多摩センターでフェス開幕 DE DE MOUSE×FUKAIPRODUCE羽衣

東京郊外のベッドタウン、多摩センター。いわゆるニュータウンと呼ばれるこの場所で、今年も音楽と演劇のフェスティバルが行われる。その名は『パルTAMAフェス2016 in 多摩センター』。昨年まで続いた『多摩1キロフェス』の成果を引き継ぐ同イベントには、今年で4年連続の登場となるDE DE MOUSE、そして人生の喜怒哀楽を音楽劇として届ける劇団「FUKAIPRODUCE羽衣」がニューカマーとして参加する。DE DE MOUSE、そして羽衣の作・演出・音楽を担当する糸井幸之介を招き、それぞれの表現に対する思い、『TAMAフェス』への抱負を聞いた。

パルテノン多摩はギリシャ風の壮大な場所じゃないですか。上演も日没手前くらいの時間からスタートしますし、これはもうほっといても素敵になるだろう、と。(糸井)

―お二人は今日が初対面だそうですね。

DE DE MOUSE(以下DE DE):そうなんです。映像でFUKAIPRODUCE羽衣の作品を拝見したのですが、糸井さんは脚本も演出も振付も美術も、全部自分でやってらっしゃるんですね。

糸井:最近は手が回らなくなってきていて、振付周りなんかはお願いすることも増えていますけど、そうですね。

左から:DE DE MOUSE、糸井幸之介
左から:DE DE MOUSE、糸井幸之介

DE DE:もともと音楽はやっていたんですか? 『夕暮CDショップ』や『浴槽船』はミュージカル調というよりも、韻を踏んだり、語りと歌唱の間なんかがとてもラップっぽくて、□□□の空気感に近いと思ったからなんですけど。音楽に近い感性で作品を作られる方なんだな、という印象を持ちました。

糸井:音楽は好きで、ギターはかろうじて弾けます。でも好きだったというだけで楽譜も書けないから、ボイスレコーダーに思いついたメロディーを吹き込んで、それをなんとか曲に仕上げるっていう素朴なやり方ですね。

―FUKAIPRODUCE羽衣は、ミュージカルならぬ「妙ージカル」を提唱して活動する演劇団体ですね。すぐに口ずさめる耳馴染みのよいメロディーにのせて、男女の恋だとか、ごく一般的な市井の人の悲しみや喜びを歌にしている。

糸井:音楽劇というか、歌劇というか。人間のささやかなドラマを熱量たっぷりで歌っていくみたいなことになっています。ごく初期は、お芝居の中にちょこっと歌が出てくるっていう感じだったんですけど、だんだん全体が歌に包まれているようになってきました。

―9月17日、18日に開催される『パルTAMAフェス2016 in 多摩センター』(昨年までの『多摩1キロフェス』から改名)には、新作『愛いっぱいの愛を』で初参加されますが、どんな内容になる予定ですか?

糸井:うちの主宰兼看板女優に深井順子という者がいるのですが、本人を主役にして、一人の女性の他愛ない一日……夕方あたりから夜にお風呂に入るまでの時間帯を描く作品になります。彼女はいま30代後半なんですけど、それまでの人生で「こんな恋愛もあったわね。こんな出会いもあったわね」といったことを思い返しつつ、そこにこれまで羽衣で発表してきた曲が当てはまっていく、という内容ですね。

糸井幸之介

DE DE:女の一代記なんですね。でも配役を見ると、大勢の役者さんが登場しますよね?

糸井:45人くらい。クライマックスでは全員が勢揃いする予定ですが、それまでは10数名が入れ替わり立ち代わり登場して、街を行き交う恋人同士なんかを演じることで、主役を取り巻く街の風景を表現していきます。

DE DE:「きらめきの池ステージ」で上演するってことは、もう全員水浸しに?

