2017年9月8日、オーストリアのリンツで開催された『アルス・エレクトロニカ』の授賞式に登壇したやくしまるえつこは、本年の「STARTS PRIZE」グランプリ受賞作となる『わたしは人類』を演奏した。作品の背景については別の記事をあたられたいが、微生物のDNAを用い、アートとサイエンスと音楽を融合した本作の越境性と先進性が高く評価されたということだろう。
筆者が『わたしは人類』の構想を知ったのは昨年5月。相対性理論が5作目のアルバム『天声ジングル』を出してすぐ、7月には武道館公演が控えるなか、やくしまるえつこはこのような重層的なテーマを構想し、淡々と実現していった。いったいFenderのジャズマスターがひときわ大きく見える小柄な身体のどこにそのような力があるのか。フィジカルリリースする『わたしは人類』のことはもとより、相対性理論の活動から創作の源泉まで、DNAさながら螺旋状に展開する対話を行った。
DNAも無機質ではないんです。ロマンチックなものではあるので、そこは汲みたいと思っていました。
—CINRAは相対性理論を活動初期から追っていて、主催イベントの『exPoP!!!!!』には2008年に出演してもらっています。先日の日比谷野外音楽堂で『exPoP!!!!! vol.100』に出演していただいたのはそのようないきさつもあったわけですが、野音でやくしまるさんはギターを弾いていましたね。人前で演奏するのははじめてですか。
やくしまる:過去にもあります。2014年に出したやくしまるえつこ名義の“絶対ムッシュ制”ではノイズギターを弾いていて、相対性理論の北海道公演でその曲を演奏したときにもギターを弾きました。
—ここにきて、なぜギターが再登場したんですか。
やくしまる:ちょっとグレようと思って。
—ギター=グレるなんてのは、昭和40年代の図式ですよ。
やくしまる:近頃はDNAやゴーストなんかを扱っていたので身体が軽くなりすぎて。夏も終わるし、重くて硬くて速い武器で革命でも起こそうかなあと思ったんです。鉄っぽさも加味して、野音では(Fenderの)ジャズマスターにしました。
ギターを演奏するやくしまるえつこ@『exPoP!!!!! vol.100』(撮影:中野泰輔)
—きっと音の張る音なんでしょうね。
やくしまる:殴れそうなくらい硬い音です。
—演奏はちゃんとしていましたね。
やくしまる:ちゃんと弾いていますが、かなり歪ませているし、アタッチメントでフィードバック気味にしているので、音の原型はとどめていなかったかもしれません。dimtakt(やくしまるオリジナルの9次元楽器)を弓やピック代わりにして同時に演奏するということもしていました。
—ライブのとき、やくしまるさんのまわりにはいろいろな機材がありますが、そのなかの不良要素としてギターを導入したということですね。
やくしまる:そう、新しい武器です。
—心情的な変化があったんですか?
やくしまる:ないよ、そんなもの。
—さっきグレたかとおっしゃいましたよね。
やくしまる:みんな理由があってグレるの?
—理由なくグレるほうが底知れないじゃない。理由なき反抗でしょ?
