Homecomingsとのツーマンツアーやシャムキャッツ、Taiko Super Kicksとの対バンなど、これまで幾たびかの来日公演を行ない、ここ日本にも着実にファンベースを広げている台湾のバンドDSPS。昨年リリースされた待望のデビューアルバム『時間の産物』には、1990年代のUKインディ~USオルタナや、スーパーカー、透明雑誌といった日台のインディーバンドに通じる浮遊感たっぷりのメロディーラインや、メランコリックでときにノイジーなギターサウンドがぎっしりと詰まっており、その開かれた同時代的な音楽センスにも注目が集まっている。
中でもエイミーが紡ぎ出す、何気ない日常を切り取った歌詞世界は印象的で、揺れる台湾情勢の中で暮らす若者たちの、漠然とした不安感がそこはかとなく漂っている。激動するアジア情勢の中、現代台湾の若者たちはなにを思うのだろうか。
日本の楽曲に触れ、交流してきた台湾バンドから見た、日本のバンド
―台湾で生活するみなさんは、どんな音楽を聴いて育ってきたのですか?
エイミー(Vo,Gt):高校生の頃はMayday(台湾の5人組ロックバンド)など、当時流行っていたポップスをひと通り聴いていました。1990年代に入って台湾のインディーズバンド、たとえば透明雑誌(台湾のオルタナティブロックバンド)あたりが好きになって。同じくらい日本の音楽も大好きで、フィッシュマンズやスーパーカーなどをよく聴いていましたね。
チキン(Dr):僕は、高校でパンクにハマり、Green Dayや10-FEETなどを聴いていました。
アンディ(Ba):僕はどちらかというとソウルやヒップホップ、R&Bのようなブラックミュージックが好きでしたね。
―日本のバンドはどうやって知ったのですか?
エイミー:私が好きな、台湾の閃閃閃閃というバンドがスーパーカーの影響をすごく受けていて。それで調べて聴いていたらどんどん好きになっていきました。
チキン:おそらくDSPSの音楽は、パッと聴いた印象としてはスーパーカーの影響を強く感じると思うんですけど、僕やアンディの聴いてきた音楽は全くジャンルが違っていて。たとえばテンポ感やリズムの組み立て方など、スーパーカーとは違う要素も含まれているので、その辺りもよく聴けば感じてもらえると思います。
エイミー:リスナーはDSPSの音楽をどんな風に受け止めているんだろう……私たちがスーパーカーを聴いたほどの衝撃はないと思うけど(笑)。
チキン:いや、そんなことないよ! 自信持って(笑)。
―(笑)。ソングライティングは主にエイミーさんが担っているそうですが、歌詞にもこれまで聴いてきた音楽の影響はありますか?
エイミー:歌詞は、普段の生活の中で感じたこと、気づいたことを日記のような形で書き留めていて、それを元に歌詞を組み立てていくやり方がひとつ。それともうひとつは、自分の好きなアーティストの歌詞にインスパイアされて書くという方法です。最近は、日本の音楽もたくさん台湾で翻訳されていて、それを読むのが大好きなんですよね。中国語にはあまりない言い回しがたくさんあって新鮮なんです。
最近だとHomecomingsの歌詞に感銘を受けました。最近やっと台湾でも翻訳されて、それを読んだらイメージ通りでした。新作『WHALE LIVING』もとてもよかったです。全体に漂う、ちょっと悲しい雰囲気とかものすごく影響されていると思います。
―すでに何度も来日していますが、対バンした日本のバンドでシンパシーを感じたのは?
エイミー:本当にたくさんのバンドと共演させてもらいましたが、中でも今挙げたHomecomingsとシャムキャッツはすごく好きですね。そういえば、このあいだ面白いことがありました。sitaqというバンドと対バンだったのですが、サウンドチェックのときにドラムの女性が叩くドラムパターンが、チキンとそっくりなプレイだったんですね。それで話を聞いたら「DSPSの影響をすごく受けている」といってくれて。バンドを結成したとき、メンバー4人がそれぞれ挙げた好きなバンドで唯一共通していたのがDSPSだったそうなんです。それを聴いてとても嬉しくなりました。
―日本と台湾のシーンやオーディエンスの違いも感じますか?
