4人組ビジュアル系バンド・DEZERTが、2年半ぶりとなるニューアルバム『TODAY』を8月8日にリリースした。本作は、ACID ANDROIDやMUCC、シドなどが所属するMAVERICKへ移籍しての第1弾リリース。
これまでの彼らは曲タイトルや歌詞、ビジュアルイメージなどに、グロテスクで奇をてらったものが多かったが、本作ではそうした表現を極力廃しており、自分たちの言いたいことをストレートに伝えようという意思をこれまで以上に強く感じさせる。「ありのままの自分」を心から愛することができず、常に欠乏感を抱えながら居場所を求め続けるボーカル・千秋の赤裸々な歌詞には、これまでビジュアル系に触れたことがなくても、きっと共感する人が多いはずだ。
ビジュアル系の持つ非日常的な世界観に惹かれ、音楽活動を始めたという千秋。レーベルを移籍し、「伝えること」を第一に考えながら作り上げた本作で彼は、一体どのような「答え」を見つけることができたのだろうか。
本来は「沼」の水も、「大海」につながっていたからこそ、夢があったんじゃないかなと。
—千秋さんのこれまでのインタビューを読み返していたんですけど、現在のビジュアル系シーンについて「世間一般に認知されているようなバンドと比べると別世界」であり、「今のビジュアル系のシーンは沼だと思ってる」と話していたのが印象的だったんですよね。
千秋:沼は沼で好きな部分はあるんですよ。もともと僕は、蜉蝣というバンドの非日常的なビジュアルに惹かれ、「自分でもやってみよう」と思ったことがバンドを始める発端だったので。「沼」という隔離されたなかで生まれる音楽の素晴らしさについては理解できる。
ただ、本来はその「沼」の水も、「大海」につながっていたからこそ、夢があったんじゃないかなと。大海は、たとえば全国キー局の音楽番組とか……まあ、今は影響力のある音楽番組がほとんどなくなってしまったけど。
—今はビジュアル系というものが隔離されていて、その「沼」の水は、流れずにそのなかで止まってしまっていると。
千秋:結局、水も循環しなければいつかは腐るか干からびてしまう。そうなる前に、「沼」に新鮮な水を送り込む必要があるんじゃないか、その道を探すべきなんじゃないかと以前から思っていて。今回できあがった僕らのアルバム『TODAY』には、そういう力があるんじゃないかと思えたんです。
—蜉蝣に感じたような「非日常的な世界観」は、昔から好きだったのですか?
千秋:もともとグロテスクなものは好きだったんですよね。小さい頃からスプラッター映画も見ていたし、そういう自分に酔っていたところもある。お姉ちゃんがいるんですけど、「うわあ、あんた趣味悪いね」と言われることに快感を覚えていたというか(笑)。B級映画とかもよく見ていました。
—DEZERTの表現を見ていると、ジャパニーズホラーも好きなんじゃないかなと。
千秋:大好きです、よく見ますね。初恋相手は貞子だし(笑)。
—千秋さんが蜉蝣を知ったきっかけはなんだったんですか? それこそ「大海」で出会ってから、その源泉へと辿っていった感じでしょうか。
千秋:蜉蝣を好きになる前に、the GazettEやDIR EN GREYを知ったんです。蜉蝣を知ったときは、すでに解散していて(2007年に解散)。「変な人たちやなあ、アホやろ絶対」と思いつつ、「でもそこがいいんだよなあ」みたいな(笑)。
—蜉蝣からの、音楽的な影響も強いですか?
千秋:DEZERTの初期は、もろ影響を受けていますね。むしろ「似てるね」と言われて嬉しかった覚えがある。たとえ「パクリだろ?」と言われても、「そうや!」と返せる自信もあります。だって、なにをやるにしても、最初は模倣から入りますよね?
多数派が正しくて、少数派は間違っていると思われがちな社会の風潮に対して、「果たして本当にそうなのか?」と訴えていきたいんです。
—千秋さんがグロテスクなものに惹かれるのはなぜだと思いますか?
