あいみょんやtofubeats、ジェニーハイなど異端な才能を輩出し続けるレーベルunBORDEから、期待のニューカマーがデビューする。
彼女の名前はロイ-RöE-。本作が「初プロデュース作」となるちゃんMARI(ゲスの極み乙女。)が手がけた1stデジタルEP『ウカ*』は、aikoやChara、椎名林檎にも通じるような、ヒネリの効いたコード進行とメロディーを基軸としつつ、昭和歌謡のケレン味も随所に散りばめられた異色のサウンド。当て字を多用した歌詞の世界観もユニークで、その真っ白なアートワークが象徴するように、荒削りながらも手つかずの才能に溢れている。
実際に会ってみると、時おり見せる笑顔にはあどけなさが残り、その歌声と同様にまっ直ぐで物怖じしない発言の数々がとても眩しかった。今後、どんなアーティストへと成長を遂げていくのかとても楽しみだ。
WANIMAやORANGE RANGEに憧れてて。あんな風にあっけらかんと下ネタとか言えないじゃないですか。
—ダウンタウンに憧れて、彼らに会うことが上京する大きなモチベーションになったそうですね。
ロイ-RöE-:はい。小学生の頃から、特に浜ちゃんが大好きで。浜ちゃんに会うにはまず何か才能を身につける必要があるし、そのためには漫画家かシンガーソングライターになるしかないと思ったのが、ミュージシャンを目指すきっかけでした(笑)。
—その話を聞いて、写真家の梅佳代が「イチローに近づくためにはスポーツキャスターか、スポーツ担当のカメラマンになるしかない」と思って写真学校へ進学したというエピソードを思い出したんですよ。
ロイ-RöE-:全く一緒です!(笑) 梅佳代さんは、イチローさんに会えたんですかね? 私は浜ちゃんに会ってど突かれるのが目標です。
—(笑)。漫画を描くのも好きだったんですね。どちらかというとインドアだったんですか?
ロイ-RöE-:運動も好きでした。体育と音楽と図画工作の成績だけが良かったという(笑)。体育の時間は、勝手にライバルだと思っていた子がいて、「絶対コイツより速く走ってやる」「絶対コイツより点を入れてやる」という風に燃えていましたね。しかも、そういうヤツらって目立つじゃないですか。それも悔しくて(笑)。
—負けず嫌いだし、目立ちたがり屋だったのですね。
ロイ-RöE-:そうです。昔はヒップホップダンスをやっていたんですが、それも単に目立ちたかっただけだったかもしれない。
—「シンガー」ではなく「シンガーソングライター」になりたかったのは、シンガーだと自分が好きじゃない曲も歌わなければならなくて、それが嫌だったからだとか(笑)。
ロイ-RöE-:人が作った歌を歌うイメージが全然湧かなくて。だったら努力して作曲能力を身につけるしかないなって。でも、理想のシンガーソングライターや、コンポーザーが特別いたわけでもないんですよね。とにかく、「逆らえない」という状態が嫌なのかもしれない。
バイト先でも、店長がおったら逆らえないじゃないですか。だから、そういう立場から脱して、ちゃんと自分で物を言うためにも「才能を身につけていこう」という考え方になっていきましたね。
—「こうなりたい」と思えるような、憧れの存在はいました?
ロイ-RöE-:人間性と音楽が完全にマッチしている人たちには憧れますね。私、WANIMAやORANGE RANGEにものすごく憧れてて。普通は、あんな風にあっけらかんと下ネタとか言えないじゃないですか。もし陰キャなバンドマンがやっても「おいおい、無理すんなよ」ってなると思うし(笑)、私も絶対似合わないんです。だから、明るい楽曲と人柄とが完璧にハマっている人を見ると、羨ましく思うんです。サンボマスターとかもそうかな。私は結構、浮き沈みが激しくて。その時の気分で歌える曲もコロコロ変わるんです。明るさを保てなくて。
—まだ「自分らしさ」みたいなものが、定まっていない感じがあるんですかね?
ロイ-RöE-:そうなんだと思います。やりたいことが山ほどあり過ぎて、一途になれずにいろいろ試したくなっちゃうんです。
1990年代の「ロリータっぽいんだけど、ケンカを売る感じもある」音楽がルーツになっていると思います。
—アーティスト名の「ロイ-RöE-」にはどんな意味が含まれているんですか?
ロイ-RöE-:まず、「ö」は文字というより、「歌っている人」の記号として使っているんですよ。目が2つあって、口を開けているみたいに見えませんか?
