5月7日、LOSTAGEの五味岳久が自らのブログでニューアルバム『In Dreams』のリリース方法を発表した。詳しくは実際に彼の文章を読んでほしいが、ポイントを要約すると、今回の作品は流通を外部に委託せず、ライブ会場と、彼が店長を務める「THROAT RECORDS」の実店舗、およびそのオンラインショップのみでCDを販売。また、関係者に配られるサンプル盤や、先行で公開されるミュージックビデオなども一切作らず、実際に作品を手にして聴くまで、その内容は一切わからないという状況をあえて作り上げた。
その約1か月後の6月2日、サニーデイ・サービスがニューアルバム『Popcorn Ballads』の完成を報告し、その日からApple MusicとSpotifyでのストリーミング配信が開始。さらに、リリースを記念して期間限定のポップアップショップがオープンし、リリックポスターの配布や限定マーチャンダイズが販売され、DJイベントも開催された。海外では著名なアーティストが同様のリリース方法をとるケースが増えつつあるが、まだストリーミングサービスが浸透し切ったとは言えない日本において、彼らほどの知名度があるバンドがこの方法を採用することは異例の出来事であり、大きな話題となった。
両バンドのリリース方法は好対照ではあるものの、曽我部恵一と五味岳久はともにパンクの影響を色濃く受け、自らレーベルを運営し、何より音楽にドキドキを求め、自由を希求しているという点において、その目線は非常に近いと言っていいだろう。業界のシステムが刻一刻と変化していくなかで、この国における音楽文化はどこに向かうのか? この二人の対談は、それを紐解く上での貴重なテキストになったように思う。
枚数はちょっと落ちるかもしれないけど、自分たちだけで一度やったらどうなるのかっていう、実験でもある。(五味)
―今日は五味さんに『In Dreams』をオンラインショップで買った人と同じパッケージで持ってきていただきました。
五味:今回は、ライブ会場と自分のレコード屋、あとお店のオンラインショップだけで売ってるんですけど、通販のときはこの箱に入れて、一筆添えて送ってて。
曽我部:俺もレーベルを立ち上げたときは一筆書いてましたよ。Amazonでも頼めるものを、自分らで売るにあたってどう差別化できるかを考えたら、本人が一筆書くしかないってところに行き着いたんです。だから、一時期は毎日のようにちょっとしたイラストとメッセージ書いてました。こういうふうに届くのは、「アートがそのままやってくる」みたいでいいですよね。
左から:曽我部恵一(サニーデイ・サービス)、五味岳久(LOSTAGE)。五味から曽我部にLOSTAGEの『In Dreams』が手渡された
五味:そのときの反応はどうでしたか?
曽我部:当時はいまみたいにソーシャルが発達してなくて、BBS(電子掲示板)の書き込みを見るぐらいだったから、よくわかんなかったんだよね。それに、イラストやメッセージにばっかり時間を取られちゃうのはよくないから、数年で終わりにしちゃったんです。
五味:僕、いまのところ1200枚分の手紙を書いたんですけど、正直こんなにオーダーが来ると予想してなくて、これを続けるのはちょっと無理そうやなって思い始めてるところです。ツアーに出てからも、オーダーがどんどん来てるので、帰ったら発送作業をやるんですけど、この状態で活動を続けるのはちょっと難しいなって、やってみて思いました。
―そもそも、今回流通を通さずに、手売りのみでやってみようと思ったのはなぜだったのでしょうか?
五味:これまでは、メジャーや大きめのインディーレーベルのやり方をなぞってやってたんですけど、流通を通すと売り値の40~50%を持っていかれるので、いまの売り上げ枚数だとメンバーの生活に無理が出るなと。劇的に枚数を増やすのは現実的じゃないから、いま僕らを応援してくれてる人に確実に届けつつ、自分たちの生活をよりよくする方法を考えたとき、最初にいらんなって思ったのが流通だったんです。
曽我部:お店に入れたら、さらに下がるもんね。
五味:そうなんです。なので、枚数はちょっと落ちるかもしれないけど、自分たちだけで一度やったらどうなるのかっていう、実験でもあるんです。ブログに「こういうふうに出します」ってステートメントを書いたとき、「次のリリースは配信だけっていうのもありかな」ってなんとなく考えてたんですけど、そしたらサニーデイ・サービス(以下、サニーデイ)が配信限定で出したから、「さすがやな」と。
五味のステートメントはこちらより(ブログを読む)
曽我部:発想としては同じだと思う。「実験」というか、僕らは自分がレーベルの代表だから、しがらみがないじゃない? いろいろな方法論があるなかで、今日決めたことを明日やれるので、「じゃあ、やってみようか」っていうだけ。でも、もう1000枚以上注文が来てるってことは、これまでより成績いいんじゃない?
