シャムキャッツが6月に発表した『Friends Again』は、オーバーダブを施すことなく、緻密なアンサンブルで独自の「歌もの」を構築した作品であり、「友情」に留まらない、多様なコミュニケーションを描いた、素晴らしい作品だった。そして、「友達に戻ろう」というタイトルは、メンバー四人の関係性の再構築を表していたわけだが、幼稚園から一緒の幼馴染である夏目知幸と菅原慎一にとっては、とりわけ大きなテーマだったはずだ。
これまでの作品以上に多くの楽曲を手がけ、夏目との2枚看板を印象づけた菅原は、昨年11月のEP『君の町にも雨はふるのかい?』リリース時の取材で、「いつからか、バンドが仕事になってしまっていた」と話してくれた。『Friends Again』という作品は、そういった背景も踏まえ、夏目と菅原の友情物語のひとつの帰結だという言い方もできるだろう。
そこで今回は、彼らの地元・浦安で思い出の場所を巡りながら撮影を、二人が初めてギターを買い、夏目と藤村頼正が出会った英会話教室のあるショッピングモール内のカフェで取材を敢行。バンドの過去・現在・未来についての対話は、親密なムードに包まれていた。
「文化っぽい遊び」というか、切手を集めたり、好きな音楽の話ができるのは、夏目だったんです。(菅原)
—今日は小・中時代の思い出の場所を回ってもらいましたが、もともと夏目くんと菅原くんは幼馴染で、幼稚園から一緒だったそうですね。
夏目(Vo,Gt):同じクラスになったのは小学校3~4年のときだけで、違うコミュニティーに属していたんですけど、一緒に学校に行くようになって、ちゃんと仲良くなりました。
菅原(Gt,Vo):俺は自分のコミュニティーの仲間とよくキックベースで遊んでたんですけど、そういう男の子っぽい普通の遊びは、夏目とはしてなくて。その代わり「文化っぽい」というか、切手を集めたり、好きな音楽の話ができるのは、夏目だったんです。
夏目:ホントそうかも。音楽とかは一緒に共有してたけど、男の子っぽい遊びって、あんまりしてないかもね。俺は俺でそういうことは他にする人がいたし。
菅原:中学に上がるときに、「一緒にバレーボール部に入ろう」ってことを夏目に話したんです。小学校のときはサッカーをやってたんですけど、「男の子はサッカーをやるもんだ」みたいな感じが嫌で。スクールカーストみたいなものからも離れて自由に過ごしたいと思ったから、「サッカーでも野球でもテニスでもない何かをやろうぜ」って。それで「バレーボールだ」ってことになったんですけど、それは自分のなかのターニングポイントだったかもしれない。
夏目と菅原がギターの練習をしたり、くるりやGOING STEADYなどを聴かせあったりした公園にて
夏目と菅原が弾き語りデュオ「エスカルゴ」として、ゆずなどの弾き語りをしていた新浦安駅の改札前
—中学時代は夏目くんがバレーボール部の部長で、菅原くんは副部長、夏目くんが生徒会長で、菅原くんが副会長だったそうですね。
夏目:そうです。俺は単純に負けず嫌いで、自分より面白いやつとか目立つやつが気に食わなかったんだと思う。あと何か催し物をやるときに、人任せにするとテレビの真似ばっかりなのが嫌だったんです。
当時『学校へ行こう』(1997年~2005年までTBS系列で放送されていたバラエティー番組)が流行ってたから、すぐ「未成年の主張」みたいなのをやりたがるんですよ。だけど俺は、そういうのじゃなくて、もっとオリジナルなことないのかなって思うタイプだったから、であれば自分がやったほうがいいのかなって。
菅原:俺は人前には出たくないけど、自分が何かそういうことをやってないと気が済まないタイプでした。副会長のときとか、たまに夏目が風邪で休むと、俺が代わりに会長の役割をするのが超嫌で、その感じは未だにちょっとあるかも。ライブのMCとかね(笑)。
高校のときは、もう委員長とかそういうことはやりたくないと思ってたんです。(夏目)
—高校からは別々だったんですよね。
菅原:俺は音楽コースのあった地元の学校に推薦で入ったんですけど、夏目はちゃんと勉強して、早稲田に入って都内に通うようになったから、「新しい世界に行ったな」って思ってました。
当時の俺は、ホントに暗黒期だったんですよ。自由な校風のちょっと芸能っぽい学校で、ギャルっぽい人が多くて、あんまり馴染めなくて。唯一メガネかけた同じ匂いのするやつが「これあげるよ」ってギターをくれたことはあったけど(笑)。
—そこでバンドはやらなかったんですか?
