ポップスを更新する雨のパレードに訊く、2016年の刺激的楽曲5選

2016年、雨のパレードは間断なく制作を続け、そのクリエイティビティーを更新し、ライブもコンスタントに行うことでステージに立つ意義と重みを噛みしめた。この1年で得たものをすべて注ぎ込むようにして生まれたのが、2ndシングル『stage』の表題曲である。

そこで今回のインタビューでは、フロントマンである福永にこの1年の出来事を振り返ってもらいつつ、刺激を受けた音楽について語ってもらった。以下の発言は、彼が音楽に人生を賭す理由を紐解くものでもある。

「ホントに全部1年の内に起こったことなのかな?」と思うくらい、いろんなことがありました。

―2016年はバンドにとっても、福永くん個人にとっても大きな1年だったと思うんですけど。

福永:デカかったですね。「ホントに全部1年の内に起こったことなのかな?」と思うくらい、いろんなことがありました。

―なので、今日のインタビューはこの1年を振り返ることから始められたら、と。

福永:いいですね。

福永浩平
福永浩平

福永:まず、1月にインディーズ最後の作品としてシングル『Tokyo』をリリースして。“Tokyo”は、バンドの現状を変えるような1曲になったという手応えがありました。

―“Tokyo”が多くの人に届いた要因を、自分ではどう考えていますか?

福永:自己分析すると、僕らがまだ売れていないバンドマンであるということがリスナーにもわかる状況だったからこそ、夢を歌っていることにグッときたり、「東京」というワードの求心力もあったと思うんですよね。<調子はどう?>とリスナーに語りかけたうえで、最後に<夢を捨てたって 生きてけるように出来た街だ>って歌いかけたのも響いたところがあったと思うし。

あとは、歌っている僕本人が、歌のなかにしっかり息づいてるほうが伝わるということを強く実感しました。それでいてキャッチーさやインパクトを残して、みんなで歌えるような曲に仕上げた。それをすべて1曲に含めるのは、すごく難しいことだなって思うんですけど。

福永浩平

―振り返ってみて、『Tokyo』リリース後にバンドの状況はどのように変わっていきました?

福永:2月から3月にかけて『列伝ツアー』(『スペースシャワー列伝15周年記念公演 JAPAN TOUR 2016』)に参加して、My Hair is Bad、夜の本気ダンス、フレデリックという4組で全国を回って。僕らは他の3組に比べたらバンドの規模がまだ小さかったので、『列伝ツアー』でどれだけ成長できるかというのが大きな課題だったんです。1本1本のライブに魂を込めたし、お客さんの熱も吸収して、ライブで得たものを全部自分たちのなかで昇華できたのがよかったなって。

―メンツ的にもバンドの規模的にもあきらかにアウェーだった状況だからこそ得るものがあったと。

福永:そうですね。アウェーな状況を武器にできたかなと思います。ひとりよがりなバンドにはなりたくなかったから、ちゃんとお客さんを惹きつけるライブをして、バンドとして成長し、大きくなりたいという意識でした。『列伝ツアー』は自分たちと向き合いながら戦うような感覚でライブをやってましたね。 上半期の印象的な出来事は、圧倒的に『列伝ツアー』ですね。『列伝ツアー』の最中にメジャーデビューして、フルアルバム(『New generation』)をリリースしたんですけど、あまりにも必死だったので、「メジャーデビュー、おめでとう」って言われても「あ、そうか。めでたいことか」みたいな感じで(笑)。

福永浩平

―ライブにおけるフロアの様相も、この1年でどんどん変化していったという実感はありますか?

福永:いい顔をしているお客さんがどんどん増えてるという実感はあります。あからさまには変わってほしくはないと思うところもあるけど、僕ら色に染まってくれている人たちが増えている印象はあって、それは嬉しいです。

今年4月に行われた、雨のパレード初のワンマンツアーの模様

―この1年で一番しんどかったことは?

福永:やっぱり制作ですよ。今まではやる気とカフェインがあれば曲を作れると思っていたんですけど、そこに健康も必要だなと思いましたね(笑)。やっぱり睡眠はホントに大事だなって。

福永浩平

メンバーはお互いのことを100%信用しているわけではない。でも、それがバンドなんじゃないですかね。

―今年は4回も倒れたそうですね。ライブもやりながら、アルバムとシングル2枚分の曲を作ろうとすると、睡眠を削らざるを得なかったんでしょう?

福永:しょうがないですよね。今も次のアルバム制作中で、睡眠時間を削っているので……。

―でも、福永くんに寡作家というイメージはないですけどね。これまでのインタビューでも「いつも曲を作ってる」と言ってたし。

福永:音はすぐにできるほうだと思います。やりたいことは常にいっぱいあるし。一定の期間に作った曲が10曲あっても、全部を気に入ることはないんですけど、音の面でいえば多作家だと思います。でも、歌詞に関しては完全に寡作家なんですよね。

―雨のパレードは、音楽的なイニシアティブを握っているのが福永くん一人というイメージが強くあって。たとえば雨のパレードとの共時性も見出せるD.A.N.やyahyelなんかはメンバー全員がプロダクションの手綱を持ってるというイメージがあるんですけど。

福永:ああ、そうですね。

福永浩平

―そのあたりで孤独感を覚えたりすることはないですか?

