ストリーミングサービスの登場は、音楽シーンにも大きな変化を与えた。オーディションもそのひとつと言っていい。2017年夏から約半年にわたって、「観客参加型」であることを最大の特徴とする『LINEオーディション2017』が実施された。
音楽ストリーミング時代の新スター発掘を目指して行なわれたこのオーディションで、見事総合グランプリに輝いたのは青森出身の高校生バンド、No title。彼らはオーディション参加曲でもある“rain stops, good-bye”を音楽プロデューサーJINのアレンジ&プロデュースのもと、新たにレコーディングし直し、晴れてLINE RECORDSよりデビューした。
観客が参加したこのオーディションの審査の過程で見えたものとは。そして、総合グランプリに選ばれたNo titleとは、どんなバンドなのか。LINE RECORDSの事業プロデューサー田中大輔も交え、No titleの三人に話を聞いた。
父親が中学校のときはバンドブームだったけど、いまはアコギをちょっとかじってる人が数人いるぐらい。
—まず、三人の基本情報をお聞かせください。全員、青森県の三沢市で暮らす高校1年生とのことですが、そもそもNo titleとは、どんな経緯で結成されたバンドですか?
あんべ(Gt):中学生になるまではバンドに興味がなかったし、音楽自体、あまり聴いてなかったんですよね。でも、中学に入ってから、SEKAI NO OWARI、RADWIMPS、ゲスの極み乙女。とか、好きなバンドにたくさん出会って、だんだん聴くだけではなく、自分でも演奏してみたいと思うようになりました。
それで、父親のギターを借りてちょっと練習し始めたんです。それが中学1年の夏ぐらいで、それからずっと練習していたので、中学校の最後の文化祭ではバンドをやりたいなって思って。それで、二人を誘ってバンドを組んだんですよね。
—なぜ、この二人だったのでしょう?
あんべ:小学校も同じなんですけど、実はすごい仲が良かったというわけではなくて。ただ、中学校に入ってから、ほのかが文化祭で歌っているところや、ポチが学校の合唱コンクールでピアノの伴奏をやっているのを見て、バンドに誘いたいと思ったんです。
—それで、ボーカル、ギター、キーボードの編成に至ったんですね。ベースとドラムは、敢えて探さなかったのですか?
ほのか(Vo,Gt):ベースとドラムは探したんですけど、できる人が身近に全然いなかったんですよね。
—中学校では、バンドをやる人があまりいなかった?
あんべ:全然いなかったですね。僕の父親が中学校のときは、バンドブームでみんなギターをやっていたと言うんですけど、いまはアコギをちょっとかじってる人が学校に数人いるぐらい。ベースやドラムをやっている人は、全然いなかったです。
ほのか:だから、仕方なくいまの編成でやっているんですけど、変わった編成だからこそ、かえってまわりから注目を浴びたところもあったと思います。
インターネットやSNSがなかったら、今回のオーディションも受けてなかったかもしれないです。(あんべ)
—結成後は、どんな活動をしてきたのでしょう?
ほのか:中学校の文化祭の次にやったライブは、地元にある小川原湖の公園で毎年やっているイベントでした。ただ、そのあと、あんべくんは別の高校に進学したので、私とポチの二人で高校の文化祭で歌って。そのときの映像が、YouTubeに投稿されて話題になったんです。それをきっかけに、学外でのライブの誘いもいただけるようになって。
—その動画では、何を歌っていたんですか?
ほのか:それが、今回のデビュー曲にもなった“rain stops, good-bye”だったんですよね。
—あ、そうなんですね。
ほのか:この曲は、におPさんという方が、初音ミクのボーカルで発表した曲で。私が探してきたんですけど、やっぱり、ドラムもベースもいなくて、ピアノと私のギターだけで歌える曲となったら、結構限られてくるんですよね。ちょっと懐かしい感じのある曲なので、そこがいいんじゃないかなと思って。
—ボカロPのカバー動画がネットで評判になるというのは、ボカロというジャンルが確立した時代を反映していますよね。
あんべ:そうですね。最初はSNSを使ってライブの告知をしていたんですけど、文字で伝えても、なかなかわかってもらえないところもあって。やっぱり、自分たちのやっていることは音楽なので、「まずは聴いてもらわないと」と思って。それで、なるべくライブの動画を撮ってアップするようにしたんです。
高校生のバンドが身近にたくさんいるような環境ではなかったから、できるだけのことはやろうと思っていました。インターネットやSNSがなかったら、今回のオーディションも受けてなかったかもしれないです。バンドを始めた当初は、わざわざ東京に出てきて、オーディションを受けようみたいなことを、全然考えていなかったので。
今回のオーディションで、デビュー前のアマチュアの子たちが、プロと同じフィールドで対等に戦っていけることがわかりました。(田中)
—オーディションの話題が出たところで、昨年約半年間にわたって行なわれた『LINEオーディション2017』の総評を、LINE RECORDSの田中さんから語っていただけますか?
