同世代のeimieが語る、SuchmosやD.A.N.らが若者に愛される理由

優れたポップを産み出すのは、いつだって根無し草の旅人たちだ。激しく移り変わる時代の中で、より良いものを、より新しいものを求めて時代に抗うように変わり続ける彼らは、特定の何かを代弁しないからこそ、人種や国境、あらゆるイデオロギーを越境して、人々に問いかけることができる。

ここに紹介するシンセポップユニット・eimieの首謀者であり、コンポーザーである女性、AMYもまた、そんな旅人の一人だ。故郷を離れ、日本人でありながらも英語を操り、メランコリックなシンセポップを鳴らす彼女もまた、常に新しいものを求め続ける旅人であるからこそ、聴き手に問いかけることができる……「ねぇ、変わろうよ」と。

時代が混迷すればするほど、表現は先鋭化されていく。1960年代のアメリカも、70年代のドイツもそうだった。そして今、日本がその真っただ中にあるのだろう。何かがおかしくなっている。もう、終わりに向かっている? ……まさか。夢はまだ見ることができる。だって、私たちには創造力があり、想像力があるのだから。音楽が存在することの希望を手放そうとしない新世代の言葉、しかと受け止めてほしい。

「伝えたい」という意識は、私だけではなくて、同世代の人たちに共通してあるものなのかなって思います。

―eimieの音楽を聴いていると、目の前にある日常の中に、違ったレイヤーの日常が生み出されていく感覚を覚えるんです。AMYさんにとって、音楽を鳴らす原動力はどこにあるんですか?

AMY:既存の価値観を取っ払いたいという気持ちは、音楽を始めた頃からありましたね。私はPHOENIXやPASSION PITみたいな洋楽アーティストがすごく好きだったんですけど、周りにはメロコア系のバンドマンの友達が多くて、その友達のライブにもよく行っていたんです。最初はモッシュやダイブをしていれば楽しかったんだけど、段々と「なんか違うな」と思うようになって。その違和感を自分で直してみようと思ったところが、最初の原動力ですね。

AMY
AMY

―その違和感って、具体的に何だったんですか?

AMY:英語で歌う人が多かったんですけど、伝える内容や言葉のニュアンスに、どうしても足りないところがあると思ったんです。日本人のミュージシャンが歌う英語って、言葉の切り方がちょっと変だったり、本来は使わない単語を入れてしまったりするので、ネイティブの人の耳にスッと入りづらいんですよね。それが少しだけ直れば、日本の音楽はもっと世界で広まるのになと思って。

―日本人ミュージシャンが英語で歌うときに発音や語法を細かく気にしないのは、言葉の意味よりも「日本で英語の歌を歌っている」という事実に価値を見出している場合もあるからだと思うんです。英語で歌ってはいるんだけど、根底にはドメスティックな価値観がある。でもAMYさんは、あくまでもポップミュージックの世界共通言語として、英語を使っているということですよね。

AMY:そうですね。私はハリウッド映画や海外ドラマがすごく好きなんですけど、たとえば『ゴシップガール』の挿入歌には、スウェーデンやドイツやフランスのような、英語圏じゃない国のミュージシャンが歌う英語の曲も、当たり前のように馴染んで入っているんですよ。でも、そういう日本人はほとんどいない。今、日本で音楽をやっている方も、十分かっこいいとは思うんですけど、海外には伝わらない文化になってしまっているというか……「それでもいいや」って、ぬるま湯に浸かってしまっている部分もあると思っていて。でも、ちゃんと伝わる英語で歌えば、外国の人もライブに来たり、CDを買ってくれるかもしれない。もっといいことあるのになって思うんです。

AMY

―AMYさんは、音楽を伝えていく場として海外も当たり前のように認識されているんですね。でも、そこまで細かく英語を理解できるということは、AMYさんって、ハーフとか?

