向井秀徳が語る、音楽に向かう原動力「私は自意識恥野郎ですよ」

ゴールデンウィークも終盤の5月6日、日比谷野外音楽堂を舞台に『THE MATSURI SESSION』が開催される。このイベントはもともと6年前の2011年10月に、向井秀徳が運営する「MATSURI STUDIO」を使用している3組、ZAZEN BOYS、KIMONOS、向井秀徳アコースティック&エレクトリックが集って開催されたもの。今回はさらに吉田一郎不可触世界とLEO今井のソロバンドが加わり、まさに「MATSURI STUDIOファミリー総出演」といった様相の、大宴会が開催されるというわけだ。

近年の向井は、バンド、ソロ、ユニットと様々な形態でライブを行いつつ、昨年は『ディストラクション・ベイビーズ』と『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』という2本の映画音楽も担当しているが、ZAZEN BOYSとしては2012年の『すとーりーず』以降、新作の噂は届いていない。

そこで今回の取材では、イベントの話はもちろん、気になるZAZEN BOYSの新作について訊くとともに、彼の音楽の原体験であるプリンスの話題など、様々な角度から向井秀徳の現在地に迫った。

ZAZEN BOYSでは、実際に「MATSURI STUDIO」に集まって、私のアイデアを具現化していくわけですけど、最近はご無沙汰なんで。

―まずはZAEN BOYSの話から入らせてください。『すとーりーず』(2012年)のリリースからは4年半が経過していますが、次作の構想はすでにあって、時間が作れればレコーディングをしたいという状況なのか、まだもうちょっと先なのか、いかがでしょう?

向井:自分のなかで、楽曲のアイデアというか、ギターのリフだったり、コードだったりという、曲になる前の断片は無数にあるわけです。曲作りの始まりはいろんなケースがあって、ギターのコードを一発鳴らして、そこから広がっていくパターンもあるし、ガチガチのギターリフができて、そこから始まる場合もある。あるいは、ドラムビートを思いついて、「口ドラム」ですぐさまメモ録音したものから発展したり。そういった形でできた曲の断片はいっぱいあります。

向井秀徳
向井秀徳

―素材はたくさんあるけど、まだ曲にはなっていないと。

向井:そういう私のアイデアを、実際に「MATSURI STUDIO」に集まって具現化していくわけですけど、非常にスムーズにZAZEN BOYSサウンドにつながることもあれば、試行錯誤して、全然違うものになったりすることもあるし、アイデア自体なくなることもあります。自分が取り揃えている数多の楽曲の種みたいなやつを、バンドメンバーにまき散らす作業が必要なんですけど、最近はご無沙汰なんで、そろそろやっていきたいですね。

―なにか作品としての方向性みたいなものは見えていたりするのでしょうか?

向井:アルバム単位でのノリ、ムード、方向性っていうのは、最初の段階ではあまり考えないというか、考えられないです。曲が形になって、それが集まって、ひとつの作品になる。なので、ホントの意味での「MATSURI SESSON」を、そろそろ集中してスタートさせたいですね。

取材は「MATSURI STUDIO」で行われた
取材は「MATSURI STUDIO」で行われた

「もう飽きたから、新しいものに触れたい」ってことであれば、トレンドを追いかけるんだろうけど、飽きませんからね。

―今の音楽シーンの話をすると、ジャズとヒップホップのクロスオーバーが進んでいて、もともとZAZEN BOYSが「ジャズやヒップホップをロックバンドとしていかに鳴らすか?」をひとつのアイデアとして始まっていることを考えると、次にZAZEN BOYSがどんな一手を出してくるのか、非常に気になるんですよね。

ZAZEN BOYSの最新作『すとーりーず』収録曲

向井:今のシーンはまったくわからないですね。完全にタッチしてないです。前はね、レコードショップに行って、棚の雰囲気から、こういうものが今プッシュされているんだとか、そういうのが目に見えてわかったけど、今はレコードショップ自体行かなくなったし、行くとしても中古屋の餌箱ですからね。

トレンドにはまったく疎いので、ZAZEN BOYSにコンテンポラリーミュージックシーンのトレンドをフィードバックすることはできないですし、そもそもあまりそういう気持ちがないです。

向井秀徳

―なるほど。

向井:ZAZEN BOYSで新しいことをやろうとするなら、もっと無邪気な興味ですね。「尺八、入れてみっか」とかね。そういうアイデアを思いついて、試したけど、別にそんなに面白くなかったとか、試行錯誤は今までもいっぱいあるわけ。で、それがフレッシュに感じられると、「これはいい」となるわけですね。

まあ、最近のシーンはわからないですけど、対バンとかで偶然出会って、「これはかっこいいな」と思うことはよくありますよ。たとえば、最近私が参加したskillkillsなんかは、何年も前から知ってはいますけど、彼らはホントに新しいと思うね。

―いつぐらいからトレンドが気にならなくなりましたか?

