「ありきたりなシンガーソングライター」のイメージを避け、デビュー時から一貫して「どこにもいない人」を目指し、自らのイメージを確立するためセルフブランディングを積極的に行ってきたchay。
4月24日にリリースされる『大切な色彩(いろ)』では、Crystal Kayとのコラボで話題となった前作“あなたの知らない私たち”で魅せた、艶やかでジャジーなサウンドから一転、「出会い」と「別れ」が交差する春という季節にぴったりな、清々しくもどこか切ない楽曲が並ぶ。
本作では、幼少期から大ファンだという松任谷由実の1979年の楽曲“最後の春休み”をカバーしている。今なお色褪せることなく活躍する松任谷由実を、同じ女性シンガーとしてどのように見つめているのだろう? そして、chayが目指すシンガーゾングライターはどんな姿なのだろうか。28歳の彼女が今、激動する「シンガーソングライターシーン」について思うこと、これからの歩みについて丁寧に語ってくれた。
生まれて初めて行ったコンサートがユーミンさんだったんです。
—今作は前作から一転、春っぽくて爽やかな楽曲が並びましたね。松任谷由実さんの“最後の春休み”もカバーされていて。
chay:以前にもユーミンさんの“12月の雨”をカバーさせていただいたことがあるんですが、今回「春を詰め込んだ1枚にしよう」という思いがあったので、再度ユーミンさんをカバーさせていただきました。表題曲の“大切な色彩”や“With”とは違い、この曲はあえて感情移入を抑えて歌っています。
—ユーミンさんも、抑揚を抑えて歌うことで聞き手の想像力に委ねるタイプのシンガーですよね。
chay:ユーミンさんの曲って、1曲の中で物語になっていて、抑揚を抑えて歌ったほうがすっと耳に入ってくるし、聴いている人それぞれが自分の気持ちを投影させやすいんじゃないかと気づいて。そこでいつもの私のように、情感を込めて歌い上げてしまうと、ストーリーが耳に入ってこなくなる。そういう歌い方は、今回が初めての経験でした。
chay『大切な色彩』を聴く(Apple Musicはこちら)
—chayさんは、ユーミンさんのどんなところが好きなのですか?
chay:私、生まれて初めて行ったコンサートがユーミンさんだったんです。小学校低学年の頃、両親に連れて行ってもらったんですけど、幼心に圧倒されました。ユーミンさんのコンサートってエンターテイメントじゃないですか。衣装は何度も変わるし演出も凝っていて、ものすごく楽しくて。まだ歌詞の意味もよく分からなかった頃から楽しめたし、本当にテーマパークに遊びにきているみたいな。
chayとしてデビューする際、「歌や曲はもちろん、アートワーク、ミュージックビデオ、衣装、演出などこだわった、目でも耳でも楽しんでもらえるアーティストになりたい」という目標を掲げたのも、ユーミンさんのライブを観たことが大きかったのかもしれない。
—“最後の春休み”は、ユーミンが25歳の時にリリースしています。そして、chayさんと同じくデビュー7年目なんですよね。
chay:25歳の時なんだ! 「天才」としかいいようがないです……。デビュー7年かぁ。
—chayさんにとって、この7年はどんな時間でしたか?
chay:5周年までは、とにかく「chayとはこうありたいし、こうあるべきだ」という理想像みたいなものが確固としてあって、そこに対してものすごく頑固にこだわりがありました。もう、それ以外のものは一切受け付けません! みたいな。ある意味では視野が狭かったのかもしれないですけど、おかげでchayのイメージみたいなものは、少なからず浸透したんじゃないかと思っています。
5周年を迎えてからは、これからの新しいchayをどう見せられるか、成長していくchayの姿を見てもらいたいし、冒険することに躊躇しなくなりました。以前は「冒険しちゃったら、chayのイメージがブレてしまうんじゃないか?」という恐れがあったんですけど、今はどんなことでも前向きに考えられるようになったと思います。新しい人との出会いや、新しいことへの挑戦が、自分の視野をどんどん広げてくれるというか。
—その「イメージを確立させたい」と思っていた時には、誰か目指すべきロールモデルがあったのですか?
chay:いえ、とにかく「どこにもいない人になりたい」と思っていました。「○○みたい」と言われるのがイヤだったんですよ。それこそ「ギターを持って歌っている女の子」って、たくさんいるじゃないですか。しかも、当時はイメージがわりと画一化されていて……。
そこを、私らしくすり抜けるにはどうしたらいいかなって。「ワンピースにヒールを履いて、キラキラのギターを持ったシンガーソングライターがいてもいいんじゃない?」と思ったんですよね。当時、日本にはあまりそういうアーティストがいなかったんですけど、海外ではテイラー・スウィフトなどがやっていました。
—誰もいない場所を見つけて、心からやりたいことをそこでやるというのは、非常にオルタナティブなアティチュードですよね。
chay:そうおっしゃってもらえると嬉しいです。ただ、誰もやっていないことをやると必ず批判があるし、前例がないことをやるのは自分でも怖いことではあったんですよね。いろんな人に反対されたし、「シンガーソングライターならこんな格好をして、こんな曲を歌ったほうがいいよ」みたいなことも言われたし。それでもそこは、当時から全くブレなかった。自分を押し通すのは、本当に大変でしたけどね(笑)。
大人が戦略的に考えて、マーケティング的に落とし込んだ楽曲は、すぐにバレてしまうと思う。
—シーン全体を俯瞰した時、女性シンガーが求められていることって変化したと思いますか?
