映画監督とアーティストをかけ合わせ、気鋭の才能を発掘する異色の映画祭『MOOSIC LAB』において、今年数々の作品が公開されるなか、音楽シーンへの問いかけを秘めていたのが、柴野太朗監督の『KILLER TUNE RADIO』である。コミュニティーFMを舞台に、「キラーチューン」を探し求める男女の奮闘を通じて、音楽を媒介としたコミュニケーションのあり方を再考する一作だ。それだけにとどまらず本作は、「5.1chサラウンド」と20以上ある全ての劇伴を同時再生することで主題歌が完成するという実験的なコンセプトによって、映像と音楽の新たな可能性を提示している。
『KILLER TUNE RADIO』が投げかけるメッセージを紐解き、そして今の時代におけるリアルなラジオのあり方について話を伺うべく、NACK5で編成制作を担当する都丸征紀のもとを訪ねた。埼玉を拠点に、来年で開局30周年を迎えるNACK5は、ブロードバンドの進展によってメディアのあり方が著しく変化するなかで、何を指針として、これからどこへ向かうのか。ラジオ局の内側を語ってもらった。
やっぱり時代的には、ネットが中心なんですよね。だからといって、ネットのためにラジオをやるわけではない。
―都丸さんは1998年にNACK5に入社されたそうですね。となると、ブロードバンドの発展に伴うラジオのあり方の変化をずっと見てこられたと思うのですが、一番の変化はどんな部分だと感じていますか?
都丸:当時はインターネットによって、ラジオを聴く人がいなくなっちゃうんじゃないかっていう危機感がありました。当時NTT東日本と協力して、サテライトスタジオの収録映像をストリーミングで流すという試みがあったのですが、そのときも音声は流してなかったんです。ラジオが第一にあって、ネットはそれを補完するみたいな、そういう感覚だった。でも、今はネットと共存していける可能性がすごく見えてきたと感じていて、昔感じていたような危機感はなくなってきました。
―ネットに対する意識が「補完」から「共存」に変わったと。
都丸:逆に言うと、ちゃんとネットと組んでやっていかないと、生き残っていけないんだろうなっていう感覚も強いです。最近は「radikoで聴いてます」とか「タイムフリーで聴いてます」っていう方もすごく増えているので、多様化するライフスタイルに合わせて番組を聴いてもらうにはどうすべきか、そしてそこからNACK5にファンとして根づいてもらうにはどうすればいいかをすごく考えています。
ラジオを作っている人間がこんなこと言っちゃいけないかもしれないですけど、やっぱり時代的には、ネットが中心なんですよね。でもだからといって、ネットのためにラジオをやるわけではなく、ちゃんと対等にやっていくことが大事かなと思います。
―CDからYouTube、さらにはストリーミングと、音楽の聴き方・聴かれ方が多様化するなかで、「ラジオ局としてどうやって曲を届けていくのか?」という点に関しては、どのようにお考えでしょうか?
都丸:やはりライフスタイルのことを考えて、どういうターゲットに届けるかを意識する必要があると思います。たとえば、僕が今担当している『GOGOMONZ』という月曜から木曜の午後の帯番組は、時間帯的に学生はなかなか聴けないので、20代から40代の車で聴いている人を主に想定しているんですね。
そういった層の人は、音楽を「見つけたい」という気持ちよりも、「楽しみたい」と考えている人が多いと思うので、カラオケができるようなヒットチューンを主に流しています。逆に、遅い時間は若い世代が聴くので、新しい音楽をカタログのように流したり。そこは今も昔もそんなに変わらないですね。
キラーチューンを生むために必要なのって、信頼関係だと思うんです。
―昔と大きく変わったのはどんな部分でしょうか?
都丸:アルバム特集は非常に少なくなりました。というのも、昔はそのアーティストが好きで、アルバムを買う人がいっぱいいましたけど、今は曲単位でダウンロードして聴く人が増えていますよね。昔はレコード会社と一緒に「シングルでイントロダクションを作って、アルバムを売ろう」みたいな一連の動きがあったんですよ。でも今は、いろんな音楽がネットで聴けるから、アルバムを1枚買うよりも「そのときにいいと思った曲を買う」っていう感覚というか。
―確かに、そうですね。
都丸:昔はよくも悪くもこだわりを持って、「これは流したい」という意思で選んでたんですよ。でも今は、価値観の多様化に合わせて作り手側も、「これもあれも流したほうがいい」っていう考えになっていると思います。いろんな世代に話を聞いて、自分の価値観だけではなく、リスナーのいろんな価値観を考慮する意識は強くなっていますね。
昔はラジオマンが偉そうに「こういう曲が売れる」って語っていたもんですけど、もうそれは通用しない。実際、「これ売れるのかな?」っていう曲が売れたりするんですよ。自分の年齢が上がったからというのもあると思うんですけど、自分だけを信じ過ぎないで、もっともっと俯瞰してみないとなって感じています。
―ラジオ局とヒット曲の関係性というと、各局がパワープレイを選んで、大量にオンエアして、そこからヒットが生まれたりもしますよね。NACK5としては、パワープレイをどのように捉えているのでしょうか?
