まず驚いたのが、フロントマンであり楽曲制作のイニシアチブを握っている福永浩平の表情の変化だ。大きな戦いに挑む覚悟が決まった目をしていた。その中性的な美男子然とした顔つきに「漢の気迫」が宿った――そう感じた。インディーズ時代にアート性の高い音楽像を開拓した雨のパレードが、メジャーのフィールドで果たすべきことは何か。今、そのテーマは福永のなかではっきりした輪郭を持っている。メジャー第一声となるアルバムに冠した『New generation』というタイトルは、雨のパレードのマニフェストでもある。
ポストロックやミニマルミュージックを基軸とするサウンドはさらに過不足なく研ぎ澄まされ、陰影に富んだ音像のなかで美しく浮かび上がるメロディーからは、マスに対して向かっていこうとする意志が聴こえる。雨のパレードが掲げる「ニュージェネレーション感」が意味するものとは? それを訊くことは、本作の核心に迫ることと同義であった。
新しい世代のアーティストを引っ張って、シーンを変えていきたい、という意気込みでこのアルバムを作ったんです。(福永)
―インディーズの最後の作品として1月にリリースしたシングル『Tokyo』は、このアルバムの支柱にするという思いも強かったんじゃないかと。
福永(Vo):そうですね。いろんなアーティストが「東京」というタイトルの曲を作っているので、東京をテーマにした曲を作ることに対して、僕のなかでも憧れに近い感覚はあったんです。いつかは作ろうとずっと思ってたんですけど、今まではしっくりくるオケがなかったというのと、自分たちの技術も足りてなくて。中途半端な東京の曲は作りたくなかったですし。このタイミングで、「これならいける」と思えるオケができたのと、メジャーデビューということも重なって、僕から見た東京を描きました。
―メジャーデビュー前夜に、「ここから夢を叶えていく」という覚悟を持って東京に対するスタンスを描いた意義は大きいと思うし、さらに必要な音だけを精選したサウンドプロダクションの美学や歌メロの際立たせ方という意味でも、今の雨のパレードを象徴する曲になってると思いました。
福永:はい、覚悟が詰まってると思いますね。“Tokyo”も、もともとアルバム用に作っていた曲なんですけど、アルバムの全曲、メジャーを意識して制作しました。
―前作『new place』からの半年強で、バンドが打ち出すべき音楽像が明確になったということが『New generation』を聴くとよくわかる。
福永:そうですね。新世代のサウンドを作りたいという思いがどんどん強くなっていって。僕の好きな洋楽の新人アーティストって、バンドというスタイルではあるけど、俗に言うバンドサウンドを鳴らしていない人が多いんですよ。僕らもそういう立ち位置でいたいと思うから、自分たちが欲してる音を貪欲に求めていく意識がより強くなりました。機材も増えたし、ライブでは僕がシンセも弾くようにもなり、(山崎)康介さんがMPC(サンプラー)を触ったり、ドラムの横にもサンプリングパッドを置いたりしていて。バンドであって、バンドサウンドを鳴らしてない存在が普通に受け入れられる時代にしたいんですよね。
―前作は「新しい場所を作る」という意味で『new place』と掲げていたけど、今作では「新しい世代を作りたい」「流れを変えたい」という意識が強く出ていますよね。
福永:自分が高校生で音楽を始めたときに一番身近にあった音楽表現がバンドで、身近な表現方法だからこそ、そのあり方がもっと自由になればいいなと思うんです。そういう意味でもこのアルバムに『New generation』というタイトルを付けました。これから出てくる新しい世代のアーティストを引っ張って、シーンを変えていきたい、という意気込みでこのアルバムを作ったんです。歌詞もほとんどの曲にそういう思いを込めてますね。
―このバンドは生楽器の音であり生楽器だから出せるグルーヴも大切にしているじゃないですか。そこも大きなポイントだと思うんですよね。
福永:うん、そうですね。生楽器で出す空気の振動の気持ちよさは大切にしたくて。僕はそれが「ニュージェネレーション感」のあるバンドのカギだと思うんですよね。鳴らしたい音を自由に鳴らして、生音と打ち込みやパッドの音が気持ちよく共存していることが絶対的に大事だと思ってます。
―福永くんが言う「ニュージェネレーション感」というのは、あくまで表現者サイドの概念という感覚が強いんですか?
