細美武士の表現と強さの本質とは。揺るぎない作家精神を紐解く

ELLEGARDEN活動休止後、細美武士がmasasucks、ウエノコウジ、柏倉隆史、伊澤一葉、一瀬正和といった強力な布陣とともに、独自の音楽を探求してきたthe HIATUS。細美が色濃く影響を受けてきた1990年代のオルタナティブロック、グランジを軸にしながらも、ポストロックやダンスミュージック的要素を取り入れるなど、作品ごとに新しい音世界を打ち出してきた。そして今作『Hands Of Gravity』では、前作のミニマル路線から一転しバンドサウンドに回帰。the HIATUSの音楽を介した旅が新たなフェーズに踏み込んだ印象を感じさせる。

今回はCINRA.NET初登場ということで、ミュージシャン / クリエイター細美武士を形成する要素に焦点を当てたインタビューを敢行。彼のもの作りに対する確固たるスタンスを感じ取ってほしい。

「社会とはこういうものだ」「大人はこう生きていくべき」って言われても、「俺をお前らの物差しで測るんじゃねえよ」っていう感覚はある。

―まず細美さんのパーソナリティーを紐解いていきたいのですが、the HIATUSの歌詞では、日常の中にある孤独や嘆きを感じさせるフレーズが印象に残ります。その辺りには、細美さんご自身の機微が表れているのでしょうか。

細美:あ、そうですか? 俺個人としては別に日々孤独だと感じてるわけじゃないし、ネガティブでもないですよ。性格的には偏屈ですけどね。ファンタジーの世界に生きてたりはしないけど、たとえば「社会とはこういうものだ」「大人はこう生きていくべき」って意見を言われても、「俺をお前らの物差しで測るんじゃねえよ」っていう感覚はある。「お前の言う当たり前って、それ誰に教わったの? そんなの俺は誰にも教わってないぜ」っていう感じ。

―一般論を簡単に受け入れないし、自分の理想を追求したいと。

細美:そういうアティテュードは、あるかもしれないですね。たとえばレコード会社から「みんなこうやってますよ」と提案されても、「そういうやり方は俺はあまり好きじゃないし、そもそもみんながどうしてるかは、俺に関係なくない?」って返しちゃったりしたときは、きっとすごいめんどくさいだろうなあって思うけど(笑)。

最初に訊かれた歌詞の話に戻ると、確かに自分が書いたものだから、パーソナリティーとかけ離れたものではないけど、あくまでも自分の一要素とか側面っていうだけじゃないですかね。主義主張や、社会に向かって発信したいことを、詞に書いてるわけじゃないですから。

2014年リリースの『Keeper Of The Flame』より

―詞からでは、細美さんのパーソナリティーの一部分しか見えてこないということですね。

細美:ていうか、作詞にはそもそもメロディーがありますからね。今回のthe HIATUSの場合、俺と隆史(柏倉)と一葉(伊澤)の三人で曲のネタ出しをしたんだけど、その三人で作った曲に対しての歌詞だからね。俺個人の主義主張はそんなとこで言うよりも、他の場所で喋った方が早いじゃん。今日みたいなインタビューやラジオで発言したり、ブログを書いたりすれば済む話だから。

―あくまでご自身の作詞は、言葉の「作品」を作るという感覚なんですね。

細美:そうですね。たとえば明るいメロディーとか悲しいメロディーって、言葉が乗ってなくてもそこは感じるじゃないですか。だから、完成されたメロディーラインはそれだけで物語を持っているんだと思ってます。もちろんいろんなバースがあるから、途中から他の物語にいくこともあるし、最後に大サビが出てきて帰ってきたりもするけど、メロディーとして一貫していれば、歌詞も自然と筋の通ったものになるってだけで。

―そうしたメロディーに相応しい言葉を当てていくというのは、どんな作業なんですか?

