「もはやメジャーとインディーに差はない」。このフレーズは2010年代において、いやもっと前からとっくに常套句となっているわけだが、それは100%正解であると同時に、100%間違っている。このフレーズの本質は「もはやひとつの物差しで優劣を測れる時代ではない」ということであり、現在において最も重要なのは「アーティスト自身の意志」である。つまり、そのアーティストがマスでの成功を夢見るのであれば、マンパワーがあり、宣伝力のあるメジャーが有利なのは今も変わらないし、関わる人数が多い分、混乱が生じやすいということも、やはり変わらないのだ。
ジャズやヒップホップをベースとした音楽性で成り上がりを目論むストリート発の8人組SANABAGUN.が、ビクター内レーベル・CONNECTONEからメジャーデビューを果たしたのは昨年の10月。スーツを着込んでの華々しいアー写が印象的だったが、新作『デンジャー』では一転、MCの岩間俊樹が“メジャーは危ない”で不安定なバンドの現状を赤裸々に綴っている。そこで今回は、フロントマンである岩間とボーカルの高岩遼の二人を迎え、現在のバンドを取り巻く状況について語ってもらった。<10年後 笑って話そう この曲が出来たことを>。このリリックが現実になるかどうか、命運は彼ら自身が握っている。
食えなきゃ意味ないですからね。「自分の芯は曲げずに、音楽で食べる」ってことが大前提。(岩間)
―岩間くんは地元の青森に米軍基地があり、お兄さんもDJをやっていたりという環境で、自然とヒップホップが好きになったそうですが、「ヒップホップで生活をしよう」と思うまでにのめり込んだのは、何か理由があったのでしょうか?
岩間(MC):もともと目立ちたがり屋で、最初は何となく始めたんですけど、ホントは根暗な部分もある人間だから、自分が心の中で思っていることは直接言えずにリリックで書くようになったんです。それからラップが自分のホントの気持ちをわかってもらえるツールになっていきました。あとは、人に褒めてもらえるひとつのアイテムというか、20歳ぐらいになって、「何だったら他の人に勝てるだろう?」って考えたときに、それがラップだった。
―目立ちたがりではあったけど、コミュニケーションが得意というわけではなく、リリックに書くことで気持ちを表していたと。
岩間:自分を知ってもらえるツールであり、ご飯を食べるための武器でもあるって感じですね。今は少しずつ結果が出てきて、そこそこお金になってる状態なので、「やっとここまで来たな」みたいな。
―前回高岩くんに取材した際も「成り上がり」というのがひとつのキーワードになりましたが、それは岩間くんも共有してる感覚だということですね。
岩間:食えなきゃ意味ないですからね。「自分の芯は曲げずに、音楽で食べる」ってことが大前提ですから。
―高岩くんから見て、岩間くんはどんなキャラクターですか?
高岩(Vo):(岩間)俊樹は結構卑屈なんですよ。詩人というか、文学者的なところもある。でも、その一方でお人好しみたいなところもあるので、「SANABAGUN.(以下、サナバ)で一番卑屈かつ無垢な男」って感じですね。あとは彼も片親なんで、「何かやってやりてえんだよ、クソ野郎」というマインドは常々持ってると思います。
―そこに関しては、自分とも似てる?
高岩:そうですね。多くは語らずに「黙ってやるべ」みたいな感じは、東北人らしいし(共に東北出身)、すごく男らしいなと思います。
今ってフリースタイルが手軽なアイテムとしてムーブメントになってると思うんですけど、僕らは一生を使ってヒップホップを体現しようとしてるんです。(岩間)
―新作の『デンジャー』は歌の要素が増えた一方で、アレンジ的にはヒップホップ要素の強い作品になったと思うんですけど、二人はヒップホップやフリースタイルが流行ってる今の状況をどんな風に見ていますか?
