2016年1月に刊行された『かけがえのないマグマ 大森靖子激白』。シンガーソングライター・大森靖子の半生を、詩人・作家の最果タヒが聞き手となり小説として昇華させた作品だ。そして、3月23日にリリースされる大森靖子のニューアルバム『TOKYO BLACK HOLE』には、出産までの1か月を書いた大森自身の手による200ページにわたるエッセイも収録され、「言葉の人」としての大森の姿がより濃く浮かび上がってくる。音楽と詩、それぞれの分野において「言葉がほとばしる」表現を生み出す二人に、現代の「言葉」をめぐる状況を解き明かしてもらった。
大森さんに何を発信したいか聞いたら「ない」って言われて(笑)。でもそれは、普段から発信できているからだなと思ったんです。(最果)
―『かけがえのないマグマ 大森靖子激白』は、大森さんの半生を最果さんがインタビューして、その内容をベースに書き進めていったんですよね。
最果:そうですね。最初お話をいただいたときは、インタビュー集だったらもっと適任な人がいると思ったんです。でも、何かのインタビューで大森さんが「みんなが生きてることを音楽で伝えたい」という趣旨のことを言っているのを読んで、これを主軸に据えた小説であれば、面白いものが作れるかもしれないと思ってお引き受けしました。大森さんの言葉をただ書き写すというよりは、もっとメッセージ性の強い、バイブル的な本にしなきゃいけないなって。
―なぜインタビューではなく「小説」という言い方をしているのかと思ったんですけど、そういう経緯があったのですね。
最果:ただ、大森さんに何を発信したいか聞いたら、「ない」って言われて(笑)。でもそれは、本にするために考え直さなくても、普段から発信できているからだと思ったんですよね。それでまず、ご本人のブログやインタビューをさらってインパクトの強い話や感情に溢れたエピソードを整理して、その点と点をつないでいく作業をしていきました。
大森:そもそも私は、自分が何かをやりたいという意思があんまりないんですよ。「歌いたいなぁ」ぐらいしかないし、「他に今、こういうことをしてる人がいないからやろう」ぐらいの意識でずっとやってきたので。だから最果さんとの制作のプロセスも「私はこういう人間で、こういうことがありました」と伝言しているような気分でした。
―その具体的なエピソードをまとめるにあたり、どういうところを意識しましたか?
最果:大森さんは話を脚色しないんですよ。自分のことを冷静に捉えているのでそのトーンは残したいなと思って、大森さんが事実をどういうふうに認識しているのかを大切にして書いていきました。私も客観視しがちなところがあるので、タイプが似ていたんだと思います(笑)。
普通の人生を生きてきたから、自分のことを書くことに価値が感じられないんですよね。(最果)
―お二人ともご自身のことを「客観的」と認識した上でもの作りをするところが共通していますよね。
大森:私は他者を描かないと自分が入らないんです。自分のことを書くぞって思って作った歌なんて、気持ち悪くないですか? 「自分はこうだ」と歌っている曲を聴くと「知るか!」と思ってしまう。昔は勘違いされて、作品と人格を同一視されていましたけど、最近はさすがに少なくなりましたね。これだけ曲を書いたので、全部自分のことだったら「さすがに人格破綻してるでしょ」って(笑)。
最果:私も自分のことを書くことにそんなに価値が感じられません。だって普通の人生を生きてきたし、普通の話って面白くないじゃないですか。15歳の頃に書いていたブログも、大人に「自分にもそういう時期があったなあ」って感じてもらえたらと思っていましたし。
―「自分のことを表現したい」という欲求ではなく、お二人とも徹底的に「他者」を見ていると。その視点が徹底しているせいか、『かけがえのないマグマ』を読むと「大丈夫」って言われている気がするんですよね。大森さんが自分の成功例を上から示して「私がこうだから」と言うのではなくて、一人ひとりに対して「見てるよ」と言ってくれているような。
大森:それはメジャーに行ってから、私の仕事だと思ってやっています。それをわかってくれて、本にしてもらえたのは嬉しいですね。
最果:ここに書かれているのは大森さんの話なんだけれど、読んだ人が肯定されるようなものにしたいというか、大森さんの話が読んでいる人の話になるようなものを作りたいとうのはありました。
―それが、はじめに言った「バイブル」感というか、「生きてることを伝えたい」といったメッセージ性につながるわけですね。
大森:私は今まで、音楽で伝えられればそれでいいやと思っていたんですけど、本になってみてその広がりを見ていると、本じゃないと届かなかった場所があった。そこにいってくれたというのは本当に良かったですね。
ブログはわりと格好つけて書いていて、歌を作るときは「一番、本質のことをそのまま言っちゃう」ってことをやっている。(大森)
―間もなくリリースされる大森さんのニューアルバム『TOKYO BLACK HOLE』に同梱されたエッセイでは、大森さんがご自身の出産について200ページにわたって書かれていますよね。このエッセイを読んで、最果さんはいかがでしたか?