福永:そうですね。受け手にはついてきて欲しいという思いが強いです。受け手もフォロワーになって欲しいというか、むしろ受け手も表現者になって欲しいという気持ちがあるんですよね。
福永の邁進する姿はものすごく輝いてるんですよ。それに、バンドを輝かせる力もある。(山崎)
―『new place』と『New generation』は地続きの作品ではあると思うけど、少なくとも『new place』のタイミングではシーンを変えるとか、そこまで強い思いは言葉としては出てなかったから、この半年強ですごく変わったなと思います。福永くんの表情も。
福永:いろんなことを考えるようになったからですかね。実は『new place』のリリース後、1か月くらい燃え尽き症候群みたいになってしまったんです。その次にリリースするアルバムがメジャー1発目って考えたときに、既存のレールには乗りたくないと思ったし、ホントに時代を変えてやるくらいの意気込みで制作しなきゃダメだと思って。そう考えていると、1か月間くらい、みんなで曲のネタを作ってはいたものの、何もしっくりこなかったんです。そういう状態から抜けるためにも新しい機材を導入して、それがきっかけで新しいアプローチが生まれた部分もありましたね。
―重要なのは、このアルバムは既存のイメージとしてのメジャーっぽさがないことだと思うんですよね。それくらいバンドのクリエイティビティーを貫いているし、独立したポピュラリティーを獲得しようとしていると思った。
福永:ぶっ込んでやろうと思いましたね(笑)。新しい世代の先頭に立てるようなアルバムを作りたいって、制作段階の時点でメンバーにも伝えてましたし。
―メンバーは福永くんのそういう提案をどう受け止めたんですか?
大澤(Dr):「新世代」って、「時代を背負う」ということだし、かなり大きな目標じゃないですか。それを掲げることに対しては、安易な言い方ですけど、テンションが上りましたね。メンバーとして尊敬できるなと。
山崎(Gt):(福永の)「こういう曲にしたい」というイメージがより具体的になってきて、こちらも彼の注文に対してどう応えられるかという発想がクリアになっていったんですよね。時代を変えたいという思いに関しては、僕は彼より6つ年上だから、少し客観的に見てるところがあって。そういう視点で見ると、彼の邁進する姿はものすごく輝いてるんですよ。
福永:親か!(笑)
一同:(笑)。
山崎:でも、ホントに輝いていて。それに、バンドを輝かせる力もある。だから「New generation」というキーワードにもすごく納得したし、自分もその輝きを盤石なものにしたいなと思ってます。僕は自発的に行動を起こすようなタイプではないので、彼みたいな存在がいて、一緒に作品を形にしていくことが自分の性分かなって。
―山崎くんは前に組んでいたバンド時代から福永くんを知っていて、当時の彼は引っ込み思案だったわけじゃないですか。それを思うと感慨深いものがあるんじゃないかと。
山崎:そうですね。今はもう立場が逆転してるし(笑)、彼にこんな力があったんだって感動してます。最初は単純に彼の声や歌に惹かれてここまでついてきて。いざ雨のパレードを結成したら、こんなに人を巻き込む力があるんだって知ったんですよね。
大澤:私も前のバンドから、彼の声に惹かれて一緒にやってきたんですけど、雨のパレードになってからの行動力がすごいから。ここまで考えていたとは、という感じですね。
―雨のパレードから活動をともにするようになった是永さんはどうですか? 若干師匠っぽい雰囲気を醸し出してますけど……。
一同:(笑)。
是永(Ba):師匠……(笑)。前よりもさらにストイックになってると思います。ストイックになったからこそ、音楽的にポップなものも作れるようになったんじゃないかなって。ここからどんどんバンドの存在を広げていけるんじゃないかと思ってます。
―そう、このアルバムで雨のパレードならではのポップミュージック像も明確になったと思うんですよね。
福永:うん、そうですね。個人的には前からポップセンス的なものはあると思っていて。それもバランスだと思うんですよね。雨のパレードを組んだ直後はあえてポップからかけ離れたメロディーを作ったりもしたんですけど、今はサウンド面で追求したいことと、それをポップに昇華するというせめぎ合いのバランスがどんどんいい形になってると思います。
自分たちがかっこいいと思ってる音楽をたくさんの人に聴いてもらわないと意味がないと思うので。(大澤)
―メジャーのフィールドに行きたいという思いは最初からあったんですか?
福永:前のインタビューでも言いましたけど、雨のパレードの目標として、幕張メッセをワンマンで埋めたいという思いがあったので。なので、ちゃんとマスにも向けた音楽を作りたいと思いつつ、でもだからと言ってメジャーデビューするからポップな方向に寄せようという意識はなくて。
―サウンドでその意思をしっかり示してると思います。
福永:メロディーや歌詞はポップを意識している部分がありますけど、オケに関してはメジャーでやるからといって迎合するつもりは一切ないんです。そこは曲げられないところだと思ってます。
―自分たちの音楽性の美学を貫かなければ、新世代の波は作れないと思ってるはずで。「誰かと一緒に盛り上げる」という意識ではなく、今はまだ孤独な戦いになることを覚悟してるだろうし。
福永:そうですね。しばらくは孤独な戦いになると思います。でも、僕らはクリエイティブな部分とポップな部分のせめぎ合いが、他の同世代のバンドよりもいいバランスで提示できると思っていて。だからこそ、新世代のアイコンになりたいし、シーンの先頭に立ちたいと思っているんです。前回の三宅さんのインタビューで「独立した存在でありたいと思ってるんじゃない?」って言われたじゃないですか。
―うん。
福永:あのとき確かにそうだと思って。自分のなかですごく納得したんですよね。
―どういう立ち位置のバンドでありたいとかメンバーとよく話したりもするんですか?
