一ノ瀬雄太×シンボパン店主対談。イマドキの仕事・消費・交友

多くのモノがインターネットで買えてしまういま、「店に足を運ぶ」行為には、単純な買い物以上の価値がある。10月21日、22日にNEWoMan新宿5F・LUMINE 0で開催される『LUMINE ZERO MARKET』は、多彩なクリエイターやショップが集い、「選ぶ」ことや「出会う」ことを楽しめる予感に満ちたイベントだ。

このイベントでキュレーターを務めるのは、一ノ瀬雄太とシンボユカの二人。デザイナーであり、ロックバンド「快速東京」のギタリストとしての顔も持つ一ノ瀬。立川のパン屋「シンボパン」の店主であり、様々なイベントのケータリングでも活躍するシンボ。どうして二人は多くの出店者を集められるネットワークを持っているのか。そしてマーケットイベントにどのような価値を見出しているのか。彼らが感じているという時代の変化とともに語ってもらった。

遊びと仕事の境目がよくわからないんですよね。(一ノ瀬)

―今回の『LUMINE ZERO MARKET』でキュレーターを務められる一ノ瀬さんとシンボさんは、普段、それぞれ別のお仕事をされていますね。イベントの仕事とどう両立されたのでしょうか?

シンボ:私はただのパン屋なので基本的には仕事の時間外で動きます。でも今回のお話があったのが夏休みに入るときだったのでちょうど時間がうまく使えて出店してほしい方を誘いに行ったりしていました。こういう仕事が入れば、対応できるように頭が切り替わるので、そのへんはうまくやっていますね。一ノ瀬さんのほうが仕事量が多いから大変じゃないですか?

一ノ瀬:僕の場合、デザインもバンドも、仕事といえば仕事だけど、全部楽しいし、遊びと仕事の境目がよくわからないんですよね。大変なことはありますけど、好きなことをやってお金をもらっているので、「仕事、やだなー」という感覚とは違うんです。シンボさんはどうですか?

左から:一ノ瀬雄太(快速東京)、シンボユカ
左から:一ノ瀬雄太(快速東京)、シンボユカ

シンボ:結果的に楽しいと思うんですけど、苦しいときもいっぱいありますよ。ただ、一ノ瀬さんと違って自分にとってパンを作ることと、このイベントをやることは、また違うかもしれない。どっちも本気なのは変わらないけど、「このイベントを仕事でやっています」と言ったら、怒られることも多いと思うんですよ。

『LUMINE ZERO MARKET』イベントポスター
『LUMINE ZERO MARKET』イベントポスター(イベント情報を見る

―今回のイベントに関して、ご本人たちにとっては、好きな人を呼んで、楽しいことをしているだけという感覚なのでしょうか?

一ノ瀬:大変なところは、みなさんが協力してくれているので。

シンボ:そうなんです。協力があるからですよね。

一ノ瀬:参加者みんなで作るお祭りにしたくて。イメージとしては文化祭なんですよね。

一ノ瀬雄太(快速東京)

買い物はやっぱり実物を見ないとよさは伝わらない。(シンボ)

―今回、イベントのキュレーターを務めるにあたって、その他に意識されたことはありますか?

シンボ:いまはマーケットイベントがたくさんあるから、その中で「普通だったらやれないけど、ここだったらやれそうだよね」みたいな可能性が広がるイベントになればいいなと思っていて。私がキュレーションした『宝のもちぐされ市』もルミネ立川でやったんですけど、「ルミネでなんでも揃っちゃう」と言う人と、ルミネにまったく足を運ばない人がいて、私は「どっちの人も来ればいいじゃん」という感じでやったんです。

私のお店がある立川には、大きい商業施設もいっぱいあって、「お客さんを取られちゃう」と文句を言う個人店も多いんです。でも、私はうまく乗っかって、大型の商業施設と私たちがやっているような個人店がお互いにいいものを出し合って、歩くのが楽しい街になればいいなと感じていて。これもその延長だと思っています。

