シンガーソングライター・琴音にとって、音楽は日常である。弱冠16歳の彼女はまさしく息をするように歌う。空気を震わせ、様々な感情や記憶をからめとってゆくその歌声は、彼女の心のどの地点から出発し、そして彼女自身をどこへ連れて行くのだろうか。オーディション番組『今夜、誕生!音楽チャンプ』にて、4週連続で勝ち抜いてグランドチャンピオンになったことを契機に、日本中から注目を集めるようになった彼女が、7月11日、初の全国流通作品『願い』をリリースする。猛スピードで変わりゆく日常のなかで感じること、思うことに迫る。
私の歌のレベルって、「人並みよりは上手いのかな?」くらいに思っていて。
—今年3月、『今夜、誕生!音楽チャンプ』(テレビ朝日系列)でグランドチャンピオンに輝いたことは琴音さんにとって大きな出来事だったかと思いますが、実際いかがでしたか?
琴音:『音楽チャンプ』に出させていただいて、自分の声や歌い方のいいところ、直すべきところを逐一言葉にしていただけたのは大きかったです。そういった経験を重ねるごとに自分の歌に対する認識が具体化していったので、本当に幸運な体験だったと思います。
—この数か月は、特に変化のスピードが速かったのかなと思うのですが。
琴音:激動でしたね。年が明けてから、番組に出させてもらって、いろんな人に知ってもらえて……本当にありがたいご縁だったと思います。今までの何倍も速いスピードで物事が進んでいますね。
琴音:私、小さい子が「大きくなったらウルトラマンになるんだ!」と言うのと近い感覚で、「歌手になるんだ!」とずっと願っているんです。今、私は大人と子どもの境目みたいな年齢で、「いつまで夢を見ているんだ?」というふうに思われることも、もしかしたらあるのかもしれない。でも、いろんな人たちに知ってもらえて、状況も劇的に変化していて、「これでよかった」と思えています。将来なりたいものを決めるのが早すぎたのかな、と思うこともありますけど、目標が定まっているほうが、進み甲斐があると思うんですよね。
—16歳で、自作曲で全国流通のCDをリリースするというのはかなり早いと思うのですが、どういったきっかけで楽曲を作りはじめたのですか?
琴音:音楽を作りはじめたのも、「歌を歌っている人」になりたかったからなんです。自分で作った曲を人に届けるということも素敵だなと思いますが、歌が好きだから、最初はとにかく「歌を歌う」ということを仕事にしたくて。
琴音:楽曲を作るようになったのは、中学2年生のときです。ライブをはじめたのは、中学に入学する前後くらいなのですが、最初の2年半くらいは、MISIA、Superfly、スキマスイッチやMr.Childrenなどのカバーをやっていました。
—最初に琴音さんの音楽を聴いたとき、歌声に圧倒されたんですよ。空気を多く含んだ声が魅力的だなと。だからこそ、琴音さんがおっしゃるように、自分で曲を書かずに歌に専念する道もあったのかなと思ったんですよね。
琴音:ありがとうございます。これまでも、ありがたいことに歌声を褒めていただくことは多かったのですが、自分ではわからないんですよね。小さい頃から自分にくっついている、日常的にあるものものなので。「いい」とか「悪い」とか、あまり考えたことがないです。むしろピアノをやっている母には、「本当に歌手になりたいのなら、歌うこと以外の個性がないといけない」と言われたくらいで。
—すごく現実的なアドバイスですね。
琴音:たしかに、自分より歌が上手い人なんていっぱいいるし、歌手になりたい人もいっぱいいますよね。そのなかで私の歌のレベルって、「人並みよりは上手いのかな?」くらいに思っていて。「まず、『これが私だ!』という曲を自分で作ってみたらどう?」と母に言われたことをきっかけに、「声だけを武器にするのではなく『楽曲』という個性を確立して、夢の実現を目指そう」と思うようになりました。
どんな経験や生き方をしてきた人が聴いても「そうだよね」って共感して励まされる音楽が一流のものなのかな。
—実際に曲を書きはじめてみていかがでしたか?
