人のアイデンティティーとは一体、何によって規定されるのだろう。出身地? 血筋? 学歴や年齢? もちろん、それらも大切だけど、でも本当に大切なのは、「今、その人が何を考え、何をしているか?」ではないだろうか。
人には、生きていくうえで選べないことがたくさんある。しかし、だからこそ、その人が自分で選んだもの、感じたこと、見てきた景色、出会った人たちから学んだこと……それらの方がずっと、その「人」を表すと思う。だって、目の前にいる好きな人の親が誰なのかとか、どこ出身なのかよりも、その人が今何を食べたがっているかの方が、重要じゃないですか?
THE CHARM PARK――まるでバンド名のようだが、たったひとりの青年。彼が作り出す、様々な楽器が色彩豊かに躍動するそのサウンドスケープは、壮大な風景を描きながら、彼自身の深い心象も映し出す。
長らくアメリカで暮らしながらも、日本の音楽に惹かれ、日本を活動の場に選んだTHE CHARM PARKの音楽は、まるで彼の生き方そのもののように、様々な景色と言葉を巡り合わせながら、ただひとつ、ひとりの人間の深い孤独と強い生き様を伝えている。彼の音楽を聴くと思う。音楽はどんなデータよりも強烈に、その人のアイデンティティーを強く反映するものなのだ、と。
複雑なアイデンティティーがあるなかで、日本の音楽を聴いたとき、すごくアットホームな感じがした。
―CHARMさんは何歳までアメリカにいたんですか?
CHARM:8歳から24歳までアメリカで過ごしました。小学校3年生から高校まではロサンゼルスにいて、そのあとはボストンの音大に通って、卒業後はまたロスに帰ったっていう感じですね。
―日本に来たのは、音楽活動が目的だったんですか?
CHARM:そうですね。大学を出たあとにデモを作り始めて、日本のオーディションにメールで送っていたんです。アメリカでオーディションがあっても、僕の音楽とはあまり合わない気がして。
もともと、僕は日本の音楽が好きだったし、周りの友人たちからも、僕が作った曲のことを「日本っぽいね」と言われることが多かった。そうしたら、本当に日本で反応してくれる人たちがいたんです。
―そもそも、日本の音楽に惹かれたきっかけは何だったんでしょう?
CHARM:そこですよね……。自分でも不思議なんですよ(笑)。
―(笑)。
CHARM:僕は、出自は韓国だけれども、アメリカ人という複雑なアイデンティティーがあって。コンプレックスというほどでもないけど、自分の存在に根っこがない感じが、常に頭のなかにあるんです。
日本では、「邦楽」と「洋楽」に音楽をわけるじゃないですか。それでいうと、僕はロスで暮らしていたときから、自分にとって何が「邦楽」で何が「洋楽」かわからなかったんですよ。
―CHARMさんにとっての「邦楽」と「洋楽」というのは、言い方を換えると、「自分の音楽」と「他者の音楽」ということですよね。それがわからなかった。
CHARM:韓国の音楽が自分にとっての「邦楽」なわけではないし、アメリカに住んでいるからアメリカの音楽が「邦楽」かといえばそうでもない。そんななかで日本の音楽を聴いたとき、すごくアットホームな感じがしたんです。
―最初に響いてきた日本の音楽は何でしたか?
CHARM:X JAPANの“WEEK END”は、僕にとっての日本の音楽の原体験です。「こんな音楽があるんだ!」って、衝撃を受けたのを覚えています。僕が小学4年生くらいの頃に、兄が先にX JAPANにハマっていて、ギターソロのハモりを練習するために、僕もギターを弾かされていたんです。それがとても楽しくて。
―日本のミュージシャンのなかには、海外での活動を夢見る人たちも多いですけど、アメリカで暮らしていたCHARMさんから見たら、日本のバンドの方が魅力的だったんですね。
CHARM:そうなんです。僕のなかではアメリカのロックより、圧倒的にX JAPANの方がかっこよかった。ビジュアル系は、他の国にはない日本独自の面白い文化だと思います。特にX JAPANは、アーティストとしての方向性が最初から形になっていて、ずっとブレずに新鮮でいられるところが本当にすごいなと。
―ビジュアル系を聴いていることが多かったんですか?
