「前回の記事は、同業者には『よくぞ言ってくれました』、ほぼ初対面の人にも『あの記事見ました』と、かなり言われました」――今年7月、シングル『ROUGH DIAMONDS』リリース時の取材で、現在のアニソンブームは「ジャンル内の縮小再生産にも似た近親交配によって、2000年代以降のJ-POPと同じ道を辿っている気がする」と語ってくれたのはSCREEN modeの雅友だった。
そんなアニソン業界のまっただ中に身を置きながら、他のアニソンアーティストとはどこか違う匂いを発散しているSCREEN mode。彼らはジャンルレスに「王道」のポップ&ロックを極めることで、独自の新たなスタンスを切り拓こうとしているように見える。ボーカルの勇も声で出演しているアニメ『文豪ストレイドッグス』のオープニング主題歌“Reason Living”で、またも独特の感性を発揮している。
田村ゆかり、三森すずこら、今をときめく声優アーティストから、Kis-My-Ft2や今井翼などのアイドルまで多くの楽曲制作、プロデュースを手掛ける雅友と、子役からキャリアをスタートし、洋画の吹き替え、アニメーションなどで声優として着々と地位を築いている勇に、それぞれのバックボーンからの楽曲制作のアプローチと「表現」について、あらためて話してもらった。
「アニソンっぽさ」っていうのは結局、最近の流行に紐付いているだけだと思います。(雅友)
―業界内でも反響が大きかったという前回の記事では、「アニソンの今」について当事者からの視点で話をしていただいたんですが、そもそもおふたりの音楽が「アニソン」と呼ばれることについて、当の本人はどう思われているんでしょうか?
勇(Vo):ジャンルの線引きはあまりないと思ってますよ。
雅友(Gt):そうですね。何かを表現するときに、切り取りやすいコピーがあったほうがいいじゃないですか。バンドでも何系って入れておいたほうが分かりやすい。そういう意味では、「俺たちはアニソンじゃねーぜ!」と無理矢理言うつもりはないです。
―理屈としては、すごくよく理解できます。自分たちの好きな音楽を作って、それがアニメ作品の主題歌なり挿入歌なりに起用された結果、アニソンというカテゴリーに括られるだけなんだろうなと。
雅友:僕自身は、「アニソンっぽさ」っていうのはあってないようなものだなと考えていて。それって結局、最近の流行に紐付いているだけだと思います。
僕らは、理論的にはアニソンアーティストだけど、流行をある程度無視してやっているので、中身は意外とそうじゃない。実際、僕が楽曲提供しているミュージシャンや、ふだん交流のあるミュージシャンもジャンルレスです。アニソンか、アニソンじゃないかのボーダーラインは、メディアやレコード会社が作るものですよね。僕らが何を言ったって、どうなるもんじゃない。
―こうして私たちが、SCREEN modeにアニソンの今を聞いてみた、という質問をすることこそが、「アニソン」というジャンルの枠を作っているんでしょうね。
雅友:でも、それで分かりやすいって思ってもらえるなら、全然「アニソン」でいいです(笑)。
―それでいうと、勇さんはボーカリストとしてだけでなく、声優を長くやられていて、日常的にアニメ、アニソンととても親和性が高いフィールドにいらっしゃいますね。その立場から思うことは?
