雨のパレード・福永、「人を救える歌を書く」と決めた背景を告白

雨のパレードのニューシングル『You』は、表題曲を筆頭に、収録曲すべてがラブソングとも捉えられる内容になっている。闇に脅かされ続けた日々のなかで、本当に大切な「あなた」という存在の大きさに気づき、その人を守るために強く生きていくことを誓う。

海外のインディーサウンドを参照点に、日本で鳴るべき最新のポップスとして昇華する――そういったバンドのアティチュードとアートフォームに則った音楽性の美学はそのままに、“You”の歌詞の筆致は、福永浩平というフロントマンでありソングライターが、これまで以上に聴き手に対して踏み込んでいくという意志を強く感じさせる。

福永が資料に寄せているコメントには「辛い状況にある人を救える曲を書きたいとずっと思ってました」と記されてある。その背景には、これまで福永が語っていなかった幼少期の体験が大きく影響していた。

他の誰かがつらい精神状態になったときに、心打たれるような曲を書いてみたいって、ずっと思ってたんですよね。

―まず、“You”は歌詞がかなりストレートな筆致じゃないですか。歌に対して踏み込んだなと思いました。

福永:そうですね。みんなに「歌詞が素直だね」って言われます(笑)。

―自覚してないんですか?

福永:あまり自覚はしてないですね……そもそも素直な歌詞を書こうという意識はなくて。“You”はサウンド的に結構攻めてると思ったから、メロディーと歌詞を、リスナーに対する入口にできたらいいなという思いはあったんですけど。“You”の歌詞は、歌録りの前日に書いたんですよ。14時間半くらい書き続けて、10分くらい寝て、歌録りみたいな(苦笑)。

福永浩平
福永浩平

―ハードですね。

福永:ギリギリまで自分の思いを文字に起こしたくないという気持ちがどこかにあって。ホントに書きたい言葉を自分のなかに集め、溜めて、いよいよというタイミングで書きたかったんです。結局ギリギリになってしまったのは反省しなきゃいけないと思うんですけど、時間がなかったからストレートな感じになってしまったのかなというのもあるし。

―ストレートに「なってしまった」と言う必要はまったくないと思いますけどね。

福永:“You”の歌詞に関しては、いろいろな思いがあって。僕がずっと前から書いてみたかった曲なんです。玉置浩二さんの“田園”とかキリンジの“Drifter”って、精神的につらい思いをした経験のある人が聴いたらグッときて、救われるような感覚を覚えると思うんですね。“田園”の<生きていくんだ それでいいんだ>というフレーズって、究極の答えだと思っていて。僕もそういう曲を書いてみたいと、ずっと思っていたんです。

―“田園”や“Drifter”みたいな曲を書きたいと思っていた具体的な理由はあるんですか?

福永:理由というか、どういうふうに話したらいいのかな……。

―福永くんが話しやすいように語ってもらえたら。

福永:これはいつか言わなきゃいけないと思ってたんですけど……。小さい頃に、身近な人が精神的につらい状況になったことがあったんです。人間の狂気のようなものを間近で感じることがあって。そういう状態を見ると、自分も引き込まれちゃって、やばくなった時期が2回くらいありました。だから、他の誰かがつらい精神状態になったときに、心打たれるような曲を書いてみたいって、ずっと思ってたんですよね。

福永浩平

―そういうつらい時期はなにをしていたんですか?

福永:ずっと家で映画を見たり、漫画を読んだりしてましたね。たぶん、現実逃避だったんでしょうね。

―どのくらいから持ち直したんですか?

福永:高校にはちゃんと行きました。中3のときに「ここで高校に行かなきゃマジで今後の人生がダメになるな」と思って、高校は1日も休まずに皆勤賞で。その学校は、PhotoshopとかIllustratorとか打ち込みの曲作りを学べるような学校で、高校卒業後は音楽の専門学校に行ったんです。でも、授業内容にちょっと違和感があって、1年で辞めました。

―いや、でも、よくそこまで持ち堪えられましたね。友達には恵まれていた?

福永:そうですね。それは本当にありがたかったです。

音楽が好きということは言い切れるし、振り返ってみると、音楽に救われていたんだなってあらためて思ったんです。

―そういう福永くんの今まで知らなかったバックグラウンドを聞いて、雨のパレードの音楽性に通底している静謐さやダークな美しさに合点がいくなと思いました。

福永:どうなんですかね? 自分ではあんまり意識したことはないんですけど、ダウナーな音楽が好きなのはありますね。

―ダウナーというか、潜在的に自分の心が落ち着ける場所を音楽でクリエイトしているのかなって。

福永:確かにそういうところはあるかもしれない。“new place”もそういう曲だし。

―“new place”では<人には言えないいかれた過去を ここまで隠していきてきたんだ だけどここではどうでもいいみたい>って歌ってますもんね。

福永:そうなんですよね。

インディーズ時代の2ndミニアルバム『new place』の表題曲

―でも、福永くんの原点に“田園”があるとは意外でした。

福永:小さい頃から音楽はいろいろ聴いてたんですけど、“田園”はかなり刺さりましたね。初めて買ったCDは、QUEENのベストアルバムでした。あとは、それこそ玉置浩二さんの『スペード』(2001年)とか、東京スカパラダイスオーケストラの奥田民生さんやチバユウスケさん、田島貴男さんがゲストボーカルとして参加してる『Stompin' On DOWN BEAT ALLEY』(2002年)もめっちゃ聴いてましたね。両親の影響でオムニバスのジャズアルバムなんかもよく聴いてましたよ。サラ・ヴォーンがすごく好きで、“Lullaby of Birdland”が入ってるオムニバスとか。

―先ほど現実逃避として映画や漫画に触れていたと言ってましたけど、音楽を聴くのは現実逃避ではなかった?

