再出発するTAMTAMに、時代は味方する。移籍を経た2年間を語る

やはりTAMTAMはTAMTAMだ。2年ぶりとなる取材を終えて感じたのは、そんな印象だった。実のところ、この2年でバンドには大きな変化が起こり、メンバーの脱退とレーベル移籍を経て完成した新作『NEWPOESY』は、ルーツであるダブ / レゲエの側面を残しつつも、ロック寄りだった前作とは異なり、ソウル / R&B的な印象を強めている。

しかし、もともとTAMTAMというバンドは折衷的な音楽性を持つバンドであり、ジャンルとしてのダブというよりも、「普通のことはやらない」という精神性としてのダブを愛するバンドであった。さらに言えば、利便性よりも人間味を愛するバンドであって、その魅力自体は何も変わっていないのだ。「荒野」から始まる彼らのリスタートを、心より祝福したい。

メジャーが一定の方向でクオリティーを上げていくことを求めるのに対して、バンド的には「新しかったり、面白いことをちゃんとやりたい」っていうのがあったんです。(アフィ)

―CINRA.NETとしてはひさしぶりの取材になるのですが、前作『Strange Tomorrow』(2014年)リリース後の2年というのは、バンドにとってどんな期間だったのでしょうか? おそらくは、いろんな意味で自分たちのことを見つめ直す時間にはなったのかと思いますが。

クロ(Vo):結果から言うと、テンションは変わってないというか、バンドは前向きな状態でずっと続いてるんです。でも、環境はめちゃくちゃ変わったし、周りにいる人もガラッと変わったなって。

アフィ(Dr):1年間デトックスをしたというか、自分たちがやりたいことをやれるように1年間頑張って、その後の1年は実際にやりたいことをやって、今回のアルバムができたって感じですね。

―新作はP-VINEからのリリースになりますが、ビクターとの契約が満了して、P-VINEに移籍したという形なのでしょうか?

アフィ:実は、もう1枚フルアルバムを出す予定だったんですけど、バンドのやりたい方向と、向こうの出したい方向とがずれてきちゃったんです。そこでお互い妥協してもう1枚作るか、それともやりたいことをやれる方法でもう一回頑張るかってなったら、妥協してやる意味はないだろうと。

―今の環境を自分たちで選んだわけですね。

アフィ:まあ、こう言うときれいにまとめ過ぎなんですけど、メジャーが一定の方向でクオリティーを上げていくことを求めるのに対して、バンド的には「新しかったり、面白いことをちゃんとやりたい」っていうのが強くあったんです。もちろん、それをちゃんと両立してるバンドもいるので一概には言えないんですけど。とにかく、僕たちとしては、そのときそのときに面白いと思ってることを自由にやれなくなってしまうと、本末転倒で。

―2年前の取材でも「普通のことはやりたくない」っていう話をしていて、やっぱり、そこがバンドの肝なんでしょうね。

クロ:こういう話をすると向こうが悪者みたいに聞こえちゃうかもしれないけど、そうじゃなくて。最初の時点ではお互いのやりたいことが合致してたと思っていたんだけど、継続的にやっていく中で少しずつ相違が出てきたのかなと思ってて。そこで妥協して一枚作るよりかは、お互い「ありがとうございました」できっぱり離れようという感じだったんですよね。

左から:クロ、高橋アフィ
左から:クロ、高橋アフィ

(他のバンドに参加したことで)自分たち的には当たり前だと思っていたことが、意外とそうじゃないってこともわかった。(クロ)

―最初の1年はデトックスの期間だったという話がありましたが、その時期は個々で他のバンドに参加したりもしていて、その中で自分たちのことを見つめ直す部分もあったかと思います。

クロ:私は吉田ヨウヘイgroupのサポートをやっていたので、自分のプレイヤビリティーを見つめ直したところはあったし、カントリーとかフォークとか、それまで自分があまり対バンしてこなかったタイプの人と出会うことにもなって、単純に「同じ世代に素敵なバンドがいっぱいいたんだなあ」って思いました(笑)。

ただ、それによって、自分たち的には当たり前だと思っていたことが、意外とそうじゃないってこともわかって。例えば、私はベースとドラムから曲を作るので、うねる感じのビートが作曲の前提に来ていて、メンバーもそういう楽曲やアーティストが比較的好きで、打ち込み音源も含めてよく話をするんですけど、思ってた以上に自分たちはその「うねり」の観点を重めに考えてて、理想もわりとブレなくて。そこは、バンドにとって音像的なアイデンティティーなのかもなって、改めて思いました。

クロ

アフィ:逆に言うと、僕は吉田さんたちと話すまでWilcoとかは全然聴いてなかったんです。フォーキーなんだけど、フリージャズとかノイズの要素が入ってる音楽って自分の対象外だったから、「こういうのもあるんだ」って、知見が広がりました(笑)。

―アフィくんは先日出たマイルス本(『MILES : REIMAGINED 2010年代のマイルス・デイヴィス・ガイド』)にも寄稿していたり、ジャズとの接点も強いと思うんですけど、プレイヤーとしてはどんなルーツの人なんですか?

