この春に新生活を迎えるすべての人へ贈るプロジェクトとして、Awesome City Club(以下、ACC)とアートディレクターのYOSHIROTTENが、ルミネにてコラボレーションを展開する。「FIND NEW FUTURE」というコンセプトが掲げられた今回のプロジェクトは、YOSHIROTTENが空間プロデュースを手掛け、ACCの曲が流れるショーウィンドウがルミネの店頭を飾り、さらにはその空間が実際のライブイベントとして具現化されるという、非常にクリエイティブな試みとなっている。
そもそも、YOSHIROTTENがアートワークを担当したACCの最新作『Awesome City Tracks 4』は、「もっと世の中をオーサムにしたい」と考えたバンドが、「架空の街(=Awesome City)のサウンドトラック」というこれまでのコンセプトに区切りをつけ、現実の世界にアプローチする想いを込めた作品だった。つまり、今回のライブやショーウィンドウの展開は、Awesome Cityが現実の街と一体化する、その最初の一歩となるのである。ACCからPORINとマツザカタクミ、そしてYOSHIROTTENの三人に、プロジェクトに対する想いを語ってもらった。
いつも「もっと音楽でワクワクできる」という提案をしていきたいと思っているんです。(PORIN)
―ACCはこれまでもクラウドファンディングを積極的に活用したり、専用アプリで新曲が聴ける「バーチャル7インチ」を配布したりと、新しいテクノロジーを活用して、いろんなクリエイターとコラボレーションをしていますよね。その重要性をどのように捉えていますか?
PORIN(Vo,Syn):ACCを始めたとき(2013年結成)って、4つ打ちのギターロックが流行っていたんですけど、私としてはピンとこなかったんです。一方で、海外のインディーシーンはすごく熱くて。
4AD(イギリスのインディーレーベル)とかCaptured Tracks(ニューヨークのインディーレーベル)に興味を持っていたんですけど、そこから出てくる作品は、アートワークもミュージックビデオも、ファッションもすごくクリエイティブが高くて、その世界に触れてワクワクしていたんですよね。だから、ACCを始めた頃からいつも、「もっと音楽でワクワクできる」という提案をしていきたいと思っているんです。
マツザカ(Ba,Syn,Rap):自分たちの本分は音楽なので、まずはいい音楽を作ることが大前提。他のジャンルのクリエイターさんとかの力を借りるとき、ただいい感じの人に「いい感じでお願いします」みたいなのは、やっぱりダメなんですよね。クオリティーの高いものを作ってもらえる人と出会ったときに、僕らも同等のレベルのものが出せて、初めていい相互作用が生まれるんだと思う。
僕は、世の中に「絶対こう」というものはないと思っていて、いろんなことが絶対に変えられると思ってる。(YOSHIROTTEN)
―YOSHIROTTENさんは、ACCに対してどんなイメージを持っていましたか?
YOSHIROTTEN:まず「Awesome Cityという架空の街のサウンドトラックがコンセプト」と聞いて、すごくしっくりきたし、いいなって思いました。
―ACCの最新作『Awesome City Tracks 4』のアートワークに関しては、どのようなコンセプトがあったのでしょう?
YOSHIROTTEN:『Awesome City Tracks 4』は、まずアーティスト写真の撮影があったんですけど、カメラマンの神藤(剛)さんと、実際の街にメンバーがいる写真を撮りたいという話をしました。今ってオリンピックに向けた工事で、東京のいろんなところに白い壁があるじゃないですか? あの壁にいろんな街の景色が写り込んでいたら楽しいなって。
実際に神藤さんに撮ってもらった街の写真を白壁に投影して、そこでメンバーが笑ってたり、自然な状態でいる、というイメージでアーティスト写真を作りました。それで、ジャケットも神藤さんが撮られた街の写真を改めてエディットするのが一番しっくりくるんじゃないかと思ったんです。
Awesome City Club『Awesome City Tracks 4』ジャケット
マツザカ:『Awesome City Tracks 4』から、「僕らは架空の街を抜けて、実世界の街を変えられるような音楽を鳴らしていきます」ということを掲げていたんですけど、それをアートワークでもわかりやすく表してくれたと思います。
今回のルミネのプロジェクトも「ワクワクする未来的な暮らしの第一歩を踏み出す」というのがテーマだとお伺いしたんですけど、僕たちも今そういう気持ちがすごくあって。自分の見方次第で、街とか生活ってキラキラして見えると思うんですね。今回のジャケットは、そういう僕らのメッセージも伝わると思う。
PORIN:『Awesome City Tracks 4』には、「人間賛歌」というテーマもあって、「みんなの日常をちょっとでもポジティブに、オーサムにしてあげたい」という意図があったので、ホントにピッタリのアートワークだなって思いました。YOSHIROTTENさんに、こういう話をそんなにしたわけではないのに、音源から自分たちのモードを汲み取ってくれて、すごいなって。
―YOSHIROTTENさんご自身の考えも、今のACCの話とリンクするものがあったと言えますか?