chay:ここ数年でめちゃめちゃ変わりましたよね。何か急激に変化しているということは強く感じています。これからはますます、「アーティスト自身がどうしていきたいか?」ということが大事な気がしますよね。大人が戦略的に考えて、マーケティング的に落とし込んだ楽曲だったり、それを歌っている人だったりというのは、すぐにバレてしまうと思います。
その人にしかない個性、その人だからこその個性みたいなものにみんなが惹かれているんだろうなっていうのは、例えば、あいみょんさんや米津玄師さん、岡崎体育さんたちを見ていても思いますし、ユーチューバーの活躍などを見ていても感じますね。こんな時代がくるとは思わなかったな……って、28歳の私が言うのもなんですけど(笑)。
—やっぱりそれは、世の中が「多様性」というものを大切にするようになり、選択肢が多くなってきたからこそという部分もある気がしますね。
chay:だからこそ私も、自分らしさとか核となる部分は大切にしつつ、新しいことにも挑戦していきたいなと思いますね。「自己プロデュース」を楽しみながらやり続けたい。何事も逆算的に考えて戦略を練るのも大好きなので(笑)。
結婚して子供を産んでも、すごく応援してくれるような時代じゃないですか。
—chayさんのファンは、chayさんと同世代の女性が多いと思うんですけど、そんな彼女たちの声に共感することも多いですか?
chay:とても多いですね。SNSのコメントやファンレターなどで、いつもたくさんいただいています。やっぱり28歳というと、女性として心境の変化がすごくある時期ですよね。環境もだいぶ変わってくるし、同級生が結婚して子供産んで……みたいな。ついこの間まで一緒にはしゃいでいた子が、とてもしっかりしたママになっていて。仕事もそうですよね。少し慣れてきて、転職する人も増えてきているし。「このままでいいのかな」という風に悩む時期なんじゃないかなって。
ただ、さっきの「多様性」の話じゃないですけど、以前に比べると息苦しさは減ってきたのかもしれないですね。アーティストの生き方にも様々な選択肢があって、それに対してファンの方も寛容でいてくれるというか。結婚して子供を産んで、子育てしながらアーティスト活動をしたとしても、ファンが減らないどころかすごく応援してくれるような時代じゃないですか。だから私自身も特に、「早く結婚しなきゃ」とも「結婚したらアーティスト活動は辞めなきゃいけないのかな」とも思っていない。そんなこと考えずにいられるのは「自由」になってきたからなのかな。自由を受け入れてくれる時代?(笑)
—自分の環境が大きく変わっても、歌は辞めずにいたい?
chay:今はそう思っています。昔から子供は大好きだったし、いつかは出産してみたいとも思っていますけど。自分の環境や心境が変化したら、それをそのまま歌にできたらいちばんいいなと思っているんです。
それって実は、前回Crystal Kayさんとご一緒させていただいたのをキッカケに考えるようになったことなんですよね(参考記事:chayとCrystal Kayが語り合う、女性の悩みと男性が知らない本音)。Kayさん、「20年やって、やっと自分の声が分かってきて今がいちばん楽しい!」っておっしゃっていたんです。それって、続けてきた人にしか感じられない感覚じゃないですか。
—おっしゃる通りです。
chay:この業界で、彼女みたいに20年も活動し続けるのはほんっとうにすごいことだと思うんです。イチローさんじゃないですけど、続けることがどれだけ大変か……。もちろん、ヒットさせることも大切ですけど、それよりも「歌い続ける」こと、どんな状況になっても「続けていく」ということが、Kayさんと出会ってから「いちばんの目標」になりましたね。
人に馬鹿にされるような大きな夢も平気で抱いていたし、それに向けて猪突猛進できていた。
—今作の表題曲“大切な色彩”の作詞クレジットを見ると「chay、安部純、Rie Tsukagoshi、岡田博子」と4人の名義になっています。ここ最近はチームによる「コーライティング(共作)」が、特に海外では当たり前になってきていますよね。
chay:8人とかでコライトしている曲なんかもありますしね。実際にやってみて感じたのは、自分1人では生まれない言葉やメロディーが、どんどん生み出されていくところに「コーライティングの面白さ」があるのだなということでした。これまでは、自分が作詞をする時には完全に1人でやるか、共作の場合でも作家さんと2人で膝を付き合わせる方法だったので、こうやって「チーム」でコライトをしたのは初めての経験でしたね。
最初こそ進め方に戸惑いがあったのですが、チームで話し合いながらレコーディングの直前まで何度もブラッシュアップを重ねていって。非常に勉強になりました。
—コーライティングをやってみて、発見はありましたか?