菅原:俺、中3のときにめっちゃバンドがしたくて、学校見学で一番バンドがかっこいいところに入ろうと思って学校を選んだんです。でも、実際入ってみたら、バンドをやってる人が全然いなかったんですよ。逆に、夏目の周りには音楽をやってる人がいっぱいいて、バンドを始めてたから、すげえ羨ましくて。
『AFTER HOURS』(2014年)収録曲”LAY DOWN”のPVを撮影した空き地にて
—夏目くんは高校でも輪の中心にいるタイプだった?
夏目:高校のときはもう委員長とかそういうことはやりたくないと思ってたんですけど、やる流れになってましたね。
菅原:文化祭の委員長みたいなのをやって、結構ストレス抱えてたよね?
夏目:イベントを組むのは好きだったから、そういう場にはいたかったんだけど、「委員長をやりたい」ってやつが他にいたから、俺はいいやって思ってたんです。でもそいつが、「やっぱりお前がやったほうがいいと思う」みたいに言い出して、「嫌だなあ」と思いながらやってました。
中学までは負けん気で、自分から「やりたい」って言ってたけど、縛られるように感じたから、高校ではそういう役は誰かに任せて、自分はそれを面白がればいいやと思ってて。でも結局そうはならなかったんですよね。
藤村とバンビの三人でスタジオに入るようになって、菅原にも声をかけたんだけど、当時暗黒期だったから「俺はやらない」って。(夏目)
—一度離れた二人がどうやって再合流して、シャムキャッツ結成に至るのでしょうか?
夏目:まず、この建物の上にある英会話教室で藤村(頼正 / Dr,Cho)に会ったんです。俺、高校に入ってからもバレーボール部だったんですけど、顧問の先生にいじめられてやめちゃって。それで家でダラダラしてたら、親に「英会話教室でも通ってみたら?」って言われて行ってみると、同じようにバスケ部をやめて英会話教室に来た藤村がいて、「一緒じゃん」って(笑)。で、藤村はすでに高校でJUDY AND MARYのコピバンをやっていて、そのメンバーがバンビ(大塚智之 / Ba,Cho)。
左から:大塚智之、藤村頼正 / シャムキャッツ Tumblr「WITH A BAND」より(ページを見る)
夏目:それから三人でスタジオに入るようになってライブもやったんですよ(バンド名は「淫乱シャムキャッツ」)。でも「やっぱり四人がいいね」って話になって、菅原に声をかけたら、菅原は当時暗黒期だったから「俺はやらない」ってずっと言ってて。
菅原:変に頑なになってたんだよなぁ。
夏目:でも、そのあとに俺とバンビは大学生活が始まり、菅原と藤村は浪人生活が始まって、同じ予備校で仲良くなったみたいで。
菅原:急接近しました。代々木の予備校に通ってたから、二人で代々木のBOOKOFFに行って、よく『東京大学物語』(江川達也による漫画)を立ち読みしてた。
夏目:たしかに『東京大学物語』の話、よくしてたよね。
菅原:「東京大学物語クラブ」っていうのを作って、精神世界を考察してた(笑)。俺は高校3年間社会から隔絶してたので、浪人時代はその反動で一気にディスクユニオンとかに通い始めて、音楽を聴き漁るようになったんです。それに加えて藤村と仲良くなったことで、「バンドやろう」って思うようになりました。
夏目:俺、当時日本の音楽を全然知らなくて、日本に面白いバンドなんていないと思ってたんですよ。大学入って、ロック雑誌にも興味が持てなくなっていたときに、菅原は高円寺のU.F.O. CLUBとかに行くようになってて、おとぎ話、毛皮のマリーズ、前野健太とかをいち早く知ってたんですよね。そのときは「菅原、音楽知ってるなぁ」って思ってた。
菅原:高校のときはパンクばっかり聴いてて、自分でファイルにThe Clashって書いて、Ramonesのシール貼って、ズボンに安全ピンとかつけてたくらいなんですけど、結局歌ものが好きで。U.F.O. CLUBにはパンクっぽいんだけど、ちゃんと歌があって、まだ誰にも知られてないバンドがいて、俺にとっての憧れが詰まってたんです(U.F.O. CLUBは、2009年にシャムキャッツが初めてワンマンライブを行ったライブハウスでもある)。
夏目:俺は早稲田で「中南米研究会」に入ったので、ライブハウスとのつながりとかなくて。でも、菅原は法政大学に入って、サークルがCRJ(東京近郊に在住の学生による音楽団体。正式名称は「CRJ-tokyo」)ともつながってたから、外部から情報が入ってきていて、バンドの初期においてはそれがすごく重要だったんですよね。
俺としては、『Friends Again』っていうフレーズが出たことによって、楽になったところがあって。(菅原)
—ここまでシャムキャッツの前史を振り返ってもらいましたが、去年の11月に行った菅原くんの単独インタビューでは、「いつからかバンドが仕事みたいになっていて、友達に戻りたいと思うようになった」と話してくれていましたよね(バンドに歴史あり。シャムキャッツ菅原が語る「友達に戻りたい」)。だから6月に出たアルバムのタイトルが『Friends Again』だったことに驚いたんですが、夏目くんはあのインタビューを読んで、どんな感想を持ちましたか?