—あ、確かに。
ロイ-RöE-:「歌っている記号」を挟んでいる「RE」は、私がロイ-RöE-として「restart=再起動」するという意味もあるし、メールの返信とかでつく「Re」が持っている「~について」っていう意味もあって。「私は私について歌っていく」という意思表明なんですよね。今作『ウカ*』のアートワークを白にしているのも、何にも染まっていない自分は、この先どんな色にもなれる可能性があるということを表したかったんです。
—ロイ-RöE-さんの音楽的には、aikoやCHARA、椎名林檎あたりを彷彿させるというか。
ロイ-RöE-『ウカ*』を聴く(Apple Musicはこちら)
ロイ-RöE-『ウカ*』ジャケット(Apple Musicはこちら)
ロイ-RöE-:そうですね。いろいろ掘っていって聴いたら、1990年代後半に流行っていた音楽がものすごく好きになったんです。それが自分の中のルーツになっていると思いますね。「ロリータっぽいんだけど、ケンカを売る感じもある」みたいな。
—「ケンカを売る感じ」か、なるほど(笑)。その曲作りについてもお聞きします。16歳の時に、曲を作る目的だけで「初心者用アコギセット」を購入して、3日でコードを全て覚えたって本当ですか?
ロイ-RöE-:はい。とにかく、独学でやるしかなくて。というのも、購入した楽器屋さんは、「分からんことがあったら何でも聞きにおいで」って言ってくれたのに、その後すぐ潰れちゃって。地元にはCD屋さんも何もないから、完全に無知からのスタートでした。
—そんな中で、よく1人で続けていましたね。
ロイ-RöE-:だから、オーディションを受けるとみんな驚いてましたね。
—コードを覚えたとて、そんなすぐには曲を作れないでしょう?
ロイ-RöE-:でも、鼻歌で作ったメロディーに勝手にコードをつけてたら、3曲くらいすぐできたんですよ。今聴いたらメチャクチャなんですけどね、「なんでそこで転調してるん?」みたいな(笑)。無知って強いなあと思います。私は勉強が大嫌いなんですけど、好きなことには夢中になれるんだなと思いました。
—その曲を、オーディションに送ったのですか?
ロイ-RöE-:そうです。審査員から「何だこれ?」と思ってもらえるよう、曲名も「地獄」とかそういう強烈なワードを使ったりして。そしたら、まんまと事務所から……。
—「まんまと」って(笑)。
ロイ-RöE-:ご連絡をいただいて(笑)。でも、「地獄の人」って思われたりして、そのイメージを払拭するのにも時間がかかりましたね。
—そうやって、先のことまでシミュレートするロイ-RöE-さんの性格は、どうやって育まれたんでしょうね。
ロイ-RöE-:「ここで間違ったら違う方向へ行っちゃう」みたいなことは、よく考えるんですよ。好き嫌いがすごく明確で、嫌いな方へは絶対に行きたくない。戻れない気がしちゃうんですよね。「浜ちゃんと会うためには、今何をしたらいいのか?」とか夜寝る前に考えて思いつくと、わざわざ布団から出てメモすることもありました(笑)。
「マジで」「ヤバイ」とかいう言葉ばかり使っている場合じゃないなと思って(笑)。
—歌詞がすごく文学的で、言葉遣いもとてもユニークですよね。三島由紀夫や中原中也に影響を受けたとか。
ロイ-RöE-:めっちゃ好きです。子供の頃は、本どころか教科書も読まないし、漫画ですら文字を追うのが億劫だったんですけど、シンガーソングライターとしてこれから歌詞も書いていくのに、「マジで」「ヤバイ」とかいう言葉ばかり使っている場合じゃないなと思って(笑)。本屋さんへ行って、まずは作家名のカッコ良さから選んだんです。
—そこから三島由紀夫や中原中也って、まるでスポンジのような吸収力ですね(笑)。
ロイ-RöE-:文字の並び方や、漢字とひらがなのバランスなどにも注意を払っているような歌詞や文学が大好きなんです。最初に中原中也が好きになって、友人から勧めてもらった三島由紀夫にもハマりました。三島は小説よりも、詩やエッセイに感銘を受けることが多いかな。自分が感動できるかどうかよりも、「この言葉遣いを歌詞にうまく取り入れられないか」みたいな。参照元として読んでいることが多いですね。
—漢字の使い方もユニークですよね。例えば<泡ただしい毎日>(“泡と鎖*”)とか。「慌ただしい」という本体の意味と、そんな日々は「泡」のように儚く消えていくというような意味が同時にイメージされる。
ロイ-RöE-:そうですね。結構、歌詞を考えている段階で「あ、奇跡が起きた!」みたいなことが多ですね(笑)。“泡と鎖*”という曲も、最初はふわっとした歌詞だったんですけど、ふとアイデアが浮かんできて。特にこの<泡ただしい>は、閃いた瞬間に「この曲はもう、これでOK!」と思いました。あとは、ここを引き立たせるために言葉を選んでいきました。
—この曲には、ご自身の恋愛観が綴られているそうですね。
ロイ-RöE-:私、「分からない人」を好きになることが多いんです。自分を語らない人を、こっちが勝手に解釈して人物像を作っちゃうみたいな恋愛が好きなんですよね(笑)。なので基本、一目惚れしかしない。
—それで付き合うとギャップとかないですか?