福永:いや、でもメンバーの意思がサウンドに入ってないかというと全くそんなことはなくて。いつでも僕が正解なわけではないので。トライ&エラーを繰り返すなかで、メンバーが正しい方向に戻してくれることもあるし。

だから、三宅さんが思っているよりもずっと常にバンド内でぶつかってはいるんです。昨日もアレンジ作業をしていて、僕のアイデアを却下されましたよ。でも、そこから試行錯誤したらいい感じにハマっていって。いい意味で、メンバーはお互いのことを100%信用しているわけではない。でも、それがバンドなんじゃないですかね。

左から:山崎康介(Gt)、福永浩平(Vo)、大澤実音穂(Dr)、是永亮祐(Ba)
左から:山崎康介(Gt)、福永浩平(Vo)、大澤実音穂(Dr)、是永亮祐(Ba)

7月20日リリース、メジャー1stシングル『You』

―2016年は、外の人との出会いも多かった1年でした?

福永:うん、いろんな人と出会いました。すごく嬉しかったのは、夏頃に僕の大好きな大久保篤さんという漫画家さんとTwitterで会話したときに、「雨のパレードは僕が日本のバンドに感じているフラストレーションを全部解消してくれているバンドです」って言ってくれて。小さい頃から作品を読んでる漫画家さんにそんなことを言ってもらえて、めちゃくちゃ嬉しかったですね。

―CINRA.NETで雨のパレードに最初にインタビューしたときに、福永くんは「自分には出会うべき人には必ず出会える運がある」ということを言ってましたよね。

福永:そうですね。自分の人と出会う能力の高さはずっと信じています。

福永浩平

やっぱり前衛的な姿勢のアーティストにどうしても惹かれますね。時代の異物感を出したい。

―福永くんが、2016年に刺激を受けた音楽や映画やファッションやアートなどを教えてもらえますか。

福永:今年はホントに音楽にしか触れてなくて、音楽しか語れないんですけど。映画も観てないし、服も買ってないんですよ。音楽作品と機材しか買ってない(笑)。まずは、ジャック・ガラットの歌心に惹かれましたね。

―UKのオールラウンドプレイヤーですね。

福永:そう、彼はディレクションも含めて1人でやっていて。そういう部分も尊敬しています。今年出たアルバム(『Phase』)は、今でもよく聴いている1枚ですね。

―やっぱりメロに関しては総じてソウルフルな旋律に惹かれますか?

福永:メロはそうですね。一方で、ジャック・ガラットはけっこうロックな魂を感じさせてくれるのが新鮮で。同い歳というシンパシーもあります。あとは、Astronomyy。

―同じくUKのコンテンポラリーなR&B系プロデューサーでありシンガソングライターですね。

福永:10月に配信リリースされたシングル(“Hypnotized”)が、トラップのビートに上手いこといいメロディーを乗せていて。このアプローチは自分も挑戦したいなと思いました。

福永:3人目は、またUKのトラックメイカーですけど、Mura Masa。今回の僕たちのシングルに入っている“free”は、Mura Masaを意識して作りました。Astronomyyも若いけど、Mura Masaもまだ若いんですよね、今年20歳になったところ。日本が好きで、日本のラジオの音とかサンプリングして入れてるんですよ。

福永:あと、ニック・マーフィーの新曲(“Stop Me (Stop You)”)もよかった。チェット・フェイカー名義の頃(今年より本名で活動)から大好きだったんですよね。

福永:でも、やっぱり今年一番インパクトが大きかったのはBon Iverの『22, A Million』。超よかった、名盤!

―『22, A Million』は素晴らしかったですね。また新次元にいったって感じで。

福永:そうそう。最初はApple Musicで聴いていたんですけど、すぐレコードを買いました。やっぱり前衛的な姿勢のアーティストにどうしても惹かれますね。自分たちもそうありたいと思うし。時代の異物感を出して、突出した存在を目指したい。

バンドがこの状況では死ねないという思いが入ってると思いますね。

―日本の音楽シーンで共鳴、共振を感じるバンドはあまりいないですか?

福永:音楽的なシンパシーを覚える人は増えてきています。だからすごく期待していますね。

―そういうバンドと積極的に交わりたいとは思わない?

福永:うーん……むしろ引っ張る立場になりたいという感じですね。先に開拓しちゃいたいなって。そういう意味では焦りもあるんですけど、同時に僕らはメインストリームで新しいポップスを鳴らしたいと思っているから、その波を大きくしたいという思いが一番強いです。

福永浩平

―そういう異物感を出すために“stage”でも、音楽的な意匠としていろんな挑戦をしているじゃないですか。そのうえで新しいポップスを提示するんだという意志がダイナミックに表出している曲だと思います。

福永:ありがとうございます。前のシングルの“You”からの流れを踏まえて、アッパーな曲を作るのが大前提にあって。そのなかでどれだけ新しい挑戦ができるかということはすごく考えました。

