a flood of circle佐々木の音楽探訪。なんでもアリな世界を求めて

話せば話すほど面白い音楽家である。

a flood of circleでは一貫してロックンロールを叫びながら、ソロ作品ではゴスペル、ソウル、ブルース、トラップまでを自在に食い尽くし消化する。直情と冷静、本能と批評性。作品ごとに異なる表情を見せながら、しかしそのどれもが還元し合って転がっていると感じさせるところに、佐々木亮介の面白さがある。一見バラバラで定位置を持たない人だが、むしろその定位置のなさを音楽にし続けてきたし、だからこそ音楽から音楽へと旅をしながら「はみ出し者だからこそ自由である」ことを体現してきたのが佐々木なのである。

8月21日にリリースされたソロ名義でのアルバム『RAINBOW PIZZA』はシカゴと東京で制作された。シカゴへ赴いたのも納得の、ゴスペル、トラップ、ソウル、ブルースがドバッと注ぎ込まれたトラックたち。その上を、のびのびと佐々木のラップが泳いでいく。ギターをはじめとした生音がトラックに生のグルーヴを与えていく楽曲構造も、ロックバンド側からポップミュージックの動向を冷静に見続けてきた佐々木らしい。

2019年に入ってからすでに30曲近くをリリースしている佐々木の異様なスピード感と自由なソングライティングは、上述したように広い視野で音楽の動向とその背景を見つめる視座から生まれているのだろう。ロックバンドのプライドを歌い鳴らしながらラップミュージックへと飛び込んだ先で見つけたものとはなんなのか? 今ロックバンドを転がしていくための光を、どこに見ているのか? 音楽家・佐々木亮介の展望を徹底的に掘った。

『LEO』でブルースやソウルのルーツに対峙した時に、過去すら清算できたんだよね。そこから一気に曲が出てくるようになった。

―3月の『CENTER OF THE EARTH』、8月にRyosuke Sasaki名義でリリースしたソロアルバム『RAINBOW PIZZA』。そして11月にリリースする『HEART』。a flood of circle(以下、フラッド)、ソロ、さらにTHE KEBABSのデモ2枚の全部を合わせると、佐々木さんは今年30曲以上リリースすることになるんですが。

佐々木:数えたんだ(笑)。でも、確かにそれくらいいってるね。

佐々木亮介『RAINBOW PIZZA』を聴く(Apple Musicはこちら

a flood of circle『CENTER OF THE EARTH』を聴く(Apple Musicはこちら

―ここ数年はソロもフラッドも猛烈なペースですけど、このエンジンのかかり方は一体なんなんですか。

佐々木:簡単な言葉になるけど、「自由でいいんだ」って思えたのが大きいんだと思う。きっかけを思い返すと……2015年にフラッドで『花』を出した頃は、曲が全然書けなくなってたのね。個人としてはポップミュージックの変化スピードを理解してきた一方、バンドマンとしての自分は「フラッドはロックンロールでなくちゃいけない」と思い込み過ぎていて。自分の固定概念の中で歪みが出てたというか。

佐々木亮介
a flood of circle(あ ふらっど おぶ さーくる)
2006年結成。佐々木亮介(Vo,Gt)、渡邊一丘(Dr), HISAYO(Ba)、アオキテツ(Gt)からなる4ピース・ロックンロールバンド。数回に亘るメンバー交代を経て、現在の編成に定着。2019年3月にアルバム『CENTER OF THE EARTH』をリリースし、11月には、メンバーそれぞれが1曲ずつ作詞作曲を手掛けたミニアルバム『HEART』を発表。佐々木亮介は2017年の『LEO』を皮切りにソロ活動もスタートし、こちらではブルース、ソウル、ゴスペル、ヒップホップ〜トラップまでを網羅する。

―『花』の当時は、音楽家脳とバンドマン脳の解離状態だったと。作詞作曲も佐々木さんだし、メンバーの脱退や交代を繰り返してもフラッドを突き動かしてきたバンドストーリーの象徴としても、佐々木さんはずっと前に立って闘い続けてましたよね。