夏目:俺も途中から仕事だと感じてた部分が強くて、今になって腹を括り過ぎてたなと。仕事ってやるしかないし、「やりたくないから、やらないです」とは言えないじゃないですか? だから「やらなきゃいけない」ってなったときに、メンバーに対しても、自分に対しても、気持ちの部分まで考えてなかったなって。「俺もやってるし、みんなもやってよ」くらいの感じ。でも、「これがホントにやりたいことじゃないな」って気づき始めて……まあ、難しいところではあると思うんですよ。
—バンドには仕事的な側面が必要なときもありますよね。「プロ意識」とも言えるかと思いますが。
夏目:『AFTER HOURS』とか『TAKE CARE』(2015年)を作ったときは、ただの友達同士でバンドをやってるとフワッとしちゃう部分もあるし、人間関係を尊重し過ぎると、甘くなるところも出てきちゃうから、もっと仕事っぽくしないとバンドが成長しないんじゃないかと思ってたんですよね。
それで自分にもメンバーにもギューッと締めつけてやっていった結果、そのより戻しが来て、ちょっと辛くなってたんです。自主レーベルを立ち上げたタイミングがその極限というか、何かちょっと背負っちゃってたところがあったのかな(自主レーベル「TETRA RECORDS」は2016年8月に設立)。
—シャムキャッツでも、生徒会長役が続いていたというか。
夏目:続いてないつもりだったんだけど、続けてたんですよね。でも、それによってバンドに妙な負荷を与えちゃっていた気がする。
夏目:個人的にも、全然曲が書けなくなっちゃったんですよ。作曲を一番メインの仕事に置かなくちゃいけないのに、他のことに力を注ぎ過ぎて、曲が思い浮かばなくなっちゃって……そうなると余計にいろいろ上手くいかなくなるんですよね。
—でも、実際にレーベルの運営を始めるなかで、四人それぞれの役割が自然と生まれてきて、徐々に「仕事」から「友達」へと変化していったのでしょうか?
菅原:俺としては、『Friends Again』っていうフレーズが出たことによって、楽になったところがあって。
バンドをなるべく長く続けていこうと思うと、普通の友達でいる努力ってかなり必要な気がする。(夏目)
—「楽になった」というのはどういうことですか?
菅原:変な話だけど、「友達に戻る」っていうのも仕事のひとつで、そういう縛りを与えられると、「いい感じのシャムキャッツ」っていうイメージが湧きやすくなったんですよね。「こうすればいいんだよね」っていうのがはっきりしたというか。
全然悪い意味じゃなくて、バンドを上手くやっていくにはそんなふうにやっていくしかないのかなって思ったんですよ。「ただ友達のままでいるだけ」っていうのは違うと思うけど、俺らの「友達感」みたいなものを見せたり、音楽に反映させていくやり方は、すごくいいことだと思うし、それがシャムキャッツの魅力だと思うんです。
—前回のインタビュー時には、すでに『Friends Again』が次作のキーワードとしてあったわけですか?
