Benthamと勝海麻衣が語る、表現者と職人をどう両立させるか

2017年にメジャーデビューを果たした4人組ロックバンドBenthamが、2ndアルバム『MYNE』を2月27日にリリースした。本作のジャケットと、先行シングル『cymbidium』のミュージックビデオには、銭湯絵師見習い中でモデルの勝海麻衣を起用。小関竜矢の恋人役を演じ、淡く儚い存在感を放っている。

Benthamがライブやフェスで鍛え上げた演奏力と、抜けるようなハイトーンボイスは健在ながら、バラエティー豊かな仕上がりとなっている『MYNE』。ここに並ぶ楽曲たちは、どれもルーツミュージックを深く掘り下げながらBentham流にアップデートされており、「鉱山」という意味を持つアルバムタイトル通り、本作はポップミュージックの鉱脈が豊富に埋もれた「宝の山」のようだ。

大正時代から続く「銭湯絵」の伝統を受け継ぎながら、表現者としての道を模索する勝海と、ルーツミュージックにアプローチしつつも現在進行形のロックミュージックを希求するBentham。表現している作品の違いこそあれど、両者の共通点はきっと多いはず。少々緊張気味にスタートした対談だったが、同世代ということもあり和気藹々とした雰囲気に包まれた。

ぎこちないなりの説得感やリアリティーが出せたんじゃないかな。(小関)

─今回、勝海さんをニューアルバムのアートワークと、先行シングル『cymbidium』のミュージックビデオ(以下、MV)で起用したのはどんな経緯だったのでしょうか。

小関(Vo,Gt):勝海さんが、銭湯絵師の修行をしながらモデルをやっていることは以前から知っていて。「銭湯絵師でモデル?」っていう、そのインパクトがまずありました。

アルバムのリード曲を“cymbidium”にすることが決まってMVどうしようか? という話になった時に、彼女のことを思い出したんです。というのも、この曲は僕の実体験を基にした儚い恋愛を歌っているんですけど、その中で記憶として美化された僕の恋愛対象と、勝海さんが持っている透明感あふれるイメージが、ピッタリで(笑)。それでオファーをさせていただきました。

勝海:光栄です、ありがとうございます!

小関:MVの準備を進めつつアルバムのアートワークをどうするか決めていく中で、「アルバムのトータルイメージも勝海さんにお願いしたらどうか?」という話になって。それでジャケット撮影も、MVと同じ日にさせてもらったんです。そういう意味で、“cymbidium”ができたのはバンドにとってもかなり大きな出来事でした。

─勝海さんは、MVに出演するのは初めてですか?

勝海:いえ、他のアーティストさんのMVに出させていただいたこともあります。例えばウソツキさんの“惑星TOKYO”という曲で、アンドロイド役で出演させていただきました。

須田(Gt,Cho):あのMV、びっくりするくらいアンドロイド感すごかったですよね。

勝海:そう言っていただけると頑張った甲斐があります。

今回は人間の役でしたが(笑)、これまで出させていただいたMVとはまた違った大変さ、楽しさがありました。撮影は2日に分けて行われたんですけど、事前にいただいていた絵コンテ通りに撮っていくだけではなくて、その場の流れで新しいアイデアも取り入れながら進めたり。曲が持つすごく切ない世界観をどうやったら出せるか、どう演じたらいいのかを探っていったんですけど、臨機応変に楽しく進みながらも、一切妥協しない現場の雰囲気に感動しました。

あと、Benthamのみなさんはすごく礼儀正しくて……。現場にいらっしゃって、「今日はよろしくお願いします!」って大きな声でスタッフさんたちに挨拶しているのを見て「す、すごい! 私もついて行こう!」って思いました。

勝海麻衣

一同:(笑)。

須田:僕らは僕らで、勝海さんのようなクリエイティブなことをされている方に対して緊張していたんですよ(笑)。特に僕は、学生時代に建築を学んでいたこともあって、クリエイティブな方に対しての憧れが強いんです。もちろんジャンルは全然違うんですけど、共感とリスペクトの両方を抱いたんですよね。

Bentham(左から:鈴木敬、辻怜次、須田原生、小関竜矢)

勝海:本当ですか? 私は逆に、音楽はまったく疎いので、みなさんにお会いする前は緊張してドキドキしてました。

─MVの中で、勝海さんと小関さんは今回セリフもありますよね?

勝海:そうなんですよ。私は自分の声があまり好きじゃないので、本当にいいのかな? と思いながらやらせていただきました……(笑)。

小関:僕も今回、自分の恋愛体験を自分で演じるというのは大変だったし、ビジュアル的に大丈夫なのか? という不安がありました(笑)。とはいえプロの役者さんに演じてもらうのも違うのかなと思って。ぎこちないなら、ぎこちないなりの説得感やリアリティーが出せたんじゃないかなと思っています。

銭湯絵の職人になりたいけど、「表現者」としてやっていきたい気持ちも強い。(勝海)

─勝海さんは、Benthamの音楽についてはどんな印象を持ちましたか?