五味:そうですね。初動はかなりの勢いです。ここで成功と言っていいのかはわかんないですけど、手応えはめちゃくちゃあります。
曽我部:「お店に卸す」ってことは「売らせてもらう」わけだから、お店にお金を支払わなきゃいけない。それって当たり前の話とはいえ、すごく悩ましいところなんですよ。
五味くんの話を聞いて、「じゃあ、自分たちで頑張って手売りしようか」って気持ちがみなさん芽生えるかもしれないんですけど、応援してくれてたり、お世話になっているお店もあるわけで。お店の試聴機で聴いて、買ってくださったお客さんがいっぱいいるのは事実だから、すごく感謝もしているんですよね。
五味:それはめちゃくちゃ思いました。
曽我部:なので、「どれが正しいやり方」っていうのはないと思うんです。お店で売るのも大事だし、手売りでお客さんに直接売るのも、YouTubeやストリーミングサービスで聴いてもらうのも大事。実際手元に残るお金はそれぞれ違うけど、やってる側からするとどれで聴いてもらってもいいんです。どんな方法でもとにかく聴いてくれて、感動したり、かっこいいと思ってくれたら、本当はそれだけでいいんですよ。
久々に「新しい音楽の聴き方」に出会った感じがした。(曽我部)
―サニーデイが新作をストリーミングで発表しようと思ったのは、何かきっかけがあったのでしょうか?
曽我部:僕は去年、フランク・オーシャンがストリーミングでアルバム(『Blonde』)を出したときに、初めてストリーミングサービスで音楽を聴いたんです。そのときに、商品を買って聴くのとは全然違う、「シェア」って感じがすごくいいなと思って。クラウドにデータがあって、そこにみんながアクセスするのって、すごくワクワクするし、ドキドキするから、「これは絶対自分でもやってみたい」と思ったんですよね。
五味:でも曽我部さん、レコードもめっちゃ買いますよね?
曽我部:もちろん、レコードを聴くのも大好き。でも、それとは全然違って、久々に「新しい音楽の聴き方」に出会った感じがしたんだよね。貸レコード屋さんに初めて行ったときがこんな感覚だったなって。それまでは2800円くらいのレコードをギリギリまで悩んで買ってたんだけど、貸レコード屋さんに行けば全部300円で借りられるから、何かが開いたような感じで、めっちゃ借りまくった。ストリーミングサービスもそれに近いかな。
曽我部からはお返しに、サニーデイ・サービスの『DANCE TO YOU』(2016年)のレコードが手渡された
曽我部:僕からすると、レコードのほうが便利なんです。レコードは目をつむりながらでも針を置いてボリュームも調節できるくらいだから、ストリーミングで聴くために画面を見て検索するほうがめんどくさい。でも、それが逆によくて。すっかり慣れちゃった聴き方から、一歩踏み出して外に出てみることで、風通しがよくなったんです。それが僕のストリーミングサービスを使ってみての印象でした。
五味:使い始めてからもレコード屋には行くんですか?
曽我部:いままでと何にも変わらないですよ。やっぱり、別物ですからね。
五味くんを見てて思うのは、すごく疑り深くて、自分でやってみないと絶対信じないってこと。僕も同じなんです。(曽我部)
―LOSTAGEの新作は配信もしないんですよね。
五味:いままではCDやレコードで出して、配信もやって、聴きたい人が聴きたいフォーマットで聴けるのがいいと思ってたんです。でもちょっと音楽の聴き方を制限して、アルバムだったら「作品単位で聴いてください」みたいにこっちの意図をわかりやすくしたくて。それに配信するにも利用料がかかるから、それだとCDを流通するのと同じようなものだなと。
感覚としては、デモCDとかデモテープを作っていたときのノリに戻るって感じなんです。当時はお客さんにライブ会場で手売りして、流通もなかったし、配信もなかった。それをもう一度やってみて、その上で、これからどうするかを考えようと思っています。
―曽我部さんにとってのフランク・オーシャンのように、何かインスピレーション源となるアーティストはいましたか?