細美:デモに仮で歌を入れるときから、ある程度の歌詞はメロディーが思いついたときに同時にできてますね。残りの部分は上に白いテープが貼ってあって見えないけど、その下には実は正解が書いてある、みたいな感覚ですかね。そこをヒントにしながら、見えてない部分を丁寧に剥がしていくっていうか。そうやって詞が見えてきます。

―なるほど、テープを剥がしていく。

細美:あくまで感覚の話だけどね。その曲がどういう曲なのかは、メロディーが生まれた時点で決まってると思うので、それを丁寧に見つけていくだけで、あんまり作詞の時点で創作する感じじゃないですね。

2011年リリースの『A World Of Pandemonium』より

―自分自身の出来事とリンクすることもあるんですか?

細美:歌詞を見つけていくときに、ビジュアルイメージが「あ、これはあの日の出来事のシーンなのかな」みたいにリンクすることはもちろんありますよ。さっきのはあくまで感覚の話で、もちろん自分で作ってるわけだからね(笑)。

妥協しない人の作品には、そこにしか持ちえない重さっていうか、強さがあるんだよね。

―細美さんの様々なインタビューを読ませていただくと、制作物だけでなく、その発言にも100%責任を負っている人だなと感じます。そのクリエイターとしての芯の強さはどこからきているものなのか、教えてください。

細美:うーん。プロ意識って、もの作りに携わる人ならそれぞれにあると思うんだけど。その中には、ニーズにきちんと応えるのがプロだっていう人もいるだろうし、納期を守ったり、ファンの期待に応えるとか、音楽であればチャートの上位に入るのがプロだと思っている人もいるかもしれない。もちろんそのどれもが正解で、単純にその人がどんなクリエイターでありたいか、っていう選択の違いだと思う。

俺のプロ意識は、周りの人間が「最高だよ!」って言ってくれるかどうかよりも、自分が「できた」と思えるものをちゃんと完成させる、っていうことですかね。セールスはその後のことだから、俺にはあまり関係ないっていうか。

―それはレコード会社の人にしてみれば、嫌かも知れませんね(笑)。

細美:(笑)。でも俺からすれば、そんなこと考えて音楽なんて作れないんで。別にそれで失うものなんて何もないし、作品を発表した後で、「自分が本当に作りたかったものは違う」みたいに言われても困っちゃうじゃん? 俺は、自分の作品を心から大好きだって、それは聴いてくれる人にちゃんと約束したい最初のことですね。

the HIATUS(左から:伊澤一葉、ウエノコウジ、柏倉隆史、細美武士、masasucks)
the HIATUS(左から:伊澤一葉、ウエノコウジ、柏倉隆史、細美武士、masasucks)

2010年リリースの『ANOMALY』より

―「偏屈」という言葉がありましたけど、それもクリエイター細美武士に大きく関わっているマインドでありスタンスでもあると思うんです。

細美:もともと黒澤明とかスタンリー・キューブリックとか、一種病的なこだわりを持った作家の作品がすごく好きですね。そういう人たちの仰天エピソードも好きだし。大抵は先に作品を好きになって、後から「ああ、やっぱりそういう人なんだ」って知るんだけど、妥協しない人の作品には、そこにしか持ちえない重さっていうか、強さがあるんだよね。

2014年リリースの『Keeper Of The Flame』より

―黒澤作品のような細部までこだわり抜いたものが好きだから、細美さんとしてもそういった作品を作ってみたいんですね。

細美:うーん、まあ単純に好き嫌いの話だと思うけど。自分の作品の中にもそういう強さっていうか、パンチ力みたいなものがあるといいなとは思いますね。『シャイニング』(1980年)のお母さん役の女優さんが、「この作品に出演できたこと、完成させられたことは人生で最高の経験の一つで、本当に感謝しているけれども、キューブリックの作品には二度と出演することはないと思う」って、インタビューで言ってたのね(笑)。そんなふうに、多少なり周囲との軋轢があっても、自分の表現をやりきるっていうか、作品を他の何よりも大事にする、そういう作家性には強く惹かれますね。

映画『シャイニング』より

MONOEYESを始めたことで、the HIATUSとして出すべき音、このメンツでやりたい音楽に特化できるようになった。

―クリエイターの中にはデザイナーとイラストレーターを兼業している人もいますが、そこには目的意識がはっきりしていることがほとんどだと思います。細美さんはthe HIATUS以外に昨年からMONOEYESも始動させて、二つのアウトプットとチャンネルを持っていますよね。その辺りについて聞かせてください。

