二階堂ふみと亀梨和也がダブル主演を務める警察ドラマ、『ストロベリーナイト・サーガ』のオープニングテーマ曲に、シンガーソングライター、ロイ-RöE-の“VIOLATION*”が起用され話題となっている。
この曲の作編曲は、アキレス・ダミゴスとOh!Beによって結成されたプロデューサーユニット、Face 2 fAKEと彼女のコライト(共作)によるもの。インダストリアルなビートと壮大なシンセサイザーが交差する、ダークかつ壮大なサウンドスケープの中で、キュートでありながら狂気を孕んだようなロイ-RöE-の歌声がこだまする。陰と陽の二面性を持つその中毒性の高い世界観は、ドラマとも彼女のパーソナリティとも見事にシンクロしている。
1stデジタルEP『ウカ*』でメジャーデビューを果たしてからおよそ半年。MPCサンプラーを駆使したステージパフォーマンスや、徹底した「女目線」のソングライティングなど、独自のスタイルを貫いている異色のアーティスト、ロイ-RöE-。今回、初のコライトに挑戦したという彼女に、楽曲やドラマへの思いについて語ってもらった。
グロテスクだったりダークだったりするモチーフを使って、いかに美しく仕上げるかにこだわっている。
―ロイ-RöE-さんは『ストロベリーナイト・サーガ』を原作から読んでいたそうですね。
ロイ-RöE-:そうなんです。物語はすごくエグくて、心の深くまでえぐられる感じなんですけど、その描き方が美しくて。死の描写すらアートのようなんですよね。普通の刑事ドラマではもちろんないし、単に猟奇的な漫画でもなくて。
私自身も曲を作るとき、グロテスクだったりダークだったりするモチーフを使って、いかに美しく仕上げるかにこだわっているので、すごく共感する作品だったんですよね。今回の“VIOLATION*”でも、<痛みを、暗闇を / 粧したくなっちゃうよね>というラインがあるんですけど、そこはまさに今話したことがモチーフになっています。
―二階堂ふみさん演じる主人公、姫川玲子のどんなところに魅力を感じますか?
ロイ-RöE-:例えば、姫川のライバルでもある、江口洋介さん演じる「ガンテツ」こと勝俣健作に「化粧する暇があるなら働け!」と言われたり、他の刑事にも見下されたり、彼女は男社会の中でしんどい思いをたくさんするんですけど、絶対に「女」を捨てていない。ヒールを履いて、髪の毛もきちんとセットして化粧も怠らない、そういうところがかっこいいなと思うんですよね。
男社会にまみれてもガサツになってしまわないところが「めっちゃ姫川だなあ」と思ってグッときます。スーツ姿なのに、色気がにじみ出とる彼女は、二階堂ふみさんのハマり役やなと思いますね。
―以前、ロイ-RöE-さんへインタビューしたときに、自分の見せ方について「ロリータなのに喧嘩売ってるイメージ」とおっしゃっていて。それにも通じるところありますよね(参考記事:ロイ-RöE-が歌う、1990年代歌姫の「ケンカを売る感じ」の音楽)。
ロイ-RöE-:そうなんですよ!(笑)
―姫川刑事は、犯人の意識と同調しすぎてしまうという「危うい一面」もあり、それもキャラクターに深みを与えています。
ロイ-RöE-:自分ではダメだと分かっていても、つい闇に引き込まれてしまう姫川の心理は共感できるし、そこも今回、歌詞で表現したくて。さっきの<粧したくなっちゃうよね>というフレーズや、<救われる傷あとは / 汚したくなっちゃうよね>というラインがそうです。
―ドラマの中で、自分の楽曲が流れるのはどんな心境ですか?
