昨年11月23日、自身が企画した結成20周年ライブ『SAITAMA ROCK FESTIVAL “SAI”』をさいたまスーパーアリーナで開催、その後、12月13日には、通算11作目となるアルバム『Λ』(読み:ラムダ)をリリースするなど、早くも次のステップへと踏み出したACIDMAN。そのフロントマン・大木伸夫が、さらに新たなプロジェクトに挑もうとしている。今年2月、東名阪の3か所で開催されることが決定した『JALCARD presents ROCKIN' QUARTET TOUR 2018』だ。
ボーカリスト・大木伸夫とバイオリニスト・NAOTO率いる弦楽四重奏が、ACIDMANの名曲を弦楽アレンジで披露するこの企画。昨年6月、一夜限りのプレミアムライブとして開催され、予想以上の反響と手応えを得たというライブの再演は、果たしてどんなものになるのだろうか。そして、前回の共演は、それぞれにどんな影響を及ぼしたのか。大木伸夫とNAOTOの二人に、自身の音楽観を交えながら語り合ってもらった。
最終的にあのフェスの場に流れていた空気は、もう本当に「愛」でしたね。(大木)
—『SAITAMA ROCK FESTIVAL “SAI”』が終わり、約1年にわたった結成20周年の諸々のリリースやイベントも、ようやくひと区切りがつきました。
大木:フェスが本当に集大成だったんですけど、それが無事大成功に終わって。ただ、そのあとに『Λ』が出て……すぐ次に動こうっていうのは、もう1年前ぐらいから決めていたので、気持ち的には21年目のモードが始まっていますね。
NAOTO:僕も行かせていただいたんですけど、久しぶりにライブで泣きました。
大木:ああ、嬉しいっすね。ありがとうございます。
NAOTO:もうあんなに素敵なフェスはないですよ。もともとフェスっていうのは、こういう感じだったんだろうなと。そもそも「フェスティバル」っていうのは「祭典」なわけじゃないですか。何か理由があって、それをみんなで祝おうっていうのが、フェスの始まりだったと思うんですけど、今は単なるイベントみたいな感じになっているものが多いというか……。みんなが「祝う理由」を知っていることの強さってあると思うんです。
—ASIAN KUNG-FU GENERATIONやストレイテナー、BRAHMANなど錚々たるバンドの方々が、ACIDMANの20周年を祝いにきているわけですからね。
NAOTO:そう。出演者の方々は、全員大木くんが直接誘って、それに対して「うん」って言った人が出ていて、お客さんもそれを理解した上で来ているわけで。「ああ、これがフェスなんだな」って感じたというか。だから僕はもう、大木くんの最初のMCから泣きそうでしたね(笑)。
『SAITAMA ROCK FESTIVAL “SAI”』の模様(サイトを見る) / Photo by 三吉ツカサ
大木:ありがたいことですね。NAOTOさんがおっしゃってくれたように、「これが本当のフェスなんだ」っていうのは、自分でも感じました。出てくれた人たちがほとんど同世代のバンドで、20年やってきた仲間たちのための場所を作れたなと。しかもお客さんも、このシーンをずっと見てきた人たちだったから、なおさら感動に包まれるというか……最終的にあそこに流れていた空気は、もう本当に「愛」でしたね。
目に見えない世界を信じて、そこにどっぷり浸りながら、宇宙の果ての銀河の人の声を聴くことができるというか。(大木)
—今回のNAOTOさんとのプロジェクト『ROCKIN' QUARTET』について伺いたいのですが、そもそも、ACIDMANを20年やってきたなかで、大木さんがボーカル単体として他の活動をするのは珍しいことですよね?
大木:珍しいですね。ボーカル単体で呼んでもらうのは、2015年に小林武史さんに呼んでもらったのが初めてで。
—InterFM897開局イベント『897 sessions』ですね。
大木:それがやっぱり、自分としては大きかったです。自分自身、ロックバンドのギターボーカルとしてしかやってきてないので、まさか自分がボーカリストとして、小林さんに呼んでもらえるとは……小林さんが、僕の声に「宇宙を感じるんだよ」って言ってくれたことが嬉しかったんですよね(笑)。
—小林武史さんからの評価が、大木さんのボーカル単体での活動につながっているんですね。ではこの『ROCKIN' QUARTET』は、大木さんのなかで、どんな位置づけのものになるのでしょう?