佐々木:やっぱりフラッドはメンバー同士がぶつかり合って音楽を生み出すバンドじゃなくて、俺が一生懸命やるのをメンバーが助けてくれる感じだったから。だからこそ「自分とフラッドを同化させなきゃいけない」って考え続けてたんだけど……「バンドを続ける覚悟は決めてるけど、どう動かしていけばいいのか」ってフワフワしてたし、自分たちの事務所を立ち上げた直後で不安もあった。そういう複合的な理由で考えすぎてぶっ壊れてしまって。ギターが鳴ってる音楽を聴けなくなっちゃうくらいだったんだよね(笑)。でもそこで支えてくれたのは、やっぱりメンバーや周りの人だったんだよ。

『花』をリリースした後、アルバム『NEW TRIBE』を出した頃からサポートギターとしてテツ(アオキテツ / 2018年より正式メンバー)が入って、ナベちゃん(渡邊一丘 / Dr)や姐さん(HISAYO / Ba)もより一層「フラッド頑張ろう」っていうモードになってくれてさ。マネージャーも固まって。そこでみんなが俺に「もっと自由にやっていいんだよ」って後押ししてくれたの。それで、2016年に作った初めてのソロアルバムが『LEO』(2017年 / LEOは佐々木の愛称)で。そこから、どんどん自由になっていけたんだと思う。

左から:HISAYO、佐々木亮介、アオキテツ、渡邊一丘

―『LEO』は、a flood of circleが鳴らしてきたロックンロールのルーツに対峙するようにメンフィスで作られた作品で。ブルース、R&B、ゴスペルの色も濃かったですよね。

佐々木:そう、まさに「一旦ルーツに向き合いたい」と思って、メンフィスに行って作ったのが『LEO』で。そこで、自分の過去のことすら清算できた気がしたんだよね。振り返ると、フラッドの一番最初のギターの岡ちゃん(岡庭匡志 / 1stアルバムリリースツアーファイナルの直前に失踪。2009年に脱退)がブルースやソウルに詳しくて、そいつが「ブルースロックやろう」って言い出したのをきっかけにしてフラッドは始まってさ。それに引っ張られて俺も好きな音楽が広がったし、だからこそ岡ちゃんに対してのコンプレックスもあったんだよ。

佐々木:それもあって、岡ちゃんがいなくなってからのa flood of circleに対して「宙ぶらりんになったブルースロックを俺が貫くしかない」っていう固定概念が強くなり過ぎてたんだろうなって……実際にブルースやソウルのルーツに対峙した時に自覚できてさ。でも、「貫いたことでここまで来られたんだ」と思って、憑き物が落ちた感覚だった。そうなった瞬間に、バンドとしても自由に音楽を作る楽しみも感じられるようになっていって。そういう相乗効果でバンドでもソロでも迷いがなくなって、一気に曲が出てくるようになったね。

―長らくa flood of circleっていう枠を守ることが大事だったけど、ルーツと向き合えた時にようやく、その枠の外で表現することを自分に許せたと。

佐々木:そう、足場が固まった瞬間に迷いがなくなったんだよね。だって『LEO』なんて、最初は「自分のルーツにあるものを気楽にやってみよう」っていう気持ちだったのが、いざ作ってみたら「ピアノで曲作ってもいいんだ」とか「ゴスペルもやりたい」とか「とにかく全部詰め込みたい!」みたいな作品になってさ(笑)。

そこまでやり切れたからこそ、またロックバンドのよさも改めて理解できたところがあったの。やっぱり今の時代にロックンロールをやるなら、クリックに合わせるとかグリッドに沿うとかじゃなく、生々しいグルーヴを振り切らせるべきだと思えたんだよね。

―直近作『CENTER OF THE EARTH』はまさに、生のグルーヴで一気に突っ走る作品でしたね。

佐々木:そうそう。そうやってフラッドを改めて面白がって鳴らせるようになったのが、すごく嬉しかったことで。もっと自由でいいと思ったし、一方ソロでは、今回の『RAINBOW PIZZA』みたいにトラックメイキングまでやるようになっちゃったし(笑)。

―ロックンロールを叫ぶバンドマン脳と、ロックに夢を見るからこそ客観的にポップミュージックを分析していく音楽家脳と。その二軸の両方を同時にフル稼働させられるのが佐々木さんのすごさと面白さだと思います。

佐々木:ずっと二面性はあるよね。しかも、バンドマンとしても音楽家としてもどこにもハマれてねえなっていう感覚がずっとあって。たとえばチバさん(チバユウスケ / The Birthday)やベンジーさん(浅井健一)みたいな生まれながらのロックスターの仲間にも入れない感じがするし、一方では田淵さん(田淵智也 / UNISON SQUARE GARDEN)みたいに超クレバーなソングライターにもなれない。