やくしまる:そう。
—とはいえ、やくしまるさんはノーウェイヴのひとでもあるから、ギターを弾くのはわからなくもないです。昔からDNA(バンド)が好きで、メンバーのアート・リンゼイとも共演していますものね。
やくしまる:はい。
—私が以前『別冊ele-king』という雑誌でアート・リンゼイの特集をしたとき、やくしまるさんにもご寄稿いただきました。ちょうど相対性理論が『天声ジングル』を出したあとで、『わたしは人類』にとりかかったころでしたね。
やくしまる:あれも完全にギャグでしたものね。
—DNAつながりですね。とはいえ、『わたしは人類』でDNAの配列を楽曲に落とし込むというコンセプトを聞いたとき、難解な曲になりそうな気がしましたが、結果的にすごくポップになりましたよね。初めて聴いた時から、いい曲だなと思ってました。
やくしまる:ありがとうございます。
—シンプルですよね。
やくしまる:そうね、塩基配列とかって組み合わせは複雑だけど、仕組みはすごくシンプルなので。起伏やストーリーが埋め込まれているわけではなく、ただの情報の羅列で、そこにドラマ的な浮き沈みはない。したがってエモーショナルな音楽にはせず、わりとシンプルな作りにしていますね。
—エモーショナルではないですが、単調でもないですよね。
やくしまる:シンプルだからといって、DNAも無機質ではないんです。配列はストーリーという機能を発現する可能性を含んでいる。ロマンチックなものではあるので、そこは汲みたいと思っていました。
『わたしは人類』 / 人類史上初めて音源と遺伝子組換え微生物で発表された作品。DNAを記録媒体として扱い、楽曲データを微生物に組み込んでいる。人類滅亡後の未来で、この音楽が再生されることはあるのか?
基本的には常に、ちがう自分がやっているものだと思っています。
—私が『わたしは人類』の構想をはじめてうかがったのは2016年5月でした。4月には『天声ジングル』をリリースし、『わたしは人類』を出展した『KENPOKU ART 2016』のオープニングは同年の9月。あいだに7月22日の武道館公演を挟み、アニメ『セーラームーン』の主題歌を手がけていますから、昨年は結構なハードワークをこなしていたわけですよね。
やくしまる:そうみたい。憶えてない。武道館も自分で演出まわりまでやっていたはずだけど、いったいいつやっていたんだろうとは思います。
相対性理論@『exPoP!!!!! vol.100』(撮影:みらい制作)
—去年の自分はちがう自分な感じがする?
やくしまる:基本的には常に、ちがう自分がやっているものだと思っています。へーそうなんだって感じです。
—“わたしは人類”を舞台にはじめてかけたのは?
やくしまる:2016年の自主企画『証明Ⅰ』です。
—11月に新木場Studio Coastでやったオマール・スレイマンと相対性理論の2マンですね。よく考えると、“わたしは人類”は相対性理論の曲ではないんですよね。なのに、やくしまるさんが関係する近作ではもっともバンドっぽいかもしれない。
やくしまる:バンドでやるときはバンド用にアレンジし直すから、それもあってそう聴こえるのだと思います。
—そうかな。もともと演奏者が自由にしやすい構造だと思いますよ。
やくしまる:そうだね。
『わたしは人類』という微生物自体に、突然変異をひき起す配列が組み込まれている。
—バンド用のアレンジを含めて、“わたしは人類”には増殖するイメージがありそうですね。
やくしまる:もちろん。音楽が変異するのも『わたしは人類』という作品の一部なので、変異のひとつとしてライブバージョンが存在するのです。
—そこでは演奏の失敗=バグすら突然変異として許容される。
やくしまる:そう。『わたしは人類』という微生物のDNAには、トランスポゾンという転移することによって突然変異をひき起す配列が組み込まれていて、曲の元になっているのもその配列なんです。そしてその塩基配列をフレーズ化したものが、楽曲のなかにあらわれます。
『アルス・エレクトロニカ』授賞式での『わたしは人類』パフォーマンス風景(撮影:tom mesic)
—それは具体的にどの音を指していますか。
やくしまる:例えば“わたしは人類”には長めのインターバルがあるんですが、そこでそのフレーズがあらわれます。シンセのフレーズですね。
—音楽的なセオリーに則ったフレーズなんですか。
やくしまる:セオリー的ではないので、反復すると気づくようなものでもありません。なのでフレーズというには語弊があって、ものすごく長いフレーズと捉えることはできますが、記憶できるようなものではない。
暗号化して音楽的なフレーズにしてしまうことも考えましたが、塩基配列の美しさとおそろしさのあらわれを考えてこの形にしました。このトランスポゾンはMVにも仕掛けていて、MVはセル・オートマトンのライフゲームのルールで作っているのですが、トランスポゾンのフレーズがあらわれるタイミングでルールに変異が起こるようにプログラミングしているのです。最近リリックビデオという歌詞が出てくるビデオが流行っていますが、こっちはジェネティックビデオと呼んでいます。
—やくしまるさん、薬が好きなんですよね。
やくしまる:ジェネリック(generic=汎用的な、後発の)じゃないですよ、ジェネティック(genetic=遺伝的な)です。
—でも薬はお好きですよね。
やくしまる:クスリはないと困るかもしれないですね。
—薬好きが昂じてこういうコンセプトになった?