五味:FUGAZI(1980年代後半から活動を続ける、アメリカのハードコアシーンの中心的バンド)のイアン・マッケイが出演している『AMERICAN HARDCORE』(2006年)っていうドキュメンタリー映画のなかに、レコードのジャケットの折り方を説明するシーンがあるんですよ。
曽我部:「1000枚だったら余裕だ」ってやつだよね?
五味:そうそう! あれを見たときに、めっちゃめんどくさいだろうけど、「あんなん言うのかっこいいな」って思ったんです。1回やったら、「俺、1200枚手紙書いた」って、かっこつけられるじゃないですか? そういう「かっこつけたい」みたいな気持ちとか憧れもあったし、もともとDIYなやり方の人たちが好きだったんで、そこもきっかけとしてありました。
曽我部:あの発言に集約されてるよね。印刷屋さんに頼むと高いからって、7インチのジャケットを分解して、「この型紙をみんなで切り貼りしたら、ジャケできるんじゃん?」って。普通だったら「1000枚か……やっぱり頼もう」ってなるところを「1000枚か、余裕だね」って言えるのはかっこいいよね。LOS CRUDOS(1990年代から活動するアメリカのハードコアバンド)がプリントしたTシャツを裏庭にめっちゃ干してるシーンとかもいいし。
曽我部:五味くんを見てて思うのは、すごく疑り深くて、自分でやってみないと絶対信じないってこと。でもそれって、真実を掴むやり方だと思うし、僕も同じなんです。別に自慢できるようなことじゃないけど、何でもとりあえずやってみないと納得がいかない。レコード屋さんもレーベルもやって、今回また唯一無二の形でお客さんとつながろうとしてる姿を見ると、すごくシンパシーを感じるし、自分ももっと頑張りたいなって思う。
五味:それは本当にそうで、めちゃくちゃ疑り深いと自分でも思います。ツアーのマネジメントにしろ、Tシャツをプリントする業者にしろ、「本当に必要? 自分でやれるならいらないし」って考えますから。何でもそうですけど、結局自分でやってみないとわからないので、いまはそれを一つひとつ確かめてる段階なのかもしれないです。
僕、正直ちょっと怖かったんです。「何でも聴ける」って状態に自分がなったら、もうレコード買いに行かなくなるんちゃうかなって。(五味)
―五味さんはストリーミングサービスに対してはどんな印象をお持ちですか?
五味:いままでストリーミングサービスは使ったことなくて、今回サニーデイのアルバムを聴くために初めて登録したんです。「俺、好きじゃないな」って思ったら解約すればいいと思ったんですけど、聴こうと思ったときにすぐ聴けるのってやっぱり便利やし、これのよさも間違いなくあるなって……。
五味:ただ僕、正直ちょっと怖かったんです。「何でも聴ける」って状態に自分がなったら、もうレコード買いに行かなくなるんちゃうかなって。でもそうじゃなくて、ストリーミングで聴いて、欲しいと思ったら買いに行くんだろうなって、うっすら感じ始めていて。
曽我部:やっぱり「聴けりゃいい」じゃないんだよね。でもストリーミングには「みんなでシェアしよう」って感覚がプラスアルファとしてあって、それがすごくいいなって思う。宣伝力とか、知名度とか、そういうことは関係なくて、ここにアップしたら世界中の誰でも聴けるっていうのは、すごく清いですよね。
音楽を聴くドキドキ感がなくなってきたのが大きいんです。「昔、俺が好きやった聴き方と違うぞ」って。(五味)
―LOSTAGEは今回「宣伝広告にお金を使わない」ということも決めているそうですね。
曽我部:まあ、僕らも「ストリーミングのみで突然出す」という発売方法自体が宣伝みたいなところもあるし、LOSTAGEも今回みたいな出し方をすることで、確実に宣伝になってるわけじゃないですか。つまり、いままで通りの宣伝をするか、もっと賢い宣伝をするかっていう違いだと思う。
五味:どこかの媒体にお金を払って、人に知ってもらうきっかけを作るのは当たり前だと思うんですけど、お金を払わんでも、それ以上のことができる可能性があると思うんです。宣伝にお金を使うことが悪って考えているわけではなくて。ただ、「お金なくてもやれるな」って感覚があったんですよね。
―ミュージックビデオも作らないという方針でしたが、現在YouTubeには非公式のビデオが上がっていますよね。五味さんも登場されていますけど、あれはどういった経緯で作られたのでしょうか?
