「偶発的な出会い」をコンセプトに、東京・銀座にある「Ginza Sony Park」で開催されているライブプログラム『Park Live』。前回、CINRA.NETでは15歳のトラックメイカー・SASUKEが登場した回をインタビュー&レポートしたが(参考記事:「15歳のSASUKEが抱く夢。時代を明るく、音楽はもっと楽しく」)、今回取材したのは、去る1月27日に、この『Park Live』に登場したシャムキャッツ。
今回のライブは、当日の午前中にSNSで発表されるというシークレットイベントながら大盛況。自主イベントの開催や、近年はアジアツアーも積極的に行うシャムキャッツの面々に、終演後、この日の演奏の手応えから、彼らの理想とする「場所作り」とはどんなものなのか、話を聞いた。
「なるべく闘わないでいたいよね?」っていう気持ちで、場所やライブを作らなきゃいけないのかなって思いますね。(夏目)
—今日のライブはいかがでしたか? 「Ginza Sony Park」はいわゆるライブハウスやクラブとも趣の違った場所なので、普段のライブと違った感触もあったのではないかと思うのですが。
夏目(Vo,Gt):楽しかったですよ。当日告知なのに、あんなにたくさんの人が来てくれて。
大塚(Ba):シャムキャッツは、ライブハウスじゃなくても、どんな場所でもやりたい人たちだからね。
藤村(Dr):うん、こういうオルタナティブな空間は好きだよね。
—シャムキャッツは場所や空間を作ることに意識的なバンド、というイメージもあります。昨年11月の『Virgin Graffiti』リリース時には、原宿でポップアップショップを開いていましたよね。
大塚:場所作り的なことはやってきたバンドではあるんですよね。『EASY』っていう、自分たち主催のイベントをやったり。自分たちがお客さんとして行ったとしても、楽しめるような場所になればいいなと思っていますね。
藤村:理想としては老若男女に来てほしいし、いろんなタイプの人に見てもらうことが、シャムキャッツにとって一番の幸せだと思います。でも、そういう場所を作ろうと思うと、ライブハウスでは物足りなくなるときもあって。もうちょっと風通しのいい場所を作りたいっていう意識は、この4人の中に潜在的にあるのかもしれないです。
夏目:それはありそうだね。イギリスへ旅行したときにライブハウスに行ったんですけど、「ライブを観に来る場所」というよりは、「楽しみに来る場所」っていう感覚の方が強かったりするんですよね。俺個人としては、バンドを組んでライブをやり始めたときから、「何でライブはライブハウスでしかできないんだろう?」って思っていたし。
—藤村さんが仰る「いろんな人が集まれる場所」って、いま本当に必要とされているような気もするんですけど、でも、どうすれば理想的な形で、そうした「場」が生まれるのかって考えると、難しいですよね。
夏目:なるべく、争いを避けるっていうことじゃないですかね。できる限り、怒らないようにするっていう(笑)。
—単純なことだけど、大事なことですよね。
夏目:どれだけ「人に優しくしよう」と思っている人が集まっていても、どうしたって至らないところがあったり、誰かが不快に感じることは起きると思うんです。でも、多少のことでは怒らないようにする。ツンケンしなくていい場所が、もっと欲しいですよね。
—たしかに、「怒り」にどうやって対処していくのかは、とても問われている時代のような気もします。
夏目:やっぱり、完璧な人はいないですからね。そのつもりはなくても、無知でいると、人は人を傷つけると思う。俺自身、いつか大きなミスをしてしまう日は来るような気もするんです。気づけていないことがいっぱいあるなと、日々感じているから。
でも、そういう人が隣にいたとしても、「お互いに成長していくしかないよね」っていう感覚を持てばいいのかな。もちろん、闘わなきゃいけない場面はある。でも、「なるべく闘わないでいたいよね?」っていう気持ちで、いま、場所やライブを作っていくのが自分たちの役割かなと思ってます。
「音楽の力」みたいなものを、より信じられるようになってきたから、その力を使いたいなって。(夏目)
シャムキャッツは去年、5枚目となるフルアルバム『Virgin Graffiti』をリリースしたばかりだが、この日はその新作から楽曲も多く披露。特に、ライブ終盤に繰り広げられた“BIG CAR”“逃走前夜”“このままがいいね”、そして本編ラストを飾った“MODELS”へと至る流れの熱量の高さは圧巻だった。『Virgin Graffiti』の収録曲たちは、ライブという表現の場に、一体どのような影響をもたらしたのだろうか?
—今日は『Virgin Graffiti』収録の楽曲が多く演奏されていましたけど、あのアルバムの曲がセットリストに入ることで、ライブの手応えに変化があったりもしましたか?
