ロックはやめた。AUSTINESが語る、20年代前半の新鮮な感覚

このバンドは、素晴らしいダイヤの原石だ。20代前半の若き5人組、AUSTINES。結成当初は別のバンド名でロックを鳴らしていたが、その素直な表現欲求と、より大きなステージを求める野心と共に、ブラックミュージックを基調としたポップスバンドへと転身した。彼らの1stミニアルバム『Jewelry』には、ファンクやソウルミュージックの豊潤な歴史と戯れる音楽的好奇心や、気心の知れた男女五人の若者たちが仲間同士で楽しむことに徹するがゆえに生まれる青春の笑い声、あるいは、未だ消えることのない内省が、世界中の光を乱反射させながらキラキラと輝いている。決して、なにかが完成された作品ではない。だが、それゆえにこの作品には、バンドが初期の段階でしか鳴らし得ない、成熟する前の喜びに満ちた煌めきがある。

今回、メンバー五人全員に話を聞いたが、どこまでも自由奔放でありながら、しかし、自分たちが進むべき道は確実に見極めようとしている、そんな心強い印象を受けた。すでに『ビクターロック祭り2016』への出演を果たすなど、その可能性は世に知れわたり始めている。この先、どんな輝きを発するのか、本当に楽しみな5人組の登場だ。

「シティポップ」とか、そういうカテゴリーに括られたくないし、マニアックになりすぎたくないという気持ちがあります。(永井)

―AUSTINESのサウンドは、いわゆるシティポップも、ロックも、J-POPも、どこもしっくりこないのが面白いなと思うんです。裏を返すと、あらゆる要素があるし、どこにも属さず、すべてに属している感覚がある。自分たちでは、自分たちのサウンドをどう位置付けているんですか?

永井(Ba):僕らは、結成から半年経つくらいまで、kikiという名前でロックバンドをやっていたんですよ。

―AUSTINESの結成は2015年4月となっていますけど、そこから最初の半年は、今と同じメンバーで、ほぼ別バンドだったということですか?

永井:そうなんです。でも、ロックバンドとして活動していくうちに、「やっぱり、自分たちがやりたいことって、これではないんじゃないか?」という話をみんなでして。そこから、自分たちがやりたいこと、やれることを探して、今のAUSTINESがあるんです(2016年4月にkikiからAUSTINESへ改名)。

左から:山田KOHDY、深澤希実、鶴田航平、ハッピーナッティ西山、永井秀幸
左から:山田KOHDY、深澤希実、鶴田航平、ハッピーナッティ西山、永井秀幸

―でも、バンドの方向性って、そこまですんなりとシフトチェンジできるものなんですか?

鶴田(Vo):結構、すんなりでした。「あんまりパッとしないな」と感じていたときに、永井が試しに曲を作ってきたら、みんながそれをすんなりと受け入れることができて。そこから大々的に、永井と西山が好きだったブラックミュージックの要素も取り入れていったんです。

―もともと、バンドの発起人は山田さんだそうですね?

山田(Gt):そうです。kikiを組む前、僕と鶴田が一緒にバンドをやっていて、当時は鶴田が曲を作っていたんですけど、僕はなにより彼の声が今の世のなかに響くんじゃないかっていう気持ちがあったんです。あと、このバンドを組むときは、「やりたい音楽性」以前に「一緒にやりたいメンバー」が大事だったんですよね。男メンバーは友達がいない者同士の友達で(笑)、特に僕はこの二人(永井と西山)とバンドをやってみたかったし、彼女(深澤)は……かわいいじゃないですか(笑)。

深澤(Key,Vo):やめなさい。

左から:山田KOHDY、深澤希実

―(笑)。今までの話を聞くと、バンドの在り方を根本的に変えたのは、永井さんのソングライティングだったということだと思うんですけど、永井さんはどうですか?