五味:CDを開けたときが誰にとっても最初に音を聴く瞬間にしたかったから、試聴もできない、サンプル盤も作らない、ミュージックビデオも作らないって決めていたんです。でもCDを出したあとに、8ottoのベースのやつ(TORA)が「MV作りたいねんけど」って言ってきたんで、友達だし、「勝手に作ったら」って。
五味:これを見た人が、「じゃあ、私も作ろう」って別の曲で作ったっていい。買ってくれたものは、あとは自由に使ってくれていいんで、誰かが勝手にカバーしてもいいし、何やってもいいと思ってます。もしかしたら不具合がどっかで出るのかもしれないけど、そうなったらそのとき考えればいいかなと。
曽我部:今回僕らもサンプル盤は一切作ってなくて、それは業界の人もファンの人も、みんながびっくりすることをやりたかったからなんです。最近、告知なしでいきなりお店にCDが置かれることがあるじゃないですか?
五味:Hi-STANDARDがやりましたよね(2016年10月にリリースされた『ANOTHER STARTING LINE』は事前に告知を一切行わなかった)。
曽我部:でも、あのやり方ってお店の人は先に知ることになるじゃない? それって、お店の人が可哀想だなと。今回はみんなに同じように驚いてほしかったから、本当に内々のスタッフしかリリースの情報を知らなかったんです。
サニーデイ・サービス『Popcorn Ballads』ジャケット(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く)
五味:僕らも、お客さんにも内側で自分たちをサポートしてくれる人たちにも、同じような感覚で聴いてもらいたいと思ってましたね。
曽我部:五味くんも僕も結局エンターテイナーなんですよ。楽しませたいんだよね。生活者としての意見もあるけど、それよりもまずエンターテイナーで、「もうこんなやり方はみんな飽きたでしょ?」みたいなさ。
五味:自分もそうですけど、音楽を聴くドキドキ感がなくなってきたのが大きいんですよね。YouTubeで聴いて、よかったらレコードで買うみたいな、「聴いて、買う」っていう当たり前の流れにドキドキしなくなってきてた。「昔、俺が好きやった聴き方と違うぞ」って。じゃあ、あの頃の感じでみんなに聴いてもらうにはどうすればいいんやろうって考えると、「何もわからん状態で、初めて聴く」という状態を作るしかないと思ったんですよね。
―やっぱり、根底にある発想は同じなんですね。
曽我部:うん、驚かせたいんですよ。子どもみたいな発想なんです(笑)。
答えなんてないんだから、それぞれが実験をして、それぞれのやり方を掴んで行ったらいいんだと思います。(曽我部)
―僕が今回のLOSTAGEのリリース方法を知って、パッと連想したのがクラムボンで、彼らも昨年から流通を通さずに、ライブ会場での手売りをスタートさせました。近年各アーティストがそれぞれのやり方を模索し始めているのは間違いないと思うんですよね(参考記事:クラムボンが一歩踏み出して話す、アーティストの「お金」の話)。
曽我部:答えなんてないんだから、それぞれが実験をして、それぞれのやり方を掴んでいったらいいんだと思います。アメリカのハードコアが始まった1980年代初頭もめちゃくちゃだったけど、それを何十年もやってきたっていうのが、いまのアメリカのオルタナティブの、商業ベースじゃない音楽の強さだと思うんです。
―ローカルのネットワークや、ファンコミュニティーの強さですよね。
曽我部:そうそう。だから、いまから日本もみんなで実験し合って、「このやり方よかったよ」「あそこの店ライブできるよ」っていうふうにいろいろ始まっていくのかなと。そうすれば、僕らみたいにテレビでたくさん宣伝するわけじゃない音楽も、文化として残っていくと思う。
―五味さんは実際に手売りを始めて、何か気づきってありましたか?