勇:歌と声の仕事は全く別物として考えています。声優をやっているから歌をやっている感じでもないし、歌をやっているから声優をやっている感じでもない。それぞれで別のこだわり、気持ちを持ってやっています。
雅友:うん。勇が所属しているのが、声優事務所として有名どころだってだけで。僕に勇を紹介してくれたのも、共通の知り合いのミュージシャンだから、そもそもSCREEN modeはアニメとはまったく関係ないところで結成されたんですよ。
―雅友さんはアニメ声優への楽曲提供が多いですし、おふたりともアニメ、アニソンに最も近い位置にいるのに、そこが面白いですよね。アニソンを歌った声優が、楽曲提供したミュージシャンと意気投合して……とか、周囲のスタッフの勧めでユニットを結成しました! とかだと、成り立ちとしては非常に分かりやすいんですけど。
勇:たしかにそうですね(笑)。
―SCREEN modeは、そもそもアニメから離れたところで結成されていますし、アニソンをやってはいるものの、あんまりアニメアニメした色がないぞと。アニソンに括れば分かりやすくなるはずなのに、実はアニソンアーティストとしては分かりにくい存在だと思うんです。
雅友:それは……誤解を恐れずに言うと、声優・林勇は超大人気声優ではないからじゃないですかね。だけど、僕が一緒に組もうと思ったのは、彼の歌声の素晴らしさに惚れ込んだからです。正直、彼をアニメの声優と認識したのは、結成してからもっと後ですしね。
勇:たしかにね。メインはずっと洋画の吹き替えなので、ちょうどSCREEN modeの結成とアニメの仕事を多くいただくきっかけになった『ハイキュー!!』のオーディションに受かったのが同時期。そこからアニメの仕事が急に増えたんです。
雅友:そもそも結成のいきさつも、僕はずっと作家活動をしていたのですが、GRANRODEOの飯塚昌明さんに憧れていたこともあって、今所属しているレーベル、ランティスの副社長に、表に出る活動を何かやりたいと話したら、僕はギタリストなので、「いいボーカリストを見つけてきたら、デビューできる可能性あるよ」と言ってくれた。ランティスはアニメに強いレーベルだからボーカルは声優さんがいいよね、といろいろな声優事務所にお声がけしたんですが、いい感じの方はすでにデビュー済みだったんです。
歌と声優の仕事って、何かの物語を表現するという意味で、いきつくところは一緒だと思うんです。(勇)
―いい感じの方々はすでにデビュー済み、という状況から、どうやって勇さんを見つけたんですか?
雅友:僕の窮状を作曲家仲間に伝えたら、そのうちのひとりが連絡してくれて。それで紹介してもらったのが勇だったんです。実は勇は、デモ音源の仮歌を歌うスタジオミュージシャンみたいなこともやっていて、偶然にも声優だったという……。
―声優の傍ら、そんなお仕事も?
勇:実はそうなんです。例えば先輩声優の関智一さんの仮歌とか。他のレコーディングでコーラスをつけたりもしていました。俳優業は子供時代からやっていたんですけど、通った専門学校もボーカル科だし、独学でキーボードを弾いたり、作詞・作曲をしながら個人で音楽活動をしていたんです。
―音楽活動もすでにやっていらしたんですね。
勇:はい。自主制作CDを出したり、ブラックミュージックに目覚めてクラブで歌ったり、ポップユニットを組んで活動したり……。声優事務所も、音楽のインディーズ活動はノータッチだったので、けっこう好きにやらせてもらっていました。
雅友:後にも先にも、そんな声優は彼くらいじゃないかな(笑)。事務所も音楽活動については寛容で、声優としても映画の世界に隠れていた。だから手つかずで生き残ってたんですね、ガラパゴス的に(笑)。
勇:レアモンスター感ハンパないね(笑)。
雅友:という経歴の彼だったので、最初に会ったとき「歌えるんだったらなんでもやります!」みたいな野良犬感、ハングリーさがあったんですよ。映画の声優では歌う機会がないから、すごい一生懸命だった。まず、そこに可能性を感じたんです。もらった歌のサンプルも異色でしたし。
―どういう内容でした?
雅友:いろんな歌い方をしているデモが5、6曲入ってたんですけど……。
勇:バラードからロックテイストから、いろいろな自分の声を使って録音したものですね。
雅友:曲調と歌い方の幅が広すぎて、どれが本人の声なのか分からなかった(笑)。
勇:それを狙ったんです。キャラを演じているわけではないけど、わりと作っている声もありましたね。普通に出す声以外にもエアリーな声やしゃがれ声など、たくさん選択肢を用意しました。
雅友:これほどいろいろできるんだったら、育てたらすごく良くなるんじゃないかと思ったんです。原石としては十分すぎました。
―そこに、声優業の経験は影響しますか?
