現地に住むキュレーターがその街のカルチャースポットを紹介するクリエイティブシティガイド『HereNow』と連動して、人気モデルの村田倫子さんが同ガイドのスポットを巡り、東京のカルチャーを学ぶ連載『村田倫子が学ぶ東京カルチャー』。
第3回目は、バーラウンジ併設型ゲストハウスの先駆けと言われるNui.をはじめ、toco.、Lenを経営する株式会社バックパッカーズジャパン代表取締役の本間貴裕さんに、この春日本橋にオープンさせたばかりのホステル&バー「CITAN」でお話しを伺いました。
「あらゆる境界を越えて、人々が集える場所を」を理念に掲げ、今まで日本でほとんど見かけることのなかったバーラウンジ+ゲストハウスの形を成功させた彼ら。自らの足で百数十もの宿を見て回ったからこそ感じる、ゲストとのちょうど良い距離の取り方とは?
仲がいい人が増えるにつれて、ゲストが自然に増えていくくらいがちょうどいい。(本間)
村田:本間さんは、どうして宿泊事業を始めようと思ったんですか?
本間:僕は今31歳なんですけど、20歳のときにオーストラリアを1周した経験が大きいですね。
株式会社Backpackers' Japan代表取締役 本間貴裕
本間:1年間、宿も決めずにバックパッカーとして回ったんですけど、いざ旅に出てみたら、どう動いていいのか分からなくて。そんなとき、現地で出会った旅慣れた人が「困ってそうだけど大丈夫?」って声をかけてくれました。それで、連れて行ってもらったのが、シドニーのレイルウェイスクエアというユースホステル。
そのとき初めて、ゲストハウスやホステルと呼ばれる場所に泊まったんですけど、そこでは白人も、黒人も、アジア人も、いろいろな国の人たちがビールを飲みながらわいわいして話をしたんです。
村田:わ~、すごく楽しそう!
本間:旅行中ってみんな楽しい話しかしないじゃないですか? 上司の愚痴も言わないし、「どこに行くの?」「ここよかったよ」「将来は何をするの?」みたいな前向きな話をしていて……そういう旅だからこそできる話が面白くて、旅に関わるような事業をやりたくなっちゃったんですよね。
CITAN(HereNowで見る)
村田:そうだったんですね。オーストラリアでの体験は、今どういうところに生きていると思いますか?
本間:ホテルを作るのと、ゲストハウスを作るのってちょっと違っていて、僕たちが大切にしているのは、「その中でどれだけ人が楽しそうに話をしているのか」。これをよく考えます。
村田:おしゃれとか、設備が充実しているとか、部屋が大きいとか、そういうことではないんですか?
本間:違うんですよ。楽しそうに話ができる場を作るために、「ラウンジ」を最も大切にしているし、それはオーストラリアの宿での経験が生きてるところですね。
村田:このCITANのラウンジを見てもそうですけど、いろんな国の方々が、混ざり合って楽しそうに話をしてますよね。ここを訪れる方は、どこでCITANの存在を知ったんでしょう?
本間:いろんなパターンがありますが、一番多いのはFacebook、Twitter、InstagramといったSNSですね。あとは、Booking.comやHostelworld.comといったポータルサイト。その2つがメインです。
村田:広告は出さないんですか?
本間:広告は一度も出したことがないんです。イメージなのかもしれないですけど、消費されて廃れてしまう気がしていて。そうはなりたくないねというのは、最初からスタッフで話していました。自分たちと仲がいい人が増えるにつれて、ゲストが自然に増えていくくらいがちょうどいいのかなって思っています。
人と話したくなるのは、風通しが良い場所だなって思う。(本間)
村田:このCITANさんは、内装などもすばらしいなって思うのですが、ゲストハウスを作るときには立地や内装で意識していらっしゃることはありますか?
本間:まず立地は、外国のゲストが多いので、空港からのアクセスが良くて、観光地にも行きやすい場所。このCITANも浅草線、総武線、新宿線が近く、東京駅からもタクシーでも1,000円程度だし、成田空港・羽田空港どちらからでも1本で来られるんですよ。その次に、風通しが良い場所というのはいつも言っていますね。
村田:風通しというのは物理的にですか?