YOSHIROTTEN:僕の作品には全部ひとつのテーマがあって、それは「景色を変える」とか「新しい景色を作る」ということなんです。僕は、世の中に「絶対こう」というものはないと思っていて、いろんなことが絶対に変えられると思ってる。
今見えている景色だって、光の影響でこう見えてるだけで、宇宙にはもっとたくさんの光の線があるから、違うふうに見えることだってあり得るんですよね。そこで見えるような新しい景色を作品に落とし込みたい。『Awesome City Tracks 4』のアートワークも、「ちょっとしたことで世界は変えられる」ということを、「ほら、ごらん」って提示するように、みんなと一緒に作れた感じがしていますね。
YOSHIROTTENさんの作品は、フューチャーな感じもあるし、クールなんだけどただ冷たいだけではないし、ポップだけど毒っ気もあるから、僕らの音楽とリンクする。(マツザカ)
―そもそも、YOSHIROTTENさんが初めてACCに関わったのは、『Awesome City Tracks 3』のアートワークですよね。
マツザカ:最初の2枚(『Awesome City Tracks』『Awesome City Tracks 2』)のアートワークは大原大次郎さんにお願いして、イラストがメインの、ちょっと温かい感じのテイストだったんですけど、3枚目から少しバンドのモードが変わってきたので、新しい人とやってみたいと思ったんです。
それでYOSHIROTTENさんの作品を見せてもらったら、フューチャーな感じもあるし、クールなんだけどただ冷たいだけではないし、ポップだけど毒っ気もあるから、僕らの音楽とリンクするんじゃないかと思って。僕ら、結構えり好みがすごくて、クリエイティブのアイデアに対していろいろ言ってしまうこともあるんですけど、YOSHIROTTENさんが出してくれたアイデアは全部よくて、どれにしようかメンバー内で喧嘩するくらい悩みました(笑)。
Awesome City Club『Awesome City Track 3』ジャケット
―PORINさんは以前の取材(Awesome City Club、「シティポップ」を抜け出して、何を歌う?)で、『Awesome City Track 3』のアートワークにすごく感動したという話をしてくれましたよね。
PORIN:アートワークにこれほど心打たれたのは初めてだったんです。ちょうど自分たちのレーベル主催の大事なライブの日(『CONNECTONE NIGHT』、2016年5月6日)に、楽屋でYOSHIROTTENさんから見せてもらって、「これを見せられたからには、最高なパフォーマンスをしなきゃ」って思ったんですよね。
その頃から「PORINが覚醒した」みたいに言われてるんですけど(笑)、自分が変わった要因のひとつになってると思います。他にもいろんなことが重なったんですけど、YOSHIROTTENさんの作品が、私の気持ちの最後の一押しをしてくれたというか。
―『Awesome City Tracks 3』のアートワークは、どんなテーマで制作したのでしょうか?
YOSHIROTTEN:『Awesome City Tracks 3』を聴いたときに、それまでは夜っぽい印象だったACCを、昼のACCに変えたいと思ったんです。トレーラー映像も、「Awesome City」という街の昼間の景色をイメージして作りました。
―ジャケットはCGではなくて、実際のクリスタルを使って撮影しているそうですね。
YOSHIROTTEN:透明のキューブを使って、実写で撮ってます。フルCGにするのはちょっと違うなと思って、アナログの方法で、CGに近づけようと思ったんです。他のアイデアもいろいろ考えてはいたんですけど、イラストも違うし、プロップで街を作るのも違うし、こうやって街っぽく見せるのがいいんじゃないかと思ったんですよね。実際にやってみると、「やっぱりそうだったよな」って。
毎日行き来する街がキラキラして見えたら、服を着るのも、電車に乗るのも楽しくなると思う。(YOSHIROTTEN)
―そして、今回のルミネのプロジェクトではYOSHIROTTENさんプロデュースのショーウィンドウが作られるわけですが、まずこの話自体にどんな印象を持たれましたか?