田中:はい。前回の取材でもお話させてもらったように(参考記事:LINE RECORDS田中大輔と柴那典対談 音楽新時代にどう切り込む?)、『LINEオーディション2017』は、非常にオープンな形で行なわれたオーディションなんです。具体的に言うと、「ボーカリスト部門」「シンガーソングライター部門」「ラッパー部門」「バンド部門」という各部門のファイナリスト25組の楽曲をLINE MUSICで公開して、その楽曲の再生回数、お気に入り数、シェア数を、ユーザーに委ねた形で集計し、5部門それぞれの最優秀賞を決定しました。
その中から最終的に1組、総合グランプリを選んだのですが、それは今回のオーディションに最初から参加いただいている音楽プロデューサーのJINさんと一緒に選びました。
—そこで選ばれたのが、No titleだったと。ちなみに、受賞のポイントは何だったのでしょう?
田中:No titleには、ドラムとベースがいないけれど、その中でも、個々のメンバーの才能が非常に光っていて、すごい個性があるバンドだと思ったんですね。
—No titleの三人は、今回のオーディションに実際参加してみていかがでしたか?
ほのか:他のオーディションに応募したことがあったんですけど、それは審査員の方に選ばれる一般的なオーディションだったんですよね。なので、自分たちの音楽を聴いてくれた人とのコミュニケーションや繋がりを、あまり感じられなかったところがありました。
でも今回の『LINEオーディション2017』は、「LINE LIVE」で実際に演奏している姿をみんなに見ていただいて、コメントとか「いいね」がつくから、ちゃんと聴いてもらえているという実感が湧くんです。それに審査を通れば、ちゃんとお客さんの声が私たちに届くという形だったんですよね。だから、そもそもの仕組みが、以前受けたオーディションとは全然違ったというか。
—リスナーの声が直接届くだけに、よりシビアなところもあったのでは?
ほのか:でも、実際に聴いていただいた一般リスナーの意見のほうが、のちのち活きてくる気はしていて。やっぱり、音楽の経験が長いプロの方々に選ばれると、その人の好みが完全に反映されてリスナーの好みから離れてしまう可能性があるじゃないですか。だから、一般の人たちの意見は、かえってありがたいところはありました。
あんべ:そうやって、オーディションの最中から、ちょっとずつですけど、僕らの音楽に興味を持ってくれる人が増えてきているなと実感できたのは、すごく良かったですね。それまで自分たちのことをまったく知らなかった人が、自分たちの音楽を聴いてくれているというのは、改めてすごいことだなって思いました。
ポチ(ゆうと)(Pf):青森で普通に高校生活を送っていたら、絶対できないことですから。すごく貴重な体験をさせてもらっているなって、オーディションのときから思っていましたね。
—リスナーを巻き込む『LINEオーディション』は、お三方としては実りの多いものになったんですね。主催したLINE RECORDSとしては、どんな実りがあったのでしょう?
田中:各部門のファイナリストに選出されたアーティストは、まず自分のLINEプロフィールに自分たちの楽曲をBGMに設定できるんです。
だから、まずはそれぞれの友だちに、その楽曲が拡散していくみたいなところがあって。友だちがBGMに設定している音楽に気づいて、「だったら自分もそのアーティストを応援しよう」と思って、再生やお気に入り、そしてシェアをしたり……そうやって拡散しようとするファン側の熱量の高さが、ファイナリストに残ったアーティストたちには、みんなありましたね。
それこそ、LINE MUSICの通常のチャートに、ファイナリストたちの楽曲が食い込むような場面が何回かあったりもして。そういう大波乱が起きて、デビュー前のアマチュアの子たちが、プロと同じフィールドで対等に戦っていけることがわかったのは、今回の『LINEオーディション2017』のひとつの大きな収穫ではありました。
高校生活とバンド活動をちゃんと両立させるのが、自分たちの目標のひとつです。(ほのか)
—そういう、「応援しやすさ」というか、リスナーと同じ目線であることが、ひとつポイントだったのかもしれないですね。
ほのか:そうかもしれないです。私たちは、ホント等身大というか、普通の高校生なので(笑)。
あんべ:それはJINさんとお話したときにも言われましたね。「あんまり背伸びをし過ぎないように」「高校生であることも、注目されている理由なんだから」って。なので、「デビューするからと言って、大人と同じようなことをやろうとしなくていいよ」っていう。やっぱり、自分たちはまだ高校生なので、その高校生らしさを大切にしようと意識しています。
ほのか:だから、高校生活とバンド活動をちゃんと両立させるのが、自分たちの目標のひとつではあるんですよね。
—今回、デビューしましたが、これからの活動でやりたいことはありますか?