五味:最初に曽我部さんが「昔は反応がわからなかった」っておっしゃってましたけど、いまは届いたら、「届いた!」って写真がネットに上がるわけじゃないですか?
曽我部:これはInstagramとかにのっけたいもんね。
五味:だいたい同じ構図なんですけど(笑)、でもそうやって反応がダイレクトに返ってくるのって、めちゃくちゃうれしいんですよね。
LOSTAGE『In Dreams』ジャケット(オンラインショップで購入する)
五味:正直しんどいから、次は別のやり方にしようと思ってたけど、このやり方を気に入ってしまって。この形でつながっていって、ライブの動員も増えたら、バンドだけで食っていけるかもって思ったりするんです。
曽我部:何枚くらいのセールスをキープすれば食っていけるのかって、自分たちでバンド運営してる人ならみんな考えると思うんだけど、LOSTAGEのいまのやり方だと、5000~6000枚売れれば、余裕で全員食えるよね? バイトもせず、赤貧じゃなく、家族がいてもちゃんと暮らせる。
五味:そうですね。1~2年に1枚アルバム出して、それでツアーもやれば。「上京して、売れたいです」って言う、自分たちより若いガツガツしたバンドに、「じゃあ、何枚売りたいの?」って訊くと、具体的な数字は出てこなかったりするんですよね。彼らには漠然とした「売れる」っていうイメージしかない。
若いときはしょうがないとも思うけど、もうちょっと具体的に「これくらい売って、お金をこれくらい集めて、次の制作にいくら回して、自分たちの暮らしにいくら回す」とか、そういうことをちゃんと考えると、僕らは10万枚とかって数字は必要ないんです。まあ、「じゃあ、そこを目指す」って言ってしまうと、それはそれで夢がないかなとも思うんですけどね。
曽我部:でも、日々遊んで暮らして、その上で好きなことやるっていうのが夢じゃない? 5000~6000枚売ることで、「全然余裕っすよ」って誰かが言ってくれたら、みんながみんな「とりあえず武道館」「とりあえずMステ」じゃなくなるから、それはすごく大事だと思う。
曽我部:FUGAZIのドキュメンタリーで、ライブやったあとにイアン・マッケイが札束を数えるシーンがあるんです。日本のバンドは「お金の話と音楽やライブの話は分けたい」って気持ちがあるのかもしれないけど、一生懸命汗だくになってやったライブに対して、みんながお金を払ってくれて、それを山分けして、また次の街に行くってだけの話で。あれはすごくいいシーンだなって思うんですよね。
タダで聴く人がいてもいいし、お金を払ってくれる人はありがたいし、YouTubeで見てくれる人のために面白い映像作ろうと思うし、本当に何でもいい。(曽我部)
―海外ではもうストリーミングサービスが主流になっているのに対して、日本ではまだCDのマーケットが根強く残っているという違いがあるわけじゃないですか? その状況については何か思うところはありますか?