夏目:『After Hours』(2014年3月、3rdアルバム)、『TAKE CARE』(2015年3月、2ndミニアルバム)、『Friends Again』(2017年6月、4thアルバム)の3作は、それぞれに一貫したムードのあるコンセプチュアルなアルバムだったから、ライブも、おのずとその作品のムードに即したものになっていて。
でも、『Virgin Graffiti』は音楽的な参照点やテーマを絞らないバラエティに富んだアルバムになったから、どういうライブにしていきたいかっていうコントロールも、前より自由にできるようになったんですよね。
—今回、参照点を絞らない方向性にしたのは、原点回帰とも言えますかね?
夏目:あぁ~、どうだろう。参照点を持たず、それぞれの曲が行きたい方向に行かせるっていうやり方自体は『はしけ』(2009年4月、1stアルバム)の頃に近いし、原点回帰とも言えますね。でも、いろんな経験を経てきたおかげで、1曲1曲に対する「これはどういう曲なんだろう?」「これはどういう音にしたらいいんだろう?」っていう考察の精度や感性が、昔に比べると格段に高まっているんですよね。
—今日のライブの後半、“BIG CAR”“MODELS”へと続いていった流れに、すさまじく興奮させられました。特に“逃走前夜”や“このままがいいね”の絶妙なダンスフィーリングは、曲ごとの方向性がバラバラな『Virgin Graffiti』において、唯一、一貫したトーンを生み出す要素になっているのかな、と思うのですが。
夏目:具体的に「踊らせよう」っていうことではないんだけど、『Friends Again』のツアーを回っているとき、自分たちが思っている以上に、お客さんが曲に感動してくれているっていう実感があったんですよね。そういう現場を目の当たりにしていくうちに、曲を作ることによって人の心を動かせるというか……聴いた人たちが何かアクションを起こしたくなるような表現をもっとできるんじゃないか? っていう気持ちが芽生えてきて。
『Virgin Graffiti』では、そういう作品を目指そうっていうのはありましたね。もともと信じていた「音楽の力」みたいなものを、より信じられるようになってきたから、その力を使いたいなって。
—なるほど。音楽が、人に作用していくことを求めた。
夏目:あと、この2~3年は、個人的にはクラブミュージックばかり聴いていたっていうのが大きくて。クラブミュージックの、聴く人をアップリフトして、違う段階へと導くことができる機能美みたいなものを感じたのがきかっけで、ハマったんです。作品作りに「形式」と「内容」っていうゾーンがあるとしたら、「形式」の面では、俺たちはどうしたってバンドなんですよ。でも、その「形式」に向かうアプローチの仕方であったり、「内容」そのものに関しては、クラブミュージック的な観点を持つことは可能かもなと。
今回は、そういう観点を持ちながら、バンドの表現に落とし込んでいった感じなんですよね。だから、“もういいよ”みたいなロック然としている曲でも、「曲を作ろう」と思う発端は、僕なりにダンスミュージックの感覚に近くなっているっていう感じはあると思います。
夏目は、計算しているなって思います。チューニングが上手い、というかね。俺はそこまで器用にできないから。(菅原)
夏目のストリーテラーとしての才気が冴えわたる“GIRL AT THE BUS STOP”や“MODELS”もあれば、“完熟宣言”や“あなたの髪をなびかせる”といった菅原(Gt,Vo)の清廉としたポエジーが魅力的な楽曲たちもあり、シャムキャッツが内包する多面的な魅力を存分に感じることができたこの日のステージ。実際、それぞれの作家性を、メンバーはどのように見ているのだろうか。
—今日、“GIRL AT THE BUS STOP”を聴いて、改めて「すごい曲だな」と鳥肌が立つくらい感動したんです。人と人がそれぞれの生活を抱えながら、出会い、別れていく……そこにある心の機微や生活の細部を描く夏目さんのストーリーテリングは、やはりシャムキャッツの大きな魅力だなぁと思いました。
夏目:たしかに、「ガールミーツボーイ」「ボーイミーツガール」感というか、初々しさやキラキラしている感じを表現していますね。でも、こういうストーリー仕立てにしながらも、本当はもっと社会的なことを歌っていると自分では思っていて。
自分は、歌詞やタイトルでスローガン的に社会的なメッセージを発したいとは思わないんですよ。あくまでも現代に起こりえる物語を描くことで、ストーリーに一番大事なメッセージを託す。そういう作業が自分には向いていると思うし、“GIRL AT THE BUS STOP”では、それがかなり成功している気はしますね。
—一方で、菅原さんの書かれる曲は、夏目さんの曲とカラーが違っていて。その違いもまた、シャムキャッツの魅力だなと思いました。
夏目:自分に似合っている服ばかり着ていても、あまり面白くないし、その服も自分が気に入っているだけで、意外と似合っていなかったりするじゃないですか。そういう意味で、バンドに2人のソングライターがいることは、いい強みになっているなと思いますね。
例えば、“完熟宣言”(菅原が作詞作曲を担当)のサビの<大体の事はもう分かったよ>なんていうフレーズは、俺は絶対に書けないんですよ。実際、俺は「何にもわかってないなぁ」って思いながら生きているから。だから、こういう力強い言葉が書けるのは「いいなぁ」って思うし、自分でこういう言葉を、声を出して歌うのはすごく楽しいんですよね。カラオケ的な楽しさがある。
—菅原さんはご自身も作詞作曲されるうえで、夏目さんの作家性をどのように見ていますか?
