ジャズを軸にしながらノンジャンル的なポップスを標榜する音楽性にしろ、個人と集団のあり方を問い直すような活動姿勢にしろ、CRCK/LCKSというバンドは2015年の結成以来、一貫してラジカルな姿勢を貫いている。
10月に発表された1stアルバム『Temporary』、そしてその2か月後という短いスパンでリリースされる新作EP『Temporary vol.2』――過渡期にあるバンドの「今」=「Temporary」を表すタイトルは、タイムラインに「今」が連なる現代をも反映しているかのよう。やはり、明確な哲学を持ったバンドは面白い。
今回CINRA.NETでは、そんなCRCK/LCKSというバンドの特異性を改めて解き明かすべく、長塚健斗(WONK)、Megu(Negicco)、TENDRE、Chara、中村佳穂という縁の深いアーティスト5組に手紙をしたためてもらった。小田朋美と小西遼とともにその手紙を読みながら、彼らのここまでの歩みを振り返る。
小西が小田に初めて明かす、CRCK/LCKS立ち上げ時の青写真
―今回はCRCK/LCKSと縁の深いアーティストの方々からのお手紙を読みつつ、改めて、「CRCK/LCKSとはどんなバンドなのか?」に迫りたいと思います。まずは、小田さんとドラムの石若駿さんとは東京藝術大学つながりでもあるWONKから、長塚健斗さんです。
増した聴きやすさと変わらぬエグさ。気持ち良くて格好良くて癖になる。この変態集団どこまで進化するんだろう。
WONK 長塚健斗
小田(Vo,Key):嬉しい! でも「変態集団」と思われてたのか(笑)。
小西(Sax,Vocoder,Synth,etc):音楽的に「変態」というより、人柄を見て言われてる気がする(笑)。でも、「増した聴きやすさと変わらぬエグさ」が両立していて、そのうえで「進化」と言ってくれてるのは、シンプルに嬉しいですね。
CRCK/LCKS『Temporary』を聴く(Apple Musicはこちら)
―CRCK/LCKSとWONKの共通点として、ジャズを背景に持つミュージシャンがバンドを組んで、ポップスの領域に進んだということが挙げられますよね。それは国内外における2010年代のひとつの流れだったように思うのですが、CRCK/LCKSの活動において、そういった時代性はどの程度意識していたと言えますか?
小田:私は正直、ほとんど意識してなくて、シンプルに「演奏家として信頼できる人たちと一緒に音楽をやりたい」っていうところが大きかったです。
小西:小田はそうだろうね。頭いいし、いろんなことを知っているけど、アウトプットはもっと感覚的なところでやってるだろうから。
小田朋美『グッバイブルー』(2017年)を聴く(Apple Musicはこちら)
小西:あくまで俺と駿の間での話ですけど、ロバート・グラスパーの『Double Booked』(2009年)は青春の一枚で。トリオとThe Robert Glasper Experimentという2つの編成で、ライブとスタジオ録音による2部構成のアルバムなんですけど、ここでいよいよジャズとヒップホップの境界が曖昧になってくるんですよね。
「ジャズの人がヒップホップをやる」じゃなくて、「ヒップホップをやっているんだけど、ジャズの匂いがしている」「ジャズをやっているんだけど、ヒップホップのビートが鳴ってる」というふうに。あのアルバムがそういう流れの先駆けだったと個人的に捉えていて、CRCK/LCKS立ち上げの時点では念頭にありました。
ロバート・グラスパーの『Double Booked』を聴く(Apple Musicはこちら)
―2009年の作品だから、2010年代の指針となったとも言えそうですね。
小西:RH Factor(ジャズトランペット奏者のロイ・ハーグローヴが率いるプロジェクト)からロバート・グラスパーにつながる流れを意識しつつ、でもそれを普通にやっても面白くない。
日本語で、歌モノで、俺たちなりのやり方は何だろうって考えたとき、もともと小田はシンガーソングライターとして活動していたし、他のメンバーもジャズ以外の要素は強かったので、変にジャズやヒップホップのフィールドに寄せちゃうのは面白くないなと。今思えばですけど、そういうことは考えながらやっていたかもしれない。
小田:そうなんだ、初めて聞いた!
