変幻自在に言葉を操る、ぼくのりりっくのぼうよみという名の17歳

17歳、現役高校生ボーカリスト、ぼくのりりっくのぼうよみ。動画サイトに投稿した楽曲のポップセンス、何よりも独特の言葉のセンスが注目され、瞬く間にメジャーデビューが決まった。音楽オーディション『閃光ライオット』やFM番組『SCHOOL OF LOCK!』でその認知を広めた彼、「驚愕の才能」と騒ぎ立てる周囲をよそに、言葉に意味を持たせすぎる現代の風潮をサラリとかわしながら、パズルを組み合わせるように、言葉とメロディーを重ねていく。デビューアルバム『hollow world』、トラックメーカーが作った音源に乗せたラップが、実に滑らかに泳ぎわたっている。

実は彼、国語の全国模試で1位をとった経験がある。そして、数か月後には大学受験を控えているという。この日も、模試が終わった直後のインタビューとなった。

メイン画像撮影:神藤剛

高校3年生っていうのは、確かに売りになるんだろうなとは思います。

―今日も朝から模試だったそうですね。以前、全国模試で1位をとったことがあると、いくつかの紹介記事に出ていました。

ぼくのりりっくのぼうよみ(以下ぼくりり):もう3年くらい前ですけどね。都合よく強調されているだけです(笑)。

―大学受験まで、あと数か月ですね。このタイミングでメジャーデビューとは驚きます。悪い大人に騙されたんでしょうか(笑)。

ぼくりり:そうなんです、「今しかない!」「ここが絶好のポイントだ!」と言われました。でもまぁ、高校3年生っていうのは、確かに売りになるんだろうなとは思います。

―えっ、「売りになる」という自覚があるんですか。

ぼくりり:高校3年生とそうでないのとでは、変わるんだろうなとは思っていますね。

ぼくのりりっくのぼうよみ 撮影:神藤剛
ぼくのりりっくのぼうよみ 撮影:神藤剛

―そもそもインターネットで曲を発表するようになってからどれくらい経ちますか?

ぼくりり:もう3、4年になります。ニコニコ動画の「ニコラップ」でVACONという人を見つけ、Twitterを通じて仲良くなり、一緒にやってみないかと誘われたことがきっかけとなりました。

―オーディション『閃光ライオット』で2014年のファイナリストに選ばれたのが、注目を集めるきっかけのひとつになりましたよね。なぜ応募してみようと思われたのですか?

ぼくりり:いや、応募したのではなく、ある日突然ソニーミュージックの方からメールが来たんです。「こんにちは、あなたの歌をネットで聴きました。スタジオに来てください」と。「ん? ヤバいのか、この人?」と疑いながら歌いに出かけました(笑)。その1か月後くらいに、「閃光ライオットに応募しておいたから。今度、2次審査があるから来てください」と、そんな感じで、トントン拍子でファイナルまで勝ち残ったんです。

―モデルやアイドルが「お姉ちゃんが勝手に応募しちゃったんですよー」って弁解しているような感じですね。それって、本当に目指している方からすると、反感を買うパターンです(笑)。

ぼくりり:そうなんです。でも本当に、積極的に何かをやっていたということでもないので……。

―今、音楽評論家の方々が「ぼくりりはくるぞ」と高く評価していたり、「驚愕の17歳」というキャッチコピーがつけられたりしていますが、そういう期待をどのように受け止めてますか?

ぼくりり:いや、どうなんだろうと。期待してくれるのはもちろん嬉しいですけど、それでコケたら、そう言ってる人たちはどうなるのだろうというか……。

―手のひらを返したように言い始めるんじゃないかと。

ぼくりり:そうそう。「ダメだと思ってたんだよ」とか言い始めるのかなって。そうなるとちょっと面白いなと思ってます。

風景が具体的に浮かぶような言葉の描写に、なんとなく「ダサい」という感覚があるんです。

―歌詞を読むと、この言葉はどのようにして選ばれたのだろうかと、いくつも探りを入れたくなります。ご自身のなかにどういった言葉の源泉があって、紡ぐ言葉を自分のものにしているのか、とても興味深いです。

ぼくりり:本はめちゃくちゃ読みますね。自分のなかに枠組みがあって、その枠のなかに入っている言葉から選んで歌詞を書いてみようという感じです。今回の作品の歌詞もおおよそそのように作られています。あるいは、印象的なフレーズがひとつ浮かび、そこから膨らませるように作ることもあります。