都丸:そこはステーションのエゴがあっていいと思っています。僕らはパワープレイを投票制で決めているんです。それは全国のFM局のなかでも少ないと思います。
パワープレイを広告枠として売っている局もあるんですけど、それは局ごとの方針だし、民放は稼がなきゃいけないから、もちろん理解できる。でも僕らはディレクター陣から上がってきた曲をリストにして、「これをヒットさせたい」っていう感覚で選んでいます。なので、「こういう曲をリスナーに聴いてもらいたい」という意味で「パワープレイ」ですね。
―その想いがあるからこそ、リスナーとの信頼関係が生まれるわけですよね。
都丸:そう言っていただけると心強いです。まさにそうで、キラーチューンを生むために必要なのって、信頼関係だと思うんです。
「NACK5ってしゃべり多いよね」ってよく言われるんですけど、それは我々の番組制作のポリシーなんです。
—やはりラジオにとっては、リスナーとの信頼関係が第一だと。
都丸:そのためにリスナーからのメッセージをちゃんと取り上げて、できるだけやりとりを多くする。ラジオって、裏側の大人の事情も見えやすいから、きちんと音楽を伝えるうえで、まずはそこが土壌として必要だと思うんです。
「NACK5ってしゃべり多いよね」ってよく言われるんですけど、それは我々の番組制作のポリシーなんですよ。トークでリスナーとの信頼関係を構築したうえで、「ぜひ聴いてよ」っていうような音楽の差し出し方をしているんです。だから、「大好きな人がこの曲いいって言うから聴いてみたらすごくよかった」みたいな感じに近いのかもしれない(笑)。
―『KILLER TUNE RADIO』もまさにその部分を描いていて、「キラーチューンとは何か?」「いい曲とは何か?」が繰り返し問われるんですけど、「それは出会い方や届け方によって決まるんじゃないか?」っていうひとつの提案がある映画だと思うんですよね。
都丸:コミュニティーFMって、より密接な距離感が取れるメディアだと思うんです。NACK5みたいに関東一円に電波が出ちゃうと、さいたま市から離れたところの人にとっては、ちょっと遠い存在に感じると思うんですけど、コミュニティーFMは本当に街中にあって、人が滞在していて、そこで信頼関係が作れる。「あそこで選ばれた曲がこの曲なんだ」っていうふうな体験をリスナーができれば、その音楽はすごく響くだろうし、「このアーティストいいな」って思ってもらえると思うんです。
―NACK5とリスナーの関係性はいかがですか?
都丸:うちもリスナーとの距離感が近くて、熱いんですよ(笑)。この前『GOGOMONZ』の企画で熊谷にTシャツを配りに行ったら、1000人くらい集まったんです。熊谷って大宮から在来線で40分くらいかかるんですけど、それでもそんなに集まってくれたのはリスナーとの距離感が近いからだと思います。コミュニティーFMはまさにそういう存在で、そこから瞬間的にメガヒットを生むのは難しいと思うけど、キラーチューンは局地的なところからも生まれるものだと思うんです。
うちは「面白い曲なら何でもかけていこう」っていう方針なんですよ。
―今のラジオでかかるのは邦楽のヒット曲が中心で、洋楽があまりかからなくなったという声も聞きます。それは各局の色とも関係する話で、どれが正解という話ではないかと思いますが、現状をどのように捉えていらっしゃいますか?