CRCK/LCKS『CRCK/LCKS』(2016年)を聴く(Apple Musicはこちら)
小西:「このトラックのあそこのビートが」みたいにリファレンスを示しながらやっちゃうと、みんな割とできちゃうから、既存のものに寄っていっちゃうんだよね。だから直接口にはせずに、反応を見てるほうが面白いかと。
グラスパーのカバーこそやらなかったけど、最初のライブのときだけはRH Factorのカバーはやったし、逆に小田寄りで考えてYMOの“Perspective”をやったり。そういうジャンルに囚われない混ぜ方が楽しいんじゃないかと思っていたんです。
CRCK/LCKSは、「いろんなことをやってるミュージシャンが集まったバンド」ではない
―続いては、楽曲にも参加していたり、ライブでのバックバンドを務めたりと親交のあるNegiccoのMeguさん。
CRCK/LCKSさんメンバーひとりひとりの活躍が本当にすごいなあと思ってみています。
ひとりひとりも応援していて好きだし、メンバー全員が集まった時、例えるなら、ゲームの最後にでてくるラスボスが集まったみたいな、最強感も好きです。
今回のアルバム『Temporary』は、緻密で繊細な柔らかさ、優しさが、溢れでていて、疲れて荒れた心が、元の場所にスッと戻って落ちついてくれるような、そんなアルバムだと思っています。
すごく好き。また共演できる日を心から楽しみにしています!
Negicco Megu
小西:……嬉しい。ご褒美だなあ、この取材(笑)。Negiccoのファンのみなさんは、一度共演しただけでこっちのライブにも来てくれるようになったんですよ。気がついたら、ネギライトを持った人たちが散見されるようになってた(笑)。Negiccoのお客さんは「アイドルが好き」ってだけじゃなくて、「音楽そのものがすげえ好きなんだな」っていうのがわかって、めちゃ嬉しかったですね。
小田:Negiccoと共演した帰りの新幹線で、(井上)銘くんがNegiccoのファンの人に話しかけられて、「あそこのギターリフが最高でした」って私たち以上に熱く語られてたことあったよね(笑)。
CRCK/LCKSが編曲と演奏を手がけたNegicco“そして物語は行く”を聴く(Apple Musicはこちら)
小田:個人的に、4年間バンドをやっていて、「バンドメンバー全員を平等に魅せなきゃ」って気負いがいい意味でなくなっていったんですよ。
私は、一人ひとりのプレイのなかに自分のお気に入りを見つけることがライブの楽しさだと思っていて、それを歌モノでやるためには、ボーカルの私だけが目立っちゃいけないと思っていた。でもあるとき、小西や他のメンバーが「ボーカルとしてドンと構えろ」みたいに提案してくれたんです。
小田:確かに、自分が一番かっこいいぞくらいの気持ちでステージに存在していないと最高なものにならないし、それって結果的にバンドとして魅力的じゃなくなっちゃうんですよね。歌の存在感がドーンとしててこそいろんな音がさらに際立つところを、私が悪い意味での平等主義でいたら、逆に取りこぼしちゃうんじゃないかって。最近は、もっとステージ上でのあり方を追求していきたい気持ちがあります。
小西:去年のツアー前後くらいから、小田と銘がめっちゃよくなったんですよ。だから「これは前に出したい」って思って、実際に今回のツアーから小田を1フロントにして。最初は「試しに」って感じだったんですけど、お客さんの反応もめちゃくちゃよかった。「わかりやすさが大切」とは言わないけど、伝え方は大切だなって思いますね。
小田:バンドのみんなへの信頼が、さらに増したというのは大きいです。前にいようと後ろにいようと、かっこいいものは絶対に届くんですよね。みんなのかっこよさを信じてるからこそ、自分が最高にかっこよくいなきゃって。改めてそう思えたのは、大きな変化でした。
―Meguさんもバンドとしてだけではなく、「一人ひとり」に言及していますもんね。