最果:もともと大森さんのブログがとても好きで、文体の生っぽさが心地いいんです。普通、人って整理整頓して書こうとするんですけど、それが全然ない。言葉そのものが生々しくて、奥のほうまで浸透してくる感じが今回のものにも共通してある気がしました。
大森:ありがとうございます。でも実は、ブログはわりと格好つけて書いていて、歌を作るときは「一番、本質のことをそのまま言っちゃう」ってことをやっているんです。でも、歌だけだとなかなかわかってもらえないから、どうにかこうにかブログで説明するってことをやっていて。今回のエッセイは「出産の記録」と言われるんですけど、実際のところ、妊娠や出産に関係していることははじめと終わりぐらいしか書いてないんですよね。体が動けなかったからその間の記録的な意味合いで、だからもっと日常のことを書いてる。書いたら書いたで、自分の考えが整理できたところはありましたけど。
最果:私もことさら妊娠や出産というベクトルに興味を持ったというよりは、大森さんの日常での思考回路を辿れたのが面白かった。もともと、人が日常について書いている文章を読むのが好きなんです。人は自分の人生しか生きられないじゃないですか? でも、文章を読む醍醐味って自分の人生に枝葉をつけるようなものだと思っているので。
大森:そういう意味では、今mixiが面白いですよ。ライブの感想が知りたくてネットで検索するんですけど、もはや私のライブの感想とかではなくて、会場に行くまでの道中のこととか、そこで見たものとかをどう感じたかを書いてあるのが今のmixi。
最果:私も昔はよく、見られることを全く前提にしていないような女子高生のブログとかが好きで読んでましたね。誰かを説得しようとしていない、独り言の延長線上で書いてるもののほうが面白いんですよ。今はみんな、見られることに意識的になりすぎているような気はします。面白いなって思う文章の人って、ネットに馴染んでないんですよね。
人間のダメダメな部分も「かわいい」って書くことによって、「世界よ、それを肯定しろ」っていうふうに思います。(大森)
―さきほど大森さんは、「歌を作るときは一番本質のことをそのまま言ってしまうけど、それだけ言っていてもわかってもらえない」とおっしゃっていました。言葉にはポジティブな力がある一方で、ネガティブな影響力もありますよね。大森さんのエッセイで「誹謗中傷にちゃんと傷つくよ」「自分に向けられる悪口がどんどん雑になってきている」という指摘が印象的でしたが、ネガティブな言葉についてどのように考えますか?
大森:最近までずっと嫌だったのは、「メンヘラ」って言葉でしたね。自分のことというよりも、「メンヘラが大森靖子の歌を聴いている」と言われるのが嫌で。今はもう「お前がメンヘラと言っている才能は、これぐらいのお金になる」って気がついたし(笑)、“マジックミラー”を作ってその境地から脱しましたが、私の音楽を聴いている人は最高にめちゃくちゃ面白い人しかいないし、そこを否定されたくないんですよ。この間、Twitterで「メンヘラだから大森靖子の音楽を聴いた」って自分でつぶやいているツイートを見つけたんですけど、そのツイートにはふわっとした絵文字がたくさんついていて(笑)。「メンヘラ」なんてそれぐらいの言葉なんですよね。ガチで薬を飲んでいるような人は、そもそも私の音楽なんて聴いてない。
最果:私も「メンヘラ」ってよく言われるんですけど、それって「イマドキですね」って言われているとしか思わない。「サブカル」とか「メンヘラ」って言葉は昔と違って当たり前になりすぎていて、今という時代性に引っかかるキーワードぐらいの意味しか持っていないと感じます。あとは、何を言われているかより、どういう気持ちで作品を批評する言葉が書かれているのかってことだと思うんですよね。善意があるか、悪意があるのか。作家としては「好き」って思って読んでくれる人の言葉を見ていればいいんじゃないかなって思っているんです。
大森:まあ、「メンヘラ」って枠のなかでしか自分の作品が評価されてないなら、そうじゃないものを作ろうとは思いますけどね。でもやっぱり、そういう細分化されたカテゴライズって本当に意味がないなと思います。ネットの世界のせいで、自分のオリジナリティーを見失いやすいんですよね。似た人とすぐに友達になれるから。
―『かけがえのないマグマ』のあとがきのなかで、大森さんは「オリジナルな愛し方をしよう」と書いていましたよね。その言葉につながるところがあるような気がしました。
大森:最近、「婚活」をはじめとする「~活」ってあるじゃないですか? でも、愛する行為ってもっとちょっとしたことの積み重ねだし、生産的な行為だと思うんですよね。面白いことをやって、相手を驚かせるとか。そうやっていろんな愛が生まれて、世の中が良い方向に向かっていく。それぞれの愛し方をしないとダメだと思うんです。「活動」にして一括りにしてしまうと、やっぱり社会全体が沈んでしまう気がする。いくら「婚活」で結婚する人が増えてもダメになる一方だと思うんですよ。
―それで思い出したのは、お二人の表現にはよく「かわいい」という言葉が出てくるってことで。この言葉は、全てを肯定する言葉というか、ある意味で「愛」そのものだな、って思うんです。お二人は自分たちの作品によって、世の中がどういう状態であってほしいと願っていますか?