AMY:いえ、生粋の日本人です(笑)。英語は大学で勉強して、1年間、カナダのバンクーバーに留学もしました。大学を卒業したあとは、大阪で英会話教室の先生として就職していたくらい、英語が好きだし、得意なんです。そもそも地元は長野なんですけど、私の実家があるのは標高1200メートルにある、電車も1時間半に1本しか来ないようなド田舎なんですよ。人口3000人くらいの小さい村で、周りの人はみんな知り合いっていう感じで、凝り固まった習慣が根強いというか……日本の古きよき文化を引き継いでいるがゆえに、新しいものに馴染めていかない感じがあって。そこから早く出たいっていう気持ちが、物心ついたときからずっとあったんですよね。

―地元の閉鎖された村社会が、AMYさんの目を外国のカルチャーに向けさせたんですね。

AMY:そうなんです。それに昔から、私には英語のほうが自分の考えていることを表現しやすいなっていう気持ちがあって。私は日本語が下手というか(笑)……日本語文化には、どうしても「含み」があるから、躊躇して言えないことがたくさんあったんです。でも、英語ではそんなの関係なく、言いたいことを言えるんですよね。

―AMYさんは、英詞で歌いながらも、「言葉」に表現の重きを置いているし、「伝えたい」という気持ちが強い?

AMY:そうですね。eimieはまだ、今までの日本の音楽になかった雰囲気を珍しがって聴きに来てくれる人が大半で、歌詞の内容にはそこまで執着されていないと思うんですけどね。私はTempalayというバンドのサポートをやっていて、3月に彼らとニューヨークからロスまでアメリカツアーをしたんです。そのときにeimieとしてもパフォーマンスをやらせてもらったんですけど、反響が日本よりも圧倒的によくて。やっぱり間違ってなかったなって思いました。でも、「伝えたい」という意識は、私だけでなくて、同世代の人たちに共通してあるものなのかなって思います。

よく集まって話します。「自己満足だけじゃなくて、ちょっとでも周りをよくするために私たち世代が頑張って何かを伝えようとすれば、未来はよくなるよね」って。

―20代前半~半ばくらいのミュージシャンたちに「伝えたい」という意識が強くあるというは、具体的にどういった部分で感じますか?

AMY:たとえばSANABAGUN.とか、言いたいことをズバズバと言いますよね。他にも、never young beachやYogee New Wavesも、歌詞がかっこいいなって思うんですよ。ちゃんとメッセージ性があるし、シンプルな言葉の奥に、考えている芯があることがわかる。彼らが、ルーツにある山下達郎さんとかの音楽を知らない中高校生からも人気があるのは、時代性を反映した「言葉」がちゃんとあるからだと思うんです。そういう人たちが出てきたからこそ、今、みんな「言うぞ!」っていうモードになっているんじゃないかなぁ。

―そういったモードは僕も強く感じます。やっぱり、当事者たちの間でも同世代意識はあるんですね。

AMY:うん、すごく感じます。あと、4月の『exPoP!!!!!』で共演したD.A.N.や小林うてなちゃん(D.A.N.のサポートメンバーを務める)からもすごく衝撃を受けていて。彼らは観るたびに「世界中の人が観に来たらいいのに!」って思うぐらい、新しくて、刺激的で、パッションが詰まったライブをするんですよね。それに、ああいう音楽でスティールパンを使っている人なんて、今までいなかったじゃないですか。そもそもうてなちゃんがスティールパンを持とうと思った、その新しさがもう好奇心をそそりますよね(笑)。

―D.A.N.や小林うてなさんがスティールパンを必要とした理由と、AMYさんがネイティブな英語を必要とした理由って、きっと根底は一緒なんですよ。新しい生き方や価値観を提示するために、新しい手法が必要だったんじゃないですかね。

AMY:本当にそう思います。音楽のジャンルはそれぞれ違うけど、私たちにはビジョンがある。時代って、政治や経済、すべてが絡んで流れていくものだから、時代が進めば、既存の価値観や概念に違和感を持ち始める人が出てくるのは当然だと思うんです。でも今の日本は、みんなそれを知っているにもかかわらず、変わろうとしてない感じがして。何かを変えないと破綻してしまう大変な未来が待っているのに、なんで今、みんな変わろうとしないんだろう? って思うし、逆に今何かに気づいて変わっていける人が、この先の未来を作っていくんだと思う。

―そういう話って、同世代のミュージシャンたちとよくするんですか?