小田:Negiccoも一人ひとりに芯があってそれぞれ大好きなんだけど、「3人集まったときのNegicco最高!」なんですよね。ソロはソロの魅力があるけど、Negiccoとして集まったときにはそれぞれの役割があって、みんなでNegiccoというものをちゃんと作り上げている。それがすごく尊いし、かっこいいなって思うんです。
CRCK/LCKSに関しても、みんなそれぞれ活躍していること自体はすごくいいけど、「いろんなことをやってるミュージシャンが集まったバンド」じゃなくて、「この5人でCRCK/LCKSなんだ」ってところから始まっていきたい。それは最近すごく思っていますね。
「3つお手紙を読んで不思議に思うのは、私がその相手に対して思っていることが書いてあるんです」(小田)
―続いては、小西さんがサポートメンバーとして参加しているTENDREです。
音楽愛のぶつかり合いの賜物。 それぞれの持つ揺るぎなき強固な個性ゆえ、ぶつかり合うそれは良き複雑さもあり、とても純粋でもある。
バンドという一つの生命体の新しい形を見出している彼らの新たな一手は、そこにより磨きがかかり、なんたる美しきものと印象をうけました。
“KISS”をはじめ、バンド自らの世界に聴衆を優しく手を引くような様は、クラクラのまた麗しき純粋な面で魅せられますし、その先でも沢山の感情を魅せてくれる。
唯一無二という言葉が相応しい彼らの面持ちを早くライブで観たくなってしまいました。
TENDRE
小西:CRCK/LCKSのみんなもそうだけど、(河原)太朗ちゃん(TENDRE)は音楽に対して実直なんですよね。「素直」ってほど優しい言葉でもなく、音楽に対しても、音楽をやる自分に対しても、その音楽に関わる周りに対しても、ものすごく真摯に、厳しくいられる人。自分がここ何年かで出会った人のなかでも、特にそうですね。
自分の音楽への揺るぎない信念があって、それを貫き通している。だから、「そんな些細なことを?」ってところまで、ものすごく突き詰めるんですよ。そういう厳しさを持った太朗ちゃんにこういう言葉を言ってもらえるのはすごく嬉しいですね。
小田:本当に真摯だよね。
小西:めちゃくちゃ真摯。やっぱり、太朗ちゃんはバンドの先輩なんです。ampelのメンバーとして俺なんかより遥かに長くバンドでやってきて、「バンドっていうのはひとつの生命体なんだ」ってことをよく知っているんだと思います。
小田:ここまで3つお手紙を読んで不思議に思うのは、私がその相手に対して思っていることが書いてあるんですよね。鏡になっているというか、その人が大切にしているものが言葉になって出てきてるんだろうなと思います。私もTENDREを見ると美しいなって思うんですよ。彼自身が人として美しいし、バンドのあり方としてもそう。
―「音楽愛のぶつかり合いの賜物」とありますが、言葉どおりにぶつかり合うこともありますか?
小西:最初から結構みんな言葉はきつくて、「これはかっこよくないと思う」「これをやる意味がわからない」とかはっきり言い合いますよ。それでも、ちゃんと理にかなっているから全然嫌ではないんですよね。最近はそれがもっとむき出しになってきてる。以前はもっと理路整然と話していたけど、感情混じりで話すようになってきたというか。
小田:これは人間関係の基本ですけど、長くやっていると情の世界に入っていくんですよね(笑)。もちろんそこにはいい悪いどっちもある。でも真剣だからこそ感情が出るわけで、CRCK/LCKSがそういう関係になってきたのはいいことだなと思います。
「俺の周りにはすごい人がいっぱいいるなって思うけど、やっぱりCharaさんは別格」(小西)
―続いては、TENDREとも接点があり、現在、小西さんがバンマスを務めているCharaさんから、小西さん個人宛てのお手紙です。
彼はアカデミックな人だよね
オタクにも色々いると思うけれど
お母さんの影響で演劇の世界にも足を踏み込んでいるってきいたけど
とても文字量多めな人だけど、私は嫌いじゃないです
早口でも、聞き取りやすいですし 的確だから
誰よりも