ロイ-RöE-:前作の『ストロベリーナイト』では、林ゆうきさん作曲のオープニングミュージックがすごくハマっていて。今回、私が歌っている“VIOLATION*”は全く違う曲調だし、かといって前作に寄せすぎるのも私らしくないなあという不安もあったんですよね。曲ができた直後は、ロイ-RöE-としても今までやってこなかった新しい試みを詰め込んだ、めっちゃいい曲ができたと思って盛り上がっていたんですけど。
最初、試写会で見たときは、緊張しまくって冷静に聴けなくて。ドラマに合っているのかどうかよく分からなかったんです。でも、テレビでオンエアされたときに、少し落ち着いた気持ちで見たら、「よかった、ちゃんとハマっとるかも」って思えました。映像はちょっとホラーテイストなんだけど、怖いだけじゃなくて。姫川がニカッと笑うカットもあって、そのギャップが「飴と鞭」というか、姫川の狂気を感じてよかったです(笑)。
重たい歌詞を、そのまま重たく悲しく歌ってしまったら美しくない。
―“VIOLATION*”ですが、Face 2 fAKEとのコライトに挑戦しているんですよね。
ロイ-RöE-:はい。タイアップが決まった時点で10曲くらい作っていて、それも悪くはなかったんですが「もっとよくなるんじゃないかな」と思ったんです。自分のアイデアは出し尽くしたので、他の人のアイデアを組み合わせてみたらどうなるんだろうって。
それで、自分とは全く真逆というか、世代も性別も聴いてきた音楽も、好みも全く違うお2人にお願いしました。予想どおり、いい意味でバトルというか、火花を散らしながらの曲作りになりましたね。
―具体的にはどんな手順で作っていったのですか?
ロイ-RöE-:最初に<VIOLATION>と歌うサビの部分を彼らと一緒に作って。そこからはデータを家に持ち帰って自分でAメロとBメロを作りました。アイデアの断片があって、そこに肉付けしながら膨らませていくやり方ですね。人と一緒にやるのは、1人のときと比べて倍以上に体力を使うけど、楽しかったしやってよかったなと思っています。
―「倍以上に体力を使う」というのは?
ロイ-RöE-:自宅やったら髪の毛ボサボサでもパジャマ姿でも、全く気にせず作業できるじゃないですか(笑)。スタジオで人と一緒にやるとなったら、そんな汚い姿は見せられんし。そういう意味でも体力を使いました(笑)。
―なるほど(笑)。コライトすることで、自分では気づかなかった引き出しが開くなど、新しい発見もありました?
ロイ-RöE-:ありました! 自分が無意識に書いたフレーズにも「これ、ロイ-RöE-っぽくていいよ」と言ってくれて。逆に、なにもコメントがなかったところは「普通なんやな」と分かったし(笑)。自分のいい部分に気づかせてくれて、そういう意味ではもっと自信が持てるようになりました。
―ロイ-RöE-さんっぽさというのは、具体的にどういうところを指摘されたんですか?
ロイ-RöE-:例えばAメロのメロディーに「気持ち悪いね!」って言われて(笑)。全体的にマイナー調の曲なのに、ここだけちょっとメジャーっぽくなっているんですよ。自分ではよく分からずにやっているだけなんですけど、2人からは「メジャーコードの上で、こんなヘビーな歌詞を書く人初めてみた」って言われて。
あと、<終に、重力に負け / 星になった生命よ>という歌詞も、メロディーと一緒にすぐ出てきたんですよね。それを褒めてくれたんです。「この歌詞が上がったときは本当に感動したー!」って。今までは結構、「歌詞が分かりにくい」とか「一体どういう意味?」なんて言われることが多くて。ちゃんと理解してくれた上に、そんなふうに言ってもらえて本当に嬉しかったです。
―「ドラマの世界観を使って自分を表現する」というのも、タイアップで曲を作る醍醐味のひとつなのかもしれないですね。
ロイ-RöE-:そう思います。縛られるほど、自由になっていく感覚といえばいいのかな。なんの制約も条件もなかったら、逆になにをしたらいいのか分からなくなって、余計に萎縮してしまうと思うんですよね。枠組みがあることで、その中で伸び伸びできる。
例えば菅野よう子さんは、あれだけ作品世界に寄り添っていながら、聴けば絶対に菅野よう子さんだと分かる「作家性」があるじゃないですか。私もそういうソングライターになりたいと思いますね。
―他に、コライトならではの「化学変化」ってありました?
