ティーンエイジャーの頃、親も友達も全員敵に見えたり、斜に構えて世の中に違和感や怒りを感じたり。そんなフラストレーションを強く持って無敵な気もする一方、ひとりぼっちで世界に取り残されたような孤独感を抱いたりする。きっと誰もが感じたであろう、あの青い心のあり方を鮮やかに描いた映画『さよなら、退屈なレオニー』が6月15日に公開される。
カナダの田舎、まさにそんな時期の女の子レオニーの姿を描いたこの映画。高校卒業直前の夏、将来の夢もなく、家族ともうまくいかず、ちょっぴり恋をしながらも、ただこの街を出たいと願うレオニーに、10代の自分を重ねる人もきっと多いはず。今回、この映画の日本版予告編のイメージソングとして“メイプルカナダ”を提供したThe Wisely Brothersの3人に、それぞれの「レオニーのような時期」を振り返ってもらった。
「こうしなきゃいけないのはわかっているけど、なんで思うように前向きに進めないんだろう」っていう気持ちは、大人になったいまでもある。(渡辺)
―カナダの田舎町で自分の生活にフラストレーションを抱える高校生レオニーを描いた青春映画『さよなら、退屈なレオニー』。本作の日本版では“メイプルカナダ”がテーマ曲になっていますが、The Wisely Brothers(以下、ワイズリー)のみなさんの青春時代はレオニーと比べてどのようなものでしたか?
和久利(Ba,Cho):レオニーは私と反対のタイプだなって思いました。私は昔からやりたいことが多くて、やりたいことが見つからない時間を過ごすレオニーを見ていると少しもどかしかったです。自分と違う青春を見た気がして不思議でした。でも、レオニーの「そこにいたくないから」という理由で家を飛び出したり、自分の好きなことを止められない衝動には、共感できる部分もあって。
真舘(Gt,Vo):私は(和久利)泉とは逆で、ずっとレオニーと同じ気持ちだなと思って。いまの自分にも昔の自分にも、何故かすごくぴったりきました。自分の思い通りに物事が進まないってことが、だんだんとわかってくる過程とかね。
渡辺(Dr,Cho):「こうしなきゃいけないのはわかっているけど、なんで思うように前向きに進めないんだろう」っていう気持ちは、いまでもあるような気がするよね。私の場合、学生時代は周りに対して冷めていたし、一緒に楽しく話せばいいのにあえて友達と一緒に行動しないことを選んだりして。
でもそれは周りの人たちが悪いわけじゃなくて、本当に自分の問題だったと思うんです。自信がないから強がったり、弱かったり不安だったりする自分を見せたくなくてそうじゃない自分を演出したり。
―そういう自分の本心と行動がちぐはぐになってしまう時期ってありますよね。
真舘:いまでも常にそうです(笑)。基本的に物事って思い通りにいかないけど、その一つひとつに対して自分を適応させられないじゃないですか。自分を器用に変えられないからこそ、どうしても環境が変化するたびに揺さぶられて疲れたり、ひとりになりたくなったり、逃げ出したくなったり、いつもはやらないことをやってみようって思ったり……。
でも、それによって感情が動いたり生まれたりすることって、悪いことじゃないんだと思いました。そういう感情があるからこそ、自分の本心がわかるし、自分と本当に近いものを見つけたときにちゃんと心が開けるし、「ここに行きたい」「こうなりたい」という気持ちが芽生えるんだと思います。
先がないからこそ、とりあえずなにか新しいことを始めて、いまの自分を解放させたい。(真舘)
―たしかに自分が変わっていなくても、周りが変わるとそれだけで不安になったりしますよね。真舘さんは昔から環境の変化に敏感でした?
真舘:私は家族のかたちが変わる家庭で育ったので、当時は人にいえない悩みも多くて。小さいときはその環境が私の世界の全てだったからすごく戸惑いがあって。身近にいた人が離れてしまうことやその逆のことがあったり、そういうことを誰に相談したらいいかわからなかった。人にいえないから小さい嘘もつかなきゃいけないし、人と壁ができて……そうやって周りばかり気にすることが嫌でした。
―でも、そういう悩みを自分の内側だけに留めておくのって、やっぱりどうしてもしんどくなったりしませんでした?
