日本のみならず、アメリカ、ヨーロッパ、アジアなど世界各地で精力的に公演やワークショップを行うダンスチーム「s**t kingz」。2007年の結成から8年を経て、今や、日本を代表するストリートダンスチームに成長した彼らが、パルコのコーポレートキャンペーン「SPECIAL IN YOU.」のメインキャラクターに起用された。ミュージシャンの大森靖子や『岡本太郎現代芸術賞』を受賞したキュンチョメなど、これからのカルチャーを作り上げる人々が起用されてきたこのキャンペーン。ある意味、s**t kingzに限らず、ストリートダンスというシーンが「現代の象徴」へとのし上がった「事件」とも言えるだろう。
今回、s**t kingzからNOPPOとkazukiを迎えたインタビューを敢行したところ、パルコのキャンペーンのみならず、ストリートダンスの目から見た「渋谷」や「東京」の姿、そして、公的な助成金を得られるようになり、義務教育にも加わるといった現在のシーンなど、めまぐるしく移り変わるストリートダンスの状況へと話は発展していった。変革の季節を迎えているストリートダンスの「今」がわかるインタビューを、ぜひ一読してほしい。
s**t kingzだけでなく、ダンサーの活動の幅を広がるような流れを作れれば嬉しいですね。(NOPPO)
―今回、s**t kingzのみなさんは、パルコのコーポレートキャンペーン「SPECIAL IN YOU.」のメインキャラクターに選ばれました。まず、その感想から伺っていきましょう。
kazuki:最近では菅原小春さん(1992年生まれのダンサー、振り付け師。世界的なブランドの広告にも登場している)がバーニーズ・ニューヨークのイメージキャラクターに選ばれたり、ayabambiさん(Aya SatoとBambi Satoの同性カップルによるダンスユニット)がルミネのプロモーションに大々的に起用されたりといった動きがありますが、まだまだダンスチームが広告のキャラクターに選ばれるという事例は多くありません。なので自分たちがポスターになってお店に貼られているという状況に単純にびっくりしていますね。いろんな人に見ていただくだけでなく、家族がポスターと同じポーズを決めて写真を撮ったりと、周りの反響は大きいです(笑)。
―親孝行にもなっている(笑)。パルコといえば、1970年代以降に生まれた渋谷の若者文化を代表するような施設ですよね。今回のキャンペーンに起用されたということは、ある意味、s**t kingzが現代の若者の新しい象徴とも捉えられるというか、ちょっと大げさな言い方をすると、ストリートダンスをめぐる状況の転換点ともなり得る変化なのではないかと思います。
kazuki:……今言われて、初めて気づきました。ただ、そう言われると、めちゃくちゃ嬉しいですね……。
―固まっていますね(笑)。そういえば「SPECIAL IN YOU.」の映像でも、「才能とは?」という問いに対して、「人に評価されて初めて価値に気づくもの」というふうにもおっしゃっていますよね。
NOPPO:とにかく踊ることが好きで突き詰めてやってきて、その上でs**t kingzらしさを出していくために、ダンスはもちろん、エンターテイメントとしての要素も大事にしてきたんですよね。演技もファッションもいろんなことを取り入れてやっているチームだという自覚はあるし、そういうところを見てくれたのかなと思います。s**t kingzだけでなく、これをきっかけにダンサーの活動の幅を広がるような流れを作れれば、すごく嬉しいですね。
―かつて渋谷には若者文化を育んできた一面があるという話をしましたが、お二人は渋谷の街についてどういうイメージを持っていますか?