都丸:正直うちは洋楽をかける割合は低いんですけど、伝えるべき音楽は海外にもたくさんあるので、4月から洋楽の帯番組(『Music Freeway』)を作ったんです。あとは、パワープレイのなかに必ず洋楽を1曲入れるようにしています。
都丸:ただ、数字を求めた結果、ヒット曲をかける率が高くなっている側面はどうしてもあります。番組のカラー的に、「音楽を伝える」というより、「音楽を楽しむ」というコンセプトの場合、自然とヒット曲が増えますしね。逆に、深夜の番組に関しては、本当にスタッフがいいと思う音楽をかけるようにしていて、JASRAC管理外のコアな楽曲とかもよくかかっています。
―当然ですが、番組内容や時間帯によって、選曲も変わってくると。
都丸:ディレクターによっては、海外の友人を介して日本ではまだ知られていないような曲を発掘したりもしているんですよ。それにいろんな曲をかけるのはラジオにとってすごく大事なことだと思います。洋楽を聴くことで世界の情勢を知る入り口になると思うし、それって今、国全体としても重要なことだと思うんですよね。ただ、やはり民放なので、数字を取らないといけないプレッシャーもある。なので、多少偏った選曲になっていると思うんですけど。
―でも、NACK5は演歌からアニソンまで、いわゆるFM局のイメージを超えた、多様性のある選曲が特色ですよね。
都丸:「面白い曲なら何でもかけていこう」っていう方針なんですよ。FMで演歌がかかるのはうちくらいだと思います(笑)。開局当初のNACK5は夕方からそんな感じで、全然知らない曲がよくかかっていたんです。
そのとき僕は高校生だったんですけど、流行っていたプリンセス プリンセスとかを聴きたいのに、ドリカム(DREAMS COME TRUE)の“うれしい!たのしい!大好き!”がずっとかかっていて(笑)。まだ売れる前だったから「誰?」って感じだったんですけど、でも気づけば口ずさんでて、ちゃんとヒットにもつながった。今はヒットにつなげることが難しいとはいえ、みんなが知っている曲じゃなくても、ディレクターがいいと思った曲をちゃんと意思を持ってかける文化は大事だなと思いますね。
まだ見ぬ「キラーチューン」を探し求め奔走するADのゆかりとパーソナリティーの小山
―爆発的にCDが売れていた1990年代後半と比較して、「CDが売れなくなった」と騒がれたり、近年は音楽業界がかつての活気を失っているっていうイメージを持っている人も少なくないかと思うのですが、実際数字的な部分に関して、NACK5はどのような結果が出ているのでしょうか?
都丸:手前味噌な話なんですけど、NACK5って結構聴かれていて(笑)、実は東京局にも勝っているんです。『GOGOMONZ』はM1F1(男女20歳~34歳)、M2F2(男女35歳~49歳)で聴取率1位を獲ることができている。ビデオリサーチの調べ方は首都圏35km圏で東京中心だから、埼玉でいったら大宮くらいまでなんですけど、そのなかでも勝てているんです。ちゃんと面白いものを作れば、どんな時代でも聴いてもらえるってことを、この番組で証明できたと思っていますね。
何かあったときに、「ネットとラジオは使える」っていう状況を、日本に残しておきたい。
―多くの人に聴いてもらえている理由を、ご自身ではどう分析していますか?
都丸:『GOGOMOZ』って、別に有名なゲストがたくさん出るわけではないんです。たとえば、新しい曲を紹介するときは、せっかくだから現場の人の熱量を伝えようと思って、レコード会社のプロモーターさんにしゃべってもらったりしているんですよね。テレビでもできることだと思うけど、そういうことはラジオのほうがもっと気楽にできる。その熱さみたいなものが、埼玉の県民性に合っていたのかなっていう気もしていて。
―埼玉の県民性というと?
都丸:たとえば、今までサッカーチームがなかったところに浦和レッズが現れて、「レッズを応援しよう!」ってムードになった。NACK5にしても、「オシャレな放送局できたじゃん」みたいなところで、みなさん熱く思ってくれたのかなって。『秘密のケンミンSHOW』(日本テレビ)とかでも、芸能人の方が「昔はFMってNACK5しかないと思ってた」っておっしゃってくれたりして(笑)。
―では逆に、業界全体としてどのような課題を感じていますか?
都丸:レコード会社とラジオ局の関係性が、今は少し離れているように感じます。昔はCDショップとも連携して盛り上げていこうみたいな動きがあったんですけど、今はCDショップがどんどんなくなっていることもあって、レコード会社がラジオ局で積極的に何かを展開しようっていう動きもちょっと減っているんです。なので、特に地方では、生き延びるのに必死だったり、熱が冷めてたりする局もあると思います。
―やはり、シビアな現実も当然あると。
都丸:特に今はマーケティングも厳しくなっている気がしますしね。「この予算を使って、これだけの効果が本当に見込めるのか?」って、レコード会社も冷静に見ているし、ラジオ局もその期待に対してどれくらいの結果を返せるのか、自信がなくなっているところも多いんじゃないかなと思います。
今はセットインユース(スイッチが入っているラジオの数)も落ち気味なので、業界全体で底上げをしていかないといけない。何かあったときに、「ネットとラジオは使える」っていう状況を、日本に残しておきたいですからね。
―そのためにも、ネットとの共存をはじめとした、可能性の模索が重要だと。
都丸:そう思います。昔は放送していればとりあえず聴いてもらえたけど、今はネットをはじめ、いろんなメディアがあるから、まずは聴いてもらう努力をしないといけない。じゃあ、どこで他と差別化を図るかというと、何度も言うように、やっぱり信頼関係だと思うんです。
ラジオは日常性を持たせることができるので、リスナーとの関係性が作れたら、ずっと聴いてもらえるし、ネットにはない温度感や安心感があるからこそ、ネットとも共存できる。そのうえで、ちゃんと音楽を伝えていければなって思います。
ネットでも何でも、やっぱりみんなコミュニケーションを取りたがるじゃないですか?