岩間:サナバのヒップホップ要素を構成してるのって、俺と(高岩)遼だと思うんですよね。楽器陣はヒップホップを音楽的にかっこいいと思って聴いてたタイプで、芯がB-BOYなのはこの二人だけなんです。だから、今ブームになりつつあるヒップホップと、サナバがやってるヒップホップは、ちょっと違うと思う。
―確かに、そうですね。
岩間:今ってフリースタイルが手軽なアイテムとしてムーブメントになってると思うんですけど、僕らが見てるのはヒップホップドリームみたいなことで、一生を使ってヒップホップを体現しようとしてるんです。なので、ムーブメントとは若干違うところにいるんだろうけど、寄り添えるところは寄り添って、「こういうヒップホップもあるぜ」って知ってもらえるといいなと思います。
高岩:ヒップホップって、カルチャーだと思うんですよ。ビートボックスにしろ、グラフィティーにしろ、ブレイクダンスにしろ、文化の集大成がヒップホップじゃないですか? 今は「フリースタイル=ヒップホップ」みたいな流れがあって、タワレコでもそういうコーナーが作られてるし、「オシャレとしてiPhoneに入れて着飾る」みたいな感じになってると思うんですよね。そういうのを聴いたちゃんねえ、ちゃんにいにとって、「これがヒップホップ」となってしまうのは、まったくだせえなって。なので、カルチャーの部分も含めて、「ヒップホップをちゃんと聴こうよ」って、耳打ちしたい気分ではあります(笑)。
―ファッション的な部分があってもいいけど、「それだけじゃないんだよ」っていうね。
高岩:サナバは、ヒップホップっていう文化の新たなスタイルとして、ヒップホップっていうお弁当の中のウィンナーくらいになれたらなって(笑)。「サナバっぽいね、そのヒップホップのスタイル」と言われるようになったら、もう僕らは死ねる。そこにサナバをやってる意味があると思いますね。
「売れねえじゃん」「どうすんだよ、これ」「ヤバイヤバイ」って、みんなテンションが下がってた。(高岩)
―昨年10月にメジャーデビュー作の『メジャー』を発表して、半年以上が経ったわけですが、ここまでの手応えをどう感じていますか?
高岩:『メジャー』に関しては、手応えはないですね。あれはあえてスタイルを変えずに、P-VINEで出したアルバムから地続きの音楽性でやらせてもらったんですけど、どうしても、メインストリームじゃない音楽ではあるし、そこまで需要がなかった。そして、Suchmos(櫻打(Key)と小杉(Ba)は、SANABAGUN.とSuchmosに所属)が売れてしまったという(笑)。
岩間:そうだね(笑)。
高岩:まあ、逆に1枚目で売れなくてよかったっすね。いろんなことを学べたので。
岩間:うん、あれで売れちゃってたら、ずっとビッグマウスのままだったと思う。俺らって、いきなり派手にメジャーデビューしたように見られてるかもしれないけど、これまで夏も冬も路上でやってきて、それが少しずつ結果になっての今なんで。メジャーに行っても、コツコツ積み重ねていくのがサナバらしいのかなって。僕らはまだ若いし、みんな馬鹿なんで、肌で勉強したことは覚えるんですけど、人に言われたことってなかなか聞かないんですよ。そういった意味で、1枚目の結果を肌で感じられたことで、自分たちの物差しができたなと思ってます。
―そんな中で、『デンジャー』には岩間くん作詞の“メジャーは危ない”という曲が入っていて、<結成3年 先は長ぇけど 今が1番みんなバラバラに感じるのは 俺だけですか?>とか<メジャーと呼ばれる皿の上 踊ってるようで踊らされて 結果や数字に脅かされてる>とか、かなり赤裸々なリリックになっていますね。
岩間:この曲はガチ過ぎて気持ち悪いなって自分でも思ってて、そもそもアルバムに入れる予定もなかったんです。1枚目が数字としては結果が出なくて、「次の作品からは業界を知ってる人たちとタッグを組んで、ディレクションを受けながら、一緒に制作しましょう」という話になったんですけど、今までは好き勝手にやりたいことをやれる環境でずっとやってきたもんだから、「つまんねえな」って思っちゃったんですよ。特に、今回自分のパートがあんまりなかったから、単純に暇だったし、それと同時にリリックが書けないスランプが来ちゃって。
―それって、メジャーデビュー後ですか?
