7月19日、STUTS×BIM×RYO-Zという驚きのコラボレーションによるサマーチューンが届いた。タイトルは“マジックアワー”。日本のヒップホップシーンを牽引してきた人物の一人であるRYO-Zと、RIP SLYMEにのめり込みその道を追いかけてきたSTUTSとBIMによる楽曲には、トラックにもリリックにも多くのサンプリングやオマージュがひしめき合っていて、リスナーの心をくすぐってくる。
この楽曲は、「UCC BLACK無糖」とアルコールを掛け合わせた「ブラックボール」という飲用スタイルを広めるプロジェクトの一環として企画されたもの。「異種の掛け合わせ」を音楽で表現した三人に、「異種」の独自の解釈と、RIP SLYMEへのリスペクトを語ってもらった。
「別の価値を持ったものを組み合わせて、新しいものを作る」というテーマがまずありました。(STUTS)
―今までありそうでなかった組み合わせなんだけど、曲を聴くといろんな面で必然性を感じるコラボレーションだし、実際に完成した楽曲がすでにクラシックな佇まいをまとっていて。まずはSTUTSくんにUCCさんから今回のオファーがあったんですよね?
STUTS:そうです。UCCさんが発信している「ブラックボール」が、お酒をコーヒーで割るという意外性のある飲み方で、「別の価値を持ったものを組み合わせて、新しいものを作る」というテーマがまずあって。そのお話を受けて、トラックも昔のメロウな感じと最近のビートの感じを組み合わせたり、RYO-ZさんとBIMくんという違う世代の掛け合わせを意識したり、意外性という意味では自分が今まで一緒に曲を作ったことのない人とやりたいなと思いました。
最初に制作スタッフの方から、「RYO-Zさんはどうですか?」という提案をいただいて。それは絶対に面白そうだなと思ったし、だったらそこにBIMくんがいたらすごくいい感じの夏っぽい曲ができるんじゃないかと思ったんです。
STUTS, BIM, RYO-Z“マジックアワー”を聴く(Apple Musicはこちら)
―以前STUTSくんにインタビューしたとき、ヒップホップのルーツは中学1年のときに聴いたRIP SLYMEで、そこからUSのヒップホップを聴くようになったと言ってましたよね。
STUTS:そうですね。僕はずっとRIP SLYMEのファンで、学生時代からよく聴いてました。
BIMくんはラップはもちろん、フックのメロディも担当できるからRYO-Zさんと相性がいいんじゃないかと。BIMくんともいつか一緒に曲を作りたいと思っていたので、すごくいい機会をいただいたなと思いました。
―STUTSくんとBIMくんは以前から現場レベルでは交流がありますよね?
BIM:実はそう。仕事としてはSTUTSくんの“夜を使いはたして feat. PUNPEE”のミュージックビデオを、Heiyuuと一緒に監督したんですけど、楽曲上のコラボレーションはこれが初で。
BIM(びむ)
1993年生まれ、川崎市高津区出身。THE OTOGIBANASHI'S、CreativeDrugStoreの中心人物として活動するラッパー / ビートメイカー。2017年より本格的にソロ活動をスタート。2018年7月、初のソロアルバム『The Beam』を発表。
―RYO-Zさんは今回のオファーをもらったとき、率直にどう思いましたか?
RYO-Z:STUTSくんのことはあまり知らなかったんですけど、このオファーをもらう前に、うち(RIP SLYME)のDJ FUMIYAとSTUTSくんと一緒に飲みに行こうという話になってたんですよ。FUMIYAもシャイな性格なので(笑)、「RYO-Zくんも来ない?」って誘ってくれて。
―それはいつ頃の話ですか?
RYO-Z:つい最近のことです。その飲み会の日が決まってから実際会うまでのあいだに、今回のコラボレーションのお話が来て。
BIM:え、そんな流れだったんですか?
RYO-Z:そういう流れだったんだよ。しかも最初の打ち合わせの日が、飲みに行く約束をしてた日と同じになって。だからすごい偶然だなと思って。
STUTS:本当に偶然、そういう流れになって(笑)。
BIM:すごいな、それ(笑)。
RYO-Z:BIMのことは、OTOGIBANASHI'SとしてRIP SLYME主催のイベント(『真夏のWOW』と『真夜中のWOW』)にも出演してもらったりしたから、超いいじゃんと思って。曲を作る前からこの三人で一緒にやることが超楽しみでしたね。
―RYO-ZさんとFUMIYAさんとSTUTSくんが飲みに行ったときは、どんな話をしたんですか?