シンボユカ

一ノ瀬:作家が手作りした一点物の作品を取り扱う機運が高まっていると思っています。ネットでなんでも買えるからこそ、作家から直接一点モノを買うことが、より楽しくなって来ていると思いますね。そして、それは飲食も同じ。自分が気に入ったパン屋さんで買うとか。

友人が国産のピーナッツバターブランドをやっていて、日本のピーナッツは世界で一番高級と言われているそうなんですけど。数千円で朝食が楽しくなる。そういうことに、いまものすごい関心が集まっていると思うんですよ。

―確かに、高い缶詰なども流行っていますね。

一ノ瀬:ハワイで1週間豪遊するよりも「ちょっと幸せな週末」を楽しんでいるって感じ。それもインターネットで注文するだけでなくて、自分で足を運んで、気に入ったものを買って帰る。そういうカルチャーが盛り上がってますよね。それをルミネでやることが、今回の僕なりに意識していることですね。

シンボ:会ってもらうことも大事ですよね。誰かお目当ての作家がいる人も多いと思うんですけど、足を運んでみたら、いままで知らなかったモノや人と出会える。そういう場所になったらいいなって。

いまはモノを見ないで買うことが多くなっているけれど、やっぱり実際に見ないとよさは伝わらない。さらに作り手の顔が見えることで、もっとよさが伝わるから、こういうイベントは大事だと思います。

インターネットよりも新幹線のほうがすごいのかもしれない。(一ノ瀬)

―お二人は今回、自身のつながりから40ものお店に声をかけたということですが、なぜそれほど多くの魅力的なお友達がたくさん周りにいらっしゃるのでしょうか? 一ノ瀬さんはデザイナーとしての顔と、バンドマンとしての顔がありますが、交友関係が広いのは職業柄も関係していると思いますか?

一ノ瀬:デザイナーの仕事では毎日知らない人と打ち合わせをしたり、バンドではイベントの主催者や共演者に会ったりするので、人と出会うきっかけが多い職業ではあるかもしれませんね。

―毎日違う人と打ち合わせをするのは、普通のサラリーマンでもあると思います。特に営業マンなら。そこから先が違うのではないでしょうか?

一ノ瀬:うーん、壁を壊しに行くからかなぁ。いきなりタメ口で話したり(笑)。

―それは早く打ち解けそうですね。

一ノ瀬:一緒にチームでやるなら、仲良くなったほうが早いですよね。いつまで経ってもお仕事メールを書いていたら効率も悪いし。思い切って「それ、つまんないっすねー」とか言ってみると、向こうもなんとかしようと思ってくれるかなって(笑)。

僕はデザイナーとして「CEKAI」というチームに所属していますけど、制作期間になったら違うチームの人にも事務所に来てもらうこともあります。なぜかと言うと、やっぱり寝食をともにするじゃないけど、打ち合わせ室から出たときに生まれる会話とかが、結局ものづくりに返ってくるんじゃないかなと思うからです。そのためにわざわざ仲良くなっているわけではないけど、人と仲良くなるということに対して、ものすごい魅力を感じているんです。

一ノ瀬雄太(快速東京)

―ある意味では、とてもアナログに感じられます。

一ノ瀬:以前、ある編集者さんがTwitterで言っていて、ハッとしたことがあって。インターネットが登場して、田舎の実家で仕事ができると思ったら真逆で、みんなオフィスを作って固まろうとするって。コワーキングスペースとかもそうだと思うんですが、1人で仕事ができるようになったからこそ、人との交流を望むようになる。それが日本だけじゃなくて、世界中に起こっていますよね。

―顔を突き合わせたほうがよいということですね。

一ノ瀬:結局、Skypeでは何も決まらないということ(笑)。人にスグ直接会いに行ける新幹線ってやっぱりすごいですよね。

自分の好きなものがあると、いつの間にか友達の輪が広がっているんです。(シンボ)

―シンボさんは、友達とどうやって仲良くなるのでしょうか?