永井:「シティポップ」とか、そういうカテゴリーに括られたくないし、マニアックになりすぎたくないという気持ちがあります。僕は、ブラックミュージックをやるにしてもJ-POPの要素も取り入れたいし、日本語の歌ものに対する抵抗もないし。そこは、いろんな音楽を好きで聴いてきたからそう思えるのかなって思うんですけど。

―具体的に、永井さんの作曲の基盤となる音楽遍歴は、どんなものなんですか?

永井:僕は、小学生の頃に『ドラムライン』(チャールズ・ストーン三世監督、2002年公開)という映画を見たことがきっかけで、音楽を聴きはじめたんです。そのなかでEarth, Wind & Fireが使われていたんですけど、父親がブラックミュージック好きで、自然と家にEarthとか、あとマイケル・ジャクソンとかのCDがたくさんあったんですよね。

そこから、中学生の頃、急にオルタナティブロックが好きになって、Foo FightersやRadioheadから入ってポストロックやエレクトロニカも聴いて、そのあともハードコアを好きになったり、D'Angeloのような最近のソウルに戻ってきたり……。

永井秀幸

―本当になんでも聴くんですね。

永井:そうなんです。だから、僕は普通のブラックミュージックもやりたくないし、ただのJ-POPもやりたくない。そういう意味では、AUSTINESはすごく欲張りなバンドになっていくと思います。

かっこつけるぐらいだったら笑いをとりたい(笑)。(鶴田)

―11月2日にリリースされた1stミニアルバム『Jewelry』は、作曲クレジットの多くが永井さんと鶴田さんの共作になっていますよね。そのなかで鶴田さん単独の作曲作である“orbit”や“Finder”は、歌メロの強度が高いなと思いました。

鶴田:そうですね。僕は、本当にブラックミュージックを知らなかった人間なんです。昔はJ-POPチャートのトップに入るような音楽ばかりを聴いていたし、高校生の頃はハードロックが好きで、頭をガンガン振るような音楽ばかり聴いていたし(笑)。最近やっと洋楽にも手を出しているんですけど、やっぱり日本の音楽の詞やメロディーの感じが好きなんですよね。だからAUSTINESで曲を作るときは、英語よりも日本語の歌詞が似合うものになっていると思います。

―鶴田さんには、フロントマンとして、シンガーとして、目指す場所はありますか?

鶴田:僕は……目立てればいいです(笑)。

―ははは(笑)。

鶴田:スター性がある人に憧れてきたんですよね。僕が最初に音楽をやろうと思ったきっかけは、ポルノグラフィティなんです。中学のときに観に行った彼らのライブで感動して、そこから「僕も音楽をやりたい」って思うようになって。あのときはライブがそもそも初めてだったので、テレビでしか見たことのない人たちが、大きな会場で歌っている……当時はまだ音楽的なことなんてわからなかったけど、その「本物だ!」っていう感動が一番すごかったんです。

鶴田航平

―なるほど。だとしたら、ロックバンドからポップバンドへの転身は、鶴田さん自身がどこかで望んでいたことなのかもしれないですね。

鶴田:そうなんですよね。ロックをやっていた頃は、周りのバンドのフロントマンがMCで語りだすことが多かったけど、僕は、それができなかったんです。それはもともと、ポップスから音楽に入ったのが大きかったんだと思います。音楽としてロックは好きだったけど、別に「自分の思いの丈を歌いたいからロックがやりたい!」っていう感じではなかった。だから、ロックシーンの人たちから見たら、僕は軽かったかもしれない。

山田:こいつは、かっこつけるのを極端に嫌がるんですよ

鶴田:うん、かっこつけるぐらいだったら笑いをとりたい(笑)。

西山:素で生きているよね。なにも着飾らないで、そのままで生きている。基本的には、なにも作為的なことはなく、ずっと素で生きているように見えますね。素で目立ちたいんだよね?(笑)

鶴田:うん(笑)。

西山:だから、鶴田は人望がありますよ。基本的にはどこにいても堂々としているし、飾らないので。人前に出てもこのままだし、気後れもしないし。

左から:山田KOHDY、深澤希実、鶴田航平、ハッピーナッティ西山、永井秀幸

―鶴田さんは、どこまでもポップシンガー向きの人だったんですね。歌詞に関してはどうですか? たとえば鶴田さん作詞の“O.M.T.”は、聴く人の気持ちを鼓舞したいっていう気持ちが強いのかなと思ったんですけど。

鶴田:……言っていいのかな? “O.M.T.”は、「お餅」の歌なんですよ。

―え?

