Awesome City Clubが「Awesome City Tracksシリーズ最終章」と位置付ける新作『Awesome City Tracks 4』を完成させた。「架空の街」をコンセプトとしてきたバンドが、本格的に現実へと拡張していく覚悟の一枚であり、「2010年代デュエットソング」と銘打たれた“今夜だけ間違いじゃないことにしてあげる”は、「男女混成バンド」という自分たちの強みを改めて表現するもの。相当な本気度が伝わってくる作品である。
それにしても、男女ツインボーカルで、なおかつ男女ともに複数人いるバンドというのは、いわゆる大所帯バンドを除くと本当に珍しい。大げさではなく、非常に複雑で、奇跡的なバランスで成り立っているバンドなのだろう。そこで今回の取材では、atagi、マツザカタクミ、PORINの三人に話を訊きながら、改めて「男女混成」という事実に着目し、そこから広がる未来についての対話を試みた。
2016年って、圧倒的なクリエイティブを生み出せれば、人はちゃんとついてくるということが裏付けされた年だった。(atagi)
―Awesome City Club(以下、ACC)は、これまで「架空の街=Awesome Cityのサウンドトラック」をコンセプトに3枚のミニアルバムをリリースしてきましたが、今作を「シリーズ最終章」と位置づけた理由を、まずは聞かせていただけますか?
atagi(Vo,Gt):今回はアルバムを作るにあたって、「オーサムレボリューションをメンバーから発信していこう」というテーマを掲げたんです。
左から:マツザカタクミ、PORIN、atagi、ユキエ、モリシー
―そのテーマはどこから発想したものだったのでしょう?
atagi:『リオ五輪』の閉会式や、宇多田ヒカルさんのアルバム(『Fantôme』、2016年発表)のリリースがあった時、いろんなことに散らばっていた世間の目が、キュッとひとつに集中しましたよね。「これから先が楽しみだな」って、みんなが同じ気持ちでワクワクする瞬間があったと思うんです。それがすごくいいなと思って。自分たちも、もっと世の中を素晴らしく、オーサムにできるようなことを発信していこうと、メンバーで話したんです。
マツザカ(Ba,Synth,Rap):「2020年が楽しみだよね」って、みんなが思えるのは、まさにオーサムな状況だと思うし。これまでは、「今のACCはこんな感じです」っていうのを半年ペースで切り取って聴いてもらう感じで作品を作っていたんですけど、「オーサムレボリューション」とか「人間賛歌」というテーマを決めて作っていったら、すごくいい感触があったんですよね。だったら、これからは「Awesome City Tracks」をコンセプトにするのではなくて、作品ごとにテーマを持って制作をしていきたいと思うようになって。
―確かに、2016年を経て、音楽を作る大前提として「世の中をよくしよう」とか「前向きなものを」という考えが浸透してきているように感じます。
atagi:2016年って、圧倒的なクリエイティブを生み出せれば、人はちゃんとついてくるということが裏付けされた年だったと思うんです。さっき言った宇多田さんのアルバムも、結構大胆なチャレンジをしていたけど、ちゃんといいものを追求する姿勢こそが人を巻き込む力になるということを示してくれた。そういう部分に憧れるし、自分たちも本来ならばそこを目指すべきだなって。
マツザカ:『シン・ゴジラ』『君の名は。』『逃げるは恥だが役に立つ』とか、2016年はそれを感じさせるコンテンツが多くありましたよね。普遍的なテーマが現代的に昇華されていて、どこを切り取ってもクオリティーが高いけど、見ている人からすれば「なんかいいな」って、難しいことを考えずにワクワクできる。
―さっき「人間賛歌」という言葉も出ましたけど、RADWIMPSが去年出したアルバム『人間開花』もまさにそうだったし、明るいムードがありましたよね。
マツザカ:そうですよね。これまでは、自分たちの音楽のことを「架空の街のサウンドトラック」と言っていた分、「僕らは僕らでやってます」みたいな感じに見えて、ちょっと歌や言葉に説得力が欠けていたところもあったと思うんです。でも、ライブをしたり、作品をリリースしていく中で、カジュアルに現実と接することができるようになって。その感じが今回のアルバムで出せたと思うし、今後ももっと強めていきたいですね。
―だからこそ、「Awesome City Tracks」には区切りをつけて、これからはより現実にコネクトしていくと。
atagi:他の人たちと横一列になって、「よーいドン」で誰が頭一つ出るか。そういうスタートラインに、「ちゃんと自分たちから立つ」ということかもしれないです。
Awesome City Club『Awesome City Tracks 4』ジャケット(Amazonで見る)
―<今動き出して ReactionじゃなくMake Action!>と歌うラストナンバー“Action!”はそんな姿勢の表れとも言えそうですね。
マツザカ:最近ニュースを見ていても、みんなどこかで生き苦しさを感じているなと思うんです。そういう中でも、みんながときめくいいコンテンツがあると、フワッと色めき立つような気持ちになれるじゃないですか?