菅原:ありました。でも、あのインタビューのときはまだ曲が全然できてなかったので、インタビューであんなふうに言うことで、自分に発破をかけたところはあるかも。
夏目:バンドをなるべく長く続けていこうと思うと、普通の友達でいる努力ってかなり必要な気がする。俺、昔からバイトの飲み会とかって絶対行きたくないタイプだったんですよ。つまんないし、興味ない人としゃべるの嫌だし、仕事は仕事でやってるんだから、なんでわざわざ一緒にお酒飲まなきゃいけないんだって。
でも、今になって、そういう飲み会って必要なんだなって思うようになったんですよね。「普通に仲がいい」ということが、一緒に何かを作ったり、ひとつの物事を前に進めようとしたときに、かなり大事なんだなって。そんな普通のことを、やっとわかり始めたんです(笑)。
—『Friends Again』というテーマを掲げたことは、夏目くんがシャムキャッツ内のリーダーというポジションから徐々に身を引くことにつながったのでしょうか?
夏目:そこに関しては、曲が書けないのはよくないなって思ったのが大きいんです。曲を書くために何をしたらいいかなって考えると、他のことは何もしないってことしかないなと。それでもっとメンバーに頼って、俺も自由になったほうがいいのかなって考えるようになったんです。
音楽性的にも、「俺ってやっぱりこういうのが好きなんだよね」っていうのを、みんなに聴いてもらう感じで曲を作ってみようと思ったのがポイントで。「こういう社会状況だから、こういう曲にしないと」とか、「こういうビートを取り入れよう」っていう考えがなかったのは、『Friends Again』における大きな変化だと思う。
シャムキャッツ『Friends Again』ジャケット(Amazonで見る)
音楽制作に対して、こんなに意見をしたのは初めてだと思う。(菅原)
—今年のアタマに夏目くんと菅原くんそれぞれが曲出しをしたときに、どっちもパッと聴きはシンプルな歌ものを作ってきていて、それでアルバムの方向性が見えたそうですね。
夏目:そこに至るまでに重要だったのが、『君の町にも雨はふるのかい?』(2016年11月リリース)のツアーがすごくよかったことなんです。自主レーベルを立ち上げて、危うくなっていた関係性が少しずつ修正できてきたなかで、いろんな地方を回って、海外にも行って、初めての場所でワイワイやるっていう、バンドをやり始めたころの感覚に戻っていったんですよね。
海外でライブをすると、やっぱりメロディーの力って強いなって痛感するんですよ。それに、昔から褒められてる俺たちの曲も、メロディーがいい曲かなって思いましたし。とにかくパッと歌っていい曲を作ればいいんだなって感覚は、みんなで過ごした時間のなかで得られたものでした。
シャムキャッツ Tumblr「WITH A BAND」より(ページを見る)
—これまで菅原くんは、夏目くんが提示してきた曲に対して、「じゃあ、自分はこう」っていう提案の仕方をしてきたけど、今回みたいに二人ともフラットな立場で曲を作ることはなかったわけですよね。
菅原:なかったですね。『Friends Again』っていうテーマは夏目が出したものだし、「菅原もゼロから書いてよ」って提案はもらったけど、「夏目の様子を伺いながら」とかは今回一切なくて。自分の書きたい題材でそのまま書いたのは初めてです。
—今までリーダーと副リーダーだった二人の関係性が初めてフラットになったと。さらに言うと、夏目くんが追加の曲を作ったときに、珍しく言い合いになったというのを別のインタビューで読みました。
夏目:そうそう、それはバンド史上初かもしれない。
菅原:音楽制作に対して、こんなに意見をしたのは初めてだと思う。
—どんな経緯だったんですか?
夏目:8曲くらいできあがってたタイミングで言い合いになったんです。8曲だとアルバムとしては曲数が足りないから、作るしかないと思って作って……。
菅原:今考えると、当たり前のことなんですけどね(笑)。
夏目:俺は8曲だけだと弱いというか、人に伝わらないものになっちゃう気がしたし、少し派手な抜けのある曲もいると思って、“Lemon”とか“Hope”を作ったんです。スタジオで「こういう曲ほしいよね」みたいな発言も出るから、そのオファーに則ってガチガチに理詰めで作った曲を持って行ったんですけど、そうしたら「違うんじゃないか」と。俺としては「何が違うんだ?」って。
「『Friends Again』ってテーマで、四人で一緒に作ってきたじゃん」という気持ちの面でのすれ違いがあった。(菅原)
—他のメンバーが感じた違和感みたいなものは何だったんですかね?
