昨年CDデビューを果たしたAwesome City Club(以下、ACC)は、そのバンド名もあって、いわゆる「シティポップブーム」の中で語られることの多いバンドだった。しかし、ブーム再燃のきっかけとなったceroが「シティポップ」という言葉と向き合って素晴らしい作品を作り上げた一方で、新世代の筆頭とも言うべきSuchmosが<cityなんかよりtownだろ>と歌うなど、現在は多くのバンドが「シティポップ」という枠に収まることなく、それぞれの道を歩み始めている。そして、前作のラストを“Lullaby for TOKYO CITY”という曲で締め括ったACCもまた、改めて自分たちの道を歩み、難産の末に新作『Awesome City Tracks 3』を完成させた。
そんな現在のバンドにおいてキーパーソンとなっているのが、ボーカルとシンセサイザー担当のPORINではないかと思う。デビュー時よりそのキュートなビジュアルが注目を集め、ステージでも重要な役割を担っていたが、最近のライブではその存在感が格段に大きなものとなり、「可愛らしさ」以上に「強さ」を感じさせる。今回の取材では、デビュー以降のPORINの変遷を軸に、メンバー三人に話を聞いた。
「周りが作り上げたPORIN像に対して誠実に応える」みたいなことが、虚しいなと思うようになって。(PORIN)
―先日観させてもらった『VIVA LA ROCK』(5月28日、29日にさいたまスーパーアリーナで開催。ACCは28日に出演)でのライブがすごくよくて、特にPORINさんのパフォーマンスが以前より開けていたのが印象的でした。
atagi(Vo,Gt):最近いいライブができるようになっていて、バンドとしても勢いに乗ってきていますね。特に「PORIN覚醒期」みたいな感じはあります(笑)。
マツザカ(Ba,Synth,Rap):PORINはサナギの状態が長かったね(笑)。
PORIN(Vo,Synth):『CONNECTONE NIGHT』(5月6日に渋谷CLUB QUATTROで開催。所属レーベルのイベント)がすごく大きかったんですよね。あそこで気づきがあって、自分もバンドも変わったと思います。
左から:ユキエ、マツザカタクミ、PORIN、atagi、モリシー
―その「気づき」というのは?
PORIN:すごくシンプルなんですけど、「どれだけ素の自分で歌を歌えるか」ということだと思います。そこに気づけたのは、今回のアルバムを作ったことともすごく関係しているんです。初めて自分の言葉で自分の気持ちを書いたんですけど、その曲は、やっぱり歌ったときに特別な強さがあるんですよね。
―これまでは「素」とは逆に、「作ろうとしちゃってた」ということでしょうか?
PORIN:そうですね。もともと「周りが作り上げたPORIN像に対して誠実に応える」みたいなことをずっと繰り返しやってきて、昔はそれが楽しかったんですけど、だんだん楽しくなくなってきてたんです。やっぱり、作られた自分は虚しいなと思うようになって。
―そもそも最初の「PORIN像」というのはどんなイメージだったのでしょうか?
マツザカ:“4月のマーチ”(1stアルバムのリード曲)で歌われている女の子のイメージを背負わせちゃってたんだと思います。あの曲は、「ACCのことを女の子にもわかってもらえるように」という思いで言葉を詰め込んでみたんですけど(“4月のマーチ”はマツザカがメインで歌詞を書いている)、男の人が書く女の人の歌詞って、実際女の人が書く歌詞より乙女というか(笑)。もちろん、それは悪いことではなくて、PORINのビジュアルと詞の世界観がマッチしていたから、あの曲はたくさんの人に聴いてもらえたんだと思うんです。ただ、たとえばInstagramをやってるPORINとステージに立ってるPORINが、なんとなく違うように見えて気持ち悪かったんですよね。「違いは何なの?」ってPORINに聞くと「ない」って言うんだけど、他のメンバーから見ると明らかに何かが違ってて。
―ステージ上だと、無意識に作っちゃってたってことなんでしょうね。だとすると、PORINさんとしては結構辛い時期も長かったんじゃないですか?
