好き。嫌い。熱い。寒い。見たい。触りたい。生きたい。――言葉にすればするだけ、どうしようもなく嘘っぽくなってしまう人の「感情」とか「温度」というものを、驚くほど具体的に表現してしまうから、音楽は信用できる。そして、それを上手くやってのけるから、ドミコは信用できる。
前作『soo coo?』から約1年ぶりとなる、ドミコの2ndアルバム『hey hey,my my?』が届いた。ジャケットには、煌びやかに人魚が踊っている。いつの日かこの世界が海に沈むとして、それでも僕らが手放すことのできない想像力と生命力が、この人魚たちの姿には刻まれている……ような気がする。前作に引き続き、さかしたひかるの単独インタビューをここに送る。こんな書き方、本人は嫌がるだろうけど、やっぱりこの男は天才だ。
かっこいい人は、いつでもかっこいいです。
—今回のアルバム、聴かせていただきました。とても素晴らしかったです。
さかした:ありがとうございます。
—「すごいものを作った」という実感はないですか?
さかした:ないっすね。
—ははは(笑)。
さかした:一応、二枚目のフルアルバムを作るからには、前よりはいいものを作りたいとは思いましたけど、具体的にどこがいいのかは、自分ではよくわからないです。
—そうですか……。
さかした:でも、ネガティブな要素は、前作より減っている気がしますね。今回は、アイドル並みに前向きだなって思いますけど。
—アイドルは必ず前向きなのか? っていう疑問もありまけど。
さかした:(笑)。前向きっていうか、言っていることがシンプルなんです。たとえば一曲目の“マカロニグラタン”は、「マカロニグラタンが美味しい」っていうことを実況しているだけの曲だし。伝えていることは、本当にどうしようもないんですよ。マカロニグラタンって、僕の好きな食べ物の3位か5位に入るんですけど。
—1位と4位が気になりますね(笑)。今作のタイトルである『hey hey,my my?』って、ニール・ヤングの『Rust Never Sleeps』(1979年)に入っている“Hey Hey, My My”から来ているんだろうと思うんですけど、このタイトルの由来は?
ドミコ 2ndアルバム『hey hey,my my?』アートワーク
さかした:それも特に意味はないです。本来、この言葉に付随してくる意味も関係ないですね。単純に、「ドミコの2ndアルバムが『hey hey,my my?』だったら面白くね?」っていう(笑)。
—「面白くね?」って(笑)。さかしたさんは、この言葉の持つ歴史的な意味は知っていたんですか?
さかした:いや、知らなかったです。つけた後で人に教えてもらって、「そうなんだぁ」っていう。ニール・ヤングの曲自体は聴いていましたけど、僕はニール・ヤングではアコースティックな曲の方が好きだし、曲の深い意味も調べたことはなかったです。なので、後から「わりと重い言葉だなぁ」って気づきました。
—重いですよね。
さかした:へへへ(笑)。
—「へへへ」って(笑)。
さかした:でも、字面はかわいいですよね。
—……。一応、ニール・ヤングの“Hey Hey, My My”について説明しますね。この曲は、1970年代の後半、パンクロック全盛の時代に生まれた曲で。当時、パンクの象徴的な存在だったSex Pistolsのジョニー・ロットンが「ロックは死んだ」と発言した。その言葉に対して、ニール・ヤングはこの曲で<Rock and roll can never die>、つまり「ロックンロールは死んでいない」と歌ったんです。そういう歴史的な一曲なんですけど、その意味を後から聞いて、さかしたさんはどう思いましたか?
さかした:正直、めっちゃどうでもいいです。
—なぜでしょう?
さかした:そういうことに関心がないんですよ。ロックはどうとか、時代がどうとか、興味ないんです。かっこいい人は、いつでもかっこいい。ドミコ自体、流行とか、時代とかを感じながら活動しているバンドじゃないので。
好きなアーティストに対しては「その人」自体を好きになるんです。
—じゃあ、この“Hey Hey, My My”について、もうひとつ歴史的なエピソードを説明すると、1990年代を代表するロックアイコンであるNirvanaのカート・コバーンは、1994年に自殺したとき、この曲の歌詞を遺書に引用しました。<It's better to burn out than to fade away(消え去るより、燃え尽きた方がいい)>という個所なんですけど。これについてはどうですか?