福永:全員がそろうと楽曲の話が中心で、個々で会ってるときは野心について話したりしますね。特にりょうちゃん(是永)とは二人になると立ち位置の話とかけっこうするんですよ。
―ああ、師匠とはそういう話をするんだ。そういうことをインタビューで言ってくださいよ。
是永:そうですよね。インタビューの場だと頭が回らなくて……。
一同:(笑)。
福永:りょうちゃんは僕にとって、音楽的にも、バンドの姿勢においても、アイデアマンみたいな感じなんですよ。
是永:(照れ笑い)。
―大澤さんとは?
福永:実音穂さんにはときどき説教じみたことを言われますね(笑)。曲のネタを持っていくと、「それはちゃんと大衆に向いてないんじゃないか?」って鋭く言ってきてくれたりとか。「コアなだけのバンドでは終わりたくない」って実音穂さんも言っていて、その通りだなと思って。
大澤:自分たちがかっこいいと思ってる音楽をたくさんの人に聴いてもらわないと意味がないと思うので。
―ホントに雨のパレードには攻めの姿勢のまま大衆性も獲得してもらいたいです。
福永:攻撃の手を緩める気持ちは一切ないので。このまま強気で、攻めの姿勢でいこうと思ってます。
―戦いが本格的に始まりますね。
福永:始まりますね。いよいよという感じです。
今のバンドシーンは「BPMが速い=派手な曲」と解釈してる人が多いじゃないですか。本質的な派手さやポップさって、そういうことではないと思う。(福永)
―最後にひとつ訊きたいんですけど、楽曲の様相として、陰影に富んだ表現がほとんどじゃないですか。開放であったり、陽性の表現に対する興味はないですか?
福永:それを描くのは次の段階なのかなって思ってます。夜ではなく、ちょっと昼っぽい曲もできてはいるんですよね。その出しどころはしっかり見極めたいです。
―たとえばBPMが速い曲には興味ないでしょう?
福永:(即答で)ないっす。
一同:(笑)。
福永:今のバンドシーンは「BPMが速い=派手な曲」と解釈してる人が多いじゃないですか。バンドもリスナーも。
―間違いないですね。それに、大衆に向けた音楽を作るとき、音を足すほうが王道なやり方だと思うけど、このアルバムは音数を引いていってるのが如実に表れている。それはやっぱり、すごく英断だと思いますね。
福永:僕は本質的な派手さやポップさって、そういうことではないと思うから。
―陰影に富んだ楽曲でもポップだと感じさせる可能性を雨のパレードは見いだせると思う。そのうえで表現性の振れ幅が広がっていけばいいなと。
福永:僕もそう思ってます。その自信があるし、これからそれを証明していきたいですね。
- リリース情報
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- 雨のパレード
『New generation』(CD) -
2016年3月2日(水)発売
価格:3,024円(税込)
VICL-645261. epoch
2. Tokyo
3. Movement
4. Focus
5. breaking dawn
6. novi Orbis
7. new place
8. 10-9(New recording)
9. 揺らぎ巡る君の中のそれ(New recording)
10. encore
11. Noctiluca
12. Dear J&A
13. Petrichor
- 雨のパレード
- イベント情報
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- 『雨のパレード ワンマンライブツアー』
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2016年4月2日(土)OPEN 18:00 / START 18:30
会場:大阪府 CONPASS2016年4月3日(日)OPEN 17:30 / START 18:00
会場:愛知県 名古屋 Vio2016年4月9日(土)OPEN 18:00 / START 18:30
会場:東京都 渋谷 clubasia料金:各公演 前売3,000円 当日3,500円(共にドリンク別)
- 『「New generation」リリース記念 インストアライブ』
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2016年3月24日(木)START 19:00
会場:大阪府 タワーレコード梅田NU茶屋町店イベントスペース2016年3月29日(火)START 19:00
会場:東京都 タワーレコード渋谷店 B1F「CUTUP STUDIO」
- プロフィール
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- 雨のパレード (あめのぱれーど)
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2013年結成。2015年7月1日にリリースした3rd mini Album 『new place』の表題曲“new place”がスペースシャワーTVのローテーション「it!」に選出、iTunes Storeでも大展開されるなど、インディーズながら耳の早いファンの間で広まり話題となる。同年10月に開催された『MINAMI WHEEL』では初出演ながら入場規制となる動員を記録、2016年2月~3月にかけて開催される『スペースシャワー列伝15周年記念公演 JAPAN TOUR 2016』に抜擢されるなど、大きな期待をうけるニューカマー。Vo.福永浩平の声と存在感、そしてライブパフォーマンスにおける独創的な世界観は中毒性を持ち、アレンジやサウンドメイキングも含めまさに「五感で感じさせる」バンドとして注目されている。
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