PORIN:めちゃめちゃしんどかったですね。毎日しんどかったけど、その分『CONNECTONE NIGHT』でいいライブができたときはめちゃめちゃ嬉しくて、「これでいいんだろうな」って思えたんです。あの日は自分だけじゃなくて、バンドの意識もすごく高かったんですよ。「ここで決めなきゃまずいだろ」みたいな、気合いも入っていて。
マツザカ:ぶっちゃけて言うと、ステージに出る前に「この曲のこのタイミングでこっちに動いて」みたいな台本を完璧に作ってた時期もあったんです。でも、やっぱりそういうのって意味なくて、その場の空気を読んで、何を発信できるかが大事なんですよね。
―演じるのが得意なタイプのパフォーマーもいると思うけど、PORINさんはそういうタイプじゃなかったってことかもしれないですね。
PORIN:もともとその人の素が出ているようなアーティストが好きだったし、そういうアーティストになりたいと思ってたんです。私は器用なタイプじゃないので、言われたことを100%やるのは苦手だし、いつも想像の範囲内で終わってたんですよね。それじゃあお客さんにも伝わらないよなって、最近になってやっと気づきました。
atagiは「歌が上手い人担当」、PORINは「ビジュアル担当」みたいになっちゃってたのが、いまは互いがその両面を頑張っていて、すごくいい感じになってきた。(マツザカ)
―「PORIN覚醒期」の理由として、ここまで話してもらった意識の変化と、あとはatagiくんとの相乗効果も大きかったんじゃないかと思うんです。『VIVA LA ROCK』のライブでは二人がやり合うようにパフォーマンスをしていて、それによってステージングもどんどん開かれていったんじゃないかなって。
atagi:どうですか?
PORIN:「負けてらんねえな」っていうのはずっと思ってます(笑)。atagiがここでシュートを決めたら、その上をいくかっこいいシュートを決めてやるみたいな。
マツザカ:スポ根みたいでいいね(笑)。
PORIN:でもホントに、いつもそう思ってる。
―『VIVA LA ROCK』のときは、その感じがすごく出てたんですよね。
マツザカ:実は前まではドラム以外の四人が一列に並んで演奏していたんですけど、二人がやり合ってる感じを出したいと思って、僕とモリシー(Gt)がちょっと後ろに下がる立ち位置にしてみたんです。それによってatagiは、これまでPORINが担ってた部分を自分もやらなきゃって思うようになったんじゃないかな。atagiは「歌が上手い人担当」、PORINは「ビジュアル担当」みたいになっちゃってたのが、いまは互いがその両面を頑張っていて、それですごくいい感じになってきたのかなって思います。それは、“Don't Think, Feel”のMV撮影中にも思いました。
―確かに、“Don't Think, Feel”のMVはすごく印象的でした。実際PORINさんは撮影でどんなことを意識しましたか?
PORIN:MV撮影のときもライブと一緒で、「絶対かましてやろう」と思ってましたね。
atagi:ガシガシ踊ってたりして、いままでのMVよりワイルドな感じが出てると思うんですけど、僕らが普段見てるPORINと違和感がないというか。
PORIN:素ですね、今回の方が。
マツザカ:今回はホントはっちゃけてましたね。モデルの子たちがワイワイやってくれてる中で、PORINにも火が点いたのか、言われてもないのに服持ってブンブン振り回してたし(笑)。
atagi:あの撮影の前日に、メンバーみんなで以前僕が働いてたソウルバーに行ったんですよ。年配の方たちがソウルでグイグイ腰を揺らして踊ってるような場所で、結構みんなカルチャーショックを味わったみたいなんですけど(笑)。あの空気をみんなで共有したことによって、曲が本来持ってるリズム感とかグルーヴも共有できて、自然と撮影でもはっちゃけることができたのかなと思いますね。
―フェスだとどうしても画一的なのり方になっちゃうみたいな話もよくあるけど、ソウルバーに通ってる音楽好きの先輩方のように、自由に踊れる空間になるといいですよね。
atagi:そうなんです。ソウルバーで踊ってる人たちって、さらけ出し方、発露の仕方が上手なんですよね。僕らのライブに来てくれるお客さんも、かしこまらず、身勝手に踊れるような空間を作っていきたいなって思います。
言葉でちゃんと人の心を揺さぶって、心も躍るし体も踊れる、ホントのダンスミュージックを目指そうと思いました。(atagi)
―『Awesome City Tracks 3』を作るにあたっては、どんな青写真を持っていたのでしょうか?