真舘:そうですね。誰にも相談できないモヤモヤした気持ちをどうにもできないから、将来のことよりも目の前にある状況とか、その瞬間に心に抱いていることに気持ちを持っていかれてしまうんです。
周りの環境や人が急激に変わっていくのを見ると、全部が信じられなくなっちゃって。いま幸せだったとしても、その状況がこの先も続いていくなんて保証がないって考えてしまったんです。先がないからこそとりあえずなにか新しいことを始めて、いまの自分を解放させたいというか。そんなことも理由の一つになり、とりあえず軽音楽部に入ってバンドを始めたんです。
和久利:私は、楽器はずっとやっていたんですけど、中学時代はバスケとバトミントンを兼部していて。ずっと運動部だったから、軽音楽部ってストイックな感じがしなくて最初は嫌だったんですけど(笑)、あるときに通学路で楽器を背負っている同級生を見て、なんで私はいま楽器やってないんだろう? ってふと思ったんです。そんなときに(真舘)晴子が軽音部に入るって聞いて。
渡辺:私はその頃まさに10代特有の「斜に構えた時期」だったかも。軽音部に誘われても「私バイトするんだよね」って断って。そのくせ家族には「軽音部誘われたんだよね〜」ってずっといっていて。たぶん誰かの後押しがほしかったんでしょうね。それで家族から「やればいいんじゃないの?」っていわれて入部しました。でも、晴子が別になんでもよかったみたいな気持ちで始めたとは知らなかった……。みんな気合いがあったわけじゃないのに、そのわりには長く続いてるね(笑)。
友達が「晴子ってこういう人だよね」って俯瞰していってくれると、ちゃんと自分にも個性があるんだって思えるようになりました。(真舘)
―レオニーはカナダの田舎町に住んでいて「ここじゃないどこかに行きたい」という感情を持っていますが、それとみなさんの「なんでもいいからいつもと違うことを始めたい」っていう感情は似ているのかなと思いました。
真舘:そうですね。でも私は東京に住んでいる気持ちしか知らないからこそ、「どこかに行きたい」ってずっと思っています。ずっとここで暮らさなきゃいけない意味ってあるのかな? って考えることもあって。なんとなく東京で暮らさなきゃいけないみたいな考えが勝手に降りて来てそれに縛られるんですけど、別にここにいなくても自分で場所を選んで変えていいんですよね。
―実際に行動を起こそうとは思わなかったんですか?
真舘:大学生のとき、頭の中がバンドとバイトと大学の宿題と予習でパンパンになりすぎて、大学の駅で降りるのが不可能になったことがあったんですよ。その日はそのまま電車に乗り続けて鎌倉に行って。楽器を担いで海まで歩いて、ギターを枕にして寝ていたんです。そのときに、私の「なにかをやりたい気持ち」ってこういうことだ! って。人に迷惑がかかってしまうこともあるけど、それよりも自分がどうしたいかが大事だって気づいたんです。好きなものをちゃんと好きといえるようになったのも高校生くらいで、それまでは本当に周りのことばかり気にしていたんですよね。
―そのときからどんどん自分というものを優先させるように考えがシフトしていったんですね。
真舘:学生時代って節目節目で周りの人や環境がわかりやすく変わるじゃないですか。そのたびに新しい人と出会って「こういう人もいるんだ。それなら自分はこういう人かもしれない」って気づいていきました。それに友達が「晴子ってこういう人だよね」って俯瞰していってくれると、ちゃんと自分にも個性があることを確認できるし、それが人と違ってもいいんだ、人のことは気にしなくていいんだって思えるようになりました。
バンドか就職か悩んだときに、「いましかできないことを選択したほうがいい」ってすんなり気づいて、そこからはすごく楽になりました。(和久利)
—漠然と何者かになりたいけど具体的にはわからない、みたいなフラストレーションと、でも将来のことを不安に思う時期ってありますよね。
真舘:そうですね。将来に対する不安ももちろんあったんですけど、そのときはその瞬間その瞬間のことを考えるのに精一杯で、頭が将来のほうに向いていかなかったです。インターンとか就職説明会とかたくさんあったけど、具体的に興味は持てずに、自分のできることを仕事にできたらいいなって、漠然とですけど前向きには考えていて。でもそれがどういう名前の職業で、どういう会社で、どういう仕事なのかっていうのはわかっていなかったです。
渡辺:晴子と泉は進学するっていってたけど、私は興味のある分野とか勉強したいことが全然なかったから高校を卒業したら就職しようと思っていたんです。そんな中で、バンドを辞める辞めないみたいな将来の話は全くないまま卒業に向かっていて。もし私がここで就職しちゃったらバンドが崩れるなと思ったから短大に進学しました。逆に、「これを学びたい!」みたいな自分の意思で選択したわけじゃないからするっと進めた道だと思う……って考えたら、私全然自分でなにも選んでないなって気づいた……。
和久利:そんなことないでしょ!