向井:家のレコードがある程度限界に達して、「持ってる分でいいや」みたいに自分が聴けるキャパがいっぱいになった頃ですかね。「もう飽きたから、新しいものに触れたい」ということであれば、トレンドを追いかけるんだろうけど、飽きませんからね。だから、飽きないような音楽ばっかり聴いているってことかな。たとえば、プリンスにしても、未だにいろんな発見があるし、聴くときどきによって曲の印象が違って聴こえたりしますしね。

私が音楽をやっている理由として大きくあるのは、結局コミュニケーションをしたいということなんです。

―今の話はネットで次から次へといろんな曲が聴ける現代の状況に対して、ある意味示唆的な発言だなと思うのですが、ネットで音楽を聴くことに関しては、なにか思うところはありますか?

向井:いや、特に思うことはないです。それは聴く人からしたら嬉しいことだからね。ただ、「音楽が無料である」となっているのは、私にとって困ります……困るなあ、それ(笑)。でもまあ、もともと音楽はお金を払って聴くもんではなかったし、レコードビジネスというもの自体、実験だったのかもしれないですけど。

ただ、私はミュージシャンなのでそうは言ってられない。演奏に関しては、「芸を売る」ってことですから、パフォーマンスということでは、しっかりしたものを提供したい……と言っておきながら、ステージ上で酔っ払ってるんですけど(笑)。

―パフォーマンスに関して言うと、近年のZAZEN BOYSのライブは観客を巻き込む部分が増えてきましたよね。

向井:歪なコミュニケーション欲求でしょうかね。コール&レスポンスで一体になろうというのは、ある種苦手な部分がありまして。自分が観客として、拳を振り上げて、みんなでシンガロングするのは嫌いじゃないですけど、自分がライブを行う立場からすると、ちょっと違和感がある。

ただ、私が音楽をやっている理由として大きくあるのは、結局コミュニケーションをしたいということなんです。それは、「仲良くなりたい」ということではなくて、自意識の問題ですね。自分という存在を知らしめたい。自分の音楽をもってして、誰かとつながりたい。「自分はここにいるのである」ということを表現している、自意識野郎なんですよ。

―ライブのパフォーマンスも、その表れのひとつだと。

向井:音楽をやる人はみんなそうだと思いますよ。自分の音楽をかっこいいと思ってくれたり、褒められると気持ちいいわけです。すごく満たされますよ。あるいは、残念ながら、全然ダメだと、面白くないと言われることもあって、それは非常に辛いことですけど、その人に一度タッチしたことにはなる。それはコミュニケーションできたっていう証明ですよね。スルーされるのが一番切ないですから。

向井秀徳

私は自意識恥野郎ですよ。「それでも、やめられないのね」ってことなんです。

―途中でプリンスの名前が挙がりましたが、言ってみれば、彼も強烈な自意識野郎だったと思うんです。向井さん自身の自意識や自我も、彼のような存在を意識するなかで、構築されていったと言えますか?

向井:音楽として影響を受けた人はいっぱいいますし、存在としてかっこいいなと思う人もいっぱいいます。でも、自分がなぜ、いつまでも音楽をやりたいのかということを考えると、やっていくうちに音楽に対する気持ちが高まっていったからじゃないかと思うんですね。

単純に「音を出して楽しい」という、純粋なものだったのが、自分の作るものに自負が出てきて、「これは自分である」と思うようになった。「これをもってして、自分を知ってもらいたい」というかね。そういう欲求が高まっていったんだと思います。

向井秀徳

―なるほど。

向井:でも、もしかしたら、それは大いなる勘違いなのかもしれない。私は自分のことを「恥を知れば知るほど恥を知る男」と言っているんですけど(笑)、他人からしたら「あんな恥さらしよくできるな」と思われている可能性もある。だから、自意識恥野郎ですよ。「それでも、やめられないのね」ってことなんです。しょうがないですよね。

―プリンスについてもう一問だけ。向井さんが彼から受け取ったものがあるとすれば、それはどんな部分ですか?