STUTS:僕が中1の頃から聴いてきたRIP SLYMEの“One”のビートの作り方を聞かせてもらったりして、すごくテンションが上がりました(笑)。
RYO-Z:FUMIYAとSTUTSくんは、クリエイターとして一発で気が合いそうだなと思った。ビートメイカーの人ってマニアックすぎて気持ち悪い話になるときがあるじゃないですか(笑)。そういう意味でも相性がバッチリだなと。
STUTSくんやBIMくんの下敷きに、僕ら(RIP SLYME)が存在していると思えるのは本当にうれしい。(RYO-Z)
―RYO-Zさんはこうやって実際に一緒に楽曲制作をしたことで、STUTSくんやBIMくんの世代にRIP SLYMEが大きな影響を与えていることを実感したのではと思います。
RYO-Z:そうですね。すごくうれしいし、今までやってきた甲斐があるなと思います。STUTSくんのビートやBIMくんのラップの中に自分が自然に入り込めるのは、彼らの下敷きに僕らが存在しているからなのかなと思えるのは本当にうれしい。
いろんな人から「RIP SLYMEを聴いてました」って言われるんですけど、「俺たちを聴いてどうしてこうなるの?」って思うくらい新しいサウンドを作ってる人たちが多くて。たとえばJJJくんも、初めて会ったときに「RIP SLYME聴いてたんですよ」って言ってくれて。「RIP SLYME聴いてなんでこうなるの!?」っていう驚きと、うれしさがありますね。
―でも、誰かの影響がわかりやすく表出しているよりも、それが変容して独創的な表現になっているほうが絶対に面白いですよね。あとはやっぱりRIP SLYMEのビートとマイクリレーの遊び心は、常に独立した遊び心に富んでいたと思うんですよね。そこには粋なヒップホップマナーが通底しているから。
STUTS:本当にそう思いますね。RIP SLYMEの曲にはオールドスクールのヒップホップの引用がけっこう使われていて。僕自身、そこから元ネタにたどり着いたときに「RIP SLYMEのあの曲だ」って答え合わせできたときの喜びがヒップホップへの入口にもなりました。そうやってヒップホップにのめり込むきっかけのエッセンスがRIP SLYMEの楽曲には散りばめられていると思うんですよね。
RYO-Z:今回も俺らやスチャダラパーのネタがあったりするのも、ヒップホップならではの面白さだしね。
幻のトラック“失楽園ベイベー”と、このトラックのテイストがすごく近いんですよ。リベンジを果たせました。(RYO-Z)
STUTS:“マジックアワー”のトラックに関して言えば、たとえばRYO-Zさんの2バース目に入るところのビートが抜けてライドシンバルだけになるところは“雑念エンタテインメント”を意識しました。
RYO-Z:あ、イル(ILMARI)のところね!
STUTS:そうです。あと細かい部分だと、ブリッジの掛け合いのラストの部分でBIMくんの声がローファイで重なってるんですけど、そこは“STEPPER'S DELIGHT”のPESさんのバースにRYO-Zさんがちょっとだけローファイで入ってくるところを意識したり。
RYO-Z:なるほど! うれしいね。
BIM:みんなそれを今知るっていう(笑)。
STUTS:全体のテイストとしてはやっぱり“楽園ベイベー”の影響はすごくあります。
RYO-Z:“楽園ベイベー”ってもともとは16小節のサンプリングネタがあったんですよ。でも、結局クリアランスが下りず幻のトラックになったんです。俺たちはそれを、失われた“楽園ベイベー”だから“失楽園ベイベー”って呼んでたんですけど、そのトラックのテイストとこの“マジックアワー”のトラックのテイストがすごく近いんですよ。
―そのエピソードはアツいですね。
RYO-Z:そういう意味でもリベンジを果たせたような喜びがありました。
だってRIP SLYMEのRYO-Zが俺の家で、俺の真横で、俺のマイクでラップしてるんですよ!?(BIM)
―リリックにはRIP SLYMEの楽曲のフレーズをはじめスチャダラパーの“サマージャム'95”だったり、いろんな日本語ラップのパンチラインの引用がありますね。
BIM:RYO-Zさんのバースからお借りしようと思って、“マタ逢ウ日マデ”や“One”のフレーズをお借りしたのと、他にもいろいろ入ってますね。<バギーパンツ>はTERIYAKI BOYZの“今夜はバギーパンツ”からだし。
<25の夜飲む缶コーヒー>はNITRO MICROPHONE UNDERGROUNDのDABOさんのバースからですね。今はもう26歳になったんですけど、制作中はギリギリ25歳だったのと、UCCのタイアップということで<25の夜飲む缶コーヒー>って書いたんです。ミュージックビデオが出たあとに「ヤバい、DABOさんに報告してなかった」と思って、引用したことを伝えたら「全然いいよ! ありがとう!」って言ってもらえて安心しました(笑)。
RYO-Z:その連絡を入れるか入れないかで全然違うからね(笑)。
BIM:よかったなと思ったのが、俺やSTUTSくんは最初にRIP SLYMEに食らって今も音楽をやっているけど、YouTubeの“マジックアワー”のミュージックビデオのコメント欄を見ていると、同じくRIP SLYMEに食らった同世代の人たちがコメント欄内で「おまえらわかってるな」って仲よくなってる感じがあって。
―この曲がコミュニティとして機能しているというか。
BIM:そうそう。「これはこのネタだよね」って答え合わせし合っていて。
―そのうえでこの曲は郷愁を誘うだけではなく、あくまで今鳴るべきビートでありラップがアウトプットされているのが重要だと思うんですよね。
STUTS:そうなってたらうれしいです。最初に言った通り、僕もトラックを作るときに懐かしいメロウな感じがありつつも、現行のビート感を意識したので。
BIM:サウスっぽいハットとかね。
―RYO-ZさんはBIMくんのリリックをどう受け止めましたか?