勝海:さっきも言ったように、私はこれまで音楽をあまり知らなくて。失礼ながら、これまでBenthamのことも存じ上げなかったんです。MVのお話をいただいて初めて聴いたんですけど、「なんで今まで知らなかったんだろう?」っていうくらいハマってしまって(笑)。本当に毎日聴いています。

Benthamの音楽は、男女共通の恋愛観を感じさせるんです。みなさん男性なのに、女性の気持ちもすごく分かっている。そういえばみなさん、一人ひとりキャラが立っていらっしゃいますよね。シルエットで分かるというか。

辻(Ba):シルエットは、確かにそうですね(笑)。

勝海:髪型とか、それぞれ決めているんですか?

小関:4人の中で、ゆる~く決まっているところはありますね。辻は金髪、鈴木はロン毛、須田は長身パーマで、俺ボーカル風みたいな。

勝海:ボーカル風!(笑)

小関:例えば「ちょっとヒゲ生やしたいな」と思っても「いやいや、ボーカルだしツルンとしておけ」みたいな空気はある(笑)。以前は髪も長かったんですけど、それも「違うって言われるかな」と思ってやめたし。暗黙の了解でバランスを考えているうちに、こういうバランスに落ち着いたところはあります。

小関竜矢

─画家である勝海さんから見て、Benthamのアートワークについてはどんな印象がありますか?

勝海:まず、アルバムって色んな曲が入っているわけじゃないですか。それを1枚のジャケットで表すのって、すごく難しいことだと思うんです。1つの曲のイメージばかりが先行しすぎてもよくないし、とはいえゴチャゴチャするのもよくないし。

小関:今回はメチャメチャ話し合ったね。

須田:人の顔をモチーフにしたのも初めてだったし。

勝海:私の顔を半分カットして、コラージュのようにしているじゃないですか。こういうアプローチって、一歩間違えたら背徳的なイメージになってしまうと思うんですけど、すごく美しくて透明感があって。この辺りのバランス感覚はさすがだなと。

銭湯絵って世界的にもっと評価されてもいいような気がしますよね。浮世絵みたいに。(辻)

─現在勝海さんは、美大の大学院に通いつつ銭湯絵師の修行もされているそうですね。そもそも「銭湯絵」というのは「アート」として認められているのですか?

勝海:「アート」と全面的には認められていないと思います。発祥は大正時代と言われていますけど、もともと銭湯絵は、サービスで描いているもの。職人の世界なので、作家性を出すことよりも、同じ絵を淡々と描くことがずっと求められてきました。そもそも銭湯絵って3〜4年で描き変える運命にある絵なんです。私は銭湯絵の職人になりたいと思っているけど、「表現者」としてやっていきたい気持ちも強いので、そこをどう両立させていくかを考えながら修行に励みたいと思います。

銭湯絵師丸山清人氏と勝海が描いた銭湯絵

:え、銭湯絵ってそんな数年タームで変わるんですか?

勝海:そうなんです。湯気でやられちゃうんですよ。

鈴木(Dr,Cho):特別な塗料で描いているのですか?

勝海:いえ、業務用のペンキを使います。画家として普段使っている塗料とは全く違って5色しか色を使わないので、それを混ぜて微妙なグラデーションを出していくんです。最近のペンキは乾きが速いので、スピードが求められるんですよね。

─大体、どのくらいの時間で描き上げるんですか?

勝海:男湯と女湯、両方合わせて大体7時間で描き上げます。朝7時くらいに入って、休憩を挟みながら大抵夕方6時くらいに終わりますね。

:へええ! すごい。銭湯絵って世界的にもっと評価されてもいいような気がしますよね。浮世絵みたいに。

勝海:そうなったらいいなと思っているんですよね。その時のために、英語を勉強しなきゃ。

「自分たちがやりたいことを、どう分かりやすく見せていくか」を戦略的に考えるようになった。(須田)

─先ほど勝海さんから、「表現者」と「職人」をどう両立させるか? という話がありましたけど、Benthamのみなさんもそういうことを考えますか?