“Action!”は『リオ五輪』のあとに作ったんですけど、真っ直ぐにそういう気持ちと向き合いたいし、その起爆剤になりたいとも思った。それに触れた人が「俺も俺も」って立ち上がっていくのが健全だと思うんです。未来がそうなったらいいなという意味を込めて、<未来は百花繚乱>という言葉を歌詞に使いました。
―PORINさんは2016年の世の中の変化を、どのように感じていましたか?
PORIN(Vo,Syn):変化を感じられるようになったこと自体、自分が成長したなと思っていて。ちょっと前の私だったら、『リオ五輪』の閉会式を見ても、宇多田さんのアルバムを聴いても、流していたかもしれない。特に私は宇多田さんのアルバムに助けられたので、自分たちもああいうアルバムが作れたらいいなと思いました。
普遍的なテーマを扱う時こそ、新しい提案がないとダメじゃないですか?(PORIN)
―「助けられた」というのは?
PORIN:宇多田さんのアルバムのリリースタイミングが、自分たちがアルバム制作をしていた時期だったから、結構いっぱいいっぱいの時で。でもそういう中で、ひさしぶりに「染みるな」とか「心に刺さるな」って思える作品を聴けたのが、素直に嬉しかった。宇多田さんの曲がすんなり心に入ってきたから、私もすんなり歌詞を書くことができたんです。
―『Fantôme』の背景には宇多田さん個人の強い想いがあったと思うし、PORINさんも『Awesome City Tracks 3』から歌詞に自分の想いを入れるようになってきていたから、そこで響いたのかもしれないですね。特に、どの曲が心に刺さりましたか?
PORIN:“俺の彼女”ですね。自分の気持ちを代弁してくれている感じがして。そういう感覚って、ひさしぶりだったんですよ。おそらく、曲に本人のエゴがないからこそ、共鳴できる部分が多いんだろうなって思う。
あと、普遍的なテーマを扱う時こそ、新しい提案がないとダメじゃないですか? 宇多田さんはそこが上手だなって改めて感じたから、今回自分が歌詞を書いた“Girls Don't Cry”も、「新しい提案」ということを考えながら書きました。
―前回の取材の最後で、「次は男尊女卑について書きたい」っていう話をしてくれていたと思うんですけど、“Girls Don't Cry”はその実践と言えそうですよね?
PORIN:やっぱり、バンドって男社会なので、悔しいと思うことも多くて。でも負けてられないし、もっと頑張らないと私がやっている意味がないなとも思うから。
昔は「女の子を応援する」みたいな曲って、あんまり好きじゃなかったんです。でも、いざ自分が表現をする立場になってみると、女の子の力になりたいと思うようになって……。すごく不思議なんですけど、これが成長っていうのかな(笑)。
―特に何か変化のきっかけがあったわけではない?
PORIN:最近昔を思い出すことが多くて。私、女子高育ちなんですけど、女子高育ちだと、やっぱり男性とか恋愛に対する価値観がちょっと変になるところがあるんですよね。ACCを始めてからもそうだったのかもって思うんですけど、上手く接することができない分、「よく思われたい」って変に意識しちゃったりするんです。
でも、学生時代のことを思い出すと、女の子のために何かしたいと普通に思っていたし、女の子に憧れられる女の子になりたかった。なので、今回はこの感情を素直に出せばいいと思ったんです。
―ステージに立つ人になって、ある種のエゴが生まれてしまっていたけど、それが徐々に薄れていって、素直な自分が戻ってきたというか。
PORIN:そう思います。すごい時間がかかっちゃったので、「もうちょっと早くできていればな」とも思うんですけどね(笑)。
ツインボーカルだと、男女両方の目線が出てきて、どちらかだけが美化されることはないから、リアルな表現になる。(マツザカ)
―今回のリード曲は、“今夜だけ間違いじゃないことにしてあげる”というデュエットソングですよね。“Girls Don't Cry”の話や、「人間賛歌」というテーマも含め、『Awesome City Tracks 4』は改めてACCが「男女混成」であることの意味を問うアルバムでもあるように思うのですが、実際自分たちとしては「男女混成」であることの意味をどのように捉えていますか?