勇:歌と声優の仕事って、何かの物語を表現するという意味で、いきつくところは一緒だと思うんです。でも声優の仕事は、キャラクターの意図を汲み取って演じさせてもらうのがひとつの在り方。
SCREEN modeは、勇として、生身の自分としての人生を通して歌うものなので、「表現する」という統一性はあるけど、主体は違います。勇の歌のほうが丸裸というか、生の言葉を伝えているという気持ちもある。だからリアリティーもあるし、特にライブだと、声優では味わえない格別な感動や興奮、刺激がすごくあります。
―さらに声優としてキャラクターソングを歌ったりするのは……。
勇:めっちゃテクニカルですよ。あのキャラクターだったらこう歌うだろうなという味付けを、声色以外の部分でも考えながら歌うので、同じ歌でも、「SCREEN modeの勇」という素材は全然使っていないです。
―逆に、「SCREEN modeの勇さん」が、何かを演じることはないんですか? あえてロックスター、ポップアイコンを演じて歌うアーティストさんもいますよね?
勇:本来の勇としての在り方とライブでパフォーマンスしているときの俺とは、正直違うと感じることもあります。たとえば、“LOVE and FAKE”(2015年のアルバム『Discovery Collection』収録曲)や、新しいシングルのカップリングの“Mr. Satisfaction”とかは、悪戯心を歌ったエロナンバーなので、歌っている時の表情ひとつとっても、自分の感情以上のものを大きく見せるために演じるっていう意識は働くかもしれない。
―そういうところでは、自然と役者魂が発揮されているのかもしれないですね。
勇:新曲の“Reason Living”は、アニメ『文豪ストレイドッグス』のオープニング主題歌になっているのですが、このアニメは、文豪にまつわる異能力を持っているキャラクターたちが、それぞれの想いに翻弄され、葛藤しながら生死を分ける戦いを繰り広げるというストーリーで。そんな彼らの「生きる理由」=“Reason Living”が楽曲のテーマになっているから、キャラクターの心情を歌うという意味では、「演じる」ということが非常にヒントになりました。
―雅友さんは、曲を書く場合は歌い手をどのくらい意識しているのでしょう?
雅友:「その人がどういうふうに歌うのか?」という情報はすごく重視します。SCREEN modeは当然として、他の人の場合も曲を作る前に一度、スタジオでもカラオケでもいいんですけど、いろいろなジャンルの曲を歌ってもらって、資料集めをします。その人の歌の情報量が一定値を超えると、脳内で「この人が歌ったらこうなるだろうな」と想像できるようになる。
―すごいですね。
雅友:僕、才能があるんで(笑)。
勇:あははは!(笑)
勇のボーカルなら、十二分に説得力を持たせて、聴く人を飽きさせることはない。……と、頼っている部分もあります(笑)。(雅友)
雅友:逆に、その人が自分の頭の中で歌い出さないと書けない。ただ、SCREEN modeだと、勇のことは当然よく分かってるので、書く時点で「こういう感じになるかな」という想像はつくんですけど、やっぱり実際は、想像より良くなることもあるし、そうじゃないこともある。
―それは単純にキーが合う合わないとか物理的なことではなく、もっと違うファクターによって?
雅友:そう、結果っていうのはすごく細かい要素の集合体なんですよ。音符の長短や音程の幅が同じでも、ある曲だと簡単に歌えるのに、曲調によっては歌えなかったりもしますからね。歌えなくはないけど、きれいに響かないとか。ほんの小さいことの積み重ねで、変わってくるんです。
―細かいことの積み重ねという意味では、雅友さんのアレンジテクニックの秀逸さもSCREEN modeの真骨頂だと思うんです。“Reason Living”も、ハードなトラックの上に、幅広い音域のストリングスを分厚く、かなり忙しく刻ませています。それをどちらも殺さず、さらに勇さんの声も浮き上がらせている。
雅友:たしかにロックテイストの曲だと、弦の存在が難しくて。弦楽のアンサンブルの中でディストーションのかかった倍音の多いギターって、めちゃめちゃ邪魔なんです。だけど、なくすとロックじゃなくなる。だから毎回、ギターの音作りは重視していて、他の音と混ぜたときに音が良くなるよう、とても念に入りに調整してます。
―それはやはり、雅友さんがSCREEN mode以前から、作家として多くの楽曲提供を続けてきたからこそのテクニックとノウハウの蓄積ありきですね。数百曲と曲を作られてきた中で、作り方の変化はありますか?