やくしまる:まったくちがいます。
『アルス・エレクトロニカ』授賞式での『わたしは人類』パフォーマンス風景(撮影:tom mesic)
ポストヒューマンもきっと『わたしは人類』に隠された仕掛けに気づくと思うんです。
—『わたしは人類』のような複合コンセプトの作品は、ハナからそういう構想だったのか、それとも作っていくうちにそうなってしまうのか、どちらでしょう?
やくしまる:ハナから。単一コンセプトだって、結局は削ぎ落とす作業をした結果だと思います。
—作品を作るにあたっては、いろんなことが思いついてしまう?
やくしまる:そうですね。それこそ病気かもしれない。思いつくことは「できる」ことになるから、思いつかなきゃよかったと思うこともあります。それを無視すること、もしくはそれを別の機会にとっておくという理性的な判断が働くこともときにはありますが、一番いいのはだまっておくこと。言ってしまったら、やらなきゃいけなくなる。
『アルス・エレクトロニカ』授賞式の様子(撮影:tom mesic)
—アートを作るときと音楽を作るときの頭の働きはおなじですか、ちがいますか?
やくしまる:あーうー(と唸る)……料理をするときにどんな食材や環境があるか、ということとおなじです。食材が有機物か無機物か、環境はキッチンなのか理科室なのか無人島なのかといった条件によって食べ物の作り方はかわるので、個々の作品で頭の働かせかたはちがいます。あるいはどのようなアイデアがあるかということです。基本的に作るのはすべて頭のなかです。
ですが最初にアートと音楽で分類するわけではないし、その2つを比較させてどうかといえば、アート作品も音楽もおなじです。頭のなかで想像する。想像できないものは現実の世界でもできないと思うので、ある程度頭のなかで完成し、あとは全部書き起こす、現実化する作業です。
—その過程で構想との齟齬は生まれますか?
やくしまる:もちろん現実的な問題があれば齟齬は生まれます。
—それを解消しようとしますか? それとも齟齬をとりこみ次の工程に進みますか。
やくしまる:齟齬は基本的にあってOKです。だから『わたしは人類』自体も読みとり手による変異をよしとする作品なんです。
人類が滅んだあと、微生物に埋め込まれた音楽の配列をポストヒューマンが解読したとき、どのような結果を生むかは彼らの解釈しだいです。この音楽がどのように鳴るかは読みとり手に任せられている。その意味で『わたしは人類』は究極の齟齬ですよね。
相対性理論@『exPoP!!!!! vol.100』(撮影:中野泰輔)
—微生物に埋め込んだDNAコードの配列を読み解くと、私たちが聴いている音楽とはまったくちがう結果を生むかもしれないということですね。
やくしまる:そもそもポストヒューマンなるものが、人間が発明した「音楽」とおなじものを持つともかぎらないわけです。絵みたいなものになるかもしれないし、言葉なのかもしれない。
2003年にヒトゲノム計画が完了し、現在ゲノム解析はとても進んでいます。ですが、それでもあらゆる生物のDNAに、機能が不明な配列はまだまだあるのです。やくしまるはそこに興味を持ってしまう。それらは機能が不明とはいえ、何かしらの役割、例えばスイッチなどの機能を担っているのではと言われています。そんなふうに機能不明の配列に意味を求めて解析するわれわれのように、ポストヒューマンもきっと、『わたしは人類』という微生物に隠された仕掛けに気づくと思うんです。結果的にそれが、人類の壮大ないたずらで、生物の種の存続とは無関係の、音楽という種の存続のためのものだったなんて頗る楽しいじゃないですか。
自分のための曲だったら、きっと歌わないです。
—話はかわりますが、『わたしは人類』は『天声ジングル』と相関関係にありますよね。
やくしまる:どんな? 誘導尋問は止めてください。
—人類なり神なり、グローバルというよりプラネタリー的な視点を、最近のやくしまるさんはお持ちだとお見受けしますが。