曽我部:「この音楽の聴かれ方がベスト」とか「こうあるべき」っていうのは全然ないです。中古盤屋で5万円とか出してレコード買っている立場から「こうあるべき」なんてとても言えないし、何でもいいと思います。タダで聴く人がいてもいいし、お金を払ってくれる人はありがたいし、YouTubeで見てくれる人のために面白い映像作ろうと思うし、本当に何でもいい。「ライブがいい」って人もいて欲しいですしね。
―「これしかない」になってしまうとよくないけど、バリエーションがあって、主体的に選べる状況はいいですよね。
曽我部:そう。今回のリリースにしても、「このやり方よくない? 楽しいでしょ?」って言いたかっただけで、「これが答えです」「未来のあり方なんです」って言うつもりは毛頭ないんです。みんながそれぞれのやり方でできるっていうのがいまのあり方で、選択肢は多ければ多い方がいいと思う。いろんな聴き方があって、制約なく楽しめる。それが一番いいと思います。
五味:いま話を聞きながら思ったんですけど、僕は中古レコード屋をやってて、中古のレコードって、「レアだから」とか「状態がいいから」って理由で高いこともあれば、ゴミみたいな値段なのに内容がめちゃくちゃいいってこともあるじゃないですか? そうやって普段から作品の価値を考えてる立場からすると、結局のところ音楽は音楽でしかないんですよね。だから、「いい音楽を作る」ってことだけ決めて、それ以外は何でもやってみたいなって思う。
―音楽の価値という話でいうと、先日Amazonで1円で売られていたLOSTAGEのCDを五味さん自身が買い占めたそうですね。
五味:だって「自分の音楽は1円じゃない」と思いたいじゃないですか? Amazonには結構CDが1円で出てるんですけど、「1円なわけないやろ!」って思って買ったら、買っても買っても出品されたものが出てきて。
五味:音楽って、タダでも聴けるし、アルバム1枚3000円にもなるし、要は言い値じゃないですか? だから、1円って言われたら1円になってしまう。でも、自分は1円だと思って作ってないから、俺が何とかするしかないと思って、全部買い占めたんです。
曽我部:単純に腹が立ったと(笑)。
五味:ちょうど発送で忙しかったから、イライラしてたっていうのもあるんですけどね(笑)。そういうこともあるから、やっぱり音楽の価値とか対価については、いつも考えてます。ライブのチケット代もそうですけど、買う人にとって適正な価格かどうかってすごく大事やなと思う。
曽我部:バンドの人が決めてくれると、ファンの人もうれしいんじゃないかな。バンド側が「俺らはいくら」って決めてくれたら、それが高いことも安いこともメッセージになるし、それってすごく大事だと思う。メジャーカンパニーは価格が横並びであることが重要だけど、値づけするって大事なことだから、僕らは「こうだから、この値段」ってことをずっとやっていきたいですね。
五味:クラウドファンディングとかを見てると、そんなに有名じゃないバンドでも、ちゃんとお金が集まったりするじゃないですか? ああいうのを見ると、音楽を作ってる人をちゃんとお金でサポートしたいって気持ちはみんなまだまだ持っていて、「CD1枚3000円」みたいに決められた時代はもう終わったんだなって思います。「これがいくらなのか」って、いまはリスナーのほうがちゃんと考えてるんじゃないかな。
一番大事なのは、自由に活動しているんだってことだと思うんです。(曽我部)
―今日はいろいろと話していただいて、リリースの方法こそ全く違えども、根底には通じる部分があるということが浮き彫りになったように思います。最後に改めて、今後どういった部分を大事に自分たちの作品を届けていきたいと考えているか、それぞれ話していただけますか?
五味:入れ物が違うだけでなかに入ってるものは一緒なので、そこからは目をそらさないようにしてほしいです。それをちゃんと見てくれたら、それが何に入っていても、何でもいい。「リリース方法が面白い」で興味を持ってもらうのもありがたいけど、やっぱり音楽そのものが大事なんだっていうのは、これまでももちろんそうだったし、この先も変わらないので。
曽我部:一番大事なのは、自由に活動しているんだってことだと思うんです。僕らは大きな組織が作ったシステムの上でやってるんじゃなくて、自由にやって、「どう? いいでしょ?」ってところをみんなに伝えたいだけ。それが「Dischord Records」(イアン・マッケイらが運営するレコードレーベル)からもらったものでもあるし、それがエンターテイメントなんですよ。
「好きなことやったらいいんだよ」ってことを身を以って見せてくれる、それがすごく大事。どれが正解なんて絶対ないんだから、好きなことをやればいい。トライして失敗したら、別のやり方でやればいいし。そういう姿勢のやつらがいっぱいいることが大事だと思うから、自分も死ぬまで自由でいたいと思います。
- リリース情報
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- サニーデイ・サービス
『Popcorn Ballads』 -
2017年6月2日(金)からApple Music、Spotifyで配信
1. 青い戦車
2. 街角のファンク feat. C.O.S.A. & KID FRESINO
3. 泡アワー
4. 炭酸xyz
5. 東京市憂愁(トーキョーシティブルース)
6. きみは今日、空港で。
7. 花火
8. Tシャツ
9. クリスマス
10. 金星
11. heart&soul
12. 流れ星
13. すべての若き動物たち
14. summer baby
15. 恋人の歌
16. ハニー
17. クジラ
18. 虹の外
19. ポップコーン・バラッド
20. 透明でも透明じゃなくても
21. サマー・レイン
22. popcorn run out groove
- サニーデイ・サービス
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- LOSTAGE
『In Dreams』(CD) -
2017年6月9日(金)よりLOSTAGEライブ会場、THROAT RECORDS店頭、THROAT RECORDS ONLINE SHOPのみで販売
価格:2,600円(税込)