あんべ:曲をどんどん作っていきたいですね。オーディションが始まってから、あまり曲作りができなかったので。
ほのか:そうですね。やっぱり1曲ちゃんと完成させようとすると、まだまだ時間が掛かるところはあるんですけど、いまはいろいろ相談に乗ってくれたり、協力したりしてくださる人たちがたくさんいるので、オリジナル曲をどんどん作っていきたいです。
—レーベルの田中さんとしては、No titleと今後どんな関わり方をしていく予定ですか?
田中:我々LINE RECORDSは、デジタルネイティブということをひとつ掲げているレーベルです。他のレコード会社さんと同じ手法でやっていてもしょうがないというか、それだとLINEがやっている意味がないと思うんですよね。だから、LINEらしい手法、デジタルでやれることを突き詰めたいと思っています。
彼らにLINEのいろんなサービスを使ってもらうというのも考えられます。楽曲を作ることは、もちろん本人たち主導でやってもらって構わないのですが、その広げ方は、デジタルマーケティングを真ん中におきながら、我々がしっかり考えていきたいと思っています。
No title“rain stops, good-bye”ジャケット(LINE MUSICで視聴する)
No titleの歩むシンデレラストーリーを、一緒に楽しんでほしいです。(田中)
—リスナーの反響によってオーディションを勝ち抜きましたが、デビュー後はリスナーの方々にどういった姿勢で活動を楽しんでほしいですか?
あんべ:まだまだ未完成なバンドですけど、これからどんどん成長していくつもりなのでその過程を見守っていただければと思います。
—「未完成」のバンドを、オーディションの過程から応援する人たちがたくさんいるというのが、ある意味新しいですね。
田中:そうですね。彼らの場合、『LINEオーディション』が始まったときから、すでにストーリーが始まっているんですよ。彼らのことを「応援したい」という気持ち、彼らに対するロイヤリティーが、楽曲の再生や「お気に入り」という形で表れていたというか。そういう意味では、すごく応援のしがいがあったのかなと。総合グランプリの発表からデビューまで、たった2か月しか経っていないので、その応援の熱も、まだまだ冷めていないと思います。
あと、今回のデビュー曲は、オーディションにエントリーした曲をアレンジし直したものなので、この短い期間で彼らが進化しているところもきっとわかってもらえると思うんです。
田中:そうやって、わずか半年のあいだに、シンデレラストーリーを歩んでいる感じを、応援してくれるファンの方も一緒に楽しんでほしいです。オーディションの最初から彼に目をつけて応援してくれた人たちにとって、それはうれしいことだと思うんですよね。そういう意味でも、今後のNo titleにご期待いただければなって思います。
- リリース情報
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- No title
『rain stops, good-bye』 -
2018年1月23日(火)配信リリース
- No title
- プロフィール
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- No title (のー たいとる)
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あんべ(Gt)、ほのか(Vo&Gt)、ポチ(ゆうと)(Piano)の三人からなる青森県三沢市出身の現役高校1年生バンド。2017年にLINE社が主催する『LINEオーディション2017』のバンド部門にエントリーし、ファイナリスト25組に選出。同年11月に行なわれたLINE LIVE『LINEオーディション2017 総合グランプリ発表SP!』にてバンド部門最優秀賞、そして総合グランプリを獲得。2018年1月23日にLINE RECORDSよりデビューが決定。プロデューサーにはGReeeeN等を手掛けたJINが就任した。
- 田中大輔 (たなか だいすけ)
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LINE RECORDS事業プロデューサー。1976年神奈川県生まれ。大学卒業後、CD・レコードショップのバイヤーを経て、2002年ユニバーサル ミュージック合同会社に入社。数々のアーティストのマーケティング・メディアプランナーを担当し、2015年LINE株式会社に入社。定額制オンデマンド型音楽配信サービス「LINE MUSIC」に従事、2017年3月に「LINE RECORDS」を発足。
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