エイミー:まず日本のオーディエンスは、台湾のオーディエンスよりも冷静にライブを見られている方が多い印象です(笑)。というのも、ライブが終わると色々と意見や感想をいってくださるんですよ。直接声をかけてくれる人はもちろん、SNSなどに感想を書いてくれる人もいて。単純に「好き」だけじゃなくて、前回と比べてどこがどう違っていたか、よかったかとか。すごく細かく話をしてくれる。それがとても有意義で、自分たちの活動にフィードバックされているんですよね。
チキン:日本のオーディエンスは、演奏中は静かだけど終わったあとの感想が熱い。台湾のファンは、演奏中は熱狂的に楽しんでいるけど、後から細かい感想をくれる人ってあまりいないかも。どちらがいい悪いではなく、国民性の違いなのかなと思っていますね。
アンディ:今年は日本のフェスに初めて出演したのですが、そのときに驚いたのが、ひとつのステージに対して10人くらいスタッフがいること。それって台湾ではなかなかないことなんですよね。まだ台湾ではフェスやライブの歴史が短く、ノウハウもしっかりしていないのかも知れないですね。日本と比べてマーケットも小さいし、規模感が違うのかなと。昔と比べればかなり進歩してきたとは思いますが、改善してもらいたいところはまだまだたくさんあります。
台湾の若者が実感する「自由」のあり方
―台湾に住むあなたたちと同じ世代の若者はいま、どんなことに関心があるのですか?
エイミー:私は今年で25歳になったのですが、学生時代に経験した社会運動は、私たちの世代にとってはものすごく大きなインパクトがありました。それまで遠い存在だった「政治」というものに対して「自分ごと」として考えられるようになったというか。これから台湾がどうなっていくのか、それが自分たちとどう関わりがあるのかを強く意識するきっかけとなったんです。台湾人としてのアイデンティティーも、より強くなりましたね。
―そういった社会での動きが、DSPSの作品にもフィードバックされることはありますか?
エイミー:基本は自分の生活について歌う曲が多いのですが、実は1曲、社会運動に感化されて“Freedom can be seen only when you are not free(自由是在不自由中才看得見的)”という曲を作りました。タイトル通り「自由は、不自由の中で見えるもの」ということがテーマです。
DSPS“自由是在不自由中才看得見的”(Apple Musicはこちら)
―「自由」というものに対する意識が、日本の若者よりも強いのかもしれないですね。
エイミー:私たちはいま、とても自由な環境で活動を続けてきていて。それは今後も貫き通したいと思っています。ただ、自由だけでは食べていけないので(笑)、ビジネス的にもちゃんと成り立つようマネタイズもしっかりやっていきたいです。やりたいことが生活の糧となり、それで世界と繋がっていくにはどうしたらいいのか、具体的な方法を毎日考えていますね。
アンディ:僕自身はバンド以外に音楽を教える仕事をしていて、毎日忙しくて大変なのですがとても充実しています。どうして日々をこんなに楽しく過ごしていられるかというと、やっていることに「達成感」があるからだと思うんです。当たり前のことかも知れないけど、そこはすごく重要で。常に達成感を得られるよう、これからもいい音楽を作っていきたいです。
- リリース情報
-
- Taiwan Beats(フリーペーパー)
-
2019年8月発行
発行:台湾文化部影視及流行音樂產業局台湾の音楽シーンを日本に紹介するフリーペーパー。9m88やDSPSといった台湾の現在がわかるミュージシャンのインタビューなどが掲載。
- DSPS
『Fully I』(CD) -
2019年9月25日(水)発売
価格:2,160円(税込)
BRRCD-0381. Intro
2. Folk Song For You
3. Fully I
4. 三月的街頭 Marching Alone
5. 土耳其藍的夢 Samesies, Samesies!
- プロフィール
-
- DSPS (でぃーえすぴーえす)
-
アンディ、エイミー、チキンの台湾人3人組インディギターポップバンド。2014年結成に結成。細かく刻まれるビートの上を行き来する浮遊感あるメロディーと、秀逸な男女のコーラスワークで台北のメロウな雰囲気を見事に醸し出している。Homecomingsとのスプリットツアーを大成功に収めるなど、台湾国内外の耳の早いリスナーの間で話題となっている、台湾インディシーンの新世代として期待されるバンド。
- フィードバック 3
-
新たな発見や感動を得ることはできましたか?
-