AMY:私はSuchmosやyahyelとも仲がいいんですけど、他にも映像作家の人とか、新しい表現を作っている人たちで集まって話したりしています。「自己満足だけじゃなくて、ちょっとでも周りをよくするために私たち世代が頑張って何かを伝えようとすれば、未来はよくなるよね」って。もちろん、ベースには「楽しく音楽をやりたい」っていう気持ちがあるんですけど、聴いた人が次の日から新しいことに挑戦したり、新しい視点でものを見たりすることができる原動力になれたらいいなって思いますね。

私たちはあくまで「新しい」ヒッピーだと思うんですよね。

―“Chime”のMVでは、AMYさんが街を徘徊していますよね。あの感じって、今の社会の閉塞感をすごく表しているなと思ったんですよ。

AMY:“Chime”のMVは、日常の嫌なことを我慢しながら生きている女の子の姿を描いているんですけど、曲自体は日本のサラリーマンの歌なんです。私は大学生のころに日本の風俗店についての論文を書いたんですけど、日本の風俗店の数って、アメリカとかと比べても数が異常に多いんですよ。お客さんは大体サラリーマンなんですけど、彼らは日々のストレスの発散場所を求めているし、言えないことが募ってしまう心理状況がある。それって、やっぱり異常ですよね。勤勉に仕事を全うすることはかっこいいことだけど、自分にフィットしない仕事や考え方を無理に受け入れながら生きているのはどうなんだろうって思うんですよ。答えはひとつじゃないし、自分に合った答えを導き出すべきなんじゃないかなって。

―MVの中で、街を歩き回るAMYさんはイヤホンを付けていますよね。つまり、社会と個人との間に「音楽」が存在しているということだと思うんですけど、今の世の中の閉塞感に対して、音楽は人に何を与えることができると思いますか?

AMY:私は、音楽って答えを提示しないまま「考えさせる」役割を果たしてくれると思っているんです。例えばPASSION PITの“Take a Walk”という曲は、「おうちのローンもあるし、家族もいるのに、買った株が暴落した~」っていう歌詞の曲なんですよ。でも、サビで「Take a Walk(散歩)」し始めたとき、なんとなくポジティブな気持ちになるんですよね。そのポジティブさの要因って、きっと「考えさせる」ということなのかなと思っていて。その散歩を「現実逃避して忘れよう」って受け取るのか、「新しい方向に行こう」って受け取るのかは人それぞれだけど、まずは考えさせてくれる。それが音楽の力だと思います。

―「現実逃避」という言葉が出ましたけど、eimieだけじゃなくて、TempalayやD.A.N.の音楽にも、サイケデリックな質感がありますよね。自分たちの音楽に逃避的な側面ってあると思いますか?

AMY:そう受け取ってもらっても全然いいと思います。でも、聴いているお客さんには、ネガティブな意味での「逃避」ではなくて、「楽しいことを探していこう」と思っている人のほうが多いなって感じますね。

―たとえば1960年代アメリカのヒッピームーブメントや、90年代イギリスのレイヴカルチャー、あるいは少し前のチルウェイブのムーブメントには逃避的な側面もあったと思うし、逃避すること自体が若者たちの社会に対する態度でもあったと思うんですよ。でも、それはAMYさんにとってはネガティブに映る?

AMY:もちろん、それが答えでもいいと思います。60年代のヒッピー文化について調べたこともあるんですけど、当時の若者たちがヒッピーになる気持ちにだって、すごく共感するんです。でも、私たちはあくまで「新しい」ヒッピーだと思うんですよね。ついこの間、サンフランシスコのヒッピーが集まっている通りに行ったんですけど、みんな、普通に葉っぱを吸ったりしながらゴロゴロしていて。でも、それだけじゃダメだと思う。never young beachやYogee New WavesやSuchmosも、社会に適合しているから受け入れられているんだと思うんですよ。そうでないと、変な人に使われるだけの道具になってしまう気がして。……あ、でも、Tempalayはただのヒッピーだと思います(笑)。そんなこと考えずに好きにやっているので。

ルールや既成概念を変えるのは難しいのかもしれないけど、今、やっと音楽は何かを変えるためのパワーになりつつあると思うんです。

―AMYさんが「変えていこう」という意識を強く持っている背景には、何があるのでしょう?

AMY:子供のころ、私は地元の村のシステムがすごく嫌だったし、いじめにあっていた時期もあったからよく泣いていたし、全部が嫌で「どうしたらいいんだろう?」ってずっと思っていたんですよ。だからこそ、高校1年生で村を出たんです。

―長野の村から東京に出てきたあとも、何か考える上で具体的なきっかけってありました?