―自分の枠組みのなかに、常時新しい言葉を投入していき、その枠組みから、曲にふさわしい言葉だけをチョイスしていくような感覚なのでしょうか。それとも、自分の意思にかかわらず、枠のなかに入ってきた言葉をランダムに接続していく感覚ですか。

ぼくりり:後者だと思います。僕の歌詞は、「それっぽい」言葉を接続していくことが多いんですね。逆に言うと、「山手線」だとか、「コーヒー」だとか、固有名詞は少ないです。

―確かに、場面が固定されたり、風景が具体的に浮かぶような言葉の描写をされないですよね。

ぼくりり:そういう描写は、なんとなく「ダサい」という感覚があるんです。当初は自分の感覚を信じて入れないようにしていたんですけど、今ではとにかく意識的に、それらの言葉を入れないようにしています。限定されてしまうのが嫌なんですね。「新宿の」って書くと、新宿で起きた話だと限定されてしまう。とにかく具体的にしたくないんです。

―何かを主張して、リスナーに共感してもらいたいのであれば、情景を描いたり、気持ちをストレートに伝えたりしますよね。今、流行りの音楽は何かと共感を求めてくる傾向にありますが、そんなことを目指したくはなかった、ということなのでしょうか。

ぼくりり:はい。僕が曲を作り始めた当初、J-POPの歌詞に使われがちな言葉について、例えば「翼広げすぎ問題」というように茶化されている時期でした。今は、あえてそういう言葉を使う意味も分かってきましたけど、当初はその反動もあって、わざわざ難しい言葉を使いたがってましたね。これはこれで中2病的でしたが。

歌詞が完成した後に解放感があるとすれば、「この理不尽な事象をうまく表現できた!」です。

―直接的な言葉を使わずに間接的な言葉を使っていることも影響してるのだとは思いますが、歌詞全体から世界を俯瞰する姿勢が感じられます。

ぼくりり:今まで音楽の趣味が合う人が近くにいたことがなくて、「これ聴いてみてよ」って誰かと共有することが一切できなかったんです。だから音楽の話で共感を得るのは無理だなって、中1くらいで諦めました。高校も、僕の学校は「進学校になりきれていない進学校」なんです。本当の進学校ならばもっともっと自由な感じで個性が溢れる人がいっぱいいるんでしょうけど、音楽についてもどこか中途半端な感じが多かったんですよね。

―そういえば、歌詞に、学び舎の風景なんて一切登場しませんね。

ぼくりり:「放課後のなんとかかんとか~」とかないですね。

―「二人で夕陽を見ていたあの頃」なんて間違っても使わない。

ぼくりり:使わないですね(笑)。言葉が陳腐化しますよね。

―それを一切やらずに突っ走るのが気持ちいいです。

ぼくりり:とにかく嫌なんです。それは、誰かに何かを伝えるために音楽をやっているわけではなく、自分のためにやっているから。ついでに他の人が好きだったらラッキーだなというくらいで。最近は何事に対しても「ヤバい」としか思わなくなってきました。「ヤバい」とか「ウケる」とか。

―とっても現代人っぽい反応ですね。

ぼくりり:でも、その「ヤバい」「ウケる」が曲に繋がっていくんです。

―歌詞を書くことで、自分の「ヤバい」「ウケる」の気持ちが解放される感覚はありますか?

ぼくりり:どうだろう……例えば、何か事象があって、それに対して自分が「ヤバい」と思ったことを歌詞にするときは、事象自体を歌詞にしているんです。僕がどう思ったかではなくて、そのこと自体を膨らませて書く。だから、完成した後に解放感があるとすれば「この理不尽な事象をうまく表現できた!」です。今回の歌詞で言えば“CITI”なんかはそうやってできました。ネトウヨの人って、やたらめったら怒ってるじゃないですか。そういう人に対して、というわけではなく、そういう人の曲を書いています。

ぼくのりりっくのぼうよみ 撮影:神藤剛
撮影:神藤剛

―<虚ろなour relationships / 灯りもない闇の中を / 走りだす 当てもなく 止めどなく / 代わり映えのない日々going on…><砕けてcan't identify / 明日を待ち続けcall it on / 傷つける 当てもなく 止めどなく / 消えた自分を取り戻すjourney on…>と書いています。対抗するわけではなく、むしろ、その人側に入ってみる。とても素直なアプローチですよね。

ぼくりり:そうです、その人自身を表現する、という感じなんです。

―今回、たくさんインタビューを受けられているでしょうけれど、その素直なアプローチをほじくって、表現者として変わっている部分を探し出そうと、ご本人にしてみれば「考えすぎ」の設問を投げかけられるケースも多いんじゃないですか。

ぼくりり:そうなんです。「いいや、違います」と主張できる意見があるわけでもないので、つい、「そうかもしれません」って答えることが多くなります。

―それだけ普段、言葉を自由に動かしていると、たとえば現代文のテストで、「このときの主人公の気持ちを答えなさい」なんて問題に正しい答えを出すのはしんどくないですか?