さかした:カート・コバーンかぁ……。僕、Nirvanaにはそこまでどっぷりハマったことがないんですよね。めちゃくちゃカリスマ感がすごいですよね、カート・コバーンって。
—そうですね。そのカリスマ性に惹かれている人は多いと思います。
さかした:僕は、あんまり興味が湧かなかったんですよね。
—でも、思春期の頃って、カート・コバーンのようなカリスマに、無条件に惹かれたりしませんか?
さかした:そういうのは、ありますね。僕の中学生の頃のカリスマは奥田民生でした。毎日、ユニコーンとソロを聴いて、DVDをずっと見ている生活をしていましたから。
「どの曲も好き」っていうぐらい、奥田民生が好きですね。盲目的に好きです。「どこがいい」とかじゃなく、「全部がいい」っていう。僕、好きなアーティストに対して、「その人」自体を好きになるっていう感じなんですよ。
—「人」ですか。
さかした:奥田民生って、歌もギターも超上手いけど、「ボーカリスト」とか「ギタリスト」っていう呼び方はピンとこない。「奥田民生でしかない」っていう感じがするじゃないですか。
他に好きなアーティストで言うと、Deerhunter(アメリカのロックバンド)のボーカル(ブラッドフォード・コックス)もそうだし、さっき言ったニール・ヤングもそうですね。彼は思想家であり、活動家的な側面もあると思うけど、僕自身、そこにはあまり興味がなくて。そういうのを全部抜きにしたところで、ステージ上の「人」としての魅力に惹かれる。ごく普通に、自然体であるところが好きというか。
奥田民生は、チャートの音楽しか知らなかった当時の自分には、新鮮だった。
—奥田民生の音楽に出会ったきっかけは?
さかした:中学1年生だったんですけど、自分で探してCDを聴くような年齢になるじゃないですか。その頃、小学生のときにすげぇ耳に残っていた曲を探すために、ずっとレンタルショップに通っていたんですよ。そこで「あ、これだ!」って思ったのが、奥田民生の“さすらい”で。きっと、リアルタイムで聴いていたのは小3くらいだったと思うんですけど、その曲を再発見して。
そこから奥田民生を掘っていったら、「めっちゃいい曲あるなぁ」って。“マシマロ”とかも好きですね。歌詞の気張っていない感じも好きだし、思いっきりメロディーで攻めているわけでもない。チャートの音楽しか知らなかった当時の自分には、新鮮だったんだと思います。
—中学生が小学生の頃に聴いていた曲を探すのって、ちょっと特殊ですよね? 友達と流行りのバンドとかを聴きませんか?
さかした:そうっすね。でも、流行りの音楽をリアルタイムで聴くことって、いまでもあんまりないんですよね。ブームが去った後に聴くことも多々あるし。ほんと、無頓着な気がします。
—やっぱり、流行に乗りたくないんですかね?
さかした:「乗りたくない」っていうわけではないんですけどね。いまでも、携帯のニュースとかはめっちゃ見るし。でも、そこまで興味が湧かないです。心がウキウキしないんですよね。普段から新しいものに対してアンテナが立っていないんだろうなって思います。
—じゃあ、いまのさかしたさんが一番アンテナを張っているものって、なんですか?
さかした:えーっと……居酒屋じゃないですかね。
—ははは(笑)。
さかした:「この道に入れば、いい居酒屋がありそうだな」とか、昼間からそういうことばっかり考えてます。ツアーの移動中に、高速を走る車から知らない街を見下ろしているときも、「あそこで暮らしている人は、あの繁華街で飲んでいるのかなぁ」とか、「この街で暮らせば、あの店に飲みに来るのかなぁ」とか。そんな妄想ばっかりしてますね。
—ひとり飲みですか?