細美:自分の中にある二面性っていうのかな。ただ仲間と肩組んで笑ってたいだけの俺もいるし、自分の音楽性みたいなものを追求してみたい俺もいて。その二つは分けてやった方が作品が中途半端にならなくていいのかな、っていう気持ちが大きくなってきたので、武道館のワンマン後に一度ソロアルバムを作ってみたいっていう話をthe HIATUSのメンバーにしました。それが結果としてMONOEYESってバンドになって、去年から二つのバンドを同時進行でやってます。

MONOEYES(左から:一瀬正和、細美武士、戸高賢史、スコット・マーフィー)
MONOEYES(左から:一瀬正和、細美武士、戸高賢史、スコット・マーフィー)

2015年リリースの『A Mirage In The Sun』より

細美:今まではthe HIATUSでその両面を表現しないといけなかったんだけど、MONOEYESができてからは、the HIATUSとして出すべき音、このメンツでやりたい音楽に特化できるようになりました。

―ELLEGARDENからのファンとすると、15年くらいの付き合いになる人たちもいますよね。

細美:そうですね。今は親子でライブに来てくれる人たちもいれば、ここ1、2年で新しく聴きに来てくれるようになった人たちもいて、ずいぶんたくさんの人たちと時間を共有できてます。

2015年リリースの『A Mirage In The Sun』より

―そういった人たちの期待に応えたいから、表現をアウトプットするチャンネルを増やそうと思った部分が大きいんですね。

細美:いや、そこはあんまり考えてなかったですね(笑)。単純にもっと良い作品を作れる環境を整えたかった、って感じです。それが結果として、みんなにとっても面白いことになっていれば言うことないですけど(笑)。

デモ音源の持っているプリミティブな快感を残しながら、アルバムの完成形を作りたかった。

―the HIATUSとしてやりたい音楽に特化できた『Hands Of Gravity』というアルバムが完成するまで、そのプロセスにもやはりこれまでと違った手応えがあったのでしょうか。

細美:もうアルバム5枚目だから、メンバー間の関係がやっぱりすごくしっかりしてて、阿吽の呼吸になってきましたね。全部言う必要はなくなったし、逆に余計なこと言っちゃっても変にこじれたりしなくなりました。

the HIATUS『Hands Of Gravity』ジャケット
the HIATUS『Hands Of Gravity』ジャケット(Amazonで見る

細美:今回のレコーディングでは、曲のダイナミクスを大切にして録音することにこだわりました。コンピーな仕上がりにして、都会の雑踏や車の中、電車の中とかでも全部はっきり聴こえるように作るのは、俺たちがやらなくてもいいことだと思ったので。小さいところは当たり前に小さく、音が大きくなるところではちゃんと大きくなるように作ってあります。

個人的な挑戦で言うと、できるだけ人間を感じられるような、いい演奏をレコードに残したいと思ってました。テイクを重ね過ぎたり、きれいに編集しちゃったりすると、デモ音源にあったような、曲が生まれたときの喜びとかマジックが損なわれたように感じることがよくあって。デモを聴きかえすと「なんかやっぱりこれいいんだよなあ」みたいに感じることって、ミュージシャンならみんな経験あるんじゃないかな。だから今回は、デモ音源の持っているプリミティブな快感みたいなものを残しながら、アルバムの完成形を作りたいと思ったんです。

『Hands Of Gravity』より

―それが「ダイナミクスを残す」という制作コンセプトにも繋がっているわけですね。

細美:うーん、それは音の話だから別ではあるんだけど、結果的にいい演奏を録る、ってことと、いい音のレコードを作る、っていう二つがうまくいって今回のアルバムができたんじゃないかな。もちろん各パートのエゴも音楽には重要な要素なんだけど、「何が曲にとってベストな選択か」みたいなことをみんなで話し合えるような、いい関係性の中で作れました。

―たしかに『Hands Of Gravity』は聴いていて耳が疲れない印象があります。今回、DTM色を全面に出した前作『Keeper Of The Flame』を通過して、バンドサウンドに回帰した側面もあると思っていて。

細美:プログラミングは『Keeper Of The Flame』で結構やったから、自分たちにとって「すごく新しいもの」ではなくなったからかもね。プログラミングの分量自体はそんなに意識してなかったけど。

―前作とサウンドスケープは大きく変わりましたが、今作でも世界的に有名なテッド・ジェンセンにマスタリングを依頼していますよね。細美さんとしては彼にどんなことを期待して依頼したんですか?