でも、自分の好きにやればいいっていうモードになれたことで、その「ハマれなさ」こそがアイデンティティだと思えるようになってきたのが最近だと思うんだよ。

俺自身、バンドマンとしても音楽家としてもどこにもハマれてねえなっていう感覚がずっとあって。

―そういう音楽的な二面性は、どう育まれたものなんですか。

佐々木:大人になってから振り返れたことだけど……昔、親が超転勤族で、俺もベルギーやイギリスに住んでたの。そんな中で、どこにも自分の居場所がなかったんだよね。でも、どこに行っても好きな音楽だけは変わらないっていうのが俺の支えだった。その時に聴いてたのがThe Beatlesで。彼らは作品ごとにサウンドが超自由でしょ。スピッツが大好きだったのも、その歌を聴くと「はみ出し者でいいんだ」って思えたからで。そういうロックバンドが自分にリアリティを与えてくれてたんだよ。

佐々木:だからーーたとえば今って、ストリーミングサービスで聴かれるようにするためのアルゴリズムに合わせるとか、フェスティバルで受け入れられるにはこういう構造の曲がいいとか、視聴環境の変化に合わせたソングライティングも増えてるけど、俺がやりたいのはそういう仕組みに合わせた音楽じゃなくて。そんな型すらなく、もっと自由で、どこにもハマらない気持ちを助けてくれるような音楽をやりたいんだよね。

―まさに“We Alright”でも歌われていることですね。ジャンル云々ではなく、音楽観の軸が一切ブレない。

佐々木:変わらないよね(笑)。今でも、居場所がない自分にハマる場所を探すようにしてきたのと同じようにいろんな音楽を聴いて、いろんな場所へ行って、それを作品にしてると思うんだよね。

―それこそ今回のソロ作『RAINBOW PIZZA』は、シカゴと東京で制作されていて。シカゴへ行った目論見がわかるようなラップミュージックで、ソウル・ゴスペルもドバッと注がれている作品ですよね。こうして実際に外の世界へ飛び出した時に、ロックンロールを叫び続ける自分と、こうして現行のポップミュージックとしてラップも食っていく自分は、それぞれどういう位置付けになってきたんですか。

佐々木:そこがジレンマなんだけど……俺個人が自由にやればやるほど、やっぱり今はロックバンドが難しいっていうのも痛いほど実感するんだよ(笑)。ロックバンドはオルタナティブだからこそなんでもアリってところが面白いし、俺もその自由さに救われてきた。ただ、それこそPost Maloneが“rockstar”っていう曲を出してたけどさ、「ロックスター」がもうロックバンドではなくなってる時代なわけじゃん。

Post Malone『beerbongs & bentleys』を聴く(Apple Musicはこちら

―そうですね。そこには精神性、トラップ以降の音の構造と歌の際立たせ方など、複合的な理由があると思うんですけど。その要因を、佐々木さんご自身はどう解釈されてるんですか。

佐々木:ロックが持っていたものがどんどんラップに奪われてるっていうか……たとえば今日本でロックバンドをやれてる人は二種類に分けられると思っててね。スゲえ頭がいいヤツか、応援したくなるようないいヤツか。でもさ、「メチャクチャやってんのに応援したくなるようなヤツ」がいねえなと思ってて(笑)。それは人に迷惑かけていいとか、セックス、ドラッグ……みたいな話じゃなくて。なんでもアリだよって見せつけてくれるヤツがロックにいないんだよ。

そもそも俺は、「はみ出してていい」っていう在り方に惹かれてロックバンドを好きになったのにさ。服装ひとつとっても、ロックはすごく地味なものになってしまって。ビリー・アイリッシュも特にわかりやすいよね。スカスカに見えて、あそこまで「落とす」サウンドと歌の中で熱狂を生むっていう。それもやっぱりロックが内包していたものを全部持っていってると思うし。

―たとえば今のラップミュージックが感情の沸点を「落とす」ことで表現している面で言っても、それは特にラウドやポストハードコアが持っていたものだったし。あくまで個のエモーションを好きに叫んでいい、っていうのも、元々はロックにとっても大事なアイデンティティだったと思うし。