ロイ-RöE-:さっき言ったAメロは、自分の中では美しいストリングスなどをフィーチャーした、壮大なアレンジを考えていたんですよ。でもFace 2 fAKEの2人からは、「暴力的に歪んだファズっぽいサウンドがいいんじゃないか?」という提案があって。それって真逆のアプローチじゃないですか。でもそれをちょうどいいバランスで融合させたことで、聴いたことのないような音像になったんですよね。
―しかも、このAメロ部分を少し明るい感じでロイ-RöE-さんが歌っているのも、ちょっと狂気を感じるというか。
ロイ-RöE-:まさにそこも、レコーディングのときに歌い方で悩んだ部分ですね。この重たい歌詞を、そのまま重たく悲しく歌ってしまったら美しくない。押し付けがましくはしたくなくて、ちょっと「ほくそ笑む」くらいの感じで歌ったほうがいいのかなって。そこは、手塚治虫さんの『火の鳥』の影響なんです。
―『火の鳥』ですか。
ロイ-RöE-:『火の鳥』って作品自体はすごく重厚でシリアスですよね? でも、キャラクターのフォルムとかクリッとしていて可愛いのが、ギャップとして効いていると思うんですよね。より狂気が増すというか。
―なるほど、確かにそうですね。
ロイ-RöE-:なので、自分が火の鳥になった気分で歌っていました(両手を鳥のように羽ばたかせながら)。
私、「可哀想」と思われるのが一番嫌で。
―タイトルの“VIOLATION*”にはどんな意味が込められていますか?
ロイ-RöE-:姫川は強姦された過去を持っているんですが、「VIOLATION」には強姦という意味もあるらしくて。でも私はこの言葉を「違反」という意味で使ったんです。
姫川は「悲しむことは恥だ」という気持ちがとても強くて。人前で悲しんだり、弱みを見せたりすることがないんですよね。ガンテツになにを言われても、絶対に涙は見せまいとしている姿がとても魅力的だし共感する。
―悲しみや弱みを見せるのは「違反行為」だという戒めの曲だと。それはロイ-RöE-さんの姿勢にも通じますよね。
ロイ-RöE-:私、「可哀想」と思われるのが一番嫌で。だから「可哀想」とか「大丈夫だよ」とかで片付けられないように、もっと深刻だということを、汚して見せつけてやろう、と。それで、<救われる傷あとは / 汚したくなっちゃうよね>という歌詞が出てきたんだと思います。
―最近は「ありのままでいる」ことが大事というか、弱さもさらけ出すことがよしとされている風潮があるけど……。
ロイ-RöE-:私は嫌です。悲劇のヒロインにはなりたくないし、同情されて「可哀想」と思われるより「羨ましい」と思われたほうが、自分もテンションが上がるというか。
―さっき、人と作業するときは身なりを気にしていたとおっしゃっていたのも印象的だったんですよね。人に弱みを見せないロイ-RöE-さんが、完全に自分をさらけ出せるのはどんなときですか?