岩間:そうです。メジャーって、リリースの3か月前に音源を完パケして、そこからはプロモーションとかキャンペーンが始まるから、リリックを書かない時期が長くなるんですよ。自分としては、そういう時期をインプットに使って、制作期間に入ったらアウトプットすればいいと思ってたんですけど、いざとなったら全然リリックが書けなくて。レーベルからの「こうしたらいいんじゃない?」ってアドバイスと、自分がやりたいことを摺り合わせようとしても、全然書けない。それでメンバーに話したら、「今一番言いたいことを書いてきなよ」と言われて、この曲ができたんです。
―当時感じていたことが、そのままストレートにリリックになったと。
岩間:自分はメンバーに本音で話をしないこともあって、そういうときは最初にも言ったように、ラップをツールとして使うことが多いんです。この曲は、発表するかどうかも考えず、自分の内側を書いただけで、「これを笑われたら、サナバやめよう」くらいに思ってて。でも、いざスタジオで歌ったら、たぶんみんな思ってたことは一緒だったんですよね。それで遼が「これ、アルバムに入れようか」ってボソッと言って、収録されることになった。
―実際、高岩くんは岩間くんのリリックを聴いて、どう感じたのでしょうか?
高岩:嫌な気しないって言ったら嘘になりますよね。<お前が作った最高のクルーを お前以上に大切にする>って、たぶん俺に宛ててるし、<岩間俊樹リッチ 知ったこっちゃねぇ>ってところは、最初<THE THROTTLE Suchmos 知ったこっちゃねぇ>だったんですよ(THE THROTTLEは、高岩が所属する別バンド)。
―バンドを掛け持ちしてるメンバーも多いから、そこで温度差が出てしまう危険性もあるわけですもんね。
高岩:まあ、サナバは才能豊かでヤンチャなやつらが集まってるもんですから、たまに「サナバ高校」に来なくなるときがあって、ちょうどそういう時期だったんですよね。意外とネガティブなやつも多いんで、思ってることが伝染したりもして、「売れねえじゃん」「どうすんだよ、これ」「ヤバイヤバイ」って、ちょうどみんなテンションが下がってたんです。そういう中で俊樹が、「キモいけど、書いてきたから発表します」って言って歌ったラップをみんなで聴いて、「うーん」ってなりつつ、でもその通りだから腑に落ちるところがあったんだと思う。俺も「キープイットリアルならこれでしょ」と思ったから、入れようって言ったわけだし。
メンバーの中でこの内容に一番共感できないのが遼だと思うんです。(岩間)
―高岩くん自身もこのリリックに書かれているようなことを感じていたわけですか?
高岩:俺は俊樹とは違って、「つまんない」とは思ってなかったかな。<結果9割のこの世界で 好きなことやって食うってことは 残り1割が俺らにとって 何より価値ある1割であれ>というリリックは、間違いないって思いましたけど。
岩間:メンバーの中でこの内容に一番共感できないのが遼だと思うんです。いつもフロント二人で相対していて、共有できる感情も多いんですけど、性格的には結構離れてるんで。だから、これはサナバの曲っていうより、俺のエゴだと思うんですよね。実際、遼は一言も歌ってないし。
高岩:俊樹の想いってことだよね。
―でも、メンバーの総意でこの曲をサナバの曲としてアルバムに入れた意味は大きいですよね。
岩間:そうだとは思うんですけど、別にサナバをひとつにするために書いた曲ではないんです。自分をサナバって場所で保つために書いた曲なので、超本音を言うと、わがままな曲だなって自分で思ってます。今回、自分のパートが少なかった中で、ちゃんとラッパーとして存在感を出さなきゃいけない。でも、リリックがなかなか書けない。どうする? っていうときに、安易にのれる曲とか、スピーディーなラップでまくし立てても、逆に存在感が薄れると思ったんですよ。もちろん、サナバの現状を見てほしいという想いもあったけど、それよりも自分の状況を打破するために、自爆テロくらいの勢いで書いた曲なんです。
まずは音源を聴いてもらって、それでライブに来てもらえれば、「最高でしょ? イッちゃったでしょ?」ってなると思うから。(高岩)
―そもそも、今回「高岩くんの歌を軸にしよう」っていうのは、早い段階で決まっていたわけですか?