NOPPO:渋谷ってスタジオがいっぱいあるんですよ。以前、メンバーのshojiくんが調べたことがあるのですが、サルサや社交ダンスまで含めたら、100個以上のスタジオが渋谷に集積していて。
kazuki:新宿や池袋よりも多いと思います。渋谷って、実はダンサーがめちゃめちゃ集っている街なんですよ。あと、外で踊れる場所もまだいくつかありますしね。あとは渋谷ではありませんが、ストリートダンスの練習場所として一番有名なのは、西新宿の明治安田生命新宿ビル(ヤスダ)ですかね。僕らも、結成当初はずっとそこで練習していたんですよ。
今はイベントもレッスンも増えているので、絶対にストリートで練習しなきゃダメ! というわけでもなくなってる。(kazuki)
―お二人もダンスを始めた当初から外で練習をしていたのでしょうか?
kazuki:中学くらいまでは地元のスタジオに通っていたのですが、高校生になると外で練習することが多くなりましたね。他のジャンルのダンスをしている人もいるし、そこから仲良くなったり一緒に踊ることになった人もいて、交流するのが楽しかった。中にはすごくストイックな人もいて、一切休むことなく黙々と練習しているんです。そういう人を見ていると、「練習しなきゃ」と触発されます。
NOPPO:一言でダンサーといっても、会社帰りの人もいるし、本当にいろいろな人が練習しているんですよ。
kazuki:それに、自分たちのダンスを「見られている感」もすごくありましたしね。でも、最近の若いダンサーがヤスダに行っているというイメージはないよね。僕らの頃は、当たり前のようにヤスダを使っていましたが、今は安く借りられるレンタルスタジオも増えたので、外で練習する必要が少なくなっているんです。今はダンスイベントもレッスンも以前より増えているので、そういう場所で交流もできますし、絶対に外で練習しなきゃダメ! というわけでもなくなってる。僕らはいち早く中で練習したかったので羨ましさもありつつ(笑)、ダンスを始めたい人にとって、環境が整備されてきていると言えると思いますね。
自分のベーシックになるダンスを育む前に流行に流されちゃうと、「響く」ダンスにならないんです。(NOPPO)
―身体1つで始められるからこそ、ダンサーを目指す人たちは各地にいると思いますが、ダンサーの目から見て活動しやすい場所というのもありますか?
kazuki:やっぱり東京は仕事で溢れていて、地方ではできないことがたくさんあります。ダンスだけで生きていこうと思ったら、地方だとレッスンをつめ込まなければならないんです。
―一口でストリートダンスといっても、東京と地方では、やはり状況が違うんですね。
kazuki:ただ、東京のほうが忙しいので、仕事に追われている感はあるかもしれません。人にもよりますが、地方ではメジャーの仕事がない分、好きなダンスを楽しめているというふうにも言える。東京か地方か、どちらがダンスを楽しめているか? と考えると、一概に東京とは言い切れません。
―各都市で、ダンスの特色のようなものはあるんでしょうか?
kazuki:大阪だったらヒップホップやオールドスクールが強いイメージがあります。福岡は「BE BOP CREW」という大御所のチームがあるので、ロックが強いという伝統があります。その意味では、東京の特色ってあまりないんです。地方からいいダンサーが集まってくるので、ごちゃまぜに輸入されている感じかな。
NOPPO:ジャンルではないですが、東京は流行のスピードが早い印象があります。ファッションや音楽と同じように、流行の踊りがあるのですが、その流れが常に変化している印象です。ミュージシャンが新しい音楽をリリースして、面白い踊りを合わせたらそれが流行になって、1年も経ったら「あー、あれね」って飽きられちゃう。
kazuki:流行を追っていてもかっこいい人はいるんだけど、とりあえずやるだけ……みたいな人も多いよね。
NOPPO:だから、深いダンスができないのかもしれない。いろんな美味しいダンスが次々に出てくるから、どうしてもそっちに飛びついちゃう。自分のベーシックになるダンスを育む前に流行に流されちゃうと、「響く」ダンスにならないんです。自分らの下の世代から、徐々にそういう傾向があるのかもしれません。
kazuki:僕ら以上の年代の人が流行のダンスをしていても、技術がしっかりしているからかっこいいんです。基礎がなく「この音でこうやるとかっこいい」みたいな認識で踊っている人は、浅薄なダンスになっちゃいがちなんですよ。
昔はクラブやストリートダンスを毛嫌いする大人もたくさんいましたが、そういうイメージもだいぶ薄くなってきている。(kazuki)
―先日s**t kingzも出演した『DANCE DANCE ASIA』は「国際交流基金アジアセンター」が主催していたり、今回のパルコのメインキャラクターへの抜擢、あるいは義務教育のカリキュラムに取り入れられたりと、以前はサブカルチャーの1つだったストリートダンスは、もはやメジャーになりつつあると言っていい状況になりつつあります。こういった変化はどのように感じますか?