アフィ:もともとはミクスチャーとかなんですけど(笑)、最近だとBADBADNOTGOOD(カナダのジャズバンド)とかが好きで、わりといなたい演奏というか、録音も含めて、ドタバタしてるのが好きで。

ジャズを聴くようになったのは、エレクトリックマイルス(マイルス・デイビスの長いキャリアの中で、エレクトリック楽器にシフトチェンジした1970年代のサウンド)とかが入口なんですけど、ジャズの人が頑張って8ビートを叩いてるのとかが好きなんですよね。その流れで、ソウルとかファンクも好きになるんですけど、ジャンルというよりは、それぞれの整頓されてない時期の音楽が好きみたいです。プレイヤーにしても、上手くなる直前の演奏が一番好きだし、変なセッティングで演奏する人とかも好きだから、そういう部分は影響も受けてるかもしれないですね。

これまでの騒ぐっていう感じではなく、踊ってもらいたいような曲調が多くなって、そこから徐々にR&Bとかヒップホップの流れに入っていった感じですね。(アフィ)

―では、実際のアルバム制作に関しては、どこがスタートだったのでしょうか?

クロ:8曲目の“星雲ヒッチハイク”は2年前には既にあった曲で、バンド内でわりと盛り上がって、「こういう方向で伸びていきたい」って話してたんです。もともとは「20分くらいの曲を作って、Ustreamでやろう」って企画があって、最初はもっとジャムっぽい感じだったんですけど、ライブでやるために短くして、今回のアルバムに入ってるのはそこからさらにリアレンジしたものです。

―『Strange Tomorrow』がロック寄りだったのに対して、『NEWPOESY』はソウル、ヒップホップ、R&B寄りで、資料にはThe InternetやHiatus Kaiyote(共にソウルやヒップホップを生演奏する海外のバンド)の名前が挙がっていて、僕もそういった今のバンドに通じる感覚がTAMTAMにあると思いました。“星雲ヒッチハイク”が今の方向性に至るきっかけになったわけですか?

クロ:「リラックス」してるっていうのが、重要だったんだと思います。前まではすごくシリアスだったけど、“星雲ヒッチハイク”は脱力してると思うんですね。

アフィ:前からそういう曲もアルバムには入ってたけど、今回のアルバムで、方向性が明確になりました。これまでの騒ぐっていう感じではなく、踊ってもらいたいような曲調が多くなって、そこから徐々にR&Bとかヒップホップの流れに入っていった感じですね。

前作『Strsnge Tomorrow』収録曲

―音像も変わりましたね。

アフィ:前までは音数が多めだったんですけど、最近のジャズの人たちって、普段打ち込みとかを聴いてる人に向けて、生バンドのかっこよさを届けるためのアレンジをしてるじゃないですか? 少し余白を作って、プレイヤーそれぞれの音とか、ボーカルのちょっとしたうねりが聴こえるような。まあ、メンバーみんな音楽好きなので、そういう時代性は伴うというか、意識してやったというよりは、結果的にこうなったって感じなんですけど。

―意識して寄せてたら薄っぺらくなってしまうけど、そうはなってないし、TAMTAMってもともとすごく折衷的だから、その割合が以前と少し変わっただけとも言えるのかなって。

クロ:そうですね。ただ、最初の頃は前提として「周りにレゲエ / ダブバンドとして見られている中でどうポップスをするか」に囚われていた部分が少なからずあったけど、そういう肩書きも含めて、ひとつの場所に留まっているとモヤモヤし始めて、「もっと違うものを作りたい」って気持ちが芽生えるんですよね。

今回大きく変わったこととして、余計なことは何も考えず、とにかくシンプルに「今やりたい曲」を突き詰める精度だけ高めたかった。だから一旦、これまでの経緯からバンドに期待されそうなものはリセットして、考えませんでした。「音を聴いた人から自分達がどう見えるか楽しもう!」と、ようやく振り切れたというか。

アフィ:やりたいことをちゃんとやればレスポンスも返ってくるから、あんまりいろいろ考えなくても、それでいいんだなっていうか。

―そう考えると、やっぱり『Strange Tomorrow』までの積み重ねがあったからこその今だっていう言い方ができそうですね。

クロ:そう思っていただけると嬉しいです(笑)。

左から:クロ、高橋アフィ

ダブのそういう生々しいところとか、よれたりしてるのをちゃんとかっこよく入れるのって、今のインディーの感性にも近いなって。(アフィ)

―さきほどちょっと出自の話になりましたが、一時期は「21世紀型ダブバンド」っていうコピーもあったり、やはりルーツとしてのダブ / レゲエっていう部分は今も大きいと思うんですね。そういう自分たちのルーツと、今の時代との接点をどのようにお考えですか?