細美:俺がテッドのマスタリングで好きなのは、楽器が鳴ってない帯域にも、何かしら存在を感じられるようになるところですね。グランドピアノと歌しか入ってないような曲でも、スカスカにはならないで、何か充足するようになる。

『Hands Of Gravity』より

―現場では一緒に細かく詰めていくんですか?

細美:レコーディングエンジニアの柏井(日向)くんも立ち会ってるし、マスタリングは基本的にほとんど口出しすることはないですね。テッドに方向性を確認されたりはするけど。もう何枚もマスタリングしてもらってて、その全部に満足してるから、すごく信頼しています。

何かに挑戦するのは楽しいことだから、音楽を作るときもそれを続けていきたいですね。

―細美さんはご自身のことを「ただのバンドマン」と言っていましたが、偏屈であることにはどこかアーティスティックな響きもあると思うんです。アーティストと呼ばれることに対してはどう思いますか?

細美:自分が作ったものが芸術とかアートなのか、ってことは正直よくわかんないし、どっちでもいいですね。自分が作りたいもの、聴きたい音に向かっていくことが好きで、「ほんとにできるのかな?」ってことに挑戦していたいだけで。単純に何かに挑戦するのは楽しいことだから、音楽を作るときもそれを続けていきたいですね。

―挑戦すること自体に、喜びがあるんですね。

細美:そうですね。俺の場合は、その挑戦が作品として残っていく。これって、めちゃくちゃ幸せなことだよね。

―常に挑戦していく楽しさの中には、自分自身を常に更新していくということも含まれていますか?

細美:そんな難しく考えてるわけじゃなくて、子供の頃にゲームにハマったみたいに、今も楽しいから熱中しちゃうだけ(笑)。ゲームが上手くなりたいと思ってたわけじゃなくて、楽しくてやってるからね。それと同じで、音楽を作る、歌を歌う、楽器を演奏するのが楽しいと思ってるだけなんじゃないですかね。

―その楽しさが、色あせることはありませんか?

細美:この間ふと気が付いたんだけど、音楽って年齢で劣化していかないんだよね。歌にしても作曲にしても、ずっと伸びていくもんなんだなって、ふと気付いて、すごく嬉しかったです。

―どんどん楽しさを見出していける一方で、身体的な衰えに直面するときも来ると思うんです。そうなった場合、そのときの自分に合うフォームを見つけるという感じなんでしょうか。

細美:そうなのかなあ? まあ、もし自分の限界が見えたら、「もういいんじゃね?」ってパタッとやめちゃうかもね。でもなんとなくだけど、5年後には今よりいい歌を書けて、歌えるようになってると思うよ。肉体なんて鍛えればいくらでも応えてくれるしね。もっともっと強くなってるといいな。

リリース情報
the HIATUS
『Hands Of Gravity』(CD)

2016年7月6日(水)発売
価格:2,592円(税込)
UPCH-20422

1. Geranium
2. Clone
3. Drifting Story
4. Bonfire
5. Let Me Fall
6. Radio
7. Catch You Later
8. Secret
9. Tree Rings
10. Sunburn

プロフィール
細美武士 (ほそみ たけし)

ELLEGARDEN活動休止後、the HIATUSのボーカルとして活動中。オルタナティブ、アートロック、エレクトロニカへ傾倒しつつも、ジャンル不問の新しい音楽を追究し続けている。また、2011年以降はソロアーティストとしての活動も活発になり、クラブDJやループサンプラーを用いた弾き語りライブも行っている。



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