CHARM:いえ、大学に入ってから、くるりの“東京”が好きでよく聴いていて。これは歌詞に惚れました。大学で日本語を少し勉強していたので、意味を読み取りながら言葉の響きを聴いていたら、すごくいい歌詞だと思って。日本語って、英語より言い方のバリエーションが多いんですよね。英語はストレートでわかりやすいけど、日本語は言い回しが細かくて面白い。
あと、日本語の歌詞は、同じフレーズを繰り返して歌うと、すごくいいですよね。同じ言葉を繰り返すことで強調されたり、重ねることで感じることが違ってきたりする。そのやり方に気づいたときは感動しました。
―くるりの“東京”は、日本では特に地方から東京に出てきて生活している人に響く歌詞だと思うんですよ。CHARMさんも、故郷から離れた心境に響くものがあったんですかね?
CHARM:僕も上京しましたからね(笑)。大学進学のときもロスからボストンに行っているので、知らない街にひとりでいるときの心境に響いた部分はあったかもしれないです。
―そこで感じる切なさは世界共通なのかもしれないですね。他に、アメリカにいたCHARMさんにまで届いた日本の歌ってありますか?
CHARM:あとは大橋トリオの“A BIRD”もよく聴いていました。北米で一番、大橋トリオを聴いている自信があります(笑)。なので、今は憧れの人と音楽ができて、夢が叶っているんですよ(CHARMは大橋トリオの“りんごの木”で詞を共作し、ライブでもサポートを務めている)。
大橋トリオは、メロディーや構造はJ-POPだけど、そのなかにアメリカの音楽っぽさもある。そのバランスが、アメリカから日本に来て生活している僕にぴったりハマっているなと思います。
「はっきりしない」という自分の今までのコンプレックスを強みにしていきたい。
―日本では具体的な音楽性のジャンルより、「J-POP」とか「ビジュアル系」とか、もっと大きな概念で音楽をわける傾向があって。だからこそ、ひとつの音楽のなかで、いろんな要素が屈託なく混ざり合っている側面があって、CHARMさんに響いたのかもしれないですね。
CHARM:日本の音楽は幅広いですよね。僕はロスにいる頃からオリコンチャートを毎週チェックしていましたけど、アーティストのジャンルがそれぞれ違っても、全部「曲がいい」と思えた。それが日本の音楽の良さだと思っていたのですが、今はトップチャートを見ても、その良さがなくなりましたよね。
―たしかに、特定の人たちがチャートを独占して、ジャンルにバラつきが見られない感じはありますね。
CHARM:この数年間で、レーベルやメディアの在り方も変わったし、確実に売れる音楽だけが増えていますよね。そのせいで視野が狭くなってしまって、それ以外の人たちが求めているものに目を向けようとしていない感じがします。
なので、僕は自分がもともと好きだったJ-POPの良さを出しつつ、バラバラ感を出していきたい。極端に実験的な音楽をやるということではなくて、「いい曲」であることを前提に、今の日本の音楽シーンで聴こえるべきなのに、あまり聴こえてこない音楽を作りたいんです。今の日本にもいい音楽はもちろんありますけど、もしそれで満たされていたら、僕は自分で音楽をやらなくてもいいと思う。
―それは、日本の音楽シーンを外側からも内側からも見ているCHARMさんだからこそ、できることかもしれないですね。
CHARM:「はっきりしない」という自分の今までのコンプレックスを強みにしていきたいという気持ちがありますね。去年から今年にかけて作った『A LETTER』と『A REPLY』の2作は、今の日本の音楽シーンには見つからなかった、でも自分が聴きたかった音楽を作ることができました。
自分の言いたいことに自分で自信を持てなければ、誰も聴いてくれない気がして。
―『A LETTER』と『A REPLY』は、タイトルを見ても何か繋がりがあるのかなって思いました。
CHARM:この2作はたしかに繋がっていますね。手紙って、今はメールやLINEがあるから、よっぽど大事なことがなければ書かないですよね。でも、手紙のように大事な想いを入れた音楽を届けたくて、『A LETTER』を作ったんです。
そして、そうやって僕が送った『A LETTER』に対して、聴いてくれた人からの反応がきたからこそ、今回『A REPLY』を作ることができた。もし『A LETTER』がまったく響かなかったら、『A REPLY』を作ることはなかったと思います。でも、こうやって出すことができたのは、僕が送ったレターに対して、返事が来たからなんですよね。
やっぱり、「繋がり」って大事だなとすごく思います。人と人は繋がって生きていくべきだし、人生って点になっているわけではなくて、どんなに悪い出来事も、いい出来事も、全てが繋がっている。それなら、音楽も繋げていくべきだと思ったんです。
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―今回は日本語の歌詞の比重が増えましたよね。
CHARM:単純に「日本語の歌がもっと聴きたい」と言ってくれる人が多かったし、そもそも、日本で音楽をやるうえで、全部の歌を英語で歌うのは失礼だなって思っていたんです。英語で言いたいことを言っても、わかる人は少ない。その方がいいやっていう気持ちで英語詞を書いていたこともあったのですが、「誰のために歌っているの?」っていう。今は、伝えたいことはちゃんと日本語で伝えようって思えていますね。
―CHARMさんはもともと、自分の気持ちを表に出せない内気なタイプだったんですか?