アフィ:ダブって録音後のポストプロダクションも重要なんですけど、基本的には、「録ったのをそのまま出す」みたいなところもあるんです。例えば、ダブのレコードにはよく、最初のカウントをミスってやり直すみたいのがそのまま入ってるんですけど、そういう感性って今と近いというか……。

クロ:セクシーというか、だらしないというか。

アフィ:人の顔が見えるというかね。ダブのそういう生々しいところとか、よれたりしてるのをちゃんとかっこよく入れる精神とかは、今のインディーの感性にも近いなって。だから、今の時代を「ダブっぽい」と言うことはできるけど、たまたま共通の要素というだけで、わざわざ言わなくてもいいよねっていうのはあります(笑)。

高橋アフィ

―ダブっていうと一般的には「ポストプロダクションでいろんなエフェクトをかける」みたいなイメージの方が強いかもしれないけど、その一方では生々しさも魅力で、そこが時代性にもリンクすると。

クロ:でも、前者のようなエフェクトの飛びが気持ちいいものにもがっつり影響は受けてるので、今回そういう楽曲もいくつかあって。それらのミックスのときは、「ここはもっと極端にエフェクトかけてぶっとばしてください」みたいなオーダーはたくさんしました。ミックスの人もそういうのをちゃんと面白がってくれる人だったので、「このディレイは馬鹿だなあ」とか言いつつやってくれて、そういうのは楽しい思い出です。

アフィ:そう、すごく生々しく録れてるようで、実はミックスは結構めちゃくちゃなことやってるんです。そこもわざわざ言わなくていいけどダブ要素ではあるというか、「スタジオでやった変なことをちゃんと面白がる」って部分は出てると思います。録音したドラムの音をアンプに通したり、そもそもマイキングも変だし。

クロ:声もパッと聴き普通に聴こえると思うんですけど、緩やかに全体を歪ませてたりして、バンドと一緒に気持ちいいところを探してくれたというか。

―エンジニアの中村公輔さんは、入江陽さんやツチヤニボンド、最近だと宇宙ネコ子とかを手がけられている方ですね。特にミックスに時間をかけた曲を挙げるとしたら、どれになりますか?

アフィ:曲単位というよりも、全体の方向性を決めるまでが大変でした。最初にどういうミックスにしたいかって話をしたときに、僕らは「打ち込みっぽい感じで」みたいなことを言ってて(笑)。

クロ:参考音源が、A$AP Rocky(ニューヨーク出身のラッパー)の“L$D”だったり。

アフィ:全体的にドラムが歪んでて、わりと打ち込みっぽい感じがいいなって思ってたら、リファレンスになるバンドの曲が2曲くらいしかなくて。なので、そういうサウンドをどうやってバンドで出すかっていう部分に、ちょっと時間がかかりましたね。

クロ:でも、生ドラムの録り音がすごいよかったから、「そこは活かしたい」と言って……。

―「どっちやねん!」と(笑)。

クロ:でも、「うーん」って言いながら、「なんとなくわかりました」ってやってくれたのが結構イメージに近くて、最初に“CANADA”がパーフェクトバランスでできて、「他の曲もこの方向にチューニングしよう」ってなってからは速かったです。曲より音像で考えるみたいなのも、今の海外のバンドとかに近いのかもしれないですね。

リスタートしたこの現状を「NEWPOESY」って言ったら、かっこいいなって。(クロ)

―歌詞に関しては、クロさんの中で何か意識の変化がありましたか?

クロ:途中でも言ったように、前に比べると曲のシリアスさが抜けて、リラクシンなムードになったので、自分にとってもカジュアルな、身近な感じになって、言いたいことが言いやすくなった気がします。あと、前はいい詩とか小説とかをお手本にしちゃっていたというか、「正しさを求める」みたいな感じがあったんですけど、拙くても自分のボキャブラリーで作るようになったのは大きな変化ですね。

―確かに、日常感が増したし、ラスト3曲はすごくドラマチックで、ストーリー性が感じられました。“星雲ヒッチハイク”の歌詞は<いつの日か目が覚めて始めよう、違う未来>というラインで終わっていて、「リスタート感」がありますが、これはどういった背景から生まれた歌詞なのでしょうか?