―最後に改めて『KILLER TUNE RADIO』の話をさせていただくと、「ラジオ局を舞台にした映画」の面白味はどんな部分にあると感じられますか?
都丸:ラジオ局って、人間関係を描くうえでもすごくいいですよね。テレビは、視聴者が画面の向こうにたくさんいる想定で作られていると思いますけど、僕らは一人ひとりに向けて発信している。「リスナーのみなさん」とは言わずに、「ラジオの前のあなた」って言うように心がけているんです。
都丸:ラジオのコミュニケーションにおいては、いかに「俺に話しかけてるんだ」ってリスナーが感じられるかが重要で、その人と向き合って、「今こう言ってあげれば、その人が救われるかもしれない」って考えることが大事。マスメディアでありながら、そういう関係性を作れるのも、ラジオならではかなって思うんですよね。
―Churchillが手がけた主題歌の“Killer-Tune”に対しては、どんな印象を持たれましたか?
都丸:曲名からして「キラーチューンを作る」っていうのは、ものすごいプレッシャーだし、大変な作業だったんだろうなと思います。僕はかける曲を選ぶとき、どこまで本気で作られているかを意識するんです。
すごくまとまっていたとしても、余力を残して作られた曲は響かない。そのときの自分を出し切った曲じゃないと人には伝わらないんですよね。この曲は、一生懸命心のなかにあるものを言葉にして作られたんだろうなっていう印象を持ちました。
監督の柴野太朗(手前)と、主題歌と劇伴を手がけたChurchillの井上湧(奥)
都丸:自分の想いや言葉を絞り出した楽曲は伝わるし、そういう本気さがなかったら、僕はパワープレイにも選ばない。逆にそこが伝わって、誰かに何かを訴える力がある曲だなって思えば、自分の好みじゃない曲でも投票します。そういう力をこの曲からも感じました。
―ぜひこの映画や曲から、ラジオに改めて注目してもらって、さらに言えば、音楽を媒介にしたコミュニケーションのあり方を再考するきっかけになればいいなと思います。
都丸:そうですね。柴野監督や音楽のChurchillさんみたいな若い世代がこういう作品を作ってくれるのは嬉しいですね。ネットでも何でもそうですけど、やっぱりみんなコミュニケーションを取りたがるじゃないですか? 自分のことを伝えたいんだけど、上手く伝えられなくて、ツールだけがどんどん進化していく。ただ、そういう気持ちのやりとりをしたいんだっていうこと自体は、いつの時代も変わらないと思うんですよ。そこを作品のテーマにして、ラジオ局を舞台に描いてくれたのは、いちラジオマンとして非常に嬉しく思います。
『KILLER TUNE RADIO』ロゴ(作品情報を見る)
- 作品情報
- リリース情報
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- Churchill
『Killer-Tune / モラトリアム・カットアップ』 -
2017年8月9日(水)発売
価格:1,000円(税込)
VPCC-823441. Killer-Tune
2. モラトリアム・カットアップ
- Churchill
- 番組情報
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- 『GOGOMONZ』
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毎週月~木曜13:00~16:55にNACK5で放送
パーソナリティー:三遊亭鬼丸、高橋麻美
- プロフィール
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- 都丸征紀 (とまるゆきのり)
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1973年生まれ、埼玉県出身・埼玉在住。1998年、埼玉大学工学部情報工学科卒業。(株)エフエム埼玉(現エフエムナックファイブ)の技術部に4年、編成部に7年在籍、営業5年半を経て編成制作部に配属。『GOGOMONZ』(月-木13:00~16:55)、『カメレオンパーティ-』(日12:55~17:55)、『マジカルスノーランド』(土18:00~21:00)、『FANTASY RADIO』(金26:00~29:00)、『One More Pint』(金18:00~19:00)など担当。
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