向井:ファッションセンスとかは置いておいて、やっぱり、「毒個性」ですね。マイルス・デイヴィスもしかり、私がいつまでもグッとくる人たちは、「毒個性」を持っていますよね。私も「毒個性」でありたいと思います。

向井秀徳

―毒を食らったように感じるくらいの強烈な個性ということですか?

向井:そうですね。別に驚かせようとしてるわけじゃない。ときには、エンターテイメントとして、パフォーマーとして、人をワッと驚かせて、楽しませることが必要だと思うけど、私は至ってナチュラルな気持ちでやっていて。「自分」という個性をもってして、あなたにショックを与えたいんです。

映画音楽は私を信頼してくれて、頼んでいただいているもんですから、緊張しますよ。

―昨年の向井さんの活動を振り返っていただくと、『ディストラクション・ベイビーズ』(監督・真利子哲也)と『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』(監督・宮藤官九郎)という2本の映画音楽を手がけられていました。向井さんの映画好きは有名ですし、アウトプットのひとつとして大きいと言えますか?

向井:アウトプットというよりは、そういう機会をいただいただけなんです。自発的なことではないので、下手なことはできないという責任感が生まれますよね。アコエレ(向井秀徳アコースティック&エレクトリック)のライブで、アコギの弦がボンボン切れても、自分の責任なわけです。でも、映画音楽は私を信頼してくれて、頼んでいただいているもんですから、緊張しますよ。

『ディストラクション・ベイビーズ』の主題歌

―『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』に関してはいかがでしたか?

向井:宮藤さんの映画や舞台の音楽はこれまでいろいろやらせてもらっていますけど、宮藤さんの作品にはいろんなタイプの劇中歌が出てくるんですね。それがまさにカラフルなクドカンワールドなわけですけど、量が多いから大変なんです。

『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』予告編

向井:「今回は少ないです」って言われたんですけど、「ロックミュージカルなんだから、どう考えても少ないはずないだろ」って、案の定、いろんなタイプの楽曲を作ることになりまして(笑)。それはそれで、自分にとってチャレンジになりますし、宮藤さんが面白がってくれるので、新鮮な喜びにはなるんですけどね。『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』では“地獄農業高校校歌”を作らないといけなくて、「校歌って、どう作るんだよ?」と(笑)。

いい季節に野音でやるっていうのは、すごく気持ちいいですし、観る側でも楽しいわけです。

―たしかに、校歌を作る機会はそうそうないですよね(笑)。

向井:結局歌詞も含めて完全にイメージで作ったんですけど、最終的にはすごく校歌っぽくなりました。レコーディングも、男声コーラス隊の人たちに来てもらって、みんなで合唱してもらいましたし、ピアノもまさに音楽の先生みたいな、律儀なピアノを弾いていただいて、「まさに校歌だな」と。そういうのは楽しいですね。

―そういった新鮮な経験が、自身のプロジェクトに還元されることもあるでしょうしね。校歌はなかなか難しいかもしれないですけど(笑)。

向井:ただその分、映画音楽は付きっきりで集中しないといけないんですよね。合間を縫ってZAZEN BOYSの作品制作もやれればいいんだけど、制作するときは、脳の普段使わないところを使わないといけないので、他のことができなくなるんです。そうなると、ZAZEN BOYSの作品制作に向き合う時間がなくなっていく。

向井秀徳

―スタジオでの「MATSURI SESSON」がご無沙汰な背景にはそういったこともあると。5月6日には、日比谷野外音楽堂(以下、野音)で『THE MATSURI SESSION』が開催されますが、「MATSURI STUDIOファミリー総出演」といった感じのラインナップになっていますね。

ZAZEN BOYS
ZAZEN BOYS

向井:6年前の10月にも野音で『THE MATSURI SESSION』をやっていて、そのときはZAZEN BOYS、KIMONOS、向井秀徳アコースティック&エレクトリックの3組だったんです。「MATSURI STUDIO」の地下室から、野外のステージに飛び出していくというイメージでした。

野音はワンマン、イベント含め、何度も演奏を行っているんですけど、やはりすごく特別な場所なんです。都心の官庁街のど真ん中に、コンサート会場があるという、すごく特殊なシチュエーションであり、そこでは数々の伝説といわれるライブが行われてきた。そういった意味でも、スペシャルな場所だと思っています。それに、いい季節に野音でやるっていうのは、すごく気持ちいいですし、観る側でも楽しいわけです。