シンボ:なんでだろう……。最初はモノや人に興味を持つことかなぁ。でも、向こうから話してくれるのを待つことが多いかもしれないです。

一ノ瀬:自分から行くだけじゃなくて、紹介してくれる人がいませんか?

シンボ:いますいます。それが多いのかも。

左から:一ノ瀬雄太(快速東京)、シンボユカ

一ノ瀬:自分から話しかけると、コストがグンと上がるじゃないですか? いきなり「すいません、僕デザイナーをやっていて」とか言っても、相手は「えっ?」ってなるのが普通ですし。でも、ギャラリーやライブハウスでは、そこの人が「こちらデザイナーの一ノ瀬さんで……」と、紹介してくれる。

シンボ:まわりにそういう人がたくさんいて、広げてくれているんです。確かに「なんでそんなに知り合いいるの?」と言われることは多いですね。自分でも「なんでだろう?」と思うけど、いつも質問を忘れたりして会話が成り立たないし、別に人付き合いのうまい要素を見つけられなくて。やっぱりまわりの人の力な気がする。私の場合、ケータリングのお仕事も人が誘ってくれて成り立っているので。

一ノ瀬:周りの人に自分を利用していただいている感覚がありますよね。

シンボ:そうかもしれないですね。そしたら自分にいいことが返ってくる。私自身、人と人をつなげるのが好きなんですよ。喋っていると「この人とあの人がつながったら楽しそう!」っていうのが浮かんできます。

左から:一ノ瀬雄太(快速東京)、シンボユカ

―そういう人たちからすると、つなげたいと思う魅力がお二人にあるんでしょうね。

シンボ:あったらいいなぁ。

一ノ瀬:ほんと、みなさまのおかげですよ。

シンボ:それですよね。自分の好きなものがあると、いつの間にか友達の輪が広がっているんです。それが、どんどん広がっていくから、これからもどんどん好きな人が増えるんだろうな。

対岸から見たら超ダサいと思われるようなもののほうが面白い。(一ノ瀬)

―お二人はどんな人やモノを「好き」と感じられますか?

一ノ瀬:その人じゃなきゃできないことをやっている人が好きなんですけど、いま、デザイナーはみんな自分を見つめ直している時期だと思うんです。「自分にしかできないことなんて、果たして本当にあるのか」という自問自答を繰り返している。でも、その話も既に不毛な時代に突入していると思っていて。

―どう「不毛」なのでしょう?

一ノ瀬:たとえば、1000人のクリエイターを集めて、いちばんイケてるのはこの人、みたいな話じゃなくて、1000人全員に魅力があると思います。これは多くのジャンルに当てはまると思いますが、みんなが楽しいコンテンツって、最終的にはイマイチになるケースもあって、対岸から見たら超ダサいと思われるようなもののほうが面白いことが多い。

それはカルチャーのジャンル同士の小競り合いだったりするんだと思うんですけど、反対側から見たらまったく同じ感情なんだろうなと思うから、そこは自分たちの感性を信じるしかない。どっちが上か下かの話じゃなくて、「僕たちはこれがいいと思っています」と表明するべきだと思うんです。

一ノ瀬雄太(快速東京)

―まわりの意見は気にせず、好きなものを好きと宣言するということですね。

一ノ瀬:結局、どんなに売れたものでも、全員がバンザイすることなんてないですよね? それはコンテンツに関わる仕事をしている者としては、常に思います。いまは昔みたいに「アイドルのあの子が一番かわいい」みたいな価値観をメディアが生み出さなくなっていて、それぞれの価値観があっていいよねっていう時代だと思うんです。