須田:音楽も似たようなところはありますよね。自分たちがやりたいことと、ファンやスタッフに求められることの違いを感じることはあります。具体的に言えば「もっと聴きやすく」とか、「もっと分かりやすく」みたいなことは、結構言われていました。

そのせめぎ合いで悩んだ時期も実はあったんですけど、そこはもう一周して。今は、「自分たちがやりたいことを、どう分かりやすく見せていくか」を戦略的に考えるようになったと思います。「自分たちの信念を曲げることなく、作品に落とし込むにはどうしたらいいか?」みたいな。

須田原生

─それは、例えば音色作りや、サウンドプロダクションにおいても「せめぎ合い」があるのでしょうね。例えば、ボーカルを聴こえやすくするために「どこまで相対的な音量を上げるか?」「自分たちが求める音像に、どこまで忠実であるか?」など。

須田:そう思います。そこで、根本的なところから変えるのは違うなと思うし。

小関:アートワークや衣装もそうですよね。クリエイティブに考えるべきところと、分かりやすさのせめぎ合いというか。単に流行りのものを取り入れたり、インパクトだけを重視したりするのではなく、自分たちの音楽性といかに結びついているかが重要なんだと思います。

僕自身はアートやファッションに対し、それほど造詣が深いわけじゃないんですけど、「Benthamらしさをどうやって打ち出すか?」については、みんなと一緒に考えなきゃなと思っていますね。

鈴木:僕は村上隆さんが好きで、彼がアートとマネタイズについて書かれた書籍などを何冊か読んだことがあって。その時に色々考えました。さっき勝海さんが「同じ絵を淡々と描く」とおっしゃっていましたけど、音楽も例えばロックバンドのフォーマットがあって、その中でどうやって違いを出していくか、あるいは繰り返しの中で、どれだけクオリティーを上げていくか、みたいなところを突き詰めているし。

鈴木敬

一方で新たなことに挑戦したり、全く別の要素を取り入れたりしながら変化していくことも大事ですしね。しかも、それで食べていくためには「いかに売れるものにするか?」も考えなきゃいけない。

心を動かす絵を描く人は大抵、ターザンみたいな波乱万丈な人生を送ってる。(勝海)

─勝海さんは、モデルの仕事もされていますね。画家とモデル、それぞれの魅力はどんなところにありますか?

勝海:モデルを始めたのも実は美大に入ったからなんですよ。学科がファッション科で、先輩や教授が急遽モデルを必要としている時に手伝ったのがキッカケだったんです。

モデルというのは、誰かの作品によって自分自身が「染められる側の喜び」というのがあるんだなと思いましたね。同時に、自分が客観的にどう見られているのか、私は人にどんなことを求められているのかを意識するようにもなりました。その経験は、自分自身が「画家」として人物を描く時にも役立っていると思います。それに、モデルの仕事は現場が毎回違いますし、色んな人と出会えるので創作活動においてもいい刺激になっています。

:僕もすごくよく分かります。何か新しいインプットがないと、なかなか創作意欲って湧かないんですよね。アウトプットが出てこない。

勝海:そうなんですよね。

:曲を作るためには色んな音楽を聴く必要があるんですけど、音楽だけに固執しているといいアイデアが浮かびづらいんです。それこそ気晴らしになるような趣味だとか、新しいことへの挑戦が常に必要だなと思っていますね。ライブやレコーディングの現場でもそう。自分の表現力というのは「インプットをいかに豊かにするか?」が重要です。

「ここは色っぽく弾いてほしい」とか、「ここは情熱を込めて」みたいなリクエストもあるし、そこでどれだけ引き出しの数を持っているかによって、出てくるフレーズも違ってくる。普段生活していて、言葉に表せない感情や、グッとくる風景、そういうものを音にできた時がミュージシャン冥利につきる瞬間じゃないかな。

勝海:よく分かります。絵の世界でも、子供の頃からずっと絵を描いて美大に入った人は、もちろんすごいテクニックを持っているんですけど、全く絵の素養もなく2か月前から始めたという人の方が、心を動かす絵を描くこともあるんですよね。そういう方は大抵、ターザンみたいな波乱万丈な人生を送ってる。

─ターザンですか(笑)。

勝海:絵を勉強し過ぎたことで、逆に型にハマった表現しかできなくなってしまう人もいるでしょうし。型を破る勇気みたいなものは欲しいなと思います。

とはいえ、私はまだ修行の身。師匠の元で、型を学んでいる最中です。いつか独立したら色んな表現に挑戦してみたいですね。「富士山」は、銭湯絵を普及したことに強い影響があると思うんですけど、そういう伝統へのリスペクトを忘れずに、どこまで進化させられるか……「壊す」のではなく「進化」させられるかなのかなって。

─中村勘九郎さんが生前、「型があるから型破り、型がなければ形無し」と言っていたことを思い出しました。

勝海:私の師匠、丸山清人さんもそういう方です。「いつも同じ絵を描いているだけだよ」っておっしゃるんですけど、やはり他の銭湯絵師にはない個性をお持ちなので、パッとみてすぐ分かります。それも、狙ってやっていらっしゃらないところが素晴らしいと思います。