ロイ-RöE-:うーん……一番仲のいい子にはなんでも話すけど、その子以外にはあんまり自分のこと話さんかも。人って、誰かの弱みを知ったらつい言いふらすじゃないですか。その仲のいい子は広められる心配がなくて(笑)。でも、この先彼女みたいな友人に出会えるんやろか? と思うこともあります。
あとは歌詞の中で、自分をさらけ出すことはたまにありますね。なるべく分からないようにしたり、はぐらかしたりしてるけど。この曲でも<忘れそう愛の手触り / 火傷しそうなそんな感じ?>みたいに茶化した言い方をしているし、<わたしは凍えている / なんとなく凍えているんだ>は<なんとなく>っていうフレーズを入れて強がってる(笑)。
―そういう強がって見せる歌詞の世界って、ロイ-RöE-さんのファンにはどんなふうに受け止められているんでしょうね。
ロイ-RöE-:どうなんやろ。私は徹底して「女目線」で書こうと決めていて。自分を「女のアートコンテンツ」というか、楽曲も映像も、女性に刺さる表現、女性が一度は経験したような表現をしたいんですよ。女子高生のファッションとか流行とか、ちょっと行き過ぎなカルチャーに興味があるんですよね。なので、女性ファンに共感してもらえたらすごく嬉しいです。
音楽はもちろんだけど、「ロイ-RöE-さんが着ている服が欲しいです」なんて言われたりしたらとても嬉しい。自分も『ドラゴンボール』の人造人間18号に憧れて髪型を真似したように、誰かに真似されるような存在になれたらいいなと思います。「みんなの18号」になりたい(笑)。
土屋アンナさんと「浜ちゃん」は、私が目指す頂点かもしれないです。
―目標にしている女性は他にいますか?
ロイ-RöE-:山口小夜子さん(ファッションモデル、ファッションデザイナー)。最初、写真集を見て「この綺麗な人、誰⁉」ってビックリしました。山口さんがモデルの時代は、みんな西洋人に憧れて、それを真似したメイクやファッションをしていた。その中で、自分の美を追求している感じが本当にかっこいい。声も所作も素敵なんですよね。
あとは土屋アンナさん。自分も音楽だけじゃなくていろんなことがしたくて。なにをしてもブレてない。「絶対的土屋アンナ」って感じ。ああいう人になりたいです。
―そういえば、前回よりも髪が短くなりましたね?
ロイ-RöE-:そうなんです。一度切ったら止まらんくなって(笑)。たまに切りたくなるタイミングがあるんですよ。髪の色もしょっちゅう変えていました。1週間単位で違う髪型や、違うファッションにしていた時期もあって。
いろんな人格になりたくなるんですよね。服や髪型で自分のキャラクターも変わるというか。ちょっと綺麗な服を着とったら仕草も上品になるし、ちょっとルーズな服を着たら、足かっぴろげてダラーっとしまうし(笑)。気分を変えたいときは、そうやって形から変えるのもいいなって。
―音楽表現も、そういうところはありますか?
ロイ-RöE-:あります。音楽もいろんなジャンルが好きで、ある程度「縛り」がないととっ散らかっちゃうんです。「あれもやりたい、これもやりたい」って。“VIOLATION*”もそうですね。Face 2 fAKEがそこをまとめてくれたように思います。
ブレないという意味では、ダウンタウンの浜田さんもブレないんですよね。お笑いもタレントも、俳優も歌もやるのにすべて「浜ちゃん」じゃないですか(笑)。あんな風に強い存在の人になりたい。土屋アンナさんと「浜ちゃん」は、私が目指す頂点かもしれないです。
ロイ-RöE-『VIOLATION*』を聴く(Apple Musicはこちら)
- リリース情報
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- ロイ-RöE-
『VIOLATION*』 -
2019年5月22日(水)配信
- ロイ-RöE-
- プロフィール
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- ロイ-RöE-
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頭から離れないメロディーと個性的な歌詞を紡ぎ出すシンガーソングライター。中学卒業後から独学で作曲を開始。2017年夏に行われた、ワーナーミュージック・ジャパン内のレーベル「unBORDE」が主催するライブイベント『unBORDE Summer Xmas Party 2017』において、レーベルへの所属を発表。2018年、『unBORDE LUCKY 7TH TOUR』に出演。10/19、1st Digital EP『ウカ*』をリリース、unBORDEよりデビューを果たす。
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