きらめきの池
きらめきの池

糸井:中央に仮設舞台は置きますけど、そうですね。20組くらいのカップルたちがびしょ濡れになりながら歌って踊る(笑)。

パルテノン多摩がその名のとおりギリシャ風の壮大な場所じゃないですか。上演も日没手前くらいの時間からスタートしますし、これはもうほっといても素敵になるだろう、と。だから今回はその「ほっといても素敵」な感じに水を差さないようにしよう、というのがテーマです。普段やっている劇場作品だったら、「いっそ、どんよりした気持ちで帰ってもらってもかまわないぞ!」って気持ちでやっていたりするんですが。

―羽衣は、わりと苦い気持ちになる作品が多いですね。

糸井:いつもすみません(苦笑)。とにかく今回は、見に来た人が少しでも足取り軽く帰れるようなものにします。歌の量も普段より増えると思いますし、羽衣入門編といった感じかもしれないですね。

オーディエンスに子どもたちがいるような現場が増えたんですけど、みんなけっこう楽しく踊ってくれるんですよね。それは嬉しい発見だった。(DE DE MOUSE)

―DE DEさんはいかがですか? 『多摩1キロフェス』から数えて4年連続の参加ですね。去年と一昨年はDE DE MOUSE流の盆踊りで盛り上がりました。

DE DE:今年も依頼をいただいて何をやるか考えたんですが、ぐっとライブ色の強いものにします。去年の冬あたりから自分の音楽観にちょっとした変化を感じていて、これまでは、聴かせるモードと踊らせるモードをはっきり分けてライブをしてきたんですけど、最近その2つの距離がだんだんと近くなってきた感じがあって。

DE DE MOUSE

―昨年冬というと、ちょうどアルバム『farewell holiday!』をリリースしたあたり?

DE DE:ええ。あれは1940~50年代のアメリカのオールディーズやミュージカル、軽音楽なんかを自分の打ち込みだけでやるっていうアルバムなんですけど、これを作っているときは、それ以外のジャンルに僕はあまり興味なかったんですよね。

でも、自分は好きだけど他人にはわからない音楽があるように、他人は好きだけど自分にはわからない音楽も当然あって、そういったものを単に「興味なし!」と放っておくことはやめよう、と思ったんですよ。体験しないとわからないことは絶対にある。それで実際に曲を作ってリリースしてみたら、自分自身でも強い手応えを感じたし、クラムボンのミトさんをはじめミュージシャンの方たちからもよい反応が返ってきたんです。

―自分の対極にあるものへの見方が変わった?

DE DE:流行した音楽には、大勢の人に受け入れられる理由があるんですよね。それを読み解いていくと、シーンの空気や、時代の熱があったりする。そして、そういったムードに、僕自身も知らず知らずのうちに影響を受けている。だったらもっとオープンにいろんな表現を取り込んでいきたい、と『farewell holiday!』を作って思いました。

ここ半年くらい、オーディエンスに子どもたちがいるような現場でライブをやることが増えたんですけど、みんなけっこう楽しく踊ってくれるんですよね。かなり攻めた曲でも(笑)。それも僕にとっては嬉しい発見で「今日の客層に合わせるとしたら、この方向かな?」とか変に意識しなくても、「そのまま」を提供すれば、みんな楽しんでくれることがわかったんですよね。それは自分の音楽に、まだまだ力があるってことでもあると思いますし。

―それはパルテノン多摩での活動も影響していると思いますか? もちろんDE DEさんのファンが主要なリスナーではあるけれど、多摩ニュータウンに住む、DE DE MOUSEの音楽と「はじめまして」の人たちの耳にも届くオープンな環境ではあるわけで。

DE DE:最終的には僕個人の興味に寄ったものになっちゃってますけどね、飽き性なので(笑)。でも、自分が満足しつつ、みんなも満足して帰れるものにしたい、っていう志向はパル多摩で培われたものですね。そういった最近の気づきと、パル多摩との4年間を踏まえて、今年は盆踊りからいったん離れ、直球なライブスタイルになりました。

今年5月に行われたトリオ編成でのライブ映像

多摩ニュータウンは僕にとって、夢の中を散策しているような疑似体験ができる、不思議な気持ちになれる場所なんです。(DE DE MOUSE)

糸井:DE DEさんの多摩愛はいろんな方から伺っていたんですけど、ここが生まれ故郷なんですか?

DE DE:よく勘違いされるんですけど、違うんですよ。出身は群馬です。でも、DE DE MOUSEのプロジェクト自体、僕がずっと好きな郊外のニュータウンを散歩するときに聴きたいサウンドトラックを作る、っていうところがスタート地点だったので、結果的に「レペゼン多摩ニュータウン」みたいになってます。

糸井:多摩ニュータウンって、僕はあまりよい記憶がないんですよね……。

DE DE:そうなんですか(笑)。僕もなんでこんなにこの街が好きなのか不思議だったんですけど、子どもの頃に思い描いていた都会の姿に近いんですよ。例えば日曜の朝に放送してた特撮系の番組。

糸井:仮面ライダーシリーズとか?

