8月31日にベースの汐碇真也の脱退が発表され、再び2ピースに戻ったKidori Kidori。新作『OUTSIDE』からのリードトラック“アウトサイダー”の歌い出しは<輪の外 僕たちだけ>で、平坦ではないバンド活動を嘆いているようにも聴こえるが、もちろん、これはそういう歌ではない。自分を俯瞰して見つめることによって、前向きな姿勢を取り戻そうとする、マッシュ(Vo)の「アウトサイダー哲学」とでも言うべき思想が詰まっているのだ。
そこで今回の取材では、改めてマッシュのパーソナリティーに注目。イギリス生まれの帰国子女であり、「これまでずっとどこか居心地の悪さを感じながら生きてきた」という彼は、大阪から上京してすぐに起こった前ベーシストの脱退劇を経て、東京の生活で何を感じ、再びの転機となったいま何を思うのか? その率直な想いにぜひ耳を傾けてほしい。
いつだってどこか居心地の悪さみたいなものを感じながら生きてきた節がある。
―8月25日に『exPoP!!!!!』(CINRAが主催する無料音楽イベント)に出てもらって、8月31日に汐碇くん(しおいかり)の脱退が発表されたので、非常に驚きました。おそらく、25日の時点で脱退は決まっていたわけですよね?
マッシュ:まあ、ほぼ決まってた感じですね。
―脱退発表時の汐碇くんのコメントには、「度重なるバンド内の不和に耐えられなかった」という言葉もありました。改めて、脱退の経緯を話していただけますか?
マッシュ:あの文章の通りではあるというか。「不仲」っていうとずっと仲が悪いってことだと思うんですけど、「不和」って表現なので、「肝心なところでそりが合わなくて」ってことだと思うんです。
それは音楽に対する考え方とか、バンドをやるうえでの姿勢とか、主にそういうところだと思っていて。甘ったるいことを考えていたら甘ったるいものしかできないし、妥協したら妥協したようなものしかできない。僕は最後まで追求しないと気が済まない人間なので、そういうところでズレがあったのかなって思います。
―6月には三人になってからの初作である『フィールソーグッド e.p.』が出ていて、そのときの取材(深く雑多な音楽愛好家Kidori Kidori推薦、悩みながら躍る10曲)では、「いまのバンドの状態はフィールソーグッドだと思う」って話してくれてたけど……バンドって難しいですね。
マッシュ:難しいですけど、いまはもう気持ちを切り替えてます。もちろん、落ち込みもしたし、自分の中で反省もあったんですけど、ずっとウジウジしていてもしょうがないですから。バンドをやめてしまえば可能性は0になってしまうけど、続けていれば可能性はある。だったらその可能性を信じて、前向きに活動するしかないと思うんです。だから、いまはまたフィールソーグッドなんですよ(笑)。
―新作の『OUTSIDE』は“アウトサイダー”という曲がリードトラックになっていて、これは汐碇くんの脱退が決まる前に作った曲だと思いますが、結果として、また二人になったタイミングでこの曲が出ることで、Kidori Kidoriのアウトサイダー感が強調されることになりましたよね。
マッシュ:“アウトサイダー”っていう曲は自分を俯瞰して見る視点で書かれていて、僕はこれまでの人生で「自分を俯瞰して見る」っていうことを結構やってきているんです。僕はイギリスで生まれて、6歳になる前に日本に帰ってきたんですけど、ボケッとした子どもやったんで、浮いちゃって。だからいじめられもしたし、かと思えば、中学に上がるころには少しやんちゃなグループの中にいたし……いつだってどこか居心地の悪さみたいなものを感じながら生きてきた節があって。
だから、バンドを組んでからも、大学を卒業したら東京で活動するべきだってずっと考えていたんです。東京の方が居心地いいんじゃないかと思っていたんですよね。
―そうやって生きてきた自分を「アウトサイダー」という言葉で表現したと。
マッシュ:そうですね。「俺はずっと居心地の悪い中で生きてきたんやな。1曲そういう曲を作ってみよう」と思って書いて。それでその曲を聴いてみたときに、自分のことを歌ってはいるんだけど、これを世の中に向けて出したら、もしかすると、誰かしらのためになり得るんじゃないかと思ったんです。
誰にだって居心地の悪い瞬間ってあるじゃないですか? みんな何らかの輪の中に属していると思うし、居心地の悪さを感じながらもそこにいないといけないっていう状況は誰にでもあると思う。
―うん、同じようなことを感じている人はとても多いと思います。
マッシュ:僕はKidori Kidoriを「変なバンド」だと思ってやってはいなくて、ど真ん中のストレートを投げてるつもりなんです。でも、どうやら世の中からは変な目で見られているらしいので、そういう意味ではすごくKidori Kidoriらしい曲でもあるのかなって。
昔の俺は俺のままでいたくて、上京したてのときも、みんなにそのままの「俺」を受け入れてほしかったんです。
―「大阪よりも東京の方が居心地がいいんじゃないかと思った」という理由を詳しく話してもらえますか?