やくしまる:『天声ジングル』では、はじまりとか終わりとかを接続していくことで意識的に意識しないということをやっていた。それにたいして『わたしは人類』の主題であるDNAの螺旋構造には、はじまりと終わりはあるにせよ、遺伝子は変異を起しながらも脈々と受け継がれていて結局どこがスタートでストップかわからない。その部分はリンクしていると思うし、2つあわせて創造論と進化論のあいだを縫うような作品であるとも言えるかもしれません。
—私がもうしあげている共通点は意図ではなくて、『天声ジングル』と『わたしは人類』には通底する視点があるということなんですね。「神の視点」とでもいえそうな。
やくしまる:自分がそういった視点しか持てないからかもしれません。でもそれが特殊だとは思いません。
—むろん音楽的な面は、いちがいに「神の視点」では括れませんよ。さっき“わたしは人類”はエモーショナルにしないように心がけたとおっしゃいましたが、私は近作のなかではけっこうエモい部類の曲だと思うんですよ。
やくしまる:そうかもしれませんね。楽曲の構成に関しては、ATGC(DNAの4つの塩基)で構成されるDNAシークエンスのようにすっきりとしたものを心がけましたが、そのDNAシークエンスは遺伝情報を保持していて機能を発現するかもしれない。それはとても「エモい」展開なのでそのことは意識していました。
それに、今回のプロジェクトで新たに遺伝子を組み込んだ微生物自体に『わたしは人類』と名づけたのですが、その『わたしは人類』さんのことを思うとエモーショナルにうったえてあげなきゃという気にもなります。これが自分のための曲だったらこういった心がまえにはならないです。
『アルス・エレクトロニカ』授賞式での『わたしは人類』パフォーマンス風景(撮影:tom mesic)
—でもやくしまるさんがこれまで歌ってきた曲に自分のためのものなんてないでしょ?
やくしまる:そうなんですけど。
—自分のための曲だったらどういった歌い方をするんですか。
やくしまる:(きっと)歌わないです。
—ほらご覧なさい。
『わたしは人類』自体、受けとる相手を想定していませんから。
—それはともかく、自分のための歌をそろそろ歌ってもよい気もしませんか。やくしまる:その考えはすごくドラマチックですが、「『そういう行為はきっとドラマチックだわ』とインプットしている人格がいるわ」、というように重層的に考えてしまいます。「ギターを掻き鳴らしちゃうわ」という子をアウトプットしたのとおなじように。
—野音のときは、ギターを演奏するご自分を俯瞰している感じだったんですね。
やくしまる:女のひとが歌いながらギターを持つと、どうしてもそういう記号性を付加されてしまいます。自分が作詞作曲するさいに名前を変えるのもおなじ理由で、女性が作詞作曲をして自分で歌うと、それだけでお話ができてしまうので、それを無効化するために名称を変えているし、それとおなじ意味でいままでギターを持たなかったんです。
相対性理論@『exPoP!!!!! vol.100』(撮影:藤田恵実)
やくしまる:ただ今回、その封印を解いたという意識はありません。「自分がやっている」という感覚が希薄なあまり、作り方やパフォーマンスが身体性と乖離しがちだったので、バランスをとったのです。身体というツール、質量があるならそれも使おうと思って、とりあえずは手近にあったギターを持ちました。
野音の前の中野サンプラザ公演では『YXMR Ghost “Ob-jet”』 (ヤクシマル・ゴースト・オブジェ)という装置を使っています。『オブジェ』は空間上にアバターを出す装置ですが、あれはゴーストがデジタル空間に触れることで音・映像・照明を操作することができるものですので、ゴーストが主体でやくしまる自身がオブジェともいえる。主体と客体の入れ替わりを狙った装置でもあります。だけどギターは主体に質量がないと鳴らせない。真逆の方向性をとったのです。
相対性理論『証明Ⅲ』@中野サンプラザの様子。『YXMR Ghost “Objet”』によって、相対性理論の背景にやくしまるえつこのゴーストがリアルタイムに映し出されていた(撮影:Hazuki Muto)
—物質という意味では、ギターの代わりにサックスやトロンボーンを吹くこともあるかもしれない?