夏目:俺の「仕事病」がまた発症しちゃってたんですよね。すでにできていた8曲がすげえよかったから、藤村もバンビも「この感じを汚したくない」っていうのが強かったみたいで。
菅原:論理的には正しいんだけど、感覚的なところですよね。「『Friends Again』ってテーマで、四人で一緒に作ってきたじゃん」という気持ちの面でのすれ違いがあったんです。あとは、制作のリミットが超近づいていて、めちゃめちゃタイトなスケジュールだったから、持ってきたものをちゃんと消化できる自信がなかったっていうのもあって。
夏目:そこで今までだったら、「みんなが気に入らないならやめる」か「いや、やるんだ」のどちらかだったけど、そのときはちゃんと話し合ったんです。俺としては、友達が持ってきた曲に対して「よし、わかった。頑張ろう!」って言ってくれてもいいじゃんって思ったんですよ。
夏目:それって仕事的な感覚じゃないというか、ここ何年かメンバーに求めちゃっていた感覚と違ったから、このテンションで作ればいいものになる気がしたんです。それで、“Lemon”と“Hope”も収録することになりました。
—今、名前の挙がった“Hope”についてお伺いしたいです。歌詞が夏目くんと菅原くんの共作ということもあり、二人の関係性を表しているようにも聴こえたのですが、この曲はどのように作られたのでしょうか?
夏目:<何を聞いても君はすぐに答える>っていうアタマの歌詞が最初からメロディーと一緒に出てきて、各パートごとにメンバーのことを歌ってみようと思ったんです。歌詞だから、曖昧な部分も相当あるんですけど、でもここには四人とも出てくるんですよ。
The Beatlesの“Come Together”(1969年)って、ジョン(・レノン)がメンバーそれぞれのことを歌っているらしくて、その方式。ただ、自分のことは思いつかないから、最後のワンフレーズだけ菅原に書いてもらったんです。
—<あいつが歌うと沈む故郷くらい 大したことないじゃんと思えるから不思議さ>というところですね。ここは菅原くんが書いたんじゃないかなと思ってました。
菅原:最初は「あいつが歌うとシャツの綻び(ほころび)くらい」だったんですよ。
夏目:でも、もっと「大したこと」を入れてほしいって言ったら、「沈む故郷」っていう、とんでもない言葉が出てきたんですけど、これがいいかなって(夏目と菅原が生まれ育った団地は、2011年の東日本大震災による液状化現象の影響を受けた)。
夏目:歌詞って、流れを無視した言葉が一番刺さるんですよね。映画とか小説は説明しないと話が進まないけど、音楽は景色とかを急に飛び越えることが可能で。そういう歌詞を書くのってなかなか難しいんだけど、この曲はその飛躍が最後にハマった気がしましたね。
初期の俺たちのことを好きだった人が喜ぶものを作りたいっていう気持ちがあったんです。(夏目)
—そんなメンバー四人のことを歌った曲に、“Hope”という強いタイトルをつけたのはなぜだったのでしょうか?
夏目:それはだから……私のロマンティックなところですよね(笑)。
—ははは(笑)。
夏目:とんねるずの石橋貴明が、「コンビで出てきた芸人は、なぜコンビで出てきたのかをいちいち振り返らないといけない」って言ってたんですよ。それと同じで、世の中に出ようとしたときにすでにこの四人だったから、「なぜこの四人だったのか?」って、ことあるごとに振り返らないといけないなって最近よく思ってて。だから“Hope”は、そういう意味合いの曲でもあるかなって思います。
あと今回は、別に媚びるんじゃなくて、初期の俺たちのことを好きだった人が喜ぶものを作りたいっていう気持ちがあったんですよ。“Travel Agency”の<恋人に触れるように 暗闇に手を伸ばせ>っていう歌詞も、今思えばそういう意味で。
シャムキャッツ Tumblr「WITH A BAND」より(ページを見る)
夏目:それに、自分のことを好きでいてくれる人たちをちゃんと喜ばせたいというか、「ちゃんとした大人になったよ」って言いたいじゃないですか? 今までは「俺のやりたいことをみんなが受け入れてくれるといいな」って思っていたけど、応援してくれる人たちにちゃんと向き合ったときに、誰かの希望が自分だったら素敵だし、自分の希望の種が誰かだったらいいなって……そんな感じかな。
—シャムキャッツって、昔から「The Beatlesみたいにみんなが曲を作って、みんなが歌うバンドが理想」と言っていたじゃないですか? 今作はそう言わないまでも、みんながフラットに対峙しているっていう意味で一番The Beatles的で、やっとそういう作品ができたことが、バンドを続ける希望になった。そういう意味での、“Hope”っていうタイトルであるようにも受け取れました。
菅原:あ、この曲は藤村さんもちょっとだけ歌ってるんですよ。
夏目:そうそう、そういうところも初期っぽいんだよね。だから、ホント今作が新しい始まりだなって感じはすごくする。