atagi:実は、2作続いた『Awesome City Tracks』というナンバリングから抜け出そうっていうのが最初の合言葉だったんです。「もうAwesome City Tracksは嫌だ」って。
―でも、結果的にそうはならなかったと。
マツザカ:いま考えると、変化することに固執しちゃってたんですよね。ACCの音楽に対するイメージができてきて、そこには僕らの「秘伝のたれ」みたいなものがちゃんとあったはずなのに、それを使わずに新しいことをやろうとして、どれだけ頑張ってもなんか美味しくならなくて。なので、一回アルバム1枚分の曲ができてたんですけど、全部やめて作り直したんです。もう一回秘伝のたれを使って、もっと美味しい飯を作ろうって。
atagi:その上で、いままでできなかったことをやろうと思ったときに、それが「心を揺さぶる歌詞」だったんです。いままでは「踊れるサウンド」っていうのがずっと頭にあったんですけど、僕らのやってることって、サウンドと言葉が一緒のものだし、言葉でちゃんと人の心を揺さぶれるようになりたいなって。心も躍るし体も踊れる、ホントのダンスミュージックを目指そうと思いました。
―その中で、今回はPORINさんが2曲で歌詞を書いていて、高橋久美子さん(ex.チャットモンチー)との共作になっていますね。
PORIN:自分で歌う曲は自分で歌詞を書きたいという意志が出てきて、まず“Vampire”を書き始めたんですけど、一人だと満足のいくレベルに達しなかったので、久美子さんにお願いしました。すごい背徳的な歌詞なんですけど……(笑)。
―いろんな受け取り方ができますよね。僕は「不倫の歌なのかな?」って思った。
PORIN:いま流行りの(笑)。私、映画をイメージして書くことが多いんですけど、最初は『シザーハンズ』のイメージだったんです。あとはもともと自分がこういう報われない恋……って言うとなんか気持ち悪いですけど、そんな恋愛をしていたので(笑)。ただ、あまりリアルな言葉では書きたくなかったので、「Vampire」というたとえを使いました。ファンタジーの要素は絶対に必要だと思っていて、そこにリアルな心情を組み合わせたんですけど、ここにも表れていますね……着飾らずに、素でいいやって。
恋愛の曲を書くのが苦手なバンドって多いと思うんですけど、「恋愛のことを書けずに、よく音楽語れるな」くらいの感じに思えてきて。(atagi)
―今回のリード曲になってる“Vampire”と“Don't Think, Feel”って、どっちもラブソングじゃないですか? それってすごく意味があるなと思うんです。言ってみれば、前作の“Lullaby for TOKYO CITY”を経て、いわゆる「シティポップ」とか、インディーっぽい括りに別れを告げて、もっと多くの人に届けるんだっていう意志を感じたんですよね。
マツザカ:確かに、そこまで明確にそう思っていたわけではないですけど、そういう感覚はみんなあった気がします。
atagi:このバンドを始める前は、恋愛の曲を書くのが苦手だったんです。たぶんそういうバンドって多いと思うんですけど、恋愛のこととか、当たり前に経験してることをちゃんと歌にできるのって、すごい才能だなと思うようになってきて。ちょっと大げさに言えば、「恋愛のことを書けずに、よく音楽語れるな」くらいの感じに思えてきて、日頃思ってることを、ちゃんと自分の言葉で伝えられるようになりたいということに重点を置くようになってきたんだと思います。
―“Vampire”はまさにPORINさんの素の恋愛観が出てると言ってましたが、同じく久美子さんと共作した“エンドロール”もそうですか?
PORIN:めちゃめちゃ素だし、よりリアルな歌詞です(笑)。<どこにも答えがないのは きっと何にも始まってなかったから>っていう一節を久美子さんが書いてくれたとき、「なんでこんなに私のことわかるんだ?」って、ヒヤッとしました(笑)。
atagi:“Vampire”と“エンドロール”に共通して言えるのが、久美子さんも歌詞を考えてくださってるときに、自分事として捉えて、一生懸命言葉を紡いでくれた跡を感じるんですよね。じゃないと、二人が一緒に歌詞を書くのって、実はすごく難しいことだと思う。
―「いかに自分事として捉えるか / 捉えられるか」って、いまいろんな表現のキーワードかもしれないですね。
PORIN:私、最近になってようやくACCが自分事になりました。そういうことなんです、「変わった」っていうのは。人から「自分事で考えろよ」って言われても、そこってコントロールできないじゃないですか? でも、いまは自分事だってはっきり言えるようになったんです。
―atagiくんの歌詞でいうと、ラストの“Around The World”が印象的でした。
atagi:これもホントに着飾らずに、ありのまま、何の気負いもなく書きましたね。この曲のメッセージが僕らのいまのリアルなモードで、気が早いけど、次の作品への架け橋になったらいいなと思って、最後の曲にしました。
マツザカ:普段は先にメロだけあって、あとで言葉を乗せるんですけど、この曲の頭の<around the world 今 僕らはまだ 旅の途中で>という言葉だけは最初から乗っていて。すごくリアルな歌詞だなって思ったんですよね。
―このタイトルも、前作の“Lullaby for TOKYO CITY”からの広がりが感じられます。
atagi:そうですね。1枚目のラストの“涙の上海ナイト”は、実際に見たことはないけど、すごく素敵に見えるどこかの街をモチーフにしていて、2枚目のラストの“Lullaby for TOKYO CITY”はいまいる場所を描いて、“Around The World”はこれから先のことを見ているというか。<人に決められた幸せで 生きるなんて寂しいから 誰も見たことのない場所へ行こう>っていう歌詞は一番最後に書いたんですけど、いい景色を見るためには自分たちで舵を取ることが絶対必要だなって。「意志なき中に喜びはない」って思うんですよね。
いま男尊女卑について書きたいと思っているんです。(PORIN)
―結局今回も『Awesome City Tracks 3』というナンバリングになったのはどのタイミングだったんですか?