CHARM:やっぱり、「どこの国の人かわからない」というアイデンティティーの悩みがある時点でそうなんですよ。「根っこがある木の方が強いんじゃないか?」って思ってしまう。音楽をやっていても、「この曲、日本の人は好きになってくれるかな?」って、常に不安に思いながら曲を書いていて。でも、そのやり方を続けていたら、自分が幸せになれないような気がしたんです。
自分の作品や言いたいことに、自分で自信を持てなければ、誰も聴いてくれないような気がして。なので少しずつ、自分を好きになれるように頑張っているんです。だから、今は自分が言いたいことを、前より強く言えるようになったかなって思います。
―それは、自分が「何人か?」とか「どこ出身か?」ということより、「今、自分が何をしているか?」という部分にアイデンティティーを見出そうとしている、ということなのかもしれないですね。
CHARM:それもありますね。たとえば今、大橋トリオのサポートでは英語の作詞を手伝ったりもしているんですけど、それは、ずっとアメリカで日本の音楽を聴いてきた自分が一番うまくできる自信があるからなんです。間に立つ「橋」の役割が自分にはできるんだという自信が、この先自分の根っこになればいいなって思います。
―1曲目の“Rolling On”が顕著ですけど、今回は「変わっていくこと」を肯定しようとする歌が多いですよね。
CHARM:そうですね。“Rolling On”は、急がず、心配せず、転がり続ければいいんだということを、自分に向けても歌っています。僕、ここ数年で、人生におけるすごくいいテクニックを学んだんですよ。
僕の口癖は「すみません」と「いいですね」で(笑)。「それいいですね」って言い続けたら、意外と良く見えてきたりする。
―CHARMさんが学んだ「すごくいいテクニック」とは、どういうものでしょう?
CHARM:自分にとって、悪いことがあったり、焦ったりしたときに、頭のなかを「無」にすれば、割と大丈夫なんだって気づいたんですよ(笑)。僕はいつも不安だったし、ずっと考え込んでストレスを溜めて、「なんとかしなきゃ、なんとかしなきゃ」と思いながら眠れないときもありました。でも、そういうときこそ落ち着いて、客観的に遠くから見て考えた方がいい。あまり考え込まず、ありのまま生きていれば、時間が過ぎていってなんとかなる。
―ははは(笑)。そういうものですよね。CHARMさんのなかで、頭のなかを「無」にする秘訣は何ですか?