菅原(Gt,Vo):夏目は、計算しているなって思います。歌詞に関しては、職人気質なところがあるなって思う。チューニングが上手い、というかね。俺はそこまで器用にできないから。
大塚:こっちから見ていると、たまに逆のことを思うときはあるけどね(笑)。
テクノと漢詩とサウナ、この3つは一緒なんです。(夏目)
夏目:前にバンビ(大塚)にはちょっと話したことがあるけど、最近、僕は漢詩を勉強しているんです。漢詩って、キャラ萌えみたいなものなんですよ。詩自体の良し悪しももちろんあるんですけど、結局、それを書いた人のキャラクターに詩がかなり寄るんですよね。
—何故、漢詩を勉強しようと思ったのですか?
夏目:例えば、“GIRL AT BUS STOP”や“MODELS”って、歌詞が長いんですよ。言葉数が多くて、曲の展開も、3つの展開が3回重なっていたりするから、ストーリーを描きやすいんです。でも、例えば“Travel Agency”っていう曲だと、歌詞は短くて、曲自体の展開も少ないんです。そういう曲を書いたときに、どうやってストーリーを知らせるかということを考えると、長ったらしい物語調の歌詞は書けないんですよね。
夏目:そこで、漢詩を思い出したんです。「国破れて山河あり」(中国の詩人・杜甫の漢詩『春望』の一節)とか、めちゃくちゃ短いんですよね。五言絶句とか七言律句とかいろいろあるんですけど、そういった少ない言葉の形式で情緒を伝えるっていうことを勉強しようと思って、漢詩に興味を持ち始めました。
—なるほど。それって、恐らく先ほどおっしゃっていたクラブミュージックの機能美にも近いですよね。
夏目:そうなんです、テクノと漢詩とサウナ、この3つは一緒なんです。
—え、サウナもですか?
夏目:テクノとサウナはかなり近いですよ。まず、時間の感覚を麻痺させるところが一緒。サウナでも気持ちいいゾーンに入ると、20分が3分に感じたりするじゃないですか。逆も然り。これは、ジェフ・ミルズ先輩(アメリカのテクノミュージシャン、DJ)も言っています。テクノやハウスがどういう音楽かと言えば、「時間を使って、時間の概念を変える芸術だ」って。
大塚:いや、ジェフ・ミルズは、サウナのことは言っていないと思うよ(笑)。
約1時間にわたり、サウナばりに、いや、サウナよりも熱いライブを繰り広げ、アンコールでは“すてねこ”を披露し、強烈な熱狂の中でライブは幕を下ろした。
『Virgin Graffiti』では、見事に最高傑作を更新していくバンドのバイタリティの高さを見せつけたシャムキャッツ。彼らが、この先も生み出していくであろう、「怒り」ではなく「優しさ」によって生み出される空間、あるいは漢詩的構築美の歌詞表現なども含めて、シャムキャッツからは、この先も目が離せない。
- イベント情報
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- 『Park Live』
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2019年1月27日(日)
会場:Ginza Sony Park 地下4階ライブハウスともクラブとも一味違う、音楽と触れ合う新たな場となる"Park Live"。音楽との偶発的な出会いを演出します。
開催日:毎週 金曜日20:00 - 、不定期
- リリース情報
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- シャムキャッツ
『Virgin Graffiti』(アナログ盤) -
2019年3月6日(水)発売
価格:3,000円(税込)
TETRA-1013[SIDE-A]
1. 逃亡前夜
2. もういいよ
3. 完熟宣言
4. She's Gone
5. おしえない!
6. Stuffed Baby
[SIDE-B]
1. カリフラワー
2. BIG CAR
3. 俺がヒーローに今からなるさ
4. あなたの髪をなびかせる
5. まあだだよ
- シャムキャッツ
- プロフィール
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- シャムキャッツ
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メンバー全員が高校三年生時に浦安にて結成。2009年のデビュー以降、常に挑戦的に音楽性を変えながらも、あくまで日本語によるオルタナティブロックの探求とインディペンデントなバンド運営を主軸において活動してきたギターポップバンド。サウンドはリアルでグルーヴィー。ブルーなメロディと日常を切り取った詞世界が特徴。2016年からは3年在籍したP-VINEを離れて自主レーベルTETRA RECORDSを設立。より積極的なリリースとアジア圏に及ぶツアーを敢行、活動の場を広げる。代表作にアルバム『AFTER HOURS』『Friends Again』、EP『TAKE CARE』『君の町にも雨は降るのかい?』など。2018年、『FUJI ROCK FESTIVAL ’18』に出演。そして2018年11月21日、5枚目となるフルアルバム『Virgin Graffiti』を発売した。
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