大木:これはやっぱり特別なもので。普段ライブで僕が歌うのとはまったく違う、本当に180度違うと言ってもいいぐらいの心持ちでやっているライブです。普段僕は、ACIDMANとしての全責任を背負ってやっているんですけど、『ROCKIN' QUARTET』の場合は、NAOTOさんたちが作ってくれたものの上でしっかり歌に集中してやればいいだけなので、気持ち的には非常に楽ですね(笑)。
—もしかすると、ACIDMANのとき以上の歌声を聴けるかもしれないと(笑)。
大木:ギターも弾かずにボーカルだけなので、バンドのとき以上に、一つひとつの言葉に心を込められるし、本当に自由に歌わせてもらっている感じがあって。やっぱり、そういう場所で歌わせてもらうと、変な言い方ですけど、酔いしれることができるんですよね。
2017年6月の『ROCKIN' QUARTET』の模様 / Photo by 高田 梓(AZUSA TAKADA)
—やっぱり全く別の感覚なんですね。
大木:自分の脳みそを超えて、音楽に身を預けられる――目に見えない世界を信じて、そこにどっぷり浸りながら、宇宙の果ての銀河の人の声を聴くことができるというか。これは僕の基本的な思想でもあって、そのために音楽をやっているようなところもあるんです。「小三病」って呼んでいるんですけど、僕、小学生の頃に言っていたことが、そのままの感じで大人になっているので(笑)。
—「小三病」(笑)。
大木:ACIDMANだったら、冷静な自分も一部にいるんだけど、『ROCKIN' QUARTET』の場合は、全然躊躇なくそこに入り込むことができるというか。そういう感じがありますね。
ACIDMANの曲は、まず骨を太くすることが考えられているんですよね。(NAOTO)
—NAOTOさんにとって『ROCKIN' QUARTET』はどんなプロジェクトなのでしょうか?
NAOTO:このプロジェクトは、共通の知り合いが間に入って実現したんですけど、自分だったら、きっとこういう企画は考えないと思います(笑)。僕自身、ロックやポップスの人たちとの共演は多いですけど、カルテット(弦楽四重奏)とボーカルのみでやるっていうのはかなり冒険で。
というのも、ドラムとベースなしでロックをやって本当に成立するのかなっていう。だから、お話をいただいたときは、面白いけど、「ロックな感じ」に聴かせるのは難しいかもなって思ったんです。
—実際、ACIDMANの楽曲をアレンジする際、どんなことを意識されたのでしょう?
NAOTO:ACIDMANが持っている「ロック感」をいかに損なわずにやるかはかなり意識しました。やっぱり音楽っていうのは、聴いてくれた人が判断するものじゃないですか? だからACIDMANのファンが聴いて「え?」って思ったら、僕はもう終わりなわけですよ(笑)。それが一番プレッシャーでした。
—ファンの期待を裏切らないために重要だった、いうなればACIDMANの音楽の根幹にある「ロック感」というのは、どういうものを指すのでしょう?
NAOTO:ACIDMANの曲を解剖しながら、改めてすごいと思ったのは……普通は、たとえば骨があって肉があって脂肪があってっていうふうに、曲は作られていると思うんですけど、ACIDMANはまず骨を太くすることが考えられているんですよね。
大木:ああ、すごいっすね。まさにそうですわ。
NAOTO:その「骨の太さ」をちゃんと残すために、原曲のリズムを必ず想起させるというのを今回のアレンジ上のルールにしたんです。それを排除したら、もっと展開できるんですけど、骨の部分は絶対削らないということは、僕のなかですごく意識しましたね。
『ROCKIN' QUARTET』でのアレンジは、いわゆる教科書通りのものとは全然違って。(NAOTO)
—その「骨の太さ」というのは、3ピースでずっとやっていくなかで、無意識的に生まれてきたものなのでしょうか?