琴音:最初は真っ白な紙に絵を描くような感覚でした。まっさらだからこその大変さもありましたけど、振り返ると「こういうコード進行はやったな」とか、そういう悩みが当時はなかったので、すごく自由だったのかもしれないですね。
琴音『願い』収録曲“大切なあなたへ”を聴く(Eggsを開く)
—最初からすんなり曲を書けてしまったんですね。影響を受けたアーティストや楽曲はありますか?
琴音:曲作りに関しては、基本的に歌うことが好きで曲を書きはじめているので、カバーしてきた歌のすべてが自分の元になっているとは思います。特定のアーティストに影響受けたかと訊かれると難しいのですが、当時は父親の曲を頻繁に歌っていたので、コード進行は父からの影響かもしれないですね。
あと歌詞については、父がMr.Childrenが好きで私も参考にしています。自分が思い描いているものと、それを聴く人が思い描くものは違うじゃないですか? どんな経験や生き方をしてきた人が聴いても「そうだよね」って共感して励まされる音楽が一流のものなのかなと思っていて、私にとっては歌詞を書くうえで重要なことです。
—普段はどういうふうに曲を書いているのですか?
琴音:家にCDや楽器だけが置いてある部屋があって、曲を作るときはそこに1人でこもって曲を作っているんです。自分の主観と自分の胸の内をえぐり出して、記憶や考え方を全部見つめ直して、他人の関わりのないところで曲を作っています。
ただ曲ができたら、いろんな人に聴いてもらうようにしているんですけど、そのとき、自分だけのものから多くの人のものに変わる感覚があるんですよね。それに、曲ができあがった瞬間から、時間が経てば自分自身も変化しますよね。だからこそ、自分が歌うときは、楽曲を作っていたときの自分の気持ちを蘇らせて歌っています。
琴音『願い』収録曲“last word”を聴く(Eggsを開く)
やっぱり、コンセプトって必要だと思うんです。
—これまで自主制作で作品を発表されていましたが、その過程はどういったものでしたか?
琴音:歌詞を書いて、曲を作って録音するところまでは自分でやっていました。そこから先の機械を使って編集したりミックスしたりする作業はお母さんに助けてもらって、相談しながらやってきましたね。
—実際の音楽活動にあたってもご両親の存在が大きいのですね。『願い』は初めての全国流通作品ということで、制作環境の違いもあったのではないですか?
琴音:今までの曲は、声とギターと、曲によってはピアノが入るくらいで、ある意味自分だけの世界のなかで完結していたんですけど、今回は、これまでの自分とは関わりのなかった人が楽器隊として入ってくれたり、アレンジをしてくれたりしたんです。そのおかげで、「違う人から見た自分の曲はこう見えているんだな」「他の人の手が加わると、こういう雰囲気にしてもらえるんだな」という発見がありました。
琴音:でもだからといって、「イメージと違う」ということもなくて、自分の曲に飾りつけがされていく、という感覚でしたね。レコーディングのときにもいろいろな意見をいただきましたが、最終的な判断は自分に任せてもらえました。私は頑固者なので、「ああしたい、こうしたい」ということに寄り添ってもらえて、すごくやりやすかったです。
—この5曲を選んだのはどういう理由だったのですか?
琴音:選曲も、チームで話し合いながら決めていったのですが、最終的に選ぶのは自分でした。きちんと題材があって、選曲された曲たちに繋がりがある作品に触れるなかで、軸があることはすごく大事だなと思うようになって。やっぱり、コンセプトって必要だと思うんです。最初のCDにどういう想いを込めるべきか、ということを考えながら、決めていきました。
—具体的にはどんなコンセプトだったのでしょうか?
琴音:『願い』のコンセプトは、純粋で明るくあたたかい、誰かに伝えたい気持ちやエールを集めたものです。主観や自分の感情を伝えるというよりは、そのコンセプトに沿った楽曲を選びました。
琴音『願い』ジャケット(タワーレコード オンラインで見る)
今の自分にどういうことができるのかわからないし、未来のことはもっとわからない。
—表題曲でもある“願い”の歌詞を見ると、前半は主語が「君」になっていますが、後半は一転して、「僕」が主語になっていますよね。前半はお母さんが子どもを見ている目線、後半はその子ども自身の目線なのかなと感じましたが、いかがですか?