本間:感覚的な部分が大きいんですけど、友達の家に行っても、明るくからっとしているところと、そうでないところとあるじゃないですか。
村田:あー、分かります(笑)。
本間:人と話したくなるのは、風通しが良い場所だなって思う。だから、不動産屋さんにはいつもそのことを話すし、それを「そうですよね」って分かってくれる方と一緒にやる。このCITANのバーラウンジも、もう少し風通しが良くて、明るかったらいいですよねって話をしたら、床を抜いてくれたんですよ。
本間:地下だとどうしてもじめっとしちゃうじゃないですか。それを、大きい窓をつけて、風を下まで通すシーリングファンをつけて、風通しを良くしました。
村田:こういう場所だとまた帰ってきたくなりますよね。そう思う理由には、接客などサービスの面でもあるような気がしたんですが、いかがでしょう?
本間:ある程度型にはまった接客って、誰でもできると思うんです。でも私たちが目指しているのは、ゲストが雨で濡れているときに「大丈夫?これどうぞ」ってタオルを貸してあげられたり、ひとりで飲んでいるゲストに「どこから来たの?」って気軽に声をかけられるかどうか。それこそがゲストを迎え入れようとする気持ちの表れだし、うちのコアな部分だと思いますね。
村田:お声がけはよくするんですか?
本間:よくしていると思います。やっぱり、うちのゲストハウスに泊まりに来てくれている時点で、何か楽しいことがあるかもしれないって期待感を持っていると思うんですよね。特にひとりでNui.やCITANのラウンジで飲んでいたりするということは。
村田:確かに、本当にひとりで飲みたければ、どこか違うカフェに行ったり、自分の家でゆっくり飲みますもんね。
本間:そうなんです。僕もそうですが、ひとり旅をしているときって、ラウンジで本を読みつつも、誰かと友達になれたら嬉しいなって心の中では思っていたりするんです。そういう方に対して声をかけるのはみんな上手いんじゃないかな。
でも、「ひとりの人がいたら声をかけましょう」っていうのをマニュアルにするのはナンセンスだし、そこはあくまでスタッフの自由意思。自然な流れがいいですよね。
村田:スタッフさんも心からこの宿が好きだから、ゲストに対して気持ち良く過ごしてもらいたいという気持ちで接することができるんでしょうね。
本間:確かに、「自分の家が気持ちいいからみんなおいでよ」っていう気持ちはスタッフの中にあると思います。だから、この宿を守ろうと思うし、誰かを迎え入れたときに嬉しい。オフの日でもスタッフが飲みに来てますからね(笑)。
ゲストハウスはこれから、グローバルを地でいく場所になる。(本間)
村田:もともと、1号店のtoco.を作るときにはバーラウンジを作る予定はなかったそうですね。
1号店のtoco.(HereNowで見る)
本間:そうなんです。今ではラウンジラウンジって偉そうに言ってたりするんですけど、一番最初はバーラウンジを作る予定はなくて。 宿泊者だけが集える場所は作ろうと思っていたんですけど、外の人たちが気軽に遊びに来られて、宿泊者と一緒に集う場所というのは、できたらいいけど、でもできないよねって思っていたんです。
村田:それはなぜですか?
本間:飲食業をやるのも大変なのに、ましてや宿業と飲食業を両立させるってものすごく難しいですよね。しかも不特定多数の人たちが外から入ってくるとなると、セキュリティー面をどうするという問題もあるし、もし宿泊客がカップラーメンを食べていて、一般客が外食しに入ってきたら、お互いに気まずいじゃないですか。その兼ね合いがすごく難しくて、ちょうどうまくやってるところってなかなか見付けることができなかったんですよね。
村田:今まで宿+バーラウンジという形で成功した事例がなかった中で、本間さんたちはなぜ成功したんでしょう?
本間:僕らはあらゆる境界線を越えて人が集う場所を作ろうという理念を掲げました。宿と飲食を別で考えて、宿の余ったスペースでバーラウンジやカフェをやろうではなくて、ラウンジを通していろんな人を混ぜようっていうところにフォーカスしたんです。
宿があることで海外の人に来てもらえるし、カフェがあることで近所のおばちゃんや家族の人たちにも入って来てもらえる。そうして一度来てくれた人たちが、今度はお酒とご飯とでわいわい楽しく時間を過ごす。人を混ぜるというところにすべてが向いている、そこの違いだと思います。
村田:なるほど。1号店のtocoを作るときには、世界中の宿を回られたそうですが、どういうところを見ていらっしゃったんですか?
本間:2人が世界、2人が日本と、4人でいろんなところを回って見ました。世界を見る2人には、よりデザインや「ゲストハウスってそもそもどういう宿か?」といった外側の部分を見てもらい、国内は僕ともう1人で、もっと実際的な中身の部分を。
村田:中身ですか?