マッシュ:東京って、「居場所のない人の集まり」とまでは言わないけど、地方から出てきている人の方が圧倒的に多いわけじゃないですか? そこに居心地の良さを見出したというか。
―なるほど。大阪でただ居場所がないと感じるよりも、東京で同じように居場所のなさを感じている人がいることが、逆に居心地の良さにつながるだろうと。
マッシュ:あと音楽的な話で言うと、ホントに狭いコミュニティーの話ですけど、大阪のバンドで洋楽に影響されてやっているような人たちって、当時の僕の目に見える範囲にはいなかったんです。ミドリとか、関西ゼロ世代(2000年以降に登場した、サイケデリックな要素やノイジーな要素のある、アヴァンギャルドな音楽シーン)の匂いがまだ残っていて、そういう日にブッキングされることが多くて。そこにも居心地の悪さを感じていたんですよ。でも、東京を見てみると、the telephones、The Mirraz、THE BAWDIESとか、洋楽からの影響を受けてやっているバンドがいっぱいいて、東京の方が絶対居心地いいんやろうなって思ってたんです。
―実際東京に来てみて、居心地はどうでしたか?
マッシュ:やっぱり、情報量は圧倒的に多いし、マニア気質な音楽好きも多い。そういう意味では居心地いいですよ。ただ、また自分のことを俯瞰して見ると、ロックバンドやってんのにジョン・コルトレーンに感動しているのは、少し不思議な感じもするというか。あと僕、基本的に古い王道の音楽が好きで、そういう同世代とまだあんまり会えてないんで……友達募集中です(笑)。
―10月1日にTempalayとドミコ主催のイベント『BEACH TOMATO NOODLE』に出演するじゃないですか?(取材は9月末に実施) 彼らには共感する部分も多いのかなって。
マッシュ:Tempalayの(小原)綾斗とは妙に仲良くなって、あのイベントはすごく楽しそうだったんで、「出させろ」って言って、出させてもらった感じに近いです(笑)。ただ、彼らと徒党を組むっていう発想ではないというか。僕は人の行く道の逆を進みたくなる人間なので、もし周りが徒党を組んで何かをするとしても、自分は自分自身と対峙して、とにかくKidori Kidoriをもっとよくしたいっていう目線なんです。「常にチャレンジャーであるべき」っていうのは強く思っていますね。
―大阪にいたときは東京が羨ましく見えたけど、東京に来てからもどこかに混ざるのではなく自分自身を見つめている。そこには上京してすぐにンヌゥさんが脱退したことも大きく影響しているのではないかと思います。
マッシュ:昔の俺は俺のままでいたくて、上京したてのときも、みんなにそのままの「俺」を受け入れてほしかったんです。でも、すぐにンヌゥが抜けて、ホントに途方に暮れて、自分がまだそれに値する人間じゃないことを思い知らされた。でも、あのときいろんな人に助けてもらったことで、「自分をもっと向上させないと」ってより強く思うようになりましたね。
―ただ受け入れてもらおうっていう気持ちだけじゃダメだったと。周りの人のやさしさに触れたことで、居場所は自分で守っていく必要もあると気づいたんですね。
マッシュ:あと、「なぜ自分は音楽をやってるのか?」って考えたときに、ずっと自分の内側にあるモヤモヤしたものを吐き出すためにやっていると思ってたんです。でも、最近ようやく「俺は自由になるために音楽をやってるんだ」っていう、自分が本当に求めているものに気づいたんです。そのためにも、常に成長していかないと、本当の意味で自由にはなれないと思うんですよね。