琴音:まさにそうです。この曲は、中学3年生のときに保育園の実習に行って、赤ちゃんと触れ合ったり、その赤ちゃんのお母さんの話を聞いたことがきっかけで生まれました。お母さんが子どもを思うときの優しさやあたたかさを歌にしたくて、それが1番の歌詞になっています。
そして、赤ちゃんが大きくなっていけば、思春期の葛藤や悩みもありますよね。そこに自分自身の感覚を重ねて、悩みながら大人になっていけたらいいのかな、という想いを2番で書いています。やっぱり、前向きに進んでいくことが大事だと思うんです。2番の歌詞には自分だけではなく、自分の同世代の気持ちも重ねて書きました。
—楽曲を制作する際、主観と客観をどう使い分けているのですか?
琴音:基本的に自分は、主観で捉えたものを歌うことが多いんですけど、この曲に関しては「母」という存在になりきって歌詞を書いてみたので、そういった意味で少し特別なのかもしれないです。
—16歳の琴音さんが「お母さんの気持ち」を想像できるって、すごいことだなと思います。
琴音:いえいえ(笑)。こういうふうに歌っていますけど、実際はいいことばかりじゃないですよね。お母さんも、嬉しいことや楽しいことはもちろんあるけど、辛いことや大変なこともあると話していました。でも根底には生まれてきてくれた子どもへの愛情があって、そのあたたかい部分、優しい部分をくり抜いて曲にしてみたかったんです。
—琴音さん自身の家族への想いも、そこに重なっているのかもしれませんね。
琴音:そう思います。家族に対しては、そのときどきでいろいろな気持ちがありますが、やっぱりこの両親のもとに生まれてよかったと思います。「琴音」という名前は、音楽をやっている両親が「音楽を好きになってほしい」と願ってつけてくれた名前で、本当にその願いのとおりに育ってきたと思うんです。名前というのは、心の深い部分に関わってきますよね。だからこそ感謝しています。
—今回のCDリリースは、ご両親の想いが実ったとも言えそうですね。そして、琴音さんは、「歌手になりたい」という夢を叶えたわけじゃないですか。
琴音:そうですね。たくさんの人に知ってもらえたからこそ、自分のなかでモチベーションは今まで以上に上げていかなくちゃいけないと思っています。CDリリースする機会をいただいてから、常に精一杯やるということ、前よりもよりよくしていこうということは、強く考えるようになりました。歌唱力とか表現力もそうだし、曲も、前よりもいいものを作りたいですね。失敗するかもしれないけれど、そう考えています。
—ここがゴールじゃなくてスタート地点というのも自覚されているんですね。これからやりたいこと、叶えたいこと、未来のことについて、どういうふうに考えていますか?
琴音:それは逆に自分も気になっているんです。今の自分の限界がどこにあるのかも全くわからないですし、これからいろんな人に出会って、自分も変わっていくと思います。今の自分にどういうことができるのかわからないし、未来のことはもっとわからない。でも、一つひとつの機会を真摯に精一杯やることが大事ですよね。意気込みを持って、日常の小さな行いを積み重ねていけたらいいのかなと思います。
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- 『Eggs』
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料金:無料
- リリース情報
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- 琴音
『願い』(CD) -
2018年7月11日(水)発売
価格:1,620円(税込)
EGGS-0321. 願い
2. 音色
3. 記憶
4. last word
5. 大切なあなたへ
- 琴音
- プロフィール
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- 琴音 (ことね)
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新潟県長岡市出身。高校2年生、16歳のギター弾き語りシンガーソングライター。中学生の頃からオリジナル楽曲を制作し、広く注目を集める。あどけなさと、透き通る歌声が紡ぐ詞の世界観が魅力『Eggs presents ワン!チャン!!~ビクターロック祭り2018への挑戦~』グランプリ。テレビ朝日『今夜、誕生!音楽チャンプ』グランドチャンプを獲得。3月17日幕張メッセで開催された『ビクターロック祭り2018』にて、オリジナルソング「願い」「音色」を披露。 7月11日、ミニアルバム『願い』をリリース
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