ギャグで言うんですけど、バンドってホントにブラック企業なんです(笑)。(夏目)
—9月16日の千葉LOOKからツアーがスタートしますが、アルバムリリース後のライブの手応えはいかがですか? 先日の『exPoP!!!!! vol.100』でのライブは、昼の日比谷野外音楽堂というシチュエーションともマッチしていて、非常に気持ちがよかったです。
菅原:『Friends Again』の曲はごまかしがきかなくて、そのときのコンディションがすごく影響するんですよ。これまではディレイでごまかしてたけど(笑)。体調が万全じゃないと、その日のライブに支障が出ちゃうので体調には気をつけたいです。
—今回のアルバムはオーバーダブもないですし、サイケ要素も薄いですもんね。
夏目:そういう「醒めてる」演奏って難しいんです。だから、最初はちょっと手間取ったけど、やっと起きてる状態でもいい感じにできるようになってきました。これはよく言っちゃうんだけど、怒ってなくてもスーパーサイヤ人になれないといけないっていうか。
菅原:それ俺も今、マジで言おうとしてた(笑)。
夏目:(笑)。でも、やっと最近ちょっと楽しくなってきたんですよ。正直、去年は大変なことばっかりに目がいく1年で、レーベルを立ち上げて、お金のことも考えて、ツアーを組んで、グッズも作って、曲も書いて……ギャグで言うんですけど、バンドってホントにブラック企業なんです(笑)。
でも最近は、ちょっとポジティブになってきて。手放しで「楽しい」っていうのは相変わらず違うと思うけど、四人とスタッフでバンドを動かすって、かなり楽しいことだし、世の中のいろんな仕事のなかでも、かなり特別なことをやらせてもらっているなって感覚なんです。だからそういうテンションを、ライブでもそのまま出していきたいですね。
- リリース情報
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- シャムキャッツ
『Friends Again』(CD) -
2017年6月21日(水)発売
価格:2,916円(税込)
TETRA RECORDS / TETRA-10051. 花草
2. Funny Face
3. Four O’clock Flower
4. Travel Agency
5. Coyote
6. Hope
7. October Scarf
8. Riviera
9. Lemon
10. 台北
11. 31 Blues
- シャムキャッツ
- イベント情報
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- 『シャムキャッツ tour “Friends Again”』
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2017年9月16日(土)
会場:千葉県 千葉LOOK2017年9月17日(日)
会場:愛知県 名古屋CLUB QUATTRO2017年9月18日(月・祝)
会場:大阪府 umeda TRAD2017年9月22日(金)
会場:石川県 金沢vanvan V42017年9月23日(土)
会場:岡山県 YEBISU YA PRO2017年9月24日(日)
会場:香川県 高松TOONICE2017年9月30日(土)
会場:北海道 札幌COLONY2017年10月6日(金)
会場:新潟県 新潟CLUB RIVERST2017年10月7日(土)
会場:宮城県 仙台CLUB JUNK BOX2017年10月13日(金)
会場:福岡県 福岡graf2017年10月14日(土)
会場:鹿児島県 鹿児島SR HALL2017年10月15日(日)
会場:大分県 大分AT HALL2017年10月21日(土)
会場:東京都 SHIBUYA TSUTAYA O-EAST
- プロフィール
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- シャムキャッツ
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メンバー全員が高校3年生の時に地元浦安で結成。2009年春、アルバム『はしけ』でデビュー。同年、河川敷でのゲリラライブを収録した『BGM』、2012年に初期アンセム「渚」「なんだかやれそう」を収録した『たからじま』、2014年にバンドの評価を決定づけたギターロックの金字塔『AFTER HOURS』、そして2015年にバンド最大のヒット作となったミニアルバム『TAKE CARE』を発表したあと、それまで所属していたレーベルから独立。自主レーベルを立ち上げ、2枚のEP『マイガール』『君の町にも雨はふるのかい?』を経て、2017年6月21日に2年3か月ぶりとなるフルアルバム『Friends Again』をリリースした。
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