RYO-Z:いや、ここからBIMとビーフが始まるのかなって。それが非常に楽しみですね(笑)。
一同:(笑)。
RYO-Z:でも、素直にうれしかったです。デモの段階でBIMのラップが乗っかっていて、それに合わせて自分のバースを考えたので。
BIMの家でレコーディングしたんですけど、僕のラップを録ったときのSTUTSくんとBIMのリアクションが薄くて「これはスベったぞ」って思ったんですけど(笑)、どうやら二人は緊張していたみたいで。
BIM:RYO-Zさんのラップを聴いてたら表情筋を動かすのを忘れてしまって(笑)。だってRIP SLYMEのRYO-Zが俺の家で、俺の真横で、俺のマイクでラップしてるんですよ!?
STUTS:僕も緊張してどうリアクションとったらいいのかわからなかったです(笑)。
RYO-Z:いやぁうちのメンバーでももうちょっとリアクションあるのに、と思った(笑)。レコーディングは2日間あったんですけど、2日目に全然違う16小節を書き直して。それは楽しかったからなんですよね。このトラックだったらあと100小節くらいラップできるなって。それこそRIP SLYMEでは夏をテーマにした曲が大量にあるし、一番得意な引き出しでもあるので。
「こんなものまでディグってるのか、すげえなこいつは」と思いましたね。(RYO-Z)
―RYO-Zさんがこうしてバースをキックしているのをひさしぶりに聴いて喜んでいるファンからのリアクションもかなりあるんじゃないですか?
RYO-Z:ありますね。なので、これを機にInstagramを始めました(笑)。未だに動画の上げ方がよくわからないんですけど(笑)。
RYO-ZのInstagramアカウント
BIM:僕も地元の友達からリアクションがありました。<放送室がSTART LINE>というフレーズがあるんですけど、僕は小学生のときに放送委員会に入ってたんですよ。放送委員は昼休みや給食の時間に、放送室をジャックして好きな音楽をかけられるんですね。あるとき、CDからカセットテープに落としたRIP SLYMEの曲をかけたら、女の子から「この曲、誰?」って聞かれてそのテープをあげたんですよ。そこでちょっとしたヒーロー気分になって。
それで、“マジックアワー”が公開されたときにカセットをあげた子に連絡して。「すごくオシャレな曲だね」って言ってくれました(笑)。ブラックボール一緒に飲んじゃおうかなって。
一同:(笑)。
RYO-Z:初めてサシ飲みしたときにBIMがPanasonicのショックウェーブっていうポーターブルカセットプレイヤーを持っていて。
―懐かしいですね。低音に合わせてヘッドホンがブルブル震えるやつ。
RYO-Z:そう、俺らの世代が中高生のときに持っていたやつだから懐かしくて。「BIMはこれでなに聴いてんの?」ってガチャっとプレイヤー開けたら、RIP SLYMEの白いカセットが出てきて。それはマスコミ用に配布された、試聴用のカセットなんですよ(笑)。「こんなものまでディグってるのか、すげえなこいつは」と思いましたね。
BIM:(価格が)高かったです……。携帯にあの日のメモが残ってるんですよ(と、ポケットからiPhoneを取り出してメモを読む)。
BIM:「2016年7月21日、RYO-Zさんとサシ飲み。ショックウェーブに驚いてくれて、『talkin' cheap』のプロモカセットを見せた。スーパードライを頼んだら、RYO-Zさんが角煮と卵をくれた」って書いてあります(笑)。
一同:(笑)。
面白い表現をする若いラッパーたちがどんどん出てきている。でも俺は、どうしても俺になっちゃう。(RYO-Z)
―このありそうでなかった3組の共演のポイントって、ヒップホップシーンにおいてもそれぞれが独立した表現性であり活動スタイルをとっていて、それがオーバーグラウンドにも届いているということだと思うんですね。そのあたりで自覚的に大事にしていることはありますか?