たとえばサビメロは、前の小節を食って入ってるんですよね。今までは3拍目か2拍目の裏から食って入ることはやっていたけど、“stage”では前の小節の1拍目の裏から入っていて。それは自分のなかでかなり新しい試みでした。人間がギリギリ「次のメロだ」と思えるところを攻めたというか。バスドラの音色もあえて劣化させたり、ギターもシマーリバーブ(残響音のエフェクト)をかけた今までにないフレーズをループさせてサンプリング風にしてみたり、いろいろ細かいアイデアを盛り込みました。

―でも、ちゃんと音と歌がひとつの塊として迫ってくる感じがより強くなっていると思います。

福永:よかった。それはメロと歌詞の強さがもたらしている効果でもあると思いますね。

―“You”もそうだったけど、福永くんが覚悟を歌うときって死生観みたいなものが漂うんだなと思ったんですよね。

福永:ああ、そうですね。そういう思いは常に持ってるかもしれない。バンドがこの状況では死ねないという思いが入ってると思いますね。

福永浩平

―結局、どんな曲でも自分が多くのリスナーに連れていきたい場所がある、そのためにまだ死ねないという視座が通底しているんですよね。

福永:そうですね。それが大きなテーマです。『New generation』を作っているときから、自分の好きな音楽でシーンを変えたい、時代を変えたい、新しい世代を引っ張っていきたいというテーマが明確にあって。それを経て、次にどんな曲を書こうか迷っているときに、知人から「テーマはずっと変えなくていいんじゃない?」って言われたことがあったんです。「自分の意志は1曲や1枚のアルバムで浸透していくものではないし、その信念はずっと曲に流れていていいんじゃないか」って。今、三宅さんに言われてあらためて思ったのは、やっぱり僕はリスナーにとっての新しい居場所を音楽で作りたいと、ずっと思ってるんだろうなって。2曲目の“1969”の歌詞にしてもそうだし。

―最後に、2017年に向けた意気込みを聞かせてもらえたら。

福永:2016年は本当に濃い1年だったんですけど、「2017年は飛躍の年だったね」って言われるくらいの1年にしたいですね。あとは、体を壊さないように(笑)。今、アルバムに向けた曲作りをしてるんですけど、「あなたたちがポップスだと思っている概念を俺たちが変えてやる」というくらいの気持ちで作ってます。

福永浩平

リリース情報
雨のパレード
『stage』初回限定盤(2CD)

2016年12月21日(水)発売
価格:2,160円(税込)
VIZL-1093

[DISC1]
1. stage
2. 1969
3. free
4. ame majiru boku hitori
[DISC2]
『Live at TOKYO-SHIBUYA CLUB QUATTRO 2016.9.17』
1. new place
2. epoch
3. Petrichor
4. breaking dawn
5. bam
6. morning
7. Noctiluca
8. In your sense
9. yuragi meguru kimino nakano sore
10. 10-9
11. Tokyo
12. You

雨のパレード
『stage』通常盤(CD)

2016年12月21日(水)発売
価格:1,296円(税込)
VICL-37240

1. stage
2. 1969
3. free
4. ame majiru boku hitori

イベント情報
『雨のパレード・ワンマンライブツアー 2017 「Change your pops」』

2017年3月24日(金)
会場:新潟県 CLUB RIVERST

2017年3月31日(金)
会場:北海道 札幌 COLONY

2017年4月2日(日)
会場:宮城県 仙台 LIVE HOUSE enn 3rd

2017年4月6日(木)
会場:大阪府 梅田CLUB QUATTRO

2017年4月8日(土)
会場:広島県 CAVE-BE

2017年4月9日(日)
会場:福岡県 graf

2017年4月12日(水)
会場:愛知県 名古屋CLUB QUATTRO

2017年4月14日(金)
会場:東京都 赤坂BLITZ

プロフィール
雨のパレード
雨のパレード (あめのぱれーど)

福永浩平(Vo)、山崎康介(Gt)、是永亮祐(Ba)、大澤実音穂(Dr)。2013年に結成。2015年にリリースしたmini Album『new place』の表題曲“new place”がSSTVのローテーション「it」に選出され、同年10月に開催された『MINAMI WHEEL』では初出演ながら入場規制となる動員を記録するなど、インディーながら耳の早い音楽ファンの間で注目を集める。3月2日、1stフルアルバム『New generation』でメジャーデビュー。Vo.福永浩平の声と存在感、そして独創的な世界観は中毒性を持ち、アレンジやサウンドメイキングも含めまさに「五感で感じさせる」バンドとして注目されている。



記事一覧をみる
フィードバック 0

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

  • HOME
  • Music
  • ポップスを更新する雨のパレードに訊く、2016年の刺激的楽曲5選

Special Feature

Crossing??

CINRAメディア20周年を節目に考える、カルチャーシーンの「これまで」と「これから」。過去と未来の「交差点」、そしてカルチャーとソーシャルの「交差点」に立ち、これまでの20年を振り返りながら、未来をよりよくしていくために何ができるのか?

詳しくみる

JOB

これからの企業を彩る9つのバッヂ認証システム

グリーンカンパニー

グリーンカンパニーについて
グリーンカンパニーについて