佐々木:そうだよね。そう考えるとさ、ラップだからヒップホップとイコールかって言ったら違うっていうことだと思うんだよ。

―ヒップホップカルチャーの一部としてではなく、自在に自分を表現できる歌として「ラップ」が捉えられるようになった。

佐々木:そうそう。たとえば歌ひとつとっても、みんな「ラップ」っていうよりも、現状名前がない自由な歌い方をしてると思うんだよね。つまり、歌における「なんでもアリ」の手法としてラップを捉えてる。だからこそ俺は歌の在り方が混沌としてる今の状況を面白がりつつ、バンドで得た生のグルーヴを混ぜ込んだら俺にしか作れないものになると考えて『RAINBOW PIZZA』を作ってみたんだよね。

―実際、生音やギターの音色が効いているし、ギターが自由に動いてリズムに回る場面も多々見受けられますよね。歌心があって、とても自由なトラックになってる。

佐々木:それこそシカゴに行った理由は、さっき言った「なんでもアリ」の感覚が今一番ある街だと思ったからで。バーに行ったらバディ・ガイ(ルイジアナ州出身のブルースシンガー)みたいなレジェンドが普通にいるくらい、昔からの音楽も根づいてるし、そこからチャンス・ザ・ラッパーやカニエ・ウェストみたいな存在も出てきてる。ルーツがあるからこそ自由で面白くなってる街なんだなって。で、それこそカニエやチャンスって、ジャンルの上ではヒップホップに分類されるんだろうけど、俺からするとヒップホップっていう感じがしないんだよね。

―カニエもチャンスも、あくまで歌としての在り方を自由にした人たちというか。

佐々木:そうそう。たとえばアメリカ版の『GQ』の表紙がチャンスだった時のインタビューが面白くてさ。「なんでチャンス・ザ・ラッパーという名前なんですか」っていう質問に対して、「ヒップホップのラッパーになりたかったんじゃなくて、カニエが音楽も服もなんでもやってるのが楽しそうだったからRapperとつけたんだ」って答えてて。

カニエ・ウェスト『ye』を聴く(Apple Musicはこちら

チャンス・ザ・ラッパー『The Big Day』を聴く(Apple Musicはこちら

―個人の表現の自由さや幅広さっていう意味での「ラッパー」。

佐々木:そう。自分を自由に表現するものとしての象徴が、今の「ラッパー」なんだよね。それはロックが奪われたものとしてむちゃくちゃ大きい。たとえばデヴィッド・ボウイがゲイをカミングアウトしたり派手な服着たりしてたことも、当時から意味があったわけじゃん。「自由でいいんだぜ」「何者でもいいんだぜ」って。今やそれを一番表現できてるのが、ラップミュージックだっていうことだと思うんだよね。

何も知らないまま世の中の争いに対してヘイトを言うよりも、友達を作ったほうが早ぇんじゃねえのって。

―さらに、簡単に自分の歌をシェアできる世の中になったことも、ラップミュージックにとって最適ですよね。

佐々木:そうだね。ロックバンドって基本的にはスタジオでデカい音を鳴らしながら作っていくじゃん。でもラッパーはiPhoneやMacがあれば成立する。好きな音量で歌えるし、そりゃフロウのバリエーションもロックバンドに比べて多彩になるよ。しかも、それだけ持っていれば音源を簡単にシェアできて、自分も何者かになれるかもしれないっていう夢がある。

―何者でもない自分でも何者かになれる、表現を通してなら人と分かり合えるかもしれないっていう感覚は音楽そのものにとって本当に大事ですよね。

佐々木:そう思うよ。今回“Fireworks”っていう曲でフィーチャリングしたKAINAっていう女性アーティストもそうなんだけど、彼女の歌にも、ゴスペルやR&Bやヒップホップが自然と混ざっている。そんな「音楽くらいはいろんなものを混ぜていこうぜ」っていう土壌があるシカゴだからこそ、何者でもない俺が飛び込んでいっても受け止めてくれたんだよ。

―今のお話で言えば、シカゴに根付いているゴスペルやソウルが、今の時代の「祈り」として求められているということも大きいかと思うんですが。

佐々木:祈りっていうのは確かに。政治の面で「なんでもナシ」になっていってる世の中に対して、シカゴっていう街は「これじゃヤバイでしょ」って言っていろんなものを混ぜようとしてるんだよね。そこには「なんでもアリ」にしていくことが大事だっていう意志が確かにあったし、息苦しい世の中だからこそ、ソロだろうとバンドだろうとそれを俺もやりたいんだって改めて思ったんだよね。