kazuki:クラブではなく、劇場やホールの舞台を使ったイベントが多くなっていますね。「舞台が使える」ことで、今までやろうと思ってもできなかった演出ができるようになりつつあります。たとえば、僕らはもともと舞台でやりたいと思っていて、クラブに出演しながらも、「ここで照明を切り替えたい」「水を使いたい」みたいなことをずっと思っていたんですよ。でも、クラブで出演するイベントは打ち合わせもほとんどないし、演出的なリクエストが難しい。「舞台だったらできるのに……」といつも思っていました。
―もともと、舞台志向が強かったんですね。
kazuki:一方で、ネタ的に盛り上げるようなダンスは公的な舞台では難しくなるでしょうね。クラブなら「イェー」と盛り上がれるような空気感も、劇場の椅子席で見たら、あまり共感できませんよね。これから劇場で演じる機会が増えると、より「作品性」を意識するようダンスチームが増えていくかもしれません。
―現在のようにストリートダンスが受け入れられる状況になったのは、何が理由だと思いますか?
kazuki:今まで先輩方が、ダンスの悪いイメージをなくそうと努力してきたからだと思います。イメージを上げるためのイベントをしたり、一般の人に理解してもらおうという活動をしてきました。そういう活動が実を結んで、現在のような形になった。昔は、クラブやストリートダンスを毛嫌いする大人もたくさんいましたが、そういうイメージもだいぶ薄くなってきて、ダンスの魅力に気づく人が多くなっているのではないでしょうか。ダンスは誰にでもできるし、今すぐにでもできる表現。エンタメの中でもとても強いジャンルだと思います。
NOPPO:ダンスといってもいろいろな種類があります。涙を流すような感動も表現できるし、バトルで熱狂的に盛り上げることもできる。まだまだ可能性を秘めたすごい表現なんです。だから、ストリートから劇場まで舞台が広がったことで、これからもっといろいろな個性を持ったダンスチームの表現が見られるようになると思いますね。あと、僕自身は好きな曲を聞いたときに身体が動くのもダンスだという気持ちがやっぱりあって。何も考えずに、楽しい、気持ちいいといった感覚にひたると、自然と身体が踊っているんです。そういう自分の中にある根源的な気持ちと向き合いながら、これからも踊っていきたいですね。
- 詳細情報
-
- パルコ「SPECIAL IN YOU.」
-
出演:s**t kingz
クリエイティブディレクター:箭内道彦
クリエイティブプロデューサー:平井真央
コピーライター・デザイナー:村橋満
スチール:三浦憲治
ムービー:新保勇樹
スタイリスト:髙橋毅(DECORATION)
ヘアメイク:外山龍助(KIDMAN)
- プロフィール
-
- s**t kingz (しっと きんぐす)
-
2007年10月結成。Shoji、kazuki、NOPPO、oguriの4人によるダンスチーム。アメリカ・カリフォルニアにて開催されたダンスコンテスト、BODY ROCKにおいて、2010年・2011年と二年連続優勝を果たす。国内外を問わず、数多くのアーティストの振付やバックダンスなど、著名なアーティストと競演するとともに、10か国を廻るヨーロッパツアーをはじめ、アメリカ、アジア、オセアニア等、世界各地でワークショップやパフォーマンスを行っている。2013年には、初の単独公演となるTHIS SHOW IS s**tを開催。4月の初演は30分でソールドアウトとなり、再演を含め延べ5,000人以上の動員を記録した。
- フィードバック 4
-
新たな発見や感動を得ることはできましたか?
-