千秋:「美しい」と感じるからですかね。たとえば内臓を見て、みんなが「キモイ」「グロい」と言うのもわかるんですけど、内臓ってみんなが持っているものじゃないですか。
—普段隠れているものが、ふとした瞬間露わになるところに「美しさ」「儚さ」「エロさ」みたいなものがあるというか。普段、人が目を背けたり、見落としたりしがちなものに「美しさ」を見出す感覚なのでしょうか。
千秋:そうかもしれないです。死んだ蝉のほうが、生きた蝉よりも美しいと思うし。大学生の頃、自由研究でカニバリズムについて調べたこともありました。
グロテスクなものって、実はみんな好きなんじゃないかなと思うんですよ。最近、飲み会のときに「スカトロの話」で盛り上がったんですが(笑)、そういうマイナーな性的嗜好をテーマにしたビデオだって一定の需要があるわけで(笑)、そういうことに興味がある人や、実践している人も、実は我々が思っている以上にいるんじゃないかって。
—(笑)。そういう「タブー」とされているものの蓋を開けたくなるんですかね? 「本当は、こういうのが好きなんだろ?」みたいな。
千秋:かもしれない。多数派だから正しくて、少数派だから間違っているというふうに思われがちな社会の風潮に対して、「果たして本当にそうなのか?」ということは訴えていきたいんです。それはビジュアル系のシーンに対しての話にもつながりますね。
最終的には「喋っているように歌う」ことが理想だなと考えるようになったんです。
—グロテスクなものやホラー的な要素は、歌詞やミュージックビデオなどにも取り入れてきましたね。
千秋:そのほうが、自分の言いたいことも届くかなと思っていたんですよ。たとえば『ソウ』という映画を見て、僕は「ここにはどんなメッセージが込められているんだろう」って考えていた。でもほとんどの人はそこまで思わないんだなって。「怖い」「グロい」で終わってしまうんですよね。
—だから今作では、「伝える」ということを最優先事項にしたと。
千秋:やっぱり、伝わらなかったら意味がないから。それもあって、今作ではグロい表現などは極力減らしました。これでもし、いろんな人たちが俺の言葉や、バンドの音を聴いてくれるようになったら、その先はまた違った表現が楽しくなってくるかもしれないですけど。
—歌い方もだいぶ変わりましたよね?
千秋:今回は「歌う」というよりも、「喋っている」という意識でしたね。最終的には「喋っているように歌う」ことが理想だなと考えるようになったんです。次のアルバムでそれがしっかりできれば、僕らも売れるんじゃないかな。やっと「喋れる」ところまで降りてこられた段階で、次のアルバムで「喋って歌う」ことができれば売れるなと思います。
—伝えたい内容そのものはずっと変わらないですか?
千秋:いや、そこも変わりましたね。本質的に変わったというか、「丁寧に生きる」「真摯に向き合う」ということを意識するようになりました。僕、今まで適当に生きていたんですよね。なんとなく上手くいっていたし、なにをやってもそれなりにこなしていた。
そんなだったから、申し訳ないけど東日本大震災のときも、なにも思わなかったんです。身内が1人も死ななかったからかもしれないですが、それより「電車が動かなくて不便だな」とか、そんなことしか考えられない人間だったんですよ。他のアーティストが復興支援の活動を行っているのを見ても、なにも心動かされなかった。「無」です。
—そうだったんですね。
千秋:それを「最低」と言われても仕方ないと思っています。おそらく最低だったと思う。でも、あれから7年が経過するなかで、少しずつ考え方が変わっていったんです。「丁寧に生きよう」「目の前のことを一生懸命にやろう」と。特に、人と関わるときは丁寧に関わる。目の前の人と、真摯に向き合うことに決めたんです。
今までの僕は、人を気持ちよくさせるために生きてたんですよ。ノリのいい性格も含めて、「人によく思われたい」って。でも、それだと相手から「気持ちよくない」って言われたら傷つくんです。セックスもそうですよね。めっちゃ頑張ったのに「あいつ下手くそや」って陰で言われたら傷つくじゃないですか。
—(笑)。それってつまり、「人を気持ちよくしたい」と言いつつ「見返り」を求めているし、結局自分のことしか考えていないからですよね。
