「おしゃれ」だとか「センスがいい」とかそういう言葉を抜きにして、音楽が鳴った瞬間に問答無用で身体が反応してしまう。そんなバンドの登場をどこかで待っていないだろうか? もしあなたがそうなら、今聴いておくべきは、ユーモア溢れる七人の男たちによるバンド、思い出野郎Aチームだ。
前作から2年半が経ち、ceroなどが在籍する名門レーベル「カクバリズム」に移籍したバンドから、高橋一と松下源を取材。ダンスフロアにきらめくロマンスと憧憬を詰め込んだ2ndアルバム『夜のすべて』をリリースするにあたり、二人にダンスフロアと音楽への愛について語ってもらった。
カクバリズムに入ることがわかっていたら、こんなバンド名にはしなかったかもしれない(笑)。(松下)
1stアルバム『WEEKEND SOUL BAND』(2015年)を「felicity」から、そしてこの度、2ndアルバム『夜のすべて』を「カクバリズム」からリリースした思い出野郎Aチーム。既にバンドとして貫禄すら漂っているように感じられる彼らだが、活動当初はインディーシーンのなかで自分たちの立ち位置を見つけるのに苦労していたようだ。
高橋(Tp,Vo):学生時代、美大ということもあり、お洒落でコンセプトやデザイン性がいいバンドが多すぎて食傷気味だったんです。その反動と対抗心みたいなこともあって、「ダサいバンド名にしよう」みたいな感じで始めたんですよ。このバンド名は、家でぐだぐだしながら学生時代の思い出について語りあってて、「俺たち思い出野郎だな」とその場にいたメンバーと話してて思いつきました(笑)。
松下(Per):カクバリズムに入ることがわかっていたら、こんなバンド名にはしなかったかもしれない(笑)。
高橋:本格的にバンド活動を始めた2009年頃、「僕らはどのシーンに入れるんだろう?」って自分たちを異物のように感じていました。どんなライブハウスに出ても「なにかが違うんだよな」と思いながら、対バンしていたんです。
松下:本格的なファンクバンドと対バンすると、「君たちいいけれど、もっとファンクにしたほうがいいよ」と言われるし、ポップスやパンクバンドをやっている人には、「もっとキャッチーに、ソフトに」とか言われて。とはいえ、僕らは大学の仲間で始めたので、できることを探しながらやっていたというだけで……。
バンドに入ってから楽器を始めたメンバーもいるくらいですからね。飲み仲間だったり、顔とキャラだけで採用された人もいたりして、今の七人に至るという。僕に関しても、ボンゴを1個だけ渡されて、「これを叩いてくれ」って(笑)。そういうゆるい感じだったんです。
仲間内で始めたからこその、肩肘張らないちょうどいいゆるさは、思い出野郎Aチームの魅力のひとつだ。しかしそれは、決して「ぬるい」わけではない。仲間同士だからこそ、ダサいことに対しては敏感になるし、自分たちの音楽には強いこだわりがある。そしてなにより、この泥臭くもキラキラときらめく音楽には、「おしゃれさ」というよりも、どこか気品を感じるのだ。
高橋:泥臭いんだけど、なんか洗練されてることはされてるというか。天然でクリス・デイヴ的なビートを叩けるバンドが日本でも出てきていますけど(クリス・デイヴはD'Angeloのツアーメンバーとしても知られるドラマー)、結局俺たちはフィジカル的にもキャラ的にもできないんですよね。自分たちができることを提示し続けた結果、自ずと道が決まっていきました。
『WEEKEND SOUL BAND』収録曲高橋:結成最初期の歌モノの曲は、“TIME IS OVER”しかなかったんですよ。それも基本はインストだったし、<TIME IS OVER>って1フレーズだけを歌うみたいな曲で。でも、だんだんバンドの方向性が「歌モノかも」ってなっていくなかで、歌詞をつけていったんです。だからこそ1stアルバムではアフロビートとか、アンビエントっぽいこともやっていて。
ただ今回、アルバムとして流れがまとまったものを作りたい気持ちがあって、統一感を出す手段として、ソウルやディスコを全体の共通項にやってみようと思ったんです。自分たちはそういう芸風しかできないなと。そう気づいたことで歌詞も音も自然と決まっていきましたね。
自分たちの1つか2つ上のceroがカクバリズムに入ったのは衝撃的だった。(高橋)
felicity、カクバリズムと、名門レーベルからのリリースが続いていることに対して、「ただラッキーなだけ」と謙遜するが、レーベル代表の角張渉は、彼らの最初の7inchシングル『TIME IS OVER』(2014年)を「ウチで出したかった」と悔しがるほどだったそうだ。今回の移籍は、初期からバンドを見つめるディレクターの存在が大きかったようだが、彼ら自身にも、カクバリズムへの思い入れがあるという。