CHARM:「全部いい」と思うことです。僕の口癖は「すみません」と「いいですね」で(笑)。どんなに無茶を言われても、「あ、それいいですね」って言い続けたら、意外と良く見えてきたりする。全てをポジティブに見ることができたらいいと思います。
―リード曲の“そら”の歌詞に、<素晴らしい季節が来るよ>とありますけど、CHARMさんの歌詞は、世界や未来をポジティブなものとして描くものが多いですよね。
CHARM:そう言ってもらえるのは嬉しいです。僕はこの世界が好きなんです。いろいろな問題があったとしても、それって長く付き合った彼女に対する気持ちと同じようなものというか……。
長く付き合うと、慣れてきて嫌な面しか見えなくなったりするじゃないですか。でも、客観的に見れば素敵な人だったりする。世界の見方も、それと似ていると思います。ちなみに、“そら”はロスにいるときに書いた曲なんです。
―ということは、まだ日本に来る前ですね。
CHARM:そうなんです。日本への憧れもあって書いた曲で。まだ日本に行ったことがなかった頃、ロスの空を見ながら、頭のなかでは日本の空を想像して書きました。日本語の歌詞で曲を書いてみたいと思って。
でも、本当に響きだけで選んだので、当時は歌詞のなかにある<ほったらかしておいてそのまま 生きていてそのまま>というラインの、「そのまま」という言葉の意味が実はわからなかったんですよ。意味を知ったのは、歌詞を書いたあとなんです。
―「そのまま」って、まさに今CHARMさんが話してくれた「人生テクニック」の感覚にぴったりと合っていますよね。でも、その感覚を掴む前に出てきた歌詞だったと。
CHARM:そう、まさにそこも「繋がり」なんですよね(笑)。
「大人になる」って、どういうことなんでしょうね? 歳を重ねただけで大人になれるのか。
―<大人になった だけど熟してないことばかり>と歌う“A REPLY”の歌詞を読むと、大人になっていく自分自身についても考えることが多いのかなって思いました。
CHARM:それはありますね。日本と韓国って、年齢にうるさい国なんですよね。「何歳だっけ?」って、そればかり訊かれるような気がします。僕は来年、30歳になるんですけど、同じくらいの年齢の人は「30代になるから、何かしなきゃいけない」というプレッシャーを抱えている人も多いと思うんですよ。
―僕も来年30歳なので、それはわかります。
CHARM:でも、それってどうなんだろう? って思うんです。この歳になっても、心は学生の頃とそんなに変わっていないし、やりたいことも変わっていない。「大人になる」って、どういうことなんでしょうね? 歳を重ねただけで大人になれるのか。
体はボロくなりますけど、それぐらいだと思うんです(笑)。そう考えると、結局、そのまま転がり続けるしかない。もちろん、年齢に応じてできなくなることもあるけど、それ以上に「やりたいことをやる」ことが重要じゃないかなって。
―日本では、「やりたいことをやれるのは20代まで」みたいな考え方も根強くありますからね。30代以降は安定した生活を送って、変わらずにいることがいい、みたいな。
CHARM:音楽もそうですけど、日本の人は、変わらないものに美しさを感じますよね。それは良さでもあるけど、音楽的にはあまり良くない部分だと思うこともあって。日本では、「このアーティスト、50年もやっているのに変わっていないね」っていう言葉が褒め言葉として出てくるけど、それは逆じゃないかと思うんです。
―CHARMさんは変わり続けていく?
CHARM:そうありたいです。僕はいろんな音楽が好きだし、出す作品も毎回違うジャンルでもいいんじゃないかとさえ思う。日本の人が、いろんな音楽に触れ合う機会をもっと増やしたいです。昔の日本ではそれができていたし、今でもできると思っています。
- リリース情報
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- THE CHARM PARK
『A REPLY』(CD) -
2016年12月14日(水)発売
価格:2,160円(税込)
TRJC-10661. Rolling On
2. To Whom It May Concern (Interlude)
3. A REPLY
4. 誰か
5. そら
6. Sincerely,
7. P.S. (Interlude)
8. Harmony
- THE CHARM PARK
- プロフィール
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- THE CHARM PARK (ざ ちゃーむ ぱーく)
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2015年リリースの1stミニアルバム『A LETTER』から本格的な活動をスタート。ほぼすべての録音を自身で行い、英語詞と日本語詞を絶妙なブレンドで独自の世界観を築いている。また劇団キャラメルボックスの劇伴や映画のサウンドトラックなどの他に大橋トリオのツアーサポートや共作、南波志帆のサウンドプロデュースなどサイドワークでも大いに注目を集める。2016年12月に発表された2ndミニアルバムは全国のFM局で大量オンエアされた他に、Apple Music「今週のNew Artist」にも選出されて幅広い音楽ファンに浸透しつつある。
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