DE DE:朝9時くらいにやっていた、子ども向けの。例えば『美少女仮面ポワトリン』(1990年に放送された特撮テレビドラマ)とかに出てきた光が丘の感じだったり。

―石ノ森章太郎原作の実写特撮シリーズですね。

DE DE:それと、小さい時に好きだった絵本『おしいれのぼうけん』(著者:古田足日、田畑精一 1974年 童心社)の、誰もいない都会の景色が、なぜか夜のニュータウンを歩いていると連想させられるんです。だから、この街は僕にとって夢の中を散策しているような疑似体験ができる、不思議な気持ちになれる場所なんです。ところで、糸井さんが多摩ニュータウンにいい印象がないのはなぜ?

糸井:僕の出身は練馬で、光が丘パークタウンが近かったので、DE DEさんの言う風景は僕も懐かしいんですよ。でも、多摩にはイヤなバイトの思い出がありまして……。UFOキャッチャーの集金をするってバイトをしていたんです。

DE DE:別にイヤじゃない気が(笑)。

左から:DE DE MOUSE、糸井幸之介

糸井:いろいろありまして。筐体の小銭を集めて、それを郵便局で入金するっていう仕事でした。集金場所がこの周辺にいくつかあったのでモノレールに乗って移動していたんですよね。だからこの街には罪はないです(笑)。でも、もともと人間臭い場所が好きなので、ニュータウンの計画的に作られた洗練された街並がちょっと苦手だったのかもしれません。もちろん大人になった今は、一面的な見方だったなって思ってますけど。

一般的に「みっともない」とされるようなことで作品全部を包んであげると、じつはそういうものは、人間の営みの中にある当たり前のことなんだって感じられる。(糸井)

DE DE:DE DE MOUSEとして本格的に音楽活動を始める前、20代前半の頃から多摩センターや周辺を散策していると、だんだんと街の感じが変わってきているなあ、って思います。東京郊外も過疎化が進んで云々という話はよく聞いてましたけど、ここ数年でちょっとずつ若い人が増えてきているような気がする。 僕の推測ですけど、ニュータウンで生まれ育った人が一度外に出ていって、結婚して戻ってきて、子どもが生まれて、っていうサイクルに入っているのかな、と。新築のマンションもどんどん建って、景観もかなり変わっている。

DE DE MOUSE

―変化する街の息づかいをDE DEさんはずっと感じているんですね。

DE DE:街って生き物ですからね。僕にとって、街は一つの巨大な作品なんですよ。絵やプロダクトと同じように、どこかの誰かが作ったもので、その中でいろんなものを体験しているような気持ちが強くあります。

―糸井さんはいかがですか? 男女が出会って、別れたり、家族を作ったりする人生のサイクルは、羽衣の作品にも登場する要素だと思いますが。

糸井:実家の練馬を出て、ずっと一人暮らしをしてたんですけど、結婚後、家賃の都合で奥さんと一緒に練馬の実家に戻った時期があるんですよ。自分が思春期を過ごした場所に戻るっていうのは、落ち着く面もあるし、若い頃の感覚を細胞レベルで思い出して活性化するような、不思議な感覚はありましたね。もっとも、嫁姑問題(笑)が勃発して、半年くらいであきらめちゃったんですけど。念のためお伝えしておくと、母と奥さんの関係は現在良好ですよ。

糸井幸之介

―よかったです(笑)。「活性化」という言葉につなげると、羽衣の作品は、思春期の淡い記憶とか苦い経験の再現を通して、見る側の心身が活性化するような印象があります。

糸井:うーん、どうなんでしょう……。作品を演出するときに考えているのは、一瞬のテンションの昂まりなんです。それはドラマでも、俳優さんのパフォーマンスでも、そのときの状況でも何でもいいんですけど、一瞬の昂まりが急スピードでお客さんの心に届く瞬間が確かにあるんですよね。それを虎視眈々と狙っている気がします。

その一つの側面として、例えば中高生の童貞喪失とか、同棲するカップルの結婚するのかこのままなのか、っていうエピソードを選んだりしていると思うんですけど、それをなぜ選ばなければならないのかって問われると、自分でもよくわからない。でも一般的に「みっともない」とされるようなことで作品全部を包んであげると、じつはそういうものが普遍的なこと、人間の営みの中にある当たり前のことなんだって感じられるというのはあると思います。