―よくわかります。

向井:なので、毎年いい季節に行えればいいなって思うんですけど、みんな野音でやりたがるから、ブッキングするのは困難なわけです。野音は抽選制なので、応募して、くじ引きをするわけですけど、そのくじがなかなか当たらない。そういったなかで、ときどきまぐれ当たりをするときがあって、2011年もそうだったし、今年の5月もそう。「まぐれ当たりきたか」と。

売店のおばちゃんにはビールを100ケースくらい追加しておいてほしいね(笑)。

―そこでZAZEN BOYSのワンマンをやろうとはならなかったんですね。

向井:当然それも考えられるんですけど、せっかくの野音なので、みんな集まろうという気持ちになりまして。「MATSURI STUDIO」の地下室でずっとうごめいているよりは、「ときにはいい季節に公園に遊びに行こうよ」「みんなで宴会だ」ということになったわけです。

しかも、前回は3組でしたけど、仲間たちがちょっと増えまして……といっても、人数は変わらないんだけど(笑)、それぞれ活動の幅がジワジワ広がって、吉田一郎はソロユニットで初参加すると。

吉田一郎のソロユニット・吉田一郎不可触世界のライブ映像

向井:まさに10年前、吉田一郎がZAZEN BOYSに加入して、初めてのライブが野音のワンマンだったんです。そして、今回が吉田一郎不可触世界としての野音での初ライブになるという。

―歴史を感じさせますね。

向井:あとLEO今井は前回KIMONOSで出演していますけど、今回は彼のソロバンドにも参加してもらうと。で、すでに出演順も発表されているんですけど、前回からコンセプトのようになっているのが、イベントが終わりに向かうに連れて、ステージ上からだんだんと人が減っていくっていうね。

―吉田一郎不可触世界、ZAZEN BOYS、LEO IMAI、KIMONOS、向井秀徳アコースティック&エレクトリックの出演で、最後は向井さん一人がステージに残る。

向井:前回も最後は私のソロだったんですけど、夕暮れが近づくとともに、だんだんステージ上が物悲しくなっていくんです。「夕暮れ感」といいますか、それを演出したかった。

―あのだんだんと日が落ちていく感じも野音ならではですもんね。

向井:趣がありますよね。今回最初に出る吉田一郎不可触世界も一人なんですけど、彼はなんと言いましょうか……一言で言うと、前座ですね。最終的に私のソロになるっていうのは変わらないわけです。まあ、ステージ上から人が減っていくに連れて、観客席も人が減っていくと、本気で寂しい状況になるので、それはやめていただきたいですね。

向井秀徳

―観客席はだんだん酔っ払って、いい感じになってるでしょうね。

向井:野音にはおばちゃんが一人でやっている売店があって、いつも「ビールや缶チューハイを多めに補充しておいてください」とリクエストしているんです。会場の雰囲気も、お酒を飲みたくなる雰囲気なんだと思いますね。

6年前とほぼ同じ顔ぶれですけど、これだけ一斉に並んでみると、「MATSURI STUDIOでなにやってんの?」って、よくわかると思います。それぞれバラバラのスタイルではありますけど、みんなの奥底に共通している、ある種のつながりが感じられるんではないかな。

―先ほどの「毒個性」のお話もありましたけど、それぞれの自意識が、それぞれの形で野音という場に飛び出してくるというか。

向井:そうね。野音というシチュエーションで、季節的にも最高だし、売店のおばちゃんにはビールを100ケースくらい追加しておいてほしいね(笑)。

向井秀徳

イベント情報
『THE MATSURI SESSION』

2017年5月6日(土)
会場:東京都 日比谷野外大音楽堂
出演:
吉田一郎不可触世界
ZAZEN BOYS
LEO IMAI(LEO今井、岡村夏彦、シゲクニ、白根賢一)
KIMONOS
向井秀徳アコースティック&エレクトリック
料金:前売4,800円 当日5,300円

プロフィール
向井秀徳 (むかい しゅうとく)



記事一覧をみる
フィードバック 23

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

  • HOME
  • Music
  • 向井秀徳が語る、音楽に向かう原動力「私は自意識恥野郎ですよ」

Special Feature

Crossing??

CINRAメディア20周年を節目に考える、カルチャーシーンの「これまで」と「これから」。過去と未来の「交差点」、そしてカルチャーとソーシャルの「交差点」に立ち、これまでの20年を振り返りながら、未来をよりよくしていくために何ができるのか?

詳しくみる

JOB

これからの企業を彩る9つのバッヂ認証システム

グリーンカンパニー

グリーンカンパニーについて
グリーンカンパニーについて