何でもかんでも「イエス」と言って頷く人のことを「お前はイエスマンだ」と揶揄することがある。「ノーと言える人になりましょう」なんて言われることもある。でも実際は臭い物に蓋をするように毎日毎日「ノー」ばかりを呟いて生きていたりもする。だからこそ、目の前にある世界を真っ向から肯定し「イエス!」と叫ぶ強さを持つ人を見ると、私は否応なしに美しいと思ってしまう。
イエスマンは、そういう意味でとても強くて美しいバンドだ。ギターレスの3人編成、紅一点ボーカル・sayoko NAGAMUUの舞うような佇まい、超ポップな楽曲たち……そのかわいらしさとは裏腹に、世界を全力で肯定してやろうと、まるで胸ぐらを掴むような勢いで立ち向かってくる。そして、悲しいことをただ悲しいと表現するのではなく、悲しさを感じる「心」が人生なんだと諭すような深さもある。
今のうちにチェックしておいて間違いない。このバンドは、近い将来、とても大きな場所で、「イエスと言ってみろ!」なんて叫びながら、肯定することの強さを響かせている気がする。
私は今、「みんなに幸せをわけてあげる!」くらいの気持ちがあるんです。(NAGAMUU)
―僕は3月の『exPoP!!!!!』で初めてライブを観て、曲も皆さんの存在感もすごくポップなんだけど、曲を作っているNAGAMUUさんがベーシストであることもあってか、雰囲気でポップさを出そうというより、肉体的なグルーヴをもって聴き手にダイレクトに突き刺していこうとする音楽になっていると思ったんですよね。
NAGAMUU(Vo,Ba):あぁ~、それはありますね。バンドを組む前からSPECIAL OTHERSやフィッシュマンズが好きで、ああいうバンドのグルーヴ感からの影響はありますね。あと、偶然観た環ROYさんのライブに衝撃を受けたんです。それからジャパニーズヒップホップにハマって、“なみだ風船”という曲ではラップっぽいことをやったりもしているんですけど、基本的に、イエスマンの音楽はポップスだと思っていて。ポップスじゃないところからもエッセンスをいっぱい持ってきて、ポップに昇華したいっていう気持ちがあるんです。
―SPECIAL OTHERSのようなインストジャムバンドや、環ROYのようなヒップホップからの影響がある中で、イエスマンのポップスとしての落とし所って、どこにあるんですか?
NAGAMUU:目指すべきはスーパーヒーローなんです。私たちが表現したいこと、伝えたいことって、突き詰めれば「幸せ」しかなくて、「みんなが私みたいに幸せだったらいいのに」って、いつも思っていて。
水井(Key,Cho):……すごいこと言っているけど、大丈夫?(笑)
左から:たかきひでのり、sayoko NAGAMUU、水井涼佑
NAGAMUU:大丈夫大丈夫。私は今、「みんなに幸せをわけてあげる!」くらいの気持ちがあるんです。本当は、落ち込んでいる人全員と話せればいいんだけど、そうはいかない。でも音楽なら、受け取ってもらえれば世界中の人とコミュニケーションが取れるじゃないですか。だから、聴いてくれた人を絶対的に「陽」に持ち上げたいという気持ちが常にあるんですよね。
初めてSPECIAL OTHERSのライブを観たとき、「こんなに幸せでいいの?」って思った。(NAGAMUU)
―ただ、歌詞を読む限りは「イエスマン」と名乗りながらも、そう簡単に「イエス」とは言わないんだろうなという部分が音に表れていると思ったんです。NAGAMUUさんが、軽い気持ちで「幸せだ!」と言えている人だとも思えないんですよね。「私はポジティブだ」と断言できる、そのスタンスって、ずっとあるものなんですか?
NAGAMUU:ずっとではないですね。音楽からもらったんです。昔はいわゆる中二的な音楽が好きだったし、「幸せになっちゃいけない」というか……「幸せです」って言ってしまうことに対して後ろめたさを感じていた部分があって。でも、初めてSPECIAL OTHERSのライブを観たとき、「こんなに幸せでいいの?」「こんなに幸せな音楽があるなら、みんな知ればいいのに」って思ったんですよね。
―SPECIAL OTHERSとの出会いが大きかったんですね。
NAGAMUU:そうなんです。だから、最初はイベンターになりたいって思ってたんですけど、ひょんなことからベースをやることになって、歌いたくなって、曲を作りたくなって……、その延長線上に今があります。
―そもそも「幸せだ」と言ってしまうことに後ろめたさがあったのは、どうしてなんですか?