atagi:全部完成して、「じゃあ、タイトルどうしよう」って話になったときに、そこから振り返ると「Awesome City Tracksにするかしないか」って話がすごく些細なことに思えたし、回りまわって『Awesome City Tracks 3』が一番筋が通ってるような気がして。
―アートワークは今回からYOSHIROTTENさんが手掛けていて、これまでとは少しテイストが変わりましたね。
Awesome City Club『Awesome City Tracks 3』ジャケット
Awesome City Club『Awesome City Tracks』ジャケット
マツザカ:これまでの大原大次郎さんのジャケットは、もうちょっとオーガニックというか、暖かい感じの肌触りだったと思うんですけど、モード的にもっとパキッとして、色味が複雑なものの方が今回のアルバムには合うんじゃないかと思ったんです。これ実写で、実際にクリスタルに色を反射させて、それを写真で撮ってるんですよ。
PORIN:ちょうど『CONNECTONE NIGHT』の前日にこのジャケットが上がってきて、すごく感動したんです。YOSHIROTTENさんがACCのことを自分事として捉えてくれていて、意思とか想いが入ってるのがわかったから。それに影響されて、『CONNECTONE NIGHT』はさらに気合いが入った部分もありますね。
―この先さらにPORINさんの意識が変わって、書く歌詞にも変化が出てきたりするかもしれないですね。
PORIN:私、いま男尊女卑について書きたいと思っているんです。
―おお、それはなぜ?
PORIN:日々感じてるからですね。そう感じるようになったのは、それだけ自分が強くなってきたからなのかもしれない。これまでは、女であることに甘えてた気がするんです。男性の方が賢いし、敵わないなって部分が多いと思ってたんですけど、それに対して苛立ちを感じるようにもなってきて、その悔しさが原動力になってきてるんですよね。
―めちゃめちゃ頼もしくなってきてますね。まずはそのパワーがリリース後のツアーや夏フェスでどう発揮されるのかを楽しみにしてます。
- リリース情報
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- Awesome City Club
『Awesome City Tracks 3』(CD) -
2016年6月22日(水)発売
価格:2,160円(税込)
VICL-645721.Into The Sound
2.Don't Think, Feel
3.Vampire
4.Moonlight
5.ネオンチェイサー
6.エンドロール
7.Around The World
- Awesome City Club
- イベント情報
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- 『Awesome Talks -One Man Show 2016-』
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2016年6月25日(土)OPEN 17:30 / START 18:00
会場:大阪府 心斎橋 JANUS2016年6月26日(日)OPEN 17:30 / START 18:00
会場:愛知県 名古屋 JAMMIN'2016年7月3日(日)OPEN 17:30 / START 18:00
会場:福岡県 Drum Be-12016年7月8日(金)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:東京都 恵比寿 LIQUIDROOM
- プロフィール
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- Awesome City Club (おーさむ してぃー くらぶ)
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2013年春、それぞれ別のバンドで活動していたatagi(Vo,Gt)、モリシー(Gt,Synth)、マツザカタクミ(Ba,Synth,Rap)、ユキエ(Dr)により結成。2014年4月、サポートメンバーだったPORIN(Vo,Syn)が正式加入して現在のメンバーとなる。「架空の街Awesome Cityのサウンドトラック」をテーマに、テン年代のシティポップをRISOKYOからTOKYOに向けて発信する男女混成5人組。2015年、ビクターエンタテインメント内に設立された新レーベル「CONNECTONE(コネクトーン)」の第一弾新人としてデビュー。2016年6月22日に、3rdアルバム『Awesome City Tracks 3』をリリースし、初夏に全国ワンマンツアーを開催することを発表している。
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