鶴田:この歌は、お餅がお米に勝って、年がら年中、お餅が1位の世界になればいいのに! っていう歌なんです(笑)。本質はふざけたことを書いているんだけど、それをかっこよく見せるっていうのをやりたかったんです(笑)。

―そうなんだ……。

山田:でも、「お餅」なら本当は“O.M.C.”じゃないの?

永井:そうなんだけど、マイケル・ジャクソンの“P.Y.T.”っていう曲があるじゃん。あれみたいにしたかったんだよね。

―極めて音楽的にふざけているなぁ(笑)。

歌詞の主人公の女の人は、自分にないものを持っている設定にすることが多いです。(深澤)

―“O.M.T.”は別だとしても(笑)、AUSTINESの歌詞は、どこかでロマンティシズムや、切ない心象風景が滲んでいる気がするんですよね。その点ですごいのは、深澤さんが作詞をされた“Cassette”。<抱いて 抱いて>とか<君はあたしのペット>とか……女性が書く歌詞として、この表現はすごい。

深澤:この歌詞、みんなにそう言われるんですけど、自覚がないんですよ。普段から漫画や映画が好きで、好きなものはメモにとったりしていて。聴いてくれる人にはわからなくてもいいぐらいなんですけど、それをもとにした背後のストーリー設定が、私のなかに細かくあるんです。特に歌詞の主人公の女の人は、自分にないものを持っている設定にすることが多いですね。

深澤希実

―理想が投影される?

深澤:そうなんです。“Cassette”の女の人は、自分のなかではすごくセクシーな女の人なんです。背が高くて、スタイル抜群な女の人がハイヒールでカツカツカツカツ歩いていくのをイメージしていて。でも、そうしたら「この歌詞、すごいね」って言われることが多くて……いやらしい意味なんてないのに。

西山:誰も「いやらしい」なんて言っていませんよ(笑)。

深澤:……まぁ、別にいいけど。

―(笑)。でも、深澤さんの存在はAUSTINESにとって大きいような気がするんです。こうやって女性的な強い視線がボーカルや歌詞の表現に入ってくるのもそうだし、サウンド面でも、永井さんのマニアックな気質と、鶴田さんのJ-POP的な気質の間を、深澤さんのピアノが上手く泳いで繋いでいる感触がある。

深澤:私は、小さい頃からずっとクラシックをやっていたんです。でも、昔から楽譜通りに弾くのがすごく苦手だったんですよね。どうしても、「楽譜通りに弾きたくない」という意識が出てきてしまって、大好きなBUMP OF CHICKENやYUKIさん、椎名林檎さんの曲を自分でアレンジしながら弾いたりしていて。でも、そのたびに、母親から「そんなことやっていないで、クラシックちゃんとやりなさい」って言われていたんです。

今は音大のジャズ科に通っているんですけど、「こっちの方が向いているな」って思うし、それ以上に、AUSTINESみたいなポップスのバンドで弾いている方が合っているなって思います(笑)。

自分たちのなかで共通のキーワードになるのは、やっぱり「マイケル・ジャクソン」なんです。(永井)

―今のところ、永井さん、鶴田さん、深澤さんの音楽素養を聞かせてもらったので、西山さんと山田さんのルーツも教えてください。

西山:僕は、高校生の頃にファンクに目覚めたんですけど、特にボーカルがないインストゥルメンタルものが好きだったんですよね。The Metersとか、SouliveやThe New Mastersoundsみたいなジャズファンク寄りも好きだし。大学に入って、この仲間に出会うまではボーカルものはあまり聴いていなかったので、歌のあるポップスにはこのバンドで初めて向き合っているんです。楽器と楽器の会話だけじゃなくて、ボーカルを立たせながら演奏するのは難しいです(笑)。でも、やりがいがありますね。