クロ:これはそれこそ2年前に書いた曲なので、まだ具体的に影響を受けた作品があったんです。『老年期の終り』っていう藤子・F・不二雄のSF短編なんですけど、主人公が冷凍睡眠で6千年かけて銀河の中央に行くみたいな話で、でも目覚めたら人類の進化は終わっていて、「俺は何もかも捨ててきたのに、人類はこのありさまか」って絶望するんですよ。でも最終的には、そこからもう6千年かけてどこかに向かって、その後どうなったかはわからないんだけど、その惑星に残った爺さんが音楽をかけて終わるっていう美しい話で。

クロ

―希望があるかもしれない違う未来の余韻を残して終わると。

クロ:なので、そのテーマソングみたいなつもりで書きました。やっぱり、こういう話が好きなんですよね。途中の生演奏の話にも通じると思うんですけど、人間の最終的にしょぼいとことか、ちょっと粗が出たり、きちっと整理されたものじゃない、そういうのが好きなんだなって思います。

―確かに、最初に話した「面白いものを作る」っていうのは、そういう未整理で、人間味が出てるものだって言い換えることができるかもしれないですね。では、『NEWPOESY』というタイトルは、どうやってつけられたものなのでしょう?

クロ:古本屋さんで辻仁成とかが編集してる雑誌をパラパラ見てたら、「荒野の向こうにポエジーがある」っていうコンセプトが書いてあって、それって“星雲ヒッチハイク”の歌詞ともリンクするなって思ったんです。私たちの現状を「荒野」って言うとネガティブに聞こえるかもしれないけど、そういうことではなくて、結果的に環境はガラッと変わったし、リスタートしたこの現状を「NEWPOESY」って言ったら、かっこいいなって。

―なるほど。

クロ:もともとは、“星雲ヒッチハイク”をアルバムタイトルにしようかと思ってたんです。最後に老人が音楽を流すところって、惑星は終わっていくんだけど、人類的には未来しかないように見えて、「まさにポエジー!」って思ったし(笑)、最近あんまり聞かない単語を冠につければ、アルバム自体が瑞々しい感じになるかなって。

―うん、すごく瑞々しいし、荒野からの素晴らしいリスタートになったと思います。

アフィ:まあ、自分たちとしてはもうリスタートし終わってる感じなんですけど(笑)。でも、実際今バンドはすごくいい感じで、「変わったな」っていうのは自分たちでも思ってるんで、改めて「こんにちは」って感じなのかなっていうのは思いますね。

左から:クロ、高橋アフィ

リリース情報
TAMTAM
『NEWPOESY』(CD)

2016年9月14日(水)発売
価格:2,592円(税込)
PCD-24536

1. アンブレラ
2. コーヒーピープル
3. CANADA
4. インディゴ16'
5. カルテ
6. sweetcigarettes
7. greedcity -the theme of lisa-
8. 星雲ヒッチハイク
9. newpoesy
10. 自転車ジェット

イベント情報

『TAMTAM "NEWPOESY" Release Tour』

2016年9月21日(水)
会場:長野県 松本 ALECX
出演:
TAMTAM
Healthy Dynamite Club
パーティーグッズ

2016年10月2日(日)
会場:茨城県 古河 SPIDER
出演:
TAMTAM
MAGIC FEELING
A Month of Sundays
Vulpes Vulpes Schrencki
DJ:Shower of Music

2016年10月22日(土)
会場:大阪府 南堀江 socorefactory
出演:
TAMTAM
キツネの嫁入り
The sankhwa
and more

2016年11月4日(金)
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-nest
出演:
TAMTAM
Tempalay
DyyPRIDE(SIMI LAB)

プロフィール
TAMTAM
TAMTAM (たむたむ)

2008年結成、東京を中心に活動するオルタナティヴバンド。メンバーは、クロ(Vocal、Trumpet、Synthesizer)、高橋アフィ(Drums、Programming)、ともみん(Keyboard、Chorus)、ユースケ(Guitar)。紅一点クロの透明感のあるしなやかな歌声を中心に、レゲエ / ダブを土台にし培った、バリエーション豊かに刻む骨太なリディムセクション。全体のカラーを決定づけるギターに、彩りを与えるメロウなキーボード、ときに祝祭的なブラス・サウンドが幅広い音楽性を与えている。



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