ぼくりり:よくできている現代文の問題だと、きちんと整合性がありますよ。例えば東大の現代文の試験でいうと、問1から問4まで異なる部分を解かせておきつつ、最後に、それらの設問と解答をふまえた上での大きな問題が用意される。こういった問題を解いていくのはむしろ楽しいです。

喋っている自分の他に、俯瞰する自分がいるんです。歌詞を書くときには、その「監視カメラ」な目線が強く出る。

―間接的に物事を見ようとする視線を感じます。例えば、“CITI”や“Sunrise(re-build)”に「半透明」という言葉が出てきます。アルバムタイトルにある「hollow(=うつろな)」もそうですが、対象物に対して直接向かっていかない感覚が全体的に敷かれていますね。

ぼくりり:今、こうして向き合って喋っているじゃないですか。でも、喋っている自分の他に、俯瞰する自分がいるんです。この感覚はずっと持ってます。まぁ、みんなそうだと思うんですけど。

―自分とは別に、自分を監視するカメラがある、という感じですか。

ぼくりり:そうですね。歌詞を書くときには、その「監視カメラ」な目線が強く出るのかもしれません。

―なぜ創作するときに、そちらの目を選択するのでしょう。

ぼくりり:そっちでしか書けないんです。例えば今、ここにあるコップの水がこぼれて自分にかかったとするじゃないですか。自分は「濡れた、冷たい」と思う。でも、監視カメラの自分は「水がこぼれている」と思う。自分が「濡れた」って感じることには興味がないんです。「そうなんだ」で終わってしまうというか。

―となると、誰かに対して怒るとか、自分が感情をむき出しにすることが少ないんじゃないですか。

ぼくりり:確かにそんなに怒りはしないですね。「ああ、この人はこういう人なんだ」と諦めているところがあります。自分が何かをすることで、他の人がガラッと変わるビジョンが見えないというか。

―15歳のときに書いたという“sub/objective”で、<いつしかすり替わる一人称から三人称へ><いつしか物を見ている自分を見るようになった><叫ぶ自分をobjectiveに眺める>と書いてますよね。その「監視カメラ」はいつ頃設置されたんですか? みんな持っているものではないと思うのですが。

ぼくりり:えっ、そうなんですか。僕は小学生くらいですかね。本当は設置したくなかったはずですけど。

―なぜ設置しようとしたんでしょう。「対社会」とか「対大人」への苛立ちがあったわけでもないんですよね?

ぼくりり:特にないですね。音楽が何かの手段になっているわけではないですし。こうして今、自分たちを囲んでいる大人が「何を考えてるんだろう?」という興味は強いかもしれません。それは「ふざけんな」みたいな対抗心とかではなく、純粋に何を考えているのかに興味があるんです。

……それよりも、モテたいですね。

―ネット発で音楽を発表し始めたわけですから、否応なしに自分が作った音楽への感想が目に入ってくると思います。そういう反応って、気にされたりするものですか。

ぼくりり:エゴサーチはよくしますね。習慣というか、趣味みたいなものです。プラスの感想もマイナスの感想も見ます。でもみなさん、そんなに細かくは書かないじゃないですか。「めっちゃいい」か、「そんなにいいか?」か、そのどちらかくらいしかなくて。だからどんな意見を見つけても怒ったりはしません。

―「◯◯だからダメ」の◯◯の部分がとっても具体的だったらどうでしょう。

ぼくりり:それは面白いと思います。僕の曲を聴いて、わざわざ意見をまとめてくれてるわけじゃないですか。「この曲はここが嫌いだ」って言うために何度も聴いて推敲してくれる。それ自体、面白いことですよね。

―とにかく人に委ねているのですね。主体性というか、自分からこうしたいという野心はありますか。

ぼくりり:野心ですか……ライブやってみたい、という思いは徐々に強くなってきましたね。これまでの数回のライブでは準備不足を痛感しましたし、そもそもライブと言っても2、3曲しかやったことがなかったので、長尺でやってみたいです。目の前のお客さんを喜ばせたいですね。

―そこはとても素直なんですね(笑)。

ぼくりり:そうですね(笑)。でも、最後にライブをやったのがもう1年前なので、僕のなかで「ライブ=すごく楽しかった」と記憶が捏造されているのかもしれません。

ぼくのりりっくのぼうよみ 撮影:神藤剛
撮影:神藤剛

―先ほど音楽の趣味が合う人がいなかったとおっしゃってましたが、学校生活には馴染めたんですか?