―だからでしょうか。羽衣の舞台と、それを作っている糸井さんには、人間を肯定したいという大らかな包容のセンスを感じます。

糸井:でも、かといって大きなテーマにはならないんですよ。僕には「演劇を作らせてもらっている」という感覚があって、まずは目の前にいる俳優さんを素敵に見せたい、素敵にしてあげたい、というのが強いんですよね。目の前にいる人の人間性を強く肯定しなければ、本当の肯定にならないと思うので。その一方で、歴史とか時代とか、大きなテーマを演劇で扱おうとしないのはある種の僕の軟弱さなのかもしれないとも思いますが、他にやりようがないんですよね(苦笑)。

左から:DE DE MOUSE、糸井幸之介

―先ほどのDE DEさんの話もそうですが、自分の実感を信じるリアリティーというのは作品に力を与えると思いますし、それはパルテノン多摩のような公的な空間で行われるフェスにおいては大切なことですよね。

DE DE:そのことに数年かけて気づいた感じは僕もありますよ。去年までやっていた盆踊りって形式は、どうやったらこの周辺に住んでいる人が『多摩1キロフェス』に来てくれるだろう、っていう試行錯誤から選んだものでした。それは多摩ニュータウンからすればよそ者である自分を認めてもらいたかったからでもあって、その成果はほんの少しだけど感じ始めているんですね。だから今年は、直球のライブにチャレンジしようと思っているんだと思います。

イベント情報
『パルTAMAフェス2016 in 多摩センター』

2016年9月17日(土)、9月18日(日)
会場:東京都 パルテノン多摩ほか

[きらめきの池ステージ]
パルテノン多摩×FUKAIPRODUCE羽衣
『愛いっぱいの愛を』
2016年9月17日(土)、9月18日(日)OPEN 16:45 / START 17:30
作・演出・音楽:糸井幸之介
出演:
深井順子
鯉和鮎美
澤田慎司
キムユス
新部聖子
アンサンブルキャスト
ほか
料金:パルテノン多摩友の会アテナクラブ会員2,500円 一般3,000円 学生1,500円

[大階段ステージ]
2016年9月17日(土)
出演:
原田真二
Polonets
ほか

2016年9月18日(日)
出演:
DE DE MOUSE
太田美知彦
ほか
料金:無料

プロフィール
DE DE MOUSE
DE DE MOUSE (で で まうす)

遠藤大介によるソロプロジェクト。作曲家、編曲家、プロデューサー、キーボーディスト、DJ。また、自身の曲のプログラミングやミックス、映像もこなす。織り重なり合う、計算しつくされたメロディと再構築された「歌」としてのカットアップサンプリングボイス。流麗に進む和音構成と相交わりから聞こえてくるのは煌びやかで影のある誰にも真似出来ない極上のポップソング。沁み渡るような郊外と夜の世界の美しい響きから感じる不思議な浮遊感と孤独感は、多くのクリエイターにインスピレーションを与えている。ライブスタイルの振れ幅も広く、多種多様のステージングを展開。これまでに数多くのフェスティバルにも出演、イギリスやフランス、ドイツなど海外遠征も盛んに行っている。昨年末には3年ぶり5枚目のフルアルバム「farewell holiday!」をリリース。立て続けに8/17には夏祭りをテーマにしたEP『summer twlight』を発表。

FUKAIPRODUCE羽衣 (ふかいぷろでゅーすはごろも)

2004年女優の深井順子により設立。作・演出・音楽の糸井幸之介が生み出す唯一無二の「妙―ジカル」を上演するための団体。妖艶かつ混沌とした詩的作品世界、韻を踏んだ歌詩と耳に残るメロディで高い評価を得るオリジナル楽曲、圧倒的熱量を持って放射される演者のパフォーマンスが特徴。第7回公演『よるべナイター』にて2007年度サンモールスタジオ最優秀演出賞。08年には世田谷区芸術アワード”飛翔”を受賞し、10年1月シアタートラムネクスト・ジェネレーションVol.2にて「あのひとたちのリサイタル」を再演。12年「耳のトンネル」にてCoRich舞台芸術まつり!2012春グランプリを受賞。同年、クオータースターコンテスト(演劇ぶっく・エントレ共同主催の演劇動画コンテスト)にて「浴槽船」でグランプリ受賞。09年からLIVE活動を開始。本公演以外にも活動の範囲を広げている。



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