私は色んなところへ出かけていって、たくさん刺激を受けてインプットしているのですが、師匠は身の回りにある些細なものごと、例えば季節の移ろいや、庭に咲く花などからもインスピレーションを受けて、作品に昇華する能力をお持ちなんです。

─意識せずとも滲み出てしまうものが個性であり、オリジナリティーなのかもしれないですね。

勝海:そう思います。それは大事にしていきたいし、表現するという意味では、音楽も絵画も似たところがあると思うんです。音楽に真っ直ぐ向き合うみなさんの姿勢にすごく刺激を受けました。間近に見ることができたことを光栄に思います。

:僕らも最初は模倣から始まって、下地を作ってから徐々にオリジナリティーを出していったので。そもそも僕らが使っている楽器や機材も、ビンテージだったりするわけじゃないですか。そういうものを使って新しい音楽を作っているわけだから、先人へのリスペクトは大切です。

鈴木:その話でいうと今作の『MYNE』は、プロデューサーから、曲の文化的なルーツを大事にしたアレンジというのを引き出してもらったんです。例えばディスコ調の曲だったら、それっぽいシンセが入っているとか。まずは型を知ってから、それを進化させていくということを1曲ずつ突き詰めました。なので今作は、ルーツを感じさせつつBenthamらしさのある作品になったと思います。

─今後も、Benthamと勝海さんの交流がいい形で続いていくといいですね。

小関:そうですね、可能であればアートワークはシリーズで作っていきたいとも思っているし、近々銭湯でのイベントなんかも予定しているので、これからもよろしくお願いします!

勝海:こちらこそ!

リリース情報
Bentham
『MYNE』初回盤(CD+DVD)

2019年2月27日発売
価格:3,780円(税込)
PCCA.4751

[CD]
1. cymbidium
2. Cry Cry Cry
3. Hope the youth
4. トワイライト
5. five
6. ASOBI
7. MIRROR BALL
8. BASSBALL
9. SUTTA MONDA
10. 夜な夜な
[DVD]
ライヴ映像
TONIGHT @渋谷CLUB QUATTRO(2018.6.8)
サテライト @渋谷CLUB QUATTRO(2018.6.8)
僕から君へ @渋谷CLUB QUATTRO(2018.6.8)
memento @渋谷CLUB QUATTRO(2018.6.8)
FATEMOTION @渋谷CLUB QUATTRO(2018.6.8)
Chicago @渋谷CLUB QUATTRO(2018.6.8)
激しい雨 @渋谷CLUB QUATTRO(2018.6.8)
パブリック @渋谷CLUB QUATTRO(2018.6.8)
クレイジーガール @渋谷CLUB QUATTRO(2018.6.8)
『MYNE』メイキング&オフショット映像

Bentham
『MYNE』通常盤(CD)

2019年2月27日発売
価格:2,980円(税込)
PCCA.4768

1. cymbidium
2. Cry Cry Cry
3. Hope the youth
4. トワイライト
5. five
6. ASOBI
7. MIRROR BALL
8. BASSBALL
9. SUTTA MONDA
10. 夜な夜な

プロフィール
Bentham (べんさむ)

2010年結成。2014年春のKEYTALKツアーのゲストアクトに抜擢され注目を集め、同年10月に「Public EP」でデビュー。以降インディーズで3枚のEPリリースを経て、2017年4月「激しい雨/ファンファーレ」でポニーキャニオンよりメジャーデビュー。同年7月には1stアルバム「Re: Wonder」リリース。17ヶ所に及ぶ全国ツアーを敢行。ツアーファイナル赤坂BLITZワンマンを大成功に収める。2018年4月にリリースされた「Bulbous Bow」収録の「FATEMOTION」がCBCテレビドラマ「こんなところに運命の人」主題歌・TBSテレビ「王様のブランチ」4月度EDテーマに、「memento」が映画「お前ら全員めんどくさい!」主題歌に決定。そして初の海外公演となる台湾の大型フェス「Spring Scream 2018」に出演。大いなる飛躍が期待されるハイブリッドロックバンド。

勝海麻衣 (かつみ まい)

1994年、東京都出身。医師の家庭に育ち、幼稚園から高校まで東京の名門・四谷隻葉に通う。小学2年生の時に見た銭湯絵で銭湯絵師を志す。高校卒業後、武蔵野美術大学に入学。在学中に空間演出デザインの勉強と平行してモデル活動開始。2018年には卒業後は東京藝術大学大学院へ。2017年9月、銭湯絵師の第一人者・丸山清人氏に弟子入り。銭湯絵の技術を身につけるべく修行中。



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