ぼくりり:バスケ部に入ったんですが、1日で辞めてしまいました。最初に、体育館の2階をランニングする練習をやって、それで超疲れて、辞めようと思いました。

―決断、早いですね(笑)。

ぼくりり:走りながら「帰りてぇ、帰りてぇ」って(笑)。僕は「楽しいからやってる」みたいなことはずっとやれるんですけど、何かを頑張るというのがあんまりできないんです。1日30回腹筋をするとか、英単語を1日1000個書くとか、そういう苦行は全然できない。だから、そういう意味では「はみ出し者」の代表ではありますよ。

―今、受験勉強中ですよね。受験って、色々な人を蹴落とさなきゃ自分は入れないわけですよね。それを戦いとか苦行とは考えてないですか?

ぼくりり:実際には、直接そこまでの人数とかかわらないじゃないですか。能力の差というか、頑張ったか頑張らなかったかの差と、効率の差ですよね。だから、蹴落とすとかじゃなく、「この人は僕よりもたくさん勉強したんだなあ。すごい」みたいな感じです。……それよりも、モテたいですね。

―えっ、こうやって音楽活動していたら、めっちゃモテませんか。

ぼくりり:いや、そんなことないです。男子校なんですよ、地獄です……。さっき模試を受けたときも、隣の席がカップルで、「は?」ってなりました。「この人たちより成績が悪かったら嫌だな」って。

―初めて怒りが出てきましたね。

ぼくりり:怒りですね(笑)。

―普段学校のクラスのなかではどういう存在ですか?

ぼくりり:どうなんだろう……何考えてるのかわからないってよく言われますね。僕はそんなに違わないと思うんですけど。みんながしているからこれをする、とかはあんまりないかなと。それが変だなと思われてるっぽいです。

意味って逆に何だよ、みたいな、逆ギレみたいな感じ。……キレて終わりましょうか(笑)。

―こういうインタビューでは、最後にまとめの一言が必要になるじゃないですか。どう答えますか。

ぼくりり:不思議な質問ですね(笑)。最後のまとめをお願いするんじゃなくて、「どうするか」を聞かれても……。

―どうしたらいいでしょう。

ぼくりり:「最高のアルバムなんで聴いてください!!!」みたいな感じですかね。

―ビックリマークを3つくらい入れますか。

ぼくりり:はい(笑)。でも、インタビュー記事の終わり方って割と唐突ですよね。それなのに意味を持たせすぎるというか。

―そういえば、「ぼくのりりっくぼうよみ」ってネーミングには特に大した意味がないそうで。

ぼくりり:本当に、棒読みだったから、ってだけなので。意味って逆になんだよ、みたいな、逆ギレみたいな感じ。……キレて終わりましょうか(笑)。

―「なんで意味がなきゃいけないんですか!」って。でも、そのうちインタビュー慣れしてきて、「『ぼくのりりっくのぼうよみ』って名前はですね……」って、その動機を15分くらい語れるようになるかもしれませんね。

ぼくりり:「これには、エピソードがあってですね……」みたいな(笑)。そのうち、感動的な話ができるようになっているといいですね。

リリース情報
ぼくのりりっくのぼうよみ
『hollow world』(CD)

2015年12月16日(水)発売
価格:2,160円(税込)
VICL-64487

1. Black Bird
2. パッチワーク
3. A prisoner in the glasses
4. Collapse
5. CITI
6. sub/objective
7. Venus
8. Pierrot
9. Sunrise(re-build)

プロフィール
ぼくのりりっくのぼうよみ
ぼくのりりっくのぼうよみ

横浜在住の高校3年生、17歳。早くより「ぼくのりりっくのぼうよみ」、「紫外線」の名前で動画サイト等に投稿を開始。高校2年生だった昨年、10代向けでは日本最大級のオーディションである『閃光ライオット』に応募、ファイナリストに選ばれる。TOKYO FM『SCHOOL OF LOCK!』で、その類まれなる才能を高く評価されたことで一躍脚光を浴びた。これまで電波少女のハシシが主催するidler records から4曲入りEP『Parrot’s Paranoia』を発表している。他のトラックメーカーが作った音源にリリックとメロディーを乗せていくラップのスタイルをベースとしつつ、その卓越した言語力に裏打ちされたリリック、唯一無二の素晴らしい歌声、高校生というのが信じられない程のラッパー/ヴォーカリストとしての表現力が武器。



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