高橋:結成当時は今ほどシーンが明確にできていなかったんですよね。だけどceroがカクバリズムからデビューしたころくらいから、水面下で盛り上がっていたいわゆる「東京インディー」みたいなシーンが少しずつ郊外にいる僕らにも見えてきて。
それに、カクバリズムは僕らより上の世代のYOUR SONG IS GOODとかSAKEROCKとか、すごくかっこいい人たちが自由にやってるレーベルっていう印象が強かったので、自分たちの1つか2つ上のceroがそこに入ったのも衝撃的でしたね。
―ceroがカクバリズムから10inchシングル『21世紀の日照りの都に雨が降る』をリリースしたのは、2010年でした。
高橋:これは笑い話ですが、当時、「エキゾなテイストもいいよね、俺たちも手出す?」みたいな空気がバンド内にちょっとあったんです。だけどceroが出てきたときに、「俺ら、これやっちゃダメだ。今からやってもceroは越えられない」と。そういう話をしていた時期もありました。
松下:ceroの高城さん(高城晶平)は、当時の自主企画に出てくれたんですよ(2012年に開催した『ソウルピクニック』)。その頃、僕たちは年に2回しかライブやってない何者かもわからない感じだったのに。ありがたいなって思ったし、自分たちもそういうフラットな姿勢でいたいなと思いましたね。
仕事が終わっていなくても、お酒を飲んでいる間、踊っている間くらいはそのことを忘れて楽しもうよって。(松下)
カクバリズムへの移籍を経て、満を持して2ndアルバムをリリースした思い出野郎Aチーム。アルバムの全体像は『夜のすべて』というアルバムタイトルが示す通り、夜から朝にかけてのコンセプトアルバムになっている。
松下:いくつかの楽曲制作を重ねているなかで、「タイムカードを押して会社を出てから音楽を楽しんで朝になる」というコンセプトができてきました。高橋くんの歌詞が書きあがっていく過程で、そのコンセプトが一番相応しいのではないか、という話になったんです。
高橋:とはいってもコンセプトに寄せながら意識的に詞を書いたつもりはなくて、自然とそうなっていきました。僕は歌詞を書くのが遅いんですけど、“ダンスに間に合う”や“大切な朝”の歌詞ができたタイミングで、当初メンバー間で話題にあがっていた一連の流れに落ち着けるなと。
歌詞には、平日を仕事にいそしむ労働者の視点で「ダンスフロア」という場所への憧憬や想いを吐露する言葉が並んでいる。それは1stアルバムの楽曲“週末はソウルバンド”にも通ずる部分であるし、平日会社員として働きながら、土日に音楽活動をする現在のバンドとしてのスタンスや高橋の想いがわかりやすく投影されているようにも感じられた。
高橋:僕は別に人生経験が人と比べて豊富だというタイプではないんですよ。ライフスタイルもシンプルだし。だからある意味、自分が歌詞にできるネタは限られているんですけど、そもそも歌うべき大事なことって、そんなにたくさんはないと思うんです。
『WEEKEND SOUL BAND』収録曲高橋:テーマは少なくても、歌いようによって無限に表現できるだろうと思います。ジャンルは違いますけど、映画監督のアキ・カウリスマキ(フィンランドの映画監督)なんかも、ほとんど同じようなテーマを一生懸命いろいろな形で表現しようとしていると感じていて。そういう作家が好きというのもありますね。
松下:ソウルミュージックって心も身体も自然と踊る音楽なのに、情けないことを歌っていて、その感覚が彼の歌にはあると思うんですよ。情けなさもかっこいいというか、女々しい歌が歌えるセクシーさってあると思うんですよね。日本でいうと、忌野清志郎さんがそれにあたると自分は認識しているんですけど、そういうフィーリングがあるのもいいなと。
―今作でいうと、“ダンスに間に合う”は働きながら音楽をやっている人たちにしか書けない曲ですよね。
松下:そうですね。“ダンスに間に合う”って、ダンスにしか間に合っていない状態というか(笑)。要するに仕事が終わっていなくても、お酒を飲んでいる間、踊っている間くらいはそのことを忘れて楽しもうよってことなんですよね。やっぱり踊ってるほうが大事だよねって。
『夜のすべて』収録曲松下:この曲にある<何も持ってなくても 失くしてばかりでも>って歌詞は、ダンスフロアで音楽に触れているその瞬間はすべてが肯定されているということなんだと思うんです。こういう言葉が出てきたのは、きっと本当になにも持っていないからで、かっこ悪いことをそのまま歌にしているだけなんですよね。