chay:とても視野が広がりましたね。例えば、私はいつもギターで曲を作るんですけど、そうするとどうしても自分の好きなコード進行や展開の仕方で作りがちだと思うんですよ。でも、そこに第三者が加わることで、自分の概念や美学からは出てこないような発想が生まれてくる。自分ですら思いもよらなかった反応を返していることもあるし。
—今作のテーマでもある「ノスタルジー」って、時にはネガティブなイメージもあるじゃないですか。「過去にとらわれる」とか「思い出にしがみつく」とか。その辺りはどう思いますか?
chay:私は逆に、ノスタルジーに浸ることで前向きになれるんです。部屋を掃除していて昔の写真を見つけたり、見返したりとかたまにすると、「懐かしいな」という気持ちで胸がギュッとなって、切ない気持ちになる時も確かにある。でもそれって「あの頃に戻りたい」みたいな後ろ向きなことではないんですよね。写真の中で楽しそうに笑っている自分、がむしゃらに夢を追いかけていた頃の自分と対峙することによって、「明日からまた頑張ろう」という気持ちになれるというか。
—それってどうしてなんでしょうね。
chay:昔の自分って、いい意味で「怖いもの知らず」だったんですよね。人に馬鹿にされるような大きな夢も平気で抱いていたし、それに向けて猪突猛進できていた。でもそれも、年齢を重ねていくごとに、徐々に薄まっていくじゃないですか。夢を持ち続けてはいるんですけど、どんどん「現実」も分かってくるし、しがらみも増えていくし。
でも、昔の写真を見て「根拠のない自信」に満ち溢れていた頃の自分と再び出会った時に、「初心に立ち返る」ことができるというか。今から2年前、デビュー5周年を迎えた時にいろいろ考えたんですよね、「ここからどうしていこう?」と。
その時に、自分を奮い立たせ続けることの大変さを身にしみて感じたんです。ずっとモチベーションを保ち続けることって、どんな職業においても課題だったりするじゃないですか。高い壁が立ちはだかるような感覚だったんですけど、そんな時に昔の自分を思い出すと「当時に戻りたい」というよりは、「もう一度、がむしゃらだった自分を取り戻そう」と。それですごく燃えてきましたね(笑)。
—ちなみにchayさんの「無謀な夢」って、どんなことだったんですか?
chay:私は幼稚園の頃から歌手になりたかったんですけど、「絶対にデビューして武道館で歌う」って高校生の頃は思っていました(笑)。でも、そんなことを友達に話したところで「何言っちゃってんの?」って話じゃないですか、その頃の私では(笑)。私は、『ミュージックステーション』に出るのが夢で、中2の時にメールで「明日、(『ミュージックステーション』に出るから)テレビ見てね」って打ったのを、送らずに保存しておいたんですよ、いつか送る日のために。
—それ、めちゃくちゃいい話じゃないですか。
chay:(笑)。「誰に何を言われようが、絶対にデビューするし『ミュージックステーション』にも出る」って本気で思っていましたからね。「人間に不可能なんて絶対にないんだ」って。実際、そのメールを送る日がきたわけなので、やっぱり「根拠のない自信」って大事だなと思います。「怖いもの知らずの自分」がいたから、いまの私がいるんですよね。
- リリース情報
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- chay
『大切な色彩』(CD) -
2019年4月24日(水)発売
価格:1,620円(税込)
WPCL-130401. 大切な色彩
2. With
3. 最後の夏休み
- chay
- プロフィール
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- chay (ちゃい)
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1990年10月23日生まれ。幼少の頃から歌手を目指し、小学生の頃からピアノで曲を作り始める。大学に入学すると同時にギターを始め、路上ライブなどを重ね、本格的に音楽活動を始める。2012年10月に「はじめての気持ち」でワーナーミュージック・ジャパンよりCDデビュー。2013年10月より2014年3月までフジテレビ系「テラスハウス」に出演し、各方面で話題に。2014年5月より「CanCam」専属モデルとしても活動開始。2015年2月にリリースされた「あなたに恋をしてみました」は、フジテレビ系月9ドラマの主題歌となり、50万DLを突破し大ヒット!その後、配信限定リリースを含めた9枚のシングルと、2枚のアルバムを発売。昨年12月にはフィーチャリングにCrystal Kay を迎え、シングル「あなたの知らない私たち」を発売。これまで歌ってきたピュアで一途な恋心とはうってかわって、女と女の戦いやスリリングな大人の恋の駆け引きを思わせる楽曲が話題を呼んだ。
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