―誰かから見てダサいものでも、別の誰かから見たらかっこいいっていう発想は素敵だと思います。

一ノ瀬:そうだと思います。僕も「あれは寒いな」と思うものもあるけど、向こうからしたらロックバンドやっているデザイナーとか本当に寒いだろうと思うし(笑)。そういう時代なんでしょう。「かっこいい」の価値観もぐちゃぐちゃじゃないですか。筋肉ムキムキが好きな人もいれば、メガネをかけた文化系が好きな人もいるわけだから。

僕がいちばん危険だと思うのは、世間一般に対して「こういうちっちゃいコミュニティーでやってるイケてる作家がいるんですよ」っていう言い方。そこは単純に「こういうことをやってる人がいるので、ぜひ見てください」という正々堂々としたスタンスでいるべきなんじゃないかなと。

シンボ:自分が好きっていうのは変わらないからね。

一ノ瀬:そこは胸を張って言えばいいと思います。

―では最後に、そうしたお二人が胸を張って「好き」と呼べる方々が集まった『LUMINE ZERO MARKET』を、お客さんにはどう楽しんでいただきたいですか?

シンボ:本当にいろんな人を呼んでいるから、逆に楽しみ方を教えてほしいくらい(笑)。これだけの広さにこれだけの人が集まって空間を作るから、自由に歩きながら楽しんで、新しいものを知ったり、発見してもらったり。出会ったことないものに出会ってほしい。

左から:一ノ瀬雄太(快速東京)、シンボユカ

一ノ瀬:けっこうな種類の店に参加してもらうんですよ。洋服屋さんも古着で有名な渋谷のBOYも出てくれたり、『走るひと』というランカルチャーの本を作っているチームが、ランウェアに特化した古着市をやってくれたり。

1980~1990年代とかの古着でも、ランウェアとして機能がちゃんとしているものはあるんですよ。多くのメディアは新製品の紹介がメインだと思うけれど、彼らはそうじゃない。「古着でもいいランウェアあるよ」みたいな、こういうときにしかできないことをアイデアとして出してくれて。

あとはUltra Inazumatic DJsというDJユニットに、レコードの中古市をやってもらえることになりました。

シンボ:あと、スタイリストの高山エリさんがスナックをやるんです。スタイリングのお悩み相談をしながら、ファッションで自分が変わる方法などをアドバイスしてもらって、そのまま買い物も楽しんでもらう。単なる買い物だけでは終わらない空間になると思います。

シンボユカ

―確かにネットで買い物するのとは、かなり違う体験ができそうですね。

シンボ:それに、magmaのキーホルダーも絶対に見て触らないと魅力がわからないと思います。

一ノ瀬:全部本人たちが手作りして、一個一個作ってるから、形とかちょっとずつ違うんですよ。

シンボ:「選ぶ」とか「出会う」っていう行為を楽しんでほしい。買い物って、それが楽しいと思うんです。私が買ったものも、たまたま出会ったものばっかりだし。

一ノ瀬:きっと宝物になるようなものに出会えると思います。

イベント情報
『LUMINE ZERO MARKET』

2017年10月21日(土)、10月22日(日)
会場:東京都 新宿 LUMINE 0(NEWoMan新宿・5F)
入場無料

プロフィール
一ノ瀬雄太 (いちのせ ゆうた)

ロックなグラフィックデザイナーとしてクリエイティブチーム「CEKAI」に所属。またロックバンド快速東京のギターでもある。雑誌『走るひと』、雑誌『STUDY』のアートディレクションを始め、さまざまな媒体のデザインに携わりながら、『シティボーイ縁日』などといったイベントのオーガナイズも手がける。快速東京は現在ニューアルバムを製作中。

シンボユカ

2010年12月、立川にてパンと喫茶の店、シンボパンを始める。毎日食べたくなってしまう素朴でおいしいものがとてもすき。お店のコンセプトは「あなたの街のふれあいの店」。また、店内では音楽や展示などのイベントを開催したり、さまざまなアーティストのケータリングにも参加し活動の幅を広げている。



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