やくしまる:最近はドラムもやっているんです。過去にも叩いていたことはありますが、あれも身体的な楽器だから。
—『YXMR Ghost “Objet”』はサンプラザが初お目見えですか。
やくしまる:そうです。
—開発したいきさつを教えてください。
やくしまる:(めんどくさそうに)もともとジェフ・ミルズと共演したライブのときに使った『YKSMR Oculus』(ヤクシマルオキュラス)というのがあって、あれは手の動きをセンサーで感知して、そのデータを『オキュラス』にリンクさせていたんですが、考え方としてはその延長です。
やくしまる:『オキュラス』は映像に特化しているので音を指揮することはできても操作したり鳴らすことはできません。そこで『オブジェ』は、KAGURAという装置の開発者と共に、音と照明と映像を一括でハッキングするような装置として構築しました。
装置全体は、根幹の部分にKAGURAを使ってはいますが、やくしまる用に大幅にチューンアップして拡張してあります。演奏の自由度を上げるために出力にはAbleton Liveを使用したり、ギターなどの生音をリアルタイムでインプットして空間操作でミックスやフィルターできるようにしたり、VJ機能を担うために操作アイコンをオリジナルアニメーション化したり、MIDI経由で照明も制御したりしています。
—映像、照明まで制御するとなると舞台上からさらにいろんなパートに気をまわさなければならなくなりますよね。
やくしまる:なんでこんなこと思いついたんだろうと思いました。
—でも、全体の空間の完成度はよかったです。演出としても効果的でしたものね。
やくしまる:そうなんですよ(痛し痒しといったところ)。なんでできちゃったんだろうと思っちゃいます。
相対性理論『証明Ⅲ』@中野サンプラザ(撮影:Hazuki Muto)
—VJって映像と音のシンクロを演出するものなのだけど、演出するということはそもそもシンクロしているわけではない。タイムラグがあるわけですよね。それがステージ上で操作できるのは画期的だと思いました。やくしまるさんのコントロールフリークぶりをあらわしている、という意見もありますが。
やくしまる:コントロールフリークということになるかはわかりませんが、ライブパフォーマンスにおいては、ボーカルは最前線でそのバンドの音をお客さんに届ける役割を担っていると思われがちです。でも自分はそれをまったくやってこなかった。
こちらが「届けよう」と思うと、お客さんに「受けとらなきゃ」って姿勢を強制してしまいそうじゃないですか。それが必要ないなって。そもそもこういう音(といって取材場所の空調を指さす)が好きな幼少期を送ってきたので、拾ってください、聴いてください、という気持ちを音楽に込めるという考え方が希薄なのです。『わたしは人類』自体、受けとる相手を想定していませんから。
—それをいえば、相対性理論の活動もまた『わたしは人類』的かもしれない。
やくしまる:そういう存在の仕方が、逆に場を掌握しているように感じさせる原因なのかなとも思います。でも本当は掌握する気もないですから。
相対性理論@『exPoP!!!!! vol.100』(撮影:みらい制作)
—空調の音が好きになったころから、そのような考えた方だったんですか。
やくしまる:はじまりをいわれると困るんですが。いつ気づいたのかってことだけだと思います。
—あたしヤバいヤツかも、と思ったのはいつですか。
やくしまる:いまもヤバいヤツだなんて思っていません。
—二十歳前後でしょうか。
やくしまる:なんで勝手に決めるんですか。
—とはいえ、自分がヤバいと気づく前からすでにものを作ってはいたんですよね?