AMY:高校3年生でアメリカに行く機会があったんですけど、それが9.11のあとだったので、また考えるきっかけになりましたね。ちゃんと真実を知らないまま流されてしまったら本当にもったいないし、人に使われるだけになってしまうと思ったんです。情報メディアが広がったおかげで、見るものによって考え方が左右されてしまうことって、たくさんありますよね。でも、真実がわかっているのに、見ないふりをするほうが自分を守れるから、黙っているという人が増えている気がして。そういうことを歌ったのが、“Silver Fox”なんです。

―アートやカルチャーが社会に対してどのくらい影響力を持ち得るのか……今の若い世代はそこをすごく背負っていると思うんです。今日のAMYさんのお話を聞いて、そのことを改めて実感しました。

AMY:時代が巡り巡って、人々が疲れ果てた先に行き着くところにアートはあるんだと思うんですよ。アートが存在することによって、きっと人は自分の気持ちを表現しやすくなるし、心が豊かになると思う。最近、新国立美術館に行って、カセットテープだけが並んだアートとか、周波数だけで作ったアートとかを見て、「私も、もっと頑張らなきゃ」って思ったんです。「この作品を作った人たちは、ここに行き着くためにいろんなことを犠牲にしながら、でも考え続けたんだろうな」って。

―「考え続けること」を肯定して、形にできる人が存在するのとしないのとでは、社会の在り方はきっと大きく違ってきますよね。

AMY:たとえば、ガンジーやマザー・テレサのような偉大な人たちも、突き詰めて「考え続ける」ことができたからこそ、周りの人はついて行ったんだと思うんですよね。彼らは当時の社会に対して嫌なことがあったからこそ、それを直すために波に逆らって泳ぎ続けた。その姿が、みんなの原動力になったんだろうなって。まだまだルールや既成概念はいっぱいあるし、それを変えるのは難しいのかもしれないけど、今、やっと音楽は何かを変えるためのパワーになりつつあると思うんです。そのパワーを、たとえばドナルド・トランプみたいな人が使うと大変なことになってしまうかもしれないけど、私たちのような若い世代が使えば、きっと未来はよくなっていく。そんなハッピーなことを、今は考えていきたいですね。

AMY

イベント情報
『Eggs×CINRA presents exPoP!!!!! volume86』

2016年6月30日(木)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-nest
出演:
HINTO
Tempalay
戸渡陽太
チーナフィルハーモニックオーケストラ mini
料金:無料(2ドリンク別)
※会場入口で音楽アプリ「Eggs」の起動画面を提示すると入場時の1ドリンク分無料

リリース情報
eimie
『Silver Fox E.P.』(CD)

2015年10月14日(水)発売
価格:1,000円(税込)
MXTR-014

1. Silver Fox
2. Fireworks
3. Horoscope
4. Silver Fox LHSS Dub Remix

プロフィール
eimie
eimie (えいみー)

2014年、東京にてAmy(Vo.)とTakuma(Synth / Programing)の二人で結成されたエレクトロニカデュオ。海外のチルウェイヴやシンセポップをはじめとした前衛的なサウンドを消化し、日本では例を見ない圧倒的オリジナリティー溢れたサウンドを武器に都内を中心に活動開始。2015年3月にリリースされた1stシングル『Carnival』は、当初タワーレコード渋谷店/新宿店のみでのリリースだったが、FLAKE RECORDSやmona recordsをはじめとしたセンスフルな専門店等で販路が拡大した。同年8月には『出れんの!?サマソニ!?』にていしわたり淳治賞を獲得し、『SUMMER SONIC 2015』への出演。さらに10月には初の全国流通作品『Silver Fox E.P.』がリリース。同タイミングで『Carnival』も全国流通開始。2016年3月にはAmyが米テキサスで毎年開催される世界最強の音楽見本市『SXSW 2016』へ、盟友Tempalayのサポートにて出演する。国内リスナーのみならず、コアな洋楽ファンの心も掴んできた彼女達。体感した者全てを魅了する、その素晴らしき世界観を表現したLiveパフォーマンスで、着実にファンベースを広げている。



記事一覧をみる
フィードバック 1

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

  • HOME
  • Music
  • 同世代のeimieが語る、SuchmosやD.A.N.らが若者に愛される理由

Special Feature

Crossing??

CINRAメディア20周年を節目に考える、カルチャーシーンの「これまで」と「これから」。過去と未来の「交差点」、そしてカルチャーとソーシャルの「交差点」に立ち、これまでの20年を振り返りながら、未来をよりよくしていくために何ができるのか?

詳しくみる

JOB

これからの企業を彩る9つのバッヂ認証システム

グリーンカンパニー

グリーンカンパニーについて
グリーンカンパニーについて