楽しそうに演奏する人だよね
初めて演奏を観た時から感じてるよ
国籍わからない感じがする
英語も大好きでペラペラ話すし
あと、象さんが好きなんだって
可愛いよね~
近頃は、バンマスをやってもらってるんだけど
リハだと、舞台監督みたいに前にでて
踊っちゃったりしててね
演奏してない時とかあってww 無邪気な人だね
でもね、それが中々みんなできないのよ
とても貴重なオタクだよね
ほかのアカデミックな30代のアーティストの人には、清潔感を感じることも多いけど
なんか、彼のは下品じゃないカオスで
学者っぽいから
新種だね、際立つ事は大切な事
9歳から70歳位までの音楽家の面白いところをぎゅっと持ってるような人間に感じますね
だから、もっといじりたいですね
オシャレとかもねw
この前の三つ編み似合ってたよ
いい恋してくださいね~
チャラより
小西:完全にいじられてるな(笑)。太朗ちゃんにしろ、小田にしろ、俺の周りにはすごい人がいっぱいいるなって思うけど、やっぱりCharaさんは別格なんですよね。その人のことがいくら好きだとしても、ステージに出てきた瞬間にオーディエンスが泣くってすごいことだと思うんですよ。
そういう「出てきた瞬間に飲まれちゃう」って、わけわかんない現象じゃないですか? Charaさんも自然体でその感じなんですよね。
小西:ステージから見ていて、Charaさんが出てきただけでお客さんがソワーッてなってるのがわかる。あの仕組みが理解できるまで、もうちょっとお世話になりたいです(笑)。ご本人はものすごく無邪気な方なんですけどね。
小田:そういう人だからこそなんだろうね。私も今年、STUDIO COASTのステージでCharaさんを初めて観たときには、登場から気持ちを持っていかれたなあ。
小西:やっぱり音楽に対して真摯で、そのためにどんな人に対しても真摯であろうとされている。そういう意識を強く持ってらっしゃる方だと思うので……これを読んでも、見透かされている感じがします(笑)。
中村佳穂が見抜く、CRCK/LCKSの気弱なところ。ステージで輝く「弱さ」は、本当の強さを持っているからこそ
―最後は、共演の機会も多い中村佳穂さんです。
漫画5巻くらい読み進めると、キャラクターが普段のストーリーから外れて束の間のお休みという感じで、買い物に行ったり海に行ったりする番外編がたまに単行本とか挟まっていると思うのですが、皆様お好きでしょうか。私はめちゃ好きです。CRCK/LCKS『Double Rift』(2018年)を聴く(Apple Musicはこちら)
彼ら彼女らも恋をしたり、ふとした笑顔にキュンとしたり、悩んだり、盛り上がったり。私達と似たようなオフの顔がある。けど物語の主人公で格好良さは据え置き。ありがたいじゃないですか!!
こにちゃん、オダトモさん、しゅんくん、めいくん、おちくんは友達なんだけど、CRCK/LCKSにはいつもそれを感じます。見た目も良い。音楽にヒーローを感じる。けどちょっと気弱な部分が少し垣間見える。完全に好きな漫画の番外編を三次元で見てる! 存在してくれててありがとうございます。今作もそんな心のツボを的確に射抜いておられるクラクラ。ありがとうございます。
音楽家 中村佳穂
小西:佳穂ちゃんも漫画の主人公だよね。駿は『ジャンプ』の主人公だと思う。越智は『マガジン』、銘は『ヤングジャンプ』。
小田:私は……『なかよし』?
小西:小田は『ガロ』とかでしょ(笑)。
阿部(所属レーベル「Apollo Sounds」主宰):小西が『ガロ』でしょ。小田は『りぼん』。
小田:小西はアメコミっぽいけど(笑)。
小西:佳穂ちゃんは絶対に月刊誌。『IKKI COMIX』の終盤あたりにある、すげえいい日常系の面白いやつ。超個人的な趣味を言えば五十嵐大介の作品にいる(笑)。佳穂ちゃんにはバトル漫画の要素もあるけど、俺からすると圧倒的に日常の人だなあ。「日常のギャグ漫画」とかではなく、もっと波乱万丈ではあるけど。
小田:朝ドラみたいな感じかな?