NAGAMUU:なんでだろう? ……でも思春期のときって、異国の難民の人たちのことを考えて胸を痛めたりしませんでしたか? 私、高校生の頃、選択授業で取っていた福祉の授業がすごく好きで、外国でボランティアをしたいなって思ったりしていた時期もあったんです。あの頃は、自分は恵まれた生活をしているのに「私は幸せです」とは言えなかった。でも今は、「貧しい人たちは可哀想」とか勝手に相手のことを可哀想だと決めつけるのは嫌なんです。
水井:お金持ちでも不幸な人はいるもんね。
NAGAMUU:そうそう。幸せそうに見えても不幸な人はいるし、可哀想に見えても「幸せなんですけど」って思っている人もいるし。私も「可哀想」とか勝手に言われるのはすごく嫌だから、誰かを「可哀想」って思いながら「幸せです」って言うことに後ろめたさを感じていたこと自体が間違いだったんだなって思って。……たしかに、単純に「幸せです」っていうことだけを歌っているんじゃないのかもしれないですね。
ダメなところも含めて自分のことをちゃんと理解すれば、周りのことがわからなくても怖くなくなると思う。(NAGAMUU)
―「幸せだ!」と叫んで自分自身を肯定することが、悲観的な価値観が蔓延しがちな世の中に対しての、NAGAMUUさんなりの「反抗」なのかもしれないですね。今は「悲しい」とか「辛い」と言っているほうが真っ当とされてしまう世の中でもあるから。
NAGAMUU:そうかもしれないです。やっている音楽はポップスだけど、そういう反抗心みたいなものがあって。あと、自分が聴くのも、頭の中で鳴っている理想像も完璧な音楽だったから、結成当初はバンド編成もギターも入れようと思っていて、音楽として完成したものを作りたいっていう思いがあったんですよね。
―まぁ、SPECIAL OTHERSやフィッシュマンズの音の完成度はすさまじいですからね。
NAGAMUU:でも、イエスマンとして活動していくうちに、「ない」ことの良さが見えてきて。完璧じゃないことの美しさを受け入れられるようになったんですよね。全部の音が足りている完璧でかっこいいバンドって、他にもたくさんいるんですよ。それなら、完璧じゃなくても「この人たちじゃないとできないよね」っていう要素があったほうが私たちにとってはかっこ良かったんです。音楽としてというより、バンドとしてぐっとくるから。
―本当は、自分が納得できればそれが「幸せ」だし、音楽的に完璧ではなくても、最高のバンドは作れるんですよね。昔のNAGAMUUさんにしろ、多くの人が「自分は幸せだ」と言えない理由って、「幸せ」の完成形や、周りの人に「幸せそうだね」って言われることを求めているからだと思うんです。
NAGAMUU:曖昧なままでいいことって、沢山あるんですよ、きっと。人類なんて変な人だらけで人の心なんてわからないし、世の中は怖いことばっかりだけど、ダメなところも含めて自分のことをちゃんと理解すれば、周りのことがわからなくても怖くなくなると思う。
踏みとどまってしまっている人に対して、「本当にこのままでいいの? そこから踏み出そうよ」って言いたい。(NAGAMUU)
―今、話してくださったことって、“Googleダンス”の<そーゆー事にしたいみたい 曖昧な事を嫌うな>という歌詞とリンクすると思うのですが。
NAGAMUU:この曲は、勘違いされるかもしれないですけど、「検索ばっかりして!」とか「自分で考えなさい!」ということを言いたいわけではなくて。だって、私も調べるから(笑)。その「調べる」という行為自体を肯定したかったというか……調べるも調べないも、自分でちゃんと導くことができればいいんじゃない? っていうことかな。自分の中だけで悩んで考えていても何も解決しないし、わからないことって、人に会ったり、本を読んだり映画を観たり音楽を聴いたり……そういうことで解決していくものじゃないですか。
―うん、まさに。では“Googleダンス”は、検索ばかりしている世界への警笛ではなく、むしろ曖昧な世界に飛び込んでいく勇気を持てていない人に向けた警笛なんですね。
NAGAMUU:そうですね。自分の知っていることだけで自分の中の容量っていっぱいになっちゃいますよね。私は、自分の物差しだけで何かを決めつけてしまうのがすごく嫌なんです。私自身もそうだけど、「このままでいい」と思っている人って、たぶんいないと思うんですよ。そういう踏みとどまってしまっている人に対して、「本当にこのままでいいの? そこから踏み出そうよ」って言いたい。私は音楽を発信する側なので、「もし外に出たいのなら、手伝うよ」って。私は、このメンバーの中でも一番弱い人間だと思うし、「自分は弱いな」と思うことが多いからこそ、それを吹き飛ばしたいと思うわけで。
たかき(Dr):陰があるから陽があるっていうことだよね。
NAGAMUU:そう。「誰にも会いたくない」みたいな気分のときもあるけど、でも外に出ると、それはそれで「出てよかった」って思えるじゃないですか。だからとにかく解放したいんです。“Googleダンス”の歌詞の最後は<Let's go>だし。