―『RAINBOW PIZZA』で言っても、コーラス、音の重なり、リリックから祈りの成分を感じるんですね。これも、いち人間として感じてる息苦しさから生まれてきたものなんですか。

佐々木:俺なりの祈り、か。確かにそうかも。……ちょっと話が大きくなるかもしれないけど――シカゴに行った時、マイケル・ジョーダンとかジミ・ヘンドリクスみたいなスターが映る間に奴隷制時代や黒人が殺された事件の映像を挿していく映像作品が展示されてて。そこには政治的なメッセージも多分に含まれていつつ、その映像が流れているところにかかってたのが、カニエ・ウェストの“Ultralight Beam”だったんだよ。

カニエ・ウェスト“Ultralight Beam”を聴く(Apple Musicはこちら

―超ポピュラーなヒットナンバーですね。

佐々木:そう。もしこういう政治的なメッセージが込められたアート作品が日本で掲示されても、絶対にJ-POPはかからないだろうなって思ってさ。でもあっち(アメリカ)では、今一番イケてて一番売れてるサウンドのポップミュージックが政治的なメッセージのBGMにもハマる。それってつまり、音楽がサブカルチャーでもなんでもなく政治上でも生活上でもリアルなものとして存在してるってことだよね。一市民のもので終わってないというか。

―そうですよね。

佐々木:で、日本に目を向けてみると……たとえば令和になった瞬間にさ、日本では「平成30年は戦争がなかった」っていう論説があったよね。でも俺はその話に違和感があって。だって実際、世界が平和だったわけじゃないじゃん?

―個人レベルでも大きな視点でも、争いは至るところで起こっていた。

佐々木:この30年は平和だったね、なんて俺も思えないわけ。それは「見る」か「見ない」の違いだけなんだけど。自分のやっている音楽の環境で言っても外の世界を見なくちゃいけないと思った時に、やっぱり音楽以外のことだって、音楽に紐づくことだって、もっと知るべきだって思ったんだよ。で、何も知らないまま世の中の争いに対してヘイトを言うよりも、友達を作りに行ったほうが早ぇんじゃねえのって。だからこそシカゴに行ったところもあるんだよね。

―ヘイトにまみれた世界だからこそ、広い視野で音楽を吸収して、いろんな人が混ざれる音楽を作りたいと。

佐々木:そう。そういう意味で、やっぱり自分の音楽も祈りを必要としてたんじゃないかって思います。もっといいことあるんじゃない? もっといい状況になるって信じてもいいんじゃない? って思うから。今のままで十分いいっていう人もいるかもしれないけど、一方ではしんどくなるばかりの人が増えてるのも事実じゃんか。だから……自分の中でどんどん強まってるのは、世界平和を願う気持ちなんだろうね(笑)。だってさ、日本にだってもう戦争はあると思っちゃうからね。

―そうですね。人と人の傷つけ合いはより一層増えている。目に見えない、魂を潰し合う争いというか。

佐々木:それこそSNSで起こってることってそうだよね。正義ヅラしてる人だって、結局はマウントの取り合いに参加して何かを潰そうとしてるだけに見えたりする。

そう考えると、より一層音楽やアートが果たせる役割は増してると思うの。主張と主張の間に芸術があれば、ピースなところから会話できると思うし。人と人の間に挟まれても耐えられるくらいのものを作りたいし、だからこそ外の世界に視野を広げた上で音楽をやりたい。それが今の自分のモチベーションであり、攻めていくエネルギーなんだろうね。さっき言った世界平和みたいなことも「頭がお花畑だ」ってよく言われるけどさ、それも大事だし、信じてもいいじゃん。

正しいか間違いかなんて、誰も決められない。ただ視野を広く持って、すべてが自分ごとだと思うことから、いろんなことが面白くなっていく。

―その綺麗すぎる綺麗事に心から同意します。

佐々木:身近なところにある腹立たしいことを歌ったとしても、それも突き詰めると人と人の間にある争いだし、それは規模こそ違えど人種間の争いとも通ずるでしょ。だから、近い範囲のことを歌うのも、政治のことを歌うのも、世界規模で人と人がわかり合えるようにって願うのも、全部が自分ごとなんだよ。そう考えれば、ロックバンドも、人も、より一層自由に自分自身を表現しようっていう気持ちになれる気がしててね。