だから、かっこいい曲が好きな人たちには響かないかもしれない。でもきっと、こういう曲にしか救われない人たちが一定層いるんじゃないかと思うんですよ。月9のドラマを見て「リアリティーがない」とか「自分には関係ない」と思う、僕らのような人間に共感してくれる人もいるはず。そこにきちんと届けることができたらいいなと思うんです。
小さなハコのダンスフロアという空間で、毎晩のように数ミリ単位の奇跡が同時多発的に起きている。(高橋)
「国籍も、性別も、言語も、人種も、年収も、信仰も、ダンスフロアでは関係ない。」。『夜のすべて』のジャケットに掲げられているこの言葉には、彼らがダンスフロアに託す想いが表れている。
“フラットなフロア”にある<スポットライトに照らされて 僕らの肌はまだら模様><つまずくような段差はない>といった示唆的な歌詞がまさにそうだ。さらに、“Magic Number”の<ダサいレイシストが寝てる間に 軽やかなステップ 恋人たちは踊る>という一節のように、社会を風刺する言葉がさらりと並んでいるのも印象的。
高橋:自分をカメラに見立てて身の回りのことを映したときにどう映るか、ということが自然と歌詞になっていると思います。そういう自分の生活とか身の回りのことを書いているがゆえに、世の中や政治状況がきな臭くなったり、社会の不穏なムードを感じたりしたら、それは当然歌にも響いてくる。そういうことは、フィクショナルに文学的な歌詞を書く人よりも先に、自分たちみたいな直裁的な言葉を連ねるバンドが書いていないと嘘になってしまう気がするんです。
それと同時に、楽曲全体を通じて、クラブやダンスフロアという場所に対する「祈り」のような気持ちや、現場で起きる魔法的な感覚を信じているようなフレーズも散見される。「クラブ」という場に対して、どのような想いがあるのだろうか。
高橋:自分たちはもはやクラブに行きすぎていて、そのことが現実逃避なのかすらわからないですね(笑)。ただ確実に言えるのは、クラブは日常から地続きにあるものだということ。
音楽の奇跡っていうのは、スタジアム級のバンドのステージで起きるものだと思われてるかもしれないけど、小さなハコのダンスフロアという空間で、数ミリ単位の奇跡が毎晩のように同時多発的に起きているんだなぁと思うんですよね。たとえば、クラブでDJが針を落とした瞬間に周りの景色がバッと変わって、その瞬間に結ばれる2人がいたり、そういうロマンがグッと凝縮されている空間というか。
松下:それぞれが音楽を自由に聴いてたり、女の子を口説いていたり、静かにお酒を飲んでいたり。誰にもなにを縛られることなく楽しんでいること自体が奇跡に近いなって思うんですよ。
高橋:ともすればそういう人が集まる場は全体主義的なムードに陥りそうなものだけど、クラブって決してそんなふうにはならないんですよね。フロアや音楽が鳴っている場所になにかを託すわけではないけど、世の中がゆとりや寛容さをなくすのであれば、より必要になる場所だろうなとは思います。それに、文化が残るときに絶対必要な場所だとも思うんですよ。SNSの時代なのに、ここでしか会えない人がいて、みんなが自由にその場を謳歌できる場所ですよね。
松下:本名を知らないけど、あだ名で呼んでるみたいなね。当たり前っちゃ当たり前なんですけど、わざわざそのことを歌にしないといけない時代に対する危機感はあります。どんな国の誰が歌ってるかも知らない曲で「いいな」って思える、そういう多様性が認められる環境が大事だと思っていて。「なにも強要されない場所」があるということ自体を守りたいという気持ちは強くある。
高橋:でも僕らに、戦う意識とか使命感があるわけではないんです。世の中が悪化しても僕らは変わらずクラブに行くし、もしそれで世の中と対立することになるなら対立するだろうなと思う。“フラットなフロア”を書いてるときには、そういうことを考えていました。
音楽の力がどうとか、クラブを守りたいというよりは、好きな場所があって、好きなことを僕らは続けますという気持ちがあるだけなんです。ただ、その「続ける」という行為と右傾化しつつある世の中は、今後対立することになるかもしれないなと。そういう予感が以前より強くなってます。
音楽と相思相愛であれたらいい。僕らがバンドを通じてやりたいことは、それだけなのかもしれない。(松下)
では、ダンスフロアのロマンスと憧憬を詰め込んだ楽曲たちはどのようにして生まれてきたのだろうか。前作から2年半の間、ライブへの出演やスタジオでのセッションを続けていたというが、新しい楽曲ができたのは半年前にアルバムを出す流れが生まれてからだという。