―<Let's go>が、NAGAMUUさん自身にも向けられている言葉だとしたら、歌詞に過去を後悔するような描写が多いこともそこに関係していますか? たとえば、“もしもタリラッタ”の冒頭<あと10cm背が高かったら 引っ掛かった風船もとれたかな? そしたらあさみちゃんと仲直りして 今のこのモヤモヤも飛んでくんかな?>というラインとか。ご自身の過去からも解放されたいと思っているように聴こえるんです。
NAGAMUU:あぁ……どうだろう。でも、子供の頃に初めて喧嘩した衝撃とか、そういうのって覚えてないですか? 同窓会で、急に「あのときごめんね」なんて言われたりっていうこともよくあるし。人って、傷ついたこととか、傷つけたことって、振り返ってしまうものなんだと思う。……あと、私自身が、まだ大人になりきれてないのかも。自分の年齢に心が追いつかないんですよね。あまり意識していない部分だったから、今言われてハッとしましたけど。あと、今が幸せだから、子供の頃の私に教えてあげたいっていうのもあると思う。「大丈夫、超ハッピーになれますよ」って。
聴いた人に「いい」って言われて、初めて自分でも「いいんだ」って思える。(NAGAMUU)
―これまでの話を聞いてわかったのは、NAGAMUUさんは自己完結せずに、周りとの関わり合いの中で自分の輪郭を作っていきたい人なんだろうなと。そう考えると、なんでバンドという表現形態を選んだのかもよくわかりますけど、男性陣から見て、NAGAMUUさんはどんな人ですか?
NAGAMUU:怖い質問! うひょー!
水井:さっき、自分で「一番弱い」って言っていたけど、全然そんなことないですね。このバンドの中では一番ものを考えているし、大人だなって思います。「我慢できる人」なんですよね。自分で曲を作って、バンドのコンセプトも考えているのに、こちら側の意見も一度考えて、受け入れようとしてくれる。寛大なんですよ。
―懐の大きさは音楽からも感じますね。
たかき:でも、昔はそうじゃなかったんですよ。もっと尖っていて、「嫌なものはや嫌だ」っていう感じだったと思う。
NAGAMUU:今でも嫌なものは嫌だよ。でも、自分だけがやりたいことならバンドではやらない。イエスマンはバンドだから、メンバーが曲に対して「こう思う」って言ってきたら、1回聞くし、それが嫌なら、なんで嫌なのかを考えて、ちゃんと伝えないといけないから。私も、別に二人のことを100パーセント正解だとは全然思っていないし、「何言っているんだろう?」って思うことも多々あるけど(笑)、でも信頼しているので。だから、このバンドでやっていきたいと思っています。
―いい関係性ですね。イエスマンは、この先、バンドとしてどうなっていきたいですか?
NAGAMUU:言っちゃっていいのかな?
―言っちゃってください。
NAGAMUU:国民的なバンドになりたいです。「こんなにはみ出した国民的な存在がいるのか?」って思われたい(笑)。そのためにいい曲を書いて、いい演奏をして、広めていきたいですね。受け取ってくれる人がいないと音楽は成り立たないし、聴いた人に「いい」って言われて、初めて自分でも「いいんだ」って思えるので。なので、ちゃんと受け取ってもらえる場所に行きたい。そのためには有名にならないと意味ないので……がんばります!
- イベント情報
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- イエスマン×ビートハプニング!企画
『UMARETAYO!HAPPENING!』 -
2016年5月3日(火・祝)OPEN 17:30 / START 18:00
会場:東京都 渋谷 LUSH
出演:
イエスマン
ヘンレの罠
クチナシ
and more
料金:前売2,200円 当日2,500円
- イエスマン×ビートハプニング!企画
- アプリ情報
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- Eggs
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アーティストが自身の楽曲やプロフィール、活動情報、ライブ映像などを自由に登録・公開し、また、リスナーも登録された楽曲を聴き、プレビューや「いいね」等を行うことができる、アーティストとリスナーをつなぐ新しい音楽の無料プラットフォーム。登録アーティストの楽曲視聴や情報は、「Eggsアプリ」(無料)をダウンロードすると、いつでもお手もとでお楽しみいただけます。
- プロフィール
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- イエスマン (いえすまん)
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2013年に活動開始。2014年にメンバーチェンジを経て現在のsayoko NAGAMUU、たかきひでのり、サポートメンバーの水井涼佑(123の八)の三人編成に。2015年には『SMA HARENOVA』に出演し、その後、大阪のサーキットフェス『見放題』の東京初開催に伴うオーディションを勝ち抜き『mihoudai.tokyo』に出演。現在デモ盤『kikikiki』、『赤黄青盤』、『くりだせ!ムーンナイト盤』の三枚を発表している。
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