小西:そうね。この手紙からも、佳穂ちゃんは音楽家として常にオフを大切にしているなって感じる。ステージ上で歌っているときの世界や物語も大切にしているはずだけど、普段の生活から歌を歌うときのことを意識しているんじゃないかな。普段の自分が何を感じているのかということ、日常を歌に編み込んでいる人だと思うからね。
小西:あと、気弱な部分を感じてくれてるのも嬉しい。
小田:嬉しいよね。人間は誰しも気弱な部分があると思うけど、佳穂ちゃんは初めて会ったときから強い人だなって感じたんです。眼差しの強さがありますよね。
それは舞台上だけでなく、楽屋で挨拶をしたときからして、ただ者じゃなかった(笑)。それに、舞台上で自分の弱さも丁寧に出せる人だなと。それはやっぱり、佳穂ちゃんが強いからこそ出せると思うんです。自分の弱さ、人の弱さに向き合う強さがないとできないことですよね。
小西:佳穂ちゃんが佳穂ちゃん自身として素直にいられることを大切にしているよね。それを日常から気にかけていて、そのままステージ上に上がれるようにしている。呼吸をするように音楽をして、普通に歩くようにステージに上がって、下りたいっていう、そういう気持ちがあるんじゃないかな。
世代やジャンルによる区分けは不要、ということが当たり前になりつつある時代で
―CRCK/LCKSと中村佳穂BANDはやってることは全然違いますけど、単純にパッと見の編成が近いこともあり、それぞれ独自の素晴らしい音楽を奏でているという意味で「東のCRCK/LCKS、西の中村佳穂BAND」みたいなイメージを勝手に持っています。お互い刺激し合っている部分はあるのかなと思ったのですが、いかがでしょうか?
小田:CRCK/LCKSの変化と、佳穂ちゃんのバンドの変化はある意味逆のプロセスを辿っていると思うんです。CRCK/LCKSはセッション的な感覚で始まって、「バンド」になろうとして、私がボーカルとして形式的に真ん中にいる。
小田:佳穂ちゃんのバンドは、セッション的なものをポップに魅せる力がすごいなとと思うし、佳穂ちゃんの立ち位置は真ん中じゃない。でもそれが佳穂ちゃんにとっての自然なやり方なんだろうなって。
「佳穂ちゃんが太陽なら、私は月のイメージだ」って、たしか西田くん(西田修大、中村佳穂BANDのギター。過去には、CRCK/LCKSのライブにゲストプレイヤーとして参加したことも)に言われたことがあって。実際、私は「静かに強くいたい」と思っているので、ちょっと納得しました。名前にも月が2つも入ってますし(笑)。佳穂ちゃんのやり方をとても素敵だなと横目に見つつも、あくまで自分たちが自分たちらしく、自由でいられることを常に考えているという感じです。
小西:この話を聞いて考えていたのは、今は単純に「比べる」ってことが難しくなったってこと。俺がアメリカから帰国して、CRCK/LCKSを組んだ2015年時点では、メジャーシーンにはメジャーシーンの音楽が存在していたけど、「俺が今から入ろうとしているシーンには、ジャンルがねえな」って思ったんです。
それで俺がCRCK/LCKSをやるにあたって最初に一番悩んだのは、「どのジャンルを標榜して、どこと仲よくすればいいのか?」ってことだったんです。でも全然わからなくて、「もういいや」ってなった(笑)。
それこそWONKや佳穂ちゃん、ものんくるっていう周りも徒党を組む、というような感じではなかった。もっとシームレスな関係が既に見え隠れしていたように思います。だから佳穂ちゃんと俺たちを比べるにしても、「どっちも面白れえ」でしかないんですよね。「違う位相にいると思うけど、上から見たら近くにいるように見えるのかな?」くらいには思いますけど。
小西:そもそもCRCK/LCKSを始めて最初の1~2年は、俺たちが珍しいバンドだから、カテゴライズできないのかなって思っていたんです。でも、ここまできて思うのは、うちらに限らず、今のアーティストの存在の仕方って、そもそもカテゴライズできないんだなってことで。
小田:たしかに、カテゴライズしにくい人たちが増えたよね。
小西:グローバルもグローカルも終わって混沌としてきて、変に整えたりせずに、すべてがありのままの形で存在できてしまう状態になったのが、2010年代なんでしょうね。
でっかい「音楽」っていうビルがあったとして、現状すでに「何歳がこの階にいます」くらいの線引きしかない。面白いやつほど縦割りは必要ないし、なんなら横割りもいらないんですよね。吹き抜けにしたいと考えている人が増えて、「この壁とか天井って、いらなくね?」って言い始めたやつらが多いのかなって思います。