大森:人間のダメダメな部分も「かわいい」って書くことによって、「世界よ、それを肯定しろ」っていうふうに思います。世界には「おもしろさ」ってたくさん溢れていると思うんですよ。でも尖ったものを上の人が丸めるように、世の中は作られているので、そうならないまま出てきたものが見てみたい。私は「気持ちいい」という感覚を大事にしてるんですけど、そういう世界が私は気持ちいいと思うし、好きだな、って思うんです。そうすると私みたいなやつがたくさん出てくるから危険といえば危険かもしれないんだけど(笑)。
最果:ものを作ることって、理想を押し付けることじゃないと思うんです。理想があるから自己嫌悪につながる。リア充じゃなきゃいけないから、毎日パーティーしなきゃいけないし、友達もたくさんいて、恋人もいなくちゃいけない。それができないと「コミュ障」ってなる。でも、そういうのっていらない。自己嫌悪しなくていいところで、みんな自己嫌悪してるなって。持たなくてもいいどうでもいい理想を言葉を用いた作品で打ち消せたらいいなって思っています。
- リリース情報
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- 大森靖子
『TOKYO BLACK HOLE』穴盤(CD+DVD) -
2016年3月23日(水)発売
価格:5,184円(税込)
AVCD-93389/B[CD]
1. TOKYO BLACK HOLE
2. マジックミラー
3. 生kill the time 4 you、、♡
4. 超新世代カステラスタンダードMAGICマジKISS
5. 愛してる.com
6. SHINPIN
7. さっちゃんのセクシーカレー
8. 劇的JOY!ビフォーアフター
9. ■ックミー、■ックミー
10. ドラマチック私生活
11. 無修正ロマンティック ~延長戦~
12. 給食当番制反対
13. 少女漫画少年漫画
[DVD]
1. “生kill the time 4 you、、♡”PV
2. “生kill the time 4 you、、♡”メイキング
3. “TOKYO BLACK HOLE”PV
4. “TOKYO BLACK HOLE”メイキング
5. 洗脳ツアーおふとん靖子ちゃん
6. 息子カメラ
7. マジックミラー(新宿降臨ver.)
8. 愛してる.com(●ver.)
※200ページ書き下ろしエッセイ、朝井リョウによる解説付き
- 大森靖子
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- 大森靖子 『TOKYO BLACK HOLE』黒盤(CD+DVD)
-
2016年3月23日(水)発売
価格:4,104円(税込)
AVCD-93390/B[CD]
1. TOKYO BLACK HOLE
2. マジックミラー
3. 生kill the time 4 you、、♡
4. 超新世代カステラスタンダードMAGICマジKISS
5. 愛してる.com
6. SHINPIN
7. さっちゃんのセクシーカレー
8. 劇的JOY!ビフォーアフター
9. ■ックミー、■ックミー
10. ドラマチック私生活
11. 無修正ロマンティック ~延長戦~
12. 給食当番制反対
13. 少女漫画少年漫画
[DVD]
1. “生kill the time 4 you、、♡”PV
2. “生kill the time 4 you、、♡”メイキング
3. “TOKYO BLACK HOLE”PV
4. “TOKYO BLACK HOLE”メイキング
5. 洗脳ツアーおふとん靖子ちゃん
6. 息子カメラ
7. マジックミラー(新宿降臨ver.)
8. 愛してる.com(●ver.)
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- 大森靖子
『TOKYO BLACK HOLE』東京盤(CD) -
2016年3月23日(水)発売
価格:3,024円(税込)
AVCD-933911. TOKYO BLACK HOLE
2. マジックミラー
3. 生kill the time 4 you、、♡
4. 超新世代カステラスタンダードMAGICマジKISS
5. 愛してる.com
6. SHINPIN
7. さっちゃんのセクシーカレー
8. 劇的JOY!ビフォーアフター
9. ■ックミー、■ックミー
10. ドラマチック私生活
11. 無修正ロマンティック ~延長戦~
12. 給食当番制反対
13. 少女漫画少年漫画
- 大森靖子
- リリース情報
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- 『かけがえのないマグマ 大森靖子激白』
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2016年1月30日(土)発売
価格:1,512円(税込)
発行:毎日新聞出版
- プロフィール
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- 大森靖子 (おおもり せいこ)
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1987年9月18日生まれ、愛媛県松山市出身のシンガーソングライター。武蔵野美術大学卒。大学進学をきっかけに上京し、高円寺を拠点として活動。弾き語りを基本スタイルに活動する、新少女世代言葉の魔術師。2014年9月のシングル『きゅるきゅる』でメジャーデビュー。2016年3月にアルバム『TOKYO BLACK HOLE』をリリース。
- 最果タヒ (さいはて たひ)
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詩人・小説家。1986年生まれ。『第44回現代詩手帖賞』『第13回中原中也賞』受賞。詩集に『グッドモーニング』(思潮社)、『空が分裂する』(新潮社)。『死んでしまう系のぼくらに』(リトルモア)で『第33回現代詩花椿賞』受賞。小説に『渦森今日子は宇宙に期待しない。』(新潮社)などがある。今春に新詩集『夜空はいつでも最高密度の青色だ』(リトルモア)が発売予定。
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