大木:いや、もう骨を太くするっていうことに関しては、かなり意識的にやってきてます。
NAOTO:あと、ACIDMANのライブを観て思ったのは、お客さんに想像させる余白を作っているんですよね。ギターを弾きながら歌っていても、そのフレーズをお客さんの頭のなかにしっかりとイメージさせた上で、次のパターンにいくというか。
大木:さすが、見てるなあ(笑)。
NAOTO:普通にカルテットでアレンジする場合、曲の起承転結をつけるために、あえてそういう余白を削ぎ落としたりするんですよ。でも、そうするとロック感がなくなってしまうから、『ROCKIN' QUARTET』でのアレンジは、いわゆる教科書通りのものとは全然違って。だから今回、そういうアレンジを全曲にわたってやることが、僕の使命なんだなってすごく思いました。
—歌詞の印象からACIDMANは感覚派と思われがちですが、楽曲の構造はかなり理論派なんですね。
NAOTO:たぶん、歌のメロディーと歌詞は、ある程度感覚の部分があると思うんですよね。だけど、そこから先のロジックは、もうすごいなと。ああ、これは本当に賢い人が作っているんだなって思いますよ。
大木:いやいやいや(笑)。そう言っていただけるのはすごく嬉しいですけど、僕は自分では不器用だと思っているんですよね。僕は理論がまったくないので、もう感情的に「うわー」ってなるものをやりたいだけで(笑)。
—「うわー」ですか(笑)。
大木:はい(笑)。ただ、その「うわー」が足りないことへのもどかしさは、すごくシビアに見ているんですよね。だから、メンバーとアレンジを詰めるときも、そういうことばっかり言っていて……僕はバスドラの音ひとつまで全部指示するんですけど、一つひとつ微調整しながら「うわー」ってなったら、そこでOKみたいな。
音楽っていうのは、目に見えないところに到達する、一番の近道だと僕は思っている。(大木)
—いわゆる楽理とは違う、大木さんなりの基準があるわけですね。
大木:そう。だから本当に「気持ち」なんですよね。ここで感情の波が来るかどうかっていうのが、いつも指標になっていて。ただ、それが上手くいきすぎていると、それはそれで冷めてしまうところもあるんです。なるべく生物学的に、生命として「うわー」ってきてほしいというか。そこはもう、子どもみたいな感覚で、いつもやっています(笑)。
—やはり、「小三病」の話のなかにも出た「宇宙」とか、「生命」というテーマが、ACIDMANや大木さんの音楽観の基盤になっているんですね。
大木:もうそれ以外に使える武器が僕にはないというか、胸を張って得意と言えるのは、そういうことしかないので。たとえば、全然知らない人と話すときとかも、別に話題が豊富なわけではなくて……ただ、宇宙のことに関してだけは、もう得意中の得意なんです(笑)。さすがに天文学者の先生とかには負けるけど、結構なところまではいける自信があるので。もう、ダークマターの話とか大好きですから(笑)。
—大木さんの場合、それがロックと結びついているところが、非常にユニークですよね。20年経っても、それは誰も真似できなかったというか。
大木:まあ、真似しようがないんじゃないですかね(笑)。ただ、本当は地続きの話なんですよ。素粒子の世界と音楽っていうものは、実はすごくリンクしていて……それはいつかわかってもらえると思うんですけど。音楽っていうのは、目に見えないところに到達する、一番の近道だと僕は思っているので。
—その感覚って、ひょっとするとロックよりもクラシックの世界のほうが、相性いいんじゃないですか?
大木:そうなんですよ。だから僕はクラシックに憧れがあるんです。ロックではなかなかできないことというか、一番そういうところとチャネリングしやすいのはクラシックだと僕は思っているので。
NAOTO:まあクラシックは、神様に向けて音楽を奏でるのが一番初めのところだからね。それはいわゆるキリスト教的なものだけではなく、山だったり川だったり、宇宙だったり星だったり。そういうものに対して音を介して何かを発信するっていうのが、音楽のそもそもの始まりだと思うから。
—何か触れられないものに触れるための祈りというか。
大木:まさにそうですよね。それを僕は、ロックでやっているわけで……「ロックでやるしかなかった」と言えるかもしれない。もし僕が小さいときにバイオリンとかチェロをやっていたら、たぶんそっちで同じことを追究していると思うんですよね。でもギターしか弾けないから、それをロックでやろうとしているという。
いざ曲を書こうと思って自分の引き出しを開けたら、宇宙しかなかった。(大木)
—そういうところが大木さんの面白いところだと思っていて。宇宙を表現するためにロックを選んだわけではなく、バンドを組んで詞曲を書く際に、宇宙をテーマに選んだわけですよね。
大木:そうですね。モテるから、カッコいいからっていう理由で最初はバンドを組んで(笑)。で、いざ曲を書こうと思って自分の引き出しを開けたら、宇宙しかなかったので、じゃあこれで勝負しようと。そういう感じなんですよね。
—で、それはある意味、NAOTOさんも同じなのかなと。幼少の頃からバイオリンをやっていて藝大まで行ったけど、今はクラシックの本筋とは違う表現をしていて。
NAOTO:今でもクラシックを聴くのは好きなんですけど、僕の思い描いているクラシックをやるとなると全然手が届かなくて。それを表現し続けるには、ちょっと僕は神様に愛されてないなって感じるんです。
それに、自分がやる音楽はずっとクラシックだと思っていて、そこはブレないと思ってきたんだけど、大学入ったぐらいのときに自分が演奏する音楽とそれまでずっと好きで聴いていたダンスミュージックが一気にリンクしたことがあって……。—若い頃は、かなりダンスミュージックにハマっていたそうですね。
NAOTO:はい(笑)。ハウスとユーロビートとヒップホップから、R&B、フュージョン、ロック、ジャズと、時代を遡ってきた感じなんですよね(笑)。そうやって辿っていったことでようやく、自分が演奏する音楽と勉強してた音楽がリンクしたというか、「あ、こっちをやってもいいんだ」っていうことがわかったんです。
NAOTO:ただ、ポップスやロックの人とお仕事をしていくなかで痛感するのは、ロックはすごく楽しいけど難しいってことなんですよね。さっきも言ったように、「ロック感」みたいなものをバイオリンという楽器で出すのは、すごく難しいので。
—こうやってお話を聞くと、お二方ともやっている楽器と好きなものを混ぜ合わせたことがオリジナリティーにつながっているのかもしれないですね。
大木:確かに。そこは共通しているかもしれないですね。
『ROCKIN' QUARTET』が、ACIDMANの1ページにいるといいなと思ったり。(NAOTO)
—2月の公演は、どんな感じになりそうですか?