―それで言うと、ロックバンドの威力が弱まったのは、2010年代に入ってからのフェスを象徴にして「みんな」に向けて歌おうという向きが強まったのも大きいと思っていて。その一方、亮介さんは今作でガンガン固有名詞を使って、自分の人生に紐づくものを歌っている。より具体的だし、そのほうが結果的に多くの人の想像力を掻き立てるんじゃないかと思ったんですよね。

佐々木:ロックバンドは未だに古めかしいポエティックさを持ってるし、抽象的だよね。薄まってるっていうかさ。その点はまさに意識していて、固有名詞の使い方はラップミュージック以降を咀嚼したものだと思う。

―そうですね。たとえば“Bi-Polar Tokyo”には、<でもFuckin’ japくらい分かるよ馬鹿野郎>というラインがあって。『BROTHER』(北野武監督の映画 / 2001年)からの引用でもあるし、それを引用したZeebraさんの“Neva Enuff”を参照しているラインでもある。さらには音楽を通して世界の現状を覗いた人が吐く言葉としても、パンチがある。

佐々木:そうそう(笑)。自分の経験に紐づいたものが表れてくるための言葉の使い方だよね。それは、自分のアティテュードが出しやすいっていう意味でラップミュージックの武器でさ。歌の中で好きな服のブランドの名前を歌うとか……俺で言えばRude GalleryとY-3が好きだけど、それを合わせて着るヤツはなかなかいないわけですよ(笑)。でも「俺はそれをミックスして着るよ」って歌うのも、なんでも混ぜていいだろっていう自分の価値観を提示する上で効果的じゃん。

―ドがつくロックスタイルと、モードとスポーツの合体をさらに混ぜるっていう(笑)。

佐々木:そんな合わせ方、普通に考えたらナシだもんね(笑)。でも、ナシをアリにしてもいいじゃんっていうのが、今日も話してきたこととも通ずるわけで。それに、時代も先に進んできてると思うの。言ってくれたように、今は固有名詞が一人ひとりの体験に紐づいて個々が自由にイメージが広げられるようになってきたと思うんですよ。ハッキリした固有名詞の中で抽象的なイメージが広がっていくというか。そういう共存があるのが今だと思ってて。

―むちゃくちゃ面白い。固有名詞からイメージを広げられるようになったのはきっと、音楽もファッションも趣味も生活も自由にシェアされて「人のもの」が自然と自分の領域にも入ってくるようになったことの効果かもしれないと思うんですけど。

佐々木:それはあるかもしれないね。普遍性ってきっと、「固有名詞云々が時代を限定してしまうから抽象化したほうがいい」みたいなのとは違う話で。きっと今のことがわからない人は時代を超えて通ずるものが何かっていうこともわからないんだよ。その時代のこと、その時代に生きた自分のことを書き切れていれば、それが時代を超えるものになっていくと思うんだよね。

そこで問題なのは正しさ云々じゃなくてさ。正しいか間違いかなんて、誰も決められないじゃん。ただ視野を広く持って、すべてが自分に繋がるものなんだって思うことから、いろんなことが面白くなっていくから。そういう気持ちでソロもバンドも攻めるだけだって思ってる。

―そして、11月にリリースされるa flood of circleの『HEART』。フラッドのメンバーそれぞれが1曲書き下ろし、さらに4人で作った1曲が入ったコンセプト盤なんですが。佐々木さんが“スーパーハッピーデイ”と歌う振り切れ方も、テツさんの“Lucky Lucky”の明るさも、HISAYOさんの曲はやっぱりグルーヴが主役になっているところも、ナベさんの曲がとにかく突っ走っているところも、それぞれの個性が出すぎっていう面白い作品でした(笑)。

佐々木:ははははは。好き放題だよね(笑)。

―今日の話で言うと、「なんでもアリ」を、バンドならではの手法――メンバーの個性を面白がることで生み出そうという意図があった作品なんですか。

佐々木:まさにそう。フラッドを改めて自分たちで面白がるっていうか。ロックバンドっていうスタイル自体はニッチなものになってるけど、精神性としては、なんでもアリで自由なものとして、閉じこもりたくないんだよね。で、メンバーそれぞれで曲を書くと、一気に開ける瞬間がいっぱい出てくるの。「何これ?」って笑っちゃうような、自分の発想ではあり得ないものばっかり。そのマジックがあるからバンドをやり続けるし、その居場所があるから俺も自由に曲を作れるんだよね。