ストリーミングサービスが普及した世界で、2人の音楽家が思うこと
小田:ネットの存在が大きいのはもう言うまでもない話ですが、私たちより下の世代だともうYouTubeネイティブで、文脈をすっ飛ばして、いいと思ったものをざっくばらんに取り込んで発表できるようになって。ある意味、荒野というか、荒地派というか(笑)。でも、逆に言うと、なんでもアリということは、頼るものが自分の感覚しかないし、それってすごく孤独なことだとも思うんですよね。
小西:ネット以降で思うのは、最近は作品に触れる忍耐力が減っているなってことで。アルバムを作るにあたって、曲順を決めることですら難航して、いろいろ考えたんですよ。でも、そんな俺ですら誰かの音楽を聴くときに、すぐ飛ばしたり、「とりあえずシングルを聴く」みたいになったりしてるんですよね。
CRCK/LCKS“素敵nice”を聴く(Apple Musicはこちら)
小西:ショートショートが流行って、長編小説があんまりない印象で、それはどうなんだろうなって個人的には思っています。その意味で言うと、『Temporary』は、いろんな曲をかいつまんで、いろんな人に興味を持ってもらえた気がしているんです。シングルのよさとアルバムのよさがちゃんと両方あったのかなって手応えがある。
俺も原理主義的なところがあるから、コンセプトアルバムとか、長編小説的なものがどこかで盛り上がってくるといいなって思ってるんです。やっぱり、体力がいるものって面白いから、長編映画を観たような感覚になれる音楽にもまた触れたいなって気持ちはありますし、作りたいと思います。
―『Temporary』というタイトルは、もともと過渡期にあるバンドの「今」を閉じ込めるという意味合いだったそうですが、ネットやSNSのことを考えると、より重層的な意味を持っているように感じられます。
小西:直感で選んだにしては、このタイトルにいろんなものが集約されている感覚はありますね。
小田:そもそも『Temporary』っていうタイトルは、何も言ってないと思うんです。どんなバンドのどんなアルバムも、そのバンドの「Temporary」なわけで。でも、その言葉をあえて使うことで、みんながそれぞれの「Temporary」に立ち返ってくれているのかなって、ライブをやってると感じます。
「音楽を聴くことで、『自分の今と向き合う』っていう気持ちになれたらなと思ったんです」(小田)
小田:“KISS”みたいな曲を書いて、恩着せがましく感じられるのを危惧していたんですよ。「自分の今を肯定しよう」みたいなことをあからさまに言っているので、「うざい」って思う人がいるのも当然で。言われ方によっては私もそう思うかもしれないし。
小田:でも、「ありのままでいいんだよ」っていう単純な肯定をしたかったわけじゃないんですよね。音楽を聴くことで、「自分の今と丁寧に向き合う」っていう気持ちになれたらなと思ったし、自分がなりたかったんです。
だからこそ、私自身が自分の今と向き合いながら、一つひとつを噛みしめながらツアーをやってきた。そういう姿勢で臨んでいたからか、お客さんそれぞれが「今」に想いを馳せてくれた気がしたんですよね。それが嬉しくて。
―日常生活のなかで「自分の今と向き合う」って簡単なようで、実は難しいことですよね。
小田:世の中的にも、今っていろんなところから均質に情報が切り取れちゃうから、その分重みがなくなって流されちゃうし、その速度もすごく速い。でも、たとえば新幹線って便利だしなんだかんだ使っちゃうけど、たまには鈍行で移動してみたら、今自分がどこにいるかちゃんと噛み締めながら移動できるよね、という感じで。
大枠で言えば、今回のアルバムってコンテンポラリーなことは全然やってなくて。どちらかというと、懐かしいくらいのことをやってると思っています。でも、自分から素直にふっと出てきたものをあえてそのままやることで、ゆっくりな電車で走るように「今」をちゃんと眺められる。その感じはお客さんにも伝わった気がします。
「音楽家は社会に対して一般の方々とは違う形でアプローチできる職業だと思うんです」(小西)
―『Temporary vol.2』のラストナンバーである“Rise”は<あなたの明日の歌>という印象的なフレーズで締め括られていますが、ここにはどんな想いを込めたのでしょうか?