千秋:そうなんです。単なるナルシシズムなんですよね。でも、ちゃんと相手と向き合って真剣に気持ちよくしようと思えば、たとえ相手に「気持ちよくない」と言われても傷つかない。「そうか、じゃあ次はどうやったら気持ちよく思ってもらえるかな」って考えられるんです。
僕はSNSが大嫌いなんですよ。
—そういう千秋さん自身の自問自答の過程が、アルバム『TODAY』の歌詞のなかにも色濃く反映されていますよね。たとえば“蝶々”の<「君らしく生きろ」なんて 強い人が言わないで>という歌詞は、自分らしく生きることすらできずに悩んでいる人たちへの救いになると思うんです。
千秋:スタジアム級のロックバンドがMCで、「自分らしく生きろ!」なんて言っているのを見たことがあるんですが、その場では「よし、明日から自分らしく生きよう」なんて理解したつもりでいても、翌朝から始まるのは「いつもの終わらない日常」なんですよね。それを考えると、「自分らしく生きろ」なんて、俺は軽々しく言えない。むしろ、「自分らしさ」がなんなのかわからない人を「わかった気にさせる」ってどうなんだろう? という気持ちが常にあるんですよね。
—“浴室と矛盾とハンマー”は、おそらく風俗嬢のことを歌っていると思うのですが。
千秋:その通りです。
—この曲の<違う きっと欲しいものなんてない けどなんか物足りないの>という歌詞は、おそらく誰もがおぼろげに考えていることだと思うんですよね。何不自由なく日々暮らしているはずなのに、常に欠乏感を抱えている。それは一体なんなんだろう? って。
千秋:「欠乏感」ってなんでしょうね。欲張りなのかもしれないですよね。でも、それが向上心につながる場合もあるから、欠乏感を一概に悪い感情とも言えないし……。
仕事に関しては、大きくなればなるほど目の前の人とのリアルなコミュニケーションがなくなっていきますよね。付き合う人も決まってくるし。適度な向上心を持ちつつ、人とは比べない生き方を選べれば、それ以上の幸せはないかもしれないけど……でも、そうやって生きるのもなかなか難しい。
—<居場所が欲しいわけじゃなくて 誰かの居場所になりたいの>という、この歌に出てくる風俗嬢の思いは、千秋さん自身の思いと通じるものがあるのかなと。つまりDEZERTは、自分の居場所が見つけられず生きづらさを抱えている人の居場所になろうとしているのかなと。
千秋:僕は昔から、「誰かにわかってほしい」という気持ちが強かったのかもしれないです。人は誰でも居場所を探していると思うんですよ。で、居場所を見つけるためには自分が今、どこにいるのかを知らなければならない。でも、自分の「現在地」を知るというのは、ある意味ではとても怖いですよね。自分自身の身の程、器の小ささを知ることにもなるわけだから。それってすごく勇気がいることだと思います。でも、最終的に自分を愛せないと厳しいですよね。
DEZERT『TODAY』(Apple Musicはこちら)
—アルバム表題曲である“TODAY”でも、<弱さなんて受け止めろよ 望んでそして変わってく><生きててよかった そう思える夜を探してく覚悟>と歌っています。
千秋:僕、子どもの存在ってすごいなと思うんです。子どもができたら溺愛するじゃないですか? 自分の分身なので、その子が幸せなら自分が幸せと思えるというか。自分の分身である子どもを愛するっていうのは、自分を愛することだなとも思うんですよ。でも、僕には子どもがいないから、自分を愛するしかない。なので、このアルバムは子どもがいなくて自分しか愛せない人向けです(笑)。
—(笑)。千秋さん自身も、曲を作るという行為を通して自分を愛そうとしているのかと思いました。
千秋:自分を愛せるように頑張ります(笑)。まだまだ愛せてはいないですね。好きなところもありますけど、基本は愛せない。昔はかっこつけてたけど、最近は口に出すようにしているんです。「俺はダメなんだ」「俺は自分のことを愛せない」って。それで、自分を少し受け入れられるようになってきてはいるかな、ほんの少しですけど。
—DEZERTはライブへの思い入れも強いですよね。以前のインタビューでは、「CDは偽物だしカタログでしかない。あくまでもリアルはライブ」ともおっしゃっています。
千秋:僕はSNSが大嫌いなんですよ。バンドが解散したときだけ「いいね」が伸びたり、人の不幸が大好きだったり。あんなところでやり取りするより、生身同士がぶつかったほうが絶対に面白いと思う。