さかした:ひとり飲みですね。心がおじいさんなんですよ、小さい頃から。小学校の頃から、「子どもはいらないけど孫は欲しいな」って思っていましたから。孫がいたら、喧嘩もせず、一緒に楽しく遊べそうだなぁって。そんなことを、せんべい食いながら考えていました。せんべい、めっちゃ好きなんですよ。
—「さかしたひかる」を構成するのは、音楽と居酒屋とせんべい。
さかした:そうなんです。
僕はテーマを持って、音楽で何かを訴えかけることはしない。
—アルバムの話に戻そうと思うんですけど、これ、やっぱりすごいアルバムだと思うんですよね。
さかした:はぁ。
—まず、6月に配信シングルとしてリリースされた“くじらの巣”。この曲は特に、サウンドとしても新機軸だし、素晴らしい曲だと思いました。
さかした:この曲は、くじらの話ですね。普段から、人工知能の話とか自然の話にすごく興味があるんですけど、ソナーの実験とかで年間、何万頭というくじらが浜辺に打ち上げられているっていう話を知って。その事実を歌った曲です。歌詞だけを見ると、人がもがいた先に何かに辿り着くっていう物語にも読めるところが、面白く書けたと思います。
—くじらにとっては悲劇だけど、人間に置き換えれば希望になるっていうことですか?
さかした:いや、どちらももがいているっていうニュアンスです。“くじらの巣”っていうタイトルにしたのは、「帰れる場所があればいいな」っていう願望もあって。もがいていく中で、いいか悪いかはわからないけど、結局、何かに辿り着くから何も怖くないよっていうイメージで書きました。
—それは、明確なメッセージとして?
さかした:いや、違います。僕はテーマを持って、音楽で何かを訴えかけることはしないので。音楽で何かを訴えかけるのって、めっちゃダサいなって思うんですよ。「くじらが打ち上げられているからソナーをやめた方がいい」とか、そういうことも別に思わないし、訴えることもしたくないですね。
事実と、自分の中の小さな願望みたいなものしか歌にできないと思う。実際に何かを訴えたいのであれば、そういう運動をすればいいわけだし。それは昔から一貫しているテーマかもしれないです。
—音楽は、音楽でしかないっていう。
さかした:そう、「訴えかけない」っていうテーマ。歌を利用したくないんですよ。“くじらの巣”についても、「くじらが浜に打ち上げられていく」っていう事実と、小さな願望だけだと思う。だから、自分の中でどれだけ陽気な歌を書いていたつもりでも、他の人が見れば、暗そうに見えるのかもしれない、とも思うんですけどね。
—ただ、人って絶対に死ぬじゃないですか。そこにある「いつかは死ぬ」という事実に対して、「死んじゃうの嫌だなぁ」と嘆くのか、「いつか死ぬから、いまを楽しもう」とするのか、という生き方の違いはあると思うんですよ。ドミコの描く、「事実と共にある小さな願望」っていうのは、もしかしたら、後者に近いのかな、とも思うんですよね。
さかした:僕の場合、極端に言えば、「そういうことを考えているうちに人は死んじゃうから、なんでもいいや」っていう感じです。ただ、「考えるの面倒くせぇなぁ」っていうだけですね(笑)。
別に、ポジティブな感じでもないんですよ。特別、「楽しいことをしたい」とも思わない。「面倒くさいことはやらなくてもいいや」っていう。そういう意味でも、「自分はめっちゃ老人だな」って、改めて思うんですよね。
皮肉にも一番「生きること」について考えてしまっているんですよね。
—二曲目の“こんなのおかしくない?”についても聞かせてください。こうした、ちょっと挑戦的な問いかけ調のタイトルや歌詞って、いままでなかったんじゃないですか?
さかした:この曲も、そこまで何か考えていたわけではないですけどね。これは、日常全般の不満みたいなものを歌っているんですけど、何も感じ取らない人っているじゃないですか。そういう人を見るたびに、「それ、大丈夫なの?」って思うんですよね。そういう人たちに対して、「こんなのおかしくない?」っていうイメージで作った曲です。
—この曲の歌詞には、<胸、荒い、呼吸、細い方、腕、腰、頭ん中>というフレーズがあったり、<体温>という言葉が出てきますけど、この曲以外でも、身体的なことを連想させる言葉が、今回のアルバムには多いんですよね。これは、人間の根本的な「感覚」を描こうとしていることの表れなのかなって思って。
さかした:あぁ……確かに。意図はしていないですけど、生々しいというか、「人間味のある感じに仕上がったな」っていうのは、アルバムを作った後に1回、思いました。
—1回……。でも、めちゃくちゃ「生きている」アルバムですよね、今回は。
さかした:うん……そういえば、そうでした。
—(笑)。“くじらの巣”に関しても、<だってもっと変化を手にしたり 壊して必死に生きないと嫌だ 意味がない>とか、<息がしたい 止めたくない>という歌詞に、その想いは集約されていると思うんですよね。今回のアルバムを聴いた印象としては、さかしたさんがとても「生きたがっている」と感じたんですよ。
さかした:そうですね……僕自身、普段は悩みもなく、のうのうと生きているので、そういう人間がこういう言葉を書くっていうのは……。
—はい。
さかした:……不思議ですよね、人間って(笑)。
—(笑)。今作の最後を締めくくるのは“幽霊みたいに”ですけど、さかしたさんは、自分自身を幽霊のように思いますか?