大木:僕はさっき初めて、前回とは違うラインナップも考えてるってことをNAOTOさんから聞いたので(笑)。
NAOTO:(笑)。僕としては、こないだのフェスに行って、ACIDMANに見せてもらったものを汲んだものにしたいと思っていて。それにフェスに関しても、また何年後かにやりたいって言ってましたよね? それが仮に30周年だとしたら、そのときまでに『ROCKIN' QUARTET』が、ACIDMANの1ページにいるといいなと思ったり……。
大木:ああ、いいですねえ。
—NAOTOさんとしては、そうなるかもしれないくらい大きな可能性を秘めたプロジェクトであると。
大木:次の公演の評判がよかったら恒例にしたいなって僕も思ってますよ。音源化みたいな話も全然ありですよね?
NAOTO:うん、いいと思います。
—そういえば、取材前にスタジオライブの模様をVR映像で撮影していましたよね?
大木:そうなんです。映像があると、前回のときよりも、どういう感じのものになるのか、みなさんもイメージしやすいと思って。純粋にVRって、エンターテイメントとして、ものすごく面白いと思うんですよ。演者一人ひとりの顔を見るだけでも楽しめると思いますしね。
—ニューアルバム『Λ』の全国ツアーも始まってないのに、もうすでに新しいことが次々と動き始めているわけですね。
大木:そうそう(笑)。だからすごく大変というか、引き続き頑張っていきますので、いろいろ楽しみにしてもらえたら嬉しいですね。
- イベント情報
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- 『JALCARD presents ROCKIN' QUARTET』
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2018年2月15日(木)
会場:大阪府 Billboard Live OSAKA2018年2月20日(火)
会場:東京都 Billboard Live TOKYO
- 『ROCKIN' QUARTET』
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2018年2月8日(木)
会場:愛知県 NAGOYA Blue Note
- プロフィール
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- 大木伸夫 (おおき のぶお)
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ロックバンド・ACIDMANのボーカル&ギター。1997年、埼玉県でACIDMANを結成。「生命」をテーマにした壮大な詩世界、様々なジャンルの音楽を取り込み、これまで5度にわたる日本武道館公演を成功させる。「静」と「動」を行き来する幅広いサウンドで3ピースの可能性を広げ続け、2016年秋より結成20周年に突入。20th Anniversaryイヤーとして、10月にシングル『最後の星』、ファン投票によるベストアルバム『Your Song』、2017年2月8日には、バンドキャリア初のプロデューサーに小林武史氏を迎え、シングル『愛を両手に」をリリース。2017年12月13日にニューアルバム『Λ』をリリースした。
- NAOTO (なおと)
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東京藝術大学附属音楽高校、同大学音楽学部器楽科卒業。クラシックからポップスまでジャンルにとらわれない音楽センス、ブリッジをしながらの演奏など華麗なパフォーマンスで人気を博す。ドラマ『のだめカンタービレ』では、オーケストラの選考から携わり、吹替演奏、楽曲提供、ゲスト出演も果たし一躍注目を集めた。作曲家として、番組やCMなどに書き下ろし楽曲を提供したり、TEAM NACSの主催公演など多数の舞台音楽を担当している。ジャンルをスタイリッシュに跨ぎ、POPSを表現する唯一無二のバイオリニストとして、ますます進化を続けるNAOTOにさらなる注目が集まっている。
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