美術館とか行くと、マダム達を連れて「これはね」みたいに説明してる紳士がいるじゃないですか? ああいう人って、アウトサイダーなんですよ(笑)。
―“アウトサイダー”の話に戻すと、この曲の最後は<アウトサイダー 裸だった 気づけば><アウトサイダー 逆さまさ いずれは>という二行で終わっています。最初のラインはいま話してもらったような、東京に出て来てからのマッシュくんを描いているように思えるし、最後のラインからは「いまの状況を変えたい」という思いが感じられます。
マッシュ:俺としては、輪の中にいることがつまらないと感じるから外に行こうとするんだと思うんです。でも、まだまだ未熟者なので、いますでに構築されているものをぶち壊す作業はもうちょっと先の話でいいと思っていて。あくまで自分らしく進んで行くことで、自分たちのやっているようなことがいつか王道になったらめっちゃ面白いやんと思うんです。
たとえば、いま『ダリ展』が盛り上がっていますけど、絵が好きな人からすれば、「もっと他にもいい作家はいるのに」って思うはずなんです。そこで必要とされるのがそれを紹介してくれる人の存在で、美術館とか行くと、マダム達を連れて「これはね」みたいに説明してる紳士がいるじゃないですか? ああいう人って、アウトサイダーなんですよ(笑)。
―つまり、いま現在「王道」と認識はされていないけど、それと同等の価値を持つ他のものを紹介できる人ってことですね?
マッシュ:輪の中にいる人たちを引っ張り出して、知らない世界に連れて行ける人というか、俺らもそういう紳士になりたいなって思うんです。それでもっとみんながいろんな音楽を好きになれば、俺たちが変だって言われることもなくなる。そんな素敵な世の中になるかもしれないじゃないですか?
その方が単純に楽しいし、いいものをたくさん知れるし。そうやって新しいものを吸収した人たちが、今度は俺が「わけわからん」って思うようなことをやり始めるかもしれないですからね。そんなん最高やんって思うんですよ。
―今回の作品はそういう「アウトサイドのススメ」みたいな側面があると。
Kidori Kidori『OUTSIDE』ジャケット(Amazonで見る)
マッシュ:ただ、この5曲は何かを否定しているわけではなくて、アウトサイドな自分も、そうじゃない人もいていいと思う。何かを否定することで自分の存在意義を確かめるようなことはしたくないんです。だからそれこそ、常に自分に厳しくじゃないけど、「自分が思うかっこいいことを自分はできているのか?」っていう目線を常に持っておく方が、結果的にはみんながハッピーになるんじゃないかと思うんです。
―つまり、この作品のメッセージは「アウトサイダーであれ、迎合するな」ということではないということですね。
マッシュ:メッセージがあるなら、「ビビるな、好きにしろ」ってことですね。ただ、いま外にいる自分だからこそ言えるのは、「外に出るのは怖いことではない」ということだし、「一歩出れば案外楽しいよ」とも思う。俺はずっと居心地の悪い中で生きてきた人間ですから、外側の楽しさを多少はわかっているはずなんです。ずっと同じ仲間と、ずっと同じ店でおしゃべりしてるのも別に悪くはない。ただ、俺はそいつらに外の話題を提供できる人間になりたいなって思うんですよね。
「こんな状況から、すげえいい作品残せたらかっこよくね?」って。それでこそミュージシャンの誇りにつながるんじゃないのかなって思うと、俄然やる気になります。
―そもそもの話で言うと、なぜこのタイミングで「自分を俯瞰して見る」ということを改めてやってみようと思ったんですか?