福永:音楽もかなり聴いてましたけど、現実逃避は映画のほうに求めていたかもしれないです。もっとコアな映画好きの方々がいるので、「映画好きです」とは堂々と言えないですけど(笑)。でも、音楽が好きということは言い切れるし、振り返ってみると、音楽に救われていたんだなって最近あらためて思ったんです。

―“田園”然り、現実逃避ではなく、現実的に救われるものが音楽だったのかなって。だから自ずと自分が表現したいものになったんだろうし。

福永:そうなんだと思います。だから今回、誰かを救えるような曲を書くことと向き合ったのは、僕にとってすごく大きかったです。でも、やっぱりまだまだでしたね。“田園”みたいなことは、なかなか言えないですよね。僕が歌うにはまだ若いし、説得力が足りない。ストレートに歌いたいんだけど、まだそこまで言えないなって。

―玉置浩二さんの言葉は、嘘臭くないですもんね。でも、それは福永くんがこれからいくらでも向き合えるテーマでもあるじゃないですか。

福永:うん、そうだと思います。

―このシングルは“You”のみならず、2曲目“In your sense”も3曲目“morning”もラブソングだと思うんですよ。

福永:そうなんですよね。すごく幸せなやつみたいになってますよね(笑)。3曲まとめてみたら、全部「あなた」に向けて歌ってるなって。

福永浩平

―それも無自覚だったんですか?

福永:無自覚ですね。“morning”は『ほのぼのログ』(NHKアニメ)の主題だからアニメの内容と近い感じがいいと思ったし、“In your sense”(J-WAVE「Happy Rainy J-WAVE」キャンペーンソング)は「雨の日が楽しくなるような曲」というリクエストがあって、どうしようかなと考えたときに自然と「あなた」という存在が出てきて。

―「他者の存在によって自分が救われる」という思いが強い3曲だと思うんですけど、福永くんは「人間っていうのは1人では生きていけない生き物だ」ということを常々思っているところがあるんですかね。

福永:ああ、そういうものだと僕は思ってますね。

―常に福永くんにとって支えになるような他者っていうのは存在しているし。ときには、それがリスナーだっていうことでもあるわけだもんね。

福永:まさに、そうですね。

僕らがかっこいいと思っているサウンドを新しい日本のポップスとして更新していくことが、雨のパレードの使命だと思ってます。

―メジャー1stアルバム『New generation』のリスナーの反応は、どう受け止めたんですか?

福永:『New generation』は、聴いてくれたリスナーにはしっかり伝わったという手応えがあります。『New generation』を経て、今回のメジャー1stシングルではどういうアプローチをしようかを考えたときに、前から「ポップであること」は意識してるんですけど、より強く意識したのは間奏を消してみるということで。結構僕らは間奏で聴かせるところがあったんですよね。でも、僕が好きなジャック・ガラット(1991年生まれ、イギリス出身のマルチプレイヤー)とかの曲を聴いてると、意外と間奏のない曲が多いなと思って。

―つまりよりメロディーを意識したということでもある?

福永:そうですね。“You”はそういう発想でサビメロから作って、それを主体にアレンジを構築していきました。使いたい音やアレンジのアイデアはいつもいっぱいあるので、そこに迷いはなかったんですけど、今回はサビが4回もある曲を作った分、歌詞の量が増えて苦労したんですよね。

福永浩平

―静謐で徐々にダイナミックになっていくサウンドの美学を曲げずに、いかに歌の求心力を高めていけるかが、どんどんバンドの大きなテーマになっていると言えそうですね。

福永:そうですね。僕たちにとっては、「ポップスを更新していく」という言葉が一番しっくりくるんですよね。日本のポップスをめちゃめちゃかっこいいものにしようという思いが、どんどん強くなっているんです。そのためには多くのリスナーに聴いてもらう必要があるから、雨のパレードに必要なのはいいメロディーといい歌詞だと思っていて。

―サウンドの美学は揺るがないから。

福永:そう。サウンドに関しては一切譲るところがないし、僕らがかっこいいと思っているサウンドを新しい日本のポップスとして更新していくことが、雨のパレードの使命だと思ってます。