やくしまる:作る? いつだろう。それって子どもが絵を描くのは?
—たしかに絵が好きな子はいっぱい描きますよね。やくしまるさんは好きで音楽をやっていますか。
やくしまる:好きでやっていることはないですね。子どものころのことをいえば、修理や計算ばっかりしていて、表現することとは真逆でした。父親からもらったよくわからない機械を、それがなんなのか理解するためにまず解体して、元通りに動くように修理する――組み立て直す作業をずっとやっていたんです。稼働チェックをして、マニュアルまで作っていました。マニュアルを作るとき、絵を描いて番号をふるんですけど、絵を描くのも最初の興味の対象はパースや構図や幾何学的原理でした。
—解体するのが楽しかったんですか。
やくしまる:仕組みや、どういう原理で動いているのかを理解するのが好きでした。それはいまだにあります。なにかを支配したいとか思い通りに動かしたいというよりは、理解したい気持ちのほうが強いんです。理解してしまえると、自分で作れるようになるので、それもあって、いろんなことに手をのばしてしまうのかもしれない。
—そんな幼少期を過ごしながらも、音楽が難解にならず、ポップなのが相対性理論の面白いポイントでもあります。
やくしまる:自分の性質として、ひとと一線を引きがちなタイプだというのはわかっているので、だからこそ、やる音楽についてはポップであることは最初から心がけていました。
—そこは変わらず一貫していますよね。
やくしまる:そうじゃないとヘンなひとになっちゃうもん。それよりも、まっとうな社会性を持って生きていきたいので、オフィスに出勤するような感覚でポップな音楽を作っています。
- リリース情報
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- やくしまるえつこ
『わたしは人類』 -
各配信サイトにて好評配信中
- やくしまるえつこ
- イベント情報
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- 『コレクション展2 死なない命』
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2017年7月22日(土)~2018年1月8日(月・祝)
会場:石川県 金沢21世紀美術館
時間:10:00~18:00(金、土曜は20:00まで)
出展作家:
やくしまるえつこ
エドワード・スタイケン
BCL
ダミアン・ハースト
ヴィック・ムニーズ
日比野克彦
八谷和彦
ヤノベケンジ
粟津潔
川井昭夫
イ・ブル
椿昇
Chim↑Pom
休館日:月曜(10月9日、10月30日、1月8日は開館)、10月10日、12月29日~1月1日
料金:一般360円 大学生、65歳以上280円
※高校生以下は無料
- プロフィール
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- やくしまるえつこ
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音楽家、プロデューサー、作詞・作曲・編曲家として「相対性理論」など数多くのプロジェクトを手がける他、美術作品、プロデュースワークや楽曲提供、映画音楽、CM音楽、朗読、ナレーション、と多岐に渡る活動を一貫してインディペンデントで行う。坂本龍一、ジェフ・ミルズ、アート・リンゼイ、マシュー・ハーバートら国内外アーティストとの共演や共作、人工衛星や生体データを用いた作品、人工知能と自身の声による歌生成ロボット、オリジナル楽器の制作などの試みを次々に発表。2016年には相対性理論『天声ジングル』、Yakushimaru Experiment『Flying Tentacles』、美少女戦士セーラームーン主題歌『ニュームーンに恋して / Z女戦争』をリリースし、レコード会社にもプロダクションにも所属しないアーティストとして初となる日本武道館公演「八角形」を開催。また、ポップミュージシャンとしては極めて異例の、山口情報芸術センター[YCAM]での特別企画展「天声ジングル - ∞面体」が行われた。バイオテクノロジーを用いて制作し、人類史上初めて音源と遺伝子組換え微生物で発表した作品『わたしは人類』でアルスエレクトロニカ・STARTS PRIZEグランプリを受賞。オーストリアやベルギー、金沢21世紀美術館などで展示されている。
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