小田:“Rise”はもともと銘くんが、知り合いの方が亡くなってしまった経験をもとに書いた曲で。私は私で自分の別れのことを思って、銘くんと一緒に歌詞を書きました。
『Temporary vol.2』には、どこか割り切れなかったり、やり切れなかったり、ネガティブな言葉も結構入っているんですけど、次に進むためには痛みが必要だと思うんです。できれば痛い思いはしたくないし、傷つきたくないけど、でも痛みがあるからこそ人は美しくなれると思っていて。
小田:だから“Rise”は、「別れ」を経ての「明日の歌」にしたかった。「Temporary」という言葉を使ったことによって、逆に「脈々と続いているものがある」ということも同時に感じられたんですよね。
小西:小田も言ったように、何かが変化するときって、必ずどこかにストレスが生まれると思うんです。世界的に見ても、今は社会が大きな転換期にあるというか、それだけストレスの多い世界になっているなと感じていて。社会って要は個人の集合体で、自分と相手の間にも社会は存在しているから、マクロとミクロの視点両方で、今はすごく大変な時代だと思う。
そこで何ができるのかって考えるわけですけど、音楽家は社会に対して一般の方々とは違う形でアプローチできる職業だと思うんです。僕個人は今回そこも強く意識しました。それを具体的に表明するつもりはないし、受け取り方は聴き手次第ですけど、そのなかでこの『Temporary vol.2』がどう広まっていくのかを見ていきたいです。
- リリース情報
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- CRCK/LCKS
『Temporary vol.2』(CD) -
2019年12月18日(水)発売
価格:2,000円(税込)
APLS-19131. かりそめDiva
2. IDFC
3. interlude#1
4. Crawl
5. interlude#2
6. 素敵nice
7. Rise
- CRCK/LCKS
『Temporary』(CD) -
2019年10月16日(水)発売
価格:2,750円(税込)
APLS19121. KISS
2. 嘘降る夜
3. Searchlight(Album ver.)
4. ひかるまち
5. La La La - Bird Song
6. 春うらら
7. ながいよる
8. demo #01
9. 病室でハミング(Live Ver.)
- CRCK/LCKS
- イベント情報
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- 『CRCK/LCKS 1st full album「Temporary」release tour final』
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2019年12月18日(水)
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-EAST
料金:前売3,500円 当日4,000円
- プロフィール
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- CRCK/LCKS (くらっくらっくす)
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小田朋美、小西遼、井上銘、越智俊介、石若駿からなるポップスバンド。2015年結成。2016年4月に1stEP『CRCK/LCKS』を発表。ジャズ界隈をメインに活動していた彼らによるポップスは、ハイセンスな楽曲群に加え、そのフィジカルの強さにより各方面から賞賛を獲る。メンバーそれぞれがcero(小田朋美)、TENDRE(小西遼)、菅田将暉(越智俊介)、くるり(石若駿)などJ-POPの中心をサポートし、着実にプレイヤーとして、バンドとして成長を見せるなか、2019年10月16日に1stフルアルバム『Temporary』をリリース。タワーレコードのバイヤーが選ぶ「タワレコメン」への選出、タワーレコードが仕掛ける店頭展開プログラム「未来ノ和モノ」への選出などポップスバンドとして充分に注目を集めている。アルバムツアーファイナル同日に新作EP『Temporary vol.2』をリリース。
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