THC-0111. さよならおもいでよ
2. ガス
3. 窓
4. ポケットの中で
5. REM
6. 泡沫の
7. 戦争
8. I told.
9. 僕のものになれ
10. Shoeshine Man
- LOSTAGE
- イベント情報
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- サニーデイ・サービス
『サニーデイ・サービス サマーライブ 2017』 -
2017年8月27日(日)
会場:東京都 日比谷野外大音楽堂
出演:サニーデイ・サービス
料金:5,000円
- LOSTAGE
『LOSTAGE In Dreams TOUR』 -
2017年8月12日(土)
会場:香川県 高松 TOONICE2017年8月13日(日)
会場:高知県 X-pt.2017年8月18日(金)
会場:福岡県 UTERO2017年8月19日(土)
会場:広島県 4.142017年9月2日(土)
会場:愛知県 名古屋 HUCK FINN2017年9月22日(金)
会場:大阪府 十三 FANDANGO2017年10月5日(木)
会場:京都府 MUSE2017年11月10日(金)
会場:東京都 吉祥寺 WARP2017年11月23日(木)
会場:神奈川県 F.A.D YOKOHAMA2017年12月16日(土)
会場:北海道 札幌 KLUB COUNTER ACTION2018年1月27日(土)
会場:沖縄県 OUTPUT
- サニーデイ・サービス
- プロフィール
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- サニーデイ・サービス
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曽我部恵一(Vo,Gt)、田中貴(Ba)、丸山晴茂(Dr)からなるロックバンド。1994年メジャーデビュー。1995年に1stアルバム『若者たち』をリリース。以来、「街」という地平を舞台に、そこに佇む恋人たちや若者たちの物語を透明なメロディーで鮮やかに描きだしてきた。その唯一無二の存在感で多くのリスナーを魅了し、90年代を代表するバンドの1つとして、今なお、リスナーのみならず多くのミュージシャンにも影響を与えている。7枚のアルバムと14枚のシングルを世に送り出し、2000年に惜しまれつつも解散。2008年に再結成を果たして以降は、アルバム『本日は晴天なり』『Sunny』をリリース。2016年8月3日には通算10枚目のアルバム『DANCE TO YOU』を発売し、現在もロングセラー作品となっている。この作品からは、全曲のインストバージョンを収録したアルバム『透明 DANCE TO YOU』をカセットテープで、気鋭のクリエイターたちが全曲をそれぞれリミックスした『DANCE TO YOU REMIX』を2枚組アナログ盤でもリリースしている。2017年6月2日、事前告知なしでニューアルバム『Popcorn Ballads』を配信限定でリリースした。
- LOSTAGE (ろすとえいじ)
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2001年秋に奈良で結成された日本のロックバンド。奈良や大阪を中心にライブ活動を開始。2004年7月、UK PROJECT内にレーベル「qoop music」を立ち上げ、ミニアルバム『P.S. I miss you』を発表。2007年7月、アルバム『DRAMA』でメジャーデビュー。2010年から五味岳久(Vo,Ba)、五味拓人(Gt)、岩城智和(Dr)による3ピースバンドとして活動するとともに、バンド表記を大文字の「LOSTAGE」へと変更。同年6月に4thアルバム『LOSTAGE』を発表し、『ECHOES』(2012年)、『Guitar』(2014年)とアルバムリリースを重ねる。2017年6月より、7枚目となるフルアルバム『In Dreams』を、ライブ会場と五味岳久が店長を務めるレコードショップ「THROAT RECORDS」店頭およびオンラインストア限定で販売している。
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