―そこに向けた本格的な第一歩とするべく、福永くんのソングライターとしての根源的なテーマと向き合って、“You”を書いたと。

福永:そうなんです。

僕たちの世代を先導して提示したいですね。悔しさも燃料にして。

―“You”を筆頭とするこのシングルの3曲も、確かに海外発の「ポスト~」とか「インディー~」と呼ばれるようなジャンルのサウンドと共鳴し独自に昇華する方法論はブレてないですよね。ジワジワとリスナーの耳に浸食し、染み入るサウンドや構成、メロディーにもバンドの聖域や矜持を感じる。その一方で、新曲を制作するほど手癖っぽいニュアンスが帯びてくる部分との戦いになってくるのかなとも正直感じていて。

福永:なるほど。確かになあ。メロディーもポップスを意識していると言いつつ、結局自分が好きなメロを歌っていると思うところがありますね。

福永浩平

―いや、それは間違ったことではないと思うんですけど、楽曲を構築するさまざまな部分で、バリエーションの広がりが生まれたらもっといいなとは思う。

福永:確かに、AメロとBメロに関しては、特に僕の癖が出てると思います。

―静謐なところから徐々にダイナミックになっていく展開というのも、先ほど話したように福永くんが潜在的に求めている心の場所を構築するために必要な流れなのかなとも思うんですけどね。

福永:自分的に心地よくてハマりがいいのでこういう展開になっているというのも確かで。アレンジや構成のバリエーションを増やすのも課題ですね。でも、今作ってる曲はちょっと裏切ろうと思ってアレンジしているので、お楽しみにという感じです(笑)。静けさから徐々に盛り上がっていくような感じではなく、イントロからガッといって、メロディーもガッといくみたいな。かなり抽象的ですけど(笑)。

―楽しみにしてます。今日はあらためて福永くんって自分の美学に対してすごく頑固だし、すごく男っぽいんだなって思いました。

福永:そうかもしれないですね(笑)。

―だからこそ、いろんなチャレンジをしてもその美学は削がれないと思うし。

福永:うん、いろいろ挑戦していきたいです。

―2回目の取材のとき(バンドサウンドを鳴らさないバンド、雨のパレードの攻戦が始まる)に、福永くんの顔が変わったって言ったけど、あのときくらいから自分の美学にちゃんとメンバーを引っ張っていこうっていう腹の括り方が見えた気がするし、話す度に生半可な気持ちで音楽と向き合ってないと感じます。その気持ちが報われてほしいですよ(笑)。

福永:報われたい!(笑)

―それこそ最初の取材(総合芸術の「創造集団」を名乗るバンド、雨のパレードって何者?)で言ったように、孤独な戦いにはなるかもしれないけれど。雨のパレードは、ひとつのシーンに入って、他のバンドと相乗効果で盛り上げていく、というようなスタンスでもないと思うから。

福永:時間はかかると思いますよね。メジャーデビューのときに「New generation」を掲げていたので、僕たちの世代がどんどん出てきていてほしいなとは思うんですけど。今この世代で、日本で1番かっこいいのは、D.A.N.だと思ってます。

―たしかに、ミニマルで、しかも日本語で歌ってるという意味では、D.A.N.と共通するところがありそうですね。

福永:そうなんですよね。僕たちも、サウンドは世界的なものを意識しているんですけど、世界に向けてやっているわけじゃなくて、日本のみんなに向けて書いているので、日本語にはこだわりたいと思っていて。

福永浩平

―「New generation」を掲げたからには、福永くんにも先導してほしいですよ。

福永:先導して提示したいですね。悔しさも燃料にして。でも、本当にいい曲を作り続けて、いいライブをしてファンを大事にしていけば、大丈夫だと思っているので。その確信はずっと持って、とにかくいい曲を作り続けます。

『You』には未収録の新曲
リリース情報
雨のパレード
『You』初回限定盤(CD+DVD)

2016年7月20日(水)発売
価格:1,944円(税込)
VIZL-1005

[CD]
1. You
2. In your sense
3. morning
[DVD]
『Live at clubasia 2016.4.9』
1. epoch
2. Tokyo
3. Petrichor
4. bam
5. new place

雨のパレード
『You』通常盤(CD)

2016年7月20日(水)発売
価格:1,080円(税込)
VICL-37188

1. You
2. In your sense
3. morning

イベント情報
『雨のパレード ワンマンライブツアー「You&I」』

2016年9月15日(木)
会場:愛知県 名古屋 CLUB UPSET

2016年9月17日(土)
会場:東京都 渋谷CLUB QUATTRO

2016年9月22日(木・祝)
会場:大阪府 阿倍野 ROCKTOWN

プロフィール
雨のパレード
雨のパレード (あめのぱれーど)

福永浩平(Vo)、山崎康介(Gt)、是永亮祐(Ba)、大澤実音穂(Dr)。2013年に結成。2015年にリリースしたmini Album『new place』の表題曲“new place”がSSTVのローテーション「it」に選出され、同年10月に開催された『MINAMI WHEEL』では初出演ながら入場規制となる動員を記録するなど、インディーながら耳の早い音楽ファンの間で注目を集める。3月2日、1stフルアルバム『New generation』でメジャーデビュー。Vo.福永浩平の声と存在感、そして独創的な世界観は中毒性を持ち、アレンジやサウンドメイキングも含めまさに「五感で感じさせる」バンドとして注目されている。



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