真舘:うん、そこまで私と泉を気にして選んでたようには見えなかったよ。
渡辺:でも、就職を普通に視野に入れてしまうくらい、私はやりたいことが特になかったんだよ。ていうか、そのときの私はバンドだけで満足していたんだと思います。バンド以外にやりたいことが思いつかなかったし、バンドをやっている自分を最優先して、ふたりがこういう状況なら私はこうしよう、っていう考え方で選択してました。
和久利:私は高校生のときに将来の夢を明確に決めてリハビリの専門学校に行ったんです。宮城で長期の実習があったんですけど、そのときに自分のやりたいことを改めて考える時間ができて、バンド、学校、職場……いろんなことを考えたんですよ。そうしたら、本当にこの仕事がしたいのかなって疑問が生まれて。
東京でライブしてまた実習に戻ることがあったんですけど、やっぱりどうしてもライブが楽しいので、実習に戻ってからなにも手につかなくなっちゃって。でも、もともと誰かのためになる事を選択する生き方を大切にしてきたから、自分が楽しいと思えるという理由だけでバンドを選ぶことがどうしてもできなかった。
—一度ゆっくり考える時間ができたからこその岐路ですね。
和久利:そうなんですよ。そのときに「なんで私はこんなに早く将来の夢を決めて固執しちゃったんだろう? もっと自由に考えればよかった」って思ったんです。仕事もおもしろそう、でもバンドのほうがもっとおもしろそう、でも資格取って仕事したほうが親は喜ぶよなとか、いろいろ考えて。資格自体は取ったんですけど、就職するかどうか本気で悩んで。
そこで初めて「実はどうしようか悩んでる」って話をふたりにしたんです。そしたら話しているうちに、いましかできないことを選択したほうがいいってすんなり気づいて。そこからはすごく楽になりました。もともと気を遣うタイプで、昔から周囲の人のことを気にしてしまうタイプだったので。でもあまり気にしていると自分が崩れてしまうこともわかったから、それ以降は意識的に無神経にするようにしています。
真舘:なんか泉が変わったなって時期があったよね。言葉にはしなかったけど、人って変わっていくんだなって思いました。
和久利:あのときは自分でもわかるくらい変化したと思う。自分の好きなことを理解したり、なにが嫌でやりたくないことかって表現したり、表現はできなくてもその意識があるだけで自分ができることが広がっていくんだなと思います。
悲しみも自分の光にしていかないと人生が続かないなって気づいたんです。(真舘)
―3人とも悩み方は違うけど、それぞれ将来について一生懸命考えつつも、その瞬間その瞬間をちゃんと繋げていくことが大事だと気づいたり、それを続けてきて現在に至っているんですね。今回『さよなら、退屈なレオニー』の日本版予告編のイメージソングとして“メイプルカナダ”が起用されていますが、カナダに住むレオニーが持つ、まさにいまみなさんがお話ししてくれたような10代のモヤモヤした感じと、歌詞がすごくリンクしていますね。
真舘:映画を観て「こんなことがあるの?」ってくらいピッタリでびっくりしました。しかも、カナダに行ったこともないし、メイプルっていう言葉もメイプルシロップくらいしか知らないのに、作った瞬間から、この雰囲気は“メイプルカナダ”だと思っていたんです。リリースから3年経っていますけど、その思いがいま繋がった気がしてうれしかったです。
―リリースの半年前くらいに曲を書いたとのことですが、真舘さんは当時どんなことを考えていたんですか?