―ロックバンドが難しくなろうと、自由にしてくれているのはバンドメンバーでありa flood of circleだっていうことですよね。

佐々木:そう、そうなんですよ。矛盾した話に聞こえるかもしれないけど、フラッドがあるから俺は自由になれてるし、なんでもアリだっていうことを体現できるようになってきてる。だからこそメンバーの個性を自由に発揮していくことがそのまま、日本のロックバンドとしての可能性になっていくと思うんだよね。

……で、それを作ってみて思ったのは、改めて「フラッドは居場所がないバンドだな」ってことで(笑)。だってむちゃくちゃじゃん、こんなに個性がバラバラな曲を一緒にしちゃうなんてさ。

―話の振り出しに戻った(笑)。でも、これだけ音楽自体が自由に拡張している世界の中で、その居場所のなさやハマれなさは難しさじゃなくて武器になっていくと思うんですよ。

佐々木:「ロックバンドに閉じ込められてる」と思うより、「この人たちがいるからこそ俺は自由になれる」って考えれば、ロックバンドへの希望もまだまだ持てるんだよね。それを転がしていくためにも、ずっと新しいことをやっていきたいんだよね。

リリース情報
Ryosuke Sasaki(LEO)
『RAINBOW PIZZA』初回限定盤(CD+DVD)

2019年8月21日(水)発売
価格:3,240円(税込)
TECI-1653

1. Fireworks feat.KAINA(Chicago Mix)
2. Meme Song(Chicago Mix)
3. Bi-Polar Tokyo / 双極東京(Chicago Mix)
4. Just 1 Thing(Chicago Mix)
5. Sofa Party(Tokyo Mix)
6. Game Over(Tokyo Mix)
7. Snowy Snowy Day, YA!(Tokyo Mix)
8. We Alright feat.三船雅也(Tokyo Mix)
※DVD収録内容:
『Behind The Scenes : RAINBOW PIZZA from CHICAGO』
シカゴまでの道のり、レコーディング風景などを収めたドキュメント映像。

Ryosuke Sasaki(LEO)
『RAINBOW PIZZA』通常盤(CD)

2019年8月21日(水)発売
価格:2,700円(税込)
TECI-1654

1. Fireworks feat.KAINA(Chicago Mix)
2. Meme Song(Chicago Mix)
3. Bi-Polar Tokyo / 双極東京(Chicago Mix)
4. Just 1 Thing(Chicago Mix)
5. Sofa Party(Tokyo Mix)
6. Game Over(Tokyo Mix)
7. Snowy Snowy Day, YA!(Tokyo Mix)
8. We Alright feat.三船雅也(Tokyo Mix)

a flood of circle
『HEART』(CD)

2019年11月6日(水)発売
価格:2,700円(税込)
TECI-1656

・スーパーハッピーデイ
・Lucky Lucky
・Lemonade Talk
・新しい宇宙
・Stray Dogsのテーマ
※収録曲曲順未定
※デビュー10周年を記念して行われるメジャー1st&2ndアルバム再現ライブ『BUFFALO SOUL×PARADOX PARADE』のライブ音源をボーナストラックとして収録

イベント情報
『RAINBOW PIZZA Delivery Tour 2019』

2019年9月12日(木)
会場:愛知県 名古屋Vio

2019年9月13日(金)
会場:大阪府 梅田Shangri-La

2019年9月24日(火)
会場:宮城県 仙台STAR DUST

2019年10月2日(水)
会場:東京都 渋谷WWW

プロフィール
佐々木亮介 (ささきりょうすけ)

ロックンロールバンド・a flood of circleのギターボーカル。2017年の『LEO』を皮切りにソロ活動をスタート。2019年8月21日には、東京とシカゴで制作したアルバム『RAINBOW PIZZA』をRyosuke Sasaki名義でリリースした。

a flood of circle(あ ふらっど おぶ さーくる)

2006年結成。佐々木亮介(Vo,Gt)、渡邊一丘(Dr), HISAYO(Ba)、アオキテツ(Gt)からなる4ピース・ロックンロールバンド。数回に亘るメンバー交代を経て、現在の編成に定着。2019年3月にアルバム『CENTER OF THE EARTH』をリリースし、11月には、メンバーそれぞれが1曲ずつ作詞作曲を手掛けたミニアルバム『HEART』を発表。



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