雅友:例えば、Aメロが緑、サビが黄色だとすると、以前は緑色から黄色にダイレクトに繋ぐのではなくグラデーションにして、どちらの色にも染まりきらない新しい構成を追求していた。でも最近は、あえて1色の説得力で押し切ることも増えてきました。
“ROUGH DIAMONDS”はすごくシンプルな1色の曲です。勇のボーカルなら、1色でも十二分に説得力を持たせて、聴く人を飽きさせることはない。……と、頼っている部分もあります(笑)。
勇:イエス!(笑)
―先ほど、「声優が歌うこと」について勇さんに伺いましたが、最近はPVでも役者魂を発揮されていますね。“ROUGH DIAMONDS”では勇さんがボクサーになってボコボコに殴られ、“Reason Living”では椅子に縛られてムチでしばかれ。迫真の演技が、さすが役者さんだなと。
雅友:PVは僕が総合演出をしているんですが、曲を覚えてもらうだけじゃなく、映像表現で感情を残したいと思って。“ROUGH DIAMONDS”は、何度倒れても立ちあがる強さを格闘技で表し、“Reason Living”ではどんな逆境にあっても諦めず、這い上がっていく勇の姿を、SCREEN modeの今後にも重ね合わせています。
勇:“ROUGH DIAMONDS”でボクシングをやると決まって、ジムに通いましたからね。ひとりでボクサーの縄跳びトレーニングの練習をしました(笑)。
―ふだん、声で演技するお仕事をしているのに、PVだから台詞がいっさいないのも面白いですよね。
勇:でも、台詞がないことに不思議と抵抗はなかったです。台詞でごまかさないぶん、表情の芝居にも力が入りますし、むしろガッツリ声ありで芝居をするよりアプローチしやすかった。
雅友:あと、ひとつお伝えしておきたいんですが、実は“Reason Living”のPVで「ムチで打たれている」シチュエーションは、カップリング曲の“Mr. Satisfaction”にも大きく関わっています。“Mr. Satisfaction”は「“Reason Living”のムチ打ちがプレイだったら?」が裏テーマの、非常にボンテージな曲なんです。
―セクシーな歌詞だとは感じましたけど、まさかそこまでとは(笑)。
雅友:作詞の松井洋平さんの思惑とは別に、僕の個人的な解釈としては、“Reason Living”のPVで縛られ、ムチ打たれている男が、頭の中では“Mr. Satisfaction”の歌詞の<見せてみなDesire>と言ってる……。まぁ変態ですよね(笑)。
勇:そんな裏テーマ、今日初めて聞きました! そんな性癖の男の歌だと知ってたら、もっと違う歌い方をしましたよ!(笑)
雅友:なので、“Reason Living”のPVの音を消して映像だけ流しながら“Mr. Satisfaction”を聴くと二度楽しめる。ぜひお試しください(笑)。
- リリース情報
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- SCREEN mode
『Reason Living』アーティスト盤(CD+DVD) -
2016年10月26日(水)発売
価格:1,944円(税込)
LACM-14543[CD]
1. Reason Living
2. Mr. Satisfaction
3. Distance ~風の先へ~
4. Reason Living(off vocal)
[DVD]
・“Reason Living”PV
- SCREEN mode
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- SCREEN mode
『Reason Living』アニメ盤(CD) -
2016年10月26日(水)発売
価格:1,296円(税込)
LACM-145441. Reason Living
2. Distance ~風の先へ~
- SCREEN mode
- プロフィール
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- SCREEN mode (すくりーん もーど)
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勇-YOU-(声優「林勇」)と、雅友(サウンドプロデューサー「太田雅友」)によるユニット「SCREEN mode」。2013年結成。ユニット名の「SCREEN mode」には、勇のボーカルと雅友の楽曲が混ざり合うことによって生まれた音の「SCREEN」を、様々な「mode」に変化させながらリスナーの心に焼き付けていきたいという想いが込められている。勇の圧倒的な歌唱力、そして雅友の確かなプロデュースワークから生み出されるサウンドは、時に感情的に、時に色彩的に、聴き手の心情とリンクして真っ白なスクリーンに情景を描く。
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