マツザカ:PORINがさっき言っていた宇多田さんの“俺の彼女”って、男の目線と女の目線がどっちも歌われているじゃないですか? 普通はどちらかの目線で歌われると思うんですけど、ツインボーカルだと両方の目線が出てきて、どちらかだけが美化されることはないから、リアルな表現になるんじゃないかと思います。その分、きれいにまとまりづらい部分もあるから、共感を得るのが難しいのかもしれないけど……。
―でも、そこは大きなポイントですよね。ガールズバンドが“Girls Don't Cry”を歌うのと、男女バンドが歌うのとでは、きっと意味が違ってくる。ガールズバンドが歌う方がストレートに同性に響くという意味の強さはあるかもしれないけど、本当に強いのはきっと複雑な表現の方なんですよね。なぜなら人間は複雑だから。“俺の彼女”もそういう曲だと思います。
atagi:僕ら五人とも好きなものや感性が微妙に違うから、五人が全員「いいね」って思える曲にするためには、結構な労力が必要なんです。でもそこが大事なのかもしれないですね。
―まさに、そうだと思います。“今夜だけ間違いじゃないことにしてあげる”に関しては、それこそ「オーサムレボリューション」的な考えで、過去のものとされているデュエットソングを今によみがえらせようとしたわけですか?
マツザカ:デュエットソングって、脈々とある文化だというのは何となくわかっているんですけど、「ムード歌謡」みたいなイメージが強くて、2000年代にはあんまり聴かなくなりましたよね。でも、せっかく男女ツインボーカルだし、「デュエットやったらいいんじゃない?」という話になった時に、それを最新版にして提案したいと思ったんです。
今の日本人はみんなどこかに「許されたい」って気持ちがあるんじゃないかと思う。(マツザカ)
―「2010年代のデュエットソング」にするために、どんなことがポイントでしたか?
マツザカ:普段言えないことを言えたらいいんじゃないかと思って、台詞を入れてみたんです。これをカラオケで歌うことによって、まだ親密じゃない男女がグッと近くなれるといいよねって。なおかつ、この曲はラブソングなんですけど、人間賛歌でもあるんです。
この曲の主人公たちは、何かがあったからクラブに来て、「今日だけは何も考えないで踊りたい」という気持ちを共有している。今の日本人はみんなどこかに「許されたい」という気持ちがあると思っていて、その気持ちとリンクするんじゃないかって思うんですよね。
―確かに、それも2016年のムードでしたよね。何かひとつ間違えると、すべてが否定されてしまう風潮があったけど、そもそも人間は完璧ではないから、ひとつやふたつの間違いは当然する。この曲はそんな場面での「許されたい」という気持ちに寄り添う曲でもあると。PORINさんは、この曲にどんな印象を持っていますか?
PORIN:ようやくACCの一番の強みを見つけられたなって、自信につながりましたし、レコーディングが終わった今でも自分で音源をよく聴いてます。
―じゃあ、<嘘つき>っていう台詞のパートもてらいなく言えた?
PORIN:あそこは100回くらい言いましたけどね(笑)。
―そんなに!(笑)
atagi:結構絶妙だと思うんですよね。ちょっとでも温度感が違うと、ニュアンスが変わっちゃって、変にこなれた女の子の台詞に聞こえちゃったり。
PORIN:いろいろ試したんですけど、この曲って今の若者の等身大の曲だと思うし、実際私も共感できる部分が多いので、結局は素のままで言ったテイクが一番いい仕上がりになりました。
―「2000年代に入って、デュエットソングを聞かなくなった」という話がありましたけど、それってやっぱりコミュニケーションの変化の表れでもあると思っていて。今はSNSとかで簡単にダイレクトなコミュニケーションができちゃうけど、そういうものがない時代に、男女が距離を縮めるひとつのツールとして、カラオケで歌うためのデュエットソングがあったんだと思うんですよね。
atagi:この曲って「嬉し恥ずかし、お相手お願いします」みたいなところで完結していたら、ものすごくチープなものになっていたと思うんです(笑)。でも、さっきの「許されたい」という話みたいに、その奥にはディスコミュニケーションがあったり、「男女の」というだけではなく、人と人とのつながりの話もあったり、複雑な表現ができているのかもしれないですね。
―うん、やっぱりその「複雑さ」が重要なんだと思います。
マツザカ:“今夜だけ間違いじゃないことにしてあげる”っていうタイトルには、謎のパワーがあると思うんです。仕掛けているようにも聞こえるし、大人びてもいるし、そもそも男が言っているのか女が言っているのかもわからない。昔の歌謡曲やチークダンスとかが持っている独特のムードの中にあったパワーとも、すごくマッチしていて、一歩間違えれば「おじさんっぽい」ってなっちゃうけど、ちゃんと新しく聴こえるし、耳にも残るとも思う。
―曲自体のベースになっているソウルとかディスコという音楽の歴史自体がセクシャリティーと関係しているから、それを改めて提示しているとも言えるかもしれないですね。