PORIN:単純に、またYOSHIROTTENさんとご一緒できるのが嬉しかったし、もっとみんなの日常に近いところで作品を見せられるのが、すごく光栄です。
マツザカ:ルミネって生活の導線のなかにあるものだから、そこがすごくワクワクします。僕らのライブだったり、YOSHIROTTENさんの個展って、観に行こうと思わないと観られないわけですけど、それこそ「ほら、ごらん」みたいな形で、みんなの生活のなかで提示できるのがすごくいいなって。
僕らは場所を持っているわけではないので、ルミネのように場所を持っている会社が、なにか新しいことをやりたいと思っているクリエイターたちに場所を提供してくれて、そこがより楽しい場所になれば、みんながハッピーになると思う。それが大きな規模で展開されるのは、すごくワクワクしますね。
YOSHIROTTEN:ルミネのお客さんは若い人も多いと思うから、単純に、そういう人たちがACCを聴いてくれたらなって思うし、毎日行き来する街がキラキラして見えたら、服を着るのも、電車に乗るのも楽しくなると思うから、そうさせたいなと思います。
マツザカ:なにかひとつでも楽しいことがあると、嫌なことも「許せるかも」って思えたりするじゃないですか? 殺伐とした人混みの街でも、「あそこにあるショーウィンドウが好きなんだよな」って思ってもらえれば、嬉しいですよね。
―実際に、YOSHIROTTENさんはディスプレイをどう演出しようとお考えですか?
YOSHIROTTEN:未来っぽい街の景色の映像を映し出して、そこに洋服とかが浮遊してる感じにできればなって思っています。建物だったり、人だったり、車だったり、街にあるいろんなものを、四角とか丸とかのミニマルな形にして、それが雲と一緒にフワッと通り過ぎていく。
だから、なにかを具体的に打ち出すのではなくて、なにかわからないけど、フワッと未来を感じてもらえれば、というイメージですね。だから、全部グラデーションにしています。そこに、ACCの“Cold & Dry”をかけるんですけど、あの曲のフワッとした感じが、すごくリンクするんじゃないかと思いますね。
ライブの始まる前からが勝負なんですよね。会場の扉を開けた瞬間に、ワッと思ってもらえるかどうかが大事。(マツザカ)
―そして、このコラボレーションは4月5日のライブイベントへと発展していきます。ACCは、普段から自分たちのイベントでもステージやフロアに装飾を施したり、演出をとても大事にしていますよね。
マツザカ:「あなたの街にAwesome Cityを届けます」みたいなことがテーマで、非現実的な世界を作るために、いつもセットを作っているんです。ライブに来るお客さんはいろんな気持ちで来ると思うんですけど、現実逃避をしたくて来る人もいると思うので、それを手助けしてあげられたらなって。
それは、ライブの始まる前からが勝負なんですよね。会場の扉を開けた瞬間に、ワッと思ってもらえるかどうかが大事。もっといろんな演出とかを仕掛ければ、ライブハウスはもっと面白くなると思うんです。それは、今回ルミネさんが、YOSHIROTTENさんにライブのステージと空間の演出を依頼してくださったこととも通じる話なのかなって。
―YOSHIROTTENさんは、今回のライブの演出に関して、どんなプランをお考えですか?
YOSHIROTTEN:ショーウィンドウで作った世界が現実になるというイメージです。ACCのライブ自体からも世界観は感じてもらえると思うので、ステージはあえてシンプルにして、ショーウィンドウで流す映像と似たものを要所で流そうかなと思っています。あと、ライブフロアに入る前のラウンジにも演出を施して、その世界に入り込む状態を作ってあげられればなと。
ラウンジとメインフロアの間に、雲の形を刷った透明のフィルムかアクリルをひこうと思っているんです。メインフロアから見るとラウンジのなかにいるお客さんが浮いているように見えて、逆に、ラウンジからステージを見ると、メンバーが浮いてるように見える、というのを考えています。今の時代、自分がいる空間を写真に撮って、SNSで世界中に飛ばすということをみんなやってるから、それをしたくなる空間作りをしてあげると、みんなハッピーになるんじゃないかなって。
今の東京って、欧米を意識すらしないようなオリジナリティーが出てきて、パワフルな人が増えている。(マツザカ)
―「FIND NEW FUTURE」というテーマについてもお伺いしたいのですが、そもそもACCが架空の世界を抜け出して、現実の世界をオーサムにしていきたいと強く思うようになったのは、『リオ五輪』の閉会式がひとつのきっかけだったそうですね。
PORIN:自分はあれにすごく救われた気がしたんです。日本人って、超カリスマ性があるわけではなくて、手先の器用な、繊細な人たちだと思うんですね。演出を手掛けた椎名林檎さんにしても、「私はもともと華があったわけではなくて、コツコツと努力してきた」とインタビューでおっしゃっていて、無理して外国の真似をしたり、カリスマ性を養おうとしなくても、自分の持ってるもので表現できるかもしれないっていう可能性を感じて。
たぶん、あれを見て同じように感じて、前向きになれた人も多かったんじゃないかな。日本陸上男子が、400mリレーで銀メダルを獲れたのも、ジャマイカが2~3回くらいしか練習していなかったバトンの受け渡しを、日本のチームは地道に努力したかららしくて。それもすごく日本人らしいなと思って感動したんですけど、それと同じことを閉会式でも感じたんです。
マツザカ:さすがは元陸上部(笑)。
PORIN:そう、だからすごくよくわかるんです(笑)。
マツザカ:今の東京って、世界の他の都市に比べても劣らない状況だと思っていて。それはきっと人の気持ちによるところが大きいと思うんです。もともと東京は最先端だし、物質的に豊かだったけど、気持ち的にも欧米に負けないというか、それを意識すらしないようなオリジナリティーが出てきて、パワフルな人が増えている。それをあの閉会式は表現してたなって思うんですよね。
―たくさんのクリエイターが集結して、新しい未来を生み出していく。『リオ五輪』の閉会式はそのひとつの形だったし、今回のルミネのプロジェクトにしても、その実践だと言えますよね。では最後に、今回のプロジェクトが多くの人が新生活を迎えるタイミングに行われるということで、新入生や新社会人に向けて、なにか一言メッセージをいただけますか?