さかした:ノスタルジックな気持ちになることが多いので、そういう意味では、「幽霊みたいだな」と思います。幽霊って、ずっと「生きていたこと」を考えながら存在しているじゃないですか。その後ろ向きな感じが自分みたいだなって思う。
—でも、生きながらにして幽霊であるということは、さかしたひかるという男は、生きながらにして、誰よりも「生きている」ことについて考えていることになりますよね。
さかした:確かに。一周して、皮肉にも一番「生きること」について考えてしまっているんですよね。
—最後に、話をアルバムタイトルに戻しますけど、この『hey hey,my my?』というタイトルには、「?」が付いているじゃないですか。さっきも言ったように、この言葉には、ニール・ヤングのロックンロールにかける生命力が込められているんですよ。なので、このアルバムタイトルを翻訳すれば、それは「生きているか?」ということになるのかなって思って。
さかした:そういう感じに落とし込めるとかっこいいですけど、僕自身の感覚としては、「これは“Hey Hey, My My”ですか?」って、問いかけられている感じというか。それに対して、「いや、これはあの“Hey Hey, My My”じゃないです」って言いたくて付けたというか(笑)。
—というと?
さかした:いや、だから、「これはニール・ヤングの“Hey Hey, My My”ですか?」って聞かれた前提で、「いや、全然違います」って答えたくて。
—なるほど、わかりました。じゃあ、最後に、聞いておきます。このアルバムは、ニール・ヤングの“Hey Hey, My My”ですか?
さかした:違います。これはドミコの『hey hey,my my?』です。
- リリース情報
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- ドミコ
『hey hey,my my?』(CD) -
2017年10月18日(水)発売
価格:2,500円(税込)
RED-00091. マカロニグラタン
2. こんなのおかしくない?
3. ロースト・ビーチ・ベイベー
4. ミッドナイトネオン
5. 怪獣たちは
6. バニラクリームベリーサワー
7. 家出をして
8. 深海旅行にて
9. くじらの巣(album ver.)
10. 幽霊みたいに
- ドミコ
- イベント情報
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- 『ドミコ「hey hey,my my?」 Release Tour』
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2017年10月29日(日)
会場:埼玉県 北浦和 KYARA2017年12月3日(日)
会場:宮城県 仙台 enn 3rd2017年12月8日(金)
会場:福岡県 graf2017年12月9日(土)
会場:広島県 スマトラタイガー2017年12月10日(日)
会場:愛知県 名古屋 CLUB ROCK'N'ROLL2017年12月15日(金)
会場:北海道 札幌 ベッシーホール2017年12月22日(金)
会場:大阪府 心斎橋 Pangea2017年12月24日(日)
会場:東京 新代田 FEVER料金:各公演 前売2,500円(ドリンク別)
- プロフィール
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- ドミコ
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2011年結成。さかしたひかる(Vo/Gt)と長谷川啓太(Dr)の2人からなる独自性、独創性で他とは一線を画す存在として活動。自主制作盤『わお、だいびんぐ』(現在入手不可)、全国流通盤『深層快感ですか?』(2014/12/07 release)と『Delivery Songs』(2015/06/24 release)のミニアルバム二枚をリリース。これまで、全てセルフレコーディング、セルフミックスで制作を行ってきた。バンドの音楽性はガレージ、ローファイ、サイケ等多面的に形容される事が多いが、その個性的なサウンドは確実にドミコそのもの。2016年11月9日初めてのフルアルバム『soo(そー) coo(くーる)? 』をリリース。2017年Space Shower TVが年間通して新人アーティストをPUSHする「NEW FORCE 2017」10組に、またApple Music「今週のNEW ARTIST」にも選ばれる。7月、FUJI ROCK FESTIVAL’17に初出演を果たした。
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