ロイ-RöE-:それがあまりなくて。「これ!」って思った見た目の人は、だいたい外れない(笑)。
—直感力が優れてるんですね。話が脱線してしまいましたが、三島や中原は、内容的にはどのあたりに惹かれますか?
ロイ-RöE-:2人とも戦争を経験していて。戦争中の彼らは、すごく命を研ぎ澄ませていたというか。それが文章にも伝わってくるんです。「戦争なんてクソだ、一刻も早く終わらせたい」という気持ちに溢れているというか。それをストレートに言わず、美しい言い回しで表現しているところに圧倒されます。
—現代の作家よりも、昭和初期の方が好き?
ロイ-RöE-:現代文学も読むことはあります。『下妻物語』の嶽本野ばらがすごく好きですね。女同士が喧嘩しているシーンなんかも美しくて(笑)。
小説じゃないけど、ヨーロッパ映画も好きです。『ひなぎく』(1966年、ヴェラ・ヒティロヴァ監督)や『アメリ』(2001年、ジャン=ピエール・ジュネ監督)……。少女から女性への移り変わりを描写している作品に惹かれますね。例えば“泡と鎖*”のミュージックビデオ(以下、MV)で、指に木苺をさして貪り食うシーンがあって。そこは映画『アメリ』のシーンをオマージュしています。
シンガーソングライターはアコギで弾き語るというイメージを払拭したくて。
—デビューEP『ウカ*』ですが、ちゃんMARIさんのプロデュースはどういう経緯で決まったのですか?
ロイ-RöE-:今作は3曲とも方向性がバラバラで、サウンドに一貫性を出すためにもプロデューサーが必要だなと思って探していたんです。そんな時にちゃんMARIさんと出会う機会があって。“泡と鎖*”の弾き語りデモをアレンジしてもらったんですけど、すごく良くて。“そそらるる*”もさらにブラッシュアップしてくれて、「もう絶対ちゃんMARIさんと一緒にやりたい!」ってなったんですよね。
—彼女のどんなところが好きですか?
ロイ-RöE-:技術力もある上に、遊び心も感じさせてくれるところですね。例えば“Heart Beat*”のピアノソロが本当にすごく良すぎて、切り取ってリピートして聴いています(笑)。
—レコーディングでは、歌録りもスムーズに進みましたか?
ロイ-RöE-:はい。ちゃんMARIさん、めっちゃ気分を上げてくれるんですよ。ボーカルブースで歌い終わるたびに「すごい! カッコいい!」とか言ってくれて。それを原動力に、頑張って歌いました(笑)。
—『ウカ*』を引っさげて、これから人前に出る機会も多くなると思いますが、ライブの見せ方も工夫しているそうですね。
ロイ-RöE-:そうなんです。今はMPCというシーケンサー / サンプラーを、リアルタイムで操作しながら歌ってます。パッドでドラムを演奏しながら歌ったり、声ネタやコードを鳴らしながら歌ったり、MPCだったらいろんなことができるし便利なんですよ。そんなことする女の子って、あんまりいないんじゃないかなと思うので、それをちょっと極めたいですね。
ロイ-RöE-:シンガーソングライターというと、アコギを持って弾き語ったり、オケを流してその上で歌ったりするイメージがあるじゃないですか。それを払拭したくて。自分の美学に反することは絶対にしたくないし、「普通」に逃げるんじゃなくて自分の頭で考えたことを具現化していきたい。そういう道を、これからも進んでいきたいですね。
- リリース情報
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- ロイ-RöE-
『ウカ*』 -
2018年10月19日(金)配信
1. 泡と鎖*
2. Heart Beat*
3. そそらるる*
- ロイ-RöE-
- イベント情報
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- 『ロイ-RöE- presents first ONEMANSHOW at CIRCUS —ウカ*—』
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2018年12月6日(木)
OPEN 18:30 / START 19:00
会場:東京都 渋谷 CIRCUS TOKYO
料金:前売1,500円(ドリンク別)
- プロフィール
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- ロイ-RöE-
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頭から離れないメロディーと個性的な歌詞を紡ぎ出す、“ディストピア系”シンガーソングライター。中学卒業後から独学で作曲を開始。2017年夏に行われた、ワーナーミュージック・ジャパン内のレーベル<unBORDE>が主催するライブイベント<unBORDE Summer Xmas Party 2017>において、レーベルへの所属を発表。2018年、<unBORDE LUCKY 7TH TOUR>に出演。10/19、1st Digital EP「ウカ*」をリリース、unBORDEよりデビューを果たす。
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