高岩:そうですね。チームCONNECTONE(レーベル)としても、「高岩遼に歌わせようぜ」というコンセプトがあったんです。やっぱり、多くの人に聴いてもらうひとつの道具として、「歌メロ」というのは大きいと思うから、ちゃんと俺が歌って、それがサナバの名声に還元されるようにという考えがありました。
―そういう中で、高岩くんにとって“Mammy Mammy”の存在は大きいと思うんですよね。自分を育ててくれた母親への想いというのは、前回の取材でも話してくれてたし。
高岩:そうですね。ちょっとお涙頂戴風の感じになってますけど、<一人台所 包むおにぎり 食べたかった 今思い出したよ>とかは全部ホントの話です。“メジャーは危ない”が俊樹にとってのリアルだったら、“Mammy Mammy”は俺のリアルっていう感じですね。
岩間:今回のアルバムは、俺らの人間っぽい部分が出てると思う。それは別に狙ったわけじゃなくて、そういうのが滲み出るタイミングだったのかなって思います。メジャーデビューのときはスーツを着てたり、ステージでもオラオラしてたり、ちょっと気取った感じに映ってたかもしれないけど、そういう部分だけじゃない、普段内側で考えてることとかが、勝手に滲み出ちゃいましたね。
―“メジャーは危ない”も、最後は<俺らが出来なきゃ誰も出来ない>という前向きな言葉で締めくくっているし、「一生を使ってヒップホップを体現しようとしてる」って言ったのがちゃんと楽曲にも表れていて、サナバのリアルが感じられる作品になったと思います。
岩間:サナバは一人ひとりが実力とキャラクター性を持っていて、自分としてもこれから先ラップで一生ご飯を食べていける位置に自分を持って行きたいというビジョンを持ってるんですけど、ビクターさんは俺らの人生に最後まで付き合ってくれるわけではないですから。でも、恩返しできるようにというか、結果を出さなきゃいけないという焦りみたいなものはあって。今はまだ自分たちの武器を模索してる段階だと思うんですけど、『メジャー』は自分たちの物差しになったし、さらに今回『デンジャー』を出して、いい流れにできればなって思います。
―これから夏フェスの時期で、ライブはサナバの真骨頂ですしね。
高岩:『デンジャー』は「どうやって売れていくのか?」とか、リアルなものを突き付けられる中、思考回路をフルに使ってできたアルバムなので、何かしら世の中からリアクションがあるんじゃないかって気はしてるんです。今回で有名になれるわけじゃなくても、その伏線は張れたかなって。あと、これまでのサナバは「ライブで観てかっこよかった」って感想が多かったんですけど、今回は音源としてもいいと思ってもらえるものができたと思う。なので、まずは音源を聴いてもらって、それでライブに来てもらえれば、「最高でしょ? イッちゃったでしょ?」ってなると思うから、そうやってまた次につなげていきたいですね。
- リリース情報
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- SANABAGUN.
『デンジャー』(CD) -
2016年7月6日(水)発売
価格:2,300円(税込)
VICL-645811. SANABAGUN. Theme
2. BED
3. 板ガムーブメント
4. P.O.P.E
5. Mammy Mammy
6. ア・フォギー・デイ
7. メジャーは危ない
- SANABAGUN.
- イベント情報
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- 『2nd album「デンジャー」リリース記念SPECIAL EVENT』
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2016年7月23日(土)START 19:00
会場:東京都 タワーレコード渋谷店 B1F CUTUP STUDIO
- 『SANABAGUN.“危ないTOUR”』
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2016年9月22日(木・祝)
会場:大阪府 大阪 LIVE SPACE CONPASS2016年9月23日(金)
会場:愛知県 名古屋 JAMMIN'2016年10月1日(土)
会場:東京都 渋谷CLUB QUATTRO
- プロフィール
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- SANABAGUN. (さなばがん)
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岩間俊樹(MC)、高岩遼(Vo.)、隅垣元佐(Gt.)、澤村一平(Dr.)、櫻打泰平(Key.)、谷本大河(Sax./Fl.)、髙橋紘一(Tp./Flh.)、小杉隼太(Ba.)による、ストリートにジャズのエッセンスを散りばめ個性とセンスを重んじて突き進む平成生HIPHOPチーム。楽器隊とボーカル、MCからなる8人組で、メンバー全員が平成生まれの20代でありながら、JAZZの影響を色濃く感じさせる驚異的に高い演奏力を誇り、それでいて老若男女問わず熱狂させる高いエンターテインメント性も併せ持っているのが魅力。2015年10月、1stアルバム『メジャー』をもって、メジャーシーンに進出。2016年7月、2ndアルバム『デンジャー』をリリース。
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