本間:例えば、その町にいる旅行者の数や、立地はどこにあるのがいいのかみたいなところ。それからどういった宿がちゃんと続いていくのだろう、ということを考えました。
村田:存続するゲストハウスに共通するところはあったんですか?
本間:東京の駅前とかめちゃくちゃいい立地なのに宿泊客を全然見かけないところもあれば、沖縄の山奥の3、4時間車を飛ばさなくちゃいけないようなところで毎日賑わっている活気のある宿もあって、要するに場所やきれいさとかって大きな問題じゃないんですよね。
存続するゲストハウスを作るには、収支計画を含めた事業構想が大事なのはもちろんですが、それと同じくらい大事だと気付いたのが、続いている宿には、最低ひとり本気でその宿を愛している人がいるということ。ひとりでも、その宿のことを本気で愛して、少しでも良くしたいって心から思っていれば続くんだなっていうのがその時の僕の中での結論でしたね。
村田:なるほど。どれだけその宿を愛しているかということが、ゲストへのおもてなしにつながるんですね。最後に、ゲストハウスって世界的に見ると、今後どういう場所になっていくんでしょうか?
本間:ゲストハウスはこれから、グローバルを地でいく場所になるんだろうなと思っています。これから5年後とかってきっと、うちの母親とイスラエルのおばあちゃんが友達になる時代になると考えていて……。というのも、同時翻訳機がもっと発達すると思うんです。今までだと、英語を勉強した、ある程度知識層じゃないと、世界とコミュニケーションをとることができなかったのが、おばあちゃんでも、おじいちゃんでも、子供でも、どの国の人たちとも話せる時代が来る。
本間:SNSとかインターネットで人のつながりって加速していますけど、やっぱり対面のつながりがないとちょっと寂しいじゃないですか。だからなおさら、ゲストハウスやラウンジが持つ意味や、そこから広がる世界が違ってくるんじゃないかなって思います。
取材を終えて村田倫子が想うこと
あ、なんだか心地がいい。初めて入った瞬間私が感じたのはそんな温かい感触でした。
本間さんが話してくれたように、この場所をつくるにあたって重要視した「風通しがよい」という条件。それはもちろん物理的な事でもあるけど、本間さんを筆頭にスタッフ皆さんの、純粋にこの場所が「好き」という気持ちと、ゲストに対する親密で気持ちよい距離感が醸し出す、ここ特有の肌で感じる空気感。
好きなことをするために、好きに正面から向き合って作り出したものには、嘘がなくてこのなんとも言えない温もりが宿るんだなあ……。と取材を通して、CITANに対する溢れる熱量と愛をバシバシ感じました。
初めて訪れたのに、どこか懐かしくて、また「ただいま」と帰ってきたくなるような場所。また私も改めて足を運びに来よう。
- サイト情報
-
- HereNow
-
アジアを中心としたクリエイティブシティガイド。現在東京、京都、福岡、沖縄、台北、バンコク、シンガポール、ソウルの8都市で展開しています。
- 店舗情報
-
- CITAN
-
住所:東京都中央区日本橋大伝馬町15-2
営業時間:
コーヒースタンド「BERTH COFFEE」8:00~19:00
バー 18:00~24:00
ダイニング 18:00~22:30(ラストオーダー)
電話番号:03-6661-7559
最寄り駅:馬喰横山駅
- プロフィール
-
- 村田倫子 (むらた りんこ)
-
1992年10月23日生まれ、千葉県出身のモデル。ファッション雑誌をはじめ、テレビ・ラジオ・広告・大型ファッションイベントへの出演など幅広く活動している。自身初のスタイルブック「りんこーで」は発売から1週間で緊急増刷となり、各種SNSのフォロワーも急上昇中。趣味であるカレー屋巡りのWEB連載企画「カレーときどき村田倫子」では自らコラムの執筆も行ない、ファッションだけにとどまらず、カルチャー・ライフスタイル分野でも注目を集めている。
- 本間貴裕 (ほんま たかひろ)
-
1985年生まれ、会津若松市出身。二十歳の時に一年間をかけてオーストラリアを一周。その時に出会ったホステル、ゲストハウスという文化に感銘を受け、二十四歳で株式会社Backpackers' Japanを創業。代表取締役。「あらゆる境界線を越えて、人々が集える場所を」という理念のもと2010年にゲストハウスtoco.を、その後東京にてNui.とCITAN、京都にてLen、計4つのホステルをプロデュース、運営する。
- フィードバック 2
-
新たな発見や感動を得ることはできましたか?
-