STUTS:確かに自分が活動していくうえで目標にしている人はあまりいなくて。ライブのときも自分で「この方法でいいのかな?」って思いながらやっているんですけど、でもそこで大事にしているのは自分にしか表現できないことを突き詰めることで。(MPCの)演奏もただ正確に叩くのではなく、そこに自分の感情を込められたらと思っていて。
それは音作りに関してもそうですね。他のアーティストから吸収できるところはしつつ、あくまで自分の音として昇華した音楽を世に出したいと思いながらやってます。
RYO-Z:それがSTUTSくんの音に出てるもんね。曲を聴いてるだけでも「こいついいやつなんだろうな」って感じがする。
BIM:優しさを感じますよね。
―BIMくんはどうですか?
BIM:去年、ソロアルバム(『The Beam』)を作ったときにそういうことを深く考えるようになったんですけど。特に歌詞の面で、「本当にこれは自分の言葉なのか? 違和感はないのか?」って自問自答するようになりました。嘘をついてる自分は、自分が一番知ってるじゃないですか。だから、音も当然こだわってますけど、歌詞が気に入らないのが一番イヤかもしれないですね。
―RYO-Zさんはどうでしょう?
RYO-Z:STUTSくんやBIMくんに、俺も今インスパイアされているからね。素直にすごいなって思うから。インスパイアのし合いがこれからもできたらいいですよね。何回も言うけど、俺はまだ“マジックアワー”のトラックで100小節は書けるから(笑)。
―RYO-Zさんの今後の動きについて気になっている人も多いと思います。今の段階で言えることはありますか?
RYO-Z:面白い表現をする若いラッパーたちがどんどん出てきているじゃないですか。「あ、こういうこともありなんだ」って刺激を受ける一方で、今回“マジックアワー”を録ってみて「結局、俺は俺だな」とも思ったんですよね。どうしても俺になっちゃうということをしっかり認識した。でも、それが大事なことだなと思うんですよ。だから無理をしすぎず楽しくラップしていきたいですね。今デモも作っているので。面白いものをこさえております。
―最後にSTUTSくんとBIMくんも今後について言えることがあれば。
STUTS:今回、お二人と初めて一緒に曲を作らせていただいて、今までやったことのないことをやる楽しさをより知ることができました。でも、基本的には今までと変わらず自分がいいと思う音楽を作って世に発表していきたいですね。
BIM:僕もいい曲を作り続けたいですね。常に過去に作った曲より納得できる曲を作り続けたいです。
- リリース情報
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- STUTS, BIM, RYO-Z
『マジックアワー』 -
2019年7月19日(金)配信
- STUTS, BIM, RYO-Z
- 商品情報
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- 「ブラックボール by UCC BLACK無糖」
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コーヒーの香りとコクでお酒がもっと飲みやすくなる。お酒をコーヒーで割った、新しい飲み方。どんなお酒にも合うみたい。食事中にも良いみたい。噂のブラックボール、今夜つくってみませんか?
- プロフィール
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- STUTS (すたっつ)
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1989年生まれのトラックメーカー/MPC Player。2013年2月、ニューヨーク・ハーレム地区の路上でMPCライブを敢行。オーディエンスが踊り出す動画をYouTubeで公開して話題になる。MPC Playerとして都内を中心にライブ活動を行う傍ら、ジャンルを問わず様々なアーティストよりトラック制作、リミックスの依頼を受けるようになる。2016年4月、縁のあるアーティストをゲストに迎えて制作した1stアルバム『Pushin'』を発表し、ロングセールスを記録。2017年5月、LAで開催されている老舗パーティー『Low End Theory』に出演。2017年6月、Alfred Beach Sandalとのコラボレーション作品『ABS+STUTS』を発表。2018年9月、2ndアルバム『Eutopia』を発表。現在は自身の作品制作、ライブと並行して数多くのプロデュース、コラボレーションやCM楽曲制作を行っている。
- BIM (びむ)
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1993年生まれ、川崎市高津区出身。THE OTOGIBANASHI'S、CreativeDrugStoreの中心人物として活動するラッパー / ビートメイカー。グループとして2012年『TOY BOX』、2015年『BUSINESS CLASS』の2枚のアルバムをリリース。2017年より本格的にソロ活動をスタート。2018年7月、初のソロアルバム『The Beam』を発表。
- RYO-Z (りょーじ)
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RIP SLYMEのMCとして2001年メジャーデビュー。日本のヒップホップグループとしては初の武道館公演・野外5万人ライブなど、日本にヒップホップ文化を広く浸透させる。2004年TERIYAKI BOYZ®を結成。その後もさまざまなグループやアーティストの作品に参加。そのほかラジオパーソナリティやバラエティのナレーション等幅広く活動している。
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