PORIN:私は毎日が新生活みたいな感じなので……実際、毎日いろんなことが起こるんですよ(笑)。だから最近は、ちょっとした周りの動きが気になったりするけど、その分自分と向き合う時間も大事にしていて。これくらいいろんなことに敏感になるのって、思春期以降なかったから、今を大事にしたいなってすごく思っています。なので、みんなも毎日ワクワクして、ちゃんとマイナスな部分とも向き合えるようになったらいいんじゃないかなと思いますね。
―YOSHIROTTENさんはいかがでしょうか?
YOSHIROTTEN:外に出るとか、窓を開けるとか、一歩踏み出すだけで世界は変わると思うし、自分もそうしてきたんです。自分が楽しいとか好きだと思うところにどんどん入っていく。そうすれば、見える景色も変わっていくと思います。
やっぱり、結局は自分の気持ち次第というか。なにかにドキドキしたり、恋をしたり、夢が叶ったりしたら、街もすごくキラキラして見えると思うし、そうじゃなかったら、超どんよりして見える。景色を変えるのは自分で、僕はそれを想像させられるようなものを作っていきたいですね。
―最後に、マツザカくんいかがですか?
マツザカ:新生活って、始まりでもあるけど、故郷を離れたり、好きな人と別れたり、なにかの終わりでもあると思うから、考え込んじゃうこともあると思うんですよね。でも、歩みを止めずに、動きながら考えることが重要だと思うんです。どんどん動きながら考えれば、止まって考えるよりいい方向に進むと思う。だから、「進め!」って感じですかね。
- イベント情報
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- 『FIND NEW FUTURE NIGHT』
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2017年4月5日(水)
会場:東京都 LUMINE 0
出演:
Awesome City Club
BOMI
スペースデザイン:YOSHIROTTEN応募方法
2017年3月2日(木)~3月26日(日)の期間中、ルミネ各館およびニュウマンで「ルミネカード」税込3,000円以上お買い上げいただき、「FIND NEW FUTURE NIGHT 特設サイト」ウェブエントリーフォームよりご応募いただいた中から抽選で、150組300名様をご招待。
- キャンペーン情報
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- 『FIND NEW FUTUREウィンドウ装飾』
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2017年3月2日(木)~4月5日(水)
会場:ルミネ各館ショーウィンドウ
- リリース情報
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- Awesome City Club 『Awesome City Tracks 4』(CD)
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2017年1月25日(水)発売
価格:2,160円(税込)
VICL-647071. 今夜だけ間違いじゃないことにしてあげる
2. Girls Don't Cry
3. Sunriseまで
4. Cold & Dry
5. Movin'on
6. 青春の胸騒ぎ
7. Action!
- プロフィール
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- Awesome City Club (おーさむ してぃー くらぶ)
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2013年春、それぞれ別のバンドで活動していたatagi(Vo,Gt)、モリシー(Gt,Synth)、マツザカタクミ(Ba,Synth,Rap)、ユキエ(Dr)により結成。2014年4月、サポートメンバーだったPORIN(Vo,Syn)が正式加入して現在のメンバーとなる。「架空の街Awesome Cityのサウンドトラック」をテーマに、テン年代のシティポップをRISOKYOからTOKYOに向けて発信する男女混成5人組。2015年、ビクターエンタテインメント内に設立された新レーベル「CONNECTONE(コネクトーン)」の第一弾新人としてデビュー。2017年1月25日に、4thアルバム『Awesome City Tracks 4』をリリースし、4月より全国ワンマンツアーを開催。
- YOSHIROTTEN (よしろっとん)
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1983年生まれ魚座。グラフィックアーティスト、アートディレクター、デザイナー。Awesome City Clubをはじめ、多くのレコードジャケットやファッションブランドとのコラボレーション、パッケージ、広告に至るまで幅広く活動中。
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