それに、アーティストがあんなところで、たった140文字でなにかを伝えようとしてるの「アホやな」って思う(笑)。そんなところで伝わるわけがない。そこで伝えようとするなら、「なぜあなたたちは音楽をやってるの?」と。僕はこれから先も、SNSをやる気はないし。伝えたいことはライブで伝えるつもりですね。
- リリース情報
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- DEZERT
『TODAY』トゥデイ盤(CD+2DVD) -
2018年8月8日(水)発売
価格:8,640円(税込)
DCCA-67︎[CD]
1. 沈黙
2. おはよう
3. 蝶々
4. 浴室と矛盾とハンマー
5. 蛙とバットと機関銃
6. Hello
7. insomnia
8. オレンジの詩
9. 普通じゃないIII
10. おやすみ
11. TODAY
[DVD][Disc 1]
「DEZERT LIVE TOUR 2017“千秋を救うツアー2”TOUR FINAL at 中野サンプラザ LIVE映像」
1. おはよう
2. sister
3. 誤解
4. 排泄物
5. 教育
6. 変態
7. おやすみ
8. 脳みそくん
9. ピクトグラムさん
[DVD][Disc 2]
『TODAY』レコーディングドキュメント映像
- DEZERT
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- DEZERT
『TODAY』通常盤(CD) -
2018年8月8日(水)発売
価格:3,240円(税込)
DCCA-70︎1. 沈黙
2. おはよう
3. 蝶々
4. 浴室と矛盾とハンマー
5. 蛙とバットと機関銃
6. Hello
7. insomnia
8. オレンジの詩
9. 普通じゃないIII
10. おやすみ
11. TODAY
- DEZERT
- イベント情報
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- 『DEZERT LIVE TOUR 2018「What is ”Today”?」』
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2018年8月18日(土)
会場:大阪府 梅田 CLUB QUATTRO2018年8月19日(日)
会場:大阪府 梅田 CLUB QUATTRO2018年8月25日(土)
会場:福岡県 DRUM Be-12018年8月26日(日)
会場:福岡県 DRUM Be-12018年9月1日(土)
会場:愛知県 名古屋 ボトムライン2018年9月2日(日)
会場:愛知県 名古屋 ボトムライン2018年9月15日(土)
会場:宮城県 仙台 darwin2018年9月16日(日)
会場:宮城県 仙台 darwin2018年9月23日(日)
会場:北海道 札幌 cube garden2018年9月24日(月・祝)
会場:北海道 札幌 cube garden2018年11月18日(日)
会場:東京都 Zepp DiverCity TOKYO
- プロフィール
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- DEZERT (でざーと)
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「自分達の意志に忠実に活動する」ことを最も重要視しながら、何モノにも縛られず大胆な活動を続けてきたDEZERT。メンバーは、千秋(Vo)、Miyako(Gt)、Sacchan(Ba)、SORA(Dr)。音源も自身が納得できる楽曲が出来るまではリリースをせず、極限までストイックに動き続けてきたが故に、リリースされた音源は活動年数に比例せずに少なくもある。またライヴにおいては怒涛の本数を繰り返しながらも、1本1本の意味合いを常に自身に問い続けながら活動をしてきたが故に、V系シーンの中でも「ライヴに臨むのに集中力を必要とするバンドの1つ」と定義されて来た。すでに赤坂BLITZ、Zepp Tokyo、新木場スタジオコーストなどの大型ライヴハウスも制覇。中野サンプラザなどのホール公演も経験、タフなライヴバンドとしても知られる彼らの勢いを体感するのは今だ。
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