「バンドとして目指すものはなにか?」と方向性を話しあった際、キーワードとなったのは「モダンソウル」だったそうだ。そこからThe O'Jaysやリー・フィールズ、そしてニューヨークの「Daptone Records」に所属するアーティストたちを参照点とし、急ピッチで制作は進んでいった。
松下:Daptone Recordsのアーティストたちはヒップホップを通過した上でソウルの解釈があるから、ビンテージサウンドのなかにも新しさがあるんです。懐古主義として彼らの音がいいというわけではなくて、今聴いて新鮮な魅力を感じることができるし、そういう表現を自分たちもできたらいいなと意見が一致しました。
高橋:曲作りのセッションは、「こういう曲を作ろう」みたいな憧れの1曲をみんなに共有してからを始めました。まず元ネタになるような音楽に近いセッションから始まって、ある程度曲として固まった後に、それをアルバムに取り入れるなら、という視点で計算し直す作業を繰り返す。そういうブラッシュアップを重ねて、曲を完成させていきました。
思い出野郎Aチーム『夜のすべて』ジャケット(Amazonで見る)
メンバーそれぞれが別の仕事をしながら、音楽活動を続けているという思い出野郎Aチーム。バンドとして、これからどのような立ち位置を目指していくのだろうか。
高橋:「のし上がってやろう」っていう話をみんなとすることはないですね。環境がよりよくなれば、音楽にかけられる時間は増して音楽がより純化していくだろうと思うんですけど、それは僕らにとってボーナスポイントでしかなくて。現状が改善していくかもしれないし、変わらないかもしれない。僕らはどちらにせよ、音楽を続けていると思います。
松下:個人的な話ですけど、この前、Tiger Discoという韓国のレジェンド的なDJを観に行ったんです。そのときのプレイが、これまで観てきたDJのプレイのなかでも歴代トップクラスに衝撃的で。感覚的な言い回しですけど、この人は「音楽を愛していて、同時に愛されている人だ」と思ったんです。その瞬間に僕らも音楽に愛される人でありたいと思ったし、僕らがバンドを通じてやりたいことは、それだけなのかもしれないなと。
高橋:まあでも、障害があったほうが燃えるパターンもあるかもしれないけど(笑)。
松下:だから、なるようになるって感じですね(笑)。売れて音楽だけで食えるようになることと、働きながら好きな音楽をやること、どっちがいいかはやってみなきゃわからないし。いずれにしても音楽と相思相愛であれたらいいなと思いますね。
- リリース情報
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- 思い出野郎Aチーム
『夜のすべて』(CD) -
2017年8月23日(水)発売
価格:2,700円(税込)
DDCK-10511. ダンスに間に合う
2. アホな友達
3. 夜のすべて
4. 生活リズム
5. 早退
6. フラットなフロア
7. Magic Number
8. 彼女のダンス
9. 大切な朝
10. 月曜日
- 思い出野郎Aチーム
- プロフィール
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- 思い出野郎Aチーム (おもいでやろうえーちーむ)
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2009年・夏、多摩美術大学にて結成。ファンク、ソウル、レゲエ、ディスコ、アフリカンミュージック、パンク、飲酒を織り交ぜたスタイルで活動中。『FUJI ROCK FESTIVAL』、『Sunset Live』、『カクバリズムの夏祭り』など、数多くのフェス、イベントに出演。また、メンバーは、VIDEOTAPEMUSIC、Y.I.M.、G.Rinaなどのミュージシャンのライブサポート、レコーディングへの参加など、多岐にわたって精力的な活動をしている。2015年、mabanuaプロデュースによる1stアルバム『WEEKEND SOUL BAND』をリリース。2017年6月には台湾のレーベル、2manysoundより7インチシングル『タイワンド』を、カクバリズムより7インチシングル『ダンスに間に合う』をリリース。8月には2ndアルバム『夜のすべて』をリリースした。
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