atagi:昔ソウルバーで働いていた時に、お客さんから「何で男女がダンスするのか知ってる?」って訊かれて、「わかりません」って言ったら、「セックスしてんだよ」って真顔で言われたことがあって(笑)。正直自分はピンとこなかったんですけど、みんな黒光りしてて、バリー・ホワイト(1970年代にディスコの黎明期を支えたアメリカのシンガーソングライター)とかの音楽に合わせて踊るような世界があったんですよね。あの頃の人たちのバイタリティーはすごいと思う。
―SNSとかがない世代だからこそのバイタリティーって感じがしますね(笑)。でも、これからはそれこそ2020年に向けて、若い世代が引っ張っていかないといけない。そう考えると、やっぱり男女混成であるACCだからこそできることがきっとある気がします。
PORIN:男女混成の五人組って、「小さな社会」みたいだと思うんですよね。だから、恋愛のことも、家族のことも、友情のことも歌えて、同性のことも異性のことも歌える。そこにはすごく可能性があるんじゃないかな。
マツザカ:僕らよく「『ドラえもん』の登場人物みたいだね」って言われるんです(笑)。PORINが「社会」って言った感じに近いと思うけど、主人公1人が飛び抜けている感じではなくて、全員がフラット。だからこそ、いろんなテーマが扱えるんじゃないかなと思いますね。
あと僕らはいたって普通の人間だから、聴いた人が自分を投影しやすいとも思うんです。『テラスハウス』みたいなものでもあるというか(笑)、「今を生きている人たちは何をどう考えてるんだろう?」ということを、そのまま表現できると思う。
atagi:宇多田さんにしても、「生きていていいんだよ」とかではなくて、すごく普通の人として発信していますよね。日々思っていること、生活の中から滲み出てくるようなものって、スーパースターと呼ばれる人も自分たちも変わらないと思うんです。ただ、それを発信する立場という意味では、自分たちもスーパーな人になりたいと思いますね。
- リリース情報
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- Awesome City Club
『Awesome City Tracks 4』(CD) -
2017年1月25日(水)発売
価格:2,160円(税込)
VICL-647071. 今夜だけ間違いじゃないことにしてあげる
2. Girls Don't Cry
3. Sunriseまで
4. Cold & Dry
5. Movin'on
6. 青春の胸騒ぎ
7. Action!
- Awesome City Club
- イベント情報
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- 『Awesome Talks -One Man Show 2017-』
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2017年4月14日(金)
会場:広島県 八丁堀 SECOND CLUTCH2017年4月15日(土)
会場:福岡県 BEAT STATION2017年4月21日(金)
会場:宮城県 仙台 LIVE HOUSE enn 2nd2017年4月23日(日)
会場:北海道 札幌 Bessie Hall2017年5月11日(木)
会場:大阪府 梅田CLUB QUATTRO2017年5月14日(日)
会場:愛知県 名古屋CLUB QUATTRO2017年5月19日(金)
会場:東京都 赤坂BLITZ料金:各公演 前売3,800円(ドリンク別)
- プロフィール
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- Awesome City Club (おーさむ してぃー くらぶ)
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2013年春、それぞれ別のバンドで活動していたatagi(Vo,Gt)、モリシー(Gt,Synth)、マツザカタクミ(Ba,Synth,Rap)、ユキエ(Dr)により結成。2014年4月、サポートメンバーだったPORIN(Vo,Syn)が正式加入して現在のメンバーとなる。「架空の街Awesome Cityのサウンドトラック」をテーマに、テン年代のシティポップをRISOKYOからTOKYOに向けて発信する男女混成5人組。2015年、ビクターエンタテインメント内に設立された新レーベル「CONNECTONE(コネクトーン)」の第一弾新人としてデビュー。2017年1月25日に、4rdアルバム『Awesome City Tracks 4』をリリースし、4月より全国ワンマンツアーを開催することを発表している。
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