ハッピーナッティ西山

山田:僕は、とにかくThe 1975が大好きで。本当にそれだけと言ってもいいくらい、彼らは最強のバンドだと思います。The 1975を聴いてから、僕は80'sも聴くようになったので、The 1975のフィルターを通して、80's感をAUSTINESに落とし込んでいる部分はあると思いますね。

AUSTINESには、ギターのリフとかでThe 1975の要素が入ってきているんです。それに、彼らの歌詞にはドラッグ系の歌詞もあるじゃないですか。自分たちのやりたいことだけをやりながらサウンドを確立して、デカいフェスに出まくったりするような、あの立ち位置に行っているのがすごいなって。羨ましいなと思いますね。

山田KOHDY

―なるほど。西山さんが永井さんと一緒にバンドの土台をしっかりと築いて、山田さんは全体的なコンセプトを総括している感じもわかってきました。……でも、やっぱり、五人それぞれが多様な音楽を聴いていて、バンドもロックからポップへと変化して。本当にいろんな要素がAUSTINESというバンドにはあると思うんだけど、これが上手く回るのって、本当にいいバランスですよね。

一同:う~ん……。

―上手く回っている感覚もない?(笑)

鶴田:今は、やっと地球で言うところのアメリカくらいの大きさまで絞れた感じなんですよね。アメリカって、いろんな文化の人がいるじゃないですか。それと同じように、僕らもいろんな素養を持った人たちがいるから、いろんなところに行けてしまう……それが今、グラグラしている部分なんです。一歩間違えれば内戦状態になる(笑)。なので、もう少し狭めていって、アメリカのなかでも、ネイティブアメリカンになりたいという意識はあります。

永井:やっぱり、好きな要素の共通認識を再確認したいなとは思いますね。たぶん、好きな音楽はバラバラでも、みんながいいと思えるものがあるから、ここまで続いてきているんだと思うんです。

―今の段階で、みなさんの共通認識になるような価値観や存在ってありますか?

永井:一番、自分たちのなかで共通のキーワードになるのは、やっぱり「マイケル・ジャクソン」なんです。

左から:山田KOHDY、深澤希実、鶴田航平、ハッピーナッティ西山、永井秀幸

―なるほど。バラバラなものを「ひとつ」に繋ぐという意味で、マイケル・ジャクソンはわかりやすい存在かもしれないですね。彼は「キングオブポップ」として、ボーダーを超えて、多様性を受け入れる存在だったから。

鶴田:うん、全部、混ぜこぜにしたいですよね。そのうえで、自分たちだけの新しい色を見つけることができたらいいなって思います。

リリース情報
AUSTINES
『Jewelry』(CD)

2016年11月2日(水)発売
価格:1,944円(税込)
Eggs-013

1. O.M.T.
2. GIRL
3. orbit
4. Finder
5. Cassette
6. Jewelry
7. Nancy

イベント情報
CINRA×Eggs presents
『exPoP!!!!! volume91』

2016年11月24日(木)
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-nest
出演:
ELEKIBASS
Papooz
THE BREAKAWAYS
WONK
AUSTINES
料金:無料(2ドリンク別)

プロフィール
AUSTINES
AUSTINES (おーすてぃんず)

2015年4月結成の男女5人組。各メンバーの異なる音楽趣向を活かし、アシッドジャズ、ファンク、ネオソウルといったブラックミュージックのリズム要素と、ポップスのもつキャッチーさを融合させた楽曲を鳴らすニュー・ポップスバンド。流行に敏感な若者からコアなシティポップファンまで幅広く支持を得て、"ワン!チャン!!~ビクターロック祭りへの挑戦~"にて準グランプリを獲得。幕張メッセにて開催された"ビクターロック祭り2016"への出演を果たした。さらにイナズマロックフェスティバル2016風神ステージへもEggs推薦アーティストとして出演。精力的にライブハウスへの出演も行い、着実にファンを増やしている。



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