真舘:そのときは、側から見れば普通の日常を送っている気がしていたんですけど、どこかで「なんか違う」って思っていて、私だけ世界に対して違和感があるのかも、みたいな気持ちでした。
自分と違ってみんなはちゃんと世界を楽しんでいるのかな、みんな自分の環境にしっくりきてるのかなって気になっていて。自分の恋愛、家族、学校にもしっくりこない感じがあって、それがメロディーと歌詞と演奏になったのがこの曲です。
―ティーンエイジャー独特の、無知だからこその無敵感ってあると思うんですが、大人になるにつれて「あれ? 無敵じゃないぞ」って気づき始めていって。<なにも手放してないのに>っていう歌詞も、気づき始めている段階なのかなと。
真舘:そうですね。<なにも手放してないのに>って何回か出てくるんですけど、自分が「じゃあね」っていってないのに、人やものが勝手に遠ざかっていくことが受け入れられなくて。なんで近くにあったのに遠ざかっていくんだろうって。そうすると悲しいことも逆に自分の味方にしないとやっていけない、悲しみも自分の光にしていかないと人生が続かないなって気づいたんです。
―モヤモヤだけじゃなくて、ちゃんと前に進んでいるときに受けるような風や光も感じる曲ですもんね。
真舘:この曲でいうと、すごくモヤモヤした歌詞のあとに出てくる<シーサイドからジーザス>が、私にとっての無敵感です。「なぜ遠ざかっていくのかわからない」っていう心の状態を、少しわからない言葉に置き換えたのが強さになったと思っていて。
―それぞれレオニーみたいな時期を経てきたみなさんですが、最後にその頃の自分に向けてメッセージを贈るとしたら、どんな言葉を伝えますか?
渡辺:私は「そのままで楽しみ切って!」です。最近悩みがあったときに「思いっきり向き合って乗り越えるしかないよ」っていう言葉を人からもらって。何度もそういう時期があったのに、いままでは乗り越え切れてなかったのかもしれないなと気づいたんです。無理になにかを変えるのではなくて、どれだけ向き合えるかが大切だっていうことを教えてもらったので、過去の自分にも変に強がって斜に構えるのはやめて、楽しそうなら思い切り乗っかって楽しんでほしいなと思いました。
真舘:私はジャン=リュック・ゴダールが映画の中でいっているセリフなんですけど、「不安と絶望を少しでも感じることがこの地上に存在できる最良の道」(『ゴダールの決別』 / 1993年)っていう言葉。この言葉を初めて聞いたとき、「どういうこと!?」って思ったんです。驚いた反面、この言葉があったら私の人生はすごく救われるだろうと思って。不安を持つことも絶望を感じることもきっと全部自分の優しさや光になるはずだから、それを感じることっていうのは生きていくのに一番大切だって教えてもらったような気がして、楽しんで生きようって思いました。
和久利:朱音と似てるんですけど、「楽しまなきゃ!!!」です。過去の自分にちょっと怒り気味でいいたいくらい(笑)。将来どうなるとかじゃなくて、なにが好きで、なにが楽しいのかっていうのを、もっと気楽に考えてほしいなって。誰かのために物事を決めるのではなく、自分が好きなことをやらなきゃって。その瞬間にしかできない選択って絶対あると思うんです。それを選択しないで後悔するんだったら、絶対にそのときに選択したほうがいいと思っています。
- 作品情報
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- 『さよなら、退屈なレオニー』
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2019年6月15日(土)から新宿武蔵野館ほか全国で順次公開
監督:セバスチャン・ピロット
出演:
カレル・トレンブレイ
ピエール=リュック・ブリラント
上映時間:96分
配給:ブロードメディア・スタジオ
- リリース情報
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- The Wisely Brothers
『Captain Sad』(CD) -
2019年7月17日(水)発売
価格:2,800円(税込)
COCP-409011. 気球
2. テーブル
3. つばめ
4. はなればなれピーポーズ
5. イルカの背中
6. 柔らかな
7. Hobby
8. いつかのライフ
9. ナイトホーク
10. River
11. Horses/馬たち
- The Wisely Brothers
- プロフィール
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- The Wisely Brothers (わいずりーぶらざーず)
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都内高校の軽音楽部にて結成。真舘晴子(Gt.Vo)、和久利泉 (Ba.Cho)、渡辺朱音(Dr.Cho)からなるオルタナティブかつナチュラルなサウンドを基調とし 会話をするようにライブをするスリーピースバンド。 2014年下北沢を中心に活動開始。 2018年2月キャリア初となる1st Full Album「YAK」発売。 同年11月7inchアナログ「柔らかな」発売。 2019年7月17日に2nd Full Album「Captain Sad」をリリース予定。
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