マッシュ:東京に来て、大人になった自覚があるんですよね。俺、27歳になったんですけど、子どものころに持ってた純粋さとか純真さがだんだんなくなってきて、日々、輪の中でなんとなく生きてしまっているかもって思ったんです。それがまたすごく居心地悪くて、妙な気持ち悪さを感じたんですよ。じゃあ、そういうことを歌ってみれば、純真さを取り戻すきっかけになるかもなって思ったんです。
―なるほど。
マッシュ:あと大学を卒業するとき、先生が「フロイトの言う『ユーモア』とは、自分自身を上から見て笑えるかどうかということなんです。これから先、君たちが生きていくうえで、自分のことを上から見て笑えるような人生を送ってください」って言ってて。つまり、自分を俯瞰して見て笑えるっていうのは、余裕があるからできることで。漫画でも悪いキャラクターがだいたいニヤって笑っているのは、余裕があることを見せるためなんですよね。もっと言うと、一度自分を俯瞰して見ることで余裕を取り戻すこともできると思うんです。
―いまマッシュくんはKidori Kidoriの状況を俯瞰して見て笑えてる?
マッシュ:「こいつら懲りねえな!」って、爆笑ですよ(笑)。この前、久しぶりに渋谷のディスクユニオンに行って、1970年代のロックバンドのコーナーを見てたときに、ふと「ロックバンドってすぐ解散してるな」って思って。そういう美しさもあるけど、俺たちめっちゃしぶといなって。
―「またベースが抜けて、今度こそピンチじゃない?」と思う人も多いと思う。
マッシュ:いや、むしろ「こんな状況から、すげえいい作品残せたらかっこよくね?」って考えていますね。それでこそミュージシャンの誇りにつながるんじゃないのかなって思うと、俄然やる気になります。僕の好きなアニメ『キン肉マン』のオープニングテーマの歌詞を引用するなら、<ラスト5秒の逆転ファイター>でありたいなと(笑)。
―さすが、古い王道好き(笑)。
マッシュ:まあ、実質的にはピンチなのかもしれないけど、だからって「俺、もうダメかも」なんて言っても、もう誰も助けてくれへんし。そもそも音楽を作ることって0を1にする作業やから、自分で頑張るしかないんですよ。なので、ブルーになってる時間があるんやったら、ポジティブに考えて、どうやったら面白いか、かっこいいかを楽しみながら見つける方が絶対に大事。メソメソしてる暇があったら練習するわ(笑)。
―ちなみに、パートナーの川元くんもいまの状況を楽しめてる?
マッシュ:楽しめてると思いますよ。前に「俺たちいかれちまってるのかな?」って相談したことがあって、「いかれちまってるよ。爆笑だね」って言ってましたから(笑)。
まあ、途中でも言ったように、僕はKidori Kidoriはど王道だと思って曲を作っているんで、あいつの方がKidori Kidoriが変って言われる理由をわかっていると思うんですよ。それでも、「オッケー、やろう」って言えるあいつは、相当曲者なんだろうなって。だって、趣味がバイクと金魚で、しかもモヒカンっすよ(笑)。
―ホントのアウトサイダーは、むしろ川元くんの方かもね(笑)。
- リリース情報
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- Kidori Kidori
『OUTSIDE』(CD) -
2016年10月5日(水)発売
価格:1,620円(税込)
RDCA-10451. アウトサイダー
2. タイムセール
3. モノクロ
4. The Puddle
5. 一人ぼっちも悪くない
- Kidori Kidori
- プロフィール
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- Kidori Kidori (きどり きどり)
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2008年、大阪・堺にて、帰国子女のマッシュを中心に結成。2014年、東京に拠点を移す。2度にわたるメンバーの脱退を経て、マッシュ(Vo,Gt)と川元直樹(Dr)の2人で活動中。10月5日に3枚目のミニアルバム『OUTSIDE』をリリース予定。地球上の音楽を聴き尽くさんとするような、音楽に対する異常なまでの探究心から生まれる、「摩訶不思議クールネス」な世界観は唯一無二。
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