やかだけど、その裏側には「私を見て」という感覚があるのかもしれないですね。
小島:最近渋谷を題材にした映画とかも多いと思いますが、やっぱり裏側にせつなさとか寂しさがあるものが多い気がします。渋谷女子はそれを隠したいのか、本当はわかってもらいたいのか、そこは全然わからないですけど、「寂しさ」は共通点かなって。
―強がるのをやめたというか、そういう繊細さを素直に出すようになったのが、今の渋谷女子の表現なのかも。
ぽん:直接的に「私弱いんです」って言える女子はあんまりいないけど、そういう曲を聴いて、歌詞とかに共感していると思います。女子は「こういうのを聴いてます」という形で、自分の意見やアイデンティティーを主張する部分があると思うし。ホントはみんな弱いんですよ。
僕もぽんちゃんもポップなものが大好きなんですけど、やっぱり裏側は暗い部分もあるんですよ。(小島)
―“迷子のババロア”はトラック自体も新鮮で、ピアノがフィーチャーされて、アルバムのいいアクセントになってますよね。
ぽん:“迷子のババロア”“密告テレパシー”ときて、“あたまからモンスター”にいく流れがすごく好きなんです。せつない世界観から、急にゲーム系のかわいい世界観に戻るっていう。“あたまからモンスター”の歌詞は、ゲームをやり過ぎて、現実とゲームがごっちゃになっちゃってる感じを書いたんですけど、ピコピコしたサウンドと歌詞が一番ハマってると思います。
小島:“あたまからモンスター”は、もともと初音ミクを買ったときに遊びで作った曲だったんです。なので、ピコピコしたサウンドになっていて、最初はぽんちゃんに歌ってもらうことは想定してなかったんですけど、試しに「歌ってみる?」って歌ってもらったら、すごく面白くて。
―「2.5次元」という言葉も出てくるけど、ミクとぽんちゃんの中間で2.5次元とも言えそうですね(笑)。
小島:確かにそうですね。アタマのサビはもともとぽんちゃんと初音ミクをユニゾンさせてたんです。でも「初音ミクのパートもぽんちゃんが歌おう」ってなって、今はぽんちゃんの声が2本になってるんですけど、片方は1年前に録ったぽんちゃんの声を残していて、1年越しの共演を果たしています。
―あとはラストの“カラクリ”が、ストリングスがフィーチャーされていて、他とは色の異なる非常にかっこいい曲ですね。しかも、アルバムの最後と最初がつながっている仕掛けになっている。
小島:“カラクリ”は1年半前ぐらいにできていて、1曲目の“KARAKURI”は“カラクリ”のリミックスなんですけど、“KARAKURI”をライブで毎回1曲目に演奏してたので、その流れでアルバムの1曲目にもしようとまず決まったんです。それで、最後からアタマにもう1回つなげるためにも、最後に“カラクリ”を入れようかなって。ORESAMAは基本的にポップなんだけど、アタマとケツはちょっとダークというところに味があるなと。
―ポップなだけではなくて、ダークな部分もORESAMAの持ち味だと認識しているわけですか?
小島:僕もぽんちゃんもポップなものが大好きなんですけど、やっぱり裏側は暗い部分もあったりして。まあ、人間誰しもそうだと思うんですけど。なので、どうしても曲を作っていく中で自然と陰な曲も生まれてきちゃうんですよね。今回のアルバムは、「これがORESAMAです」って言えるような自己紹介の1枚になればと思っていたので、ポップなものだけではなく、自分たちの裏の部分もちゃんと垣間見えるものにしたくて。自分たちの持ってるものを素直に出すと、陰にいくことが自分たちでわかってるんです。それが“迷子のババロア”だったり“カラクリ”だということですね。
ぽん:自分たちはどちらかというと元が明るい人間というわけではないので、その分ポップなものに憧れるし、聴く音楽もポップなものが多いし、ポップなのを作りたいんですけど、その一方ではストレートに暗い歌詞も書いたりする。それがORESAMAらしさだと思います。
―めちゃめちゃポップなんだけど、それだけじゃない。ORESAMAのアーティスト性の部分もしっかり刻まれた、手応えのある1stアルバムになったと思います。では最後に、来年の展望を話していただけますか?
小島:ライブでもっと人を集めたいというのが2016年の目標ですね。根拠はないですが、自信はあります。あとは曲提供にももっと力を入れたい。僕はもともと楽曲提供がしたくて音楽を始めたので、そっちも手を抜かずに、ORESAMAともどもガンガンやっていきたいです。
ぽん:私ももちろんライブはもっと頑張りたいんですけど……個人的なことを言うと、「ORESAMAのぽんちゃんですか?」って、渋谷で声かけられたいです(笑)。誰も私のことを見てくれないのは寂しいので、それが来年の目標ですね。
- リリース情報
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- ORESAMA
『oresama』(CD) -
2015年12月2日(水)発売
価格:2,000円(税込)
PUMP-00081. KARAKURI
2. オオカミハート
3. Morning Call
4. Listen to my heart
5. ドラマチック
6. 迷子のババロア
7. 密告テレパシー
8. 恋のあじ
9. あたまからモンスター
10. 乙女シック
11. カラクリ
- ORESAMA
- イベント情報
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- 『グラフィックガール×2.5D presents GIRLS DON'T CRY vol.2』
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2015年12月3日(木)
会場:東京都 渋谷WWW
出演:
ORESAMA
さユリ
livetune+
アリスムカイデ(DJ)
KASICO(VJ)
料金:前売 3,000円 当日 3,500円(共にドリンク別)
- プロフィール
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- ORESAMA (おれさま)
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ぽん♀(作詞、ボーカル)と小島英也♂(作曲、プログラミング、ギター)による、渋谷を中心に活動中のユニット。2013年『The 6th Music Revolution Japan Final』優秀賞獲得。90年代生まれの2人が描き出す楽曲は、エレクトロやファンクミュージックをベースにし、映像が浮かぶ歌詞世界とともに「ORESAMA」ワールドを構成している。まさに、ネオポップスと呼ぶにふさわしいユニット。2014年12月、アニメ『オオカミ少女と黒王子』のエンディングテーマ『オオカミハート』でデビュー。
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